何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様) 作:カルデアの廃課金マスター
遅くなって申し訳ありません。FGOで死んでました。あと難産。
ルーデウス視点
「アイツだ。センパイなら大丈夫だと思うがよ、慎重に頼むぜ」
ギースの言葉を聞き前を向くと、目の前にはボロボロの布切れを纏った美女が居た。
俺が生まれた時のゼニスをほんの少し若くし、髪色をパウロにすれば目の前の娘だ。
美女だし、ボロボロの恰好で見る者が見れば唆る姿だ。
しかし、俺の息子は一ミリたりとも反応していないのは、血の繋がっている双子の妹だからだろうか?
馬鹿な考えをしつつ、俺は皆から一歩前に出ながら言葉を発する。
「武器を降ろしてオシィ。俺だよ。ルーデウスだ」
「…………」
俺の言葉に応えは無い。
いや、それどころか、今にでも斬りかかって来そうではないか?
というか、俺の魔眼には俺に向かって突進して来るオシィが見えた……と気づいた時には回避行動を取っていた。
「っシィィ」
「危なッ……待って、俺だって言ってるだろ」
鼻先を剣が掠めた気がする。
魔眼で先読みをしたってのに、この速度……別れた頃のエリスとも大差ない速度だ。
何がダメだったんだ?
俺ってそんなにも変わったのか?
だとしても、俺が成長したオシィを判別出来たように、向こうも俺を判別出来るべきだろう。
双子なのにつくづく似ていない。
っと、感傷に浸っている場合ではない。
オシィは二撃目に入ろうとしている。
どうする?
流石に無抵抗は無理だが、魔術を使って拘束できるのか?
というか、オシィの方こそ躊躇なさすぎだろう!?
と、俺が迷っていると、俺の後ろから水が飛んでオシィにぶつかった。
不意打ちだったにも関わらず、オシィは二撃目を防御に回して水球を叩き切る。
直撃は避けたものの、今の一撃でずぶ濡れだ。
「冷静になりましたか? オーシノル・グレイラット。ルーデウスは成長しましたからね。ですが、私なら別れた時から変わってないはずなので分かるはずです。……えぇ、成長してないですから」
淡々と冷静に告げたのはロキシーだった。
パニックってた俺と違って冷静にこの状況を打破してくれる。流石ロキシーだ。
オシィも冷静になったのか、それとも殆ど変っていないロキシーを見て安心したのか、呆然と立ち尽くしていた。
カシャンと手に持っていた剣が地面に転がる。
「ジョ先生……」
「えぇ。私です。何があったのかは分かりませんが、これまで良く頑張りました」
「先生、先生。わ、私ね」
ロキシーに抱きついて泣き出すオシィ。
その涙は安堵だったはずだ。
俺よりも低いとは言え、ロキシーからすればオシィはかなり成長したのだろう。
絵面はまるで大学生と中学生だが、雰囲気はまるで逆。
文字だけだと犯罪を匂わせるが、ボロボロの美女と可愛らしい少女だ。
中身の年齢だけ逆だが…。
ロキシーに至っては390歳オーバー。
いや、これ以上は止そう。
女性の年齢は頭の中で合っても考えてはダメだと、前世で読んだライトノベルではテンプレ展開だ。
現に、抱き合いを終えたロキシーがジト目でこちらを見ている。
そんな事よりもオシィだ。
ロキシーのお陰で落ち着けた今なら対話が可能になり、これなら連れて帰るのも容易だろう。
後は……。
未だにロキシーに抱きついたままのオシィに目を合わせる。
目元が腫れていて、俺を睨みつけてはいないが、虚ろな目をしている。
「……オシィ。俺の事は分かるよな」
「……。うん。 分からないはずがない。家族だもん」
だったら何故剣を振るって来たのか問いただしたいが、今はそんな事をしている場合じゃない。
とりあえず、俺とロキシーはギースとタルハンドさんをあたらめて紹介し、急いで森を出て砂漠を歩く。
砂漠を歩き、俺以外の全員に目隠しをして転移魔法陣がある遺跡を潜り抜けるとシャリーアはもう目の前だ。
オシィを遂に家まで連れて帰る事が出来た。
道中で無理でも動こうとする彼女を止めるのはとても大変だった。
長いサバイバル生活で弱っているにもかかわらず、俺とロキシー二人では中々引き留める事が難しい力を発揮したからだ。
万全の状態なら、俺よりも力が強いんじゃないだろうか?
男としてちょっとショックがあるが、それだけオシィも毎日必死扱いて鍛錬を積み生きてきたと言うことだろう。
一つ気になる事があるとすれな、異様にギースとタルハンドを避けている事だった。
ギースはまだ分かる。
怪しい見た目をしてるもんな。
しかし、タルハンドまで避けているのは何故だろうか?
