何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様) 作:カルデアの廃課金マスター
クリスマス2023は1400ちょいでした。
・ロキシー視点
オシィと始めて出会ったのは彼女とルディが3歳の時だった。
お金に困っていた私は辺境の村で家庭教師の依頼を受けてブエナ村に向かい、そこで天才と出会った。
ルーデウスは教えると直ぐに吸収して物にする天才だった。私もこれには腕を鳴らしたものだ。
逆にオーシノルは文字を覚えたての年齢通りの子供でした。
初めはルーデウスだけを見るつもりが、報酬の増額に釣られてオーシノルにも教育を施すことになった。
ルーデウスくらいの理解度ならともかく、年相応の反応しか示せない子供となると……少しばかり荷が重い気がしてたまりませんでした。
しかし、一度頷いた依頼を直ぐ断る訳にもいきません。報酬の増額は今後の事を考えると非常にありがたいですし、何よりもオーシノルのキラキラとした目を見て嫌ですとも言えません。
えぇ、彼女はルーデウスが使った魔法をキラキラした目で楽しそうに見るのです。
そんな楽しみにしている彼女をどん底に落とすことなど、私には出来ません。
それに一度やってみないと何も始まりませんから。ダメだったらやんわりと諦めてもらいましょう。
結果としては才能はあった。
ルーデウスが天才として目立たないが、普通の魔術師としての才能は持ち合わせている。
本人はルーデウスみたいに出来ないのを悔しがっている様子だったが、3歳児としては十分すぎる素質をみせている……はずだ。
この子が何処まで行けるのか分からないけど、私が教えられる範囲で色々と教えてあげるよう。
グレイラット家でお世話になって1年が経った。
ルーデウスは相変わらずの吸収力をみせて私が魔術を教えてる度にメキメキと成長していく。
会った時に中級者魔術を発動出来たルーデウスは既に上級魔術を制覇しそうなほどだ。
このペースなら聖級魔術を教えて私の役割が終わるのもそう遠くないだろう。
妹であるオーシノルの方はと言うと、天才であるルーデウスとは違ってスタートから出遅れていた。
先ずは文字を教える所から始まり、文字を覚えたら詠唱を覚える。
双子の兄であるルーデウスが無詠唱で魔術を発動出来るから妹のオーシノルも意味と文字を覚えたら無詠唱で行けるのではないか?と僅かばかり期待していた私であったが、結果はまるで普通にダメだった。
かと言ってこの1年見た感じ全く才能がないわけではない。
今は初級魔法を全属性覚えようとしている最中だ。
素質の無い者なら成人であろうと初級魔法すら一生をかけても習得できない場合が多い。
一般的な魔術師でも良くて上級魔術、それも一属性のみ。
あぁ、忘れてはならないのは彼女がまだ4歳の幼い子供だと言いう事だ。
私が同じくらいの子供の頃は……村に馴染めなかったから家で独りで居ましたね。
普通の子供なら外で他の子と一緒に毎日遊んでいる齢の子供だ。
そんな子共なのに、全属性の初級魔術を習得しようと頑張っている。
立派だ。天才であるルーデウスの様な才能がないにもかかわらず、毎日ひたすら詠唱に向き合う日々は齢を考えれば投げ出してもおかしくない。
それだけルーデウスが魔術を扱えるのを見て、憧れを抱いていると言う事なのだろうか?
1年経ってオーシノルは文字を覚える所から初級魔法をある程度発動出来る様になるまで成長した。
それも全属性だ。ルーデウスが当たり前の様に全属性を扱えられるからオーシノルはピンと来てない様子だが、全属性の魔術を扱えると言うのはそれだけで大した才能である。
一般的には一つか二つに絞って魔術を覚えて行くもので、上級魔術師でもその人が得意とする属性ともう一つか二つ目は初級か良くて中級しか扱えない。
なのにオーシノルは全属性を覚える気でいる。
……普通は複数の属性を扱えるだけで才能があると伝えた方が良いのだろうか?
