オウサカ家での製作会を終えて。
八月に入り、夏の暑さももう本番である。
蝉の群れが盛大に爆音を上げて求愛行動に勤しむ中、一行はその場所へと辿り着く。
「着いたな」
リョウマは袖で汗を拭いながら、等身大スケールの『νガンダム』が聳え立つその姿を見上げる。
GBフェスタ東京会場。
去年は静岡県での開催だったが、今年度は東京での開催だ。
「やっぱり実物で見ると本当に大きいわね……写真撮ろっと」
ミヤビはスマートフォンを取り出すと、他のお客に習うようにνガンダムの足元近くへ向かう。
「リョウくん、去年はユニコーンガンダムだったよね?」
同じように汗を拭っているチサは、隣りにいるリョウマに訊ねる。
「あぁ。一定間隔で、ユニコーンモードとデストロイモードに交互に変形していたな」
ちなみに、建築法の問題から変形しても全高は変わらないように作られているのだとか。
「わたしも写真撮ってきまーすっ」
ミヤビの後を追うように、コノミもスマートフォンを片手にνガンダムの元へ急ぐ。
「……ねぇリョウマくん。私ちょっと屋内に行っていいかな?」
ふと、最寄り駅を降りてからどこか覚束無い足取りだったリンは、リョウマにそう訊ねる。
「カンザキガワ先輩、さっきから具合悪そうですけど……大丈夫ですか?」
「暑いからって部屋に籠もってばかりだったからね……正直、この暑さを嘗めてたよ……」
日差しが眩しくて仕方ないよ、とリンは疲れたようにぼやく。
「そこの二階にカフェがありますから、そこで待ってていいですよ。開催にはまだけっこう時間がありますし、みんなには俺から伝えておきます」
リョウマの指す方向には、『GUNDAM CAFE』の看板が見える。
「うーん、悪いね……そうさせてもらうよ」
小さく頭を下げてから、リンは階段を登ってガンダムカフェへ向かう。
「カンザキガワ先輩、大丈夫かな……?」
チサはその今にも倒れそうなリンの後ろ姿を心配そうに見やる。
「最悪、医療スタッフも近くにいるし、熱中症で倒れてそのまま気付いてもらえない、なんてことにはならないと思うが……」
赤十字のマークがある場所を確認しつつ、リョウマとチサは撮影に向かったミヤビとコノミの元へ向かう。
ちなみに、ハルタは諸都合によってオンラインでの参加になるとのこと。
フェスタの開催までは、まだ一時間半はある。
物販コーナーを見るのは後にして、リンを除く五人は、フェスタの会場と隣接している、別の会場――何やら本書に関するイベントが開催されているそこへ向かうことにした。
正確に言うと、コノミがそこに用があるらしい。
会場には、様々なアニメやゲームのキャラクターの姿格好を模倣した――所謂、コスプレイヤー達が写真撮影を受けていたり、各々のブースで"薄い本"を販売していたりと……
何とは言わないが、どうやら"そう言うマーケット"のようだ。
チサは見慣れないものばかりであわあわと目を回しながら、意外にもミヤビはその場に慣れているのか平然としながらコノミの後を追っている。
その最中にも、男性達の視線を釘づけているのはさすがと言うべきか。
コノミは目移りさせつつも、特定の場所へ向かっている。
「えーっと、この辺に……」
キョロキョロと見回し、見つけたのかそこへ小走りで駆ける。
コノミが向かったブースには、(やはりと言うべきか)見えてはまずい部分がギリギリ見えていないミスター・ブシドーが表示を飾っている薄い本が占めている。
「あの、すみません、MiaMiaさんですよねっ?」
コノミが話しかけたのは、パイプ椅子に腰掛けた一人の女性。
長い黒髪をおさげにして、瓶の底のような野暮ったい眼鏡をしている。
「は、はい……そうですが……」
コノミの高いテンションに少し引いているのか、おどおどしたように応じる。
「やっぱりそうですよねっ、表紙で分かりましたよ!あ、これ一冊ください」
はしゃぎながらも財布を取り出すコノミに、MiaMiaさんは「300円です」と値段を教える。
そんなやり取りを傍から見ているリョウマだが、ふとMiaMiaさんの眼鏡と前髪に隠れた顔を見る。
「あの、なんですか………?」
「……まさかと思うが、『イツヅキ・ミア』さんか?」
リョウマが名前を訊ねた瞬間、ガタタタッ、とMiaMiaさんは分かりやす過ぎるほどに椅子を蹴り倒して後退った。
「ひ、人、人違いだと、思います……っ!?」
「ほら、先月の頭辺りで、ガンプラバトル中にナイチンゲールに乱入された時にいた、白と黒の百錬を使ってた人ですよね?」
