ガンダムブレイカー・シンフォニー   作:さくらおにぎり

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 今回より、Pixivの方で応募されたオリキャラが登場していきます。


4話 二頭龍と双子座と

 土曜日の午前。

『甘水処』の新人アルバイト、ミノウ・コノミは、研修二日目のために訪れていた。

 自動ドアを潜り、レジカウンターにいるアイカに挨拶。

 

「おはようございまーす!」

 

「うむ、おはよう。今日も元気で何よりだ」

 

「元気なのがわたしの取り柄ですからねっ。今日もよろしくお願いします!」

 

 ぺこりと一礼してから、コノミは事務所へと入る。

 同じ学園の先輩が新人教育を担当してくれており、分かりやすく丁寧、なおかつホビーへの知識や含蓄も豊富。

 

 さぁ今日も頑張るぞと意気込んでいたコノミであったが、

 

「…………あぁ、コノミちゃんか。おはよう」

 

 その先輩――リョウマは反応鈍く振り向いた。

 目の隈が濃く、疑う余地も無いほどの寝不足っぷりだ、少なくともこの間の研修の時とは明らかに様子がおかしい。

 

「え、えぇと、おはようござい、ます?あの先輩、一体どうしたんですか?」

 

「……いや、ただの寝不足だ」

 

 当のリョウマはそう言うものの、ただの寝不足でこうはならないだろう。

 

「さて、それじゃぁ今日も行くか」

 

「あ、はい、よろしくお願いしますっ」

 

 ともかく今日の研修が始まるので、コノミは気を切り替えることにした。

 

 

 

 午前中の昼時前はほとんどお客がいないために、じっくりと研修に集中出来る。

 今日の研修は、店内清掃について。

 

「……という感じで、ダスタークロスを掛けた後でモップで床を拭いていく」

 

「あの先輩、モップ、逆です」

 

 コノミが指摘したように、リョウマはモップの拭う部分を上にして、下の方で床を擦っていた。

 

「ん?あぁ、悪い……」

 

 失敗失敗、とリョウマはモップの位置を正しく直す。

 リョウマは先程から、これと同じようなミスを何度もしており、その度にコノミに指摘されている有様だ。

 

「あー、リョウマ。もういい、やめろ」

 

 不意に、事務所から出てきたアイカは溜息混じりでそう言い放った。

 

「は?まだ教えている最中だぞ?」

 

「お前がそんな調子では、ミノウが間違った仕事を覚えるだろう。それでは任せられん」

 

 そう言いながらもアイカは店内を見渡して、お客がいないのを確かめる。

 

「色ボケ……と言うわけでは無さそうだな。お前に一体何が起きた?」

 

「だからただの寝不足だ……」

 

「この間のお前は寝不足状態にも関わらず、従業員として模範的な研修をしていた。そんなお前が今日はこのザマだ。それでも何も無いと言い切れるとはいい度胸だなリョウマ」

 

 アイカにこれでもかと言葉の逃げ道を潰されて、リョウマはぐうの音も返せなかった。

 

「溜め込むよりは、吐き出した方がいいですよ先輩」

 

 挙句、コノミにまで気を遣われてしまう。

 これ以上の意地っ張りは無意味か、とリョウマは諦めて『昨日に起きたこと』を話し始めた。

 

 

 

 アルトロンガンダムを完成させた翌朝。

 快眠によってスッキリした朝を迎え、アルトロンガンダムと自分の愛機のクロスボーンガンダムX1を納めたケースを鞄に入れてから登校。

 

 ミヤビやチサ、ハルタらといつもと同じような学園生活を過ごし、放課後を迎えた。

 とは言え、コノミの研修があるわけでもなく、急いで『甘水処』へ向かう必要もないため、チサとミヤビとの三人でのんびりお喋りしながら下校。

 最初にミヤビと別れ、その後でチサとも別れてから、『甘水処』へ向かう。

 

 その、道中。

 

「……ん?」

 

 どこからともなく、紙飛行機が飛んで来ては、リョウマの足元に落ちた。

 何かと思って拾ってみると、文章や赤線が引かれている、小テストの解答用紙だった。

 開いてみると、どうやら数学の小テストのようだが、解答用紙には名前しか書かれておらず、赤ペンによるチェックしかない。点数は当然0点だ。

 

 ふと名前の欄に目をやると、『三年二組 神崎川 凛(カンザキガワ・リン) 』と書かれており、リョウマはその名前に聞き覚えがあった。

 

「(カンザキガワ・リンって……ウチの三年生の、"天才"じゃないか?)」

 

 噂程度ではあるが、緑乃愛学園の三年生に、『希代の天才がいる』と聞いたことがあり、カンザキガワ・リンと言うフルネームもそこから知った。

 そんな天才と称された女子生徒が、小テストを無回答。

 問題が解けなかったはずがない、だとすればわざと無回答で提出したとしか思えない。

 

 それが飛んで来た方向に向き直れば、その視線の先に、高台に腰掛けた、鈍色の長髪がそよ風に揺れているのが見え――目が合った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 リョウマは解答用紙を手に、そこへ駆け寄った。

 

「これ、落としました?」

 

 うっかり落としたのなら紙飛行機にして飛ばしたりしないだろう、と自分にツッコミを入れつつ、その緑乃愛学園の制服を着た女子生徒に解答用紙を差し出した。

 