私は悩んだ。しかし直ぐに、ルーデウスが当たり前の様に全属性を無詠唱で扱ってる時点で普通の魔術師のアレコレを説いても無駄だと思い至った。
それに、通例を教えずに何処まで成長できるかも見ものですね。
そんなオーシノルことオシィは午前中の魔術の授業が終わると、私と一緒に家の外に出て後ろを付いてくるようになった。
恐らく家の外に出る機会を伺っていて、私はそれの出汁にされたのだろう。
意外とずる賢いですね。
しかし、私の後ろをちょこちょこ付いて来て、気になった事は何でも質問して吸収しようと言う姿勢は非常に好感を持てます。
そんなわけで魔術の授業が終わると私とオシィは村へ足を延ばして色々と課外授業だ。
外で遊ぶのは良い事だ。
私はが過ごしていた魔大陸では村の外に出るのは危険で、村に馴染めなかった私は家の中だけが私の活動範囲だった。
魔術の才能には関係の無い事だろうけど、今後の人生を考えれば色んな知識を覚えているのは間違ったことではないため、オシィに色んな知識を授けた。
えぇ、オシィ自身はルディと比べて自身を酷評しているけど、十分に自頭も良いし魔術の腕だってこのままならやっていけるだけの技量はある。
もしかしたら、十数年後に何かの依頼でバッタリ鉢合わせて思い出話なんかを……。
いけませんね。オシィがまだ冒険者になりたいと思ているのかもわかりませんし、親バカであるパウロさんが過酷な冒険者業を許すのかも分かりません。
ルディと一緒なら有り得なくもないかもですね。
夜はルディとオシィの部屋にお邪魔してこの世界の常識などのお勉強だ。
この二人が将来どんな仕事に就きたいかは誰にも分かりませんが、覚えておいて損はない知識を授けています。
世界にある各大陸の主な特徴、主要国家の位置と特徴、種族についても私の知る限りを教えました。
特に、悪魔であるスペルド族についてはしっかりと教え込んだ。
此処数十年は噂すらも聞かない種族だから絶滅してしまったと世間では言われているが、わたしとしては何処か人里から遠く離れた辺境の地で密かに生き延びていて機会を伺っている説を押している。
ルディもオシィもよく分かってくれたはずだ。
午前中に魔術を授業、午後は家を出てオシィと課外授業モドキ、夜には二人に汎用知識の授業。
そんな感じで一日のサイクルは終わる。
我ながら充実した1年だった。
このペースなら、後1年程でルディには私の全てを教える事が出来そうですし、オシィも中級魔法を一つは覚える事ができるかもしれません。
長い人生の中でも濃く充実した1年だと言えましょう。
それはこの先続いて行く人生と比べてもそうだと言えます。
逆に言えばこの1年とこの先の1年、二人の先生だった2年間が最も平和でほのぼのとした時間だったのかもしれないと、数年後の私は思う。
それから更に1年後、ルディは予定通り水聖級魔術師となった。
6歳でしかない子共が水聖級とは天才とはやはり凄くてズルいと思いますよ。
私の自信はこの2年間で粉々に砕け散った。
各地を巡って迷宮に潜ったり強い魔物と戦ってもっと研鑽せねばと決意を固めたのであった。
ルディとは逆にオシィは普通に優秀な弟子と言った枠に収まった。
卒業試験では中級水魔法を複数使って面白いパフォーマンスを見せてくれる始末。
水属性以外にも火属性も中級まで習得出来ていると行ってもいいだろう。
残りの属性も偶に失敗する事はあるものの、十分に余裕を持った時ならば成功率はかなり高い。
ルディは初めから中級を覚えていたので感覚が麻痺しているのかもしれませんが、初めは文字を読むのも拙かった子供がたった2年ぽっちで中級魔法を使えるようにまで成長出来た。
ルディがいなければ天才ともてはやされても可笑しくなかったと思いますが、逆にルディが一番近くに居る事で目標となり、自分の魔術の実力が平均よりも高いとは思わずむしろまだまだだと自虐するまでだ。
……身近に平均的な魔術師が居なかった弊害が出ていますね。
まぁ、天狗になってできもしない期待をかけられて失敗するよりはマシでしょう。
うぅ、嫌な記憶を思い出してしまいました。
家庭教師を終えてからも二人の弟子を忘れる事はありませんでした。
研鑽を積んで迷宮を攻略して、その功績でシーロン王国第七王子パックスの家庭教師と招かれ、そこで見つけた書物を読み解いて水王級魔術師へとなる事が出来ました。
これもルディに出会って私の自尊心を粉々にへし折ってくれたお陰です。
この頃のルディはロアの街でお嬢様の家庭教師をしていたそうで、そのことを私は手紙で知りました。
残念ながらオシィとは直接的なやり取りはありませんでしたが、ルディ曰く私と別れてから剣術の才能に目覚めたらしく、数年のハンデをもってしても純粋な剣の技だけでは勝てない程らしい。
魔術の先生なので思う所はあるにせよ、オシィも誇れる才能を見つけた様で私も嬉しいです。
ルディが魔術として天才なら、オシィは剣術の天才でしょうか?
