「リョォマァ!君と言う奴はァ!!」
月曜日の朝、登校して来て顔を見るなり一番、ハルタはリョウマの胸ぐらを掴み上げた。
「なんだなんだどうした落ち着けハルタ」
リョウマは何食わぬ顔をしながら、怒りに身を震わせているハルタに目を細める。
隣りにいるチサは「もう、朝から喧嘩はダメだよー」と頬を膨らませてハルタを窘める。
「なんだとはなんだこのリア充!白を切ろうったって無駄だからな!?」
「俺がリア充かどうかは想像に任せるが、後ろ暗いことは何もしていないから白を通させてもらう」
朝から何なんだとリョウマは呆れているが、なおもハルタの怒りは収まりそうもない。
そして、朝の通学の時間帯でしかも玄関口と言う人通りのある場所で、爆弾を放り込むハルタ。
「知っているぞ……昨日、電気街の方でリョウマと、あの天才のカンザキガワ先輩が"デート"をしていたと!」
それを公言した瞬間、周囲の空気が凍り付いた。
「あの天才が、男とデート!?」
「いや、案外何かの実験だったかもしれないぞ?」
「待て 慌てるな これは孔明の罠だ」
それを聞いたチサは、目を見開きながらリョウマに向き直る。
「えぇっ!?リョウくん、カンザキガワ先輩とデートしてたの!?」
なになに、どういうこと、とチサは慌てるがリョウマは至極冷静に応える。
「デートじゃない。カンザキガワ先輩とは行きの電車の中で偶然会って、俺の知り合いのモデラーさんと買い物とか、ガンプラバトルをしていただけだぞ」
「嘘をつくなっ、リョウマとカンザキガワ先輩が二人きりになっているのを見たって言う奴もいるぞ!」
「確かにモデラーさんとは途中で別れたが、少なくとも先輩との関係はお前が期待しているようなものじゃない」
何故どいつもこいつも自分にとって都合よく誤解したがるのか、とリョウマは胸ぐらを掴んでいるハルタの手を振り払う。
「チサちゃんやシミズさんのみならずっ、カンザキガワ先輩までもを手篭めに……憎いッ、憎しみで人が殺せたらッ!!」
今にも血涙を流さん勢いのハルタを白けた目で見ながら「もう付き合ってられん」とリョウマはその脇を通り抜けて、チサも後に続く。
クラスの教室につくなり、
「あの、オウサカくん。昨日、三年生の先輩さんとデートしてたって聞いたけど……本当なの?」
ミヤビにも同じようなことを訊かれた。
「休日に男女がいるだけでデートなら、世の中カップルだらけだな。……この意味が分からないわけじゃないよな?」
「えぇと、つまりただの噂ってこと?」
「つまりはそういうことだ」
ミヤビの聞き分けの良さに感謝しつつ、リョウマは一限目の授業の準備にとりかかる。
放課後。
今日はコノミの研修があるため、『甘水処』へ向かうリョウマ。
「おはよーございます」
「あぁ、リョウマか。今日も頼むぞ」
相変わらず塩対応なアイカを尻目にしつつ、リョウマはバックルームへ入室する。
そして入室した途端、コノミが飛んできた。
「先輩っ、あのカンザキガワ先輩とデートしてたって言うのはホントですか!?あ、おはようございます」
やはり『天才カンザキガワ・リンが男とデートしていた』疑惑は下級生らにまで行き届いていたようだ。
それでもちゃんと挨拶を欠かさないのはコノミらしいとも言えるか。
「はいおはようコノミちゃん。ちなみにそれはデートじゃないからな」
学園で散々根掘り葉掘りと聞かれたので、そろそろ受け流し方が最適化されつつある。
「ずるいです!わたしも先輩とデートしたいですぅっ!」
ぷくーっ、と可愛らしく頬を膨らませるコノミ。
「いや、デートしたいですって言われても。俺にどうしろと」
そもそもデートですらない、とリョウマは認識しているのだが、コノミにそれは聞こえていない。
「そんなの簡単です、わたしとデートすればいいんです!」
「……とりあえず勤務の時間だから、その話は後にしようか」
夏制服の上からエプロンを着けて、さっさと売り場に出ようとするリョウマに、コノミも納得いかないながらも続く。
今日の研修は、バトルシミュレーターの簡易的なシステムチェック(一応機密情報もあるため、故障の修理などは業者を介する必要はあるが)を行うため、アイカに店内にいてもらいつつ、リョウマは使われていないバトルシミュレーターの内部コンピューターとを繋ぐ基盤に鍵を差し込んで開く。
