何時ものなろう乙女ゲーの良くある悪役令嬢に転生してしまった少女。でも、婚約破棄してくる筈の王子は何か可笑しくて……?

一発ネタです。主人公は活躍しません。

小説家になろうとのマルチ投稿です。

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悪役令嬢大喜利~寺生まれの婚約破棄王子~

「ミライン・マリオーネ侯爵令嬢。貴女との婚約を破棄させて貰う」

 銀髪隻眼の王子様は静かにそう告げました。

 

 普通なら仰天した事でしょう。ですが、わたくしが思ったのは『ああ、努力しても結局そうなってしまうのですわね……』という悲しみだけでしたわ。

 

 わたくし、ミライン・マリオーネは此処ブッディッシュ王国と隣接する小国の侯爵家に産まれました。そうして、友好条約の証として眼前の隻眼王子、ティード様の婚約者にされたのですわ。

 そしてそれは、婚約者としてこの国に来たわたくしが不意に思い出した前世の記憶にある、とある乙女ゲーム?なる物語の設定そのものでしたの。

 

 そのゲーム、『スマホde恋愛 遥か高き光へ~ティード編~』は確か低価格のアプリゲーム。プレイヤーは何時ものありがちな中世風の魔法学園に通うことになった庶民産まれながら突出した力を持つ少女になって、様々な男性と恋をする、まあ一般的な乙女ゲームでした。

 ですが、無料でプレイできるのは途中までとハイライトの一部シーンのチラ見せだけ。しっかりキャラと恋愛を楽しみたいなら数百円の課金でルートをアンロックしないといけない仕様でしたの。共通ルートで気に入ったキャラのルートを課金して読んでねという奴ですわね。

 確か前世のわたくしは影のあるイケメンが好きだからとプレイ前に隻眼に惹かれてティード様ルートを買ってから遊び、それで満足してそのまま他ルートはやりませんでしたわ。

 

 そして、今のわたくし……ミライン・マリオーネはその世界では、特待生だからと王子であるティード様がヒロインに構うのに嫉妬して色々とやらかし、最終的にはそのせいでこんなのを送ってくるとは友好を結ぶ気あるのかと婚約破棄の上故国ごと滅ぼされる、所謂悪役令嬢という立場でした。

 まあ、婚約者居る男性と恋愛、しかも略奪愛だなんて好きな人は好きとは思うのですが結構ニッチな話ですし、せめての罪悪感減らしとして婚約者がどうしようもない悪になるのは分かるのですが……

 それが現実になられたらたまったものではありませんわ。ですので、婚約者としてティード様のところに送られて以降、わたくしは必死にゲームシナリオ通りにならないように努力してきましたの。

 

 わたくしが転生前に買ったのがティード様ルートだけだったせいでしょうか、他の攻略対象達は学園には一切影も形も無く、ヒロインは結果としてティード様にべったり。

 ゲームでも彼のルートはやったし今は婚約者なわたくしとしては色々と言いたくはありましたが、そこはぐっ、と堪えましたの。破滅したく無いですもの。

 

 そうしてゲームの話を避けてきて、必死に断罪されないようにしてきた3年を終えるその時、先の言葉をかけられてしまいました。結局婚約破棄されるというなら、わたくしの3年は何だったのでしょう?

 

 「ティード様、一体全体何故なのでしょう?」

 此処は卒業式のその場……ではなく、それを終えた後の片付け。王子として責任持って片付けさせると残ったティード様、腰巾着のように付いてきているヒロイン(銀髪で小動物を思わせる保護欲を掻き立てる造形で流石はヒロインといった顔立ちですわね)、そして一応婚約者だからと残されたわたくし以外は下働きしかおりません。

 ゲームでは卒業式のその場で断罪されるので、乗り越えたと思ったのですが……

 

 「いえ、もう貴女を野放しにしておくわけにはいかないから、ですよマリオーネ」

 姓の呼び捨て。ゲームでも数回見た怒りを湛えた平坦な声で、彼はわたくしを静かに睨み付けます。

 「そんな!わたくしが何をしたというんですの!?」

 「分かりませんか、それともとぼけているのですか?」

 「分かるわけありませんわ!わたくしはそこの女性に何もしておりません!」

 

 すっと王子の隻眼が細まります。

 あ、と思った時には遅かったのですわ。何が原因か語られていないのに、ゲーム知識でうっかりヒロインを虐めていた事が原因にされるだろうと要らない否定をしてしまいました。

