戦場は荒野。
リョウマは、クロスボーンガンダムX1のデュアルアイの視界越しに見える光景……否、惨状を見ていた。
彼の隣りにいる、チサの大喬ガンダムアルテミーも同様に。
「テメーら雁首揃いも揃ってオレの妹に舐め腐り切った真似してくれやがったなコラただで済むわきゃねぇだろがゴルァ!!」
『ヴァッフッ!?ブグッ!?ザクッ!?グフッ!?ヅダッ!?ドムッ!?ギャンッ!?ゲルググッ!?』
荒々しい罵声と共に、丸腰の『ガンダムAGE-3 オービタル』が、腕部のビームサーベルすら使わずに『ガンダムアスモデウス』を一方的にフルボッコにしていく。
その後ろから
「遠くからチマチマチマチマ撃ってねぇで素手ゴロでかかってこいやコラキンタマついてんのかコラメスイヌかテメゴルァ!!」
『ジンッ!?ディンッ!?ザウートッ!?バクゥッ!?シグーッ!?グーンッ!?ゾノッ!?ゲイツッ!?』
ガンダムアスモデウスと同様にフルボッコにしていく。
すると、νガンダムもろとも吹き飛ばすつもりなのか、逆サイドからはイフリート・イェーガーが、脚部から手榴弾『クラッカー』を投げ付けるが、
ガンダムAGE-3 オービタルはそれに脚部を振り上げ、イフリート・イェーガー目掛けて"蹴り返した"。
当然、跳ね返ってきたクラッカーはイフリート・イェーガーに炸裂、体勢を崩したところで、
「味方ごと殺ろうってないい度胸じゃねぇかコラこの野郎クソ野郎ゴミクズ以下野郎コラ汚物は消毒だって相場は決まってんだぞゴルァ!!」
『ヤベー、ワンチャンあるわー』
やはりフルボッコにしていく。
どうしてこうなって、何が起こってこうなったのか。
「ゴルァ!ゴルァ!!ゴルァ!!!ゴルァ!!!!ゴルァ!!!!!」
事の始まりは、数刻前に遡る――。
梅雨明け後の、ある日の休日。
今日はショッピングモールのジョーヒンの品揃えを見に行こうと思い、例によって例のごとく自転車で訪れていた。
駐輪場に自転車を預け、モール内に足を踏み入れ、真っ直ぐにジョーヒンが併設されている区画へ向かう。
「(来週日曜のビルダーコンテスト用のガンプラと、『甘水処』の製作代行と、それからX1の改造素材か。やることも買うものも多いな……)」
自ら望んだことだから文句は言えんが、とリョウマは小さくぼやきつつ、スマートフォンのメモを確認しながら、買い物かごにガンプラのキットの他、塗料やプラ板、マスキングテープ、キムワイプと言った消耗品を買い込んでいく。
一昔前は、ガンプラの売り場で長時間スマートフォンを操作しているだけで「転売目的での購入はお断りしております」と店員から声をかけられ、普通のモデラーどころか、これからガンプラを始めたいと思っている新規顧客すらガンプラのキットを買わせてもらえない事態まであった。
やはりガンプラの転売は、価格ではない商品価値を地に墜し、模型業界全体を滞らせるだけで、一部のフリマサイトの運営側以外誰にも何の利にならない。
世間がそのように認識しているし、数字的に結果が出ているにも関わらずガンプラの転売をやめないガンプラ転売ヤー達は、損得勘定もまともに出来ないのだろう。
――それはさておきと書いて閑話休題と読むのは時代の流れ――。
あまり長時間いると、衝動的に「あれもこれも」と手にとってしまうので、事前にメモしていた必要なものだけを購入した。
買う物も買って、さてさっさと帰って製作作業に取り掛かるかと言うタイミングだった。
「ん、チサ?」
曲がり角の向こう側に、チサの姿が見えた。
だが、どこか遠慮したがっている様子だ。
そのチサの後ろに隠れるようにしているのは、小学生くらいの女の子が一人。
二人と相対するのは、無駄に手入れがされた、モヒカン、ドレッド、リーゼントと言う特徴的極まるヘアスタイルをした三人組。
身体中をピアスやチェーンなどの金属品でジャラジャラと鳴らし、奇抜どころか奇怪なデザインのシャツと無駄に丈の長いロングコート、腰パンのつもりなのか見えたらまずい部分がギリギリ見えない際どすぎる下半身。
このような格好で外を歩いていたら確実に警察のお世話になるような、ウィーアー変態集団でございと主張している。
鉄血のオルフェンズの宇宙海賊『ブルワーズ』のコスプレと言っても通用するかもしれない。
何故こんな変態集団がモール内を闊歩しているのに警備員が出てこないのか。いや警備員だからこそこんなのを相手にしたくないのだろうが。