「ほぇー、シミュレーターの中身ってこんなふうになってるんですね」
多数の配線や液晶ディスプレイを、興味深そうにコノミは内部を見渡す。
「従業員がやっていいのは、システムに異常が無いかどうかを確認するのと、簡単な補整だけ。システムエラーや配線の不備などがあれば、すぐに業者に連絡しなくちゃならない」
これがその連絡先な、と基板の裏に貼られたシールに印字された電話番号を指すリョウマだが、その内心では。
「(昨日のハルタの情報が正しければ、あの乱入者はウイルスを介して不正アクセスしていると言うことだ。さらに、乱入者のガンプラに撃墜されたユーザーのガンプラは溶解温度に曝されて壊される。そして、その乱入者は俺の名前を知っている。……俺のガンプラを壊すために、手当り次第に乱入をけしかけているという事か?)」
それはあまりにも非効率的だろう、ガンプラバトルのユーザーは何千万人といるのだ。
日本国内に限れば数十万人程度だろうが、それでも何十万分の一個人を探し当てるなど、ほぼ不可能だ。
だが、リョウマは乱入被害を二度受けている。
それは、どちらもジョーヒン店内のバトルブースだった。
「(恐らく……"網"を張られているな)」
ジョーヒンがメインスポットだと思われているようだ。
そうなると迂闊にジョーヒンでガンプラバトルは出来ないな、とリョウマは気を付ける。
「で、システムチェックの補整は……」
今は勤務中だな、と意識を切り替え直して、コノミにシステムチェックについて教えていく。
19時になり、本日の研修も無事終了した後、コノミを自宅近くへ送るまでがリョウマの仕事だ。
その帰り道にて。
「そうそうそうでした。先輩、今週日曜日はわたしとデートですねっ」
「待て、いつの間に決定したんだ?」
勤務前は「デートをしましょう」だったはずだが、勤務後には「デートですね」に成り代わっている。
「あれ、もう決定事項だったんじゃないんですか?」
「間違っても決定してない。勝手に話を進めないでくれ」
何故恋人同士の関係でもないのにデートをすることになるのか。いや、リンとのデートがそもそも誤情報なのだが。
「先輩はわたしとデート、嫌ですか?」
すると、あからさまにしょんぼりした顔をするコノミ。
「……嫌ではないんだが」
「あ、もしかして日曜日にもう予定が入ってるとかですか?」
「いやそうでもないんだが……」
「じゃぁいいじゃないですかっ、わたしとデートしましょう、相談しましょう、そうしましょ、べー」
何故花いちもんめ?とツッコミたくなるリョウマだが、問い質せばちょっと面倒くさいことになるかもしれないと踏んでスルーする。
「分かった……日曜日にコノミちゃんと会う、でいいんだな」
「わーいっ、先輩大好きー!」
しょんぼりしていた顔が急転直上して笑顔になるコノミ。
色々分かりやすいなぁ、と思うリョウマだが、ともかく今週末の予定は決まった。
日曜日。
コノミとの約束は、先週にリンと赴いた場所と同じく電気街だ。
待ち合わせ場所は、駅前のパチンコスポット。
広場などの類が無いので分かりやすい場所を、とコノミが考慮したのだ。
パチンコスポット特有の騒音を背後に、リョウマはスマートフォンでホビーサイトをページを閲覧していた。
「(今年9月にHGACシェンロンガンダムが発売か。一昔前なら量販店に並ばないからまず入手不可能だったろうな……)」
正確には、量販店にも並びはするのだが、転売ヤーに奪われてなるものかと我先にモデラーが入手しようと躍起になるのだ。
転売の旨味が無くなって、少しは売場が回復しても即座にモデラーが手に取るため、結局は売れ残りのEGとSDガンダムしか残らない。
そもそもガンプラの絶対数があまりにも少なすぎたのだ。
国内にばらまくよりも海外へ向けて希少価値をつけて売る方が企業的には儲かるので、やむを得ないと言えばやむを得ないのだが、それで国内からの不満を買っては本末転倒だとは誰も気付かなかったのだろうか。
むしろ、国内の不満を煽ってガンプラから手放させ、国内販売数をさらに削り、その分を海外に向けさせられると言う企業戦略だったのかもしれない。
