ガンダムブレイカー・シンフォニー   作:さくらおにぎり

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3話 新人教育、始めます

 ショッピングモールで一悶着起きたバトルを行ったその日から数日。

 ミヤビの『謎の美少女転入生』と言うレッテルは徐々に剥がれ始め、今ではすっかりクラスの一員であり、なおかつチサを通じての女友達もその数を増やしている。

 

 ある日の学園の昼休み。

 いつもなら弁当を持参しているリョウマは、昼食時はチサと、最近になってミヤビとも一緒に過ごすことが多いのだが、今日はハルタを呼び出して、昼食に誘っていた。

 弁当ではなく、食堂での食事だ。

 

「俺様は美少女以外からのお誘いは受けない主義だけど、リョウマには今回だけ特別だ。感謝するんだね」

 

「はいはい、ありがとうな。感謝感謝」

 

 自尊心極大なハルタの言葉を受け流しつつ、リョウマは注文した日替わりランチ二人分をテーブルに置いた。

 いただきます、ときちんと告げてから食を進める男子二人。

 

「それで、リョウマがわざわざ俺様を呼び出すんだ。何かあったのかい?」

 

 ある程度のところで、ハルタは本題を切り出した。

 

「さすが、察しがいいなハルタ」

 

「俺様とリョウマの仲だからねぇ。で、内容は?」

 

 お冷を一口喉に通してから、リョウマは話し始めた。

 

 先週の土曜日、ショッピングモールに赴いて、チサとミヤビとの三人でガンプラバトルのミッションモードを攻略中、正体不明のバウンド・ドックに介入されたことを。

 

 それを聞き終えてから、ハルタはその目を"黒く"した。

 

「リョウマ。それはなんだ自慢か?自慢のつもりかい?」

 

「今のどう曲解したら自慢になるんだ」

 

「シミズさんとチサちゃんと言う美少女二人を左右に侍らせてガンプラバトルなんて、まさに両手に花じゃないか。どっちだ?どっちが本命なんだ?」

 

「……お前に相談した俺がバカだったよ、悪かったな」

 

「それは聞き捨てならないことだけど、今は置いておこう。い・ま・は・な」

 

 茶番を挟んでから、ハルタは真面目に考察する。

 

「まぁ、いくつか思い付く事柄はあるんだけど、最も近いとすれば……」

 

 ふむ、とハルタはお冷を一口啜ってから言葉を整理する。

 

「不正なアクセスによるただの初心者狩り……じゃないだろうね。ライトユーザーのチサちゃんはともかく、リョウマのX1がいると分かって初心者狩りを仕掛けてくるとは思えない」

 

 例えば、ミヤビとチサの二人だけなら初心者狩りもしやすいだろうが、リョウマのクロスボーンガンダムX1の完成度を見れば初心者どころでは無い、むしろ返り討ちに遭うのは火を見るより明らか。

 初心者狩りを行うような輩は、弱い者いじめが基本であって、見るからに格上の相手は避けるものだ。

 

「リョウマのX1ぐらいなら何とかなるとでも思って仕掛けたのか、まぁ初心者狩りをするような噛ませ犬がリョウマに勝てるわけないけど、或いは……」

 

 ハルタは、浮上していた別の可能性を口にする。

 

「ターゲットは初心者じゃなくて、()()()()()()()()()のかもしれないね」

 

 初心者狩りではない、しかし特定の誰かを狙った介入かもしれない、とハルタは言う。

 

「だったら、何が理由で……」

 

「それを俺様に訊かれても困る。不正アクセスしたご本人に訊いてくれとしか言えないね」

 

 そう言ってハルタは自分の食を進め直し、リョウマもそれに倣うように食事を再開する。

 

「まぁ……チサちゃんやシミズさんに害が及んでも気分が悪いし、俺様の方で取れるだけの裏は取ってみるけど、期待はしないでくれよ」

 

「すまん、頼んだ」

 

 何だかんだとありつつも、こう言う時には力を貸してくれるのがナガイ・ハルタと言う人間だ。

 

 

 

 放課後、リョウマはまっすぐに『甘水処』へ直行していた。

 長らくクロスボーンガンダムX1を使い続けていたリョウマだが、そろそろ本格的な改造を考えている。

 そのための素材探しに行くのだ。

 

『甘水処』の自動ドアを潜った時、早速アイカが出迎えてくれた。

 

「おぉ、リョウマか。ちょうどいいところに来たな」

 

「なんだまた何か面倒事を押し付けるのか」

 

「お前はアタシをなんだと思っとるんだ」

 

 目を合わせて一番、遠慮のない会話。

 ここの常連客にとってはもはや日常茶飯どころか、店内BGMのようなものだ。

 

「それは置いておいてだ。まぁとりあえず話を聞けそして聞いたら逃さん」

 

「じゃぁ話は聞かないからさよなら」

 

 くるりと回れ右をしようとするリョウマだが、アイカは即座にガンダムヴァサーゴのごとく手を伸ばしてリョウマの頭をむんずと鷲掴む。

 

「実は、近々にアルバイトを雇うつもりでな……」

 