「ししし、知りませんっ、X1とデュナメスのコンビなんて知りませんからっ!?」
はわわわわわっ、と凄まじい速度で瞬きしまくるMiaMiaさん。しかも具体的なワードまで挙げているではないか。
「……俺がそのX1で、そっちの子がデュナメスですけど」
「あれれっ、もしかして一緒にチンゲを倒した時の人ですか?」
リョウマにそっちの子、と言われたコノミは大事そうにマイバッグに薄い本を納めながらも、小首を傾げた。
すると、MiaMiaさんは顔を真っ赤にしながらバンッとテーブルを叩いた。
「この界隈でリアルについて改めようとするのはご法度です、察しろ」
ズズイッ、と顔を近付けて凄んでみせるMiaMiaさん。
「OKルールは分かりました。コノミちゃん、つまりはそう言うことだ」
「つまりはそう言うことですね」
それ以上はいけない、そう理解したリョウマとコノミは踵を返して、ミヤビとチサの元へ戻った。
リョウマ達がブースから離れていくのを見送りながら、MiaMiaさん――イツヅキ・ミアは安堵して一度眼鏡を外し、冷や汗を拭ったのだった。
もうしばらく各ブースを見て回り、そろそろGBフェスタの開催時刻が近くなってきたので、一度ガンダムカフェにいるリンと合流する。涼しい場所で休んでいたおかげで、リンはいつもの調子を取り戻していたようだ。
『ご来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました。ただいまより、GBフェスタを開催致します!』
多数のバトルシミュレーターが配備された会場がライトアップされて、起動されていく。
『今年度のバトル形式は生き残りサバイバルです!オープンワールドの広大なフィールドで、強力なエネミーや数多のライバル達を打ち破り、最後の一名になるまでのバトルになります!』
すると、会場内のビルダー達のスマートフォンが一斉に着信音を告げる。
着信されたデータをシミュレーターに送信してバトルを行うので、会場外からでもオンラインで参加できると言うものだ。
リョウマ達はそれぞれバトルシミュレーターにスマートフォンを読み込ませ、続いて自分のガンプラをスキャニングさせていく。
続いて、地球上と宇宙の二局に別れた広大なフィールドが構成されていく。
「私達は最初、宇宙からのスタートになるみたいね」
「と言うことは、地球へ降りるためのオプションもどこかに隠されているようだな」
ミヤビがスタート地点を確認し、リョウマは地球へ降下するための装備はどこかと探るが、その辺りはバトル中に見つけるしか無さそうだ。
『それでは皆様、「君は、生き残ることが出来るか?」』
MCがファーストガンダムの次回予告の決まり文句を告げて、一斉に出撃開始だ。
「オウサカ・リョウマ、『クロスボーンガンダム
「シミズ・ミヤビ、『ガンダムAGE-
「ナカツ・チサ、『
「ミノウ・コノミ、ガンダムデュナメスバスターク、行っちゃいますよー!」
「カンザキガワ・リン、『ガンダムフォンロンヤー』、行くよ」
リョウマのクロスボーンガンダムEXEは、A.B.C.マントで機体を覆っているが、具体的な改造箇所は顕著だ。
右手に握るのはザンバスターのままだが、頭部に白のブレードアンテナが追加され、サイドスカートとしてガンダムヴィダールのバインダー、及びバーストサーベルを取り付けている。
これは、ビーム対して強い耐性を持つ相手へ有効打を与えるために追加したものだ。また、バインダー自体が高出力スラスターユニットなので、機動性の強化にも一役になっている。
さらに、内部にクロスボーンガンダム本来のハードポイント付きのサイドスカートに連結されているため、切り離すことで軽量化も可能だ。
ミヤビのガンダムAGE-2ndは、肩のウイングバインダーは一回り大型のものに取り替えられ、ハイパードッズライフルはバレルが追加されてさらに強力になっている。
また、左腕にはダブルオーガンダムのシールドをシグルブレイド付きのシールドとして改造して取り付けられており、格闘戦能力も強化されている。
チサの喬美麗頑駄無は、大喬ガンダムアルテミーがベースではあるが、孫尚香ストライクルージュと孫策ガンダムアストレイの武装を組み合わせ、背部に大きな"ハート"を背負ったような、『会心双鎌(かいしんそうれん)』と名付けた特殊武装を備えている。
コノミのガンダムデュナメスバスタークは、以前と然程大きな変更点は無いが、中近距離での攻撃能力を補強しており、多少武装を追加する程度に留まっている。