そんな変態集団に絡まれるなど、チサでなくとも遠慮したいだろう。
ヘイヘイそこのヤベーワンチャンあるわーとでも言ってそうな雰囲気だが、リョウマとしてはこんな変態集団にチサをこれ以上関わらせるつもりはない。
荒事になるかもしれないが、リョウマは腹積もりを決めてチサに声を掛けようとするが、
ふと、そのリョウマの背中をダッシュで追い越していく白銀色の髪をした少年の姿が見えた。
「ゴルァ!!」
「ギャプラン!」
少年はその場に駆け寄るなり、モヒカンの頬に飛び蹴りをぶち込み、モヒカンはクルクルクルクルと錐揉み回転しつつ4回転半ジャンプしながらぶっ飛んでいく。
「あぁん!?テメコラどこの組のモンじゃこのオネショタ!」
「ヤベー、ワンチャンあるわー」
ドレッドとリーゼントは突如介入してきた少年に敵意を向けるが、
「だっしゃゴルァ!!」
「ハンブラビ!」
立て続けに少年は裏拳を叩き込んでドレッドをギャルルルルルとトリプルアクセルさせ、
「どぉらゴルァ!!」
「ヤベー、ワンチャンあるわー」
残るリーゼントには鼻っ面へジャンプハイキックをぶちかまし、『You Win!!』と言うテロップが出てきそうな勢いで仰け反り吹っ飛ばしていく。
ものの数秒で、変態集団がモールの床を転がった。
出来の悪いヤンキー漫画の実写版のような光景に、リョウマもチサも周囲の通行人もポカーンとしている。
「おぅ大丈夫か、コトリ」
変態集団をぶちのめした少年は、チサの後ろに隠れていた、小学生くらいの少女に駆け寄る。
「おにいちゃ!」
コトリと言うらしい少女は、兄らしい少年に抱きつく。
「あのねおにいちゃ、コトリね、このおねいちゃといっしょにね、」
「分かった分かったよしよし」
コトリが何やら言いかけるが、少年はポンポンと頭を撫でて安心させている。
それを尻目に、リョウマもチサの元へ駆け寄る。
「大丈夫そうだな、チサ」
「……あっ、リョウくん!」
リョウマの姿を見て、チサは安心したように溜め息をつく。
「もう困ってたんだよ、いきなり変なのに絡まれちゃって……」
「あんなのに絡まれたら俺だって困る自信がある」
とりあえずチサを連れてこの場を離れようとするが、見事にぶっ飛ばされた変態集団は起き上がると、自分達をぶっ飛ばしてくれた少年を睨む。
「奴に『ジェットストリームクラッシュ』をかけるぞ!」
「おう!」
「ヤベー、ワンチャンあるわー」
すると、リーダー格らしいモヒカンがそう指示すると、かの有名な黒い三連星のフォーメーション『ジェットストリームアタック』っぽい何かを仕掛けるつもりなのか、一列になって突撃してくる。
ジェットストリームクラッシュと言うのは、実はガンダム作品内に存在している名称であり、『G』の劇中の、ネオホンコンの街中でチンピラ三人組がそれをドモン・カッシュに仕掛けるのだが、蹴り一発で文字通り"一蹴"されてしまうワンシーンがある。
それはともかく、襲いかかって来る変態集団からチサとコトリを守ろうと立ち塞がるリョウマだが、それよりも先に少年が躍り出た。
「ギャァァァァァ!?」
「ブベェェェェェ!?」
「ヤベー、ワンチャンあるわー」
蹴り一発で、特撮アニメの下っ端戦闘員のようにふっ飛ばされる変態集団。本職なのだろうか。
「ケッ、のぼせ上がったバカの割にはザコかよ」
そう吐き捨てる少年。
これでいい加減懲りただろうと思っていたが、
「お、お前のケンカの実力はよく分かった……な、なら、ガンプラバトルでケリつけてやろうじゃねぇか!」
モヒカンは立ち上がり、震える声でそう宣った。何故そうなる。
「ハァ?生身のケンカじゃ勝てねぇからガンプラバトル?ご都合主義かよ」
少年はあからさまに呆れる。
このモヒカン、自分がどんな状況に置かれているのか分かってないらしい。その台詞を言えるのはどちらなのか、それすら理解できなくなったのか。
「ま、いいぜ。アタマでも身体でも教えても分かんねぇなら、ガンプラバトルで教えてやるよ」
ゴキゴキボキボキベキベキと拳骨を擦り鳴らす少年。
「おっと、分かってるたぁおもうが、こっちは三人がかりでいかせてもらうからなぁ」
ガンプラバトルになると分かるや否や、急に強気になって踏ん反り返るモヒカン。
