何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様) 作:カルデアの廃課金マスター
S月O日
今日は記念すべき日だ。
今はひさしぶりに警戒を緩めて夜を過ごせている。
食べ物も自分で用意しなくても勝手に用意されるし、私が自分で調理する(基本焼くだけ、しかも毒が怖いからコゲコゲ状態)よりも美味しい。
最高の環境だ。
万が一の可能性を信じて、猿顔が最後に戻って目の前に現れるまで我慢した甲斐があった。
信じられそうな顔をして、噓なんて一つもついていなかったのか。
だけど、日常的には嘘をついて肝心な時には嘘を付かないタイプだと見た。
あまり信用しないようにしよう。
ん?待って。
猿顔が私に言ったことは全部本当なら、猿顔とドワーフの男はパパウロとゼニスママの冒険者時代の仲間って事!?
どうりで私が色々試してみても勝てず、居場所を変えても見つけ出してくるわけだ。
まぁ、そのおかげと麗しの兄上であるルーデウスと幼女先生を連れてくるという機転で私のサバイバル生活が幕を閉じた訳だが……。
成長したと思っていた私だけど、アタッカーを欠いた状態の冒険者二人にいいようにやられるって、かなりショックだ。
やっぱりパパウロの冒険者パーティーメンバーとして活動していただけはある。
帰ったらパパウロに剣の特訓を付けて貰おう。
沢山死闘を繰り広げて強くなった気でいただけで、純粋な体力に筋力、もしかしたら剣筋だって荒くなっているかもしれない。
楽しみが増えたぞ、わーい。
U月S日
昨日に引き続き砂漠越えだ。
砂漠でどうやって現在地が分かるのか? 不思議に思っていたけど、地図と歩いた距離と太陽の位置を計算してある程度の場所を把握してるっぽい。
当てずっぽに歩いていた私とは大違いだ。
これはミミズを筆頭に魔物魔物退治でパーティーの役に立たねば。
O月U日
このパーティーは編成が偏ってるお陰か、戦える場目は作れた。
真っ先に魔物の接近に気づいて切り込む。
魔法使いの援護射撃があるから大分楽だ。
怪我しても大抵の傷はルーデウスが治してくれるから、いつも以上に特攻が出来てやりやすい。
ありがたい。
でも、私が戦うのを良しとせず過保護になるのは辞めて欲しい
Ⅱ月I日
数日経って砂漠のベガ何とか大陸ともお別れ出来た。
大陸と言うくらいで、昔幼女先生の夜座学で学んだ記憶を引っ張り出すと、各大陸は海で別れてたはずだから船に乗れるのかな?初めての海だわーい、って思ったんだけど、ルーデウスが連れて来たのは砂漠のど真ん中。
飛行艇にでも乗ってきたのか?と思ったら、遺跡に入って目隠し。
何やら秘密の移動方法を使ったらしい。
遺跡の外に出たら森林だった。
一瞬で別大陸に移動したらしい……何処かで聞いたことあるような……。
それよりも寒かった。
が、砂漠の夜ほどではない。
日中は灼熱地獄、夜は氷点下を下回る極寒地獄。
それに比べたらマシ……なのだが、一瞬で移動した事で身体が慣れない。
寝て一日経てば適応出来ると思う。
さぁ、後少し頑張れば帰れる。
頑張るぞー!
d月o日
今日は感動の再会の日だった。
ルーデウスが拠点を構えるシャーリアの街へとたどり着いた。
元いたブエナ村では無いのは、転移事件(私が別大陸に飛ばされた事をそう呼ぶらしい)の被害に合ったフィットア領に住むほぼ全ての人が世界各地に強制転移させられた為、元いた家や村は消えて無くなってしまったそう。
もうあの家には帰れないのか……と聞いた時は落ち込んだけど、命があって家族と会えるだけマシな結果だと納得する事にした。
私が空中に転移させられた事例を考えるに、もっと上空に転移させられて地面のシミになった者もいるはずだ。
助かっても知らない土地伝わらない言語のせいで奴隷に堕とされたり、最悪殺されたりした人も少なくない人数はいるはずだ。
パパウロに剣術を習って冒険者時代の話を聞いていなければ、幼女先生に魔法と色んな座学を習っていなければ、これまで生きて来れなかっただろう。
空中に投げ出させた時点で落下死。生き残っても落下の怪我で動けなくて衰弱死。良く分からない兵士に襲われて死。薄い同人誌みたいに屈辱の限りを尽くされて死。砂漠で魔物に食べられて死。食べ物と水が無くて衰弱死。
沢山の死が首元まで伸びていたサバイバル生活だった。
そう考えると、私がこの世界で意識を持ってから転移事件に巻き込まれるまでの全てが無かったら生きていられなかった。
それほどに綱渡り状態だったんだ。
今生きてルーデウスや幼女先生に会えた事に感謝だ。
何が起きても不思議ではないこの世界。
落ち着いたらまたパパウロに頼んで剣の修行をしよう。
魔術だって幼女先生にもう一回教えて貰おう。
ゼニスママに回復魔術をもっと沢山教わろう。
今後何が起きても生き残れるだけの力を付けて手段を増やすんだ。
S月A日
体調は大丈夫。
砂漠での夜がずっとあると思えば問題無い。
幼女先生もルーデウスも良くしてくれるから何の不自由も無い。
馬車みたいな乗りを借りたからか、歩かなくても良いのは楽。
二人が居るから気を緩めてお昼寝を貪っても良い。
こんなにも心休まる時は久しぶりで涙が溢れそう。
ただ、運動がてらに出てきた魔物と戦おうとすると止められるのだけはいただけない。
確かに再会した時は猿顔に追いかけ回されてフラフラだったけど、今は寝て食べて体力は全快とは言わないけどある程度回復したんだからさ?