俺とロキシーの口からも、二人が元パウロの冒険者パーティーのメンバーだと言う事は伝えてある。
本人もそれを受け止めてはいた。
信頼してない訳ではないはずだ。
もっと根本的な……拒否感?がある気がする。
長くも前回よりは短く感じる旅路は何事も無く終わりを迎えた。
前回は迷宮に潜ったり、パウロを亡くしたり、ロキシーと結婚したりとイベントが盛りだくさんだったが、今回は言って帰って来ただけだ。
オシィの状態が思ったよりも悪かったが、道中の進行に問題はない。
というわけで、何の問題も起きずに我が家へ到着だ。
久しぶりの対面は上手く行っている。
丁度家に帰って着ていたノルン(後で話を聞けば行き帰りの日程をアイシャが予想し、その日付近に近づくと毎日家に立ち寄っていたらしい)とアイシャと抱き合うオシィを見て、俺も達成感がようやく実感してきた。
ようやく、ようやく、これで家族全員が集まる事が出来た。
問題はゼニスの現状を知った時の反応だったが……。
無言で何かを耐える様子だけ見られた。
まだいい方だ。
塞ぎ込まれるよりはまだマシだ。
だが……パウロの事を伝えるのは少々、いやかなり伝えづらい。
オシィにとってのパウロは、俺にとって以上に父親だっただろう。
小さな時に何度もパウロの冒険者時代の話をせがんでいたのを覚えている。
大きくなってからは俺に習って剣の稽古をつけてもらい、俺以上に一緒にいた時間は長かったはずだ。
既にゼニスを目の当たりにしただけで、かなりショックを受けている様子だった。
「ルディ。パウロさんの事はもう伝えた?」
迷っている俺にシルフィが囁きかけてきた。
ちょうど俺も相談したい内容だったので助かる。
流石シルフィだ。
オシィの意識がゼニスを筆頭に他の家族に向ている間に、ロキシーも合流して三人で話し合う。
「いいや。移動中は他の事に手一杯だったからまだ伝えてない」
「えぇ。色々と衰弱していましたし、何でもかんでも独りでやろうとしていたので大変でした。ですが、伝えなかったのはむしろ良かったかもしれませんね」
「うん。ボクもそう思う。パウロさんの事は後日改めて伝えた方がオシィの為だと思うよ」
「同意見です。それならその方向性で話を誘導する事で」
と言う事で話は纏まった。
その日はオシィにゆっくりと休んでもらう為、我が家のお風呂で身体の汚れを落として貰い、シルフィとリーリャが張り切って作った食事を食べてベッドに入ってもらった。
オシィの部屋はひとまず、客室に備えていた部屋を与えた。
この家を買った当初は広々と感じたが、家族が全員揃うとこうも手狭に思うのか……。
また、誰かが出て行ったり増えたりするのだろうか。
そんなことを思う日だった。
翌日、オシィを家から連れ出してパウロの墓に連れて行き、転移迷宮で起こった事を全部話した。
色々と怒鳴られた。
次の日、オシィは部屋に引き籠った。
また、妹との接し方を間違えたらしい……。
シルフィエット視点
久しぶりに再開した私の友人は、ボロボロになった帰って来た。
ルディに似ていながらもゼニスさんの色を濃く受け継いだ彼女は色々と成長していて大きくなっていた。
でも、余程ひどい目に遭ってきたのか、片時も剣を手放さないで視線をキョロキョロと動かしていた。
ゼニスさんの話を聞いて、翌日にルディがパウロさんのお墓に連れていって帰って来たら部屋に閉じこもってしまった。
鍵なんか付けてない部屋だから、開けようと思えば開けられるけどルディはひとまず様子を見る事にしたみたい。
オシィが引き籠った二日目の朝。
昨日も朝から晩まで一歩も部屋から出てこなかったらしい。
ルディやリーリャさんがドア越しに話しかけたみたいだけど無反応。
一言も返事が返ってこなかったみたい。
ノルンちゃんの時は部屋に忍び込んで、向き合って思いをぶつけあったからどうにかなった節があるけど、今回は部屋に入る事すら出来ずに無反応だ。
返事だってしてくれないし、対面してないからどんな表情を浮かべているかも分からない。
「それじゃあ行ってくるよ」
「うん、……オシィの事は任せてよ。ボクだって色々と試してみるから」
「……あぁ、ありがとう。俺の方でもザノバとかクリフ先輩に相談してみるよ」
ルディはそう言ってトボトボと庭を歩いて行く。
余程ショックだったんだろう。
ノルンちゃんの時もそうだったけど、ルディは家族に何か起きた時に弱くなる。
妻として私が支えなくちゃと思う。
ここでロキシーさんがまだ家の中に居る事に気が付いた。
いつもならルディと一緒に大学まで向かうのに。
ロキシーさんは私とルディの会話が終わるのを待っていたらしく、直ぐに話しかけてきた。
「えーっとオシィの事ですが……」
「あ、はい」
「一昨日、ルディと一緒にパウロさんのお墓に行って帰って来て以降部屋から出てきて居ないのなら、多分お腹を空かせていると思います。大変な生活を何年も続けていたみたいなので、この家では美味しいものを沢山食べさせてあげたいと思ていました。ですので、お時間があればご飯を部屋に持って行ってください。流石に部屋まで持ってきた料理を拒む事はないでしょう」