この切り替えの早さは称賛に値してもいいだろう。三歩歩けば忘れるニワトリ頭なだけかもしれないが、ニワトリ頭は髪型だけにしてほしいものだ。
「構わねぇよ。クソが集まったところでクソにしかならねぇからな」
クイッとジョーヒンの出入り口を指す少年。
だが、そこにリョウマが声を掛けた。
「あー、ちょっといいか」
「あ?アンタにゃ関係無いだろうが」
「三対一ってことは、フェアじゃないだろう。ちゃんと対等なルールでやらないと、こいつらはまたイチャモンをつけるぞ」
フェアじゃないどころか、むしろ少年の方が不利な条件なのではイチャモンなど付けようがないのだが。
「……アンタ、ガンプラバトル出来んのか?」
「当然だ。チサを守ってもらった礼もあるからな。やらせてほしい。チサもいいな?」
リョウマはチサにもバトルに参加するように促す。
「え?えぇと……フェアじゃないとだから、三対三にしないといけないんだよね?う、うん、頑張るよ」
とりあえずの数合わせながら、チサも参戦。
これで3on3で、条件的には対等だ。
ランダムフィールドセレクトが選択するのは、『グレートキャニオン』
原典作品は『ファースト』で、ジオンの勢力圏を抜けようとするホワイトベース隊の前に、ガルマ・ザビ率いる部隊が追撃を仕掛けてくる場面だ。
なお、その時代から遥か未来のU.C.0136――『鋼鉄の七人』に当たる時系列では、ミノフスキードライブユニット搭載実験機(とは名ばかりでマザー・バンガードの"帆"を無理矢理取り付けただけのヘビーガンらしき機体)『イカロス(スピードキング)』が墜落した場所でもある。
「妙なことになったが、やることは同じだ。オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃ぞ!」
「ナカツ・チサ、大喬ガンダムアルテミー、頑張りまーす」
リョウマとチサが出撃完了し、最後に少年のガンプラが発進する。
「『カノウ・アスカ』、ガンダムAGE-3 オービタル……ぶちのめす!」
彼のガンプラは、『AGE』のキオ編の主人公機『ガンダムAGE-3』のコアファイターとGバイパーがドッキングすることで完成する形態、『オービタル』だ。
しかし、出撃してきたアスカのガンダムAGE-3 オービタルが"手ぶら"であるのを見てリョウマは目を細め、通信回線を繋ぎ合わせた。
「……何故、シグマシスロングキャノンを装備していないんだ?」
「あ?いらねぇよんなモン」
「いや、要らないって……腕のサーベルだけで戦うつもりか?」
ガンダムAGE-3 オービタルは、基本的に格闘戦が不得手な形態であり、僚機との連携戦闘を前提としている。
腕部に搭載されているビームサーベルの性能も決して低くはないが、それだけで戦い抜くのは推奨しかねる戦法である。
だが当のアスカの答えは、リョウマの考察の斜め上をぶっ飛ばしていた。
「それもいらねぇ。"喧嘩"するんならテメェの拳でやるもんだろうが」
「…………そ、そうか」
ガンプラバトルを"喧嘩"と称し、しかも武装すら必要ないと言い切るアスカに、リョウマはそれだけ返した。
どのようなガンプラでどのようなバトルスタイルを選ぶかは個人の自由だ、それ以上は気にすまいとする。
――別の世界線で似たようなジャイオーンやサイサリスがいるが気にしてはいけない――
すると前方よりアラートが感知、三機分の敵対反応がモニターに表示される。
ガンダムアスモデウス、イフリート・イェーガー、νガンダムの三機。
その内、νガンダムはEGであり、フィンファンネルやニューハイパーバズーカと言った武装は装備していない。
「アスモデウスはともかく、イフリート・イェーガーは珍しいな」
リョウマがそう溢していると、アスカのガンダムAGE-3 オービタルは脚部の爪先を折り畳み、低空飛行するように突撃する。
「おい待て、一人で突っ込むつもりか?」
「アンタらはそこで見てろ、ザコなんざオレ一人で十分だ」
リョウマの制止も聞かず、アスカは単騎で突出し――
――戦況は始まりに戻る。
『ごめんなさいごめんなさい!』
『何でもするから許してください!(何でもするとは言ってない)』
『ヤベー、ワンチャンあるわー』
ガンダムAGE-3 オービタルにボッコボコのフルボッコにされて、モヒカンのガンダムアスモデウス、ドレッドのνガンダム、リーゼントのイフリート・イェーガーの三機は装甲のそこら中を凹まされて、グレートキャニオンの地に整列して土下座を敢行する。