「……あー、あー、俺は聞いてない。正義と信じ、分からぬと逃げ、知らず、聞かず、その終局の果てがこれだ」

 

 ラウ・ル・クルーゼの怨嗟とも言える台詞回しを使いつつなんとか逃れようとするが、どういうわけか『足の裏が床を付いていない』。

 

「そのアルバイトの新人教育、お前に任せた」

 

「……あのすまん、俺に拒否権は?」

 

「アタシの辞書に拒否権などと言う三文字はない」

 

「解 せ ぬ」

 

 なんて横暴な人なんだ、いや知っていたが、とリョウマはぼやいて、早々に『話を聞くことにした』

 

「とりあえず頭から手を離してくれ、足が浮いてるんだが」

 

「うむ、良きに計らうとしよう」

 

 パッとアイカが握力を弱めると、ストンと床に降ろされる。

 

「……アルバイトの新人教育をしろとのことだが、従業員でもない人間がそんなことやっていいのか?」

 

 そう、リョウマはあくまでも顧客の一人であり、製作代行を承ることはあっても、従業員として時給を得ているわけではない。

 例え今からリョウマが『甘水処』の従業員として就業するにしても、新人が新人を教育すると言う、それは果たして新人教育になるのか怪しいところである。

 だがそれを問われてもアイカはそれを撤回しない。

 

「お前、この店の商品知識は?」

 

「……まぁ、それなりには」

 

「バトルシミュレーターのシステムチェックは?」

 

「……やろうと思えば出来るが」

 

「レジやハンドスキャナー、ストアコンピュータの使い方は?」

 

「……他ならぬあんたが無理矢理教えたんだろう」

 

 その答えを聞いて、アイカはにっこりと笑顔を浮かべてサムズアップした。

 

「パーフェクトだ。まさに天職じゃないか。やったな」

 

「ア ン タ っ て 人 は ……」

 

 まさかこの時のための準備だったんじゃないだろうなと嘆息をつくリョウマに、アイカはぽんぽんと肩を叩く。

 

「まぁそう不貞腐るな、時給はちゃんと出してやるさ」

 

「そう言う問題じゃないんだが……あぁもういい面倒だ、やってみせればいいんだろう」

 

「偉い、よく言った。それでこそリョウマだ」

 

 うんうんと頷くアイカだが、彼女はさらなる追い打ちを掛けてくる。

 

「面接等は既に済んでいるし、即日採用だ。と言うわけで、明日から頼んだぞ」

 

「あ、明日からァ!?」

 

 おいちょっと待てこら、と思わず一歩前に出るリョウマ。

 

「あのな、俺がいくらこの店に通ってるからって、全部を全部把握してるわけじゃないんだぞ!?」

 

「そんなものは百も承知だ。アタシとて全てを常時把握してるわけがなかろう」

 

 何を言うとるんだ、と言いつつアイカは引き出しの中からひとつの冊子を取り出して、『新人教育マニュアル』と書かれたそれをリョウマに手渡す。

 

「それがマニュアルだ。ちゃんと読んでくるんだぞ」

 

「一夜漬けで覚えてこいってか……」

 

 なんと無茶な注文をする、とリョウマはそれを鞄に納める。

 

「ったく、俺も随分と損な役回りをさせられたもんだ」

 

 アイカに聞こえやすいように憎まれ口を叩くが、当の彼女は聞こえているのかいないのか、ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべるだけ。

 舌打ちしたくなる苛立ちを抑えつつ、新人教育マニュアルを読むために帰宅する。

 

 クロスボーンガンダムX1の改造素材のことをすっかり忘れていたと気付くのは、帰宅して自室に入ってからであった。

 

 

 

 翌朝。

 いつものように迎えに来てくれたチサと共に通学路を歩むリョウマは、欠伸を堪えきれなかった。

 

「今日のリョウくん、すごい眠そうだけど……大丈夫?」

 

「睡眠時間は多く見積もって三時間。顔を洗ってスッキリしても目が重い。春眠暁を覚えずと言う言葉がこれほど理解出来る日はない。控えめに言って眠い」

 

「うーん……大丈夫くないのは良く分かったかなぁ?」

 

 チサが困ったような顔をするのを見て、リョウマは目を擦った。

 

「昨日、『甘水処』に行ったらアルバイトの新人教育をしろと命令されて、そのマニュアルを読んでたらいつの間にか丑三時が過ぎていた」

 

「アルバイトの新人教育?リョウくん、『甘水処』でアルバイトするの?」

 

「いや、微妙に違う。俺がアルバイトをするんじゃなくて、新人を俺が教育することになった」

 

 まぁ俺がバイトすることにもなるんだろうが、と付け足すリョウマ。

 

「え?リョウくんが新人さんを教えるの?だってリョウくん、あそこのバイトさんじゃないのに?」

 

 なに、どう言うこと、とチサは瞬きを繰り返す。

 

「つまりはそう言うことだ」

 

「つまりどう言うことなの」

 

「……要約すると、『アイカさんから面倒事を押し付けられた』」

 

「な、なるほど?」

 

 つまり、リョウマにとってはいつものことである。それで事を察せるチサも大概だが。

 

「今度製作代行頼まれたらぼったくってやる」

 

