ガンダムブレイカー・シンフォニー   作:さくらおにぎり

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10話 ビルド!ビルド!ビルド!

 テスト返却も終わり、滞りなく期末テストと言う学生の戦場も乗り越えた、その数日後。

 

「さて、こんなものだろう」

 

 隅々まで掃除の行き届いた部屋を見て、リョウマは満足げに頷いた。

 今日はミヤビ、チサ、コノミ、リンの四人が、ガンプラの製作会として、リョウマの自宅に訪問するのだ。

 

 血走った目のハルタ達の追手をどうにか躱し、チサに鞄を自宅まで送り届けてもらうと言う波乱のテスト明けを迎えた後、リョウマは四人の都合を擦り合わせつつ今回の製作会を開いた。

 幸い、両親は仕事の都合につき夜遅くの帰宅になるので、快く自宅を空けられた。

 

 換気のために開いていた窓を閉じてから、エアコンの冷房を点けて、部屋を冷やす。

 

 それから少しの時間が過ぎた頃、集合時間である10時に差し掛かろうとした時、インターホンが鳴らされた。

 

「っと、来たか」

 

 リビングのソファで寛ぎながら、冷やしたスポーツドリンクを一杯引っ掛けていたリョウマはコップの中を飲み干して跳ね起き、玄関口へ急ぐ。

 

 ドアを開けてやれば、やはりミヤビ、チサ、コノミ、リンの四人が待ってくれていた。

 

「おはよう、オウサカくん」

 

「リョウくんおはよー」

 

「おはようございます先輩!」

 

「ん、おはよう」

 

 ミヤビとチサは平常通り、コノミは元気よく、リンは少し眠そうに挨拶をしてくれた。

 

「おはよう。ま、広い家じゃないけど上がって上がって」

 

 リョウマは四人を招き入れる。

 

 余計な家探しはさせずに、真っ直ぐ自室へ。

 

「ここが、オウサカくんのお部屋……」

 

「うんうん、やっぱり昔と変わってないね」

 

 ミヤビとチサは普通の反応だが、

 

「先輩、えっちな本はどこにありますか?」

 

 コノミは堂々とそんなことを聞いてきたので「教えません」とだけ返した。そうだと思って自室ではない部屋に隠しているのだが。

 

「おぉ、何やら難しそうな道具や設備がたくさんあるね」

 

 リンはエアブラシのコンプレッサーや塗装ブースなどを興味深げに見ている。

 

「お茶用意してくるから、変なことしないでくれよ。特にコノミちゃん」

 

 まぁ本当に変なことにはならないだろう、きっとそうだろう、と言うかそうであってくれと願いつつ、リョウマはダイニングキッチンへ急ぐ。

 

 

 

 自分を含む五人分の麦茶を載せたお盆を手に、自室に戻ってきたリョウマ。

 コノミがあちこち探しているようなことがなかったことに安堵しつつ、「さてと」と頷く。

 

「俺にガンプラを見てほしいって言うのは、チサとコノミちゃん、それとカンザキガワ先輩でしたね?」

 

 ミヤビは今回、自分のガンダムAGE-2の改造は自力で行うつもりで、その用意も持ってきていると言う。

 チサ、コノミ、リンの中で最もガンプラ、と言うより模型に対する造詣が浅いのは、リンだ。

 

「それなら……まずはカンザキガワ先輩、次にチサ、その後でコノミちゃんの順番で行こうと思うんだけど、チサとコノミちゃんは、異論は?」

 

 そう言ったノウハウを持たないリンから優先しようと考えたリョウマは、後回しになる二人に異論は無いかと訊く。

 

「異議なーし」

 

「順番待ちですね、分かりました!」

 

 特に異論もなく、チサとコノミは承諾。

 リンと対面する形で座るリョウマ。

 

「リョウマくんの説明と、そのアルトロンガンダムを参考に出来るだけ再現してみたんだけど、どうかな」

 

 そう言ってリンは二つのアルトロンガンダムを取り出した。

 ひとつはリョウマが製作したものと、もうひとつはリン自身が作り上げたものだ。

 違う点があるとすれば、リンのアルトロンガンダムはまだ塗装が施されておらず、色分けの多くはシールに頼っているところだろう。

 

「これは……おぉ……うん、多少の違いはありますけど、ほぼ遜色ないですよ。初めてでここまで出来るって、誇張抜きにすごいですよ」

 

「良かった。リョウマくんに及第点を貰えたことだし、少しは自信がついたね」

 

 まぁそれは良いんだけど、とリンは話を続ける。

 

「そろそろ次の段階に進もうと思うんだ」

 

「次の段階ですか?」

 

「うん。これはあくまでも、『リョウマくんの真似』でしかないよね。次は、そうでない『自分だけのガンプラ』として完成させたいと思う」

 

 つまりリンは、自分だけのオリジナルガンプラを作りたいと言う。

 

「とは言え、自分がアルトロンガンダムをどうかしたいのかがまだ分からなくてね。リョウマくんなら、普通の状態からどう改造するのか、とかを訊きたい」

 

「そうですね……俺がアルトロンをバトルで使うとしたら、やっぱり中距離への射撃手段にに乏しい点を改善したいですね」

 

「やっぱりそうだね?ウイングガンダムのバスターライフルとかを持たせるとか、かな」

 