実際に目にした訳ではありませんので、どの程度の才能を持っているのか分かりませんが、もし冒険者としてコンビで活動を行うならこれ以上ない程のコンビでしょうね。
それこそ、純粋な剣士と魔術師のコンビよりも相当強くなりそうです。
双子なのでコンビネーションは抜群でしょうし、偏りはあるにせよ二人共剣術で接近戦に魔術で遠距離戦を両方とも行えるのも他の剣士と魔術師には無い優れた物だ。
えぇ、この頃の私は二人の将来がとても楽しみで仕方がありませんでした。
全てが順風満帆な気がして、何の不安もありませんでした。
それが砕け散ったのはグレイラット家の家庭教師を辞めてから5年程経ったある日の事。
アスラ王国で異変があると感じ取った私は常々辞めたいと思っていたパックス王子の家庭教師を辞任し、アスラ王国へと向かった。
そして半年後。
道中で様々な噂を耳にしたが、やはり目にするまで信じられなくて私はフィットア領まで歩き、現実を目の当たりにした。
人工物全てが消え去ったフィットア領をだ。
やはり噂は本当だった。
突如としてフィットア領を襲った魔力災害。それは範囲内の全てを無にかえし、世界中のありとあらゆる場所へランダム転移させると言う非情に極悪な災害だった。
転移した先が地上ならそれだけで幸運。割合は分からないが、少なくない人が空中に転移させられてそのまま地面に叩きつけられて亡くなっている。
地上に転移出来た幸運な者でも、紛争地帯や別大陸に森や砂漠の中と人が、一般人が生き残るには過酷な場所に転移させられてしまえば、生き残ってフィットア領に戻るのは非情に難しいと考えるのは容易だ。
フィットア領について諦めなきれなくて、難民キャンプがあると言う場所まで足を進めた。
そこで目にしたのは活気が全くない集落だった。
世界でも有数な豊かなアスラ王国でこんな場所があるなんて……と驚くほどだった。
冒険者ギルドに行くと項垂れている人が居た。神に怒りを抱く神官が居た。全てを失って自殺しようとする商人が居た。
世界中の悲しみを寄せ集めた様な場所が、フィットア領難民キャンプだった。
1時間の時間をかけて私は情報を集めて、何が起きたのかを把握した。
掲示板には行方不明者の一覧が貼ってあり、グレイラット家の面々を探すとゼニス、ルーデウス、オーシノル、リーリャ、アイシャの名前があり、パウロとノルンは生きている事が確認を取れた。
掲示板にはパウロからの手紙があり、彼はルーデウスに向けて家族を探せと伝言していた。
確かに、あのルーデウスなら転移事件に巻き込まれていても死んでいなさそうな雰囲気がある。
……でも、いくらルーデウスだろうと急に見知らぬ土地に飛ばされてしまえば無事で居られる保証はどこにもない。
私は探索に参加することにした。
と言ってもパウロと合流する必要はないでしょう。
私は彼らが行けない場所に向かうべきです。
一番心配なのはオシィですね。
ルーデウスも心配ですが、彼と比べたら双子の妹であるオシィの方がまだ不安になる気持ちが強い。
二人共同じ年齢なのだから比べたらダメだと分かっていながらも、私はオシィの方が遥かに下であると見てしまう。
とは言え、余程の高所から地面に叩きつけられていたり、魔物が入り乱れている危険地帯でもない限り生きていられるはず。
短い間ですが、ちょっとした技術なんかは話してあったはずですし、魔力切れになっても剣で戦える。
あぁ、オシィの場合は剣の方が才能があると言う事ですので、普段は剣で戦っていざって時などに魔法を使う魔法剣士の立ち回りが合いそうですね。
ともあれ、パウロがミリス大陸に拠点を持っているなら、私は行きにくい場所へ向かうのが得策ですね。
拠点にしているミリス大陸は言わずもがな、実際に被害を受けたフィットア領があるアスラ王国周辺や中央大陸は一先ず後回しにしても問題ないでしょう。
言葉が通じる場所や比較的に安全な場所ですし、余程の悲運が重ならなければルーデウスなら生きていけるでしょうし、オシィもルーデウス程の安心感は無くても二人で村を歩いていた時に色々と教え込んでいる為、普通の場所に転移させられていた場合は生き残れているはずだ。
ならば候補は全体的に過酷な土地である魔大陸、砂漠と独自な文化が芽生えていて世界最大の迷宮都市を抱えているベガリット大陸、情報が全く入って来ず入る方法すら思いつかない天大陸。
天大陸はそもそも行き方が全く分からないので却下。