 いくらまで釣り上げてやろうかと本気で考えるリョウマを、チサは慌てて諌める。

 

「ぼ、ぼったくりは良くないけど、もうちょっと貰ってもいいと思うよ」

 

「せめて内容に見合った金額にはしてもらう……」

 

 リョウマはもう一度盛大に欠伸をして、今日の授業は大変だと思わざるを得なかった。

 

 

 

 授業中に何度も船を漕ぎかけては正気を取り戻してを繰り返し、どうにか折り返しの昼休みになった。

 

 教室の一角で、リョウマとチサが二人でこじんまりと弁当を広げているところへ、ミヤビも混ざってくる。

 

「今日は朝からずっと欠伸連発してるけど……オウサカくん、大丈夫?」

 

 昼食時だと言うのにやはり欠伸ばかりのリョウマを見かねて、ミヤビは声をかける。

 

「あんまり大丈夫じゃないな」

 

 これ食べたらまた眠くなりそうだ、とリョウマは弁当にありつき始める。

 

「リョウくんね、今日から『甘水処』でアルバイトの新人教育するらしくて、その準備で夜遅くまで起きてたんだって」

 

 大丈夫じゃないその理由をチサが代弁してくれた。

 

「新人教育?オウサカくんって、あそこで働いてるの?」

 

「厳密には従業員としての雇用形態を取ってない。ただのお手伝いサービスって言うべきか?アルバイトでもない人間が新人教育を任されたってことだ」

 

「……なんだか凄くダメなことをしてると思うのは私の気のせい?」

 

「法的には色々とまずいんだろうけど、多分『家業の手伝い』くらいの認識で処理されるのがオチだろうな……」

 

 今から気が重い、とリョウマは欠伸と溜息の混じった、今日何度目になるか数えるのをやめた、重々しい吐息を吐いた。

 

「よし、そんな頑張るリョウくんには、タコさんウインナーを進呈しましょう」

 

 チサは自分の弁当からタコさんウインナーを箸で摘むと、リョウマの弁当箱へ移した。

 

「おいおい、いいのか」

 

 しかも何故タコさんウインナーなんだ、とリョウマは言うが、

 

「それじゃぁ私からは……大根の煮物を進呈」

 

 チサの行動に便乗したのか、ミヤビは大根の煮物を差し出した。

 

「シミズさんまでかい。いや、無理に気遣わなくていいんだが」

 

 まぁいただこう、とリョウマは善意として受け取り、タコさんウインナーと大根の煮物を口に運ぶ。

 

 ――その光景を見ていた男子達からは怨嗟の視線を向けられていたが、リョウマは気にすることなく咀嚼した。

 

 

 

 どうにかこうにか放課後になり、リョウマはさっさと『甘水処』へ向かう。

 自動ドアを潜り、まずはアイカの元へ。

 

「はよーございます」

 

「おぉ来たかリョウマ。ほれ、新人が来る前にさっさと準備しろ」

 

「はいはい」

 

 事務所へ入ると、上着を脱いで代わりに用意されていた『甘水処』のエプロンを着用する。

 時刻はちょうど十六時前。今か十九時まで――三時間ほどの研修になる。

 

「(さて、新人教育か……まぁ、レジ操作やら何やら教えつつ、接客をさせるなりしてれば、三時間くらいは経つか)」

 

 鏡を見て、おかしなところはないかと確認していると、「おはようございます!」と元気の良い声が外から聞こえてきた。声色から女性のようだ。

 少し待つと、事務所にアルバイトらしき女性――同じ緑乃愛第一学園の制服を着た女子高生が入ってきた。

 橙色に近いショートヘアに、右側頭部をサイドポニーにした髪。

 いきいきとした黄色い瞳が、リョウマの姿を捉える。

 

「初めまして!今日からお世話になります、『ミノウ・コノミ』と言います!よろしくお願いします!」

 

 直立不動の体制からピッタリと45度の角度で頭を下げて見せるコノミと言う少女。

 

「っと……こちらこそ初めまして。今日から新人教育を担当させていただくオウサカ・リョウマです。よろしくお願いします」

 

 礼儀には礼儀、とリョウマも同じようなお辞儀を返す。

 両者が頭を上げるのを合図に、コノミも上着を脱いで『甘水処』のエプロンを着用していく。

 

「えぇと、緑乃愛第一の二年生……先輩さん、ですよね?」

 

「ん?と言うことは、ミノウさんは一年?」

 

「そうですそうです、一年の四組です」

 

 アイカからは新人が一人来るとは聞いていたが、同じ学園のそれも後輩だとは思っていなかった。

 とは言え、年齢性別がどうであれリョウマの仕事は変わらない。

 まずはストアコンピューターに出勤登録。

 

「さて、ミノウさんさえ良ければ、すぐにでも研修を始めようと思うけど」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 元気がいいのは何より。

 それじゃぁ始めますか、とリョウマはコノミと一緒に売り場へ出る。

 

 

 

 二人がレジに入ったのを見て、アイカは「何かあったら呼んでくれ」と告げて事務所の方へ引っ込む。

 

「(完全に俺に押し付けるつもりか……)」

 

