何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様) 作:カルデアの廃課金マスター
・ルーデウス視点
「お兄ちゃ~ん!! 手紙!! 手紙が届いたよッ!!」
ある日の昼下がりの事だ。
愛する妻であるシルフィはアリエル王女の護衛任務に行き、ロキシーはラノア魔法大学で先生のお仕事だ。ノルンもまだ家に帰って来るには少し早い。
リーリャはアイシャが行っている家事を少しだけけ手伝いつつも、ゼニスの側を離れないでいる。
ゼニスは庭でアイシャが育てている植物?魔物?を眺めていた。
つまり、俺は暇だった。
今日は大学での講義も無く、ナナホシの研究も昨日終わらせてきた。
偶に休みを無理にでも作らないと、マジでぶっ通しで倒れるまで続けるからな。
暇な俺は娘のルーシーの側に着いて色々と構っていた。
そんな時、俺の部屋にアイシャが飛び込んできたところで冒頭に戻る。
仕事中なのに声を上げるなんて珍しいな、と思いつつルーシーが泣かない様に窘めつつ手紙を受け取る。
「そんなに声を出す事ないだろう? ほら、ルーシーが……」
「騒がないね。ほら、ルーシーは私が見ておくから早く手紙を見てよ」
我が娘はアイシャの慌てた声程度では揺るがないのだ。
とそんなことよりもアイシャが持って来てくれた手紙に注目してやらないとな。
一体誰からだろうか?
俺に手紙を書く奴なんて限られている。
「ってギース!!? ベガリット大陸からまた速達を送って来たのか」
手紙の主はギースだった。
デジャブを感じる。
そうだ。ゼニスの救出に向かう時もギースがパウロに内緒で手紙を寄越して来たのがキッカケだった。
今、ギースが手紙を寄越すなんて一つしか思い浮かばない。
見付かったのか、それともゼニスのように救出が困難なのか?
「オシィ姉は見付かったのかな? お兄ちゃん早く早く」
「あ、あぁ」
再びアイシャに急かされて手紙を開ける。
ギースらしく挨拶も無しで用件だけをすっ飛ばして俺達が知りたい事が書いてあった。
読み終わるのにそう時間はかからなかった。
内容はこうだ。
オーシノルらしき人物は見付かった。
連れて帰るのに応援を頼む。
ルーデウス以外は本人が知っている身内で女性だけで。
と言う事らしい。
見付かった……。
連れて帰るのにどうして応援が必要なのか?
付き人は俺以外女性だけなのも疑問に思うが、ひとまずは
「……見付かったか」
「ホント!!? 私にも読ませてお兄ちゃんッ!」
手に持っていた手紙をひったくられる様にして奪われるが、そんなことは全く気にならなかった。
アイシャの声でゼニスとリーリャが部屋にやって来て、手紙を見たリーリャが静かに泣き出しても俺には気にならなかった。
どう言えば良いいのか。
実感が湧かない。多分そんな感じだ。
双子の妹。
俺の中身がおっさんだから片割れと言うほどではない。
前世のラノベで見まくった意思疎通が完璧に行えたり、常に一緒に行動しているとか、容姿が物凄く似ているとか。
俺とオーシノルはそんな事は全くなかった。
ただ、俺とオーシノルを表す言葉があるとすれば、正反対が一番しっくりくるだろう。
活発的で何事にも行動して失敗しても諦めない心。
魔法が得意な俺と逆で剣の才能がピカイチ。
中身がくそ陰キャ童貞の俺なんかとは違った天然物の少女だった。
容姿はギリギリ似ているだろう。
最後に会った時は髪の毛を背中まで伸ばしていて、剣を振るう時には雑に縛って纏めていた。
本人は切りたそうにしていたが、ゼニスが切らせなかったのだろう。
色よりも食を選ぶような奴だったから、肉付きは良かったんだよなぁ。
血筋もあって今ではどえらい美人さんに育って居るだろうな。
寄って来る男どもとは真剣にお話ししないとな。
これはパウロの代わりだ。アイツなら絶対に同じ事をしただろう。
そういえば、生徒会に入って人気が出ているノルンは大丈夫なのだろうか?