加えて、某国の解放とは名ばかりの侵略戦争の弊害による物価上昇と、異常な円安化によって生産数も大幅に減少、元より少ない新作や再販を巡ってモデラーや、不利益に気付かない転売ヤーの成れの果ては皆血眼になって買い集めようとしたものだ。
生まれてくるのがもう少し早けれれば、ガンプラに興味を持つことも無かっただろうな、と思っていると。
「あっ、先ぱーい!!」
駅から出てきたコノミが、ぶんぶん手を振りながら駆け寄って来た。
「ってコノミちゃん、そこまで急がなくてもい……」
いいんだぞと言いかけたところで、走ってくるコノミの進行方向に潰れた空き缶が転がっているのを見つけ――
「はふぁっ!?」
案の定、コノミはそれを踏んづけて足を滑らせたので、リョウマはパッと駆け寄って、転びそうになる彼女を抱き止めた。
「っと、大丈夫かコノミちゃん」
「は、はひっ……」
リョウマの胸の中でコノミは声を上擦らせる。
「って言うか先輩、意外と胸板広いんですね……」
抱き止められた拍子に、ペタペタとリョウマの身体に触れるコノミ。
「……あのすまんコノミちゃん。周りの視線が大変痛いんだが」
往来で抱き合っているようにも見られ、周囲の人々は奇異の目で二人を見ている。
「ほわわっ、ごめんなさい先輩っ」
リョウマが言わんとしていることを察してか、コノミは慌てて離れる。
一呼吸置いて落ち着いたところで。
「さ、さぁ先輩!張り切っていきましょうっ!」
「ん?お、おぉー」
コノミが張り切ってと言うので、応じてみせるリョウマ。
そう言ってコノミが向かう先は……
「ここです!」
『マロンブックス』と言う書店だった。
「マロンブックス?ラノベか漫画でも買うのか?」
「うーんとですね、本は本でも、そっちじゃないんですよね」
とにかく入りましょう、とコノミに先導されるリョウマは、流れるようにエスカレーターを登る。
特定の階に到着し、さてコノミは何を買うのかと思えば。
「(まさか、本は本でも同人誌とは思わなんだ……)」
予想していなかった買い物に、リョウマは声を濁らせる。
カーテンの向こう側にあるのは、有体に言えば、アニメのキャラクターがあーんな姿やこーんな姿になっている内容の、"薄い本"のことであった。
コノミが向かう先は、『機動戦士ガンダム00』の、それも『グラハム・エーカー』関連だ。
「さて……」
不意に至極真剣な顔付きになると、コノミは棚から数冊を取り出して表紙を見て、すぐに戻すと言うことを繰り返す。
それが何度か繰り返されて、その中でもコノミの手中に収まったのは。
「『Miamia』さんか……よしっ、覚えとこ」
原作キャラクターではないアロウズの女性士官と、気崩れて肌色が増したミスターブシドーが絡み合って、いかにもな雰囲気漂う表紙のソレだった。
コノミの言う「Miamiaさん」とは、どうやら作者名のようだ。
「じゃぁ先輩、これ買ってきますね」
「お、おぉぅ……」
若干引きそうになるものの、「趣味嗜好は人それぞれだ」と飲み込んで堪える。
コノミがレジでの会計を終えて嬉しそうな顔をしているのだが、なんだか複雑な気分になるリョウマであった。
マロンブックスでの買い物を終えてからは、ダム・ダムやヴォークスと言ったホビーショップでの買い物の他、コノミの目的の一つでもあるウィンドウショッピングにも付き合ってからは。
「では先輩、そろそろガンプラバトルと洒落込みましょうっ」
「……あれだけ見て回ったのに、コノミちゃんは元気だな」
「もー、先輩まだ若いんですから、そんなおじいちゃんみたいなこと言っちゃダメですよ」
「肉体的には17歳だが、精神年齢は三十路くらいいってるかもしれないな」
「三十路なんて全然若いじゃないですか。おっさん呼ばわりされるのはアラフィフに片足突っ込み始めた辺りから……」
「25歳でディアッカにおっさん呼ばわりされるムウさんとは一体」
「「おっさんじゃない!ザフトが来る!」ってたましいの場所へ、ですねぇ」
コロニーメンデルでの戦闘の際に、ラウ・ル・クルーゼを通じてザフト軍の接近を察知するムウ・ラ・フラガの真似をするコノミ。
それはともかくとして、小休止を挟んでからガンプラバトルをする運びとなった。
先週にリン、レン、レナとの四人でバトルを行った時と同じゲームセンターへ。
「良ければ先輩、2on2のオンラインマッチしませんか?」
「オンラインだな、よし分かった」