「……わざわざ拾ってくれてありがとう。でも、いらないから捨てていいよ」

 

 どこか気怠げな口調で、差し出された解答用紙を突き返す。

 

「カンザキガワ先輩、ですよね?」

 

「あれ、キミと私ってどこかで会った?」

 

 初対面の相手に名字を呼ばれて、女子生徒――リンは目を丸くする。

 

「噂越しに俺が一方的に知ってただけです。天才とかって言われているそうですけど……」

 

「うん、みんなそう言うね」

 

 否定しなかった。

 よほど自分に自信があるのだろう。

 

「でも、どうして無回答なんですか?」

 

「ん?いつも満点じゃつまらないと思って、ここは敢えて0点を狙ってみた」

 

 そしたら「ちゃんと真面目にやりなさい」って怒られたよ、と面白くなさそうにぼやくリン。

 

「私みたいな天才でも、真面目にやらなきゃ怒られるんだって、いい経験になったよ」

 

「…………えーと」

 

 ツッコミどころが多過ぎて、どこからツッコめばいいのか困惑するリョウマ。

 

「怒られて余計につまらなかったから、解答用紙を紙飛行機にして飛ばしたら、キミが拾ってくれた……ってとこかな」

 

「それはどうも……」

 

 リョウマは即座に"諦める"ことにした。

 どうやらこのカンザキガワ・リンと言う先輩、どこか……というより、()()()()()()()()

 天才だからズレているのか、ズレているから天才なのか。

 

「ところで、キミはどこかに行く途中だったんじゃない?私の相手なんかしてていいの?」

 

「あ、あぁそうでした。『甘水処』に行くところでした」

 

「スウィートウォーター?美味しそうな名前だね、カフェか何か?」

 

 スウィートウォーターと聞いて、カフェだと思うのはごく自然なことだろう。

 

「いや、美味しそうですけど、ホビーショップです」

 

「ホビーショップ?おもちゃでも買うの?」

 

「買うって言うか、ガンプラの展示ですよ」

 

 何気無く言ったリョウマだが、それを聞いたリンはきょとんとした顔をする。

 

「がんぷら?何それ」

 

 何のことなのか、本気で分からないようだ。

 

「え?ガンプラって知りませんか?ガンダムのプラモデルの……」

 

 今の時代、ガンダムやガンプラの名前を知らない日本人はむしろ珍しい部類ではないだろうか。

 

「がんだむ?いや、さっぱり」

 

 やはりリンは首を横に振る。

 一般的には『安室とシャーがガンダムに乗って戦うアニメ』『イオク様とか言うガンダムのキャラがなんかやらかした』『転売ヤーがガンプラを転売して人生楽勝とかほざいてたら破産死した』くらいの認識はあるはずだが、それすらも知らないと言う。

 

「えーと、つまり機動戦士ガンダムってアニメに登場する、ロボットの模型、プラモデルってことです」

 

「へー」

 

 生返事をしたところ、上手く伝わっていないようだ。

 

「カンザキガワ先輩。もし暇でしたら、見に行きますか?ガンプラってどう言うものか」

 

「んー……まぁ、家に帰っても勉強しかやることないし、いいよ」

 

「……今何かとんでもないことを聞いた気がしますけど、それじゃぁ行きますか。俺、二年のオウサカ・リョウマって言います」

 

「リョウマくんだね。うん、覚えた。改めて言う必要も無いだろうけど、三年のカンザキガワ・リンだよ」

 

 いきなり名前で呼び始めたリンに、リョウマはペースを崩されつつも、その場から移動する。

 ただし、行き先は『甘水処』ではなく、近場の大手家電量販店のひとつ『ダヤマ電気』だ。

 リンを連れて『甘水処』に入れば、アイカから「また女連れか。いいご身分だな」とからかわれるのは目に見えているからだ。

 

 

 

 ダヤマ電気に入店し、模型や玩具専門のコーナーへ足を向ける。

 

「また随分な種類があるんだね」

 

 リンは売り場を埋め尽くさんばかりのガンプラを見て、呆れたように溜息をついた。

 

「一昔前はガンプラが全然無くて、ガンプラじゃないプラモに売り場を奪われたりしてましたけどね」

 

 あの暗黒期と言える忌むべき時代は、全国のガンプラモデラーを失意の底に叩き込んだものだ。

 

 や は り ガ ン プ ラ の 転 売 は 唾 棄 す べ き 行 為 で あ る 。

 

「あそこにあるのは?」

 

 ふと、リンはガンプラコーナーの隣に併設されたバトルブースを指した。

 

「あれはガンプラバトルシミュレーターです。自分が作ったガンプラを機械に読み込ませて、戦うゲームですよ」

 

「ふーん?」

 

 やはり今ひとつ何が面白いのか分からないようだ。

 

「何でしたら、バトルもやってみますか?」

 

「ん?でも私、がんぷら持ってないよ?」

 

「俺、ガンプラ二つ持ってるんで、片方貸しますよ」

 

 自分のクロスボーンガンダムX1と、展示用に作ったアルトロンガンダムだ。

 

 バトルブースに入り、リョウマはケースから持っている二つのガンプラをリンに見せてやる。

 

「どっち使いますか?」

 