「それでルディ。ベガリット大陸には当然行くのでしょう?」
おっと、色々と妄想していたらいつの間にか時間が飛んでいた。
今は仕事から帰ったシルフィとロキシー、こんな時に呼ばなければぎこちないながらも良い関係へと向かっているので急遽呼び戻したノルンがギースからの手紙を読んでいる最中だった。
悪いけど、夕飯の支度はアイシャとリーリャに任せてある。二人とも一足先に手紙を読んで感情の整理をつけているから。
手紙を読んだ三人は一先ずオーシノルの生存を喜び合った。
ロキシーとシルフィは大人な対応として大人しいが、シルフィは若干目に涙が浮かんでいる。
単純計算になるが、この中で一番過ごした時間が長いのはシルフィで、一番一緒にいた時間が長いのはロキシーだろう。
ノルン? 妹は俺よりも一緒に過ごした時間が長いからか、手紙を読んだ瞬間泣いた。
グズグズだ。
というところで先のロキシーからの言葉だ。
ベガリット大陸に向かに行く。
これは迷う訳もない。
帰りの事も考えれば俺達が迎えに行って転移魔法陣のショートカットを使わなければ、今から半年以上再開に時間がかかってしまう。
そもそも、ギースから迎えに来てくれと頼まれているのだから、迎えに行かない道理はない。
「えぇ。勿論向かいます。幸い、俺達にはショートカット出来る特別な方法があるから、休学申請も簡単に通ると思います」
「前回の時とは違って、言って直ぐに帰って来れるから時間も移動時間だけでいいんだよね?」
「いえ、どうでしょうか。手紙にはオシィが知っている女性のみと書かれています。一筋縄では行かないと考えて置いた方が得策でしょう」
「えーっと。じゃあ、オシィと面識がある人は……、当然ルディ、ボク、ロキシーさん。ルンちゃんとアイシャちゃんは微妙かな?」
「どうしてですか? 私たちはお姉ちゃんに色々とお世話になりましたよ」
「転移事件が起こった時から既に5年も経過している。見た目が殆ど変わってないロキシーやリーリャさん、母様が一番なのでしょうが……。流石に母様とリーリャをベガリット大陸に行かせるのは無しで」
「当然、ノルンちゃんとアイシャちゃんも危ないからダメだね。ボクはどうだろう? ルディと違って髪の毛の色が変化していても分かるかな?」
悪かった。悪かったからその話を蒸し返すのは辞めてもらいたい。
髪の毛以前に、シルフィはルーシーのお世話がある。
リーリャに見てもらう事も可能だが、自我も芽生えてない様なルーシーとシルフィを半年も引き離すのはダメだろう。
アリエル様の護衛を長々と休め無い問題もある。
事情を説明すれば納得してもらえる器量はあるお方だが、これまで色々と便宜を図って貰っている。
この街で争い事などが起こるとは思えないが、アリエル様の護衛の中では一番実力を持っているシルフィが半年以上も側を離れるのはやはり問題がある。
「と言う事で、シルフィもお留守番です。ルーシーと家の事を頼んだよ」
「むぅ……分かったよ。その代わり、しっかりと連れて帰ってよね」
「あぁ、今度こそは失敗はしないさ」
まぁ、ゼニス程の障害はないはずだ。
精々俺以外の男性を連れて行ってはならないのか気になる程度だ。
シルフィもダメとなるれば、やっぱり今動けるのは俺とロキシーだけになる。
ゼニスはもちろん家から遠出する訳にも行かず、ゼニスが行かないとなれば世話をしてくれているリーリャも当然無理だ。
ノルンは学校があるし、アイシャは家事がある。
それ以前にベガリット大陸は魔大陸の次に危険な大陸で、砂漠を超えるとなれば魔物の奇襲に警戒してなければならない。
そんな大陸に可愛い妹二人を連れて行ける訳がない。
というわけで俺とロキシーの二人旅が決まった。
ゼニスの時ほど焦っていないのは、無事に見つかっていると言う点が影響しているだろう。
ロキシーと二人旅になるのは初めてで、少しだけワクワクと緊張している。
魔法使い二人とういうアンバランスな二人なのも関係しているだろうな。
まぁ、驕るつもりはないが、一般的に見れば俺もロキシーも冒険者としては熟練に位置する魔法使いだ。
もしもの時は俺が前衛をやればいい。
毎日筋トレや走り込みは欠かしていないし、剣だって今では中級以下だろうが振っている。
ロキシーを前に立たすよりは断然マシだ。
翌日、ロキシーと一緒に半年ほどの休学申請(ロキシーは休職だが)をジーナス教頭へ申し出た。
