蓬莱山輝夜に成りまして。   作:豊饒 ゆう

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蓬莱山輝夜に成りまして。3/1

 西暦2005年7月8日。

 日差しの心地いい、穏やかな平日の教室。

 教師の唱える謎の呪文を背景音楽に、花垣武道は己の行く末を考えていた。

 清水将貴ことキヨマサに反逆した昨日。自身の命を賭した闘いで、一応の最低目標である奴隷解放という勝利を勝ち取れたのは良いものの。中ボスないし小ボスのキヨマサの奴隷から、ラスボスのペットに昇格したとも言えるのが彼の現状だ。

 

 しかし、それだけであれば問題はなかった。

 

 もとよりタケミチはマイキーこと佐野万次郎か、あるいは稀咲鉄太のどちらか一方と接触する事を目標に行動している。

 それは西暦2017年の現代軸で、協力者の橘直人に「絶対に遂行してください!」と言われた事柄だ。

 つまり目的は順調に果たされていた。

 にもかかわらず、彼が頭を抱える要因は一つ。

 

『ねえ、あなた本当に中学生? 転生してるとか、実は中身が違うとか……そういうの、あるんじゃないかしら?』

 

 蓬莱山輝夜の存在だ。

 颯爽と賭博場に現れ、タケミチをある意味で救った張本人。しかしてその後、執拗にタケミチの()()を問いただしてきた、この世の者とは思えない絶世の美少女。

 彼女の尋問は、万次郎がキヨマサを「誰だオマエ」と叩き潰し、ドラケンこと龍宮寺堅とふたりで無理やりに引きずって帰るまで執り行われていた。

 その時の蓬莱山輝夜の顔を、表情を、瞳を、威圧を、タケミチは忘れられない。

 

(怖えよ! なんなんだよあの美少女!? 圧がキヨマサの比じゃなかったよ! 今ならキヨマサに殺すぞ宣言されても鼻で笑えちゃうよオレ!?)

 

 美人は怒ると怖いと言うが、輝夜のそれは一種の狂気を孕む感情だ。

 なればこそ、存在そのものが彼女の狂気の核心部に触れてしまったタケミチは、彼女の誰にも明かさぬ知られざる本質的部分を直に体感する羽目となっていた。

 死の絡んだ感情が、生半可な訳がない。

 それを、タケミチは理不尽に自覚できないままに浴びた。

 

(だいたいマイキー君の側にあんなヤバい美少女いるとか聞いてねえぞナオト!? 蓬莱山輝夜とか聞いたことねえよ! …………あれ?)

 

 不意に、タケミチの思考は止まった。

 自身の心内でまくし立てた言葉を繰り返し、そうして至極簡単な疑問に衝突する。

 

(……あれ? オレ、蓬莱山輝夜なんて名前聞いたことねえぞ?)

 

 今現在の花垣武道は、12年後の未来から来ている。

 そのタケミチが、まるで存在を知らなかった。

 加えて、昨日は輝夜の尋問もあり半ば放心状態で帰宅した彼はふと思い出す。

 

(アイツらは、アッくんたちはなんて言ってた?)

 

 賭博場に人の気配が消えた後。穏やかな公園に戻ったその場所で、放心状態のタケミチを除く溝中五人衆は各々勝手に盛り上がりをみせ、果てにはタケミチに向かって酷く面倒な絡みをしていた。

 

『にしてもお前えええ! タケミチィィ! なんでお前が輝夜姫とあんな近くで会話してんだぁぁぁ! クソぉぉぉぉぉ! 羨ましいぃぃぃぃ!』

『許さねえ……おれはお前を許さねえぞ!? あの輝夜姫と吐息の掛かる距離で……なあ、どんな匂いだったんだ? どんな匂いだったんだよぉぉぉぉ!?』

『ははは、あーまあ、ね……助けてくれたのはすげえ嬉しいけど……それはそれとして抜け駆けはよくないよな。輝夜姫と知り合いだったとか……言わないよな?』

『タケミチ…………おまえ、()()()()()()()()()()を敵に回したんじゃねえか?』

「……ウンソウダネ」

 

 記憶を辿ったタケミチの不確かな疑問は確信へ変わる。

 

(ウンソウダネとか聞き流してる場合じゃねえよオレ! オレ以外みんな知ってんじゃん! え、なんで!? つか関東圏の輝夜姫親衛隊ってなにアッくん!? 関東圏!? 範囲広くね!?)

