もしもゲッターロボ號のシュワルツコフとネオゲッターロボのジャックが同期だったら、そして二人が久しぶりにバーに行ったら。そんな話。
ジャックの性格は東映版とネオゲ本編と小説版ネオゲのちゃんぽん。
カメオに戦闘のプロ入り。

※pixivに投稿していたのを再投稿してます。

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マッドドッグ&カウボーイ

 シュワルツとジャックはパイロット養成機関時代からの付き合いだ。シュワルツ自身はジャックとの関係を『腐れ縁』と称するが、同期で且つエースの座を巡ってスコアを争い、技量を高め合う二人の関係は最大の好敵手(ライバル)であり最高の僚友(フェロー)だと誰の目にも明らかだった。

 そんな二人も今では陸軍と空軍に道を分かち、滅多に会うことが出来なくなってしまった。

 

 ネオンの輝く街のはずれ。陸空合同訓練で陸軍基地にやってきたジャックがシュワルツとの再会を祝し「久々に飲みに行かないか?」と落ち着いた雰囲気のショットバーへやってきた。

 なのだが、シュワルツは終始苛立っていた。

「小洒落たバーで飲む酒ってのは気分が乗らねえ。ケバいクソ女相手に酒のうんちくくっちゃべって悦んでるような、媚びへつらうプッシー(女々しい奴)の溜まり場だ」

 バーカウンターで頬杖をつきながらそこかしこで愛をかたる『女々しい奴ら』へ癇を立てるシュワルツに、ジャックは独特の南部訛りで「Same old, same old(相変わらずだな).」と苦笑いをした。

 二人は養成機関を卒業後、最初こそ配属された先は空軍だった。しかし、二人は次期アメリカスーパーロボット開発プロジェクトに選出され、シュワルツは空軍から陸軍へ転属しステルバーを、ジャックは空軍所轄のテキサスマックを預かることとなった。

 二人が酒を共に飲むのは優に5年ぶりとなる。

「シュワルツのPrejudice(偏見)は今に始まった事じゃないが、また随分とExtreme(極端)じゃないか?」

「ふん、めんどくせえ軍の付き合いでナイトクラブだピアノバーだ歓楽街だのを見せられたからな。寄ってくるのは金のニオイに釣られたケーキ顔(厚化粧)メス犬(ビッチ)共だ。こういった場所に何一つ良い記憶が無え」

 この荒々しく苛烈な性格の男は、表面上とっつきにくいが性質は真逆で謹厳実直だ。それだけに、抱えている理想は高い。男とは女とはこうあるべきだという伝統形式な理想が、抜群に強かった。

『いいやつなんだがな……』ジャックはため息をもらし、気を取り直して被っていたトレードマークのカウボーイハットを指先でピンと弾いた。

「そんなに女っ気を気にするならWestern styleのBarのほうが良かったかい。あそこはLively(活気)があってNice guys(気の良い奴ら)しかいないぜ」

「時代錯誤の馬鹿共ばかりでうぜえんだよ」視線をカウボーイハットに向けて「おめえの事だ」と威嚇する。

 その何でも噛み付くチワワ、もとい狂犬ぶりにジャックはヤレヤレと大げさにジェスチャーを返して見せた。

「あのSmokyな雰囲気と年代を感じるBar counterがいいんじゃないか。Difficult guy(気難しい奴)だな、シュワルツ。Hey,Bartender.彼にCowboyを一つ」

「あん?カウボーイだァ?」

 シュワルツは怪訝な顔を隠さない。ジャックの格好は空軍の軍服にカウボーイハットを被っているだけでなく、年季の入った歯車型の スパー(拍車)、軍仕様でないクラシックなチャップスを履いていた。これはどう見ても『カウボーイ』を意識した衣装だ。

 しかしながらこのカウボーイ男、実は養成機関の首席卒業者なのだ。世の中思い通りにならない事が多いのは、こういう突飛な天才が凡人の選択肢を奪っているからなんだとシュワルツの機嫌は一層に悪くなる。

 そんなカウボーイ男が何やらカクテルらしき『カウボーイ』の名を頼むなど、悪い冗談でしかなかった。

「Wait a minute.俺はゲストに後悔させたことがないのが自慢でね。今頼んだのはシュワルツにRecommended(オススメ)のカクテルさ。Oops、そんな胡散臭いものを見たようなひねくれ顔をしないでくれ。俺はお前を"せっかくの友人の奢りに手をつけないような礼儀のないHeartless(冷血漢)"とは思ってないんだ」

