「お、セイスイさん久々の投稿だ……」
ショッピングモールのジョーヒンで、アスカと共闘ついでに乱入してきたガンダムグレモリーを打倒してから数日。
夜も遅い自室の中で、リョウマはつい先程に完成したガンプラ――『アストレイ レッドフレーム』をケースに仕舞いながらスマートフォンを手に取り、ガンスタグラムを開いてみれば、フォロー新着の欄に『セイスイ』の名前が見えた。
早速タップして作品ページを開いてみれば、『Zガンダム』が投稿されている。
セイスイ:Zガンダムを真面目に作りました!REVIVE版のHGでも、ウェイブライダーの赤い部分はシール再現なため、塗り分けが少し手間です。(´・ω・`) それでも作り応えのあるキットですので、皆さんもぜひ一度!(^O^)
ふむ、と頷いてから、リョウマは早速コメントを打ち込む。
リョーマ:久々の投稿お疲れさまです。やっぱり出来る子ゼータガンダムはカッコいいですね。それにしてもこの色合い……さては劇場版Zガンダムをリスペクトしてますね?
そうコメントを送信すると、程なくして返信が届く。
セイスイ:リョーマさん毎度毎度ォ!(ムウさん感)その通りです!TVアニメ版の深い青とは違う、若干スカイブルーが混じった色合いの調色が困難を極めました。リョーマさんの観察眼、相変わらず素晴らしい!(≧▽≦)
見立てが当たったらしく、セイスイからの返信は喜色満面の内容だ。
返信を目にしたリョウマも気を良くする。
「(さて、明日はビルダーズコンテストだし、早めに寝るとするか)」
明日の外出準備を整えてから、リョウマはベッドの中で横になる。
「(そう言えば、この間の乱入……ガンダムグレモリーに、バウンド・ドック、か……)」
恐らくは、同じ乗り手によるものだろう、と言う予想はついている。
そして、その狙いはリョウマ本人だろうとも。
だが、その行動にどのような理由があって乱入をけしかけてくるのか。
ハルタは「誰かに怨まれるようなことをしたんじゃないのかい。特にチサちゃんとシミズさんを両手に花状態にしているとかね」と冗談混じり……否、かなり本気だったかもしれないが、それでも膨大なユーザーの中から一個人を特定して乱入してくるなど、並大抵のことではない。
「(今度出会ったら、倒さない程度に痛めつけて理由を尋問してやろうか)」
空恐ろしいことを思い浮かべつつ、リョウマは眠りについた。
翌日。
午前中は二時間だけ『甘水処』でコノミの研修を行い、午後からは外出。
電車に乗って数十分の距離にある、電気街へ行くのだ。
切符を購入して、普通電車に乗車して、空席に座ろうとすると、最近になって見知った顔がそこにいた。
「……カンザキガワ先輩?」
本を読んでいるその美少女が、同じ学園の先輩――リンであることに気付いたリョウマは、声をかけた。
「ん?……あぁ、誰かと思ったらリョウマくんか」
彼の声に気付いたリンは顔を上げ、本に栞を閉じた。
「今日はキミもお出かけ?」
「はい。電気街にあるホビーショップの、コンテスト用のガンプラを提出しに行くんです」
「へぇ、電気街に。私もその駅に行くつもりだよ」
「カンザキガワ先輩は、どんな用事ですか?」
「私は単に書店巡りかな。気になる本があれば買うし、何も買わずに帰ることもあるし」
そうだね、とリンは少しだけ考えるように間を置く。
「せっかくここで会ったのも何かの縁だし、キミの用事について行ってもいいかな?」
「いいですよ。先輩もガンプラに興味持ってくれたみたいですし、話せることなら何でも話し相手になりますよ」
「うん。それじゃぁ今日はよろしく」
もう少しだけ他愛もない会話に華を咲かせていると、目的の駅に到着した。
雑多なコンクリートジャングルの中、リョウマとリンの二人は、モール内に併設されたホビーショップ『ダム・ダム』へ向かう。
出入り口を通ってすぐに、リンは物珍しそうに店内を見回す。
「おぉ……、まさにオタクって感じだね」
「俺、ガンプラの出典してくるんで、先輩は自由に見てていいですよ」
ふーんへーほー、とフィギュアやガンプラとは違うプラモデルを見て回るリンを尻目に、リョウマは店頭レジへ向かう。
「ここのコンテストに参加予定の、オウサカです」
名前を書いた参加券を店員に手渡すと、すぐに「こちらへどうぞ」とショーケースの方へ案内される。
ショーケースの鍵を開けられ、作品を置くスペースを用意される。
「作品の配置が出来ましたら、またお声がけください」