 やっぱり次の製作代行はぼったくってやる、とリョウマは声にせず呟くと、早速レジ操作可能なようにパスコードを入れる。

 

「さて、まずはレジの基本操作からだけど……」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

「……と言うところだな」

 

「はい!」

 

 しっかりとメモを取りながらも返事を欠かさないコノミ。

 途中に本来の接客を何度か挟みながらであったことに加えて、リョウマも新人教育を行うことに不慣れながらの研修であったため、時刻を確認するの十八時半。

 あと三十分ほど時間がある。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 リョウマは一度事務所へと入り、ストアコンピュータを打ち込んでいるアイカに次の指示を仰いだ。

 

「レジ操作に関しては大体終わった。あとはどうする?」

 

「んー?あぁ、もうこんな時間か」

 

 アイカも時刻を確認する。

 

「なら、あとは売り場の整頓をやってくれ。今日はそのくらいでいいだろう」

 

「了解」

 

 リョウマは頷いて踵を返し、売り場へ戻る。

 

 売り場の整頓をやってくれと言う旨をコノミに伝えると、二人で売り場の陳列棚へ手を伸ばす。

 手前の商品が動いたことで虫食いのようになっているところを、奥にある商品を引っ張り出して空白スペースを埋める。

 そんな中で、ふとリョウマはコノミに話しかける。

 

「そう言えば詳しくは聞かされてないんだが、ミノウさんは何故ここで働こうと思ったんだ?」

 

「その前に先輩。わたしのことは名字じゃなくて、コノミでいいですよ。その方が気が楽なので」

 

「……まぁ、呼び捨てもなんだし、コノミちゃんでいいか?」

 

「もちろんです!」

 

 むふんと頷くコノミ。

 

「そうそう、どうしてここを選んだのかって話でしたね」

 

 手の動きは止めないままに、コノミは応えていく。

 

「オーナーさんにも同じことを言ったんですが、趣味とアルバイトの両立です。ガンプラに関する仕事をやってみたかったので」

 

「なるほど。……って、それもそうか」

 

 こう言った特定のモノを取り扱う店舗は、その方面の明るい専門的知識を持っている人間が希望するものだ。

 プラモデルやフィギュアに何の興味もない人間が、わざわざホビーショップで働こうとは思わないだろう。

 

「ついでに、販売側に立てば新商品も優先的に取り寄せられると踏んでのことです!」

 

「待てコノミちゃん、思いっきり私情挟んでるだろそれ」

 

 思わずツッコミを入れるリョウマ。

 一昔前なら、予約(をしても入手出来ないケースも多発していた)をしなければ新商品はまともに入手出来ず、予約が出来なければ、法外な価格で転売されているところに大枚を叩くしか入手出来なかったため、コノミが言いたいことも分からないでもない。

 今の時代ではそんなことはなく、予約などしなくても普通に購入出来るので、わざわざ取り寄せる必要もないのだが。

 

 ――そうでもしなければまともに入手出来ないような一昔前が、いかに異常な時代であったかを如実に示している――。

 

「と言うのは冗談です」

 

「内容が内容だけに冗談って言い切れないな……」

 

 コノミの思惑がどこまで本当か分からないが、新商品を真っ先に確保出来るのは間違いではない。

 ともかく、真面目に働いてくれるぶんには問題ないし、それくらいの融通ならアイカも効かせてくれるだろう。

 

 それからまた十数分は整頓に集中し、時刻が十九時になった。 

 ほぼ同時に、アイカが事務所から出てきた。

 

「二人とも、もう上がっていいぞ」

 

 そう声を掛けられて、リョウマとコノミはレジへと速歩きで向かう。

 

「お疲れ様でした!」

 

 アイカの前に立つなり、やはり直立不動からのお辞儀を敢行するコノミ。

 

「うむ、お疲れ様。で、リョウマ。どうだった」

 

 コノミの勤務態度や仕事ぶりはどうだったかと、アイカはリョウマに目を向ける。

 

「至って真面目で元気がよく、飲み込みも早い。問題ないと見る」

 

 リョウマも過ぎたる評価をすることなく、自分が見たままを伝える。

 

「そうか。まぁお前が教えたんだ、当然だな」

 

「人の気も知らないでよく言うよ……」

 

 こっちはこっちで四苦八苦してたってのに、とは言わずに嘆息をつくリョウマ。

 

 事務所に入り、ストアコンピューターから退勤登録を行う。

 

「では先輩、ありがとうございました!」

 

「あぁ、お疲れさん」

 

 改めてリョウマにも頭を下げるコノミ。

 

「わたしは週に三、四日くらいで勤務に入るつもりなので、その時はまたよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ」

 

 二人ともエプロンを外して、制服の上着を羽織る。

 さてこれにて帰宅……としようとしたところで、ふとコノミの方から声を掛けてきた。

 

「そう言えば先輩、今日ってガンプラ持ってますか?」

 

「あー、悪い。今日は自分のガンプラは持ってないな」

 

 今日は朝から寝不足で、しかも放課後は新人教育をしなければと思って、クロスボーンガンダムX1のことは頭から抜け落ちていた。

 