「どっちがどう違うの?」

 

 いきなり見せられて「どっちがいい?」と訊かれても分からないだろう。

 強いていえば、クロスボーンガンダムX1もアルトロンガンダムも、格闘戦に向いた機体であると言うことか。

 

「直感でいいですよ」

 

「直感?えぇ……」

 

 リンは困ったように眉をひそめる。

 

「……じゃぁ、こっち?」

 

 彼女から見て右……アルトロンガンダムを選んだ。

 

「じゃぁ、早速始めますね」

 

 リンがアルトロンガンダムを受け取るのを確認すると、リョウマはシミュレーターを起動させていく。

 リョウマは自分のスマートフォンを読み込ませてプレイヤーコードを認証させ、リンはゲストさんとして進める。

 

「動かし方のマニュアルみたいなのは無いの?」

 

「これです」

 

 マニュアルは無いかとリンに訊ねられ、リョウマは操縦マニュアル画面を開き、

 

「うん、覚えた」

 

 わずか二秒でリンはその画面を閉じた。

 

「……いくらなんでも早くないですか?」

 

「そこまで複雑でも無いみたいだし、大丈夫だよ」

 

 彼女が大丈夫だと言うのならまぁいいか、とリョウマはオフラインフリーバトルをセッティングしていく。

 

 ステージは『サイド7』

 

 最もオーソドックスなステージで、ランダムセレクトで無ければとりあえずここが選ばれる。

 

「それじゃ出撃しますか。オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃る!」

 

 リョウマはいつものようにクロスボーンガンダムX1を出撃させ、

 

「えーっと、カンザキガワ・リン……ア、アル、トロン?ガンダム、行きます?」

 

 勝手が分からないリンは、とりあえずリョウマの真似をしてアルトロンガンダムを発進させた。

 

 

 

 出撃完了し、リョウマのクロスボーンガンダムX1が着地、続いてリンのアルトロンガンダムがゆっくりと着地する。

 

「まずは自由に動かしてみてくだ……」

 

 自由に動かしてみてください、と言いかけたリョウマに、アルトロンガンダムはいきなり右腕のドラゴンハングを展開し、左右のノズルから火炎を放ってきた。

 

「っと!?」

 

 不意打ちにリョウマは虚を突かれつつも、左腕のビームシールドを展開して火炎放射を防ぐ。

 

『あ、ごめん。この、ドラゴンハング?って言うのがよく分からなくて』

 

 通信回線越しにリンは謝る。

 どうやら動作確認をしようとしたら誤射してしまったらしい。

 リョウマは操縦桿を引き下げて、火炎放射の間合いから逃れる。

 

「いえ、大丈夫です。ノーダメージでしたし」

 

『ちょっと距離を取るね』

 

 ドラゴンハングを引き下げて、アルトロンガンダムはその場から少しだけ下がってから動作確認をしていく。

 ドラゴンハングの可動や火炎放射、ツインビームトライデント、バルカン砲の他、挙動やスラスターによる機動も確かめていく。

 

『……うん、分かった。じゃぁ始めよっか』

 

「もういいんですか?」

 

 先程のマニュアルの確認といい、覚えが異常に早い。

 頭の作りが他人と異なるんだろう、と割り切るリョウマ。

 

『バトルするんだよね?初心者だからって遠慮しないでいいよ』

 

「そうですけど……」

 

 何となく侮られているようで、リョウマとしては少し面白くない。

 だからといって本気で戦ったりはしないが、攻撃されることへのプレッシャーぐらいは教えてやるべきかと判断した。

 

「なら、行きますよ!」

 

 リョウマはウェポンセレクターを開き、直撃を避ける程度に狙いを外してザンバスターを発射する。

 しかしアルトロンガンダムは動じることなく、最小限の挙動だけでビームをやり過ごした。

 もう二発ほどザンバスターを放つが、やはり同じように避けられてしまう。

 

「(思ったよりやるな?)」

 

 ならばもう少し距離を詰めて、と判断したリョウマはクロスボーンガンダムX1を前進させる。

 適度な頃合いで格闘も仕掛けようと算段を立てるリョウマだが、

 

 それは予想外の結果を以て覆されるのだった。

 

 

 

 バトルが終了したことで、リンは自分のリザルト画面を見やる。

 

「あれ、もう終わり?」

 

 小首を傾げながら、対面にいるリョウマに目を向ける。

 そのリョウマは信じられないような目で、両手を筐体の上に手を付けてクロスボーンガンダムX1を見つめていた。

 

「…………負けた?俺が?」

 

 去年のGBフェスタを優勝して以来、リョウマは今まで負けたことはなかった。

 それも、一撃もまともに与えられず、最後は一方的に攻め立てられて終わりだ。

 

「どうして負けたのか分からない、って顔してるね」

 

 リンは何でもないことのように、その"理由"を答える。

 

「簡単だよ。剣を構えている位置から、どう言う太刀筋なのか丸わかり。振り下ろすのか、突き出すのか、上から来るのか、下から来るのか。ある程度の予測が出来てれば、いくら速くても同じだからね」

 

「…………」

 

 リョウマは言葉を失う。

 射撃戦ならまだ分かる理屈だ、銃口がどこを向いているかを判断して回避行動に移る、くらいなら理解できる。

 

