ガンダムブレイカー・シンフォニー   作:さくらおにぎり

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5話 菫麗乱舞

 六月に差し掛かると、週間天気予報は雲マークと雨マークが埋め尽くすようになる。

 つまりは、梅雨の時期だ。

 

 朝から降りしきる雨を窓から一瞥しつつ、リョウマは登校前の空き時間に『ガンスタグラム』を覗いていた。

 

「ん、コノミちゃんの更新か」

 

 フォロー新着の欄に『このみん』のユーザー名が載っているのを見て、作品をタップしてみる。

 

 どうやら昨夜の内に投稿していたそれは『ガンダムグシオン』のカラーリングをした『ガンダムグシオンリベイク』だ。

 

 タイトルは【ガンダムグシオン氏、ダイエットに成功!?】と言うコミカルなものだ。

 

 元のガンダムグシオンがこれでもかと重装甲化していたのに対して、ガンダムグシオンリベイクとなってからはスマートな体型をしている。

 本来は"焼き直されて"カーキ色となったそれを敢えて元の濃緑色に塗装することで、まさに『ガンダムグシオンがダイエットに成功した』ような姿をしているように見える。

 マン・ロディと一緒に並べられ、手持ちの武器がグシオンハンマーである――ブルワーズ所属を表す――ところが、尚更にそう見えてしまう。

 シールドを掲げながら「これ、オレの脂肪です」と言うフキダシが書き込まれているのを見て、笑いを堪えながら画面をスライドさせ、コメントを書き込む。

 

 リョーマ:ちょっ、これは笑えますwwwブルック・カバヤンもこれを見習ってダイエットすればいいのに(笑)

 

 コメントを投稿完了したところで、チサが迎えに来たのだろうインターホンが鳴らされ、リョウマは鞄を手にとって玄関へ向かった。

 

 

 

「もうすっかり梅雨入りだね」

 

 傘を片手に隣り合って歩く中、チサが何気なくそう言った。

 

「梅雨だな。塗装がしにくいから嫌な時期だ」

 

 モデラーとして切実なことをぼやくリョウマ。

 

「それ、毎年言ってるよね」

 

「このやり取りも毎年言ってるな」

 

 きっと来年の梅雨も同じことを言ってそうだ、と互いに苦笑していると、

 

「あっ、オウサカくん、チサちゃん」

 

 後ろからミヤビが声を掛けてきた。

 

「ミヤビちゃんおはよー」

 

「ん、シミズさんおはよう」

 

 二人が挨拶を返すと、ミヤビはリョウマとの間にチサを挟む位置につく。

 

「二人はいつも一緒に登校してるの?」

 

 ミヤビがそう訊ねると、チサが答える。

 

「うん。特別なことが無い時は、わたしが迎えに行ってるんだよ」

 

「チサは時間に正確だからな。万が一寝過ごしても安心だ」

 

「そう言うリョウくんも、寝坊なんてしたことないよね」

 

「その辺は、親から染み付いた生活習慣に感謝だな」

 

 そう言って小さく笑い合うリョウマとチサだが、その二人の様子を見て、ミヤビは申し訳なさそうに口を挟む。

 

「えっと、つかぬことを訊いてもいい?」

 

「つかぬこと?何のこと?」

 

 小首を傾げてキョトンとしているチサ。

 少しだけ躊躇した後、ミヤビは思い切った。

 

「その……オウサカくんとチサちゃんって、『付き合ってる』の?」

 

「うぇっぶ!?」

 

 予想外なことを言われてか、チサは奇声を上げて固まった。

 

「うぇっぶ?……スクリューウェッブか」

 

 クロスボーンガンダムX1に追加された武装のことを挙げるリョウマ。そうではない。

 

「ち、ちちち違うよっ!?わわっ、わたしとリョウくんっ、付き合って、ないよ!?」

 

「落ち着けチサ、って言っても落ち着かないのは知ってるが。信じるかどうか任せるが、少なくとも俺達二人の共通認識は『付き合ってない』だ」

 

 ぐるぐると目を回して慌てるチサに、リョウマは思い切り氷水をぶっかけるように答えた。

 

「ぁ……うん、付き合ってない、よ」

 

 我に返ったチサは、()()()()()()()()()頷いた。

 

「そうなの?チサちゃんが毎日迎えに来るくらいだから、てっきりそうなんじゃないかなって思ったけど……」

 

 違うんだ、とミヤビは意外そうな顔をする。

 

「そ、それより、ミヤビちゃんにお付き合いの相手がいない方が不思議だよ。こんなにキレイで可愛いのに、もったいないよねぇ」

 

 無理矢理話題を変えようと、チサはミヤビに話を振る。

 

「加えて嫌味ったらしいところも無いし、嫌う要素が無いな」

 

 更に付け加えるのはリョウマ。

 

「や、だ、だから、そのっ。キレイとか可愛いって言ってくれるのは嬉しい、けど……」

 

 けど、の後に続くミヤビの気配は、どこか陰があった。

 

「……ほんとはね。私、男の人……それも、歳上が怖くて。あ、オウサカくんみたいに、優しい人は平気だけど」

 

「ミヤビちゃん、男の子苦手なんだ……でも、学園じゃそんな風に見えないよ?」

 

 ミヤビの意外な告白に、チサは瞬きを繰り返す。

 