ゼニスに引き続き短い期間で短くない期間の休学だったので、最悪退学もあるかなぁと考えていたが、俺の実績とそんな卒業生を排出したと言うネームバリューの方が高いらしい。
俺なんかがそこまで高く買われているのは少し萎縮してしまう。
前世の俺から対して変わっていなければ、魔大陸に転移してなければ、ルイジェルドと出会っていなければ俺は増長してしまっていただろう。
だが、俺は世界最強を知っている。俺が一生をかけても届かない領域にいるだろうということも。
あの異次元とも言える格別な魔法無効化を、手刀で名剣をも上回る威力を持った一撃を、俺は知っている。
上には上がある。それを実感してるからこそ、ジーナス教頭が、この学校や周囲が俺をここまで評価してくれてるとは思いもよらなかったのだ。
逆にロキシーが休職するのは少しだけお言葉を頂いてしまったが、俺がどうしてもと言うと承諾してくれた。
オシィを連れて帰って来たら色々としなければ。先ずはお土産や俺でできる範囲で役に立とう。
逸れ竜の討伐だってやっちゃうぞ。
ジーナス教頭以外にもアリエル様を筆頭にザノバやクリフ先輩、ナナホシの奴にもお世話になっている事には変わりないからなんか買ってやるか。
と、そんなこんなで旅の支度が整い、出発の日がやって来た。
「じゃあルディ、行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
シルフィと抱き合う。
砂漠の移動で戦闘があるとはいえ、ゼニスの時と違って迷宮攻略はしないはずだ。
だけど、シルフィにとってはやはり心配なのだろう。
逆の立場なら俺だって心配する。
「今度は怪我なんてしないで帰って来てよね。皆無事でだよ」
「今度は油断しないし、そもそも迷宮なんて潜らないだろうから大丈夫さ。オシィの状況次第だけど、直ぐに帰って来るよ」
「任せてくださいシルフィ。ルディは私が守りますので。前の様な事はあり得ません。逆にシルフィは家の事を頼みましたよ。ルーシーも、行ってきます」
ロキシーがシルフィとルーシーに行ってきますの挨拶をしている間、俺は俺でゼニスとリーリャと話す。
「じゃあ母様行ってきます。オシィはちゃんと連れて帰って、これで家族全員です。リーリャさん、母様と家の事を頼みます」
「はい、お任せください。ルーデウス坊ちゃま……いえ、オシィお嬢様をよろしくお願いいたします」
ゼニスは何も言わず表情も変えない。
しかし、俺の胸を叩いた。
言葉は聞こえないかったが、ゼニスは「オシィをよろしく」そう言いたかったのだろう。違ったとしても似たようなニュアンスだろう。
ゼニスに向かって頷いてから他の家族との挨拶が終わったロキシーを連れて旅立つ。
最後に、後ろからアイシャの声が聞こえて来た。
「いってらっしゃーい!! 絶対に全員無事で帰ってきてよね~~!!」
それに手を振って応えて、俺とロキシーはシャーリアを出発した。
ノルンが戻って来れなかったのは残念だが、昨日大学で出発の話はしたし、戻って来た時は知らせを受けたら飛んで帰ると言っていた。
これだけ多くの人に帰還を祈られているんだ。
絶対に無事に帰って来てやる。
だからお前もあと少しだけ頑張れよ。
そう心の中で双子の妹に語り掛けた。
伝わる訳ないよな。
今までも双子らしい特殊能力が起きた欠片も無かったから。
それでもなお、俺は旅の間はかなりの時間をオシィの無事を考えていた。
一番怖かった転移遺跡にオルスデッドが待ち構えている、何て事も起きずに無事にベガリット大陸に転移。
前回は黙認してもらったが、結婚して実際に転移魔法陣を使うとなれば黙っておく事は出来なかった。
まぁシルフィとロキシーには出来る限り秘密は作りたくないから、教えたところで特段と問題はない。
二人とも秘密をペラペラと喋る人ではないしな。
砂漠横断は懸念していた程問題は起きなかった。
近づく魔物はロキシーと俺が魔法をぶっ放すだけで倒せる。
唯一地面の下から奇襲を仕掛けて来るワームだけが危ない場面もあったが、軽く魔眼を発動させておくことで何とかなった。
そうしてギースから指定されたオアシスに辿り着いた。
別に何て事の無いオアシスだ。
ゼニスを連れ帰った時にも立ち寄ったオアシスだ。
「そういえば、ここでギースとは別れましたね。ルディ、ギースは具体的に何処で待っているか書いてありましたか?」
「いいえ。オアシスの指定だけでした。……何処で待っているんでしょうか?」