残るはベガリット大陸と魔大陸ですが……まだ土地勘のある魔大陸にしましょうか。
生息している魔物の危険度からも魔大陸の方が上ですし、ベガリット大陸ならまだ共通言語を喋れる冒険者などに出会える可能性がある。
対して魔大陸は武者修行中の剣士程度しかあの地には居なかったはずだ。
うん、圧倒的に魔大陸の方が生き残れる可能性が低い。
私自身が自分の美徳だと思っている即断即決。
決めてから直ぐに支度をしてフィットア領難民キャンプを出立。
道中でパウロの元パーティーメンバーだと言うエリナリーゼさんとタルハンドさんと出会って、目的が同じと言う事でパーティーを組んで魔大陸に。
そして長い時間をかけて魔大陸を探し大陸の端、私の故郷の近くの街で魔界大帝キリシカ様の活躍によりグレイラット家全員の居場所を知る事が出来た。
ルーデウスは魔大陸に転移させられたそうだが、どこかの街ですれ違って今は魔大陸を既に出てミリス大陸。
リーリャとアイシャは中央大陸なのは見逃した感じがしたが、ゼニスとオシィはなんとベガリット大陸に転移させられていると分かった。
訪れた事が無い、魔大陸よりも危険度は下がると言う事で行くのを後回しにしたのが悔やまれますね。
ともあれ居場所を知れたら行動あるのみ。
先ずはパウロと合流する事を第一目標としてミリス王国の王都ミリシオンを目指す事になった。
タルハンドさんは渋々でしたが、エリナリーゼさんは断固としとてパウロに顔を合わせるのを拒否した為、ここでお分かれしてこのまま中央大陸に移動してルーデウスに家族全員の居場所を伝えることに。
せっかくパーティーとして良い感じになって来たばかりなので寂しい気持ちもありますが、お互いに長寿のようですし、いずれ再会する時もくるでしょう。
と言う事でタルハンドさんと共に来た道を戻る。ペースは早めを意識していたが、エリナリーゼさんと言うアタッカーが抜けたこともあり、大陸に生息している魔物に手こずる……こともなく魔大陸を出た。
ミリス大陸に入って更にペースを上げてミリシオンについてパウロに私達が得たゼニスとオシィの情報を伝える。
因みに、リーリャとアイシャは既にルーデウスが助け出してミリシオンに到着していた。
ルーデウスは優秀過ぎて何も言うことがありませんね。再会した時には既に王級の魔術をいとも簡単に扱っているかもしれません。
ミリシオンでは数日滞在した。
先ず、パウロが頭目を務めていたフィットア領民の探索隊を解散した。既に事件が起きてから5年以上が経過して、その間に事件の規模を考えれば少なくない人々を見つけて助け出してきたが、そろそろ打ち止めだろうという空気が蔓延していたのが拍車をかけたらしい。
ゼニスの実家やアスラ王国からの資金提供もそろそろ限界に近く、ここ最近もフィットア領民の救出は全くと言っていいほど停滞していたらしい。
そこに来て家族全員の居場所が分かったと来る。団員とも相談した結果、これ以上は難しいと言う事で5年以上に及ぶ探索は終了となった。
アスラ王国に戻る者、このままミリス大陸で生活する者、別の新天地を求めて発つ者、フィットア領民探索隊はバラバラに散っていった。
パウロはゼニスとオシィを見つけ出す為にベガリット大陸に向かう。もちろん、私もタルハンドさんもその手助けをする為に此処へ舞い戻ってきたのだ。ここで一緒にベガリット大陸へ向かうことにする。
ミリシオンを出発しベガリット大陸を目指すにあたり、ノルンとアイシャをルーデウスの下に預けるか否かと言う一つ問題事項があったが、ルーデウスとパーティーを組み魔大陸からアスラ王国フィットア領まで送り届けた恩人、ルイジェルドが偶々現れて二人を護衛する事で解決した。
ルーデウスを魔大陸からアスラ王国まで送り届けてくれた事や、実際に会って話をした事のあるパウロが「任せる」と言うのだから私が横やりを言う筋合いはないのですが、あのスペルド族の悪魔に任せるのは……。
どれだけ太鼓判を押されても私は怖い感情を無くす事は出来ない。というかルーデウス。私が子供の時に言った忠告を無視していますね。
……まぁ、お陰で助かったのだと思えば複雑な気持ちですが……。
と、今はルーデウスよりもオーシノルだ。
魔大陸よりもベガリット大陸が危険だとは言われないが、中央大陸やアスラ大陸よりも危険な場所である事に変わりはない。
ルーデウスは運が良かったと言えばそうなる。落下地点に強いスペルド族が居て味方に出来た。
オーシノルも同じ様に頼れる人を見つけたのだろうか?