筐体の前で設定を打ち込み、リョウマとコノミが固定のタッグを組み、オンラインマッチでのバトルに臨む。
数秒のローディングの後に、対戦相手のチームが表示される。
固定ではなく、野良同士が組んだ即席チームのようだ。
ランダムステージセレクトは、『メーティス』
原典作品は『NT』の中盤戦から。
中立の都市コロニーなのだが、『不死鳥狩り』――ユニコーンガンダム3号機フェネクスを巡って、連邦軍のシェザール隊と"ネオ・ジオン(袖付き)"が遭遇、双方とも『何も見なかった』ことにしようとしたものの、ネオ・ジオン側のゾルタン・アッカネンが自ら戦端を開き、多くの民間人に被害を与えたばかりか、Ⅱネオ・ジオングで外壁を突き破ると言った凶行にすら及ぶシーンがある。
もちろんガンプラバトル上では、いくら市街地を破壊しようともペナルティの類いは存在しないので、気にせず戦うことが出来る。
カウントダウンの後に、出撃だ。
「オウサカ・リョウマ、クロスボーンガンダムX1、出撃ぞ!」
「ミノウ・コノミ、ガンダムデュナメスバスターク、行っちゃいますよー!」
シェザール隊がコロニー内に進入した際の経路を再現するように、クロスボーンガンダムX1とガンダムデュナメスバスタークは市街地に到達する。
「コノミちゃん、ここから敵は捕捉出来るか?」
「任せてくださいっ」
早速コノミは操縦桿を捻って、ガンダムデュナメスバスタークの額のガンカメラを開き、センサー範囲を広げる。
「よー………………し、見えましたっ。えーっと、『ガンダムアシュタロン』と『百錬』ですね。百錬の方は、多分日本刀しか持ってないみたいですけど。アシュタロンの上に百錬が乗ってます」
「アシュタロンと百錬か。分かった、ありがとう」
間もなく接敵するだろう頃合いを見計らい、リョウマはコノミに指示を出す。
「俺が前に出て撹乱するから、コノミちゃんは狙撃を頼む。百錬はナノラミネートアーマーで仕留めにくいだろうし、アシュタロンを狙ってくれ」
「了解ですっ」
ビシッ、とガンダムデュナメスバスタークを敬礼させると、コノミはその場から移動していく。市街地に紛れながら狙撃を行うのだ。
「さて、囮になるとしますか」
操縦桿を押し込み、真っ直ぐに接敵する。
ガンダムアシュタロンは無改造のようだが、百錬の方は白と黒のツートンカラーで塗装されている。
双方が双方を捉えると、百錬はガンダムアシュタロンから飛び降りて、サムライブレードを腰溜めにした半身の構えを取りながらクロスボーンガンダムX1へ迫りくる。
「(居合斬りをするつもりか?)」
刀一振りだけでガンプラバトルに挑むような相手だ、恐らくまともに斬り合っても勝てる相手ではあるまい。
そう読み取っていると、ガンダムアシュタロンはMA形態のまま、巨大なハサミであるアトミックシザースを開き、ビーム砲を発射してくる。
襲い来るビームを回避しつつ、ザンバスターを撃ち返して牽制。
「(アシュタロンはコノミちゃんに期待するとして、問題はこっちの百錬か)」
ガンダムグレモリーとの戦いと同じく、ビーム兵器主体のクロスボーンガンダムX1では、少々ダメージを与えにくい。
だが、コノミと連携すれば倒せない相手ではないはずだ。
『初めましてだな、ガンダム!!』
するといきなり、百錬からの広域通信越しに女性の声が届く。
「!?」
突然のグラハム・エーカーのセリフに、リョウマは一瞬挙動を乱し、その僅かな隙を突くかのように百錬は瞬時に踏み込んで来ては、居合い斬りのごとくサムライブレードを振るい放った。
操縦桿を引き下げて間合いから飛び退くクロスボーンガンダムX1だが、A.B.Cマントの一部が斬り裂かれてしまった。
一撃を与えて、百錬はすぐに納刀して構えを取り直す。
『『イツヅキ・ミア』……君のガンプラに心奪われた乙女だ!!』
「……オウサカ・リョウマだ。お褒めいただき感謝する……」
相手がいきなり名乗ってきたので、戸惑いながらも一応名乗り返すリョウマ。
『よそ見してんじゃねぇよ!』
ガンダムアシュタロンはビーム砲を撃ちながらも、アトミックシザースでクロスボーンガンダムX1を捕らえようと迫りくる。
「おっと、茶番してる場合じゃなかった」
『とんだ茶番だ!!』
リョウマの呟きすら拾って反応してみせる、ミアと言うらしい百錬のファイター。