MSが土下座をすると言うのは、なかなかにシュールな光景である。
それら土下座する三機の前で腕組みしながら立つガンダムAGE-3 オービタル。
「ケッ、土下座なんざしてねぇでとっとと揃ってリタイアしやがれコラんでもってケツまくって失せろやゴルァ」
クイッと右マニピュレーターの親指を下に向けるガンダムAGE-3 オービタル。
その光景を遠目から見ているリョウマとチサはと言うと。
「俺達が加勢するまでもなかったな?」
「うーん、これでいいのかな?」
それはともかく、変態集団が負けを認めて立ち去ると言うのだから、これ以上何かする必要は無いだろう。
その時だった。
ふと、日当たりが陰った。
太陽が雲にかかったのではない、もっと物理的に光を遮るように、何かが自由落下して来ている。
『へ?』
自由落下してきたソレが、モヒカンのガンダムアスモデウスを踏み潰した。
着地するなりソレは手にした大鎌を振り翳し、νガンダムを粉砕し、イフリート・イェーガーを抉った。
ガンダムアスモデウス、νガンダム、イフリート・イェーガー、撃墜。
「あぁ?」
アスカはその姿を視認する。
ダークブルーとホワイトグレーを基調に、紅色の差し色を加えた邪悪さを感じるカラーリング。
フードを被ったような外観に、手にしている大鎌――と言うよりは、半分欠損した"錨"を持つその様は、まるで死神。
「……『ガンダムグレモリー』」
リョウマはその機体名を口にする。
『鉄血のオルフェンズ 月鋼』に登場するMSで、ギャラルホルンの名家、ナディラ家が保有するガンダムフレームだ。
「な、なんか怖そうだよ……?」
見るからに不気味な外観をしているガンダムグレモリーの姿に、チサは及び腰になりながらも大喬ガンダムアルテミーを構えさせる。
「このいきなりの乱入……こいつまさか、あのバウンド・ドックと同じ奴か?」
以前に、ここと同じくジョーヒンのバトルブースでミッションモード中に現れたバウンド・ドック。
それと状況が似ているのだ。
「はっ、乱入だか何だか知らねぇが、喧嘩売ってんなら買ってやんぞオラァ!」
アスカはガンダムグレモリーの正体が何者なのかなど興味は無く、ガンダムAGE-3 オービタルを突撃させ、拳を叩き込もうとするが、大鎌――バトルアンカーに防がれた挙げ句、振り上げられたそれに吹き飛ばされる。
「っと……こいつは骨がありそうだ」
空中で姿勢制御しつつガンダムAGE-3 オービタルを着地させるアスカ。
ガンダムグレモリーはガンダムAGE-3 オービタルなど眼中にないとばかり、リョウマのクロスボーンガンダムX1に向き直り、距離を詰めてくる。
「やはり俺が狙いか」
なるほど分かりやすい、とリョウマは睨む。
ガンダムグレモリーは、自前のナノラミネートアーマーの上から、さらにその上位互換である『ナノラミネートコート』を備えており、弱点である物理攻撃への耐性も高い。ビーム兵器などを長時間当て続けてもかすり傷程度になるかどうかも怪しいだろう。
原作漫画では、『ガンダムアスタロトリナシメント』を駆るアルジ・ミラージもその防御力の高さに苦戦していたが、"リナシメント"と生まれ変わって新たに装備されたバスタードチョッパーを駆使してどうにか撃破したものだ。
必然的に、ビーム兵器が主体のクロスボーンガンダムX1で有効打を与えられるのはヒートダガーくらいのものだ。
ショットランサーでも用意すれば良かったか、とぼやくリョウマだが、無い物ねだりをしている暇はない。
ウェポンセレクターを回し、ザンバスターを納めて両手にヒートダガーを抜き放つ。
「チサ!なるべく俺から離れろ!ガトリングで、奴のスラスターや関節を狙うんだ!」
「う、うんっ、頑張るっ」
リョウマからの指示を受けて、チサは大喬ガンダムアルテミーの三色響阮のガトリング砲を引き出し、ガンダムグレモリーの背後を取るように迂回する。
やはりガンダムグレモリーは大喬ガンダムアルテミーには目もくれず、クロスボーンガンダムX1を狙いに定めて、腕部機関砲で牽制してくる。
回避とビームシールドによる防御で機関砲を凌ぎ、クロスボーンガンダムX1は真っ向からガンダムグレモリーへ向かう。