「そう見せないように振る舞ってるだけ。男子と話す時、今でもちょっと緊張してるの」

 

「あー、その、シミズさん。俺、先に行った方がいいか?」

 

 異性が苦手、と言うミヤビの言葉を聞いて、距離を置いたほうがいいかと判断したリョウマはそう進言する。

 だが、ミヤビは「うぅん」と首を横に振った。

 

「オウサカくんは平気だから。むしろ、一緒にいてくれた方が安心出来るかな」

 

「うんうん。リョウくんは背が高くてカッコいいから、変な人も寄ってこないよね」

 

 チサも同調する。

 

「……まぁその、いてもいいんなら、一緒にいるが」

 

 美少女二人から「いてほしい」と言われて、リョウマはちょっとだけ目線を泳がせて頷く。

 しかしチサがそんなリョウマの様子の変化を見逃すはずがなく。

 

「……あれれ?リョウくんもしかしてちょっと照れてる?」

 

 そう言われればミヤビも察する。

 

「オウサカくんって、意外とかわいいとこあるんだ?」

 

 いかんこれはいぢられるパターンだ、とリョウマは瞬時に読み取るが、チサは右手の人差し指を伸ばしてリョウマの右頬をつつく。

 

「照れてるリョウくんを見るのは久しぶりだなー」

 

「おいチサ……」

 

 それを見て、ミヤビもニコニコと逆サイドからリョウマの頬をつつく。

 

「オウサカくん、かわいい♪」

 

「シミズさんまで……」

 

 リョウマも、この状態が嫌と言うわけではない。

 ない、が……

 

「なんだあいつ二股か……?」

 

「男の敵だな……」

 

「お前を、殺す……!」

 

 周囲の男子生徒からの怨嗟の視線が、四方八方から彼を襲う。

 

 今日は疲れることになりそうだ、と覚悟を決めたリョウマであった。

 

 

 

「あの人が、シミズ・ミヤビはんか……」

 

 

 

 そんなミヤビの後ろ姿を、一人の女子生徒が見ていた。

 

 

 

 

 

 四時限目の授業が済めば、昼休みだ。

 リョウマ、ミヤビ、チサの三人が弁当を手に机を並べ合わせるのは既に日常風景だが、今日はそこにハルタが加わっていた。

 いつものハルタは学食か購買部での"戦利品"かのどちらかだが、今日のところは違うようだ。

 

「今日はハルタも弁当か?」

 

「いいや、朝の内にコンビニで確保してきた」

 

 鞄から使い古されたビニール袋を取り出し、その中からおにぎりやパンを机に並べていく。

 いただきます、と声を揃えてそれぞれの食事にありついていく四人。

 

「シミズさんも、すっかりこのクラスに馴染んできたな」

 

 何気なく、ハルタが最初に話を切り出した。

 

「うん。これもクラスのみんなが良くしてくれたおかげよ。ありがとう、ナガイくん」

 

 そう返すミヤビだが、今朝に聞いた独白を知ったリョウマから見た彼女は、やはりどこか演じている節が見え隠れしているように感じられた。

 

「いやいや、俺様は何もしていないけど、シミズさんにそう言われるのは純粋に嬉しいな」

 

 対するハルタも、紳士的な面を見せつつ応じている。

 ミヤビとハルタ、互いに仮面を被った姿だと、果たして気付いているのだろうか。

 

「そう言えば、シミズさんは京都の出身だったね?」

 

「そうだけど?」

 

 不意にハルタは、ミヤビの出身地を確認するように訊ねた。

 ミヤビも特に否定はせずに答えたが、それを聞いたハルタは微妙に険しそうな顔をした。

 

「……いや、ちょっとこの学園の知り合いに、同じ京都出身の奴がいてね。そいつがまたちょっと面倒臭い奴だから、シミズさんのことを知ったら余計なことになり……ん?」

 

 ふと、ハルタの視線が教室の出入り口に向けられる。

 

「噂をすれば影だな」

 

 出入り口付近にいたのは、一人の女子生徒。

 赤のタイをしているところ、同じ二年生だろう。

 視線を左右させると、リョウマ達の団体に歩み寄って来る。

 

 赤茶けた髪を二つ結びにした、特徴的な髪型だ。

 

「あれ、『アヤナ』ちゃん。どうしたの?」

 

 すると、チサは知り合いなのか下の名前を呼んだ。

 

「いきなりすいませんねチサはん。ウチ、ちょいとそこの人に用がありますのん」

 

 はんなりの訛りのある言葉で応じる、アヤナと言うらしい女子生徒。

 

「(はんなりにアヤナ……確か、四組の『カザマ・アヤナ』だったか)」

 

 リョウマも、チサ越しながら彼女のことは知り得ていた。

 

 何でも、日本舞踏の家元に生まれ、次期後継者として英才教育を受けて来たお嬢様だと言うらしい。

 ついでに、昨年のミスコンにおいて『ミス緑乃愛』のNo.1に輝いたと言う、十人中十人が認める美少女。

 

 そのアヤナは、そこの人――ミヤビに目を向けていた。

 

「えっと……私のこと、ですか?」

 

「そう、確認したいんですけど、シミズ・ミヤビさんで間違いあらへん?」

 

「はい」

 

 ミヤビは是正するなり、アヤナはミヤビの頭から足先まで品定めをするように見つめる。

 

「……パーフェクトや」

 

「え?」

 