そうこうしている内にもガンダムアシュタロンはアトミックシザースを伸ばしてくるが、リョウマは巧妙に操縦桿を捻り、挟み込もうとするシザースの隙間をするりと潜り抜け、ガンダムアシュタロンの懐に潜り込もうとするが、即座にガンダムアシュタロンは機首のノーズビーム砲を連射して追い払おうとする。
リョウマ咄嗟にクロスボーンガンダムX1のビームシールドを展開してノーズビーム砲を弾き返す。
反撃に逆のアトミックシザースを振るうガンダムアシュタロンだが、クロスボーンガンダムX1はその場で跳躍するように急上昇する。
それに追い縋ろうとするガンダムアシュタロンだが、
「さすが先輩っ、わたしのやることをよく理解してます!」
その直後、先程からガンダムアシュタロンを照準の中に合わせ続けていたコノミは、操縦桿のトリガーボタンを押し込む。
同時に、ガンダムデュナメスバスタークのロングGNランチャーから高濃度の粒子ビームが放たれ、ガンダムアシュタロンの外殻装甲へ突き破ろうと照射される。
しかしさすがの重装甲だけあって、ガンダムアシュタロン本体の撃破には至らなかったが、MA形態時の要となる外殻装甲を大破させる。
『クソっ、やりやがったな!』
止む無くMS形態へ変形しようとするガンダムアシュタロンだが、上方からビームザンバーを振り下ろそうとするクロスボーンガンダムX1を捉えてしまった。
悪あがきにビームサーベルを抜き放とうとするが既に遅く、ビームザンバーがガンダムアシュタロンを真っ二つに斬り裂いた。
ガンダムアシュタロン、撃墜。
「ナイス狙撃だ、コノミちゃん」
「ふふんっ、わたしにかかればこのくらい、朝寝坊して慌てて食べる朝食くらいは簡単ですよ!」
朝飯前、とまではいかないのだろうが、それにしては例えが具体的なようで微妙に分からない。
さて残るは百錬のみで、早くも2対1と言う構図に持ち込むことが出来た。
『陽動と狙撃、確かに道理のある戦術だが……そんな道理、ワタシの無理でこじ開ける!!』
すると、百錬は狙撃が行われた方向から即座にコノミの現在地を割り出したのか、そこへ向かって機体を加速させた。
「まずいっ、離れろコノミちゃん!狙われているぞ!」
「りょっ、了解!」
コノミの方も百錬が急速に近付くのを感知して、その場からガンダムデュナメスバスタークを離脱させようとするが、
『二度目ましてだな、ガンダム!!』
いつの間にか、コノミが離脱しようとしていた方向から百錬が回り込んで来ていた。
「はっ、速ぁ!?」
『抜刀ッ!!』
瞬間、居合斬りを仕掛ける百錬。
ガンダムデュナメスバスタークは咄嗟に左肩のGNシールドで機体を守るが、水を吸った紙のごとく破られてしまい、シールド内部のGNミサイルランチャーごと破壊される。
「ちょっやばっ!?先輩助けてくださーいっ!」
『抱き締めたいなガンダム!!まさに眠り姫のようだ……!』
なおもコノミへ追撃を加えるべく踏み込もうとする百錬だが、
「させるかッ!」
その側面から横槍を入れるようにクロスボーンガンダムX1が飛び掛かる。
フット裏からヒートダガーの切っ先を覗かせ、蹴り飛ばすついでに叩き込もうとするが、百錬はその場から飛び退いて蹴りを躱す。
『何と言う僥倖……生き恥を晒した甲斐が、あったと言うもの!!』
「あんたの生き恥なんざ知ったことじゃないが……勝負なら受けて立つぞ」
『ならばっ、君の視線を釘付けにす……』
そう言いかけたところで突然、クロスボーンガンダムX1と百錬の周囲に多方向からアラートが鳴り響く。
「んっ!?」
『なんとっ!?』
示し合わせたかのように、両者はその場から飛び退いた。
瞬間、その多方向から高出力のビームが放たれ、二機がいた地点を焼き払った。
「えっ、何っ、何がっ!?」
コノミは慌てて周囲を見渡す。
二人を取り囲んでいたのは、赤いファンネルの群れ。
「ファンネルだと?」
『ファンネルだとは……聞いていないぞガンダム!!』
「すまない、俺にも分からん」
だが思い当たる節があるとすれば、とリョウマは周囲を警戒して、
――ちょうど、Ⅱネオ・ジオングのハルユニットが外壁を突き破ってきたのと同じ位置に、そのファンネルの持主が現れた。
真紅の装甲に、人型としての形のない、各部にシーリングが施された大型の体躯。