 「……語るに落ちましたね、マリオーネ。

 私はまだ、私の横のルナに関係した話とすら言っていない。そこでその発言は、心当たりがあるようですね」

 違いますわ!と言いたいのですが、ゲームの世界に転生も、悪役令嬢も言ったところで信じて貰えるはずもありません。

 

 「ですが、わたくしは何もしていませんわ。一体どういった事がわたくしのせいであると言うのですか?」

 ですが、わたくし立ち直りました。だって無実ですもの。分かってくれる筈ですわ。

 

 「まず第一に、貴方はルナを階段から突き落とした。1年と3ヶ月前の事だ」

 「それはルナさんが勝手に落ちただけですの」

 覚えてますわ。実際わたくし触れてませんもの。ただ階段の上に立って銀髪の女の子が階段を上がってくるのを見ていたら勝手に最後の一段から落ちていっただけ。

 「私には、貴方が突き落としたように見えたのだけれど?」

 「ティード様。突然の事で、わたくしは手を差し伸べたものの間に合わなかった。その伸ばした手を勘違いしただけでは?」

 ふんす、とゲームでは割と好きでしたけれど今は酷い彼に向けて憤慨します。

 

 ですが、隻眼の王子は悲しげに溜め息を吐くのみ。

 「寸前から見ていたけれど、貴方が間違いなく突き落とした」

 ら、埒があきませんわ。これ……絶対にわたくしを嘘でも何でも断罪する気なのでは?

 

 「婚約者のわたくしを廃して、ルナさんと結婚なされたいならそう言えば宜しいのに。

 わたくしは他国からの者ではありますが、王子なら出来ないことでは無いでしょう?」

 は、破滅だけは嫌ですわ!わたくし自身が破滅するだけでもそもそも最悪ですが、この断罪方法ではわたくしを罪人に貶める事で故郷の民まで巻き添えにしてしまいますもの。

 

 罪もない彼等を絶対に巻き込ませる訳にはいきませんわ!

 

 ですが、そんなわたくしの必死の抵抗空しく、寂しげに微笑むのみ。王子は一つ一つ、わたくしの知らない罪状を挙げていきました。

 

 ぜ、全然知らないことばかりですわ……王室の資料庫なんて荒らしたどころか足を踏み入れようと思ったことすらありませんのに、一体どうして……

 ですが、可笑しいと言ってくれる人すら居ない三人以外は下働きのみの場では、わたくしに味方はおりません。

 

 「そして最後。卒業前最後の狩りの日に、貴方は業を煮やし、直接弓矢と魔法でルナを狙った。獲物と勘違いしたと言い訳して、ね」

 「有り得ませんわ!」

 だって、その日は……

 

 「最後の狩猟会の日、わたくしは故国に戻っておりました!何があろうと、居る筈ありませんわ!」

 他は証拠がとごねらるかもしれませんが、しっかり数日懐かしい屋敷や街並みで過ごしたあの日々の証人だけは間違いなく無数に居るのです。

 

 「他は抱き込めても、わたくしの故郷は抱き込めませんわよ」

 その瞬間、バァンと扉が開かれました。

 「その通りだともティード王子。その日我が孫娘は家に居た。そんな平民を狙うなど不可能だとも」

 つかつかと大部屋に入ってくるのは白髪の老人。わたくしのお祖父様でした。

 あれ?ですがどうしてお祖父様が此処に?

 

 「マリオーネ前侯爵閣下」

 「可愛い孫娘を虐めていると聞いてね。流石に出張らない訳には……」

 その瞬間、隻眼の王子は唇を吊り上げ、野性的な笑みを浮かべたのでした。

 

 「そうして、そちらで捏造した証拠を振りかざすという訳か。

 漸く出てきてくれたな、狸」

 「はへ?」

 すっとルナさんが彼の後ろに隠れますわ。え?どういうことですの?

