蓬莱山輝夜に成りまして。   作:豊饒 ゆう

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蓬莱山輝夜に成りまして。2/2

 西暦2005年7月7日。

 時刻は学徒の解き放たれた放課後。

 渋谷三中の近隣に位置する公園で闘いの幕は上がった。

 数十人から成る人集りの中心。半円状の石階段を客席とした舞台上で、金髪をリーゼントにした少年は血塗れとなってなお、闘志を燃やして拳を構え続けていた。

 

 顔は腫れ上がり原型を留めず。

 制服は血と汗に汚れ、泥で染まってボロボロだ。

 すでに勝者と敗者は決していた。

 誰が見ても明らかで、往生際が悪いと野次も飛ぶ。

 野次は広がり続けて、気づけば処刑コールになっていた。

 

「もういい! やめろタケミチ!」

「十分気合見せたよ! もう引けよ!」

「死んじまうぞ!」

 

 怒号怒声に交じった制止の言葉は少年の友人であろう。

 周囲の音で搔き消されない様に必死な声は遠く響いていた。

 

 ここが限界だ。

 

 倒れて震える少年を見て、誰もがそう思った筈だ。

 ようやく起き上がっても足元は覚束ず。

 すぐに倒れてしまう。

 

 場に嘲笑と嘲りの言葉が飛び交った。

 それでも、

 

「引けねぇんだよ! 引けねぇ理由があるんだよ!」

 

 少年は立った。

 立っち上がって、涙を零して。

 力強く、言って魅せた。

 

「東京卍會……キヨマサ、勝つにはオレを殺すしかねーぞ」

 

 絶対に負けないと、少年は笑って嘯く。

 敗者だ。

 言ったのは、逆立ちしたって勝てやしない敗者である。

 肩で息をしていて、立っていることすらままならない少年。涙と汗と血が混じって出来た雫を地面に垂らす、いつ倒れてもおかしくない敗者の言葉であった。

 

 筈だ。

 

 呑まれていた。

 数十人の喧嘩馴れした不良たちが、喧嘩の素人も甚だしい少年の放つ覚悟に呑み込まれて、騒然としていた場は、何時しか沈黙によって押し包まれていた。

 

「執念……あれは、だれ……?」

 

 三人は遠目に喧嘩賭博の推移を見守っていた。

 始まった時点で、少年が乱入したのを眺めていた。

 

 蓬莱山輝夜。

 佐野万次郎。

 龍宮寺堅。

 

 輝夜はゲームの片手間に耳を立てていた。

 万次郎は退屈そうに輝夜のゲーム画面を、どら焼きを食べながら覗き込んで呆としている。

 真剣まではいかなくとも、目を離さずに見ていたのは堅だけだ。

 三人が揃えば何時も通りの役割があって、だから輝夜は誰に訊くでもない問を投げていた。

 考えるのは、情報収集は、頭を使うのは彼女の役なのだ。

 

「知らね」

 

 無意味な問に応えたのは万次郎であった。

 素気ない返答だ。

 彼と付き合いのない者が聞けば、興味すら抱いていないと思うであろう言葉はしかしまったくの逆である。

 万次郎は見つめていた。

 真黒な瞳で静かに、唇を舌で舐めて、見つめていた。

 

「執念ってのはなんに対してだ……? あれは普通じゃねえ」

 

 堅もまた見つめていた。

 最初と違って真剣に、少年の覚悟に向き合っていた。

 その顔は何処か熱に浮かされていて楽しげだ。

 

「命」

 

 輝夜は迷うことなく堅の問に答えを出す。

 識っているからだ。

 生死の迫った状態で、命の懸かった状況で噴出するヒトの情念を、彼女は誰よりも身を以て識っているからこそ、答えられてしまうのであった。

 輝夜の両隣で、万次郎と堅の息呑む音が嫌に響く。

 

「自分の(モノ)か、他人の(モノ)か……いえ、きっと後者ね」

 

 己の命に執着する者が、己の死を懸ける訳がない。

 ならば、輝夜には解った。

 勝てない闘いへ挑む少年が、本気で命を懸けたのだ。

 そうまでして執着する何かが少年には在ると知ってしまい、執念の行き着いた先に産まれ落ちて苦しむ輝夜は、少年の行き着く先へ非常に興味が湧きだす。

 