「では酒場ですね。冒険者ギルドがあればそこかも知れませんが……ここには無さそうですし、でしたら酒場です。分かりやすいですし、話をしながら食事を取るにも最適です」
「なるほど分かりました。では酒場に行って見ましょう」
ソロで色んなパーティーにお世話になっていた俺は、大抵は待ち合わせ場所を決めてから別行動したり、そもそも向こうから俺を見つけて誘って来たりとしてた。
俺から誰かを探すなんて冒険者としてはしてこなかったので、こう言った辺りはやはりロキシーの方が経験豊富だ。
流石ロキシー。
そして、ロキシーの考えは当たっていた。
酒場に入るとギースとタルハンドさんが困り顔で酒を飲んでいた。
オシィは見当たらない。
「おぉ!! 今回もお早い到着感謝するぜ先輩」
「ロキシーも息災そうでなりよりじゃ」
「えぇ、二人共お元気そうで何よりです。で、オシィはどこですか?」
俺が尋ねると顔を見負わせる二人。
その反応で、何となく嫌な予感が俺とロキシーの頭に響く。
ギースが言いにくそうに現状の説明を行ってくれた。
最悪ではないが最高でもないと言った内容だった。
「まぁ話は移動しながらでも問題ないだろう。ここを出て砂漠を少し超えるが体調は問題ねぇよな?」
オアシスにたどり着いたばかりなのに砂漠を超える?
オシィは此処にいないのか?
そんな疑問が頭を過るが、俺もロキシーも疲労こそあれどまだ動ける。
大人しく先頭を行くギースについて行きながら二人の話を聞いた。
あの時オレはここ数年、この辺りをナワバリにしている少女の噂を耳にしていた。
数年って言うもんだからパウロの娘なんじゃないか?とオレは情報を追って精査していたんだ。
何でその時にそのまま言わなかったのか? パウロが亡くなっちまい、ゼニスもあんな状態で満足に動けやしねぇ。
センパイだって色々な事が起こり過ぎて傷心中な状態で、情報が入ったから寄り道したいなんて言えるはずも無い。
ん? 家族の居場所が分かってたらそんな弱音吐かない?
だから、そんな状態じゃなかったって言ってんのよ。
あぁ、タルハンドの言う通りだ。過ぎちまったもんは仕方ねぇ。
そんで、センパイ等と別れた俺とタルハンドはこのオアシスで噂の少女の話を集めたのよ。
やれ、襤褸切れを纏った小汚い少女だ。剣の腕はある見てぇで砂漠のモンスターを狩って日銭を稼ぐつもりだ、何かから逃げてる見てぇに怯えてるわ。
保証は何処にも無かったが、魔界大帝の魔眼で得たオーシノルの位置情報はベガリット大陸に居るという事だけだ。
ゼニスの時よりも情報が乏しかった俺たちはどんな些細な情報だろうと聞き込んで真意を確かめなきゃならねぇ。
ここで得た情報は消して多くは無かったが、全く少ない訳でも無かった。
パウロの野郎から聞いてた特徴とも一致していて、ゼニスの時ほど危険地帯にいるわけでも無かった。
このオアシスからぎりぎり見えない森に噂の少女は暮らしていると聞き、数週間に一回森じゃあ手に入いらない物を調達する為にオアシスへやって来るという。
そんな情報を得た俺たちは森へ向かって見たんだよ。
ベガリット大陸は砂漠だけの大陸に見えて、ところどころに森が生い茂ってるのは知ってるか?
噂の少女が住んでるのもそんなベガリット大陸で数少ない森の一つだ。
人が住むには少し厳しい環境だが、砂漠よりはマシな環境で少ないながらも動物だって生息してて水さえ確保出来るなら住めないことは無い、ってのがこの辺りに住んでる人の評価だ。
住めるからと言って人間社会からわざわざ離れる意味なんて考えるのも難しくねぇ。
俺とタルハンドはその辺を失念してた。
とりあえず森へ行ってみが、初めの数日間は会えなかった。
出口、このオアシスの方向を見失わないように目印を付けながらだったから少しずつだったが、それでも数日間全く出会わなかったのは大変だったぜ。
パウロの野郎が教えたのか、それとも独学なのか今じゃ分からねぇが、このベガリット大陸でソロで動けるだけの力量はあったんだろうよ。
それとも……いや、今はいい。
少女に出会えたのは森を探索し始めて数日経った頃だった。
ベガリット大陸では大きな森だろうが、ミリス大陸の大森林と比べたらちっぽけな存在だ。
数日もあれば鉢合わせくらいするってもんだ。
初めて対面した時は俺一人だった。
この森はそこまで広く無い上に俺一人でも問題なかったからタルハンドとは別行動中だったはず。
「それで一度対面したんだが逃げられちまった」
「逃げられた?」
ギースの言葉を聞いて俺は耳を疑った。
逃げたって一体どうして?
