「妾の完敗ね」
あっさりと自らの敗北を認めた機械種セイオウボ。
「本当にビックリ。坊やの身体は一体どうなっているのかしら?」
敗北を認めた途端、俺の見ている前で、半人半獣の機体がシュルシュルと収束。
ほんの数秒のうちに、全高15mの巨大ロボから、元の艶やかな美女へと早変わり。
そして、機嫌良さそうなニコニコ笑顔で、
呆気に取られ、呆然とする俺に近づき、
腕や胸、腹の筋肉を指でツンツン。
「変ねえ。全然鍛えているように見えないのに……」
「ちょっ、ちょっと、止めてください! くすぐったいです!」
「男の子でしょ、我慢しなさい」
なぜかセクハラ紛いな仕打ちを受けている。
果たしてこれは勝利したご褒美なのか?
それとも、また、揶揄われているだけか……
機械種セイオウボは、身を捩って嫌がる俺を無視。
ペタペタと触りながら、独り言をブツブツと呟く。
「どう見ても生身よね? 変な薬を使っているわけでもなく、機械が入っているわけでもない。感応士でも無さそうだし、無効化系の『恩寵』や『呪痕』を授かった様子も無い。じゃあ、どうやって耐えたというの? それに妾の手を砕き、投げ飛ばしたパワー。どう考えても、人間の力でできることではないわよねえ……」
「あ、そう言えば、セイオウボさん。お体の方は大丈夫ですか?」
戦闘時は気を配る余裕も無かったが、
半人半獣の巨人と化した彼女の5本の手を破壊。
さらに思い切り投げ飛ばしたことを思い出す。
見た感じ、傷ついた様子は見られない。
両手も健在だし、纏う衣装も解れ一つ無い。
だが、あれだけの攻撃を受けて、全くの無傷とは思えない。
すると彼女は一瞬驚いたように目をパチクリ、
その後、マジマジと俺を見つめてきて、
「坊やは本当に強いのね。さっきまで戦っていた相手を気にする余裕があるなんて………」
薄く微笑みながら、呆れたような口調で語り、
「あの獣神は外装だから、気にすることはないわ」
「外装?」
「そうよ。妾の亜空間倉庫に収納してある外装の一つ。『魔王型』が持つ『強化外装』のように爆発的に強くなるわけじゃないけど、状況に応じて姿形を変えられるのよ。獣神に変化した時は、その外装をこの機体と置き換えていくの。だから、外装が壊れてもこっちには影響無し。もちろん、壊れた所はきちんと直さないと当分使えないけどね」
「置き換え? でも、機体そのものが変化したように見えましたが?」
「そう見えるように置き換えているの。その方が驚くでしょう?」
「………確かに驚きましたけど」
あの半人半獣の姿が外装ということは、
やはり西王母の本体は美女であるらしい。
どこかホッと胸を撫でおろす自分がいる。
勝手な話だが、あの獣面の巨人が本体とは思いたくない。
だって、この絶世の美女は俺のモノになるのだ。
実は中身はあの恐ろしい巨人の姿なのです……
とか言われたら、流石に萎えてしまう……
ナニが萎えるのかはさておき……
う~ん……
しかし、未だに、この美女が俺のモノになったという実感は薄い。
彼女は本当の本当に、俺に従うつもりはあるのだろうか?