「ライフルを持たせるのもアリですけど、それだとドラゴンハングを咄嗟に使えないので、アルトロンの長所を少し削らなくちゃいけないんです」

 

 例えば、とリョウマは一度立ち上がり、自分のショーケースから『フリーダムガンダム』を取り出してくる。

 

「これはフリーダムガンダムって言うんですが、サイドスカートがレールガン、ウイングにビーム砲が二門ずつ搭載されているので、ライフルを使わなくても十分以上に射撃が出来るって機体なんです」

 

 やってみるなら、とリョウマは自分が製作したアルトロンガンダムを手に取ると、バックパックとサイドスカートを本体から取り外し、そこへフリーダムガンダムのパーツを取り付けた。

 

「これだけで、腕の自由度をそのままに、遠距離射撃も"一応"可能になります」

 

「んー?一見解決したように見えるけど、これだとツインビームトライデントが使えないよね?」

 

 リンが指摘したように、アルトロンガンダムのツインビームトライデントのマウント箇所は、ランダムバインダーに外付けされている。

 バックパックユニットを丸ごとフリーダムガンダムのモノにしているので、それがないのだ。

 

「それに、ちょっとって言うか、だいぶ重くなりそうだし」

 

「そう、それです。重くすると機体の加速にも影響するので、格闘戦を仕掛けにくくなるんですよ」

 

「一長一短ってヤツだね。ただ短所を補えばいいわけじゃないと」

 

「短所は短所として割り切って、長所を極限まで高めるって言うのも選択のひとつですけど、そこは先輩の采配次第ですね」

 

「難しいものだね」

 

 難しいと言うリンだが、表情がそれに出ていない。

 既に彼女の中では、大まかな完成形が見えているのだろう。

 

「ちょいと待っててくださいね」

 

 よっと、とリョウマは一度腰を上げると、棚からローラー付きの衣装ケースを引っ張り出してきた。

 蓋を開けると、その中にはケース内を埋め尽くすガンプラのパーツの数々。

 

「リョウマくん、これは何かな?」

 

「俺のジャンクパーツです。捨てるに捨てられないものですから、気に入ったものがあればあげますよ」

 

「いいの?これだって元々は、お金を払って買ったんじゃないの?」

 

「そうですけど、俺が持っててもいつ使うか分かりませんし。それなら、今すぐ使いたい人に譲る方が建設的ですから」

 

「ふむ。なら、お言葉に甘えようかな。何か使えそうなものがあったら、もらっていいかだけ訊くね」

 

「どうぞどうぞ」

 

 リョウマの了承を得てから、リンはジャンクパーツの山へ手を突っ込む。

 

「オウサカ先輩っ、あとでわたしにもマウンテンサイクルで採掘させてくださいっ」

 

 当然と言うべきか、コノミは挙手してジャンクパーツの採掘を希望する。 

 

「カンザキガワ先輩の気が済んでからな。えー、次はチサか」

 

 リンはしばらくジャンクパーツの採掘に時間がかかるだろう。

 その間にチサの大喬ガンダムアルテミーを見てやるか、とリョウマはその足でガンダムマーカーを収納しているペンケースを手に、チサの隣に移る。

 

「ほいお待たせ。とりあえず、俺が持ってるガンダムマーカーな」

 

「ありがとリョウくん。……って、けっこう色あるんだね?」

 

「単品じゃ売ってなくて、セットでしか無い色も揃えようと思ったら、けっこうな本数になってな」

 

「でもでも、これだけあったら困らないかな」

 

 それでね、とチサは持ち込んでいたトートバッグのボタンを開けて、大喬ガンダムアルテミーを取り出した。

 

「マーカーで塗装する時って、シールは剥がした方がいいのかな?」

 

「シールを貼るとどうしても段差が出来るし、塗装面とシールが混ぜこぜになると完成度にバラつきも出てくる。塗装するなら剥がした方がいいが、目の部分だけはシールのままの方がいい。さすがにこれを塗装で再現は難易度が高過ぎるからな」

 

「まずは目以外のシールからだね、よーし……」

 

 早速、大喬ガンダムアルテミーのシールを剥がしていくチサ。

 リョウマもそれに続いて、チサが手を付けていないパーツのシールを剥がしていく。

 

「リョウくんリョウくん、シールを剥がした跡が残っちゃうんだけど……これ、洗剤で洗ったら落ちるかな?」

 

「ついでに、お湯で流してパーツ表面の汚れや油分を落とすと、塗装が定着しやすくなるぞ。リビングのキッチンと布巾、使っていいからな」

 

「うん、ありがと」

 

 水道の使用許可を得て、チサはせっせとシール剥がし作業に勤しむ。

 

 目の部分以外のパーツのシール剥がしが終わるなり、チサは「じゃぁ水道借りるね」と、分解したパーツをパッケージの中に入れて部屋を後にしていく。

 

 それを見送れば、次はコノミの番だ。

 

「っと、最後に回して悪いなコノミちゃん」

 

「いえいえ、順番ですし。それにわたしは診てもらう側ですから、文句は言えませんよ」

 

 それじゃぁ早速、とコノミは自分の愛機であるガンダムデュナメスバスタークを見せる。

 