それだけ告げると、レジの前で待っているお客の応対へ急いで戻っていく。
「さて、と」
鞄の中からケースを取り出し、その中から特別に仕上げたアストレイ レッドフレームをショーケースの中に設置していく。
フレームの内部構造にもこだわりを入れて作り込み、ガーベラストレートは丹念な下地処理の上から事細かく塗装が施され、まさに本物の日本刀と見紛うほど。
「ほぅ、今回はレッドフレームか」
ふとリョウマの後ろから、彼にとって聞き覚えのある声が届く。
振り向くと、黒灰色の尖った短髪をした青年が、興味深そうにリョウマのアストレイ レッドフレームを見ている。
「お久しぶりです、『レン』さん」
リョウマはレンと言う青年――『イズモ・レン』に軽く会釈する。
「久しぶりと言っても、この間のフェスで会ったばかりだがな」
リョウマとレンは、ガンプラ関連のコンテストで度々顔を合わせている仲であり、互いの連絡先も控えている。
「レンさんもコンテストに参加ですよね。今回は何を作ったんですか?」
「一番最初のアスタロトと、そのジオラマだ」
そう言いつつ、店員がショーケースの鍵を開けるのを確認してから、レンもケースからガンプラと、分解しているジオラマを組み立てる。
数分の後に、見事なウェザリングや経年劣化加工が施された『ガンダムアスタロト』とその15cm四方ほどのジオラマが飾られる。
「ちょうどこれ『月鋼』の第一話でアルジのアスタロトがテッドの屋敷から出撃して来てすぐのところですね」
「トリアイナも作ろうかと思ったんだがさすがに資料が少なくて今回はアスタロトとジオラマに力を入れた」
「このデモリッションナイフプラ板で追加してますね?」
「刃先の部分が野暮ったくてより刃物らしくしたかったのさ」
コアなビルダーで無ければ、傍から聞いてもちんぷんかんぷんな内容を日常会話レベルでペラペラスラスラと交わされる。
そんなリョウマの背中を、リンが声をかける。
「リョウマくん、ちょっといいかな」
「はいはい、何でしょう先輩」
レンとのモデラートークを切り上げて、リョウマはリンに向き直る。
「キミのアルトロンガンダムって、どんなのを使って改造してるんだっけ。その素材って、ここにも売ってる?」
「ありますし、教えますよ」
リョウマとリンの様子を見ていたレンは、少し申し訳無さそうに目を細めた。
「……すまない、"彼女"がいたのか」
どうやら、リンのことをリョウマの恋人か何かと思ったらしい。
「え?あぁ、違いますよ。この人は、俺の一個上の先輩ってだけです。最近になってガンプラに興味を持ったって言うんで」
そう正直に答えるリョウマに、リンは小首を傾げる。
「彼女?何のこと?」
「俺とカンザキガワ先輩が、付き合ってるって思われたようです」
実際には違うんですけど、とリョウマだが。
何故かリンはそこで考え込み始める。
「…………つまり、私とリョウマくんが、アレでソレでナニな関係と思われてしまったと」
「アレとかソレとかナニって言い方にはツッコミませんけど、つまりはそう言うことらしいです」
それはもう恋人同士の関係を飛び越しているような気もしなくもない。
その意味をあまりにも正確に理解したリンは、
「ふむ、んー?ん………………〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!」
顔を真っ赤にして目を回す。
「いやっ、ちょっ、待ってっ、それはっ、そのっ……」
気怠げで淡々としている、普段のリンとは思えない狼狽えぶりだ。
「……実際はどうなんだ?」
レンは、リンの狼狽えとリョウマの顔を見比べる。
「男女のお付き合いをしてるか否かなら、否です」
「つ、つまり、私の……に、リョウマくんの……が、……はわわわわわっ……」
一体何を妄想しているのか、リンの頭から蒸気が噴き上がっている。
「カンザキガワ先輩。現実に戻ってきてください」
「……はっ、私は一体何を」
リョウマの声に、妄想の海に沈み込んでいたリンは我に返る。
「……まぁ、深くは訊かないでおこう」
少なくとも人前でするような話ではないだろう、とレンはそれ以上踏み込むのを止める。
「レンー、作品の展示は終わったの?」
すると、レンの背後から一人の女性が声をかけてくる。
その女性に、リョウマは見覚えがあった。
「あれ……確か、ジングウジさん?」
白金色のサイドテールを揺らす様を見て、リョウマはこの間に彼女とガンプラバトルを行った時のことを思い出す。