「そうですか。もしよければ、帰る前にガンプラバトル一回やりませんかって思ったんですけど」

 

「いや、この店のショーケースにあるガンプラを使うって手もある。ここの作品は、全部俺が作ったものだからな」

 

「そうなんですかっ!?どれもこれも完成度高いから、プロのモデラーさんが残していったものかと思ってましたけど、先輩が作ってるんですか!」

 

 コノミは一歩踏み出して目をキラキラと輝かせる。

 

「おぉぅ、近い近い。まぁそんなわけだから、バトルする分には問題ない」

 

「先輩さえ良ければっ、ぜひやりましょうっ!」

 

「OK分かった落ち着け近いから待て」

 

「はい待ちますっ」

 

 犬の『お座り』でもするかのようにその場で静止するコノミ。

 何だか子犬みたいだなぁ、と苦笑しつつリョウマはショーケースの鍵を棚から取り出す。

 

 アイカには帰る前にガンプラバトルを一回することを伝えてから、リョウマはショーケースの鍵を開ける。

 

「さて、何を使うか……」

 

 色とりどりのガンプラ達が『俺を使ってくれ』と言わんばかりにアイカメラを向けている気がする。

 数巡の後に手を伸ばしたのは、全身を赤く塗装された、流麗なスタイルを持ったガンダムタイプ。

 背部の一対のウイングとビーム砲が特徴的なその機体は。

 

「これを使うか」

 

『セイバーガンダム』――『SEED DESTINY』の中盤までアスラン・ザラが使用した、赤の守護者(セイバー)だ。

 

 

 

 バトルブースに入室し、システムを起動させていく。

 今回はミッションモードをするため、二人協力プレイだ。

 

「コノミちゃんは何のガンプラを使うんだ?」

 

 セイバーガンダムを読み込ませている内に、リョウマはコノミに何を使うのかを訊ねる。

 

「お、お恥ずかしながら、先輩のガンプラには及びませんが、わたしの自信作……」

 

 鞄の中のケースから取り出したのは、『ガンダムデュナメス』と呼ばれる狙撃戦を得意とする機体。

 その改造機のようだ。

 

「『ガンダムデュナメスバスターク』です!」

 

 通常のガンダムデュナメスのように、GNフルシールドは装備しておらず、左肩にザクウォーリアのスパイクシールドが取り付けられ、本来はビーム突撃銃のマガジンを備えている場所にはミサイルランチャーが増設されている。

 

「デュナメスの改造機か。フルシールドをオミットした代わりに、火力を上げているな」

 

 右肩にはガナーザクウォーリアの高エネルギービーム砲『オルトロス』が懸架されているところ、ガンダムデュナメスの火力増強型といったところか。

 "バスターク"と言う機体銘も、『Buster』と『Stalk』を合わせた造語だろう。

 

 機体への第一印象の確認を終えて、ミッションの選択だ。

 

「コノミちゃんは何かリクエストはあるか?」

 

「選んでいいんですか?それじゃぁ……」

 

 コノミはリョウマの横から指を伸ばして、コンソールを入力していく。

 

「これでお願いしますっ」

 

 彼女が選んだのは『NEXT PROLOGUE  〜あなたと、一緒なら〜 』と言うミッション。

 

 原典は『X』で、アニメ本編終了時点から一年後を描いたショートストーリーであり、新型コロニー風邪の特効薬『リカヴェリン』を積んだ貨物列車を狙う『ゲルト・クルーガー』率いるオルク――略奪専門のバルチャー崩れ――と、列車を守ろうと『ガンダムX3号機』で立ち向かう『ガロード・ラン』に加え、その彼をラフィアン(ならずもの)と断定した『新政府防衛省』との三つ巴の戦いを再現したミッションだ。

 

 勝利条件は『防衛対象の目標地点の到達』

 敗北条件は『乗機の撃墜、防衛対象の撃墜』

 

 このミッションでの防衛目標は貨物列車であり、これを破壊されるとミッション失敗になってしまう。

 なお、このミッションでは『月のマイクロウェーブ送電施設が破壊されている』ことを再現するため、サテライトシステムを持った機体は、サテライトキャノン(ランチャー)が使用出来ないと言う制約もある。

 

「ネクプロか。これは初めてやるミッションだな」

 

「大丈夫ですか?」

 

「いや、問題ない。やるか」

 

 リョウマの確認を得てから、コノミはガンダムデュナメスバスタークを読み込ませていく。

 

 ステージは『サウスフェニックス市郊外』

 

 ミッションスタートだ。

 

「オウサカ・リョウマ、セイバーガンダム、発進する!」

 

 ディアクティブモードであったセイバーガンダムのVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲が起動し、真紅色に色付いていく。

 

「ミノウ・コノミ、ガンダムデュナメスバスターク、行っちゃいますよー!」

 

 太陽炉が起動し、ガンダムデュナメスバスタークの各部のGNコンデンサーが発光していく。

 

 出撃完了と同時に、リョウマはセイバーガンダムを変形、MA形態へ移行すると、コノミのガンダムデュナメスバスタークの下へ回り込む。

 

「乗ってくれ」

 