「デュナメスも今となっては古いキットだが……うん、基本工程はちゃんとこなせているし、オルトロスとザクウォーリアのシールドも、無理矢理感なく装備出来ているな。やはり実物をちゃんと目にしてこそだな」

 

「えへへ、昨夜の内に手直ししてきた甲斐がありましたっ」

 

 照れくさそうに小さく笑うコノミ。

 

「……昨夜の内に?コノミちゃん、それじゃ今日は俺にデュナメスを診てもらったあとはどうするんだ?」

 

 その手直しを今日ここでするんじゃなかったのか、とリョウマはコノミに訊ねる。

 

「………………ぁっ」

 

 しまった、とハッキリ顔に書かれているように口を開けてしまうコノミ。

 数秒ほど視線を左右させてから。

 

「……せ、先輩のえっちな本を探しに来まし、た?」

 

「俺のこの手が光って唸る。お前を倒せと輝き叫ぶ。必殺、シャイニングデコピン」

 

 リョウマは澱みなく右手をコノミの額に伸ばすと、(手加減した上で)鋭いデコピンをぶちかました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ぁいだーっ!?」

 

「ガンダムファイト国際条約第一条」

 

「と、頭部を破壊した者は失格となる……」

 

「破壊された者、だな?」

 

 ガンダムファイト国際条約を微妙に言い換えて言及を逃れようとしたコノミだが、残念ながら原作知識に精通しているリョウマを誤魔化すことは出来なかった。

 

「か弱い乙女のおでこにデコピンをするなんて……暴力反対!男尊女卑!!バンデッド!!!」

 

「バンデッドて。そこまで言うか」

 

 コノミの猛抗議を受け流しつつ、リョウマは妥協案を提示する。

 

「じゃぁ、マウンテンサイクルの採掘してていいぞ」

 

「わーいっ♪」

 

 ジャンクパーツを発掘出来ると聞いて、コノミは一瞬で気持ちを切り替えてリンの向かい側に回り込む。

 

「カンザキガワ先輩、お邪魔しますねー」

 

「ん、どうぞ。……あぁそうだコノミさん、このパーツが何なのか知ってる?」

 

「あ、これはですね……」

 

 早速、和気藹藹と並んで発掘している先輩と後輩二人。案外波長が合うのかもしれない。

 

「さて、俺もX1の改造にかかるか……」

 

 そう呟いて、リョウマはクロスボーンガンダムX1のパッケージを取り出し開けて、その中からランナーから切り出された状態のパーツにヤスリがけをしていく。

 

 一方のミヤビは、プラ板から切り出してパーツをスクラッチで製作しているようだ。パーツ形状から見るに、ガンダムAGE-2の肩のウイングのようだ。

 

 しばらく静かな時間が流れた頃、ふとリョウマのスマートフォンから通話の着信を告げてきた。

 

「っと悪い、電話だ」

 

 リョウマはスマートフォンを手に取ると、一度部屋を出た。

 どうやら、アイカからの電話だ。

 

「(今から店番やってくれとか言うんじゃないだろうな)」

 

 今日の予定のことは、コノミも含めてアイカにも話しているので、今日は『甘水処』での勤務は空けてもらっているのだが、万が一と言うこともあり得る。

 内心警戒しつつも、声色は平静さを装いつつ、通話に応じた。

 

「私はネオ・ジオンのフル・フロンタル大佐だ、要求を聞こう」

 

『あぁリョウマ、アタシだ』

 

 しれっとスルーされた。

 それはさておきとして。

 

『今日はお前、家にいるんだったな?』

 

「あぁ、そうだが」

 

『今な、チサの知り合いの、カザマ・アヤナとか言うお嬢さんが店に来てな。何やらチサ経由でお前に用があるそうだ』

 

「カザマさんが、俺に用件?」

 

 何かあっただろうかと思考を回すが、思い当たる節はない。

 

『彼女か?』

 

「アホか。あとでちゃんとカザマさんに謝っておくんだぞ。それで、『甘水処』まで来いってことか?」

 

『イエスその通り。十分以内だ、レディをお待たせするんじゃないぞ』

 

「はいはい……」

 

 

 

 ダイニングキッチンでパーツ洗浄をしていたチサに留守番を頼んでから、リョウマは駆け足で『甘水処』へ急ぐ。

 気温も35℃はある中で走ろうものなら、数分で汗だくだ。

 帰ったらシャワー浴びないとな、と思いつつ『甘水処』の自動ドアを潜った。

 

「おわっ、十分どころか五分で来はりましたか?」

 

 出入り口付近のところで、赤茶けた二つ結びの髪を持った美少女――アヤナが待ってくれていた。

 

「はー、はー……ふ……おはようカザマさん。俺に用って言うのは?」

 

 呼吸を整えてから、リョウマはアヤナの用件を訊ねる。

 

「わざわざすいません。オウサカはんがここでバイトしてるってチサはんから聞きまして、ガンプラについて相談しよ思とったんですが、今日は休みって店長はんに言われたんです。ほな日を改めよう思うたんですけど……」

 

「「今すぐ呼んでやるから少し待ってなさい」って言われたんだな?」

 

 全くあの人は……、とレジカウンターの向こう側で知らんぷりしているアイカを横目で睨むリョウマ。

 

「都合悪いんでしたら、また今度でえぇんですよ?」

 