「あら、オウサカくん?この間ぶりね」
彼女――レナがリョウマの顔を見て挨拶を交わすのを見てレンは目を丸くする。
「レナ。リョウマとは知り合いだったのか」
「前に『甘水処』に呼び出された時にね。一度バトルしてあげたのよ」
「そうか」
レンとレナ。
二人が双方を下の名前で呼んでいるのを見て、今度はリョウマが質問する番になる。
「そう言うレンさんも、ジングウジさんと仲良さそうですけど、彼女さんだったり?」
何気なくそう訊ねたリョウマに、「んなっ!?」とレナは目を見開いた。
動揺するレナとは対照的に、レンは至極落ち着いた様子で応じる。
「いや、単なる幼馴染みだ」
「……そ、そう。幼馴染みよ」
レンの冷水をぶっかけるような応え方に、レナは落胆しながら頷く。
――梅雨入りのどこかで見た光景である――。
「ま、まぁそれは置いておきましょう」
わざとらしく咳払いをしてから、レナはリョウマが展示しているアストレイレッドフレームを見やる。
「よく作り込んでるわね。と言うか、フレームの一部はスクラッチで作ってるのかしら」
「公式サイトやコミックの作画とか、色々と擦り合わせてフレームを作りました。特に、このパワーシリンダーの装着を意識したプラグの部分が……」
リョウマがレナに対してアピールポイントを説明していると、「むー」とリンが頬を膨らませている。
「リョウマくん。私にアルトロンガンダムの改造のことを教えてくれるんじゃなかったの?」
「え、あぁすいません先輩。どこをどう作り込んだと語るのはモデラーの性みたいなもので……」
「美人のお姉さんに鼻の下を伸ばすのもいいけど、人の頼みを途中で放り出すのは感心しないね」
「いや、そう言うわけじゃなくて」
ショーケースから踵を返して、リンと共に売り場の方へ向かうリョウマ。
それを見送っていたレンとレナは顔を合わせて「やはり恋人同士なのでは」と同じことを考えていた。
リンが使っている、リョウマ製のアルトロンガンダムが、何をどれだけどのように使っているかの説明が一通り済んだところで、四人は昼食もかねてファミレスに入店していた。
「そう言えば思ったんですけど」
席について間もなく、リョウマはレンに話しかける。
「レンさんって、最近でガンプラバトルってやりましたか?」
「ん、ここ直近はあまりしていないが、それがどうかしたのか」
ガンプラバトルをすること自体は普通のことだ。
リョウマは、今自分の周りに起きている"乱入"について話すべきかどうか迷っていたが、少しでも乱入に関する情報が欲しいと言う方に天秤を傾けた。
「ここ最近、バトル中に不正なアクセスによる乱入が多発しているそうなんです。レンさんは何か知っていませんか?」
あえて、「そのような噂がある」と言い方を変えるリョウマ。
被害を受けたことがあるのは、隠しておく。
「…………」
すると、レンの表情に陰りが見え、彼の隣りにいるレナも目の色を変えた。
「何か、知ってそうですね」
「……直接、関係があるかどうかは分からない」
そう前置きを置いてから、レンは少し前に起きたことを話し始めた。
「二週間前に『ヴォークス』のコンテストがあっただろう」
ヴォークスと言うのは、ダム・ダムとは別のホビーショップのチェーン店だ。
リョウマは今回そちらの参加は見送っていたが、レンはそこのコンテストにも、一級品のストライクフリーダムガンダムを手に出場していたと言う。
「そのコンテストには、優勝候補のビルダーも参加していたらしいんだが……風の噂で、そいつのガンプラが壊されたと聞いた」
「壊された?」
となればこれは乱入とは無関係かもしれないが、最後まで聞かなければ分からない。
「出展作品を壊されたから出場出来ず、結局のところ俺は、ほとんど不戦勝で入賞したようなものだ」
何故壊されたかは分からないが、とレンは続ける。
「それと、コンテストが終わったのを見計らったように、俺のSNSの友人もガンプラを壊されたと聞いた」
「なっ……!?」
リョウマは思わず目を開く。
確かに優勝候補者を欠場させれば、楽に優勝出来るかもしれないが、レンがそんな非道に手を染めるとは思えないと、リョウマは確信している。
しかもそれだけでなく、レンの友人すらもその被害に遭ったと言う。
「リョウマの言う、乱入被害と深く関係しているかは分からないが、発生時期の近さから見ても、恐らく全くの無関係ではないだろう、と言うのが俺の私見だ」