でも、それならルーデウスと同じ様に中央大陸に向かわない理由が分からない。
キシリカ様の魔眼では生死しか分からなかったけれど、今にも死にそうな危機にある訳ではないみたいではある。
怪我をしていて砂漠を超える事が出来ないとかだろうか?
にしても、転移事件から5年以上も経過している。
落下の怪我であれば治っているはずですし、オーシノル自信も中級の治癒魔法を扱えるとルーデウスの手紙には書いてありました。
大抵の怪我なら自分で治してしまうはずで……中級で治せない様な怪我を負っているのだろうか?
どっちにしろ、助けが必要なのは間違いない。
ゼニスと違い具体的な場所を絞りにくいのが大変ですが、生きているならその内見つかるでしょう。
言葉の事を考えれば大きな街に居るはずでしょうし。
そんな淡い期待は簡単に打ち砕かれた。
「そう言えば、オーシノルは見つかりませんでしたね。……どこに居るのでしょう?」
「…やっぱり俺も残るべきだったでしょうか? タルハンドさんやギースだけに任せずに……」
「いいえ。やはりルディは一度帰って来るべきでした。今の貴方には休息が必要です」
「でも……そうですね。先生の言うとおりです」
「それに……ゼニスの事を報告しなければなりませんし、貴方には帰りを待つ家族が居るのでしょう」
「はい。あぁ、ロキシーの事も皆んなに紹介しなければなりませんね」
ゼニスの救出には成功した。
パウロの死とルディの片腕を犠牲にして。
これ以上は色々と限界だと言う事でルディが家を構えているシャーリアの街へ帰る途中。
オーシノルはまだ見つかっていない。
ゼニスは何処の迷宮に連れ去られたのかギースさんのお陰で比較的簡単に見つかり、迷宮攻略が非常に難易度が高かった。
オーシノルは恐らく逆で居場所の特定が非常に難しい状況となった。
ギースさんがゼニスさんの救出の合間を縫って情報を集めていたものの、私達の耳にはいるレベルの情報は見つからなかったっぽい。
ゼニスの救出は成功してパウロを失った私達は一先ず帰還の決断をした。
ゼニスが謎の現象に囚われてしまった点もあり、オーシノルも生きてはいるが何らかの理由で動けない可能性が出てきた。
早く救出してあげたいのは山々だが、ルーデウスは一度帰らなければならない。
家族と家族。妻子と双子の妹。
苦渋の選択だったのだろう。
だけど、帰る途中でギースさんが一つの提案をした。
この地に残ってオーシノルの探索を続けてくれると言う提案だった。
距離の事を考えればおいそれと乗れない提案だったが、ルーデウスが短期間でベガリッド大陸に向かえた理由が決断させてくれた。
ルーデウスは教えられないと言って目隠しを皆さんにしていましたが、使ったメンバー全員は恐らく気づいているでしょう。まったく、転移魔法陣なんてどうやって見つけ出したのやら。
ベガリッド大陸に残ってオーシノルを探してくれるのはギースさんとタルハンドさんの二人。
戦力的には少し厳しいが、タルハンドさんはSランク冒険者なので前衛さえ用意できればなんとかなるとのこと。
迷宮攻略で得た金銭もあるので、冒険者でも雇えば砂漠を渡る程度ならなんとかなるだろうとも。
安心は出来ないが、この状況下で頼れるのはあの2人だけだ。
ルディが片腕が無くなって子供も産まれそうだと言う。
私が残ると言えばルディは更に悩んで残ると言う決断をしてしまうかもしれない。
私はルディと結ばれただけでも嬉しいのだ。それ以上何を求めて、何を奪おうか。
そう言う訳でギースさんとタルハンドさんと別れた私たちは無事にシャーリアの街へ帰る途中なのだ。
時間はかかえるが、万が一発見した場合は手紙を送って貰える。
それがいつになるか分からないが、最短でも半年程度はかかるだろう。
半年も有ればルディだって万全の状態に戻るはず。
ですので…
「オーシノルは大丈夫ですよ。魔術と剣術の両方を中級で扱える人なんてそうそういませんし、ルディが居ない所でオシィに色々教えてあります。だから不安に思う事なんてないです。ルディが魔大陸から無事に戻って来れたように、現地で言葉の分かる人と知り合って今では中央大陸の何処かを歩ている、なんて事もあるかもしれませんよ」