「いや、都合の良し悪しなら……どうだろう、俺はともかく、他が分からないな」

 

 ちょっと待ってくれ、とリョウマは今度はチサに電話をかける。

 数秒のコールの後、

 

『あ、もしもし?オウサカくん?』

 

 何故かミヤビが通話に出てきた。

 

「ん?シミズさん?チサはどうしたんだ?」

 

『ごめんなさい、チサちゃんは今ちょっと電話に出られなくて……あ、大したことじゃないのよ?』

 

「そうか。それで……シミズさん。今、『甘水処』でカザマさんといるんだが、製作会に彼女も混ぜてやっていいだろうか?」

 

『カザマさんが?』

 

「なんでも、俺にガンプラのことで相談があってのことなんだが、『甘水処』で長居するわけにもいかないしと思ってな。他の人にも訊いてくれるか?」

 

『わ、分かった……一旦、保留するわね』

 

 一旦保留のメロディーが流れ、

 すぐに通話が戻った。

 

『もしもし?』

 

「聞こえているのか?582だ!」

 

『……聞いてやる!』

 

 リョウマがコウ・ウラキのセリフを言えば、理解してくれたのか、ミヤビはアナベル・ガトーの応答で返してくれた。

 

「それで、どうって?」

 

『他の人は大丈夫だって。だけど、この部屋に六人は狭いかも?』

 

「五人でもギリギリだしな……仕方ない、リビングの方に場所を移すしかないな。俺がカザマさんを連れてくるまで現状維持でお願いしたい」

 

『現状維持ね、了解』

 

 とりあえず待ってて、と言うことで通話を切ったリョウマは、アヤナに向き直った。

 

「OK。じゃぁ行くか」

 

「えぇんですか?そんならお邪魔させてもらいますけど」

 

 では早速帰宅しようとした時に、「ちょっと待ったリョウマ」とアイカに呼び止められた。

 

「急に呼び出したりして悪かったな。あとで"増援"を送ってやるから」

 

「増援?何のことかは知らんが、面倒事はやめてくれよ?」

 

 何やら増援を送ってやると言うアイカに、リョウマは眉を顰めながらもアヤナを連れて自宅への帰路を取る。

 

 

 

 炎天下の中を往復し、リョウマはアヤナを自宅に招き入れる。

 

「ウチ、他の男の人の自宅に入るん初めてですけど……お邪魔します」

 

「まぁ、ごく一般的な家庭の家だが」

 

 玄関からリビングに上げてアヤナを席につかせ、自室に戻って四人を呼ぶ。

 

 アヤナとは初対面であるコノミとリンは互いに挨拶させて、作業再開、リョウマは一旦シャワーで汗を流すためにバスルームへ。

 

 

 

 リョウマがシャワールームにいる間。

 

「確かカザマさんは、インジャを使っているのよね?どう改造したいとかって案はある?」

 

 自然な流れと言うべきか、ミヤビがアヤナの相談相手になっていた。

 

「ウチは武道の薙刀が得意でして、それを活かせる感じの改造ってどないしますのん?」

 

 以前に学園でのバトルでも、インフィニットジャスティスガンダムのシュペールラケルタビームサーベルによる攻撃は、リョウマでも舌を巻くほどの腕前だった。なるほど武道経験があればそれも頷ける話である。

 

「そうね。まず、薙刀を装備しているMSについて調べてみましょうか」

 

 ミヤビは自分のスマートフォンを取り出すと、『ガンダム ナギナタ』と打ち込んで検索をかける。

 すると、ゲルググやディジェ、ライジングガンダムと言った画像が表示されていく。

 

「例えば、このライジングガンダムって言うMSなんだけど……」

 

「ふむ、他のガンプラの要素を採り入れると……」

 

 ミヤビとアヤナが改造談義に集中しているのを尻目に、チサは黙々と大喬ガンダムアルテミーをガンダムマーカーで塗装し、ある程度パーツを見繕ったリンはアルトロンガンダムに色々と装備させ、コノミはあれもこれもと次々にパーツをサルベージしている。

 

 リョウマがシャワーから上がってきた頃には、そろそろ昼食の時刻が近付いてきていた。

 

「そう言えばもうすぐ昼時だが……昼食のことは考えてなかったな」

 

 彼がそう切り出したことで、五人ははたと気づく。

 

「どうしよっか、スーパーに何か買いに行く?」

 

 チサはここから徒歩十五分ほどの距離のスーパーマーケットを挙げる。

 

「俺が六人分の食事を作るにしても、さすがに冷蔵庫の中が足りないしな。そうするしかないか」

 

 作業を一度中断し、さて外に出ようかと言う時、ふとまたインターホンが鳴り響く。

 

「っとなんだなんだ……」

 

 玄関のカメラを確認すると、ついこの間に見た二人組――ジングウジ・レナとイズモ・レンが待ってくれていた。

 

「ジングウジさんとレンさん?」

 

 今日は随分来客の多い日だな、とぼやきつつ、リョウマは玄関へ急ぐ。

 

「お二人ともどうしたんですか?って言うかウチの住所知ってたんですか?」

 

 レナはともかく、レンにも住所などは教えていないはずだが、何故この二人は訪ねてきたのか。

 リョウマがそう訊ねると、レナはあからさまに厶スッとしたように答えてくれた。

 