レンの言葉に、レナも痛々しそうに顔を俯けている。
「一体誰が、何のために……こんなことをしたところで、誰も喜ばないって言うのに」
リョウマは膝の上で拳を強く握る。
そんな彼を見てか、レンは敢えて話題を変えようとする。
「まぁ、せっかくの休日で久々に顔を合わせたと言うのに、暗い話はやめにしよう。リョウマ、この後で時間があるなら久々に対面してのバトルはどうだ」
「……いいですね。俺は賛成ですよ」
話題を変えようとするレンの意思を読み取って、リョウマは努めて明るく振る舞う。
「私もいいかな」
リョウマの隣でリンが静かに挙手するのを見て、レンは「まちろんだ」と頷く。
「となると、2on2になるな。レナ、組んでくれるか」
「当然よ」
ファミレスでの昼食を終えてから、四人は近場のゲームセンターに移動して、バトルシミュレーターを四人分借りる。
オフラインマッチング、2on2モード。
ローディングを待つまでの間、リョウマとリンは通信で会話を交わす。
「アルトロンガンダムについて調べてみたんだけどね……正直、色々と矛盾しか無くて、……理解に苦しんだ」
「一体何が起こったんですか、先輩」
アルトロンガンダムの理解に苦しむと言うリンに、リョウマはどうしたのかと訊ねる。
「まず、およそ16m弱もある人型ロボットが、7.5tしか重量がないって言うのがおかしいと思うんだよね。いくらなんでも軽すぎる」
「ま、まぁ……装甲材のガンダニュウム合金が、めちゃくちゃ軽いって言うのもあるんですけど」
特に、平成三部作と呼ばれるG、W、Xに登場するガンダムタイプのMSのほとんどは、重火力重装甲機でも機体重量が二桁に満たないと言う、他ガンダム作品のガンダムタイプと比較しても驚異的な軽さを持つ。(デビルガンダムのような明らかな例外は除く)
ちなみに、横浜のガンダムファクトリーに鎮座する『RX-78F00』――通称、動く実物大ガンダムは、18mでおよそ25t(本体重量のみ)であり、原作設定のガンダムが40tであったのと比較すると、(アニメのような運動・機動に耐え得るかどうかは別として)相当な軽量化が為されているのはご理解いただけるだろう。
「それに、真空の宇宙空間でどうやって火炎放射を発射してるのかとか、ドラゴンハングのリーチが腕部構造と比較してもあまりにも長すぎるように見えるとか……」
「先輩。それは、『演出上の都合』です。あんまり深く考えてはダメです」
「……そうなの?」
なんか納得いかない、と不満そうな顔を浮かべるリン。
そうこうしている内にも、マッチングが完了し、ランダムフィールドセレクト。
ステージは『宇宙要塞アンバット』
原典作品は『AGE』からで、フリット編の最終決戦場となる場所だ。
宙域と、要塞内部での二局に分かれるステージのようだ。
出撃準備、完了。
「オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃ぞ!」
「カンザキガワ・リン、アルトロンガンダム、行くよ」
クロスボーンガンダムX1とアルトロンガンダムが出撃し、宇宙空間へと飛び立つ。
出撃してすぐに、リョウマはリンに接触通信を行う。
「先輩、聞こえますか?」
「ん、感度良好だよ」
「俺達はどっちも格闘機なので、片方が片方に集中する、疑似タイマンに持ち込もうと思います」
「それぞれ一対一で戦うってことだね、分かった」
クロスボーンガンダムX1とアルトロンガンダムは接近戦に持ち込んでこその機体であり、射撃戦は不得手とまでは言わないが、足を止めて撃ち合うような戦いは望むところではない。
どちらかが後ろから援護すると言う戦法では火力の低さや手数の少なさから、前衛役に負担が傾きがちになる。
そのためリョウマは、クロスレンジの間合いに近付くまでは互いにポジションを守りつつ敵機を牽制、距離が縮まってきたところで、双方とも一気に接近戦に持ち込むと言う作戦をリンに伝える。
短い通信を終えた後、前方より敵対反応が二つ。
片方は、レナのガンダムジェミナスマバリック。
もう片方のレンの機体は、この宇宙に溶け込むような黒灰色を基調とした暗いトリコロールカラー。
背部の何本もの突起物の生えた大型のバックパックから見て、リョウマはその機体をすぐに自身の記憶と照合する。
「『レジェンドガンダム』か。前はガンダムレギルスを使っていたはずだけど……」
『今回はこいつでいかせてもらうぞ、リョウマ』