肩から広がる巨大なバインダーに、『C.A.』を捩ったマーキング。
「……バウンド・ドック、ガンダムグレモリーに引き続き、今度は『ナイチンゲール』か」
リョウマはその巨駆の名を言い当てる。
原典は小説版『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』もしくは『CCA-MSV』に登場する、シャア・アズナブルの専用機。
長らく立体化が望まれて、昨今についにHGUC化を果たしたものの、あまりの人気であるが故に転売ヤーに目を付けられたのが、暗黒期の始まりであった。
その悪影響により、ナイチンゲールのガンプラは全国の量販店やホビーショップから消滅し、フリマサイトで法外な価格と共に転売されているところしか見られなくなってしまい、全国のガンプラモデラー達は泣く泣く大金を転売ヤーに貢がざるを得なかった。
これを機に、『転売ヤー絶許慈悲無』『転売ヤーに反省を促すダンス』『転売ヤー=死の商人』と言ったワードがSNS上では爆上し、各地の問屋に抵抗運動やカミソリ入りダイレクトメールなどが乱立、暴動にすら至った。
挙句の果てには、ガンプラを買い占める転売ヤーが悪いのではなく、『たかが転売ヤーと言う煮ても焼いてもただの囮にすらなれないゴミクズ以下に買い占められたぐらいで品薄状態になるような生産ラインが悪い』と言う声さえ上がるようになった。
少なくとも、EGやSDガンダムのガンプラがいつまでも売れ残る程度の余裕はあるし、一年も経てば生産数に対してどれほど売れたのかのデータは十分にあるはずなのだ。
にも関わらず国内市場に動きらしい動きが無いと言うのは、やはりフリマサイトとの癒着と、海外輸出のことしか念頭に置かれていないのが透けて見えると言えよう。
ナイチンゲールはファンネルを肩部バインダーのコンテナに呼び戻すと、やはりリョウマのクロスボーンガンダムX1へメガビームライフルを連射してくる。
「バトル中に乱入して俺を狙う……いい加減ワンパターンなんだよ」
ライフルのサイズに見合った高出力のビームだが、リョウマはむしろ呆れるように躱してみせる。
『ワタシの顔に泥を塗るか!!』
せっかくのバトルを邪魔されてか、百錬はターゲットロックをナイチンゲールへと変更する。
「先輩先輩っ、なんですかあのチンゲは!?」
再び遮蔽部に隠れ直したコノミからの通信。
「私の機体をチンゲと呼ぶのはやめてもらいたい。……じゃなくて、例によって例のごとくの乱入だよ。コノミちゃん、百錬よりもナイチンゲールを先にやるぞ」
「了解ですっ」
そう返して狙撃の体勢にかかるガンダムデュナメスバスタークだが。
ナイチンゲールは不意にメガビームライフルによる射撃を止めると、ガンダムデュナメスバスタークが隠れている方向へ向けて、胴体部のメガ粒子砲を照射した。
「うわわっ、なんでこっちに……!?」
ビルを容易く貫通して見せる出力のメガ粒子砲に、コノミは慌てて飛び退き、その0.5秒後にガンダムデュナメスバスタークがいた地点を薙ぎ払った。
「無理せずに立ち回れコノミちゃん!」
リョウマはウェポンセレクターからザンバスターを選択すると同時に連射、ナイチンゲールに接近を試みるが、ナイチンゲールはシールドでビームを防ぎつつも、再度ファンネルを展開、十基のファンネルが一斉にビームを放って接近を阻む。
「クッ……さすがに近付けないか」
回避とビームシールドを駆使して直撃を防いでいくクロスボーンガンダムX1。
ミアの百錬もまた、居合斬りの半身でナイチンゲールへの接近を試みる。
ナイチンゲールはファンネルの一部を百錬に向けてビームを放つが、
『ワタシを斬り裂き、その手に勝利を掴んでみせろ!!』
連射されるビームを前に、百錬はサムライブレードで斬り弾きながらも接近の足を止めない。
接近を嫌ってか、ナイチンゲールはファンネルとメガビームライフルを撃ちながらも飛び下がるが、そこへリョウマのクロスボーンガンダムX1が回り込んで来る。
「お前には聞きたいことがある……撃墜しない程度に痛め付けてやるから、覚悟するんだな」
ザンバスターとバルカン砲を連射しつつも、しかしナイチンゲールに接近戦は仕掛けない。
あくまでも、ナイチンゲールをこの場に釘付けるのがリョウマの目的。
