蓬莱山輝夜に成りまして。   作:豊饒 ゆう

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蓬莱山輝夜に成りまして。1/2

 蓬莱山輝夜は美の化身として産まれ落ちた。

 赤子はおおよそが「猿のようだ」なんだと例えられるなかでいて、彼女は生まれ出でた瞬間に名前を美姫と名高い『輝夜』と定められた特別な存在だ。

 

 輝夜の両親は当初こそ様々な名前を考慮していたという。

 女の子なら、男の子なら、名前の一部には両親の一文字を。どこにでもある名付けの選定は結局、産まれてからゆっくり決めようと話はまとまった。しかして両親は輝夜が産まれた瞬間に、おとぎ話のかぐや姫から名前を決めたと後に語っている。

 

「あなたの顔を見たらね、『輝夜しかない』って思ったのよ」

「おまえの顔を見て『輝夜』以外にありえないと確信したんだ」

 

 竹取物語のかぐや姫。

 輝かしい美貌を持った月の姫君。

 それこそが彼女、蓬莱山輝夜の名の由来であった。

 

「まあ実際、今の私はかぐや姫なのよねぇ……二次元産ダケド」

 

 彼女は転生者であり、元は三十中半の男だ。

 前世に存在した東方Projectの登場人物。永遠と須臾の罪人。地上に隠れ住む月の姫。『蓬莱山輝夜』その人と成った、つまりは成り代わり転生者である。

 

 もっとも、『東方Project』や『蓬莱山輝夜』を輝夜自身はほぼ知らない。

 

 輝夜には産声を上げた瞬間から自意識が在った。

 自我の元は男であり、歳は三十代の中半。みっともなくも無様に孤独にむせび泣き、大好きな二次元美少女キャラクター『蓬莱山輝夜』に成りたいという空想に狂った。

 『東方Projectの蓬莱山輝夜』は竹取物語のかぐや姫当人であり、そうして最期は何かを願って死んだ先が今へ繋がる。

 

「こんな情報だけ識っていても……どうすればいいのよ」

 

 前世の有無を識っていても、輝夜に前世の記憶自体はない。

 在るのは大人として生きた自覚と自意識に頭脳。死の直前に抱いた強烈な想いと妄執の産物たるキャラクター情報。後は男としての心だけだ。

 

「永遠と須臾を操る程度の能力って……いや能力って」

 

 これは一種の呪いだと彼女は考えている。

 使えもしない空想上の登場人物『蓬莱山輝夜』の情報。あべこべな精神性。他を惹く異常な美貌。そして何よりも、今現在最も頭の痛い問題はただ一つ。

 

「かぐやちゃんなによんでるの?」

「竹取物語」

「たけとり~? とりさんのごほん~?」

「かぐや姫の物語よ」

「あ。それしってる! おかあさんによんでもらった!」

「そう。良かったわね、向こうでお友達と遊んできなさい」

「かぐやちゃんはいかないの?」

「私はこれを読んでいるから。終わったらね?」

「うん!」

 

 幼稚園児にして古文を読み解く美幼女。蓬莱山輝夜の中身は精神年齢四十に迫る大人であって、幼児と戯れて喜楽を抱く心は持ち合わせていないのだ。

 

 大人が幼児に交じって、幼児扱いを受けて過ごす。

 輝夜の現状は罰ゲームと大差なかった。

 

「輝夜ちゃ~ん? こっちでお友達と遊びましょう? ね?」

「……先生。私は本が読みたいです」

「ん~、でも今はお外で遊ぶ時間だから。ね?」

「…………わかりました」

 

 先生の目は笑っていなかった。

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