双方が双方を認識すると同時に、レンのレジェンドガンダムは背部のプラットフォームから攻撃端末――ドラグーン・システムを次々に展開し、開幕一番にビームの雨霰を降り注がせてきた。
「ん?あの小さいのからビームを撃ってくるの?」
リンは一瞬キョトンとなるものの、即座に操縦桿を捻ってビームを躱す。
「先輩、あの小さいのはドラグーンって言って、色んな方向からビームを撃ってくるんです。囲まれないように気を付けてください」
ドラグーン・システムからのビームを的確に躱しつつビームシールドで防ぎつつ、リョウマはリンにレジェンドガンダムの厄介な点を伝える。
「囲まれないようにって、難しいことを言うね」
早速囲まれてるよ、と言いつつもリンはアルトロンガンダムを上下左右へと機動させてビームを掻い潜る。
クロスボーンガンダムX1とアルトロンガンダムがビームを躱す最中にも、レナのガンダムジェミナスマバリックはアクセラレートライフルとビームキャノンを撃ち込んでくる。
しかも、ドラグーン・システムによる射撃の合間を縫った上で、だ。
その連携によって、射撃の手数に乏しいクロスボーンガンダムX1とアルトロンガンダムは、反撃の糸口を断たれて防戦一方になる。
『リョウマのクロスボーンガンダムは当然だが、そちらのアルトロンもやるな。しかし消耗は避けられまい』
直撃を与えられないことに痺れを切らすことなく、レンは冷静さを崩さずに、なおかつ虎視眈々と強襲の機を狙いつつ、レジェンドガンダムの高エネルギービームライフルを撃ち込ませる。
だが、
「そこだね」
リンはウェポンセレクターよりビームキャノンを選択し、明後日の方向に向けて発射、すると回り込んできていたドラグーン・システムの一つを破壊した。
『ん、読まれたか?』
「そこも」
続いてドラゴンハングから火炎放射を放ち、もう一つ破壊した。
「……やっぱり宇宙で火炎放射が使えるのって違和感しかないんだけど」
「そう言う仕様のゲームですから、割り切ってください」
早々にドラグーン・システムへの対処を開始するリンに、リョウマは内心で恐ろしく感じつつも、彼女のぼやきにツッコミを入れる。
『あのお嬢さん、初心者と言う割にはやるわね。レン、私はアルトロンを押さえる』
『了解した、任せる』
一時的にドラグーン・システムの攻撃が止み、レジェンドガンダムのプラットフォームへ呼び戻されるのと同時に、ガンダムジェミナスマバリックがアルトロンガンダム目掛けて突撃する。
「来たね」
アルトロンガンダムはランダムバインダーからツインビームトライデントを抜き放ち、向かってくるガンダムジェミナスマバリックを迎え撃つ。
「なら挟撃し……っと」
挟み撃ちにしようとするリョウマだが、そうは問屋が卸さない、そこへレンのレジェンドガンダムが高エネルギービームライフルと、プラットフォームを稼働させて直接ビームを放つ『ビーム突撃砲』を拡散させるように放ってくる。
『勝負を仕掛けさせてもらうぞ、リョウマ』
「こっちのセリフですよ、それは!」
視界を埋め尽くさんばかりのビームの隙間を潜り抜け、一気にレジェンドガンダムへ迫るクロスボーンガンダムX1。
ザンバスターからビームザンバーを抜き放つのを見て、レジェンドガンダムは高エネルギービームライフルを背部ラッチへ納め、両脚部から二本のビームジャベリン『ディファイアント改』を抜き、アンビデクストラスフォームへ連結して迎え撃つ。
瞬間、ビームザンバーとディファイアント改が衝突し、一撃、二撃と交錯する。
「さすがに、やりますね……!」
『ち……っ』
互いに弾き合い、クロスボーンガンダムX1はガンマンの早撃ちのようにバスターガンを構えると同時に放つが、レジェンドガンダムは手首のビームシールド『ソリドゥス・フルゴール』を発生させてビーム弾を防ぎ、反撃に背部のビーム突撃砲を連射するように撃ち込んでくる。
リョウマは操縦桿を引き下げながら捻り、クロスボーンガンダムX1は迂回するようにビーム突撃砲をやり過ごしつつ再度レジェンドガンダムへ迫る。
『させんさ』
するとレジェンドガンダムは連結したディファイアント改を回転させるように投げつけ、それにビーム突撃砲を放った。
何十ものビームが、ビームブーメランのように回転するディファイアント改に連続で弾き返され、辺り一帯を極彩色の光で塗りつぶした。
「双刃のサーベルでビームコンフューズッ……!」