 何がパーフェクトなのかとミヤビは訊ねようとする前に、アヤナは続ける。

 

「キレイすぎるねん……ウチ、これでも舞踏の家柄として常に清く美しくを家訓に生きてまして、自分の容姿には自身あります」

 

 心底から悔しがるように身を震わせるアヤナだが、すぐに姿勢を正して一礼した。

 

「おっとすんまへんね。ウチ、二年四組のカザマ・アヤナ言います」

 

「えぇとそれで、私に用って言うのは?」

 

「単刀直入に言います。ウチはあなたに挑戦する!」

 

 しっかりとミヤビを見据えてそう宣言するアヤナ。

 

「挑戦?」

 

「ウチの目から見ても、シミズはんは紛れもない美少女。そんな人が転校してきたと聞いたら黙ってはいられんと思うたんです。ズバリ、今年の文化祭で行われるミスコンに出場して、ウチと勝負です!」

 

「み、ミスコン?私、そう言うのに興味はないんですけど……」

 

 ミスコンに出ろと迫るアヤナと、遠慮したいミヤビ。

 そこへ助け舟を出すのはチサだ。

 

「アヤナちゃん。いきなりそんなこと言われたら、ミヤビちゃんだって困るよ?」

 

「いやいやチサはん、ここで退いたら京都の女が廃るっちゅぅもんです。ウチの誇りにかけて、ぜひとも白黒をつけにゃなりません」

 

 梃子でも動かぬとでも言わんばかりの強硬姿勢だ。

 我関せずを決め込むつもりだったリョウマだが、すぐに解決しそうにないため口を挟む。

 

「あー、カザマさんと言ったか」

 

「これは女の問題です。部外者は静かに」

 

「そうか、なら俺は関係者だから問題ないな。ミスコン云々の話は、今すぐここで決めなくてもいいだろう。文化祭の準備期間にでも、もう一度訊けばいいと思うが」

 

 リョウマの意見に、チサも便乗する。

 

「そうだよ。ミヤビちゃんが、自分でミスコンに出たいって言うのを決めてからじゃないと。やる気が無い相手に勝っても、アヤナちゃんだって納得出来ないし、嬉しくないでしょ?」

 

「むむ……そう言われると。ウチとて、万全ちゃう相手に勝負する気はありまへん」

 

 二人から諭されて、アヤナはやや不満そうながらも言い返せないために押し黙る。

 押しの強さに少し気が引けていたミヤビだったが、それを弱めてくれたのを見て安堵する。

 このまま、ミスコンのことはとりあえず保留に……と行くはずであったが。

 

「やめておいた方が身のためだよ、"お嬢"」

 

 不意に、ここまで何故か黙って自分の食事に集中していたハルタが介入した。

 

「……その呼び方は気に入らへんな、"ハル坊"」

 

 するとアヤナは、ミヤビやチサ相手とは違う攻撃的な低い声色で応じた。

 しかもそれぞれ「お嬢」「ハル坊」と呼び合っている。

 どうやらただの知り合い同士では無いらしい。

 

「それに、やめておいた方えぇてどう言う意味や?」

 

「言葉通りだよ。舞踏の場ならともかく、一学園のミスコンでお嬢がシミズさんに勝てるとは思えないからねぇ」

 

「ほーぉ、やる前から結果が見えた言うんか。ハル坊、おどれいつからエスパーになったんや?」

 

「月とスッポン、巨象と蟻、カミーユとジェリド。比べるのも烏滸がましいって言う意味さ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 明らかに初対面ではない。

 双方喧嘩腰で、視線と視線の間に見えない火花が迸っている。

 

「なんだハルタ、カザマさんと知り合いだったのか?」

 

 リョウマがそう訊ねれば、ハルタは視線だけを向けてくる。

 

「幼馴染みと言うか、腐れ縁だね。……最近辺りから、少し気に入らなくなってきたけど」

 

「奇遇やなハル坊。ウチもおどれみたいな軟弱もんと腐れ縁扱いされるんは、正直どないかと思とったんよ」

 

 互いに矛を収めるつもりはなく、語彙の限り相手を皮肉り罵り合う。

 喧嘩するほど仲が良いとはよく言うが、この二人に関しては例外かもしれない。

 ミヤビもチサも、どうしたものかと不安げに右往左往している。

 そもそも喧嘩の口火を切ったのはハルタの方か、と判断したリョウマは止めに入ろうとするが、

 

「賭事にするんは勝手やけど、ウチがミスコンで優勝したらどない弁明するつもりや?」

 

「おめでとう、とでも言っておくよ。……まぁ、その"胸"さえ目立たさなければ、アヤナにも勝機が無くは無いだろうけど」

 

 ハルタはそう言いながら、アヤナの膨らみに乏しい"ある部位"を睨めつける。

 その言葉と行動が、決定的だった。

 

「……おどれに何を言うても無意味っちゅぅのはよう分かったわ」

 

 気にしていたらしい。

 

「力尽くでもえぇけど、それでもおどれは黙らへんやろ。ほな、ガンプラバトルで黙らしたるわ」

 

「いいね。暴力はスマートじゃないから、それで納得するんなら俺様は構わないよ。勝てれば、の話だけど」

 

 暴力を含む喧嘩ではなく、ガンプラバトルと言う範疇で決めるつもりだ。

 それと、とハルタは付け加える。

 