O月日
明日には街だそうだ。
いよいよだ。
ドキドキしてきた。
とても心配しているはずなので、表情だけでもしっかりと笑いたい。
I月K日
ルーデウスが買ったと言う家に着いた。
かなりデカい。
二階建てで水回りもバッチリだそう。
お風呂に入れるのは元日本人としてはとても嬉しい。
一応魔術を使って水を出して火で温める事ができるとは言え、ルーデウスの様に無詠唱じゃないから調整がかなり難しいし、そもそも魔法は自力ではどうしょうもなく生きるのに必須な場面で使用する必要があったから、お風呂なんて入れなかった。
せいぜい水浴びだ。
ルーデウスの馬鹿みたいな魔力量をしてないのだよ。
家のことはもう少しあるけど、今はこれくらいで良いだろう。
一番は家族との再会だ。
リーリャは前よりも少し歳を取ってやつれた感じがするが、しっかりとメイドさんしているのが分かる格好だ。
私を見たとたんに泣き出したので、笑いながらハグをする。
確かにリーリャにはとても大変お世話になった。
第二の母と言っても良い。
これからはリーリャの手伝いもして安心させようと思う。
ノルンとアイシャは可愛らしく成長していた。
年齢的には小学生中学年くらい?
とにかく、二人共可愛らしく成長していた。
私みたいに独りぼっちで転移していなくいて良かった良かった。
これからはお姉ちゃんとして頑張るぞい。
で、最後にゼニスママ。
…………。
これは無い、と思った。
真っ先に頭を過ったのは植物状態。
でも違った。
動けるけど喋る表情を変えないと言う反応を示さないだけだった。
だけと言うのには重すぎる症状だけど、転移した先で何か起きたらしくルーデウス達が見つけた時には巨大な魔石に取り込まれていたらしい。
現在、治す方法が無いか模索中とのこと。
思わず拳を握りしめてたらしく、血が滲んでいた。
その時は絶句して何も言えなかったけど、明日はゼニスママに話しかけよう。
反応を返せないだけで意識自体はあるかもしれないから、少しでも元気な姿を見せてあげるのが今の私に出来る精一杯の事だから。
もしかしたら奇跡的に回復したりして……いや、ルーデウスやノルンでもダメだったんだから私が頑張ったところで奇跡なんて起こるはずも無いよね。
ルーデウスと幼女先生で助け出したって言ってたけど、パパウロはどうしたのだろうか?
誰も話題に出さないのは不憫だ。
少なくとも、ルーデウスの家に居ないのは確か。
もしかしてだけど、ルーデウスとは別行動で私を探しに行ってるから直ぐに戻ってこれないとかかな?
今日はこの辺りにしておこう。
移動中も感じたけど、安全な建物の中と言うのは物凄く安心出来る。
ふかふか…とはいかないけど、硬い地面や木の上に比べたら天国のような寝心地のベッドは私をダメ人間にする。
暖かく柔らかいベッドで今夜も安眠出来そうだ。
UD月K日
……は?
パパウロに逢いたいと零したら墓に連れてこられた。
パウロはゼニスママを助け出す為に死んだらしい。
B月Z日
昨日はルーデウスに当たり散らしてしまった。
今は部屋に引き困ってる。
まだ信じられない。
あのパパウロが、パパが死んだなんて。
ママを助け出すための迷宮攻略の最深部で、ヒュドラの攻撃を受けそうなルーデウスを庇って死んだそうだ。
何でだよ。
私よりも強くて、ルーデウスよりも強かったパパが死ぬなんて有り得ない。
私は現実を認めたくない。
M月A日
引きこもり二日目。
家の人がやって来るが相手にしなかった。
まだ気持の整理が出来てないから、誰の顔も見たくなかったの。
アイシャとリーリャを追い返すのは心が痛んだ。ごめんなさい。
逆にルーデウスは何とも思わなかった。
むしろ、何でもできるルーデウスにだけは会いたくなく。
昼頃にシルフ君ちゃんがご飯を持って来てくれた。
自ら引き籠った私なんかの為にわざわざ持ってきてくれるなんて優しい子。
そう言えば、髪の毛の色が変わっていたけど若白髪なのかな?