リンのガンダムフォンロンヤーは、やはりアルトロンガンダムがベースだが、そのカラーリングは深い紅色とサーモンピンク、白の三色をメインに塗装されており、どこか『シャア専用機』を思わせる。
ツインビームトライデントはリアスカートにマウントされ、背部のランダムバインダーは、SDCSのフェネクスのアームドアーマーDEをベースに改造されたものに取り換えられ、『
フォンロンヤーと言う機体銘も、中国語で『紅龍牙』と表記することから名付けられている。
まずは足並みを揃えて、五人は状況を確認する。
「多数のCPU機と、他の参加者を同時に相手取る、か。なかな
か大変だが、やり甲斐はあるな」
ルールを改めて見通すリョウマ。
「とかなんとか言ってる内に……ってうわっ、めっちゃ来てますっ」
索敵範囲の広いコノミのガンダムデュナメスバスタークが、多数の敵機接近を真っ先に察知する。
コノミはすぐさまウェポンセレクターを開き、ロングGNランチャーを展開、腰溜めに構えると、
「デュナメス、ミノウ・コノミ、目標を狙い撃つぜ!」
ロックオンカーソルをマニュアルで合わせつつ、コノミは迷いなくトリガーを引き搾り、ロングGNランチャーを放った。
高濃度の粒子ビームは彼方へ吸い込まれ――爆発の連鎖を巻き起こした。
だが、それだけで全滅したわけではない。
一拍を置いて、視界を埋め尽くさんほどのザクⅡが現れ、一斉にザクマシンガンやザクバズーカで射撃を行ってくる。
「いきなりとんでもない数だな……が、数だけいたってな」
続いてリョウマもウェポンセレクターを回してビームザンバーを選択すると、各部のスラスターを点火、ザクⅡの大群の中へ突っ込んだ。
砲火弾幕を掻い潜り、一気に間合いを詰めるとビームザンバーを振るい、複数のザクⅡをまとめて両断してみせる。
「さすがオウサカくんね。私達も負けてられないわ、チサちゃん!」
「う、うんっ」
ミヤビの呼びかけに、チサも緊張に声を上擦らせながらも頷く。
ガンダムAGE-2ndはストライダーフォームへと変形し、その上に喬美麗頑駄無が乗り込むと同時に、ハイパーブーストによる爆発的な加速と共に敵中堂々と突入していく。
「突破口を開く!」
ビームバルカンとハイパードッズライフルを連射し、前方への道を切り開いたところへ、喬美麗頑駄無はガンダムAGE-2ndから降りて、背部の会心双鎌を抜き放ち――それは二振りの多節鞭のようにしなやかに翻る。
本来ならチャクラムである武器を、鞭状の武器として組み込んでいるのだ。
「実験は何度もしてるけど……うまく行ってよ!」
喬美麗頑駄無は、ガンダムエピオンのヒートロッドのように会心双鎌を振るい、取り囲もうとしてくるザクⅡを薙ぎ払っていく。
「はいはいはいっ、いつもより狙い撃っておりますよーっ!」
その背後からは、ガンダムデュナメスバスタークがロングGNランチャーでなく、原典機本来のGNスナイパーライフルを発射してはすぐさま狙いを付け直してまた発射を繰り返し、無駄無く着実にザクⅡを減らしていく。
しかしそれでもザクⅡの数は多く、徐々にガンダムデュナメスバスタークへ近付いてくる機体も増えてくるが、
「それじゃぁ、やってみようかな」
雲霞のごとく迫りくるザクⅡを前に、リンはやはり平静だ。
ガンダムフォンロンヤーはリアスカートからツインビームトライデントを抜き放ち、弾幕の中へ躍り出る。
斬り払い、突き出し、薙ぎ払い、双頭刃である武器の利点を最大限活かすように乱戦へともつれ込ませ、距離を置こうとするザクⅡにはドラゴンハングの火炎放射で絡め取り、アームドアーマーDEのメガキャノンで撃ち抜いていく。
初っ端から破竹の快進撃を続けるリョウマ達だが、ふとレーダーから『WARNING!!』の赤いテロップが横切る。
新たに出現した反応には、さらなるザクⅡの大群と、その中心にいるのは赤い角付きのザクⅡ――シャア専用ザクだ。
「この群体のエース機か?」
真っ先にその姿を捉えたリョウマは、周囲のザクⅡを一蹴し、一直線へシャア専用ザクの元へ駆ける。
ザンバスターを連射してザクⅡの数を減らし、擬似的な一対一の戦いに持ち込む。
するとシャア専用ザクは巧妙な機動を取りながらもザクマシンガンを連射、周りのザクⅡとは比較にならないほど正確な射撃は、クロスボーンガンダムEXEを捉える。
「チッ、さすがにエース機は強いな」
避け切れないと即断し、リョウマはウェポンセレクターからビームシールドを選択し、左腕から発生させて120mmの銃弾を防ぐ。