「キミの動きはね、分かりやす過ぎるんだよ」

 

 だが、それを剣戟の間合いで見て取るなど、『不可能では無いがあまりにも非現実的だ』、悠長に太刀筋など見ていたらその瞬間には斬られているのだから。

 沈黙するリョウマに、リンは問うた。

 

「ねぇ、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 こんなもの。

 血と汗を滲ませて全力で取り組んで来たものを、そんな五文字で表された。

 

「(俺は……)」

 

 右手は拳を握り締めて、左手はクロスボーンガンダムX1を拾い、ケースに納めた。

 

「カンザキガワ先輩」

 

「ん、急に改まってどうしたの?」

 

 どうしたのかと訊ねるリンに、リョウマはアルトロンガンダムを拾い、それを彼女に差し出す。

 

「これ、預かっていてください。そうだな……明後日の日曜って空いてますか?」

 

「うん、空いてるね」

 

「よし……なら日曜日、今日と同じ時間帯に、ここに来てください」

 

「いいけど。もう一回戦うの?」

 

「そうです」

 

 去り際にリョウマは一度振り返って、

 

「次は負けませんよ」

 

 とだけ告げて、走り去っていった。

 

 

 

『甘水処』には寄らず(そもそも展示予定だったアルトロンガンダムをリンに預けてしまったので)、真っ直ぐ帰宅するなり部屋に籠もり、先程のバトルのリプレイ映像を再生する。

 

「(俺の動きは分かりやす過ぎる、か……)」

 

 リンの言葉を反芻しつつ、リプレイの様子を睨む。

 

 リョウマのクロスボーンガンダムX1がビームザンバーによる攻撃のために見せる、ほんの僅かな挙動。

 それを見た時点で、既にリンのアルトロンガンダムはツインビームトライデントによる迎撃体勢に入っている。

 次の瞬間には、振り抜かれたビームザンバーがツインビームトライデントの切っ先に受け止められ、弾き返される。

 これだけではない、回避した先に回り込むようなドラゴンハングの動き。

 距離を取れば火炎放射で動きを阻害され、足が鈍ったところをランダムバインダーのビームキャノンが狙う。

 最終的にはボディをドラゴンハングに噛み砕かれて撃墜。

 ここでリプレイは終了だ、リョウマはもう一度最初からスロー再生し、特にアルトロンガンダムの動きを注視する。

 やはり常識的な反応ではあり得ない初動の早さだ、攻撃されてからの反応ではなく、攻撃の前段階の時点で既に対応を整えている。

 それだけではない、ツインビームトライデント、ドラゴンハングとその火炎放射、バルカン、ビームキャノンと言った武装群の特性を正しく理解した上で的確に使い分けている。

 ビームサーベルには同じくビーム格闘兵装で相殺し、間合いから遠ざかろうとすればドラゴンハングで捕まえて、左右へ逃れようとすれば火炎放射とバルカンによる面制圧攻撃、それに足を止めている内に高威力のビームキャノンを撃ち込む。

 

 何度も何度もリプレイを繰り返し見るが、

 

「(ダメだ……どうシミュレートしても初手の時点で先回りされる)」

 

 スマートフォンをホーム画面に戻してから、ベッドの上に寝転ぶ。

 

 夕食、入浴を終えてからもシミュレートに耽るが、これと言った勝ち筋は見つからないままだ。

 

 やがて寝落ちするように眠りにつき、目覚まし時計のアラームに叩き起こされて、眠い目を擦りながら『甘水処』の研修に向かった――。

 

 

 

「……と言うのが、昨日からの経緯だ」

 

 その間にも欠伸を連発していたリョウマは、ようやく話し終える。

 

「はぇー……カンザキガワ先輩のことはわたしも知ってましたけど、よもやガンプラバトルまで天才だったとは」

 

 恐るべしです、とコノミは頷いている。

 

「つまり、久々にボロ負けして落ち込んでいる、と言うことか」

 

 アイカは要点中の要点だけを抽出したような答えを出した。

 

「まぁそうなるな……」

 

 ボロ負けしたことに変わりないため、リョウマは否定しない。

 

「ったく仕方のない奴だ……ちょっと待ってろ」

 

 呆れるように溜息をつくと、アイカはエプロンのポケットからスマートフォンを取り出し、数回のタップの後に耳に当てる。

 誰かに通話をするようだ。

 

「あぁ、アタシだ。……久しぶりのところ悪いが、大至急アタシのところまでガンプラを持ってこい。……不出来な従弟が、ガンプラバトルでボロ負けして落ち込んでいるそうでな、ヤキを入れてやってくれ。……安心しろ、ちゃんと融通は利かせるさ。イズモの奴とのマッチングデートでいいか?……なんだまだなのか?ヘタレかお前は。……はいはい分かった分かった。ではまた後でな」

 

 通話を終了し、リョウマに向き直るアイカ。

 

「リョウマ、今日の研修はもういいぞ。だが、少しだけ待て」

 

「……今から来る人とバトルしろってことですか?」

 

「ミノウへの研修はアタシが代わる。そいつにヤキを入れてもらえ」

 

 アイカはコノミを手招きして、カウンターの中へ入れる。

 

 

 

 十分ほどしてから、ブザーと自動ドアの開閉が来店を告げる。

 