「アイカ先輩に命令されたのよ。「不出来な義弟に差し入れを入れてやってくれ」って」

 

「俺はただの付き添いだ」

 

 差し入れと言う言葉を聞いて、リョウマの中で合点が入った。

 

 アイカの言う"増援"とは、この二人のことだったらしい。

 

 レンは中身の詰まったビニール袋を掲げて見せる。

 

「昼食はまだだろう?色々と買ってきたぞ」

 

「代金はアイカ先輩からふんだくって来たから、心配しなくていいわよ」

 

 しかも食べ物や飲み物まで用意してきたと言う。

 

「あー、すごい助かるんですがすごい申し訳ないと言うか、いや、ありがとうございます、いただきます」

 

 感謝と恐縮が綯交ぜになるリョウマだが、まずは二人を上げることにした。……八人もいてはリビングも狭いかもしれないなと思いつつ。

 

 

 

 リョウマを除けば、リンしか大学生二人のことを知らないので、リョウマの知り合いと言うことで自己紹介から始まり、二人が買ってきた弁当などにありつきつつ、リビングのテレビで何か流そう、と言う話になったのだが。

 

「ふむ、豊富だな」

 

「一本で終われるのがいいですよね」

 

「それならこれだな」

 

 リョウマとレンと言う男二人の談義によって決定されたのは、『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』の劇場版だ。

 ガンダム作品を知らないリンにも(一応)理解のある『W』に関することで、その続編である『EW』をチョイスしたのだ。

 

 DVDプレイヤーにディスクを通し、早速本編再生。

 

 冒頭の、五機のガンダムによる戦いの回想シーンで、早速リンがリョウマに質問してきた。

 

「この緑色のガンダムって、アルトロンガンダム?」

 

 アルトロンガンダム(当時の商標名は『ガンダムナタク』)がツインビームトライデントを振り回しながらドラゴンハングを放ち、ビルゴⅡを咬み砕いてみせる。

 

「そうです。TV版とはデザインが異なりますが、全く同一の機体と言う設定……つまりパラレルです」

 

「ややこしいんだね」

 

 近年ではコミックの『敗者達の栄光』によってさらにデザインが追加されているのだが、リンはまだそこまでは知らないだろう。

 

 ストーリーが進み、序盤の山場へ。

 ヒイロとデュオがL-3X18999コロニーへ突入し、基地内のリーオーを奪って戦闘を開始、そこへヒイロが五飛のアルトロンガンダムと、デュオがトロワのサーペントと、それぞれ交戦する。

 

 まさかトロワは裏切ったのかと悪態をつきながらも決死の反撃を試みるデュオのリーオーだが、サーペントのダブルガトリングガンの弾幕の前に為す術もなく被弾を重ね、ついに体勢を崩してしまう。

 

「敵側のリーオーはすごいあっさり倒されてるけど、なんでデュオくんのリーオーはあんなに丈夫なの?」

 

 チサが、『W』を観てきた者なら誰でも思うだろう疑問を口にすれば、ミヤビがそれに答える。

 

「えっとね……どうしてすぐに撃墜されないのかって言うと、デュオが巧く攻撃を受け流したり、装甲の厚い部分で受けたりしてるから。それと、トロワが爆散させないように手加減してるって言うのもあるかな」

 

 尤も、映像で見る限りはただ一方的に撃たれているようにしか見えないのだが。 

 

「……まぁ、『主役補正』が掛かっていると言えばそれまでなんだがな」

 

 そこにレンが呟くように補足する。

 

 続いてストーリーが進行し、マリーメイア軍のサーペントの輸送船が大気圏に突入しようと言う時に現れる、ゼクスのトールギスⅢ。

 ビームサーベルによる攻撃で次々に輸送船を撃沈(小説版ではブリッジを攻撃せずに、機関部やサーペントの格納ブロックだけを狙って攻撃して不殺に徹していた)し、デキム・バートンのいる資源衛生MO-Ⅲへ向けてメガキャノンを構え、降伏勧告を発する。

 しかしデキムは『本来のオペレーション・メテオ』と称した"コロニー落とし"を行うと脅迫、ゼクスはそれ以上の攻撃が出来ずにいる。

 

「このマリーメイアっちゅぅ娘さん、自分が支配者や言うてますけど、実際はデキムの都合のえぇようにされとるだけちゃいますか?」

 

 ふと黙って見ていたアヤナが、マリーメイアはデキムの傀儡にされているのではないかと言う。

 事実、軍事と言った実働面で陣頭に立っているのはデキムであり、マリーメイアはリリーナと共に安全なところにいるだけである。

 

「ネタバレになるから言わないけど、それは最後の方で分かるわ」

 

 アヤナの疑問に応じたのはレナ。

 それは、最終盤でデキムが発する「マリーメイアの代わりなどいくらでも作れる。その娘も、儂が拾ってきて……」と言う台詞によって明らかになる。

 

 いよいよストーリーは大詰め。

 地球へと急行するヒイロのウイングガンダムゼロの前に、軌道上で待ち構えていた五飛のアルトロンガンダムと激突する。

 自分達が"正義"と信じた行いが本当に正しかったのかを見極めるために敢えて"悪"になると言い放つ五飛と、マリーメイアの独裁を許して同じ過ちを繰り返させるわけにはいかないと立ち向かうヒイロの二人は、互いに激しい剣戟と舌戦を繰り広げる。