「そっか……。丸一日以上何も食べてなかったら、いくら厳しい生活を続けてたオシィだってお腹が少くよね」
「はい、本当は私もお手伝いしたいのですが……」
「ううん。ロキシーさんはお仕事があるから、時間がある私に任せてください」
「そう言ってもらえると助かります。もちろん、家に帰った時は私にも仕事を振ってください。もっとも、不器用なのでお手伝い出来る事は限られているかもしれませんが」
「そんな事はないですよ。アイシャちゃんも手伝ってくれるとはいえ、どうしても手が届く範囲は限られていますから。少しでもありがたいです」
最近ルディのお嫁さんになったロキシーさんはとても良い人だ。
昔からルディが尊敬しているだけあって冒険者としても、魔術師としても、人としても十分過ぎる人。
初めはどうかと思ったけど、上手くやって行けそうで安心を覚える。
ルディとロキシーさんを見送った後はルーシーの様子を見ながら家事をする。
と言っても、アイシャちゃんが頑張ってくれるお陰でやることはほとんどない。
ゼニスさんの御世話もリーリャさんがほぼ付きっきりで側にいるので、私がやらなきゃいけない事は本当に少ない。
もっとも、私にとってもルディにとっても、恐らくこの家に住んでいる人全員にとっても一番重要なお仕事はルーシーのお世話なので、母親である私が一番責任を持ってやらなくちゃならない。
ルーシー、子供……。
ブエナ村で暮らしていた頃からすれば考えもしない遠い未来に私は今居る。
あの頃から沢山出来事が起きて、遂に転移事件にも終わりが見えてきた。
私のお父さんやお母さん、パウロさんの死は辛いけど、ようやく終わりだ。
後は……オシィが立ち直って前を向く事が出来れば……。
その為にも頑張ろう。
ルーシーをあやしつつ出来る事を手伝い、ルーシーが眠ったら赤ちゃん用のベッドに寝かせて私は台所に立った。
ルーシーが大人しくしている間にロキシーさんから頼まれた事をやってしまおう。
朝食の残りを使って調理していく。
オシィはサバイバルしていたと言うし、昨日は丸一日何も食べてないはず。
病人と同じく消化に優しい調理を施していく。
細かく切り刻んだり磨り潰したりして、とにかく食べやすさを意識して作った。
ルーシー用の食事の練習だと思えば大した苦労とも思わない。
ちょうど部屋に入ってきたゼニスさんとリーリャさんにルーシーの事を頼んで、お盆を持って二階に出来上がった料理を持って行った。
二階に上がってオシィが寝ているはずの部屋の前にたどり着く。
数年ぶりの再会からまらそんなに時間が経ってないのと、今の今まで暮らしていた環境の違い、後は閉じこもっているオシィがちゃんと反応してくれるかどうか。
一瞬だけ緊張で固まってしまったけど、直ぐに気合を入れ直してドアをノック。
「オシィ、ボクだけど部屋に入っても大丈夫?」
…………。
待っても返事は返ってこない。
部屋の中でも物音さえ聞こえない。
起きてないのかな?
ボクはもう一度ノックした。
「おはよう、朝ご飯を持ってきたよ。昨日は何も食べてないでしょ? 何か口に入れないとホントに倒れちゃうよ」
ここに来た主旨を伝える。
物音は一切聞こえない。
やはり寝ているのだろうか?と思ったけど、辛抱強く待つ事にした。
こう言う時は時間をかけて相手にする事が大事だとどこかの本で読んだ気がするし、ルディだってノルンちゃんが引き籠った時も部屋に入ってから長い時間黙っていたと聞いている。
時間が許す限り待って、せめて顔を見せてくれるまでは粘りたいな。
一向に開かない扉。
どの位経ったのかも分からない。
そんなに長い時間は経ってないと思う。
それでも下の残してきているルーシーの事を考えると、そろそろ戻らなくちゃ……、そう思い始めた時だった。
トス、タスタス。
部屋の中から物音が聞こえた。
眠っていたのか、私が離れたと思い込んで動き始めたのかわ分からないけど、確かに今ならオシィに声が届くはずだと思う。
もう一度ノック。
「ボクだよ。朝食を持って来たんだ。昨日は何も食べてないからお腹空いてるでしょ?……開けてくれると嬉しいな」
再び同じ内容を投げかける。
これでダメだったらご飯は置いてボクは下に戻ろう。
ボクがいなくなったら食べてくれるはずだ。
でもそれは、ルディはもちろんボクとも顔を合わせたくないって事で……。
そんな事を考えていると、キィィと音を立ててドアが開いた。
ハッと視線を前に戻すと、ボクの大好きな人と同じ目がドアの隙間から外を覗いている。
目が合うと同時にドアが閉められたけど、完全に閉められる前に足を挟んだ。
お行儀が悪いけど、お盆を持っている手を離す訳にはいかないんだ。
「ちょっと待って!? 少しだけ、少しだけで良いから……」
「…………分かった」
長引くとボクの足が持たなかった……。
アリエル様の護衛としてランニングなとで鍛えているはずなのに、物凄い力で押し返されそうだった。
これが砂漠と森で鍛えた脚の筋肉か……彼女、本当に衰弱状態??