自ら間合いに飛び込んで来るクロスボーンガンダムX1に、ガンダムグレモリーはバトルアンカーを振り抜くが、リョウマは機体に急制動を掛けて、バトルアンカーの切っ先を掠めるようにやり過ごす。
二度、三度と振り回されるバトルアンカーも、紙一重で躱していき、装甲が不快な摩擦音を立てて火花を散らせる。
リョウマが敢えて綱渡りのような回避を行うのは、自分が囮になるつもりだからだ。
チサの大喬ガンダムアルテミーの援護射撃でスラスターを破壊してもらい、動きを鈍らせたところでヒートダガーによる直接打撃で倒す。そう言った算段を立てている。
「よそ見たぁいい度胸じゃねぇかゴルァ!」
だが、横槍を入れるようにアスカのガンダムAGE-3 オービタルが飛び掛かり、ガンダムグレモリーのナノラミネートコートをぶん殴る。
やはりダメージらしいダメージはなく、鈍い音を立てただけでガンダムグレモリーはビクともしないどころか、虫を払うかのように煩わしげにバトルアンカーを振るってガンダムAGE-3 オービタルを弾き飛ばした。
「クソがっ!」
地面に叩きつけられるガンダムAGE-3 オービタルを尻目に、チサの大喬ガンダムアルテミーはガトリング砲を構え、ガンダムグレモリーのスラスター部や関節を狙って攻撃を開始する。
すると、ガンダムグレモリーは被弾を嫌うようにその場を跳躍し、ガトリング砲の弾幕から距離を置く。
「やはりスラスターや関節は狙ってほしくないようだな」
見立て通りだ、とリョウマは操縦桿を押し出して加速するクロスボーンガンダムX1に、ガンダムグレモリーは腕部機関砲で迎え撃つが、リョウマはそれを最小限の動作のみで躱し、ヒートダガーをバイタルバートへと突き立てんと振るう。
対するガンダムグレモリーはバトルアンカーを寝かせるように構えてヒートダガーを弾き返し、すぐさまカウンターを仕掛けるが、クロスボーンガンダムX1は背部のスラスターバインダーの向きを偏向させ、斜め後ろへ飛び下がってバトルアンカーをやり過ごす。
そうしている内に、再び大喬ガンダムアルテミーが背後へと回り込み、三色響阮のガトリング砲を放つ。
銃撃の嵐がガンダムグレモリーに降り注ぐが、ガンダムグレモリーは振り返りながらバトルアンカーを寝かせ構えてガトリング砲の銃弾を防ぐ。
「(この間のバウンド・ドックと反応速度は大体同じ……となると、こいつはAI制御じゃなくて、同じ人間の手による操縦と考えるのが妥当か……)」
リョウマは一度クロスボーンガンダムX1にヒートダガーを脚部に納めさせる。
「(ガンダムグレモリーがバウンド・ドックほど射撃武装が充実してないのと、自前の機動性がそれほどでも無いのが幸いだな。となれば、厄介なのはナノラミネートコート)」
続いてウェポンセレクターを回し、サイドスカートに納めていたザンバスターを取り出し、懐にマウントしていた『コルク状に似たユニット』を抜き、それをザンバスターの銃口に埋め込む。
「一発勝負だが……
シャア・アズナブルの名言のひとつ「当たらなければどうということはない」に対する当て付けのように呟くリョウマは、クロスボーンガンダムX1から、大喬ガンダムアルテミーとガンダムAGE-3 オービタルへ狙いを切り替えたガンダムグレモリーに、ターゲットロックを合わせていく。
「うわわわっ……」
バトルアンカーを振り下ろしてくるガンダムグレモリーに、チサは慌てながらも大喬ガンダムアルテミーを飛び下がらせて回避する。
「そのツラァ拝ませろやゴルァ!!」
その隙を突くように、アスカのガンダムAGE-3 オービタルが飛び掛かってガンダムグレモリーに組み付いた。
ガンダムグレモリーを覆うナノラミネートコートを掴み、ゼロ距離でタコ殴りにする。
しかしいくら殴られようと、ガンダムグレモリーのナノラミネートコート――だけではなく、ガンプラそのものの完成度の高さもだろう――は表面が僅かに傷付くだけで、目立った損傷は見られない。
「変なもん被ってねぇでツラ見せて喧嘩しろやコラ仮面被ってりゃ何やっても許されんのはガンダム作品だけにしとけやゴルァ!!」
言いがかりもここまで来るといっそ清々しいものがあるだろう。
ガンダムグレモリーはガンダムAGE-3 オービタルを突き飛ばし、腕部機関砲を連射して浴びせつけてやる。
「チッ、クソが!」
被弾によってガンダムAGE-3 オービタルの装甲が損傷していく。