 精悍だが少し意地の悪い笑みを浮かべる腐れ縁に、シュワルツは頬杖をついていた片手をピストルの形にして頭を打つ『死んだ方がましなくらい疲れた』の仕草をした。

「好き勝手言いやがって。ったく、俺はジャックダニエルをそんまま飲んどきゃ満足な安い男でいいんだよ」

 半ばヤケになって吐き捨てたシュワルツの言葉に、ジャックの人好きのする笑みが一転して剣呑なものになった。

 快晴のテキサスの空を思わせる天色の瞳が鈍く光り、軍人のシリアスな目つきに変わる。

 そもそもこの気の荒い僚友をバーに連れてきたのは、その安い飲み方を指摘するためだった。

 

「その飲み方が祟ったんだシュワルツ。ジョンから聞いたぞ、最近意識を失うくらい飲んでいるんだってな。ジャックダニエルはお前が思うほど安くない、歴史の長い良い酒なんだ。飲み方は覚えたほうがいい」

 ジョンとは現在シュワルツとバディを組むジョン・ランバート陸軍中尉というベテランパイロットの事だ。彼も元は空軍に所属し、その頃はジャックとバディを組んでいたため今でも交流が続いていた。

 そのランバート中尉からエアメールで相談があった。シュワルツが最近酒を飲みすぎてブラックアウトする事が多い、と。きっかけをなんとか聞き出してみれば悪夢を見るようになったのが始まりだと言う。シュワルツの友人としての意見を聞きたい、それが事の発端だった。

 ならば手っ取り早くこちらから出向くとジャックは合同訓練に捻り込み、訓練にかこつけてシュワルツに会いに来たのだ。

 どんなに軍人としての教育をされても、人である限り命を奪い失う恐怖とトラウマはついて回る。死の恐怖から逃避するため、酒に走り身持ちを崩す軍人も少なくない。

―シュワルツに限ってとは思うが、神経質な偏見持ちがどう転ぶかなんて分からんからな。酒で友をなくすなど、これ程虚無なことはない。

「ランバートが?アイツ余計なこと言いやがって!!」

 まるで罠に嵌められたとばかりにシュワルツは激昂した。周りの客など気にも留めず、その溢れだす怒りをあらわにする。

 激情に任せカウンターを叩きつける拳を作る寸前、今まで気配のなかったバーテンダーがさりげ無く『カウボーイ』を差し出した。

 バーテンダーは場の雰囲気を読むプロだ。そしてこのバーはこのような荒っぽい客にも対応できると有名で、だからこそジャックはここを選んだ。なんでもこの口数少ないバーテンダーは昔戦地を渡り歩いたその道のプロフェッショナル、という噂だ。

 彼はシュワルツの怒りを見越していた。

「どうぞ……」

 バーテンダーの一切隙のない所作が「こいつに逆らうな」とシュワルツの戦士としての経験が怒りを抑えつけた。振り上げていた手が、そのままカクテルグラスに滑る。

「お、おう……なんだこれは?牛乳割りかよ!」

 そのカクテルは乳白色にほんの少しバーボンの赤みがかったブラウンを混ぜた色、もっと雑に言えば薄いコーヒー牛乳の見た目をしていた。

「Westernのお約束はWestern saloonで出される安いバーボンとミルクだろ?なんともFancyな(小洒落た)いい名前だよ、HAHAHA!」

「んな乳臭そうなもん飲ませる気かジャック!」

 怒声を極力抑え、しかし今にも掴みかかりそうな勢いで怒りに燃え上がる双眸をカウボーイ男に向け、睨みつける。そんな怒火をカウボーイ男は飄々と涼しい顔で薄く笑う。間違いなく、狂犬を挑発していた。

「騙されたと思って飲んでみろ。Oh、他の客人もいるんだ。あまり大きな声を出さないでくれよ。しつけがなってないMr.Flying Ace?」

「ああん!?味もゲテモノだったらコレをてめえの顔にブッ掛けてやるからな、レッドネックのカウボーイ野郎が!」

 グラスに揺れる混ぜもののアルコールを、ショットをあおるように胃に流す。

 決して、味わう飲み方ではなかった。が、舌に残るバーボン特有のまろやかな甘さ、微かに鼻の奥に残る軽やかで年代を感じさせる樽の香り、それを包むように牛乳由来のフレッシュでしっとりとした甘みがベースの芳香を壊すことなく調和した残り香を置いていった。