「意味はないだろうけど、公平性を考慮した上で、互いの証人を立てようか。2on2だ」

 

「一対一じゃウチに勝てへんからて、姑息な真似なことしよるわ。まぁ、それで構へんよ」

 

 そう言ってから、アヤナはチサに向き直った。

 

「チサはん、ウチと組んでくれまへんか」

 

「わ、わたしっ?え、ハルタくんって結構強いよね?わたし、ヘボヘボさんだけど……」

 

 急に指名されて慌てるチサ。

 ふと、チサとミヤビの目が合った。

 

「わたしより、ミヤビちゃんの方がずっと強いよ?」

 

「そ、そこで私に振るの!?」

 

 今度はミヤビが慌てる番になった。

 

「なるほど、シミズはんもビルダーとな。ならミスコンの前に、シミズはんの実力を見せてもらいましょか」

 

 しかも、肝心のアヤナも乗り気である。

 

「えぇ……多分、カザマさんが思ってるほど強くないと思うけど」

 

 ミヤビとアヤナがあーだこーだと言っているのを尻目に、ハルタはリョウマに目を向けた。

 

「断る」

 

 何かを言う前にリョウマは言葉を放った。

 だが、ハルタの方が一枚上手だった。

 

「……貸しをひとつ使わせてもらおうか」

 

「ちっ……分かった」

 

 それだけで、二人の間で密約が交わされる。

 露骨に舌打ちしながらも、リョウマはハルタと組むことになった。

 

 殺る気満々のハルタとアヤナ、微妙に乗り気でないリョウマとミヤビ。

 

 勝負は今日の放課後。

 緑乃愛学園にもバトルシミュレーターが配備されており、使用申請を出せば、一般生徒でも使用可能であるのだ。

 

 

 

 放課後になり、特別教室にはリョウマ達の他に大勢の生徒達で溢れていた。

 昼休みのやり取りは当然周囲の生徒達にも見聞きされていたため、噂を聞き付けて野次馬的に観戦に来たのだ。

 

 加えて、『去年のミス緑乃愛優勝者であるカザマ・アヤナと、謎の美少女転校生シミズ・ミヤビがガンプラバトルを行う』と言う別の意味で噂にもなったのだが。

 

「随分集まったな……」

 

 ギャラリー達の興味の視線に辟易としながらも、リョウマはケースからクロスボーンガンダムX1を取り出した。

 

「集まったと言っても、大部分はお嬢とシミズさん目当てだろうけどね。ま、俺様達はせいぜい悪役(ヒール)を演じるとしようじゃないか」

 

 不敵に笑うハルタが取り出すのは、中世期の騎士を思わせる外観を持つガンダムフレーム、『ガンダムキマリス』だ。

 通常のガンダムキマリスとは異なるカラーリングが施されており、『ティターンズ』を思わせる黒と濃紺のツートンカラーだ。

 

 バトルシミュレーターが起動し始め、ホログラムが操縦桿を生成し、ランダムステージセレクト。

 

 今回選ばれたのは、『フィフス・ルナ』だ。

 

 原典作品は『逆襲のシャア』からで、フィフス・ルナを地球のラサ基地へ落下させんとする新生ネオ・ジオンと、ロンド・ベルとの戦いの場だ。

 既にフィフス・ルナは地球への落下軌道へ突入しており、バトルスタート時は巨大な障害物として機能するが、数分後に移動を開始してステージから消失する仕組みだ。

 

「オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃ぞ!」

 

「ナガイ・ハルタ、ガンダムキマリス、俺様見参!」

 

 

 

 ギャラリーの中には、噂を聞いたカンザキガワ・リンの姿もあった。

 

「(この学園でガンプラバトルが始まるとは聞いたけど、よもやリョウマくんまでいるとは)」

 

 備え付けられたモニターに目を向け、その中にいるクロスボーンガンダムX1を見つめる。

 

「(見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを……って言うのは誰だっけ?シャー?)」

 

 赤くて角が生えたザクⅡを駆る、通常の三倍速いことで有名な仮面の男を思い浮かべるリン。

 正確には、シャア・アズナブルなのだが。

 

 

 

 出撃完了したリョウマとハルタは、前進しつつ索敵を行う。

 

「ハルタ。カザマさんはどんな機体を使ってくるか分かるか?」

 

 事前情報は無いかと通信を繋ぐリョウマ。

 ハルタは少し考えるような間を置いてから答えた。

 

「インジャ(インフィニットジャスティスガンダム)か、ライジン(ライジングガンダム)だろうね。いずれにせよ、主に薙刀を使った近接戦闘をお望みだ」

 

「薙刀使いか……」

 

 刀剣よりも長い間合いからの格闘攻撃を得意とする機体は、クロスボーンガンダムにとって相性が良くない。

 この間のリンのアルトロンガンダムなどがその典型例だ。

 

「って、インジャだったらお前どうするつもりだ?キマリスだろ?」

 

 インフィニットジャスティスガンダムは物理攻撃を軽減・無効化するVPS装甲を持つため、ビーム兵器を持たないガンダムキマリスでは決定打を与えにくい。

 尤も、ビーム兵器を弾くナノラミネートアーマーを持つガンダムキマリスが相手では、武装がビーム兵器に偏重しているインフィニットジャスティスガンダムも同じく決定打を与えにくいのだが。

 