ザクマシンガンを連射しつつもヒートホークを抜き放ったシャア専用ザクは、ビームシールドの防御範囲外を叩き斬ろうと迫りくる。
リョウマはすぐさまビームシールドを解除し、下方から振り上げられるヒートホークをビームザンバーで迎え撃つ。
一撃、二撃、三撃とビームザンバーとヒートホークが打ち合い――不意にシャア専用ザクはリョウマの視界から消える。
だが、
「目では追えなくても、身体の反射が追い付けばな!」
死角から仕掛けてくると予測していたリョウマは、操縦桿を跳ね上げてクロスボーンガンダムEXEを急上昇させる。
その0.5秒後に、リョウマの死角へ回り込んでいたシャア専用ザクはヒートホークを薙ぎ払うが、上昇したクロスボーンガンダムEXEには当たらずに空振りする。
シャア専用ザクはバッと視界を上に向けると、
そこにはビームザンバーではなく、細剣――バーストサーベルを突き立てようとしているクロスボーンガンダムEXEが見えた。
素早くヒートホークで受けようとしたシャア専用ザクだが、バイタルバートを正確に狙った刺突をヒートホークの面積では防ぎようがなく、バーストサーベルの切っ先はシャア専用ザクのボディを貫き――柄から刃が切り離されると同時に、サーベルの刀身が炸裂し、シャア専用ザクを粉々に吹き飛ばした。
シャア専用ザク、撃墜。
すると、エース機の撃破によってザクⅡの大群は次々に消失していく。
「ふむ。まずはザコの数を減らして、後からやって来るエースを倒せば群れを撃退出来るようだね」
このサバイバルバトルの仕組みをそう読み取ったリンは、ドラゴンハングで拘束していたザクⅡをそのまま握り潰した。
「それならここだけじゃなくて、他のエリアも似たようなことになってるってことですよね」
大して消耗していないミヤビは、一応周囲を警戒しつつそう頷く。
「でもでも、この調子なら何とか頑張れそうだね」
楽観視するにはまだ早いものの、戦えたことで少し自信が付いてきたチサは胸を撫で下ろす。
「さてさて、どさくさに紛れて他の参加者を狙い撃ちに……」
ずる賢くも、コノミはガンダムデュナメスバスタークのガンカメラにGNスナイパーライフルを通し、群体と戦っている者を狙撃しようとするが、
………………
…………
……
周囲に他の反応は見えず、また新たな群体が現れることもない。
「ローディング中かしら?」
ミヤビは小首を傾げつつもうしばらく待つものの、やはり動かない。
「フリーズ、にしては変だよね」
チサも喬美麗頑駄無をキョロキョロさせて辺りを見回している。
「この感じ……」
やけに静かな時間に、長いローディング……そう、バウンド・ドックが乱入する直前の時と状況が酷似していることに、リョウマは警戒を強めつつ、一旦バーストサーベルをサイドバインダーに納め、ザンバスターと持ち替える。
ふと、新たな群体の反応をレーダーが捉えた。
「あ、単にローディングが長いだけでしたね」
コノミは気を楽にして再び狙撃の構えを取る。
彼方から接近してくるのは、ジムの群体。
ジムと言うことは、エース機は連邦系のガンダムタイプだろうか。
だが、リョウマはなおも警戒を解かず――それが幸いしたか、この危険に真っ先に気付いた。
「全機っ、回避しろッ!!」
リンに対する敬語など使い分けている余裕はない、命令口調で叫ぶように仲間達へ危険を伝える。
次の瞬間、
ジムの群体を殲滅するほどの、激しいビームの雨が一帯を貫いた。
「ッ……一体何がっ?」
リョウマが注意喚起してくれたおかげでどうにかビームをやり過ごせたミヤビは、ビームの雨が放たれた方向を見やる。
その反応は、たったの一機。
『くくっ、ようやく相見えたな……』
彼方に見えるは、優雅さと歪さと言う相反する二つを兼ね備えた、美しき純白と――その内側に潜む深紅の異形。
『今日こそお前に引導を渡してやる……』
キュベレイをベースとした改造機……ではあるが、各部にヴェイガン系MSを始めとするパーツが多数見られる。
その芸術的とさえ言える完成度から滲み出るプレッシャーは半端ではない。
『さぁ俺と戦え、オウサカ・リョウマァ!!』
そのキュベレイの改造機――『グランデュークキュベレイ』は、クロスボーンガンダムEXEを視界に捉えると、猛然と襲い掛かってきた。
「このキュベレイ……テンノウジ・ミカドか!」
リョウマは即座にザンバスターを連射してグランデュークキュベレイを牽制するが、その機動性は相当に高く、牽制にもならない。