 

 同じ頃に、カトル、デュオ、トロワの三人もまたガンダムに乗り込んで地球へ降下、孤立無援の戦いを続けるゼクスとノインの元へ駆け付ける。

『負け続ける戦い』を続ける姿と、突然のリリーナの訴えにより、「平和は誰かに与えられるものではない」のだと気付き始める民衆達。

 

 そして最終盤、もはや戦う力も残されておらず、包囲されてしまうゼクス達に、上空からウイングガンダムゼロが現れ、ここまでの被弾による損傷で傷付きながらもツインバスターライフルの連射を敢行、デキムが籠もるシェルターシールドを破壊する。

 さらに、五飛のアルトロンガンダムが民衆と共にブリュッセル大統領府に現れ、民衆は「自分達の平和は自分達で守ってみせる」と口々に訴える。

 司令部でも、デキムがリリーナを射殺しようしたところへマリーメイアがそれを庇い、なおも暴走するデキムは副官によって射殺される(ここで、この一連の戦いはデキムの私利私欲によって起きたものだと明かされる)。

 そこへヒイロが現れ、瀕死のマリーメイアに向けて"弾の無い拳銃"の引き金を引いて『マリーメイアを殺す』と言う任務を完了、ストーリーは大団円を迎える。

 

 主題歌である『LAST IMPRESSION』と共にスタッフロールが流れる中、食べ終えた弁当の容器を片付けて、それも終われば製作会の続きだ。

 

 

 

 レナとレンも手伝いに来回ってくれたおかげで、リョウマとミヤビも自分のガンプラの改造に着手することが出来て、チサ、コノミ、リン、アヤナも自分なりの改造をそれなりに進めることが出来た。

 

 時刻も18時になったところで、暗くなる前に帰宅させるためにここでお開きだ。

 

 駅方面へはコノミ、リン、レン、レナの四人。

 比較的自宅同士が近いチサとアヤナが一緒に帰る。

 

 そんなわけで、リョウマがミヤビを送る形となった。

 

「今日はありがとうね、オウサカくん」

 

「どういたしまして。まぁ場所を貸しただけだが」

 

「それにしてもオウサカくんって、随分知り合いが多いのよね?今日来てたジングウジさんとイズモさんって、大学生って聞いたけど」

 

「レンさんとはコンテストで前々から知り合いだったし、ジングウジさんはどっちかと言うとアイカさん経由で知り合ったところだな」

 

「そうなんだ。ミノウさんとかカンザキガワ先輩のこともそうだけど、オウサカくんの人徳が為せる業って言うのかしらね」

 

 楽しそうに微笑むミヤビ。

 

「別に俺が何かしたってわけじゃないがな。……あぁそうだシミズさん」

 

 ふとリョウマは何かを思い出した。

 

「今日、AGE-2の改造パーツを作っている時に写真撮影もしていたが、シミズさんもガンスタに登録しているのか?」

 

「えぇ。今日取った写真は制作ストーリーに載せようと思ってて……オウサカくんも登録してるの?」

 

「まぁな。シミズさんをフォローしたいから、ユーザー名を教えてくれるか」

 

「うん」

 

 そして、ミヤビが口にしたユーザー名は、

 

 

 

「『セイスイ』ってユーザー名なんだけど」

 

 

 

「…………は?」

 

 セイスイ。

 リョウマはそのユーザー名を知っている。

 ちょうどこの間、HGのZガンダムを投稿していた、最近転校したと言う……

 

「え、どうしたのオウサカくん?」

 

「まさかと思うがシミズさん、リョーマってカタカナで書かれたユーザーと知り合いだったりするか?」

 

「そ、そうだけど、どうしてオウサカくんがそれを知って……」

 

 はっ、とミヤビにも思い当たる節があったのか、目を見開く。

 二人とも慌ててスマートフォンを取り出し、自分のユーザーページを開いた。

 

 リョウマのマイページには『リョーマ』

 

 ミヤビのマイページには『セイスイ』

 

 それぞれそう表示されていた。

 

 

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

 

 

 二人して指を指し合って驚愕する。

 

「セイスイさんが、シミズさん!?」

 

「リョーマさんが、オウサカくん!?」

 

 双方とも、互いのユーザーページと顔を見比べて見合わせて――

 

「くっ、はははははっ……!」

 

「ぷふっ、ふふふふふっ……!」

 

 偶然のあまり、二人して思わず笑った。

 

「な、何の偶然だよ、これは……っ!」

 

「ちょっ、も、無理っ、お腹痛いって……ッ!」

 

 一頻り笑って、双方落ち着いてから、一息。

 

「いや、こんな偶然があるんだな」

 

「何分の……うぅん、何十万分の一の確率なのに、当たるものなんてね」

 

 ミヤビはまだおかしさが抜けないのか、必死に笑いを堪えている。

 

「……よく思い直せば共通点は多かったんだよ。AGE-2を投稿したその翌日には転入するってお知らせしていたし、セイスイってユーザーネームも、『清水』を音読みに変えたものだろう?」

 

「そうそう。私の方もね、リョーマさんとオウサカくんの下の名前が同じだと思っていたけど、『りょうま』って名前はよくあるし、ただの偶然の一致かなって」

 