「……うまいな」

 頭にかけ巡った御託は面白くない。もっと単純で正直な感想を言葉として漏らしてしまうくらいの、そういう美味いカクテルだった。

「このカクテルにはベースバーボンにジャックダニエルが使われているそうだ。な?飲み方は覚えたほうがいいだろう?」

「甘い酒は女の飲みもんだと思ったが……くそ、なかなかいいな。素直に胃に流し込んでやるよ」

 怒りより、感動が上回った。

 今度はゆっくりと口にする。久々の味わう為の酒に、忘れかけていた酒の楽しみ方を思い出す。

 そう、楽しみを無くした忘れる為だけのアルコールほど、虚無なものは無い。それはシュワルツ自身が一番に知っていた。

 シュワルツは、父親が経営する自動車部品会社が日本の自動車産業にシェアを奪われた時、経営を圧迫され傾いた会社に心を痛め、情けないほど酒に溺れた男を見た。

―自動車産業の栄光が潰されたデトロイトはドラッグとアルコールに逃避する者がそこらにいた。死んだような目の奴らが放つ臭いは、腐りきった肉の臭いがした。あれは、死の臭いだ。空気のように当たり前にあった栄光は、黄色い肌のニヤけ面共に尽く奪われたんだ。

 地上の地獄、栄光を失ったことを信じられない中毒者(ゾンビ)の徘徊する街。それが、シュワルツの今の故郷、デトロイト。

 ただの安酒ではなくジャックダニエルを飲んでいたのも、シュワルツの中にあるギリギリの『酒の楽しみ』を忘れないためだった。

―俺は親父を尊敬していた。頼もしい男、家族を守る男、自分の仕事に誇りを持つ親父の背中はどんなものより大きく、理想のアメリカ人然としていた。それが、今じゃ枯れ枝のようにやせ細り、定期的にカウンセリングセンターに通わなければならないほど弱りきってしまった。そして俺も……親父の息子だった。酒がなければ、戦友の死を受け入れられない事もあった。俺はジャックのように、強くなりきれない。本当に怒りを覚えるのは……本当は……。

 

「それと、シュワルツの大嫌いなうんちくを教えよう。カクテルには添えのWordがあるんだ。ウィスキーフロートは楽しい関係、ジントニックは強い意志、ブラディメアリーは断固として勝つ。そしてカウボーイは……」

 ニヤリと笑って白い歯を見せながら、思案に耽けて少しナーバスな揶揄い甲斐のある友に茶目っ気たっぷりに耳元で囁いた。

「今宵もあなたを想う、だ。一途でRomanticだろう、My Sweet Honey?」「ッンゴっふ?!」

 口に含んでいたほろ甘いカクテルが思いっきり気管に入り、激しくむせ返った。男でも心地良いと思ってしまう甘ったるい低音が、シュワルツの耳の中でグワングワンと反響する。それと同時に思ってもない唐突な言葉に悪寒が走り、普段の厳つい強面がグンニャリと間が抜けて崩れた表情になってしまっていた。

 陸軍少佐形無しのアホ面に、Air Force Major(空軍少佐)は膝を叩いて脇腹がひきつってしまうほど大笑いした。こういったやり取りは実に養成学校時代ぶりで、ジャックは過去に『田舎者のレッドネック』と南部アメリカを侮辱していたシュワルツへ、様々なイタズラを幾度となく仕掛けていたりする。

 その数々のイタズラと圧倒的なパイロットとしての実力にシュワルツは『わからせ』られた過去があった。思い出すだけでも目を覆いたくなるほど忌々しく、屈辱的な記憶は5年以上のブランクを空けてめでたく追加されてしまった。

「ォゲーッホゲッホゲホッ!!お、おおっ、お前ェー!!」

「好きな女性ができたら、是非このカウボーイをご馳走してやれよ!お前はPussy(子猫ちゃん)が嫌いだから、その逆のFight dog(闘犬)のような強くて勇気のある女性に墜ちるに違いない!HAHAHAHA!」

「このっ……おめえのジョークはホント笑えねえ!おかげで考え事がフッ飛んじまった!!あーこのド畜生が!飲み直しだッ!!」

 落ち着いたバーには似つかわしくない大の男の笑い声と焦りと怒りの声が、店内に響く。周りにいる客達はあまりの珍しい客のあんまりなおかしいやり取りにポカンとし、バーテンダーはこれ以上の騒ぎにはならないと読み、黙々とグラスを拭いていた。

 BAR『Great M』はもうしばらく続く二人のアベコベな軍人の語らいに、根気良く付き合うのだった。

 

数ヶ月後、アラスカの地でシュワルツはジャックが予言した強くて勇気のある女性に会うのだが……それはまた別な話。

最後に一つ伝えられるのは、シュワルツはこれ以降自身を蝕む悪夢を見なくなったという事だけだ。


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