「……そうですね。それなら後で再会した時にでも文句の一つくらい言ってやりませんと。中央大陸に居るなら連絡の一つくらい寄越しなさい。俺の噂くらい冒険者をやってれば一つくらい耳にするでしょうし、何ならフィットア領難民探索隊に連絡をとれば…なんて、どうでしょう?」
「地頭は悪くないのに抜けている部分がありましたからね、オシィは」
「えぇ、俺がロアの街に向かう前では、剣術だけなら既にオシィの方が上でしたし、先生の教えが上手かったので全属性初級なら扱えて、一部では中級まで食い込んでいます。俺も真正面から相手をするのはかなり嫌な相手と言えるでしょうから、冒険者でもAランクくらいはなければ返り討ちにしてしまうでしょう。搦め手を使われたり詐欺師に騙されて無ければ良いのですが……」
「間抜けではないのですから、そこまでは無いと思いますよ。案外、他の大陸の文化やモンスターを楽しんでいるかもしれませんよ」
「……そうだと良いですね」
こんな感じにルディと会話しているけど、本当は分かっている。
オシィがベガリット大陸で頼れる人に出会って中央大陸まで帰れているなんて事は。
そんなの都合のいい妄想に過ぎない。
私がキシリカ様から居場所を聞き出すまで5年以上。
ベガリット大陸を探し始めて既に1年に近づこうとしていた。
動けるのなら中央大陸に居ても可笑しくない時間が経っている。
やはりゼニスの様に事情があって自由に動けないと考えるべきだろう。
キシリカ様から居場所を聞いた時も、見えにくいと言っていたから、それが関係しているはず。
ゼニスの様に無機物の中に取り込まれているのか、それとも単純にキシリカ様の魔眼との相性が致命的に悪かったのか……。
いえ、オシィがキシリカ様の魔眼を何らかの形で防げるとは思いません。
やはりゼニスの様に……。
と、悪い方向へ方向へ思考が嵌り込んでいた所に、ルディが手を繋ぎながら言ってくれた。
「オシィなら大丈夫ですよ。彼女は俺なんかよりもずっと強くて眩しい妹です。魔法だって剣だって天才じゃなくてもずっと努力を続けて来ていました。その頑張りを知っている俺達が信じてあげていなければ、一体誰が彼女を信じるのでしょうか。オシィは大丈夫です」
「……はい。ありがとうございます、ルディ。私の方がしっかりしなければならない時なのに……」
「先生は俺なんかよりもずっとしっかりしていますよ。そんな先生だからこそ今の俺が居て、オシィも先生が教えてくれた知識を生かして生き残っているはずです」
「褒めすぎですよ」
本当に良く出来た弟子だ。自慢の恋人ですよ。
そろそろうじうじするのは辞めましょう。
今はルディの新しい家族に紹介してもらって、許されるのなら同じ家で暮らして、体と心を休むのが最優先。
しっかりと休んでルディの時間が取れるようになったらまたベガリット大陸に向かってオシィの探索を再開するのです。
もしかしたら私たちがベガリット大陸に再び向かう前に、ギースさん達が本人を見つけているかもしれない。
そこまではなくとも、手掛かりくらいは見つけているでしょう。別れ際に手掛かりらしき物を見つけた…様な雰囲気を醸し出していましたからね。
でなければあの場所でわざわざ別行動すると言い出すはずもありませんし、探索隊の中で情報に一番精通していたのも彼ですし。
きっと何かしらの情報を掴んで、あの場所で向かうことにしたのでしょう。
そう言い方向に考えていた方がきっと良い。
そしてシャリーアの街に着いてから半年後。
街での新しい生活や人間関係にも慣れ、ルディも無くなった腕を友人たちと一緒に作り上げた儀手で補う事に成功。
こちらでやらなければならない事にもひと段落付き、そろそろベガリット大陸に再び向かおうか?と日々の食事で話題に上がるくらいになってきた頃。
冒険者ギルドの速達でギースさんからルディ宛に手紙が届いた。
オシィが見付かったようだった。