 

 教室の四方から百面相を披露するタケミチへ飛ぶ視線にしかし彼は気づかない。

 彼はそれどころではないのだ。

 ラスボス万次郎に友達と書いてペットと読む「ダチ」宣言を受け、隠しボスかはたまた裏ボスの蓬莱山輝夜になぜか異様な興味関心を持たれてしまった哀れな一般人。それが今の彼である。

 

(いやいや落ち着けオレ。一旦冷静に……けどまじで蓬莱山輝夜なんて知らねえぞ。あんな美人でアッくん曰く関東圏に親衛隊がいる存在……中学時代に溝中五人衆でそんな名前出たことねえ…………よな?)

 

 思考に暮れるタケミチはすでに周囲へ意識を向けていなかった。

 教師の念仏すらも耳には入らず、東京卍會の事すら捨て置き、ただただ蓬莱山輝夜という美少女について頭を回す。

 ゆえに気づけない。

 自身に向けられていた奇異なる物を見る視線が、教室の外から響く不穏な騒動に向かった事実を認識し損ねていた。

 

「お、いたいた。遊ぼうよタケミっち!」

「え、あの授業……」

「おー、輝夜ぁ! タケミっちいたぞー」

 

 教室前方のドアを躊躇なく開き、威風堂々と入室したのは佐野万次郎。彼は教師の言葉も何のその、聞く耳持たずにタケミチの下へ向かう。

 続く龍宮寺堅は入り口で立ち止まり、背後を向いて呼び掛ける。

 その呼び掛けに反応したのはタケミチ、万次郎、堅を除外した全員であった。

 

「え……いま輝夜って言った?」

「あの人たちって東卍のトップの人、だよね……? じゃあ輝夜って」

「あれマイキーくんとドラケンくん……だよな? じゃあ輝夜ってやっぱ」

「うそだろまじで!? 来てんの!? ここにあの人が!?」

「うそうそうそやばいやばいやばいどうしよう!? 今化粧してない!」

「し、心臓が痛え……ど、どうしよこれ、さ、さ、ささいん」

「そ、そうだサインだ色紙! 誰か色紙よこせよ!?」

「こ、これ! ノートに」

「ざけんなてめぇ! 輝夜姫にノートなんかにサインさせたらぶっ殺すぞ!」

「写真! 写真だよ! 姫は女子なら一緒に写真撮ってくれるって聞いたよ!」

「な、なあ? てかいまさ、マイキーくん……タケミっちって、花垣のこと?」

 

 阿鼻叫喚の様相は件の教室だけには留まらない。

 今は授業中であり、不良が所属していようとも学校は学校だ。

 大半の生徒は静かに授業を受けており、そんな中で声の響く廊下へ向け、ドスの効いた大声で呼び掛ければどうなるかは考えるべくもない。

 

「きゃあああああああああ! 輝夜姫! 生輝夜姫ぇぇぇぇ!」

「うそ本物!? 本物よ!? ありえないんだけど!?」

「ホントに人類? あれ人類? わたしたちあの御方と同じ人類なの?」

「髪が輝いてない? なんで!? てか顔ちっさ肌白スタイルエゲツな!」

「やべえ……おれ見ただけで、勃っち」

「おいバカ、女どもに殺されんぞ!?」

「それ以上はやめとけ! 気持ちは分かるがクラスの女子全員にリンチされんぞ」

 

 平穏な日常は唐突に崩れ去った。

 しかし、己の世界で思考に耽るタケミチは気づけない。

 いまだかつてないほどの集中力を発揮する彼に、あれほど騒ぎ立てていた教室内の面々は今やハラハラとタケミチを見つめていた。

 今現在、教室の状況的にはヤバい暴走族の総長からの呼び掛けを、クラスメイトの不良がガン無視を決め込んでいる構図だ。

 

「タケミっち! おーい? ねえ無視? 訊いてんだけど?」

(オレの知ってる過去と違う? ここは……過去じゃない、とか?)