今までと態度は変わらないし、
特に俺を敬う様子も見えない。
未だ俺を『坊や』呼ばわりだし……
少しその辺を確認してみようか……
「えっと、セイオウボさん。貴方は俺に負けを認めたんですよね?」
「ん? そう言わなかったかしら?」
「でも、何と言いますか、その……」
『俺をご主人様と呼べ』とはまでは言わない。
でも、もう少し俺のモノになった感を出してほしいと言うか……
俺の様子から何となく言いたいことが分かったのだろう。
機械種セイオウボは、こちらへと一歩足を踏み出し、
ソッと手を翳し、俺の頬へと手で触れながら、
「大丈夫よ。妾は貴方を認めた。その証拠に………、ホラ、出てきたわよ」
「え? 何が……、あれ?」
頬に感じる手の冷たさに戸惑いながら、
彼女が指し示す方向へと視線を向けると、
そこには、宙に浮きあがる小さな小箱が一つ。
「なんです、コレ?」
「フフフ、コレが、妾が貴方に屈服した証拠……『贈り物』よ。『祝福』とも言うわね」
「贈り物? 祝福? 誰からのですか?」
「この世界で最も偉大な方々よ」
「……………」
もう少し深く突っ込んで聞いてみたかったが、
彼女の表情と空気を読んで口を紡ぐ。
代わりに問うのはその小箱について。
「この箱が何か?」
「開けてごらんなさい」
「………………」
直接的に答えてくれず。
ただ、この小箱を開けるよう促される。
しかし、小箱の中身も分からないのに、
いきなり開けろと言われても困る。
突然現れ、宙に浮いたままの小箱。
怪しいにも程がある。
実は罠が仕掛けられている、という可能性もあるのだから、
安易に手を出すのは危険としか言いようが無い。
けれども、ここで開けないと彼女の好感度がダウンすることは避けられない。
でも、危ないことはしたくない。
さあ、どうしよう………
と、悩んでいると、
こんな時、何とかしてくれるのが俺の頼もしい相棒。
フルフル
『マスター、開けても大丈夫だよ』
「ん、そうか……」
いつの間にか俺の足元で耳をフルフル。
どのような手段かは分からないが小箱の安全を確認してくれた模様。
白兎の危険を見抜く能力はこれまでに何度も助けられた。
白兎の言葉なら無条件に信じることができる。
「よし、開けるぞ」
宙に浮いたままの小箱を手に取り、蓋を開ける。
すると、中には10cm程の透き通った青い宝石が一つ………
「見たことあるな、コレ…………、あ! 白兎を白に戻した時の……」
レッドオーダーを浄化してブルーオーダーにするアイテム。
確か名前は『蒼石』。
前に見たモノよりも少しだけ大きい感じ。
「もしかして、これでセイオウボさんを浄化するってこと?」
「もしかしなくても、そうね。赤爵が真に従うこと決めた時、『世界の紡ぎ手』である陛下が適正級の蒼石を与えて下さるの。そして、その蒼石を以って妾をブルーオーダーしてくれたら、このダンジョンから出ることができる……」
なるほど。
今はダンジョンマスターの役についているから、ここから出られない。
でも、蒼石でそういった縛りを解除すれば、出られるようになると。
しかし、その蒼石というモノはかなり貴重であったはず。
そんなモノをポンとくれるなんて、一体『世界の紡ぎ手』『陛下』と呼ばれる者は何なのか?
この世界で最も偉大な方々と言われるだけあって、随分と大層な称号だが……
この世界がゲームだとしたら、ラスボスのことなのだろうか?
それともこの世界を管理するシステム管理者みたいな者であろうか?
どうやって、ダンジョン最下層まで小箱を送り届けてきたのかは気になるけど……
「では、これでセイオウボさんは名実共に俺のモノになると?」
「そういうことになるわね。じゃあ、早速……」
パタパタ!
『ちょっと待って! このままセイオウボさんをブルーオーダーしちゃったら、このダンジョンがクリアされたことになっちゃうよ!』
機械種セイオウボが俺にブルーオーダーをせがもうとした時、
白兎が突然、耳をパタパタ、待ったをかけてきた。
ピコピコ
『このダンジョンはスラムの貴重な収入源なの。ここが失われたら、スラムに住む人達の稼ぎが激減しちゃう』
「え? で、でも、ブルーオーダーしないと俺のモノにならないじゃないか? それにスラムの人間も、ダンジョンだけが収入源ってわけじゃないんだろう?」
スラムの経済状況は詳しくないが、『青銅の盾』を見る限り、そこまで逼迫しているようには思えない。
聞いた話では、荒野にもレッドオーダーがいるようだから、そっちに行けば済むことでは?