反撃に両腕のビームガンを撃ち返すグランデュークキュベレイだが、そのビームの出力も半端ではない、回避するクロスボーンガンダムEXEのA.B.C.マントの端を掠めただけでその部分が焼き切れてしまう。これほどまでの威力では、直撃には耐えられないだろう。
「油断なんざするつもりはないが……厳しい戦いになりそうだ」
リョウマは操縦桿を握りして気を引き締める。
「なんであの人が……オウサカくんっ、援護するわ!」
「わわっ、わたしもっ………!」
「ではではわたしも援護しますっ!」
「ん、見るからに強そうな相手だね」
ミヤビ、チサ、コノミ、リンの四人も、突如として現れたミカドのグランデュークキュベレイと対峙しようとする(リンだけは援護というよりは自分が率先して戦うつもりのようだ)が、
『おっと、せっかくの勝負だ。邪魔しないでもらおうか』
グランデュークキュベレイはミヤビ達の機体を一瞥し、その周囲から四つのゲートが現れ、中からガンプラが出撃してきた。
その四機とは、
バウンド・ドック
ガンダムグレモリー
ナイチンゲール
ガンダムダブルオースカイメビウス
以前にリョウマ達が戦った乱入者の機体だった。
『さぁ行け!かつてガンプラの価値も分からず、金に目を腐らせた転売ヤーどもに買い叩かれ、作られもせずに盥(たらい)回しにされてきたガンプラ達よ!今こそお前達の真価を見せつけ、転売ヤーにエサを与えてきた奴らに反省を促す時だ!』
ミカドのその言葉に応じるかのように、各々のアイカメラを閃かせるAI制御されたガンプラ達。
『ガンプラの転売は、転売ヤーへの課金は、犯罪である!!』
瞬間、バウンド・ドックはガンダムAGE-2ndに、ガンダムグレモリーは喬美麗頑駄無に、ナイチンゲールはガンダムデュナメスバスタークに、ガンダムダブルオースカイメビウスはガンダムフォンロンヤーに、それぞれ立ち塞がった。
その光景を尻目に見たリョウマは、ここ直近までの乱入被害の主犯者が誰かを察し取った。
「あの四機……まさかあんたが例の乱入被害の、加害者だったとはな。何故そうまでして俺を憎む!無関係な人間まで巻き込んで!」
クロスボーンガンダムEXEはザンバスターの銃口を向け、同時に、グランデュークキュベレイもビームガンを向けた。
『俺は、強くあり続け、勝ち続けるしかなかった』
不意に、先程までの饒舌さとは違う静かな声色に変わった。
『一昨年のGBフェスタで優勝した俺は、模型業界でも期待され、あたかも英雄のように持て囃された。それはいい』
「それが、あんたの恨み辛みとどう関係するんだ」
『この年を優勝したなら、もちろん次の年も優勝するだろう、と。勝手にそう決め付けられながらも出場した。そして俺に楯突いたのは、去年のお前だ』
「だからそれが何だと……」
『そう、俺はお前に敗れた。そうしたらどうだ、俺を持ち上げて勝手に期待していた奴らは、一斉に手のひらを返したように俺をバッシングして、無能の烙印を押した!何が期待の新人だ!何が最強のダークホースだ!お前らが求めていたのは新しい人材じゃなくて、ただの偶像崇拝の対象だろうが!?』
ミカドの吐き出す激情を、リョウマは理解出来てしまう。
向こうから勝手に期待してヨイショしておきながら、いざ活躍が見られなければ即座に捨てやり、追いたてる……あまりにも理不尽だと、そう言いたいのだろうと。
『だから俺はお前が許せん……俺から栄光を奪った、オウサカ・リョウマを二度と立ち上がれなくしてやると、そう決めた!!』
理解は出来る。
だが、
「……くだらないな、ようするにただの怨念返しか」
『怨念返しの何が悪い!俺はこの一年をそうして生きてきた!お前の「くだらない」なんて一言だけで収まるものかよ!』
「シミズさん……妹さんがあんたと縁切りをしたかった理由が分かったって言ってるんだ」
『妹は無関係だろうが!!……ふん、戯言はここまでだ』
遊んでやる、とミカドは口にすると、グランデュークキュベレイはバッと背面のファンネルコンテナを展開し、
『ファンネル!』
ファンネル達が一斉に放たれ、クロスボーンガンダムEXEへと襲い掛かる。
「くだらないとは言っても、そう楽な相手でもないんだが、なっ!」
リョウマは操縦桿を振り回して四方八方からのビームを掻い潜りつつ、グランデュークキュベレイへの接近を試みようとする。
しかし、ファンネルから放たれるビームもまた出力が高く、掠めるだけでもA.B.C.マントが焼け爛れる。
「チッ……だが動きが読めてきたぞ、そこッ!」
クロスボーンガンダムEXEは素早くザンバスターを明後日の方向に放ち、回り込もうとしていたファンネルの一基を撃ち抜き、さらに別方向へバルカンを速射してファンネルをもう一基破壊する。