などと呆けながらもオシィに貸し与えた部屋に入ってテーブルにお盆を置く。
折角顔を見せて部屋に入れてくれたから、このまま帰る訳にはいかない。
既にそれなりの時間が経っているかもしれないけど、ルーシーを見てくれているゼニスさんとリーリャさんに「もう少し時間をください」と心の中で謝っておく。
オシィはベッドにもぞもぞと戻っていく。
向こうから喋る気はなさそうだから、何でもいいから話題を作って喋らなきゃ……。
「でも良かったよ。もしかしたらベッドから出れないかもって思ってた。昨日は何も食べてないんでしょ?」
「……食料が無いのは慣れてるし。3日は断食出来るよ」
「断食って……」
街にすら滞在していなかったって話だから食料が無い日もあっただろうけど……断食が慣れるほどだったなんて。
やっぱり、オシィにはお腹いっぱい食べて欲しい。
そしてまたブエナ村で暮らしてた時のようにのびのびと暮らすんだ。
「あ、その剣。一昨日もずっと持っていたけど、家の中くらい壁に立て掛けていたら?」
そう言えば……と、昨日から気になってた事を聞いてみる。
何気ない疑問のつもりだった。
「……やだ」
ふるふると頭を横に降って拒絶を見せた。
剣を強く抱いて、何が起ころうと絶対に離さない強い意志が感じられる。
「…何時何が起こるか分からない。だから手放せない」
あぁ、彼女はそんな場所に居たんだ。
ボクも一度王宮で暗殺に会っているし、アスラ王都からシャリーアまでの道のりは気の抜けない旅立ったけど、アリエル様やルークを筆頭に頼りになる仲間が側にいた。
でもオシィは言葉の通じない大陸で独りきり。
どんな事が起きたのか話してくれないけど、武器を常に手放さずにいる様な出来事があったのは間違いない。
「もういい? ちゃんと食べるから出て行って」
「う、うん。 あ、毎日ご飯を届けるから、ちゃんと食べてよね」
今の質問で機嫌が悪くなったのか、オシィに部屋から追い出される。
その前に一つ、要望を伝えたが返事は無かった。
でも晩御飯、次の日の朝と部屋に持っていき部屋の外に置いていたら数時間後には空の食器が置かれているから、食べているには食べているのは安心した。
ルーデウス視点
「って事があったんだ」
オシィが引き籠った3日目。
魔法大学から家に帰るとシルフィからそのような報告を受けた。
まさか食べ物で釣る作戦が半分成功してしまうとは驚いた。
いや、俺も引き籠っていた時は親を呼びつけてご飯を部屋の外へ置かせていた事を考えれば、自主的にやっているシルフィの方がまだマシな状況と言える。
少し話しただけで部屋から追い出されたみたいだが、感情的になって怒鳴られるよりは断然良い。
「ひとまずご飯は食べてくれるみたいですね。これからどうしましょうか?」
「案外と時間が解決してくれるかもしれませんよ。食事を取ってくれる以上飢え死にする事はありませんし、家に居るなら身の危険もありません。疲れ切った生活にやっと届いた救援を受けて安全地帯に帰って来たらパウロさんの死にゼニスさんの状態を受け止めきれていないだけだと思います」
「うん、ボクも似た考えかな? でも一つだけ、ルディはちゃんとオシィと話さなきゃ駄目だよ。でなきゃ絶対にこの先上手くやっていないと思うよ」
「そうだよなぁ……。一先ずオシィが落ち着くのを待って、それから対話を試みてみるか」
そうだ。
ノルンの時だって当たって砕けろの精神で行ってみたら上手くいったじゃないか。
オシィはあの時のノルンよりもちょっと心が弱っているだけ。
時間が解決してくれる。
そんな風に思っていた。