白兎の訴えに疑問を提示する俺。
しかし、白兎は引かずに事情を説明。
フリフリ
『ダンジョンが一番効率良いの! 荒野でレッドオーダーを探し回るのは大変だし、奇襲を受けるかもしれないから危ないんだ。その点、ダンジョンの低階層は出る機種は決まっているから比較的安全に稼げるんだよ』
「でもさあ、ここでセイオウボさんを浄化しないと………」
スラムが大変なのはわかったが、
俺としては、セイオウボさんの方が大切。
こんなダンジョンの奥底に置いていくなんてできないぞ。
俺が不満そうな顔をすると、
白兎は耳をフルフル、一挙両全な案を提示。
フルフル
『それは大丈夫。セイオウボさんに新しい色付きを生み出してもらって、ダンジョンマスターを受け継がせれば良いだけだから………そうでしょ?』
「…………なぜ、白兎ちゃんがソレを知っているのか、気になるけれど……、そうね。そういう方法も可能ね」
白兎の案を機械種セイオウボが肯定。
そして、クルリと俺の方を向いて、
「でも、良いの? 折角このダンジョンをクリアできるというのに? 言っておくけど、新しい赤爵を生み出し、ダンジョンマスターの役を引き継いだら、貴方が下りてきた縦穴がどうなるか分からないわよ。最悪、直通路が無くなって、次はそう簡単に最下層まで来られないかもしれないからね」
「ダンジョンのクリアか~」
そう言われると、少し考えてしまう。
ダンジョンクリアと言えば、何かしらの特典があるものだが……
パタパタ
『マスター、ダンジョンがクリアされるって、大変なことだからね! 長い歴史の中で未だ公式にダンジョンがクリアされたことは無いんだよ。もし、このダンジョンがクリアされたと分かったら世界中が大騒ぎ。一体誰がクリアしたんだって、探し回られるからね!』
「う………、それは嫌だな。まだ馴染んでもいない世界で、目立つなんてことはしたくない。ダンジョンクリアは諦めるか………」
白兎からの説明を受け、
ダンジョンクリアを素直に諦める。
あれも欲しい、これも欲しいと欲張り続けるのは危険。
今はセイオウボさんが手に入ったことだけで喜ぶとしよう。
その後、機械種セイオウボは一時席を外し、
新しい色付きの生産準備に取り掛かる。
そして、30分少々の時間が経った頃、
「百年以上もエネルギーが溜まっていたから、思いの外、早く終わったわね~………、これで妾はダンジョンマスターから解放……、う~ん、肩の荷が下りたみたいでスッキリね」」
戻ってきたと思えば、背伸びして解放感を表す機械種セイオウボ。
神秘的で超然とした美貌、格調高く煌びやかな衣装には不似合いな動作。
けれども、そんな気負わない寛いだ姿も魅力的。
美しく気高い『妃』でありながら、
親しみやすい柔和な言動が彼女の魅力。
これからその全てが俺のモノになるのだと思うと、
鼓動が激しくなり、頭が逆上せたように熱くなってくる。
ああ……、
こんな美女が俺のモノになるなんて……
やはり異世界に来て良かった………
しみじみとこれからの幸せの予感を噛み締める。
これから夢にまで見た異世界モテモテ生活が始まるのだ、と思いを馳せる。
「坊や、何をボウッとしているの? 今度こそ、蒼石でブルーオーダーしてもらうわよ。早く準備しなさい」
妄想で呆ける俺へとブルーオーダーを促す彼女。
その美しい顔には、待ちきれない様子がありありと浮かんでいる。
「あ………、はい!」
慌ててポケットに仕舞っていた蒼石を取り出し、右手に持つ。
「えっと……、この石を額にぶつけるんでしたよね?」
機械種セイオウボと向き合っての最終確認。
こんな所でミスするなんて笑えない。
万全の体勢にて、万が一の失敗を排除。
俺自身、蒼石によるブルーオーダーの経験は、白兎に行った1回のみ。
その時の場面を思い出しながら問いかける。
「そうよ。力が弱いと蒼石が砕けないから、勢いをつけてぶつけてきてね」
「それって痛くないですか?」
「んん? 痛いも何も………、適正級の蒼石をぶつけられたら、記憶が初期化されるのだから、気にしなくて良いわ」
「え?」
彼女の言葉を聞いた瞬間、
俺の心臓の鼓動が大きく跳ねた。
一瞬、思考がストップしてしまうほどの衝撃。
息をするのを忘れてしまうほどの驚愕。
記憶が初期化?
それって…………
思わず目を大きく見開いて、彼女を見る。
だが、いつものように彼女は薄く微笑むだけで、
特に何も気にしていない様子で俺を見つめ返してきた。