視界をくらますようなビームのカーテンが、クロスボーンガンダムX1の前に立ち塞がる。
この閃光の中に飛び込もうものならA.B.Cマントもろとも機体はズタズタにされる。
リョウマはすぐさま操縦桿を引き下げて、クロスボーンガンダムX1に逆制動を掛けさせ、
一拍の後に下方からアラートが鳴り響く。
レジェンドガンダムのドラグーン・システムの内、プラットフォーム最上端に位置する大型ユニットが下から回り込んできており、そのビーム砲からビームスパイクが牙を剥く。
「(接近させないだけじゃなく、ブラインドと攻撃を同時に仕掛けるか!)」
先程の大規模なビームコンフューズで目を眩ませ、その隙に死角からドラグーン・システムによる近接攻撃と言う、二重三重の攻撃だ。
砲撃ではなく、ビームスパイクによる近接攻撃なのも、A.B.Cマントを破るためのものだ。
咄嗟の判断、リョウマはウェポンセレクターからヒートダガーをダブルセレクト、両脚からヒートダガーの切っ先を覗かせると、踏み付けるようにドラグーン・システムのビームスパイクを受ける。
いくら赤熱化しているとは言え、ヒートダガーの刃ではビームスパイクを長時間受け切れない。
だが、ほんの僅かだけでもクロスボーンガンダムX1本体へのダメージを遅らせる。
そしてリョウマは、そのほんの僅かを凌げれば十分だった。
「行けェッ!!」
操縦桿を殴るように押し込み、フルスロットルで加速するクロスボーンガンダムX1は、ようやく霧散してきたビームカーテンを突き破ってレジェンドガンダムへ肉迫する。
『今のやり過ごすか、さすがだなリョウマ』
口調はそのまま、しかし舌を巻くレンはすぐドラグーン・システムにディファイアント改を撃たせ、ビームでディファイアント改を弾き飛ばしたところをキャッチ、身構え直すと同時に振り抜かれたビームザンバーと打ち合う。
一方、リンのアルトロンガンダムとレナのガンダムジェミナスマバリックとの戦いは。
振り抜かれるビームソードに対して、アルトロンガンダムは即座にツインビームトライデントで弾き返し、返す刀のように左腕のドラゴンハングを伸ばして反撃。
弾かれて隙を晒したガンダムジェミナスマバリックはG-UNITシールドで受けるが、ドラゴンハングの"咬"撃力は並大抵ではない、捉えた瞬間にシールドの内部構造ごと喰らい潰してみせる。
『チッ……!』
レナは舌打ちしながらもシールドのジョイントを左腕から切り離してドラゴンハングの間合いから飛び退きつつ、ディフェンスドブースターのビームキャノンを撃ち返す。
「おっと」
リンは至極冷静に操縦桿を捻ってビームキャノンのビームを躱しつつ、イニシアティブを取り直す。
『……正直、ここまでやるとは思わなかったわ』
「それはどうも」
『けれどね、これはどうかしら?』
「これ?」
何のことかとリンは何気なく小首を傾げ――すぐに首の位置を戻した。
ガンダムジェミナスマバリックから、薄っすらとした青白い輝きが放たれているのだ。
『PXシステム、発動!!』
やがてその輝きが全身にまで至ると、ガンダムジェミナスマバリックは猛然と迫る。
レナがウェポンセレクター越しに発動させたのは、PXシステムと呼ばれる、G-UNIT特有のシステムだ。
原典では、『人間の緊張が極限状態に陥った際に感覚が鋭敏なものとなる現象を人工的に引き出す』ことから作られており、機体性能と共にパイロットの感覚・能力を大幅に引き上げると言うものだが、同時に機体とパイロットにも多大な負荷を掛け、最悪の場合はパイロットの精神が崩壊したり、機体そのものが自壊を起こすと言う代物である。
もちろんガンプラバトル上ではそんな危険な面までは再現されておらず、あくまでも時限強化系のコマンドとして設定されている。
右手のアクセラレートライフルと、左手のビームソード、さらにディフェンスドブースターのビームキャノンが連続してアルトロンガンダムへ襲い掛かる。
「んー、なんか速くなった?」
ツインビームトライデントと、時たまに左肩のドラゴンシールドで受け流しつつ、リンは挙動速度の速まったガンダムジェミナスマバリックを訝しむように睨む。
『その冷静さも、いつまで保てるかしらね!』
なおも苛烈に猛撃を仕掛けてくるガンダムジェミナスマバリック。
次第にビームキャノンやビームソードが、アルトロンガンダムの装甲を掠め始める。
「まずいね、対応がズレてきてる」
同じように防ぐだけでは、いずれ防ぎきれなくなる。