「いらっしゃいませー」

 

「いらっしゃいませー!」

 

 リョウマとコノミは条件反射的に挨拶をするが、その来店者は真っ直ぐにカウンターに向かってくる。

 

「おぉ来たか、『レナ』」

 

 白金色の長髪を左側頭部で短くサイドテールにした女性は、アイカの姿を見つけるなり睨む。

 

「どうも……それで、ヤキを入れてほしいって言う従弟くんは?」

 

 レナ、と言うらしい女性の質問に、アイカはリョウマに目線をくれてやる。

 

「俺です。わざわざ来ていただいてすみません」

 

 促されるように、リョウマはレナの前に立って軽く頭を下げる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……初めましてね。わたしは『ジングウジ・レナ』」

 

「オウサカ・リョウマです」

 

「ん、それじゃぁさっさと始めましょう。アイカ先輩、バトルシステム借りますよ」

 

 それだけ告げると、レナは踵を返してバトルブースへ向かうので、リョウマは一度バックルームから自分のガンプラとスマートフォンだけ持って後に続く。

 

 

 

 無言のままバトルシチュエーションを設定していくレナに、リョウマは下手に話しかけるのも気が引けたため、淡々とクロスボーンガンダムX1とスマートフォンのデータを読み込ませる。

 

「……そう言えば、オウサカ・リョウマって名前で思い出したのだけど。あなた、去年のGBフェスタの優勝者?」

 

 不意にレナが話しかけてきたので、リョウマは跳ね返ったように反応する。

 

「あ、はいそうです」

 

「ふぅん……」

 

 訝しむような目を向けるレナ。

 

「ま、いいわ。嘘か真か、すぐに分かるわ」

 

 トン、とタッチパネルを押して設定完了。

 

 ステージは『ネオイングランド』

 

 原典作品は『G』からで、ジョルジュ・ド・サンド、ドモン・カッシュの二名がそれぞれ、ネオイングランド代表のガンダムファイター『ジェントル・チャップマン』とガンダムファイトを演じた戦場だ。

 原作に忠実らしく、濃霧の中で戦うことになるようだ。

 

「……オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃る!」

 

「ジングウジ・レナ、『ガンダムジェミナスマバリック』、推して参るわよ!」

 

 両者は出撃し、霧の街へと飛び込む。

 

 

 

 リョウマは、モニターに広がる白霧に目を細める。

 

「(……思ったより視界が悪い。しかも市街戦。気が付いたら目の前にいた、なんてこともあるな)」

 

 幸いにしてジャマーやチャフの類は散布されていないため、レーダー反応は正常だ。

 そして、正常であることを主張するように、前方からアラートが鳴り響く。

 リョウマはすぐに操縦桿を捻ってクロスボーンガンダムX1を跳躍、その高出力のビームを避ける。

 霧を吹き飛ばさん勢いで放たれたビームのおかげで、その姿が見えた。

 

 白とライムグリーンのツートンカラーに、頭頂部から伸びるセンサー、ライフルとシールドの形状から『ガンダムジェミナス』をベースとした機体であることはすぐに読み取れた。

 大きく違う点は、上半身を覆う漆黒の外套(クローク)

 恐らくはガンダムジェミナスの固有装備であるブースター――それもオリジナルのモノだろう――のようだが、あのように機体を覆う形状から見るに、表面に何かしらの耐性があるかもしれない。

 

 コンソールから読み取られた機体銘は『ガンダムジェミナスマバリック』と言うらしい。

 

「ヤキを入れてもらえ、とは言われたが……むざむざ負けるものかよ!」

 

 ウェポンセレクターを開いてザンバスターを選択、ガンダムジェミナスマバリック目掛けて連射するクロスボーンガンダムX1。

 だがザンバスターのビームは、クロークの表面に到達すると呆気なく弾き返された。

 

「やはり耐ビームコーティング……いや、ガンダムグリープのリフレクトシールドか?」

 

『御名答。優勝というのは肩書だけでは無いようね……でも、この『ディフェンスドブースター』は、こう言うことも出来るのよ!』

 

 リョウマの見立てを肯定するレナだが、次の瞬間にはガンダムジェミナスマバリックはクローク――ディフェンスドブースターの一部を変形させると、一対のビームキャノンとしてビームを発射した。

 

「ちっ、攻防一体型の装備ってことか……!」

 

 リョウマは続けざまに操縦桿を蛇行させてビームを躱すが、ABCマントにビームが着弾してしまう。

 まだ防げるが、アテには出来ないだろう。

 

 加えて、ガンダムジェミナスマバリックの右手には強力な『アクセラレートライフル』もある。

 

 とは言えこの程度、普段のリョウマならすぐに対策を導き出して反撃に移れる。

『普段のリョウマ』であれば、だが。

 

「機体の反応が鈍い!何で……!?」

 

 言葉ではそう言うものの、リョウマ自身には分かっていた。

 

 否応なく記憶を揺さぶってくる、リンのアルトロンガンダムとのバトル。

 

 自分の打つ手全てが、後出しジャンケンのように潰されていく、勝ち筋の見えない戦いを強いられる。

 

 それはリョウマの中に凝りとなってとぐろを巻き、思考や反応を阻害されていること。

 分かっていても自覚したくない。

 