「そこは実力の見せ所さ。……っと、来るぞ」

 

 前方、フィフス・ルナの向こう側から敵対反応が現れ、ハルタは注意を促す。

 

 目視で確認、片方はミヤビのガンダムAGE-2。

 もう片方は――インフィニットジャスティスガンダムだ。

 

「インジャの方だったか。リョウマ、シミズさんのお相手は任せた」

 

「了解……」

 

 ハルタは操縦桿を押し込み、ガンダムキマリスの脚部装甲を展開、内部のブースターを露出させると、爆発的な加速と共に突進を開始する。

 

『来よったな、ハル坊!』

 

 インフィニットジャスティスガンダムを駆るアヤナは、牽制に高エネルギービームライフルを連射するが、対するハルタは巧妙に操縦桿を捻り、速度をそのままにガンダムキマリスを蛇行させてビームを躱しつつ迫る。

 ある程度の距離が縮まったところで、長大な馬上槍『グングニール』の切っ先をインフィニットジャスティスガンダムへ向けて、さらに加速。

 

 交錯。

 

 グングニールがインフィニットジャスティスガンダムを貫くことは無かったが、火花が舞い散った後に装甲の表面を僅かに削り取っていた。

 物理打撃でありながらVPS装甲すら削り取るほどの威力だ、ハルタが鋭利かつ強靭に仕上げたグングニールと、それを振るうガンダムキマリスのパワーがいかほどのものかは、想像に難くない。

 直撃させれば、例えインフィニットジャスティスガンダムといえど、一撃で粉砕させるだろう。

 

『あいも変わらず猪突猛進、単純やねぇ!』

 

「と言う割にはダメージを受けてるみたいだけど?」

 

 擦れ違い様に煽り合いの応酬を繰り出す両者。

 

 突進離脱様にガンダムキマリスは反転、グングニールに内蔵された120mm砲を連射、インフィニットジャスティスガンダムは左腕のビームキャリーシールドからビームシールドを発生させて銃弾を防ぎ、その内側から高エネルギービームライフルを撃ち返す。

 

「種ガンのビームシールドは指向性だから面倒なんだよなぁ」

 

 相手の攻撃は防ぎつつも、自分は一方的に攻撃を行える、と言うものだ。

 

『ほな、今度はウチの番です!』

 

 インフィニットジャスティスガンダムは高エネルギービームライフルを納め、サイドスカート左右のシュペールラケルタ・ビームサーベルを連結、双刀として構えてガンダムキマリスへと肉迫する。

 

 

 

 一方のリョウマは、ミヤビのガンダムAGE-2へターゲットロックする。

 

「(そう言えば、シミズさんを相手にバトルをするのは初めてか)」

 

 このバトルはハルタとアヤナの私闘そのもの。

 リョウマとミヤビは、証人としてそれぞれタッグを組んでいるに過ぎない。

 成り行きで敵対することになったが、そもそも望むところではないリョウマは、あくまで自衛に専念するつもりだ。

 

『なんかごめんなさい、変なことになって』

 

 ふと、広域通信でミヤビの声が届く。

 

「シミズさんが謝ることじゃないだろう。ハルタの奴が混ぜっ返すようなことをするからだ」

 

『そうかもだけど……』

 

 自分のせいで余計なことに巻き込んでしまった、とミヤビは言う。

 気を遣わせてしまったようだ。

 どうしたものかと考え、すぐに結論を出した。

 

「それよりシミズさん」

 

 リョウマは敢えて、ザンバスターの銃口を向けた。

 

「今は、ガンプラバトルの時だ。余計なことは考えないで、思い切りやろう」

 

『オウサカくん……うん、そうね!』

 

 リョウマの言葉に気持ちを切り替えて、ミヤビは一度バックブーストさせて距離を置いた。

 

『オウサカくんが相手なら不足はないし、全力で!』

 

「望むところだ」

 

 瞬間、ガンダムAGE-2はハイパードッズライフルを放ち、クロスボーンガンダムX1はそれやり過ごし、ザンバスターを連射して牽制する。

 一発、二発は回避するガンダムAGE-2だが、予測射撃で放たれた三発目は左腕のシールドで防ぐ。

 一瞬とはいえ足を止めた隙に、クロスボーンガンダムX1はザンバスターからビームザンバーを抜き放って一気に接近する。

 対するガンダムAGE-2も、リアスカートへ左マニピュレーターを伸ばしてビームサーベルを抜いて迎え打つ。

 

 衝突、即座に弾き合う。

 

 まともに鍔迫り合いに持ち込めば、出力の問題から競り負けるのはガンダムAGE-2の方だ、それを理解しているミヤビは即座にストライダーフォームへと変形させて加速、クロスボーンガンダムX1から離れつつ反転、ビームバルカンをばら撒く。

 ビーム弾を掻い潜りつつ、クロスボーンガンダムX1からもバスターガンを撃ち返す。

 

『MS形態の機動性なら負けるけど、ストライダーフォームなら!』

 

 ビームバルカンで牽制しつつ、必殺のハイパードッズライフルで狙い撃つミヤビ。

 同時に、距離が近接攻撃の間合いになる前に離脱。

 

「俺がしてほしくない戦い方をしてくれるな」

 