『ハハハッ!いいぞいいぞ、お前が俺に力を見せて拮抗してみせてこそ、俺の力は本物だと証明される!』
ファンネルだけでなく、腕部ビームガンも連射してさらに攻めたてるグランデュークキュベレイ。
「……機体は改良されても、使い手の"質"までは変わらないようだな!」
最初こそビームの出力に圧倒されかけたが、攻撃パターンそのものは去年戦った時とそう変わらない、とリョウマは見ていた。
「で、あれば、こうだ!」
すると、リョウマの操縦桿を振るう手付きが変わり、クロスボーンガンダムEXEのフェイス部が開き、強制放熱が開始される。
緩やかなドローイングを描くそれが、突如切り刻むような鋭角を描き始めると――
『ん!?』
ミカドの見るモニター上で、クロスボーンガンダムEXEが
『
レーダー反応は、クロスボーンガンダムEXEの反応が現れたと思えば、『一瞬だけ二体に増えてから』消えてはまた現れてを繰り返してグランデュークキュベレイへと迫ってくる。
不可解とも言える現象……そのからくりを、ミカドは瞬時に見抜いた。
『
このガンプラバトルシミュレーターは、コントローラーたる操縦桿が動くことで読み取られたガンプラが挙動し、その挙動の後に反応する形で相手のシミュレーターが読み取り、モニターにその動きが反映される。
反応してから読み取られ、モニターに投影されるまでの、ほんのゼロコンマ以下のタイムラグを『瞬時に重複させる』ことでシミュレーターの反応に"ズレ"を発生させるのだと、見たのだ。
『M』と『W』のアルファベット二文字を、右手と左手でそれぞれ同時に、なおかつそれを何度も高速で描くような人間離れした操縦技能と、スラスターユニットを物理的に偏向させることが出来るクロスボーンガンダムでなければ為し得ない機動だ。
そんな超人的とも言える操縦を実行可能なリョウマもだが、それを初見でほぼ見抜いてみせるミカドも相当に超人的だ。
「い、ま、だッ!」
ビームガンとファンネルからのビームの、針の穴のような隙間を見抜き、リョウマは操縦桿を押し出してクロスボーンガンダムEXEを突撃させた。
A.B.C.マントを掠めながらも弾幕を突破し、ついにグランデュークキュベレイの喉元へ迫る。
『嘗めるな!』
グランデュークキュベレイは袖口からビームサーベルを抜き放ち、同じくビームザンバーを抜いたクロスボーンガンダムEXEと斬り結んだ。
ガンダムダブルオースカイメビウスが振るうレーザー対艦刀に、ガンダムフォンロンヤーはツインビームトライデントで迎え撃つ。
弾き返し、返す刀でツインビームトライデントを振り返すガンダムフォンロンヤーだが、それよりも先にガンダムダブルオースカイメビウスは飛び下がりつつ、左翼のビームランチャーを放とうと砲身を展開、高濃度の粒子ビームを照射する。
「Iフィールド……で、合ってたかな?」
瞬時、ガンダムフォンロンヤーの背部一対の羽鱗が自立機動し、機体を守るように立ち塞がると、その中央基部から強力なバリアを発生させ、粒子ビームを弾き返す。
アルトロンガンダムがベースであるものの、アームドアーマーDE自体の性能によって短距離ならば無線で遠隔操作させられるのだ。
ビームを弾き返すと同時に羽鱗を呼び戻し、即座にドラゴンハングを展開、ガンダムダブルオースカイメビウスを咬み砕こうと迫るものの、
その寸前でガンダムダブルオースカイメビウスは紅く発光したと思えば、突如
「!?」
ドラゴンハングを空振りしたリンは、何が起こったのか目を見開く。
それは、ダブルオーライザーの安定したツインドライヴによるトランザムを起動した際に起こり得る現象『量子化』だ。
リョウマのような処理速度の齟齬を意図的に発生させるものではない、原作でも詳しいことは何も明かされていない、正真正銘の魔法のような現象だ。
後の捕捉として、その正体は量子ジャンプの一種――つまり、テレポートであるとされていたが、原理やメカニズムなどはやはり謎のままである。
量子化の事など何も知らないリンは、瞬時にそれを「よく分からないがどうやらそんな感じのシステム」と仮定し、
「なら後ろか」
次に来るのは死角からだと予測判断――それは正しかったようで、背後からレーザー対艦刀を振り下ろそうとしていた、『紅く輝く』ガンダムダブルオースカイメビウスに向けてもう片方のドラゴンハングを伸ばし、殴るようにレーザー対艦刀を弾き返した。
「トランザムってアレか。……だとしたら、ちょっと厄介かな」