 どうにか回避しつつも、散発的にザンバスターやバルカンを撃ち返していくが、最小のダメージで防がれ、凌がれてしまう。

 

『何をそんなに怖がっているのか知らないけど、GBフェスタの優勝者が、聞いて呆れるわね!』

 

「『怖がっている』……俺が?」

 

 なおも苛烈にビーム射撃を叩き込んでくるレナのガンダムジェミナスマバリック。

 

『クロスボーンガンダムと言う機体の特性を全く活かせてない。それで優勝したなんて、よほどレベルの低い大会だったのかしらねぇ!』

 

「……何をォッ!!」

 

 腹の底が煮え沸き立った。

 久々に覚えた"怒り"に、リョウマはギチリィッ、と奥歯を軋ませ、ホログラムの操縦桿を握り締める。

 

「やるぞ、X1ッ!」

 

 ザンバスターを分離させ、右手にビームザンバー、左手にバスターガンをそれぞれ持たせ直して、クロスボーンガンダムX1は、ビームキャノンを跳躍して回避、そのまま建造物を壁キック、建造物から建造物へパルクールをするかのように飛び回る。

 

『ちょこまかと……!』

 

 アクセラレートライフルとビームキャノンを交互に連射して追い縋るガンダムジェミナスマバリック。

 

 いたちごっこが何度か繰り返された時、不意リョウマの方から仕掛けた。

 正面斜め上から接近するクロスボーンガンダムX1に対し、ガンダムジェミナスマバリックは即座にビームキャノンを差し向ける。

 

「今だッ」

 

 リョウマはウェポンセレクターを回し、バスターガンをサイドスカートに納めると、空いた左マニピュレーターでABCマントを掴み、脱ぎ捨てながらそれを投げ付けた。

 

『目くらましのつもりで!』

 

 ガンダムジェミナスマバリックはアクセラレートライフルでABCマントを貫き吹き飛ばす。  

 が、そのABCマントを飛び越えるように、クロスボーンガンダムX1はフレキシブルスラスターを翻し、上段から叩き付けるようにビームザンバーを振り降ろす。

 対するレナの反応も早く、すかさずビームソードを抜き放ち様にビームザンバーを受ける。

 

『何よ、やれば出来るじゃない……!』

 

「そいつはどうも……ッ!」

 

 互いに弾き合い、ほんの少し距離空いたところへガンダムジェミナスマバリックは近距離でアクセラレートライフルを放つ。

 ビームシールドによる防御も間に合わずに、クロスボーンガンダムX1は左腕を貫かれてしまう。

 

「なんとぉーッ!!」

 

 片腕の損失と言う攻撃力の大幅な低下に躊躇うことなく、リョウマはウェポンセレクターを回しながら操縦桿を押し出して、一気に接近する。

 同時に、クロスボーンガンダムX1の口部ダクトが開き、強制排熱を開始する。

 ウェポンセレクターから選択するのはヒートダガー。

 右脚部の土踏まずから刃を覗かせ、ガンダムジェミナスマバリックの頭部へ飛び蹴りを放つ。

 スラスターの予熱によって赤熱化したヒートダガーの刃が、ガンダムジェミナスマバリックのデュアルアイを焼き潰す。

 

『ちっ!?』

 

 メインカメラを損傷し、レナの操縦が一瞬止まる。

 その一瞬の隙を見抜いたリョウマは、続けざまにビームザンバーを薙ぎ払う。

 ガンダムジェミナスマバリックは咄嗟にリフレクトシールドと一体化したビームキャノンでビーム刃を食い止めるが、ビームザンバーの縦方向に集中した高出力には耐え切れずにそのまま斬り裂いた。

 だが一瞬とは言えビームザンバーを食い止めていた隙に、ガンダムジェミナスマバリックはクロスボーンガンダムX1の間合いから辛うじて逃れる。

 

『なめるなぁッ!』

 

 カウンターにビームソードを振るうガンダムジェミナスマバリック。

 

「ッ!!」

 

 リョウマは即座にウェポンセレクターを選択、右フロントスカートからシザーアンカーを射出させ、ガンダムジェミナスマバリックの左腕にぶつけるようにして放つ。

 シザーアンカーと衝突して仰け反るガンダムジェミナスマバリック。

 

「行けェッ!!」

 

 操縦桿を一気に押し出し、ビームザンバーを突き出しながら突撃させる。

 

『ちいぃッ!』

 

 だがレナも即座に操縦桿を捻り返し、迫るクロスボーンガンダムX1へ向けてアクセラレートライフルのトリガーを引き絞った。

 

 結果、クロスボーンガンダムX1のバイタルバートはビームによって撃ち抜かれた。

 

 同時に、ガンダムジェミナスマバリックのボディもまた、ビームザンバーに貫かれた。

 

 クロスボーンガンダムX1、ガンダムジェミナスマバリック、撃墜。

 

 

 

「……相討ち、ですかね?」

 

「そのようね……」

 

 リザルト画面は双方とも『LOSE』と表示されている。

 ホログラムが消失するのを確認してから、リョウマとレナは自分のガンプラと端末を回収する。

 

「ヤキを入れる、とまではいかなかったけど。少しは憂さが晴れたかしら」

 

 レナにそう言われて、リョウマは自分の中の凝りを忘れていたことに気付く。

 