 

 すぐ隣へ立つ万次郎に気づかず、タケミチは机で頭を抱えた。

 

(いやいやいやまじで勘弁してくれよ!? 過去じゃなきゃ何処だよ! でも蓬莱山輝夜なんて知らねえし…………ああもう訳わかんねえよぉぉぉぉ)

「こいつなにしてんの……?」

 

 タケミチを不思議な生物を観察するかのごとく見下ろす万次郎。そんな彼に気づかず、奇怪な動きで頭を悩ませるタケミチ。教室外の騒動を他所に、教室内には奇妙極まる沈黙が続く。

 そんな二人を入り口から見つめていた堅は、終に進展しない状況へ痺れを切らせ、動き出そうとしたところで体勢を崩された。

 

「うお!? オイいきなり、まあいいけどよ……」

「ちょっと万次郎、いつまで待たせるつもりなの? 見つかったならさっさと行くわよ。もうここ鬱陶しくてかなわないわ」

 

 下手人は当然輝夜だ。

 教室の入口を塞ぐ形で立っていた堅を押し退け、不機嫌具合を隠そうともしない彼女は堅以上に痺れを切らせていた。否。より正確には、輝夜は我慢のベクトルで痺れを切らしたのではなく、怒りのベクトルでキレていた。

 

 その怒りに中てられた教室内が凍りつく。先までは「サインだ」「写真だ」と騒いでいた全員が、いまや息を殺して微動だにしない。したくとも、出来ないのだ。

 それほどまでに彼女の発するオーラは強く、鮮烈であった。

 

 都内ないし関東圏で『蓬莱山輝夜』の名は、それこそ赤子も知るほどの知名度を誇る。なればこそ、彼女に関して様々な情報が大衆へと伝わっていた。

 美貌。頭脳。運動神経。学業成績。趣味趣向。生家の財力に権力。それらすべてがたとえ噂でしかなくとも、蓬莱山輝夜を語るにあたっては、万人が常識的な基本情報として把握している。

 ゆえに当然、輝夜が『東京卍會』の一員にして、あまつさえ参謀副総長であり、不良少女を地でゆくクイーン・オブ・アウトローである事も周知されているのだがしかし。大半の人間はその意味をただしく理解できていない。彼ら彼女らの多くは輝夜の美貌に重きを置き、不良部分に関しては所詮が噂と軽んじていた。

 その結果。輝夜の放つ覇気に中てられた者たちは、おおよそが今現在の教室にいる生徒たちと同じような状態へと陥るのだ。

 

 閑話休題。

 

「ん。けどタケミっちがさー」

 

 輝夜の怒気に無反応な万次郎は、眉尻を下げてタケミチを指差す。

 其処には未だ百面相を晒す珍妙な不審者がひとりいた。

 輝夜の不機嫌を隠さぬ美貌が、呆れの美貌に変わる。

 

「…………アタマでもひっ叩けばいいんじゃないかしら」

「おっけー」

 

 万次郎の軽い返答に続いた打撃音。それは彼の言葉と動作に反して、ひどく重々しい一撃であった。

 結果。

 

「ふべしゃぁ!?」

 

 頭頂部を鋼の拳に打ち抜かれ、机にヘッドバットをかます形と相成ったタケミチは意識を容易く手放した。

 万次郎は無視され続けたことが気に触っていたらしい。












みなさま、
感想評価ありがとうございます。
とても嬉しく思い、また励みになっております。

以外と需要があったようなので、Pixivにて書きかけの物を先にこちらへ投稿することにしました。
ハーメルンでは『東京卍リベンジャーズ』の二次作品がほぼないので、てっきり「全く相手にされないのでは……?」と思っていたので驚いております。
逆にPixivではそれなりの数の二次作品があり、向こうに落としてみたのですが……。まぁ読者層というやつですかね。

この作品がランキングで目立てば東リベ二次増えますかね?
増えたら良いなぁ……。

今後は当作品もハーメルンをメインに書こうか考えております。

それではみなさま、またいずれお会いしましょう。
感想評価のほどを今後とも宜しくお願いいたします。
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