「はい先輩!」

 

 リョウマに従い、ガンダムデュナメスバスタークをセイバーガンダムへ乗せるコノミ。

 太陽炉搭載機は、その性質から単独飛行可能ではあるが、可変機であるセイバーガンダムの方が加速力は上だ。

 

「行くぞ!!」

 

 操縦桿を押し出し、セイバーガンダムは一気に加速する。

 

 

 

 月明かりが差す戦場に到達すると、貨物列車目掛けて砲弾が次々に放たれているのが見える。

 先頭にいるのは、『GK』のマーキングが施された『オクト・エイプ』のカスタム機。

 それに随伴するのは、『ジェニス』『セプテム』『ドートレス』『ドートレスウェポン』のカスタム機。

 カスタム機、と言ってもその多くはオルク達によって無駄な装飾や過剰な改造が施され、むしろ機体性能そのものは落ちているものばかりだ。

 

「見えた。俺が突っ込んで敵部隊を攪乱する。援護は任せていいか?」

 

「任せてください!」

 

 コノミは頷くと、セイバーガンダムから飛び降りて降下していく。

 リョウマのセイバーガンダムはMA形態のまま突入、高エネルギービームライフルとバインダー上部のビーム砲『スーパーフォルティス』を連射して敵部隊を牽制する。

 攻撃に気付いたか、敵部隊は攻撃目標を貨物列車からセイバーガンダムへと切り替え、一斉に砲撃を行ってくる。

 

「っと、さすがに五対一はな」

 

 分が悪い、とリョウマは反撃はせずに回避運動に撤する。

 セイバーガンダムを狙うのに夢中になっている敵部隊の側面から、着陸したガンダムデュナメスバスタークは、その長大なライフル『ロングGNランチャー』を構え、額のガンカメラに照準を合わせる。

 

「デュナメス、目標を狙い撃つぜ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ロックオン・ストラトスのセリフの真似をしつつ、コノミはトリガーを引き絞り、高濃度の粒子ビームは足を止めていたドートレスの横腹を捕らえ、突き破った。

 

 ドートレス、撃墜。

 

「ナイスだコノミちゃん」

 

 ガンダムデュナメスバスタークによる狙撃で狙いが分散したのを見計らい、リョウマはウェポンセレクターを回し、左右バインダーの大型ビーム砲『アムフォルタス』を選択、発射。

 一対の荷電粒子はセプテムの胴体へ直撃、爆散させてみせる。

 

 セプテム、撃墜。

 

 それとほぼ同時に、別方向――空中からの接近反応。

 青緑色の流線型の機体――新政府防衛省所属の『バリエント』だ。

 

「っと、確かバリエントが一機遅れてくるんだったか」

 

 リョウマはセイバーガンダムをMS形態へ変形させ、バリエントへ高エネルギービームライフルを放つが、さすがにオルク達のようなジャンク品ではない、性能も一回り高いのだろうバリエントはビームを回避しながらもビームライフルを撃ち返してくる。

 慌てずに空力防盾でビームを防ぐセイバーガンダム。

 

「こいつの相手をしたいところだが、っと!」

 

 地上と空、二手に分かれていたせいか、残るオルク達の機体はガンダムデュナメスバスタークへ集中砲火を浴びせている。

 コノミもどうにか砲撃を凌ぎつつ反撃しているが、決定打を与えられずに四苦八苦している。

 ここでセイバーガンダムが反転すれば、バリエントは追い掛けてくるだろう。

 だが、バリエントのターゲットはあくまでもリョウマやコノミであり、貨物列車ではない。

 

「で、あれば……」

 

 この三つ巴の状況を利用させてもらうまでだ。

 リョウマは操縦桿を捻り返して反転、地上にいるオルク達へ接近すると、バリエントもセイバーガンダムを追ってくる。

 

「よーし、いい子だ……」

 

 彼の接近に気付いたか、ドートレスウェポンは肩の500mmキャノンをセイバーガンダムへ向けて来る。

 

 それと同時に、バリエントがセイバーガンダムの背後へビームライフルを発射する。

 

 前からは砲弾、後ろからはビームの挟み撃ち。

 

「ドンピシャ!」

 

 不意にセイバーガンダムは揚翼を跳ね上げてバック宙するように飛び上がり、

 

 ――砲弾がバリエントへ、ビームがドートレスウェポンへ相撃ちになるような形になる――

 

 刹那、ビームがドートレスウェポンの右肩を撃ち抜き、砲弾がバリエントを直撃する。

 

 バリエント、撃墜。

 

「ご苦労だったな」

 

 バック宙している内に高エネルギービームライフルをリアスカートに納め、右肩からヴァジュラビームサーベルを抜き放つセイバーガンダムは、さらに加速しながらドートレスウェポンへ迫り、擦れ違いざまに一閃喰らわせ、胴体を泣き別れにした。

 

 ドートレスウェポン、撃墜。

 

「さすが先輩!わたしも負けませんよ!」

 

 数を減らされたことで余裕を取り戻したコノミはウェポンセレクターを回し、シールド裏のGNミサイルランチャーを発射、ジェニスの胴体へ着弾すると同時にGN粒子が内部へ炸裂し、吹き飛ばす。