先にガンダムAGE-3 オービタルを仕留めるつもりなのかガンダムグレモリーはバトルアンカーを振り翳し――
「外しは、しない!」
虎視眈々と機を窺っていたリョウマは、ターゲットロックを固定し、躊躇なくトリガーを引き絞った。
放たれるは、クロスボーンガンダムX1のザンバスターの銃口に差し込まれていた、コルク状に似たユニット――ザンバスターのトリガーと連動する、外付けのグレネードランチャーだ。
アラートに気付いたらしいガンダムグレモリーだが、これもナノラミネートコートで受けるつもりらしく、ノーガードだ。
それこそがリョウマの思惑だとは気付かずに。
グレネードランチャーはナノラミネートコートに着弾、炸裂すると――着弾部位を中心に炎が燃え上がった。
これはナパーム弾であり、ナノラミネート装甲の破壊には至らないものの『装甲表面のナノラミネート構造を融解させる』効果を齎すのだ。
ビーム兵器が主体のクロスボーンガンダムだが、リョウマはこう言った耐ビームへの対応策も備えていた。
鉄壁の防御力を誇るナノラミネートコートが燃えていることに、ガンダムグレモリーは慌てたように後退り、炎をマニピュレーターで振り払おうとするが、それどころか腕部の装甲にまで炎が燃え広がってしまう。
クロスボーンガンダムX1はさらにバルカン砲を速射、銃弾の炸薬を撃ち込んでさらに炎上させようとするが、ガンダムグレモリーは即座にバトルアンカーで機体を守りながら大きく後退し、炎を地面や岩肌に押し付けて揉み消す。
「さて、自慢のナノラミネートコートも台無しだろう?」
ザンバスターを構えつつ、岩陰から姿を現したガンダムグレモリーを見やるリョウマ。
ナパーム弾の熱損傷により、ナノラミネートコートはその下地塗装が剥き出しになっている。
さすがに全く無力化することは出来なかったようだが、要である防御力を大きく削いだことには変わりないだろう。
「テメコラケツ見せてねぇで喧嘩しろよ喧嘩!んなもん使ってねぇで素手ゴロで喧嘩しろやゴルァ!!」
相変わらず人の話を聞いていないと言うか自分の主張を殴り通すことしか考えていないアスカのガンダムAGE-3 オービタルは、フルスロットルでガンダムグレモリーを殴り付けようと肉迫するがしかし、
拳を振り下ろすガンダムAGE-3 オービタルを寸のところで受け流し、即座に蹴り飛ばした。
「ぐあぁっ!?」
それら一連を見ていたリョウマとチサは、ガンダムグレモリーの様子の変化に目を止める。
「ね、ねぇリョウくん……なんか様子が変だよ?」
不安そうに訊ねるチサに、リョウマはその理由を答えた。
「……阿頼耶識のリミッターを切ったのか」
紅く輝くデュアルアイに、生々しい挙動、悪魔の呻き声のような駆動音。
原作設定におけるガンダムフレームは、対MA戦を想定して作られた決戦兵器であり、阿頼耶識システムを通じてリミッターを解除し、パイロットの生命維持や神経の損傷を無視した高出力状態になることが出来る。
ガンプラバトル上においては、時限強化系の武装として組み込まれており、機体出力や反応速度を飛躍的に高める効果を持つ。
ガンダムグレモリーはバトルアンカーを握り直してクロスボーンガンダムX1にゆらりと向き直ると、
その瞬間にはバトルアンカーの間合いに踏み込んで来ていた。
「ッ!?」
リョウマがとっさに反応出来たのは、経験による勘だ。
振り下ろされたバトルアンカーを辛うじて躱し、バックホバーしつつザンバスターを連射するクロスボーンガンダムX1。
連射されるビームを最小限の挙動で潜り抜けつつ、ガンダムグレモリーは瞬時に距離を詰めてくる。
チサの大喬ガンダムアルテミーはすぐにガトリング砲を向けようとするが、
「無理に攻撃するなチサ!回避に専念しろ!」
そう返しつつも、リョウマはガンダムグレモリーから目を切らない。目を離した瞬間には死角に回り込まれるのだから。
「(損傷した今ならビームザンバーで仕留められるか……?)」
嵐のように繰り出されるバトルアンカーをやり過ごしつつ、リョウマは反撃の算段を立てる。
ビームザンバーで、耐性の落ちたナノラミネートコートを突破して撃破出来るかどうか。
ビームザンバーによる攻撃をしかけ、すぐに斬り裂けるならいいが、少しでもビームが弾かれれば即座にバトルアンカーの反撃を受ける。