通常状態による一対一でどうにか互角に戦えるかどうかなのだ、その上からトランザ厶を使われようものなら、一気に形成を逆転される。
事実、リンはガンダムダブルオースカイメビウスの、残像が映るような速度を前に後手に回るのが精一杯だ。
ツインビームトライデントや羽鱗でどうにか攻撃を凌ぐが、それが長く保たないのは時間の問題だ。
この広大な宇宙空間は、ナイチンゲールの性能をフルに活かせると行っても過言ではない。
全身の姿勢制御バーニアによる高機動と、放たれる大出力のファンネルによる波状攻撃は、足を止めて狙撃をしたいコノミのガンダムデュナメスバスタークとの相性はまさに最悪。
GNビームピストルを両手に備えて連射し、どうにかファンネルを寄せ付けないよう立ち回るコノミだが、
「ちょっちょっちょっ、ひぇっ、さすがにキッツいですよ!?」
迎撃、回避、防御の三択を違えることなく正解を選び続け、しかもそれが絶え間無く襲って来るのだ。
切り札であるトランザムを切るべきかと思い掛けたコノミだが、トランザムで機体性能を時限強化したところで勝算はあるかと自問自答しても――ナイチンゲールを撃破する前に限界時間を迎えるのが先だと分かってしまう。
「だ、誰かご助力を……!」
縋るように先輩達に助けを求めるが、
「ごめんっ、今はちょっと無理かも……!」
「そそ、それよりわたしを助けてほしいんだけどっ……!」
「……だそうだよ、一人で頑張って」
ミヤビとチサはそれどころではなく、リンはリンで自分の敵の相手に手一杯。
なおも遠くで二重螺旋を描きながら戦うリョウマは言わずもがなだ。
「そんなぁ!?」
ビームトマホークを抜き放ってくるナイチンゲールに、ガンダムデュナメスバスタークも右のGNビームピストルを捨てて、GNビームサーベルを抜いて迎え撃つ。
まともに打ち合わずに、弾き返されるように距離を取ろうとしたコノミだが、即座にナイチンゲールのフロントスカートから隠し腕ビームサーベルが振るわれる。
咄嗟に左肩のGNシールドで受けるが、一撃受けただけで表面が斬り裂かれてしまう。二撃目は耐えられないだろう。
「一人でなんとかするしかないのは、分かってるけどぉっ!」
GNシールド裏のGNミサイルランチャーを発射しつつ、泣きそうになりながらも、迫りくるナイチンゲールを必死に喰い下がるコノミ。
いきなり阿頼耶識システムのリミッターを解除して、デュアルアイを紅く揺らめかせながら襲い来るガンダムグレモリーの、嵐のごとく振り回されるバトルアンカーの乱撃の前に、チサの喬美麗頑駄無は両手に握る会心双鎌を駆使し、どうにか、本当にどうにか撃墜されないよう立ち回るしかなかった。
「うー、急に強くなるのをいきなり使ってくるなんてぇっ」
なんかズルい、と文句をぼやいたところでAIが聞いてくれるはずもない、今すぐにでもバトルアンカーで喬美麗頑駄無の首を落とそうと迫ってくるのだから。
バトルアンカーの重い一撃をガードしても吹き飛ばされ、会心双鎌で絡み付かせても力尽くで振り払われ、逃げようにもリミッターを解除したガンダムフレームの速度を振り切れるはずもない。
会心双鎌による反撃を試みようにも、苛烈極まる攻撃を前に防戦一方にならざるを得ない。
完全に手詰まりだ。
振り抜かれるバトルアンカーの重撃を、会心双鎌の曲線を活かしてどうにか受け流し――その0.5秒後にはいつの間にか背後に回り込まれ、蹴り飛ばされてしまう。
「はぅっ」
体勢を崩したところへ腕部機関砲が追い討ちをかけ、決して小さくはないダメージが装甲に嵩む。
会心双鎌で銃弾を防ぎつつ体勢を立て直そうと――した瞬間にはすぐ目の前にバトルアンカーが振り下ろされてくる。
体勢の立て直しよりも回避を優先し、喬美麗頑駄無を強引に躱させる。
今のチサに出来るのは、時間を稼いで援軍を待つだけだった。
ビームライフルと拡散メガ粒子砲の波状攻撃を前に、ミヤビのガンダムAGE-2ndもまた防戦一方であった。
ストライダーフォームによる高機動も、バウンド・ドックもまた変形することでそのアドバンテージを相殺している。
その上、バウンド・ドックの性能もまた、以前にショッピングモールで見えた時と比較しても性能が上がっているときている。
「……くっ」
肩のウイングにビームが掠めた。
以前ならばリョウマのクロスボーンガンダムX1が共に戦ってくれたから何とかなったものの、今はリョウマはおろか他の仲間達も自分と相対するガンプラの相手をしており、とてもではないが救援は期待出来なさそうだ。