 

 ジェニス、撃墜。

 

 残るはゲルト機のオクト・エイプのみ。

 オクト・エイプは担いでいたジャイアントバズを捨てて、腰に提げられているヒートソードを抜き放ち、セイバーガンダムに斬り掛かってくる。

 リョウマは跳ねるように操縦桿を押し出してセイバーガンダムを加速させ、空力防盾でヒートソードを握るオクト・エイプの腕を抑え、ゼロ距離で頭部の機関砲である17.5mmciwsを速射する。

 被弾を嫌ってか、オクト・エイプはバックホバーさせてセイバーガンダムから距離を取りつつ、胸部の50mmガトリングキャノンを撃ちまくる。

 セイバーガンダムは空力防盾でセンサー部などを守り、そうでない部分はVPS装甲で受け流しつつ、ヴァジュラビームサーベルを投擲した。

 投げ付けられたそれに対して、オクト・エイプはヒートソードを振るって弾き返すが、

 

「背中がお留守です、よっ!」

 

 距離を取って息を潜めていたコノミは、再びロングGNランチャーを発射、オクト・エイプのランドセルを撃ち抜く。

 推進部の爆発によってよろけるオクト・エイプ。

 加えてホバー機動中の状態で姿勢を崩されれば、即座に転倒だ。

 地面を数度転がって起き上がろうとするオクト・エイプだが、そのモノアイは斜め上空に回り込み、ビーム砲の砲口を向けているセイバーガンダムの姿を捉えてしまった。

 

「終わりだ」 

 

 高エネルギービームライフル、スーパーフォルティス、アムフォルタスの一斉射撃が放たれ、五筋の高エネルギーがオクト・エイプの全身を貫いてみせる。

 

 オクト・エイプ【ゲルト機】、撃墜。

 

 増援が出ることもなく、貨物列車は線路上を滑走し、無事にサウスフェニックス市駅――目標地点へ到達する。

 

『Mission Clear!!』

 

 

 

 リザルト画面を見流しつつ、リョウマとコノミはそれぞれセイバーガンダムとガンダムデュナメスバスタークを筐体から回収する。

 

「先輩、お疲れさまでしたっ」

 

「ん、こちらこそお疲れさん」

 

「そう言えば、先輩の愛機ってセイバーガンダムじゃなくて別にあるんですよね?」

 

「普段はクロスボーンガンダムを使ってる。今日は持ってきてないんだが」

 

「使い慣れた機体じゃないのにあそこまで戦えるって……反則じゃありません?」

 

 なんだかズルい気がします、とコノミはジト目になる。

 

「セイバーもMS形態なら同じ人型だからな、基本は一緒だぞ」

 

「いや、可変機と格闘機って全然違いますよね?」

 

 コノミの言う通り、MSと言う人間と同じ五体を持つ点では同じだが、クロスボーンガンダム系の機体はセイバーガンダムほどの飛行力は持っておらず、火力の面でも大きな違いがある。

 つまり、全く違う戦い方を強いられるわけだが、リョウマはそれを苦にすることなく戦っていた。

 

「そりゃ操縦感覚とかは違うが……「ちと扱いづらいが、武装さえ分かりゃ何とかなる」ってサーシェスも言ってただろ」

 

「あぁ、「奴さん死んだよ?俺が殺した」ってシーンですねぇ」

 

 セリフの部分だけトーンを低くして声真似するコノミ。

 

『00』のワンシーンで、チーム・トリニティ達の支援を装って現れたアリー・アル・サーシェスが、ミハエルを射殺してガンダムスローネツヴァイを奪い取る直前のセリフである。

 事実サーシェスは、乗り慣れないガンダムスローネツヴァイで、ガンダムマイスターであるヨハンの操縦するガンダムスローネアインを終始圧倒、撃墜してみせていることから、『ある意味人間の枠を超えている』サーシェスの戦闘力の高さを再認識させるシーンである。

 

「さてと、バトルも終わったことだし、帰るか」

 

 バトルブースを後にするリョウマとコノミ。

 リョウマはセイバーガンダムをショーケースに戻して、ケースの鍵を閉じて、事務所に鍵を返してから、そのまま店の外へ。

 

「っと、もう暗いな。コノミちゃん、近くまで送るよ」

 

「へぁ?いやいや、大丈夫ですよ。家もそんなに遠いわけじゃありませんし」

 

「そうじゃなくてな。ここで俺がコノミちゃんを送っていかないと、後でアイカさんにどつき回されるんだよ」

 

「どつき回されちゃうんですか……そう言うことなら、ここは素直に送られちゃいますね」

 

 自分の保身のために送ると言うリョウマだが、万が一コノミに何かあってもいけないため、100%保身のためだけと言うわけでもない。

 

 コノミからの了承も得て、二人は夜道を並んで歩き始める。

 

「そうです先輩。ガンスタグラムってサイト、知ってますか?」

 

 幸いにして、話題には事欠かない。

 

「知ってるどころか、普通に利用してる。コノミちゃんは登録してるのか?」

 

「もちろんですっ。先輩のユーザーネームって何ですか?フォローしちゃいますよ」

 