被弾率の上昇からそれを読み取るリンは、どこかで手を変えなければと思案する。
さてどうしようかと、リンは左腕のドラゴンハングの火炎放射と頭部のバルカンでガンダムジェミナスマバリックを牽制する。
銃弾と火炎を掻い潜って迫るガンダムジェミナスマバリックに対して、アルトロンガンダムはツインビームトライデントを右片手に持ち直す。
「構造的には不可能じゃないはず……っと」
すると、『ドラゴンハングのアームだけを伸ばして』ツインビームトライデントを振るった。
『ん!?』
右腕部のリーチが倍化した上でのツインビームトライデントによる攻撃に、レナは一瞬虚を突かれるが、すぐさまビームソードで斬り返し、
――不自然なほど軽い手応えと共に、ツインビームトライデントをアルトロンガンダムのマニピュレーターから吹き飛ばした。
「残念、私の勝ち」
即座、折り畳まれたドラゴンハングの"頭"が牙を剥いた。
ガンダムジェミナスマバリックは、ツインビームトライデントを斬り飛ばして、実質空振りしたも同然。
『しまっ……!?』
振り抜いた状態――ガンダムジェミナスマバリックの左脇腹へドラゴンハングが喰らい付き、
「じゃぁね」
ゼロ距離の火炎放射がガンダムジェミナスマバリックを内部から焼き尽くした。
ガンダムジェミナスマバリック、撃墜。
「ふぅ。ちょっと危なかったな」
ガンダムジェミナスマバリックがPXシステムを発動してからの攻めの苛烈さに、冷静さを保ってはいたもののどう切り返すべきかと少しばかり困っていたのだ。
先程のツインビームトライデントをわざと弾き飛ばさせて、直後にドラゴンハングで反撃すると言う作戦も、成功するかどうかは五分五分と言ったところであった。
それも勝ち取ってしまえば良し、と捉えるリン。
「さて、リョウマくんの方は……ん、向こうも終わったかな」
僚機確認の画面を開くと、アンバットの軍港内部で、A.B.C.マントや右腕と右脚を失いながらも、レジェンドガンダムの胴体部へビームサーベルを突き立てている、クロスボーンガンダムX1の姿が見えた。
レジェンドガンダム、撃墜。
バトルが終了し、リザルト画面を見流しつつ、レンは小さく息をついて頷いてみせた。
「やはりさすがだな、リョウマ」
「レンさんも。ナイスファイトでした」
ガンプラとスマートフォンを回収してから、リョウマとレンは互いに握手を交わす。
「そう言えばレンさんのレジェンドの関節を見て思ったんですけど、もしかして中身はHGCEのデスティニーですか?」
「手首もデスティニーから移植している。ドラグーン・システムとパルマフィオキーナを両立させるとエネルギー効率が悪くなるから、平手のパルマフィオキーナの発射口はパテで埋めている」
「大型ドラグーンのビームスパイクもかなり高出力でしたけど、もしかしてエフェクトも作ってたり?」
「もちろんビーム砲の発射と付替えが出来るようにしているぞ。さらに脳波コントロール出来る」
「あ、よく見たら額の部分に型式番号の『66(セッサンターイ)』が彫り込まれてる!」
「うむ。1/144スケールの額にこれは骨が折れたな」
そして、バトルが終わるなりお互いのガンプラ談義だ。
それを傍から見ているリンとレナは。
「あれ、なんて日本語ですか?」
「……間違ってもジャパニーズ日本語よ。私もガンプラにはそこそこ詳しい自負はあるけど、あのレベルまで来るともうちんぷんかんぷんよ」
女子二人のことなどそっちのけの談義は、五分ほど続いた。
それから、なおもホビーショップ内で談義を繰り広げようとするリョウマとレンだが、さすがにやり過ぎとレナに止められ、渋々ながら二人とはそこで別れた。
リョウマとリンの方も、リンの本来の目的である書店巡りをしたり、小休止でお茶をしていると、もう夕方近くになって来ていた。
「ん、時間が経つのは早いね。もう夕方だよ」
空の茜色を見て、リンは溜息をつく。
「そろそろ帰りますか」
「そうしよっか」
リョウマの進言により、二人は元来た駅へと向かうことにした。
それほど待つこともなく電車に乗り、疎らな車内の席に二人して着く。
「書店巡りに付き合わせてごめんね、退屈だった?」
「いえいえ、カンザキガワ先輩が普段どんな本を読んでるとかも知れましたし、……そんな分厚いのを何冊も買うとは思ってませんでしたけど」
リョウマの視線の先には、リンの手にしている手提げ袋に納められている、見るからに分厚い本の数々。