ミヤビは操縦桿を捻り返して機体を反転させ、敢えてバウンド・ドックと向き合うように突撃させる。
連射されるビームライフルを搔い潜り、ある程度接近したところでストライダーフォームの速度を維持したままMS形態へ変形、バウンド・ドックへ接近戦を仕掛ける。
「えぇぃッ!」
シールドのシグルブレイドで斬りかかるが、バウンド・ドックは右腕のクローアームでそれを受け、殴るように弾き返した。
しかしそこまではミヤビの想定内だ、弾き返された勢いを逆利用するように機体を翻させ、右マニピュレーターにはビームサーベルを抜き放ち様に突き出す。
が、バウンド・ドックはビームサーベルの刺突に対して脇の下を潜らせるようにやり過ごし――即座に回し蹴りでガンダムAGE-2ndを蹴り飛ばす。
「強、いっ……!」
震動するモニターと操縦桿に顔を顰めながらも、ミヤビは然とバウンド・ドックを見据える。
まだ、勝機はあるはずだと。
リョウマのクロスボーンガンダムEXEは、依然としてミカドのグランデュークキュベレイと激戦を続けている。
シミュレーターの反応をズレさせるほどの戦闘機動だが、当然ながらそれは短時間で連続で行えるものではない。
実質的にスラスターの消耗を倍化させるような機動だ、連続で行えば一瞬でオーバーヒートしてしまう。
リョウマは、そのオーバーヒートをしないギリギリのラインを保持しつつ、なおかつグランデュークキュベレイからの攻撃を見切りつつ、その上で自らが攻撃する算段も立てなくてはならない――尋常ではないどころか、気を抜けば精神が狂うようなレベルの集中力だ。
互いの距離が開き、リョウマは一瞬だけ集中を切ってクロスボーンガンダムEXEを通常のマニューバに戻す。
対するグランデュークキュベレイも大した被弾はしていない。
双方とも苛烈に攻撃しては反撃を繰り返しているのだが、それらは全て互いに相殺している。
「(長期戦じゃこっちが不利だ……皆の救援に向かいたいが、そうはさせてくれないな)」
『どうしたオウサカ・リョウマ、もう終わりか?』
ミカドからの挑発的な通信が届くが、リョウマは敢えて溜息混じりに応じる。
「終わりだと思ったならさっさと帰れ。俺はガキンチョの面倒を見てやれるほど暇じゃないんでな」
『……そうやってお前はまた他人を見下す!まるでアムロに敗北したシャアのようだな!』
あんたがそれを言うのか、と心底で嘯くリョウマに、グランデュークキュベレイは再び距離を詰めようとして、
不意に明後日の方向からアラートが鳴り響き――それは猛烈な速度と共にグランデュークキュベレイへ迫り来る。
『なんだ……キマリスか?』
そこへ現れたのはティターンズカラーのガンダムキマリスだった。
携えたグングニールによる突進を仕掛けるが、グランデュークキュベレイはひらりと機体を翻して躱してみせるが、
ガンダムキマリスはそこで反転せずに、真っ直ぐにクロスボーンガンダムEXEの元へ向かっていく。
「俺様見参!遅くなって悪いねリョウマ」
ガンダムキマリスの使い手は、やはりハルタだった。
「ハルタ、地球からのスタートだったのか?」
「シャトルを探すのに手間取ってね。それより、ご依頼の品だよ」
するとハルタのガンダムキマリスは、左手に持っていたそれをクロスボーンガンダムEXEに投げ渡した。
それは、ドクロレリーフが埋め込まれた大剣――ムラマサブラスターだ。
「ありがとな。……これでようやく反撃が出来る」
ザンバスターをリアスカートに収めて、空いた右マニピュレーターでムラマサブラスターを取り、セーフティを解除、刀身側部から十四ものビームサーベルが発振される。
「行くぞハルタ!」
「応!」
クロスボーンガンダムEXEとガンダムキマリスは、同時に加速してグランデュークキュベレイへ突撃する。
結末の時は近い――。
【次回予告】
ミカド「何故勝てない!?これほどの力を使っているのに、どうして倒せないんだ!?」
リン「諦めない限りは負けじゃないと言いたいけど、キツイものはキツイね」
コノミ「でもでもっ、だからって諦めたらそれこそどうにもなりませんしねっ!」
チサ「な、なら、わたしももうちょっとだけ頑張る!」
ミヤビ「私達はあなたなんかに負けたりしない!」
リョウマ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー」
リョウマ・ミヤビ・チサ・コノミ・リン「「「「「響き合い宇宙」」」」」
リョウマ「この戦いも、あんたとの因縁も、ケリを付けてやる!!」