 リョウマは冷静に呟きつつ、遠ざかるガンダムAGE-2を見やる。

 ビームバルカンはともかく、ハイパードッズライフルは元の高出力に加えてDODS効果を帯びているため、A.B.Cマントで受ければもろとも装甲を突き破られる。

 回避そのものは難しくないが、一発当てられれば即座に戦況が傾きかねない。

 そうなれば、ストライダーフォーム時限定とは言え機動性に勝るガンダムAGE-2に圧倒される。

 そのように警戒しているリョウマは、迂闊に接近戦の間合いに踏みこめないのだ。

 

 ミヤビが常に謙虚さを心掛けているのかは分からないが、しかし言葉通りの実力ではないことは間違いない。

 

 だが、だからこそ。

 

「(面白い……!)」

 

 やはり自分は根っからのバトル中毒なのだと自覚しつつ、リョウマは口角を吊り上げた。

 

 

 

 ハルタのガンダムキマリスと、アヤナのインフィニットジャスティスガンダムとの戦いは苛烈さを増していた。

 突撃と共に突き出されるガンダムキマリスのグングニール。

 これに対し、インフィニットジャスティスガンダムは敢えて正面から突っ込んだ。

 自ら串刺しになるつもりかと思えるような行動。

 

 瞬間、グングニールの切っ先がインフィニットジャスティスガンダムを貫いた

 ように、見えたが。

 

『肉を斬らせて……骨を断つ!』

 

 その実、グングニールはインフィニットジャスティスガンダムの脇の下ギリギリを抜けていた。

 一歩間違えればバイタルバートを貫かれかねない、際どい位置だ。

 インフィニットジャスティスガンダムはグングニールの槍身を左脇に挟みこんでガンダムキマリスの身動きを封じる。

 

『ようやっと捕まえたで、ハル坊!』

 

 連結したシュペールラケルタ・ビームサーベルを振るうインフィニットジャスティスガンダムだが、

 

「と、思い込んでいるお嬢の姿は本当に滑稽だよ」

 

 するとガンダムキマリスは、代名詞とも言えるグングニールをいとも容易く手放し、自由を取り戻して飛び下がり、シュペールラケルタ・ビームサーベルを空振りさせる。

 即座、脚部ブースターを炸裂させ、その加速を以てしてショルダータックル、インフィニットジャスティスガンダムを派手に吹き飛ばす。

 

『ぐうぅっ!?』

 

 激突の衝撃にアヤナの視界が激しく揺れる。

 その隙にグングニールを取り戻したガンダムキマリスは、体勢を崩しているインフィニットジャスティスガンダムへ再々度の突進攻撃を敢行する。

 

「さよなら、だ」

 

 迫るグングニールの切っ先。

 インフィニットジャスティスガンダムはまだ体勢が崩れたまま。

 

 ――だが、戦場の女神は天秤を気まぐれに上下させる。

 

 突如、突進するガンダムキマリスの前に巨大な物体が立ち塞がった。

 完全に仕留めるつもりであったハルタは、加速したガンダムキマリスを止められない。

 

「なっ……フィフス・ルナが!?」

 

 巨大な物体――一定時間が経過したことで移動を開始したフィフス・ルナの表面に、グングニールが深々と突きこまれた。

 

「しまっ、た……!」

 

 あまりにも深く突き刺さっているグングニールは、ガンダムキマリス自身の力でも簡単には引き抜けない。

 そして、それだけの時間があればアヤナは体勢を立て直す。

 

『はっ、日頃の行いのせいやねぇハル坊』

 

 フィフス・ルナの向こう側から回り込んできたインフィニットジャスティスガンダムは、背部のリフター『ファトゥム-01』ビーム砲『ハイパーフォルティス』を放つ。

 その狙いは、ガンダムキマリスの展開している脚部装甲の隙間……内部のブースターだ。

 いかに堅固なナノラミネートアーマーと言えど、スラスターユニットそのものとその周辺部位は恩恵が弱い。

 結果、ブースターを撃ち抜かれ爆発し、ガンダムキマリスは両膝から下を失って吹き飛ばされてしまう。

 

「(出力47%までダウン!?これはまずいぞ!?)」

 

 脚部ブースターはガンダムキマリスの機動性の生命線だ。

 それを丸ごと失った以上戦闘力が半減したも同然、加えてグングニールは回収不可であるため、もはやまともな攻撃力すら無い。

 それでもすぐに意識を切り替えてウェポンセレクターを回し、リアスカートに懸架させているコンバットナイフを抜き放たせるハルタ。

 コンバットナイフはあくまでもガンダムキマリスが懐――グングニールよりも内側の間合い――に潜り込まれた時のフェイルセーフ的な意味合いが強く、そもそも足を止めてチャンバラを繰り広げるような戦闘は望むところではない。

 

「……ふん、ちょうどいいハンデさ。機体性能差を敗北理由にされたくはないからね」

 

『その減らず口、いつまで叩けるか見物やね?』

 

 再三四度、ガンダムキマリスとインフィニットジャスティスガンダムが激突した。

 

 

 

 一方のリョウマとミヤビの戦いは、終局を迎えていた。

 ハイパードッズライフルのビームとニアミスする寸前にザンバスターを後ろ手に放ち、ガンダムAGE-2の離脱先へビームを撃ち込んでハイパードッズライフルを破壊する、と言う綱渡りを制したリョウマは、決死の覚悟と共にビームサーベルを二刀流で抜き放つミヤビと激しい剣戟を繰り広げ――

 