「ほら最近、隕石から複数のアミノ酸が発見されたってニュースで見るよね。あれはどう言う事なのかって私なりに調べようと思ってね」
「そう言うのって、ネットじゃ分からないんですか?」
「いや、ネット上の情報は色々錯綜してるのが多くてね。素人でも違うって分かるようないい加減な記録もあるし」
だからこうして自分で調べるんだよ、とリンは頷く。
ふと、次の駅の到着を告げるアナウンスが車内に流れる。
「っと、私の最寄り駅は急行が止まらないから、ここで乗り換えるね」
そう言いつつ、リンは席を立った。
「じゃぁ先輩、また明日学園で」
「うん、またねリョウマくん」
ドアが開いて降車するリンを見送りつつ、再発進する電車に揺られるリョウマ。
最寄り駅に着いて、改札に切符を通そうとしたところで、スマートフォンが通話のヴァイブレーションを震わせてきた。
リョウマは改札口を通り、素早く懐からスマートフォンを取り出すと、『RINE』のアプリの無料通話機能によるもので、ハルタからだった。
「もしもし?」
『もしもしリョウマ。俺様だ。たった今入ってきた緊急速報がある。時間は大丈夫かい』
「あぁ、問題ない」
緊急速報。
何か分かったことがあったのだろうか。
問題ないと聞いて、ハルタは早速その"緊急速報"を伝える。
『まずはこれを見てくれ』
数秒の後、ハルタは画像を送信してきた。
「これは……」
それを見たリョウマは、眉をひそめる。
画像の中には、原型を留めないほどにグチャグチャに変わり果てたガンプラの姿が。辛うじてそのガンプラがクロスボーンガンダム系だと分かるくらいだろうか。
『確定ではないけど、ほぼ間違いない情報だ。乱入が発生したバトルで、乱入者に撃墜された時、シミュレーターのスキャナーに高熱が発生し、こうなったのだそうだ』
「!?」
リョウマは思わず自分の耳とハルタの言葉を疑った。
高熱と言っても、プラスチックが溶けるような温度など、ほとんど直接火に炙るようなものだ、普通はこうはならない。
「どう言うことだ?プラスチックが溶けるような高熱が発生したなら、その前にシミュレーター側がストップをかけるはずだろう」
連続処理などの影響で端末機器の温度が上がり過ぎた時、自動で一時的に通信制限をかけるように、ガンプラバトルシミュレーターにもそう言ったセーフティがあるはずだとリョウマは言う。
『そのはずだけどね。不正アクセスが可能だとすれば、アクセスと同時にウイルスか何かを筐体に植え付けているんだろう。セーフティ機能をシャットして、ついでに処理速度を停滞化させてパンクさせてやれば、内部機構はあっという間に溶鉱炉に早変わりさ。撃墜された相手のガンプラだけがそうなるのは、向こうさんのプライドか何かだろうね』
乱入者の攻撃を受けて撃墜判定を受ければこうなるなど、リョウマとて初耳だ。
バウンド・ドックが乱入してきた時のバトルで、チサの大喬ガンダムアルテミーは大きく被弾してしまっていた。
もしビームが直撃して、撃墜判定を受けてしまっていたら彼女のガンプラもこうなっていたのかと思うと背筋に悪寒が走る。
「あのバウンド・ドックやガンダムグレモリーが俺を狙っていたとしても……何故他のビルダーにまで被害を与えるんだ?」
それともリョウマを狙うのはただの偶然に過ぎないのだろうか。
乱入者の思惑が読めず、薄気味悪さを覚える。
『さぁね、暇なんじゃないか?……リョウマ?』
「……あ、あぁ。報告ありがとう」
『俺様からは以上。通信終わり』
「了解、通信終わり」
それを合図として、リョウマは通話を切った。
そろそろ本格的にクロスボーンガンダムX1の改造を考え、実行に移すために、自宅への岐路を辿った。
【次回予告】
コノミ「聞きましたよ先輩!あのカンザキガワ先輩とデートをしたって!」
リョウマ「なんで知ってるの誰から聞いたの」
コノミ「フッフッフッ……女の子特有のネットワークにかかれば、たった五分で全ては白日の下に晒されるのですよ」
リョウマ「なにそれ怖すぎる。俺を女性不信にさせるつもりか」
コノミ「と言うわけで先輩、わたしとデートしましょう!」
リョウマ「何がと言うわけなのか詳しく……」
コノミ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー
『事実は同人誌より奇なり』
さぁ、ミスターブシドーの本を買いに行きますよー!」
リョウマ「待ってくれコノミちゃん人の話を聞いてくれ」