そんな俺の疑問を払ってくれたのはロキシーだった。
「ルディ、ギースとオシィは初対面ですよ。むしろ知らない人を安易に信じなかったオシィの方が正しいです」
「あー確かにそうでした。あれ? ってことはどうやってオシィだと判断したんですか?」
「だからまだ確定してないって言ってるだろセンパイ。パウロの野郎から自慢されてた情報と容姿を元にほぼ当たりだろうって勝手に判断してるだけだ」
「待ってください。それならオシィと言葉も交わしてない?」
「いや、森は徘徊している隙を伺って毎日会いに行った。マジで凄かったぜ。こんな大陸で独りっきりサバイバルしてるだからよ。普通そんな道選らなねぇだろ」
サバイバル?
近くにオアシスがある中で?
ギースの話を聞けば聞くほど疑問が湧き出て来る。
「明らかに普通ではありませんね。言葉が通じずともオシィなら身振り手振りでどうにかしてしまいそうですし、大きなオアシスを探せば、それこそ迷宮都市ラパンまで行けば言葉が通じる者は必ず居るはずですから」
「オシィとは全く話せなかった訳ないですよね?」
「あぁ、数日間通って仲良くなろうと頑張ったんだぜ。タルハンドのいかつい顔が近くに居ると怖いだろうと思って俺一人で。だけど、タルハンドと一緒に拠点にしているであろう場所に近づいた途端に剣で斬りかかって来やがった」
「ありゃ確かにパウロの剣だ。鋭く確実に得物の息の根を止めに来た。まぁ、パウロの剣筋を知ってるお陰で何とか防げたが、並みの剣士だと持って五太刀じゃろうて。付け加えると、パウロとは違って魔術まで使って戦って来るから厄介よの」
「一人だとは言えSランク冒険者のタルハンドさんをここまで言わせる少女……ほぼ間違いなくオシィですね。魔術を教えたのは私ですし、剣を教えていたのはパウロさんですし」
だとすれば、ますまず疑問が浮かんでくる。
それだけの強さを持っているなら大きな街に居ても可笑しくないはずだし、上手くやれば中央大陸に戻ることだって出来たはずだ。
まだ確定は出来きないが、容姿と戦い方からしてオシィなのはほぼ間違いない。
しかし、やはりこんな人里から離れた森でサバイバル生活を送っているのか分からない。
オシィの性格なら、転移させられた土地から何もしないで行動をしないはずがないからだ。
俺の知っているオシィは行動的で考えるよりも先に手が出るタイプ。
知らない土地に転移させられたら先ずは家に帰ろうとするはず。
パウロに何度もせがんでいた冒険者時代の話みたく、自分も冒険者になるんだー!とばかりに冒険者ギルドに登録して、依頼をこなして路銀を稼ぎつつベガリット大陸から中央大陸に戻りアスラ王国に帰る。
その道中で立ち寄った冒険者ギルドでパウロの伝言を読んで…パウロと合流し、ゼニスの救出の為の力になる。
……有り得たかもしれない未来だった。
しかし現状は、転移させられたであろう土地で冒険者にもならずサバイバル生活。
何かが可笑しい。
俺の知っているオシィとは別人だ。
「となれば、オシィに何か起きたと考えるべきでしょうね。ギース、何か会話して気づいた点はないのか?」
「うーん。会話も中々ままならない状態だったからなぁ。これでも一方的にでもこっちの話を聞かせるの二も苦労したんだぜ。しかもだ、前回から期間が空いちまったから最悪初めからの可能性もある」
「初めからと言うと……」
「目にした途端に剣を向けて来るじゃろうな。何が逆鱗に触れたのか分からんが、拠点を幾度も捨ててまで逃げ回っている相手じゃぞ」
「ありゃパウロの名前を軽率に出したからだろうよ。アイツの代わりに来たって言った瞬間だぜ」
「それは可笑しいです。父様の名前を出したのなら少なくとも話くらい聞いてくれるはずですし……。ギース、名前は名乗ったのか? 元のパーティー名は?」
パウロに何度も冒険者時代の話をせがんでいたオシィならメンバーの名前くらいは知ってるはずだ。
「もちろん伝えたさ。結果は……言うまでもねぇな」
一体何があったというのだ?