「あ? おい輝夜!」

「おお、輝夜が珍しく自分から動いたよケンチン!」

 

 懐に愛機のP◯Pを仕舞い込んだ輝夜は一直線に歩いた。

 その合間にも喧嘩賭博の舞台は進行を続けてゆく。

 

「バット持ってこい! 上等だ殺してやるよ」

「オイ、キヨマサ」

 

 彼女の耳朶を不快極まる言葉が打てば、瞬時に後方から耳馴れた男声が制止を促していた。

 低く通るドスの効いた声に、全員の視線が歩む三人へと向かう。

 

「客が引いてんぞー、ムキになってんじゃねーよ主催がよー」

「嘘だろ!? あれって」

 

 周囲の反応は激的であった。

 

「東京卍會総長『無敵のマイキー』だ……」

「東京卍會副総長のドラケンも……」

「おいおいありゃ……もしかして」

「東京卍會参謀副総長……『戦姫の輝夜姫』だ」

 

 特に目を惹くのは、否応なしに先頭の輝夜である。

 先頭にいるからではない。

 蓬莱山輝夜だから全てを惹いて止まないのだ。

 

「あ、あ、あの、輝夜さん! 俺、三番隊で特攻やっ」

「気安く名前を呼ばないで。不快よ」

 

 赤石と名乗る少年の言葉を最後まで聞かず。

 少年の居る進路上に立つ、堅いわくキヨマサを前に。

 

「邪魔」

 

 一瞥すらくれずに、一声で退けた輝夜はたどり着く。

 酷く傷つき、痛ましい少年の前へ。

 そして、

 

「あなた何? 本当に中学生? 実は死んだ転生者とか?」

 

 少年の顔が赤から青に変わった。














【蓬莱山輝夜】
前世の自分の『蓬莱山輝夜』への想いに振り回される転生者。
最近の悩みは風呂場で鏡を見て自分に欲情してしまう私。
それとは別に女の子は大好きで、美貌に惹かれて勝手に寄って来る女の子たちをサラッと口説いていたりする。エマは最初の犠牲者とも言ってもいい。
新たな扉を開いた子は数知れず。罪深い絶世の美少女。
輝「男? 何のことかしら?」

東京卍會での肩書は参謀副総長。
地位はドラケンと変わらないが命令は基本しない。
超の付くゲーマーで華奢なただの絶世の美少女だがしかし。
こちらも同じく超の付く武闘派で実は負けなし。


【佐野万次郎】
言わずと知れた無敵のマイキー。
輝夜からの扱いが酷いものの、それは親しい証拠でもある。
輝夜から同性愛者宣言されているが気にせずべったり。


【龍宮寺堅】
みんな大好きドラケン。
輝夜のお陰でエマと付き合うことになって感謝はしてる。
けど、なんか寝取られそうですごく複雑。
マイキー同様に輝夜の同性愛趣向を容認している。
ド「あれ、やっぱエマ狙われてねーか……?」
輝「いまさら?」


【佐野エマ】
輝夜の妹分で大親友でもありドラケンと恋人の勝者。
死ぬ未来なんて輝夜がいれば多分平気。
頭が良くて喧嘩も強い過激に甘やかしにくる輝夜にぞっこん。
同性愛の気はないものの、輝夜ならいいかなと思ってる。
もちろん輝夜の同性愛思考を知っている。


【えーりん】
蓬莱山邸に住み込む蓬莱山一族の主治医たる美女。
輝夜の専属家庭教師でもあり、そして母のように、姉のように、親友のように接している仲良しさん。


【少年】
輝夜の美貌に度肝を抜かれて、輝夜の言葉に心臓をきゅっとされた少年。彼にとって輝夜はなんかやばいかも知れないと思う相手。できれば距離を取りたいけど残念。目をつけられた模様。


続きました。
感想を頂いたので、書くしかないと書きなぐりました。
感想ありがとうございます。

息抜きだったので設定とか穴だらけですが、なんとなく書いていて心の在り方を中心に……な感じで今回は書いてみました。
大好きな輝夜になってしまった男の葛藤?
みたいな。

それでは、また。
機会があれば何処かで。
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