「そう、ですね……途中から必死でしたから」

 

 思えばアイカも「ヤキを入れてもらえ」と言っていたが、恐らく文字通りの意味では無かったのだろう。

 

 一旦嫌なことを忘れて思い切りバトルしろ、と。そう言いたかったのかもしれない。

 

「ジングウジさん、ありがとうございました」

 

 リョウマはレナに向かって頭を下げた。

 

「あなたに「怖がってる」って言われて気付いたんです。俺、いつの間にか負けるのに弱くなってたみたいで」

 

「別に私は何もしていない。アイカ先輩に言われてバトルしただけだから」

 

 そっけなく返すレナは、やることは終わったとばかりバトルブースを出ようとするが、その前に後ろ目に振り向く。

 

「まぁ、それならお節介を焼いた甲斐があったかしらね。……次は勝ちなさいよ」

 

 それだけ告げてから、レナは今度こそ立ち去った。

 

「……よしっ」

 

 リョウマは後片付けをしてから、バトルブースと、そのまま『甘水処』を出た。

 

 明日の再勝負に備えるために。

 

 

 

 

 

 翌日。

 一昨日と同じ時間にダヤマ電気に訪れたリョウマは、バトルブースに赴く。

 そこには既に、対戦相手――カンザキガワ・リンが待ってくれていた。

 

「こんにちは、カンザキガワ先輩」

 

「ん、こんにちはリョウマくん。約束通り来たよ」

 

「ありがとうございます。早速、始めましょうか」

 

 互いに軽く挨拶を交わしてから、二人はガンプラをセットしていく。

 

 ステージは前と同じ、『サイド7』に設定。

 オフラインマッチング完了。

 

「オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃る!」

 

「カンザキガワ・リン、アルトロンガンダム、行くよ」

 

 

 

 出撃完了した両者は、再び対峙する。

 

『操縦はこの間の戦いで分かってるから、練習時間はいいよ』

 

「分かりました。……行くぞッ!」

 

 初っ端から全力、温存や出し惜しみなどしていては負ける。

 リョウマは操縦桿を押し出して、フルスロットルで加速させる。

 まずは牽制にザンバスターを連射すれば、やはり最低限の挙動だけで回避してみせるアルトロンガンダム。

 牽制はあくまでも牽制、そのままアルトロンガンダム目掛けて最短で直進する。

 

『動きを読まれる前に短期決戦ってことかな』

 

 積極的に距離を詰めようとするクロスボーンガンダムX1を見て、リンは淡々とリョウマの思惑を測る。

 アルトロンガンダムはランダムバインダーからツインビームトライデントを抜き、自らも接近。

 先んじて突き出されるツインビームトライデントに、リョウマは操縦桿を捻り返して左側面へ回り込みつつ、左手にヒートダガーを抜き、

 

『いや、それくらいはね』

 

 すかさずアルトロンガンダムは左腕のドラゴンハングの牙を剥かせる。

 

「で、しょうね?」

 

 しかし、反応してから回避するまでの余裕があったにも関わらず、リョウマはそのままクロスボーンガンダムX1を突っ込ませた。

 それどころか、ヒートダガーを握った左腕をわざと喰らわせるかのように、ドラゴンハングの正面へ向けさせた。

 ドラゴンハングがクロスボーンガンダムX1の左腕へ咬み付こうとする寸前、リョウマは『ヒートダガーの切っ先を上へ向けた』

 

 すると、そのまま噛み砕くはずのドラゴンハングは、途中で開閉機構を止めてしまった。

 

『!?』

 

 何故止まってしまったのか、とリンは目を見開くが、

 

『そっか、つっかえ棒と同じ要領』

 

 瞬時にその原因を読み取った。

 ヒートダガーを敢えて上向きに突っ込ませて、ドラゴンハングの開閉部を"つっかえ"させているのだ。

 無理にドラゴンハングを閉じようとすれば、ヒートダガーの刃が内部機構に喰い込んで破損してしまう。

 そして、それだけの隙があればリョウマには十分だ。

 

「ドラゴンハングの、懐にさえ飛び込めば!」

 

 クロスボーンガンダムX1はヒートダガーから手を離すと、ドラゴンハングを潜るようにアルトロンガンダムへ肉迫する。

 

 ドラゴンハングは複数のアームブロックを連結させることで、通常の腕よりも長いリーチを間合いから格闘攻撃を仕掛けられる武装だが、一度アームブロックを伸ばしてしまえば『それより後ろはガラ空き』だ。

 

 空いた左腕にブランドマーカーを展開させてビームスパイクを発振、真っ直ぐにアルトロンガンダムの左脇腹へ叩き込んだ。

 

 アルトロンガンダム、撃墜。

 

 

 

「よぉしッ!!」

 

 自らの機転が掴み取った勝利に、リョウマはガッツポーズでそれを噛みしめる。

 

「…………」

 

 リョウマが喜んでいる対面にいるリンは、再度アルトロンガンダムを読み込ませて、ホログラムを生成させていく。

 

「もう一回」

 

「え?」

 

 リンはそう言いながらリョウマをジト目で睨む。

 

「もう一回して。今の納得いかない」

 

「納得いかないって……先輩、意外と負けず嫌い?」

 

「うるさい。早く設定して」

 

「はいはい、分かりました」

 