「まぁ驚いたが、とりあえずフォローを……って、もうフォローしてるんだったな」

 

 リョウマは『フォロー中です』の項目をタップしようとしていた指を止めた。押せばフォロー解除になってしまうからだが、すぐにフォローし直せば良いものの、『セイスイさん』に要らぬ通知が届いてしまう。

 ミヤビは満足げに息を吐き、スマートフォンを懐に納め、再び二人並んで歩きだす。

 

「私が、作品製作に行き詰って困ってますってモーメントに投稿した時、真っ先にアドバイザーになってくれて、その後も事あるごとに気に掛けてくれて……リアルでもきっと、優しい人なんだなって」

 

「俺は自分に出来ることをコメントしただけなんだがな。確かに切っ掛けはそれだったかもしれないが、そうでなかったとしても、俺はセイスイさんをフォローしていたと思う」

 

 互いに思いの丈を述べていく中、ふとミヤビは小さく呟いた。

 

「……チサちゃんが好きになる理由も、分かるかな」

 

「ん?チサがなんだって?」

 

 その呟きはさすがに聞き取れなかったのか、リョウマは訊き返すが、ミヤビは「ひみつ」といたずらっぽくはぐらかした。   

 

 夕闇に染まる街の中、楽しく談笑出来るこの時間がいつまでも続けばいい――

 

 

 

 

 

 ――ここから始まる波乱の始まりさえ無ければ、だが。

 

 

 

 

 

「あぁ、こんなところにいたのか」

 

 ふと、自分達の向かいから聞こえた声。

 何かとリョウマはその声の方向を目にしようとして、

 

「ッ!」

 

 突然、ミヤビの様子が変わった。

 

「シミズさん?」

 

 知り合い……と言うにはあまりにも剣呑な空気。

 対する男の方は紳士的で――しかし悪意が見え隠れしている。

 

「おいおい、仮にも"兄"に対する態度がそれか?」

 

「…………!」

 

 まるで親の敵でも見つけたかのようなミヤビ。

 しかも、目の前のこの男は自分をミヤビの兄だと言う。

 

 否、リョウマにとっても見覚え聞き覚えのある相手だった。

 

「その声にその顔……あんた、『テンノウジ・ミカド』か?」

 

 去年のGBフェスタで決勝を争った、キュベレイの使い手。

 油断を見極め突いた末に勝つことは出来たが、真っ向勝負を続けていれば果たして勝てたかどうか。

 そのミカドが、ミヤビに何の用があると言うのか。

 

「覚えてくれていたか、光栄だよオウサカ・リョウマ……」

 

「それはどうも……で、何の用だ?」

 

 然りげ無くミヤビを守るように一歩前に出てみせる。

 

「なに、兄妹の感動の再会だ。出来れば邪魔してほしくないんだが?」

 

 兄妹の感動の再会と宣うミカドだが、対するミヤビの顔に感動の情は見られない。

 

「……知らない。行こう、オウサカくん」

 

 冷たくそう言い放ち、ミヤビはリョウマの手を取ってその脇を通り抜けようとするが、

 

「まぁちょっと待てよ」

 

 ミカドは右手をミヤビへ伸ばし、彼女の左肩を思い切りわしづかみにした。

 

「いっ!?や、やだっ、離して!!」

 

 骨を握り潰されるような痛みに、ミヤビは抵抗する。

 

「お前!」

 

 リョウマはミカドの手を掴んでミヤビの肩から払い、明確に敵意を向ける。

 

「さっきから何のつもりだ!お前とシミズさんが兄妹なわけが……」

 

「あるんだなぁ、これが」

 

 ミカドは払われた腕を元の体位に戻す。

 

「『テンノウジ・ミヤビ』。残念ながら戸籍にもそう表記されていてな」

 

 そう宣うミカドに、ミヤビは痛む肩を手で押さえながら反論する。

 

「戸籍上はね。だけど今の私の名義は『シミズ・ミヤビ』よ。縁も切っているあなたとはただの他人でしかない……!」

 

「いくらそう訴えようとも、同じ胎から産まれたことに変わりはないさ。そうだろう、ミヤビ」

 

「気安く呼ばないでッ!」

 

 ミヤビとミカドが鉾を向けあっている中、リョウマは事態を読み取る。

 どうやら、ミヤビとミカドが血の繋がりのある兄妹であることに変わりは無いようだが、何かしらの理由があってミヤビはシミズ姓を名乗り、兄を酷く毛嫌い――いっそ拒絶していると言ってもいいだろう。

 そこまで読み取ったところで、リョウマは――ハッタリ混じりの強気で出ることにした。

 

「お前がシミズさんの兄だか知らないがな、"彼女"に手を出されて黙っていられるほど安い男じゃないんでね……!」

 

 ハッキリとそう言って、ミヤビを背にするリョウマ。

 

「オ、オウサカくん……?」

 

「っとぉ、まさか妹の彼氏がお前とはな……」

 

 リョウマの殺意染みた気迫を前に、ミカドは一歩下げた。

 

「だとしたら傑作だ!恋人の前で無様を曝させてやるのも悪くないかもなァ!」

 

「あっそ、そいつは良かったな……!」

 

 不意に、リョウマは踵を返すなりミヤビの手を取って駆け出した。

 

「逃げるぞ」

 