 ついにビームザンバーの切っ先が、ガンダムAGE-2のボディを貫いた。

 

『やっぱり、強い……!』

 

「シミズさんもな。正直、一歩踏み違ったら負けてた」

 

『次は負けないからね』

 

 デュアルアイの発光が消失し、ガンダムAGE-2は機能停止した。

 

 ガンダムAGE-2、撃墜。

 

 それと同時に、リョウマのコンソールが僚機――ハルタのガンダムキマリスの撃墜を通知してきた。

 

「あいつ、やられたのか」

 

 と言うことは、逆サイドに残っているのはアヤナのインフィニットジャスティスガンダムだ。

 

 大気圏に突入し、赤々と燃え始めるフィフス・ルナの向こう側から、損傷したインフィニットジャスティスガンダムが見えた。

 

『ハル坊はウチが討ち取りましたけど、バトルはまだ続いてる……この勝負、ケリつけましょか?』

 

 高エネルギービームライフルを向けてくるアヤナ。

 

「ここまで来て双方リタイアはあまりに勿体ない。カザマさんさえ良ければ、このまま続行だ」

 

『オウサカはんって言いましたね?今、ウチはいい感じに気分が高まっとるんです。その首、もらいますよ!』

 

「来い!」

 

 即座、高エネルギービームライフルを放つインフィニットジャスティスガンダム。

 クロスボーンガンダムX1は往なすようにやり過ごし、一気に距離を詰めていく。

 インフィニットジャスティスガンダムは高エネルギービームライフルを納め、ビームキャリーシールドからビームブーメラン『シャイニングエッジ』を抜き、それを投げ付ける。

 リョウマは慌てずにビームザンバーでシャイニングエッジを切り払い――

 

『もらいましたぁ!』

 

 シャイニングエッジをブラインドに、インフィニットジャスティスガンダムがシュペールラケルタ・ビームサーベルを振り下ろしてきている。

 

「どうかな!」

 

 クロスボーンガンダムX1は瞬時に左腕のビームシールドを展開、シュペールラケルタ・ビームサーベルを弾き返し、

 

『こっちにもありますよぉッ!』

 

 すかさずインフィニットジャスティスガンダムは右脚部の『グリフォンビームブレイド』を振り抜き、"蹴り斬り"を放つ。

 その狙いは寸分たがわず、クロスボーンガンダムX1のボディへ向かう。

 だが、リョウマは瞬間的にそれを見切った。

 

「はッ!!」

 

 ビームザンバーを一閃し――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『!?』

 

 ビームザンバーとぶつかるはずのグリフォンビームブレイドが、何故か破壊された。

 

「インジャのビームブレイドには、"隙間"があるからな」

 

 リョウマはタネを明かす。

 インフィニットジャスティスガンダムのグリフォンビームブレイドは、発振口から発振口へ繋ぐようにビーム刃が発される。

 そのため、『ビーム刃が通電している部位と脚部装甲との"隙間"がある』。

 

 そこへ、ビームザンバーをねじ込ませたのだ。

 

『んなアホなっ、今の一瞬で見切るなんて……!?』

 

「悪いが、そこはガンプラの知識の差だな」

 

『まだやァ!』

 

 なおもシュペールラケルタ・ビームサーベルで斬りかかるアヤナ。

 リョウマは即座にビームザンバーを構え直し、一撃、二撃、三撃……と互いに激しく斬り合う。

 鍔迫り合い、弾き合って双方距離が開き、

 先に仕掛けたのはインフィニットジャスティスガンダム。

 ビームキャリーシールドからワイヤー付きのクローアーム『グラップルスティンガー』を射出、クロスボーンガンダムX1を咬み付かんと牙を剥く。

 しかし、リョウマはグラップルスティンガーを見据え、瞬間的に操縦桿を跳ね上げる。

 すると、クロスボーンガンダムX1の左マニピュレーターがグラップルスティンガーを"掴み"、力任せに引っ張り上げたのだ。

 

『のおぉっ!?』

 

 予想外に引き寄せられて体勢を崩すインフィニットジャスティスガンダム。

 そこへクロスボーンガンダムX1はビームザンバーを振りかざし――

 

「俺の、勝ちだ」

 

 一閃。

 

 交錯の後に――インフィニットジャスティスガンダムが爆散した。

 

 インフィニットジャスティスガンダム、撃墜。

 

 

 

 決着がつき、特別教室に歓声が響く。

 

「くぁーっ、負けてもうたぁ……!」

 

 バトルが終了し、ホログラムが消失すると、アヤナは悔しげに天を仰ぐ。

 

「ナイスファイトだった、ありがとう」

 

 リョウマは「ちょっと失礼」とインフィニットジャスティスガンダムを手に取ると、真剣に見つめる。

 

「成型色による簡単フィニッシュだが、ゲート処理やスミ入れも丁寧に出来ているな」

 

 その横からミヤビも覗く。

 

「艶消しクリアーもムラなく吹付けられてるし、カザマさんって意外とビルダーとしての才能があるかも」

 

 一頻り作品評価を終えると、リョウマはインフィニットジャスティスガンダムをアヤナに返した。

 

「あ、あー……どうも……」

 

 それを受け取ると、アヤナはリョウマに向き直る。

 

「実はウチ、前までガンプラバトルはただの人形遊びで、家業のイメージトレーニングの一貫としか思っとりませんでした」

 