「『リョーマ』ってユーザーだ。……これな」

 

 リョウマはスマートフォンを取り出してガンスタグラムを開き、マイページを開いてみせる。

 

「リョーマさんですね。ユーザー名から検索して……はいっ、フォローしました!」

 

「さんきゅ。んじゃ俺もフォロー返しをして、と」

 

 フォローしてきた『このみん』と言うユーザーのページを開き、『フォローする』の項目をタップする。

 互いのユーザー情報の、フォローとフォロワーのカウントが一つ増えたことを確認してからスマートフォンを閉じる。

 

「帰ったら先輩の作品、じっくりと見させてもらいますよ」

 

「見せてもらおうか、このみんさんの作品の、完成度とやらを」

 

「あっすいません多分先輩が期待してるほどのものじゃないですごめんなさい」

 

 シャア・アズナブルの名言を用いるリョウマに、コノミはプレッシャーを感じたのか先に謝ってきた。

 

 そんなやり取りをしている内に、ふとコノミが足を止めた。

 

「ここまでで大丈夫です。先輩、送っていただいてありがとうございました」

 

「どういたしまして。コノミちゃんは、明日も勤務か?」

 

「いえいえ、次の勤務は土曜日の午前からです」

 

「そうか。じゃ、学園で会うこともあるだろうし、また明日な」

 

「はいっ、さようなら先輩」

 

 コノミはリョウマにぶんぶんと手を振りながら曲がり角を曲がっていった。

 

「さて、俺も帰るか……」

 

 

 

 

 

 コノミの見送りも終えて帰宅したリョウマは、夕食と入浴を終えた後は自室に籠もり、ガンプラの製作に勤しんでいた。

 いつもの製作代行でも、バトル用のガンプラでもない、自分が好きなように作るだけのものだ。

 製作代行ではないものの、これも『甘水処』に飾らせてもらうのだが。

 

 パッケージの中に鎮座しているパーツ達。

 古代中国の戦士の甲冑を思わせるボディに、フレキシブルアームに繋がれた龍の頭に似た腕部、円形状の盾は左肩に取り付けられ、脚部の外側部のスラスターブロックに、龍の爪牙のような膝パーツ、バックパックは同じく龍の胴体のような複数のパーツの先に、二門の火砲に加えて一対のウイング。

 白、緑、赤のトリコローレを基調に塗装されたそのガンプラは、『アルトロンガンダム』と呼ばれる機体。

 

 原典作品は『W』であり、後の『EW』に合わせてリファインされる前の姿――ファンの間では所謂、『TV版』と呼称される方のアルトロンガンダムだ。

 

 中国武術のモーションを機体に取り入れた優れた運動性に、長大なリーチを持つツインビームトライデントと、両腕のドラゴンハングを用いた変幻自在かつ苛烈な格闘攻撃が可能なガンダムであり、接近戦に限れば『最強の中の最強』と称されるウイングガンダムゼロにすら上回るほどの戦闘力を持つ。

 

「……よし、可動範囲も強度も問題無し。これで完成だな」

 

 ここ数日を掛けてコツコツと作り上げていたが、今夜をもってようやく完成だ。

 完成したアルトロンガンダムを眺めて、ついでにツインビームトライデントを構えさせたり、ドラゴンハングを展開させたり、わざわざ自作した火炎放射用のエフェクトを取り付けたりして、一頻り満足したところで。

 

「(そうそう、コノミちゃんの作品を見ないとな)」

 

 スマートフォンを開き、ガンスタグラムのサイトを開き、『このみん』の作品一覧ページを開く。

 今日のバトルでも使っていたガンダムデュナメスバスタークの他に、『ケルディムガンダム』『ガンダムサバーニャ』と言ったロックオン・ストラトス(兄弟)の愛機達や『AEUイナクト』『マン・ロディ』『量産型バウ』と言ったグリーン系のカラーリングのガンプラが主に投稿されているところ、緑色が好きなのだろうか。

 

 それら作品群に挨拶代わりとして『いいね!』を押していると、

 

「(さすがに眠い……撮影はまた明日にして、今日は寝るか……ぁ)」

 

 何ぶん今日は寝不足のまま活動していたのだ。

 普段ならもう少し起きているところだが、嵩んでいた疲労は、リョウマを眠らせようと襲い来る。

 

 スマートフォンに充電ケーブルを差し込み、消灯してベッドの上に倒れれば、瞬く間に熟睡へと誘った。

 

 おやすみなさい。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 コノミ「おはようございます先輩!今日もよろしくお願……って、なんか顔が暗いですよ?」

 

 リョウマ「……いや、なんでもない」

 

 アイカ「お前がそんな顔でなんでもないって言う時は、大体何か起きたと相場は決まっているものだぞ?」

 

 リョウマ「別に……ただ調子が出なくて、バトルで負けただけだ」

 

 コノミ「先輩を負かしちゃう人なんて一体どんな怪物……いや悪魔……いや化け物なんでしょうか……ッ!?」

 

 リョウマ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー

 

 二頭龍と双子座と

 

 実はその人、ガンダムの四文字も知らない相手だったんだ」

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