「ぇ、う、うん!」

 

 しかし、意外にもミカドはその後を追い掛けることはなく、ただ見送るだけだった。

 

「くくっ、楽しみだ……」

 

 二人の姿が見えなくなってから、そう呟いた。

 

 

 

 来た道を戻るように逃げてきた二人は、一度落ち着きたいところだった。

 リョウマはミヤビをチサの自宅に預けようと思ったのだが、当のミヤビが「オウサカくんの家の方がいい」と言い張ったため、少々躊躇いながらも彼女をもう一度自宅に招き入れた。

 両親が帰ってくるまではまだ時間がある。

 リョウマ自身、自分とミヤビ以外誰もいない自宅の中で、彼女に手を出さない自身があるかと自問自答しても自信は無かったが、先程のようなことがあれば"そんな気"にもなれなかった。

 とりあえずミヤビをリビングの席につかせ、アイスコーヒーを淹れてやり、フレッシュとガムシロップも添える。

 

「ごめんなさいオウサカくん、変なことに巻き込んで……」

 

 不意に、ミヤビは顔を俯けながら謝った。

 

「シミズさんが謝ることじゃないだろう。結局、あいつは何がしたかったんだ……?」

 

 あいつ、と言うのは先程のテンノウジ・ミカドのことだ。

 

「……オウサカくんになら、話してもいいかも」

 

「何をだ?」

 

 ミヤビはリョウマが用意してくれたアイスコーヒーを一口飲んでから、意を決したように口を開いた。

 

「あの男……テンノウジ・ミカドが私の実兄って言うのは本当のことなの。昔はちょっと意地悪なだけで、妹の私もそこまで嫌いでは無かった。だけど……多分中学くらいからかな、兄は暴力的になって、身体の差もあって私は一方的に受けるしかなかった」

 

 ミヤビが歳上の男性への忌避感を持つのは、家庭内暴力でトラウマを植え付けられたのが原因らしい。

 

「お母さんは私を庇ってくれたけど、父は仕事ばかりで家庭に無関心で、兄を諌めることもしなかった。そんな生活が何年か続いて、耐えかねたお母さんは離婚。私自身は兄から離れたかったからお母さんの方についていった。それが、ちょうど二ヶ月半前のこと」

 

「緑乃愛に転校してきた時期か。そう言えばガンスタのコメントでも、何かと苦労してそうな内容が多かったのは……」

 

「お母さんや友達を煩わせたくないから、遠回しでも吐き出す先がリョーマさんしかいなかった」

 

 弱音を吐ける相手が、投稿サイト越しの相互フォローさんしかいなかったと、ミヤビは言う。

 

「初めての転校で不安で、怖くて仕方なかった。だけど、オウサカくんやチサちゃんが一緒にいてくれて、転校してしばらく経ってもリョーマさんは何度も気に掛けてくれて……そのリョーマさんが、オウサカくんだなんて思いもしなかったけどね」

 

「俺の方も、何かと苦労してそうなセイスイさんが、こんな美少女だなんて思わなかったけどな」

 

「び、美少女って……もう、オウサカくんは煽てるのがお上手なことで」

 

「今のシミズさんを見て、セイラさんを思い出した」

 

「……兄は、シャアみたいにカッコよくないけどね」

 

「むしろキュベレイを使ってたな、全然シャアじゃない」

 

「確かにそうかも……ふふっ」

 

 少しだけ穏やかな時間が流れるが、今は問題を先延ばしにしているだけだ。

 

「さて、さすがにこれ以上は親御さんも心配するだろうし、送らせてもらうよ」

 

「……ちょっと怖いけど、エスコートお願いね」

 

 腹積もりを決めて、リョウマとミヤビはもう一度外へ出た。

 

 

 

 尾行されていないかどうかを逐一警戒しつつも、無事にミヤビを自宅近くまで送ることが出来た。

 

「今日は遅くまで本当にありがとう、オウサカくん」

 

「これくらいは安い御用だ」

 

 安い御用とは言うものの、リョウマはここまで来るに当たってかなり警戒していて、精神が擦り減っていた。

 

「それでもありがとう。今月のGBフェスタ、頑張ろうね」

 

「もう来週に開催か。それまでにガンプラの完成を間に合わせないとな」

 

「あなたなら出来るわ」

 

「煽てないでください。って、さっきの仕返しのつもりか?」

 

「さて、どうかしら?それじゃぁ、おやすみなさい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 軽く言葉を交わしてから、リョウマは踵を返して来た道をもう一度戻る。

 

「(テンノウジ・ミカド……あいつも、今年のGBフェスタに参加するつもりなのか?)」

 

 だとしたらミヤビは不快な思いをするかもしれないが、自分があの男をもう一度倒して溜飲を下げさせよう、とリョウマは静かに決意する――。

 

 

 

【次回予告】

 

 コノミ「さぁー今年も始まりましたよGBフェスタ!」

 

 リン「まさにガンプラバトルの祭典だね」

 

 チサ「ミヤビちゃん、大丈夫?何だか顔色が悪いよ?」

 

 ミヤビ「私なら大丈夫。今日は思い切り楽しまないとね!」

 

 リョウマ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー

 

開幕!GBフェスタ

 

 ……イツヅキ・ミアさん?あんたこんなところで何やってるんだ?」

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