 

 「さて、色々と聞きたいことはあるが……」 

 ルナさんを庇いつつすっと音も立てずに歩みを進めたティード様は、一瞬瞬きした瞬間に開かれ外が見えている扉の前に立ちます。

 

 「え?」

 そして、無造作に構えて虚空に向けて掌底を突き出した……筈でした。

 しかし、轟音と共に外の景色にヒビが入るや、外が崩れ落ちてしまいます。

 そうして見えるのは分厚い土の壁。

 

 「ティード、様?」

 「ミライン嬢。貴女は色々と分からなくても仕方ないですよ。

 ……ですが、貴方の方は違う。では前侯爵、私は卒業式が終わるや皆に命じてこの唯一の出入り口に外の景色の絵を飾らせ土砂で封鎖させた。なのに何故、ついさっき封鎖されている筈の扉の外からこの部屋に入ってこれたのか。

 元から貴方が自身の孫娘の肉体の中に魂を潜ませており、今も実は魂だけの存在である以外で、お聞かせ願おうか」

 「なっ!」

 お祖父様が絶句しました。

 

 ですが、そもそもわたくし、事態についていけませんの。

 

 「ティード様、これは一体」

 「簡単なこと。私が言った全ては確かに正しいのですよ、ミライン嬢。

 術を使い貴女の肉体の中に潜む貴女のお祖父様が、その肉体を使ってやったこと。その間貴女は少し改変されて自分は無関係という夢を見させられていたのです」

 「え?」

 訳が分かりませんわ。

 

 「そもそも、私は婚約者として此方に送られてきたその日に、説明した筈。

 私にはルナという『次期国王として民を良く知るべく、しきたりから市井で庶民に混じって育てられている【血を分けた実の妹】が居る』とね。それを聞いていて頷いた筈の貴女が、さっきまでの言葉を『妹と結婚する為の策』だなどと、どんな馬鹿なら口に出来るだろう」

 「そ、そうだったのですか!?」

 初耳ですわ!ゲームでもそんな話一切聞きませんでしたわよ!?

 そもそも、実の兄妹ならシナリオで語られていない筈がありませんのに。

 

 「……ミライン嬢。貴女はもうちょっと世間の恋愛物語を読むべきだった。

 そもそもだけれども、恋愛主軸の物語に『悪役令嬢』なんて邪魔しかしてこない相手を破滅させる余計でしかない話を主軸にする意味なんて無い。それがありがちな物語な筈がない。

 貴女の前世の名は?どんな世界でどのように生きていた?そうしたものは一切無く、貴女の中にはゲームの知識と称するものだけがあるのでしょう?」

 言われてみればそうですわ、とわたくし頷きます。

 

 「そう、貴女の言う前世の記憶は、貴女が私と距離を取るように動いて操るのに都合良くするために、全部貴女のお祖父様が捏造した適当な記憶ですよ」

 ……衝撃的すぎてもうわたくし駄目ですわ……

 

 「しかし、何故ティード様はそんな」

 「ああ、そこかい?

 私は次期国王を護る為に寺で産まれ寺で育てられたからね。本業は王子じゃなくて」

 すっと、彼の瞳が口をぱくぱくさせるお祖父様を見据えました。

 「そこの狸爺みたいな魑魅魍魎悪鬼羅刹を払い、妹を護る近衛なんだよ。

 それを貴女の中で聞いた彼は、次期国王の私を貴女が魅了できれば良し、そうでなくとも貴女の体を使ってこの国を滅ぼす攻め手を探ろうとしていた策が、次の王は妹のルナという事実で根底から破綻して焦ったようだけれども、ね」

 「お祖父様……」

 それ、普通にこの国への宣戦布告に等しいですわ……

 

 「……ミラインよ。騙されては」

 「黙れ狸!破ァ!」

 お札を貼られて、いつの間にか半透明になったお祖父様はのたうち回りました。そして、暫くすると静かになります。恐らく意識を飛ばされたのですわ。

 

 ……乙女ゲーム?という都合のいい嘘を刷り込まれていたと言われた今、そんな悲しくありませんわね……

 半透明な辺り、ティード様の言う言葉の裏付けが取れてしまいますし……

 

 「……ティード様」

 「さて、これで貴女を動かすマリオネットの糸は切れた訳ですが」

 置いていけぼりにされかけていたわたくしは、こくこくと頷きます。

 

 「時折しか貴女自身を見ていないものの、私もちょっと術で見させて貰った植え付けられた記憶から、破滅を理解して民を護るべく動こうとする貴女自身の事は、私は嫌いではない」

 「は、はぁ……」

 「あの狸を誘い出すために、婚約破棄とは言ったものの……もう一度、今度はしっかりと私と恋愛譚を始めてくれませんか、レディ?」

 

 やっぱり寺生まれはスゴイのですわね……。とわたくしは圧倒されるままに頷いたのでしたわ。

 

 

 完


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