話は一切しなかったけど、ご飯は美味しく頂きました。
空腹には勝てないからしょうがないね。
パパの事はまだ飲み込めてない。
なんだよ、せっかく頑張って生きて来たって言うのに、パパは死んでママも無事とは言い難い後遺症。
ノルンとアイシャが無事だったのは嬉しい。
リーリャも良くアイシャを守り抜いた。
しかし、しかしだ。
ルーデウスのあの顔は何故か気に障る。
ルーデウスはいいよね。
聖級魔術師で無詠唱も扱える天才で、魔術以外の知識も豊富で、新天地でも苦無くやっていけるコミュニケーション能力だってある。
転移先でもきっと上手くやって来たのだろう。
言葉と常識が通じる場所で冒険者をやりながら楽しく過ごしていたに違いない。
そしてあまつさえ、こんな平穏な街でシルフ君ちゃんと呑気に結婚生活を楽しんでいたのだ。
私は毎日が必死だったし、少しでも気を抜けば死ぬ環境にいたにも関わらずだ。
それがどうしても気に障った。
知らないうちに叔母さんにされているし……。
H月O日
引きこもり4日目。
私の日常は変わらない。
毎日会いに来る家族のと会話を拒否して、シルフ君ちゃんやリーリャ、アイシャが持って来てくれるご飯を少しだけ食べる。
ノルンは学校が忙しいのか、初日以外合っていない。
合って話がしたいけど、今の私を見せたくないジレンマ。
ノルンはパパウロに良く懐いてたからどう思っているのか聞きたい。
U月T日
我慢の限界が来て、ルーデウスに思いの丈を全部ぶちまけた。
どうせ苦労の一つもしないで楽しい事ばかりで充実した毎日だったんでしょ?
何故ベガリット大陸を隈なく探してくれなかったの?
天才なんだからパパウロくらい守って欲しかった。
そんな感じの事を全部ぶちまけた。
その場にはルーデウスしかいなかったけど、多分幼女先生やシルフ君ちゃんも聞いてるはず。
夜になって家が静まった頃になってようやく落ち着いた。
うん、良く考えればルーデウスだって大変だったに違いない。
あんなにも大声出し非難するのは違ったはず。
今になって反省する。
うぅ……明日が怖いよ。
U月K日
今日は誰とも顔を合せなかった。
昨日のアレが響いてる。
反省したからと言って昨日の今日で態度を改めるのはなんか出来ない。
自分でもよく分からない意地だと思う。
あと、今更面と向かって話すのは恥ずかしい。
k月A日
ずっとベッドに引きこもっているのも退屈だ。
家族が静まった時…ルーデウスが学校に行き、シルフ君ちゃんもどこかに行き、ゼニスママとリーリャが庭に出た隙を見計らって部屋の中で運動を行った。
と言っても簡単な筋トレだけ。
最近サボってたせいか、直ぐに疲れてしまった。
アイシャは家の中に居た事に気が付いたのは今さっき。
誰も来ないって事は黙ってくれているのかな?
ノルンとアイシャではノルンを優先してしまっていたからか、私の中で少しだけ距離を測り兼ねている。
I月N日
仲良くしたいのが本心だけど、パパウロが居ないのはどうしても考えてしまう。
このわだかまりを解決するにはどうした良いのか……。
最近はずっと同じ事を考えている。
今更自分から部屋を出る勇気はない。
どうしたら良いのだろう。
O月Y日
もういっそ、この家から出て行って新天地でやり直すのもいいのではないか?と考えるようになった。
ベガリット大陸とは違ってここは普通に言葉が通じるし、意味の分からない常識も存在しない場所……だと思うから、剣一本持ってふらふらとするのも良いかもしれない。
冒険者になればお金には困らないだろうし、何ならその辺の魔物を狩って食料にもできる。
この辺りは雪が降るとはいえ、日中は灼熱地獄夜は極寒地獄と言うバカみたいな環境に比べたらどうってことない。
不安な点は、今でも見知らぬ人が近くにいると震えてしまうところだろう。
男性なんて軽いトラウマを受け付けられていると言っても。
それもこれも全部ベガリット大陸が悪い。
奴隷商が悪い。助けに来てくれなかったルーデウスが悪い。
大した頭も無くて魔術も剣術だってそこそこ出来る程度な、弱い私が悪い。
そうだ。これはただの八つ当たり。
行き場のない怒りや悲しみをルーデウスただ一人にぶつけているだけ。
私の双子の兄であり、私よりも沢山の事が出来る天才だからと言う理由だけでだ。
o月r日
今日は昨日の反動か、ずっと自己嫌悪に陥っていた。
思考がどんどんネガティブな方向へ方向へ行く。
ポジティブな事を考えようとしても、狭い(狭くはないが)部屋の中ではダメだ。
閉じ籠ったままだとダメだと考えるも、中々身体が動いてくれない。
明日、もしシルフ君ちゃんの時間があれば話をしてみようか……。
U月K日
遂に私の現状に痺れを切らした人が部屋に突撃してきた。
被っていたお布団を剥いで、ビンタして来る。
私はそれを啞然とした様子で受け止めていた。
だって……ゼニスママが私の頬を叩いたのだもの。