ここでコロニーの外壁を突き破って宇宙へ出てしまったらナイチンゲールが有利になるからだ。
故に、逃さない。
ナイチンゲールはファンネルを二等分に割り当て、クロスボーンガンダムX1と百錬に五基ずつ差し向ける。
十基のファンネルを緻密に制御しながらも百錬を近付けさせないように、なおかつクロスボーンガンダムX1を攻撃する。
前後から挟まれた状態でここまで戦えるのだ、相当な実力者であることに疑いようはない。
「(強い……だが、だとしたら何故乱入行為などをする?)」
こんな回りくどい真似などせず堂々とオンラインで入ってくればいいものを、とリョウマは呟くが、知ったことかと言わんばかりにナイチンゲールはさらに苛烈に攻撃を重ねてくる。
――そのファンネルの動きにどこか既視感を覚えるのは気のせいか――
だが、不意に彼方から照射されたビームがファンネルのひとつを焼き払った。
狙い撃つと言うよりは、ギロチンバーストのように一定方向にビームを照射しながら引っ掛けた、と言う方が正しい当て方だが。
「さすがにこれだけ遠くからなら、こっちまでは狙えませんしねっ」
それは、コノミのガンダムデュナメスバスタークによる、長距離砲撃。
ナイチンゲールに当てるよりも、ファンネルの数を減らすことを念頭に置いた狙撃だ。
不意にファンネルを破壊されたことで、残り九基のファンネルが、ファイターの動揺によって動きが鈍る。
『隙ありィッ!!』
瞬間、ミアの百錬はサムライブレードを一閃、動きの鈍ったファンネルのひとつを真っ二つに斬り捨てる。
「捉えた!」
リョウマのクロスボーンガンダムX1も、瞬時にザンバスターを発射、ファンネルを撃ち抜く。
この間、わずか七秒でファンネルを三基も失ったナイチンゲールは、メガ粒子砲を明後日の方向に照射、さらにメガビームライフルとファンネルの射撃も合わせて、内側からメーティスの外壁まで貫通させた。
コロニーに穴が空いたことで漏れ出るエアーと共に宇宙空間へ移動するつもりらしい。
「はいその瞬間待ってましたーっ!」
コノミはすかさずターゲットロックを合わせ直し、ナイチンゲールの背後へ合わせて、ロングGNランチャーを放った。
迫る粒子ビームに、ナイチンゲールは機体を翻して躱そうとするものの、大気の流れによって挙動が鈍り、さらに元々の巨体が災いして、直撃こそ避けられたものの、右のバインダーを撃ち抜かれてバランスを崩す。
「逃がすか!」
追撃にかかったリョウマは、クロスボーンガンダムX1のフロントスカートからシザーアンカーを二基とも射出、ナイチンゲールのリアスカートと左肩に咬み付いた。
「その上から……こうだ!」
放たれた二本のワイヤーをマニピュレーターで掴んで引っ張り上げ、ナイチンゲールを拘束させつつザンバスターを連射、次々にナイチンゲールの装甲を撃ち抜いていく。
コクピットへの直撃を避けるのは、戦闘力を奪い、相手ファイターにこれまでの乱入について問い質すため。
――だがリョウマのその個人的な事情を、ミアまでもが汲み取ってくれるわけではなかった――
『何をしている少年!!勝負なら受けて立つと言ったのは、君のはずだ!!』
拘束と被弾によって弱っていくナイチンゲールに、百錬はやはり半身の姿勢のまま急速接近。
「あっ、ちょっと待ってくれ!そいつは……」
隠し腕とビームサーベルを展開して迎え撃とうとするナイチンゲールだが、百錬は(リョウマの制止の声を聞きもせずに)一瞬でその懐へと飛び込み、
『人呼んで……ミアミア・スペシャル!!』
目にも留まらぬ連撃が、ナイチンゲールの装甲を膾斬りにしていく。
斬り終えた百錬はナイチンゲールの背後に降り立ち――キンッとサムライブレードを鞘へ納めると。
ズルズルズルズルッ、とナイチンゲールは細切れにされて――派手に爆ぜ散った。
『つまらぬモノを斬ってしまった』
ナイチンゲール、撃墜。
バトルが終了したことでリザルト画面が流れ、ミアとの通信回線が切られる。
「あー、せっかく聞き出せると思ったのに……」
ちゃんと事情を説明すれば良かった、とリョウマはガックリと肩を落とす。
とは言え、あんな切った張ったの最中に「俺はあのナイチンゲールに聞きたいことがあるから、撃墜しないでくれ」と伝える余裕など無かったのだが。