「人形遊び、か。まぁ材質や見た目は異なれど、やってることはそれの延長線ではあるが」

 

 確かにその通りだな、とリョウマは否定しない。

 

「けどオウサカはんとの戦い、久方ぶりに胸が熱ぅなりまして……知りませんでした、ガンプラがこんなおもろいモンやとは」

 

「俺が何かしたってわけでもないんだが、まぁ楽しいと感じれるようになったなら、力を尽くした甲斐があったな」

 

「こちらこそナイスファイトでした、オウサカはん」

 

 アヤナはリョウマに一礼すると、今度は面白くなさげな顔をしているハルタに向き直った。

 

「ハル坊、今回はウチの運が良かっただけ。次は運の良し悪し関係無しに討ち取ったるから、お礼参りはいつでも歓迎したるわ」

 

 口汚く見下されるのかとばかり思っていたハルタは、アヤナの意外な言葉に目を見開き、溜め息混じりで応じた。

 

「……運で勝負が決まったような結果だ。正直、俺様も納得いってなくてね。いずれまたの機会だ」

 

 そう言ってハルタはスマートフォンとガンダムキマリスを回収すると、「じゃぁなお嬢」とヒラヒラ手を振って特別教室を後にしていく。

 それに合わせて、バトルは終わったとばかりギャラリー達も特別教室を去っていき、ギャラリーの中に混じっていたチサが歩み寄って来る。

 

「みんなお疲れ様ー。ハルタくん帰っちゃったけど、いいの?」

 

「あいつはあいつで悔しいんだろう。まぁ、明日になったらいつも通りになってるさ」

 

 勝てると確信した勝負をひっくり返されたのだ、口調はいつも通りだったが、陰ではどうか分からないが、後を引きずることはないはずだとリョウマは見ている。

 

「シミズはん、良ければ今度はウチとバトルしません?」

 

「うん、大歓迎よ」

 

 次はミヤビとアヤナが一対一でバトルを始めるらしく、再びシミュレーターが起動してホログラムが生成されていく。

 

「ミスコンでも、ガンプラバトルでも、ウチは負けまへんよ!」

 

「み、ミスコンはまぁその、あんまり乗り気じゃないけど。ガンプラバトルならいくらでも!」

 

 二人は操縦桿を握りしめ、出撃する。

 

「シミズ・ミヤビ、ガンダムAGE-2、Stand Up!」

 

「カザマ・アヤナ、インフィニットジャスティスガンダム、華麗に参りまいまっせ!」

 

 バトルが始まるのを見てから、リョウマはチサに「俺は帰るから、あとよろしく」と耳打ちして、特別教室を出た。

 

 

 

 そのまま下足ロッカーへ降りると、そこにはハルタが待っていた。

 

「悪い、待たせたなハルタ」

 

「さっきは無様を曝して悪かったね」

 

「気にしないさ。……それで」

 

「立ち話もなんだ、帰りながら話すよ」

 

 二人並んで校舎を出て、校門を背にする。

 

 ある程度の距離を歩いたところで、ハルタが口を開く。

 

「で、例の不正な乱入についてだけど……」

 

 以前に食堂で話したことだ。

 期待はするなと言っていたハルタだが、自分なりに情報を集めてくれたらしい。

 

「正直、確定的な情報は見当たらなかった」

 

「そうか……」

 

 落胆はしないが仕方ないか、とリョウマは溜息をつく。

 

「ただ……関連があるか分からないが、ちょいと気になることがあってね。確か、以前に乱入してきたのは、二号機カラーのバウンド・ドックだったね?」

 

「そうだが」

 

「SNS上の雑多な情報網だけど、不正な乱入があったと思われるバトルには、非常に高い割合でバウンド・ドックの姿が確認されていたらしい」

 

「そうなるとやはり、特定個人によるものか」

 

「……と言いたいところだけど、それはリョウマが乱入された日よりも以前に起きていることだけだ。それ以降の日からバウンド・ドックによる乱入は鳴りを潜めているみたいだ」

 

 リョウマがミヤビと共にバウンド・ドックを撃破したその日から、乱入がピタリと止んだと言う。

 

「だが止んだからと言って、楽観視はしない方がいいかもしれないな」

 

 いつまた乱入が現れるか分からない現状、少し気を付けた方がいいだろう、とリョウマは頷く。

 

「俺様からはこんなものだな。引き続き何か分かれば、ある程度の信憑性を持たせてからまた伝える」

 

「すまん、頼む」

 

 怪しげな話はここまでにして、リョウマとハルタはいつも通りのバカ話に華を咲かせながら下校していった。

 

 

 

【次回予告】

 

 リョウマ「今、目の前に起きていることを端的に言おう。チサと、その一緒にいる女の子がチンピラに絡まれていると思ったら、多分中学生くらいの男子が割って入ってチンピラをフルボッコにして、何故かガンプラバトルにまで発展し、それに俺とチサが巻き込まれた」

 

 チサ「うーん、こう言う喧嘩みたいなガンプラバトルは好きじゃないんだけどね……」

 

 リョウマ「「これで済むなら安いものだ」ってクワトロ大尉も言ってたし、サクッと終わらせるか」

 

 チサ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー

 

勃発!仁義無きガンプラバトル』」

 

 リョウマ「……まぁ、ただの喧嘩バトルだけで済むわけないな?」


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