 ぷぅ、と頬を膨らませるリンに苦笑しつつも、リョウマは先程と同じシチュエーションで設定する。

 

 

 

 それから、何度かバトルを行ってから別れたのだが。

 

「(……そう言えば、アルトロンガンダム返してもらってないな)」

 

 とは言え、せっかくガンプラに興味を持ってくれたようなので記念にあげてしまってもいいか、アルトロンガンダムならまた作ればいい、と自己完結した。

 

 

 

 

 

 翌朝の学園。

 チサと共に登校し、ミヤビと合流し、教室の一席で談笑しているところだった。

 

 不意に、教室の出入り口付近が騒がしくなる。

 

「なんだろ?」

 

 チサがその騒ぎに気付いて、リョウマとミヤビも出入り口の方へ目を向けて、リョウマが真っ先に目を見開いた。

 

 廊下と教室の境目でクラスメートに声を掛けているのは、昨日も会ったリンであった。

 

 周囲にいる生徒達は「天才のカンザキガワ先輩だ……」などと囁きあっている。

 

「ねぇキミ、ここのクラスにオウサカ・リョウマって言う男子がいると思うんだけど、呼んでくれる?」

 

「は、はいっ……」

 

 リンに声を掛けられた女子生徒は、慌てて踵を返してリョウマの席へやって来た。

 

「オウサカくん、カンザキガワ先輩が用があるって」

 

「ん、分かった」

 

 リョウマは椅子から腰を上げて、廊下で待っているリンの元へ向かう。

 

「おはようございます、カンザキガワ先輩」

 

「うん、おはよう」

 

「俺がどうしましたか?」

 

「そうそう、これなんだけど」

 

 端的に挨拶を交わすと、リンは手にしていたもの――アルトロンガンダムのガンプラを差し出してきた。

 

「昨日はつい熱くなっちゃってごめんね、返しそびれてた」

 

「あぁ、わざわざご丁寧にどうも。俺も忘れてましたし」

 

 リョウマはアルトロンガンダムを受け取るが、そこでリンは話を続ける。

 

「そう言えばリョウマくん。このアルトロンガンダムって、改造とかなんとかしてたりするの?」

 

「ん?まぁ、スタイルの調整とか、可動範囲の確保とか、色々とやりましたけど」

 

 確かにリョウマの製作したアルトロンガンダムは、ベースこそ旧キット1/144のアルトロンガンダムだが、関節はガンダムサンドロックやガンダムヘビーアームズなどに使用されている『ガンダムWフレーム』に総入れ替えしたり、各部のシャープ化、延長化を行うなど、全く別物となっている。

 リンが何を言いたいのかと言うと。

 

「あれから、私もアルトロンガンダムを買って作ってみたんだけど、ものすごくちゃっちい感じだったんだ。だから、どう違うのかなって」

 

「あー、そのアルトロンガンダム、かなり古いキットですからね。最近のキットほど細かく出来てないんですよ。当時で言えば、ドラゴンハングの可動はよく再現出来てたらしいんですが」

 

「そうなんだ。手足とか思ってたように動かないし、関節も緩々だったから、不良品でも引いたのかと思った」

 

 なるほど、とリンは感心したように頷く。

 

「なんでしたらこれ、もうちょっと貸しますよ」

 

 返されたばかりのアルトロンガンダムを返すリョウマ。

 

「いいの?」

 

「カンザキガワ先輩が納得出来るまでいいですよ。あ、でももし壊れたりしたらすぐ言ってくださいね?」

 

「大丈夫、壊すような真似はしないよ。じゃぁ、もう少し借りるね」

 

 リンはそう頷いて、アルトロンガンダムを受け取り直す。

 

「それじゃ、邪魔したね」

 

 軽く手を振って、リンは教室から去っていった。

 それを見送ったリョウマは踵を返すと、クラスメート達から奇異の目で見られた。

 

「あのカンザキガワ先輩がガンプラって……オウサカ、お前あの人に何したんだ?」 

 

「何回かガンプラバトルしただけだが?」

 

「あり得ねぇ……あの、勉強以外にやることが無いとか言ってるカンザキガワ先輩が、ガンプラバトル……!?」

 

 奇異の目から、信じられないものを見るような目に変わる。

 

 そこまで驚くことだろうかと思うリョウマだが、リンはガンダムのガの字も知らなかったのだ。

 周囲の人間にとってリンがどう見えているかなど知らないが、少なくとも悪意で他人を傷付けるような人間ではないだろう。

 

 予鈴が鳴り響いたので、席につくことにした。

 

 

 

 

【次回予告】

 

 チサ「ミヤビちゃんもすっかり緑乃愛学園に慣れてきたよね」

 

 ミヤビ「うん。これもオウサカくんやチサちゃんのおかげよ」

 

 リョウマ「俺もチサも、特別何かしたわけじゃないがな」

 

 ハルタ「リア充生活を満喫しているところ悪いけどリョウマ、シミズさんにお客さんだ」

 

 リョウマ「シミズさんにお客?」

 

 ハルタ「少しばかり面倒な相手だから、適当にあしらっていいよ」

 

 ミヤビ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー

 

菫麗乱舞

 

 次のミス緑乃愛候補に挑戦って、そんなの興味ないんだけど……」

 

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