「(いや、それならヒートダガーの方がいい。不確定要素に期待は出来ない)」
だが、どうやってその間合いにまで踏み込むべきか。
今のガンダムグレモリーの反応速度は、先程とは段違いだ。
迂闊に踏み込めば躱される。
息切れ(制限時間)を待つか、奴の反応速度を超えるか。
どうするべきかとリョウマが思考を回しながらも、ガンダムグレモリーを乱撃を凌いでいると、
「こっち向きやがれゴルァ!!」
クロスボーンガンダムX1を仕留めようと躍起になるガンダムグレモリーの横から、アスカのガンダムAGE-3 オービタルが吶喊してくる。
オービタルウェアのバーニアを出力全開にして弾丸のような速度で突撃、その勢いのままガンダムグレモリーの脇腹へ飛び蹴りをぶちかます。
それでも装甲へのダメージには至らなかったものの、胴体部への衝撃によってガンダムグレモリーは一瞬怯む。
その一瞬を、アスカは見逃さなかった。
「うらァッ!!」
そのまま足蹴にして押し倒すと、殴り付けるのではなく、
「打撃が効かねぇなら引っ剥がすまでよ!!」
ガンダムグレモリーの黒い装甲を掴み――フレームから引きちぎった。
ナノラミネートコートで打撃が通らないなら、
しかし現実問題有効な手段のようで、バキバキベキベキと嫌な音を上げながら、ガンダムグレモリーは装甲の下のフレームが顕になっていく。
フレームに外付けされる装甲もそう簡単に取り外し出来るものではないが、ナパーム弾によって装甲が脆くなっていたことも助長したのだろう。
ガンダムグレモリーとてされるがままではない、リミッター解除の高出力に物を言わせて強引にガンダムAGE-3 オービタルを押し返して蹴り飛ばす。
蹴り飛ばしたガンダムAGE-3 オービタルにバトルアンカーを振り下ろそうとするが、
「させない……ッ!」
そこへチサの大喬ガンダムアルテミーが割り込み、三色響阮から斧刃を引き出してバトルアンカーに引っ掛けるようにして食い止める。
しかし軽量なSDガンダムで高出力状態のガンダムグレモリーを止めることは叶わず、三色響阮もろとも振り払われてしまう。
だが、チサは最初から食い止め切れるなど思っていない。
「リョウくんっ!」
「十分だ、チサ!」
彼女の呼び掛けに、リョウマは応える。
クロスボーンガンダムX1は、ガンダムグレモリーの死角から回り込んでいた。
背後から左手でガンダムグレモリーの右腕を押さえ付け、
「仕留める!」
右手に握ったヒートダガーの切っ先を、ガンダムグレモリーの胴体へ突き込ませた。
装甲の一部を失い、フレームが剥き出しになったバイタルバートに、赤熱化した刃が貫いた。
ヒートダガーがコクピットに到達したのか、ガンダムグレモリーは挙動を止め、紅く輝くデュアルアイも消失、力尽きたように荒野の地に平伏した。
ガンダムグレモリー、撃墜。
バトルが終了し、リザルト画面が流れる前でリョウマは一息つきながら、スマートフォンとガンプラを回収する。
「また変な乱入が来ちゃったね……」
チサはこの間のバウンド・ドックのことを思い出したのか、不安そうに呟く。
「あのバウンド・ドックと言い、今回のガンダムグレモリーと言い、特定の個人が俺を狙っているのは分かった。だが、何故俺を狙うのか、結局分からなかったな」
リョウマ自身、全く覚えがないのだ。
ハルタからは「チサちゃんとシミズさんと言う美少女二人を"両手に花"状態にしているからじゃないのかい」と若干殺意混じりに言われたことはある。
前回のバウンド・ドックの時はそうであったが、今回はミヤビがいないのだ。
恐らくハルタもそう言う意味で言ったのではないだろうが、では何故狙われるのかと言う問いにはやはり答えられなかった。
変態集団は既にバトルブースから姿を消していたが、それは瑣末事として、アスカは自分のスマートフォンとガンプラを回収すると、リョウマとチサに向き直った。
「悪かったな、ウチの妹を守ってもらった挙げ句、変なことに巻き込んじまってよ」
おにいちゃおにいちゃ、と擦り寄ってくるコトリを後手で宥めつつ、アスカは謝ってくる。
「謝ることでも無いだろう。元はと言えば、あの変態達が原因だしな。……それと、あのガンダムグレモリーの乱入に何か心当たりはないか?」
リョウマが応じつつ、ガンダムグレモリーの乱入について訊ねる。
「いんや知らねぇ」
「そうか、ならいいんだ」