……いや、考えても仕方ない。
「今までの話を纏めると、オシィらしき人物を見つけた。ほぼ確定しているが、説得に失敗。家族である俺を呼んで直接連れて帰ろうって事でいいですか?」
俺の言葉に頷くギースとタルハンドさん。
パウロの元パーティーメンバーではオシィの警戒を解けなかったから、俺とロキシーの出番と言う訳だ。
でも待てよ……ノルンとアイシャならともかく、オシィは俺の事が分かるだろうか?
双子だけどせいぜい容姿が似ている以外の双子要素が無い俺とオシィ。
フィットア領転移事件から既に5年以上、俺が家庭教師としてロアの街に行く為に家を追い出されたのが7年前……。
10歳の誕生日に会っているとは言え、それから5年も経てば身長も伸びて身体つきも変わっているはずだ。
流石に髪色が変わっていたり、全く違う顔になっていたりしたら別人だと思うが、ギースの話ではパウロの自慢話を聞いていただけで分かるレベルなはずだ。
俺なら必ずオシィの事がわかるはずで、逆もまだ叱り。
俺の事が分からない程オシィの記憶が曖昧だったのなら、最悪ロキシーが居るから大丈夫だろう。
言っちゃ悪いが、ロキシーは俺とオシィの家庭教師を辞めてから殆ど変わっていない。
いやまぁ、そこが可愛い所でもあるのだが……今はそのことに感謝だ。
砂漠を渡って森に到着した。
日が傾いていて、居場所の把握が難しいとのことで今日は森の端で野営を取る。
何事もなく朝になり片付けをして森の中に入ってオシィを探す。
ギースの話では、オシィは森に拠点を構えているとのことだったが、ギースがしつこく会いに行き失言をしてしまったせいで別の場所に移したと言う。
先ずはオシィの拠点を見つけ出す所から始まった。
森には魔物や動物が多数生息していたが、ベガリット大陸の砂漠で有名なグリフォンに比べれば遥かに弱い。
魔術師3人の偏った編成だったが、それでも集まっている個人の力量が高くて苦労は無い。
森を探索する事数時間後ようやく俺たちは目的の人物を見つけた。
ボロボロの布切れに近い服。
所々汚れている肌。
ボサボサで不格好に短くしている髪の毛は俺と同じ色合いをしている。
腰にぶら下げている剣を抜き俺たちに向けていて、何時でも剣の間合いに飛び出せる様に体制は低い。
ぎらついている目はパウロそっくりで、今にでも俺達を射殺さんと睨みつけていた。
そうだ。
成長していようが見間違えるはずもない。
パウロとゼニスを割った様な容姿、俺の女体版とでも言えそうなその姿は間違いなくオーシノル・グレイラットだった。
おいおい!?
俺かロキシーを見れば説得は済むはずだっただろうッ!?
無意識のうちに魔眼に魔力を注いていたが……ブレて見える。
何時ぞやルイジェルドに使った時と同じだ、と言ってもルイジェルド程はぶれていない。
俺の知っているオシィから成長しているとしたら最低でも別れた時のエリスと同じくらいの技量を持っていると考えた方が……。
って違うだろ。
俺達は戦いに来たんじゃない。
目でロキシーに合図を送る。
これで分かってくれたら良いのだが……彼女は頷き返してくれた。
偶に失敗してしまう彼女の事だから、俺の意図してない事をしでかさないかハラハラするが、まぁロキシーなら大丈夫だろう。
やる時はやる人だし、まさか弱っている弟子に魔術を放ったりしないはずだ。
「武器を降ろしてオシィ。俺だよ。ルーデウスだ」
こうして俺とオシィは再会したのであった。
実に6年ぶりの再会だった。
感動の涙の再会とはならない。
この世界は物語ではない。
現実であり、自分が世界の中心ではなく、時には理不尽に残酷な結果が押し付けられるということを再確認する。
あぁ、世界はクソだ。
それでも俺は生きていかなきゃならない。
まぁ生きていただけマシ……。
そう思う事で俺は心を安定させて、オシィの説得を始めるのだった。
次回から元に戻します。