「お疲れ様です先輩。って言っても、なんか変なことになっちゃいましたけど」
隣の筐体から、コノミが顔を覗かせる。
本来なら、百錬とその僚機のガンダムアシュタロンと戦うだけのバトルであったが、そこへあのナイチンゲールが乱入してきたことで、勝敗そのものは有耶無耶になってしまった。
「……まぁ、いいか。じゃ、気を取り直してもう一度やるか」
「はーいっ」
再びガンプラを読み込ませて、オンラインマッチングへ。
それからもう二回ほどバトルを行ったものの、ナイチンゲールによる乱入は来ず、普通に戦って勝っただけだった。
さすがにコノミも疲れてきたのを見計らって、今日のところはお開きだ。
ゲームセンターを出れば、辺りは茜色に染められた夕暮れになっていた。
「もう夕方なんですねぇ……時間経つの早過ぎです」
「なんだかんだ言って色々見て回ったからな」
そろそろ帰るか、とリョウマが言えば、少々不満そうながらもコノミも頷いてくれた。
駅に着くまでの帰り道、コノミの方から話しかけてきた。
「結局、あの乱入は何だったんでしょう?」
「さぁな……だが分かることがあるとすれば、乱入なんて真似をする必要がないくらい、奴は十分以上に強いことは確かだ」
バウンド・ドックもガンダムグレモリーも、そして今回のナイチンゲールも、完成度は非常に高いものであったし、扱いの難しい機体を自在に振り回せるほどの操縦技術もある。
「うーん……敢えて乱入することで、自力で俺TUEEEEEをやりたいとかでしょうか?」
「チートに頼るとかならまだしも、純粋な実力でそれをやろうとしてるなら、茨の道だな……」
そうは言うリョウマだが。
「(正面から堂々と、じゃなくて乱入をしてくる……それも、俺が消耗するのを見計らったようなタイミングばかりだ。だとしたら奴の狙いはやはり俺で、ガンプラを次々に変えるのも俺に対策を取られないようにするためで……どこまで俺に執着するつもりだ?)」
これ以上の被害が出るようなら、一度シミュレーターのメーカーや警察に相談するべきだな、と結論づける。
「そう言えば、あのミアって人、完全にグラハム・エーカーになりきってたな」
話題を逸らそうと、リョウマは今日の一際強いインパクトのあった相手――イツヅキ・ミアの百錬を思い出す。
「そうそう。一期のハム先生だったり、ミスターブシドーだったり、劇場版だったり、忙しい人でしたねぇ」
よっぽどグラハム・エーカーが好きなんですね、とコノミは笑っているが、
「(あれ?イツヅキ・ミア……ミアミア・スペシャル……ミスターブシドーの同人誌……Miamia……)」
思い返してみれば、コノミが購入した同人誌の内容とその作者名と、イツヅキ・ミアと言う名前に、グラハム・エーカーのモノマネの数々……
「(いや、まさかな)」
そもそも使用していたガンプラが百錬だったではないか。
至りかけたその答えは出さないことにして、駅が見えてきたので切符を買うために財布を鞄から手繰り寄せる。
自宅の最寄り駅が同じなので、リョウマとコノミは降りた駅前で別れることになった。
「それじゃぁ先輩、今日はありがとうございましたっ!」
「俺も楽しかったよ、ありがとうコノミちゃん」
「ではでは、また学園か、『甘水処』で!」
さようならですー、とぶんぶんと手を振ってくるコノミを見て小さく笑いながら、リョウマは自宅への帰路を辿った。
やはり案の定と言うべきか、翌日の学園の玄関口付近で。
「リョォマァ!君と言う奴はァ!!」
ハルタに胸ぐらを掴み上げられた。
どうやら今度は、『昨日はリョウマとコノミがデートしていた』疑惑が出回ったようだ。
【次回予告】
ハルタ「チサちゃんにシミズさんにカンザキガワ先輩にコノミちゃん……このリアルリア充!自爆スイッチを押せ!!」
リョウマ「リアルリア充ってなんだよ。意味が重複してるぞ」
ハルタ「何故学園が誇る美少女達はイケメンで成績が良くて、そして変態である俺様よりも!リョウマを選ぼうとするんだッ!?」
リョウマ「変態なのが一番ダメな理由じゃないのか……?」
ハルタ「次回、ガンダムブレイカー・シンフォニー
『汚いカミーユ、もしくは若かりし頃のウルベ』
クッハハハハハ!こいつは傑作だ!有り得ん……有り得んなァ!!」
リョウマ「ダメだこいつ早くなんとかしないと」