やはり分からず終いか、とリョウマは嘆息をつく。
「あー、今回の詫びってわけじゃねぇんだが」
ばつの悪そうに、アスカは自分の鞄から一枚のチラシを取り出して、リョウマに手渡した。
「オレ、この近くで飯屋のバイトしてんだ。味は保証出来っから、良けりゃ食いに来てくれ」
んじゃな、とアスカはコトリの手を引きながらバトルブースを後にしていく。
彼ら兄妹を見送りつつ、リョウマとチサはチラシを目に通す。
「『鉄華丼』?鉄火丼じゃないんだね?」
「鉄華団みたいな名前の店だな」
どうやら定食屋何からしい。
ジョーヒンを出てもまだ日は高いが、二人はこのまま帰ることにした。
「チサも帰るなら、乗せてやるぞ」
「うん。乗せて乗せてー」
リョウマは駐輪場から自転車を引き出し、自分の荷物とチサの荷物をカゴに乗せてから乗り込み、チサも後ろの荷台に座る。
「レッツゴー!」
「オウサカ・リョウマ、出撃ぞ!」
チサに促されて、出撃時の掛け声を発しつつ、勢いよく、なおかつ安全運転で発進するリョウマ。
走り始めてしばらくはお互い無言のままだったが、ふとチサの方から話しかけてきた。
「あのねリョウくん」
「ん、どうした?」
「ミヤビちゃんのガンプラとか見てて思ったんだけどね、わたしも大喬ガンダムアルテミーを塗装とか、改造とかした方がいいのかな?」
「改造をした方がいいかどうかは分からない。改造しない方が好きだって人もいるしな」
その辺は個人の自由だ、とリョウマは言う。
「でもでも、改造した方が、ガンプラバトルでも強いよね?」
「まぁ、完成度が高ければ性能も上がるが……チサは、ガンプラバトルが強くなりたいのか?」
「……だってこの前の乱入も、今日の乱入も、わたしは何も出来なかった。リョウくんやミヤビちゃんと一緒にいるのに、わたしだけって、なんか情けない感じがして」
リョウマは「そんなことはない」と言いかけてそれを飲み込んだ。
そう言ったところで、チサの考えは変わらないことを知っているから。
「どうしたら、リョウくんみたいに強くなれるかな?」
「……チサ。俺は、お前が思ってるほど強いビルダーじゃない。たかだか大会をひとつ優勝しただけだ」
「それって、謙遜?」
「謙遜かもしれないが、事実でもある。俺より強い奴なんかいくらでもいる」
だからな、とリョウマは続ける。
「誰かに憧れや羨望を持つのはいい。だが、その誰かを基準にする必要はない」
「基準?」
「基準……いや、目標か?つまり、俺のようなビルダーになるんじゃなくて、自分だけのオンリーワンを目指せばいい」
「ん〜むむむむむ?」
どういうことかとチサは思い悩む。
「説明が難しいな……」
上手く説明してやれない自分の語彙力の無さを恨めしく思うリョウマ。
「そうだな……まずは「自分はこうしたい」って言うのを一つずつ試していくことだな。いきなり改造は難しいだろうし、ガンダムマーカーによる塗装から始めてみるといいと思う」
「ガンダムマーカーから。リョウくんも、最初はガンダムマーカーからだったの?」
「あぁ。ベタベタ塗り過ぎて途中でインクが無くなって買いに走ったり、乾く前に触って塗面に指紋が付いたり床を汚したり、そりゃもう大変だった……」
チサからは見えないが、遠い目になるリョウマ。
「た、大変そうだね?」
「その大変さが、今に生きてると思うと感慨深いものがある」
「……そっか」
うん、とチサは頷いた。
「ありがと、リョウくん」
「どういたしまして」
そうして、リョウマは再び黙々とペダルを漕ぐ。
そう言えばガンダムマーカーで足りない色があったな――まぁ明日に『甘水処』で買えばいいか――と思い返しながら。
【次回予告】
リョウマ「さてと、コンテスト用のガンプラを提出しに行くとしますか……」
リン「あれ、奇遇だねリョウマくん。キミもお出かけ?」
リョウマ「こんにちは先輩。毎年やってるビルダーコンテストがあるんで、その作品の提出に行くんですよ」
リン「へぇ。私もついていっていい?」
リョウマ「いいですよ。ついでに、改造のいい刺激になりますし」
リン「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー
『質実剛健のレジェンドガンダム』
うーん、色んな方向からビームが飛んでくるって、けっこう面倒な相手なんだね」