ある日の学校の帰り道。横断歩道の真ん中で立ち上がれない美少女と、そこへクラクションを鳴らしながらも止まる気配なく突き進むトラックを目撃する。
彼は少女を助け、歩道へ避難しようとするも…
俺は神じゃない。本当に神様ならなんだって見てやってもっと上手く出来るだろう。
何もない真っ白な空間。
そこに、一人の少年がさも最初から居たかのように現れた。
「ぐわ!?なんだ!?上下がない!?どこだこれ!?」
浮かんでいた少年がそう叫ぶ。
少年の最後の記憶はライトで眩んだ視界と、突き飛ばした手の感覚、けたたましいクラクションの音、そして迫り来る大質量が押し付ける独特の空気が体を撫でた感覚。
どうやら少年はトラックから誰かを庇ったらしい。
「お主は死んだ。もう現世には戻れん。」
男性の 老人の声で空間を揺らす。
それを聞いた少年は騒ぎ出す。
「どういう事だよそれ!?何にしても降ろしてくれよ!気持ち悪くなってきた…」
少年の声に応え、少年の下に足場を作り、そこから引力を発生させる。
「あいて!」
少年は上手く着地できず尻もちをつく。
「ありがとう!だけどもうちょい優しくしてほしかったぜ…」
そう言う少年へ声で答える。
「儂にはお主らのように体が無いからの、それが最大限じゃ。」
「ふーん、そういうもんなのか。」
そう言って感心したような表情をしていた少年は真剣な顔になると、質問をしてきた。
「それで、爺さんのさっきの話はどう言う事なんだ?」
「くわしく話せば長くなるのじゃが…簡単に言うならここは現世と常世の境目。一部の者だけがたどり着く領域じゃ。」
「えーと…つまり、俺は死んだってことか?」
「大体はそうじゃ。そしてお主には新しい世界へ記憶を持ったまま渡る権利が与えられる。」
老人の声を聞き、少年は顔を顰める。
「あー…もしかして…爺さんのせいで俺は死んだ、とかなのか?」
「いいや、違う。お主の死因には儂は一切関係していない。
「そうか!それなら良かったよ!」
少年の顔が明るくなる。
「でもよ、なんていうか俺よりも適任な奴が居るんじゃねぇの?あっかんべーのおじさんとか機関車とおんなじ名前のおじさんとか、りんごの人とか、そう言う天才って人たちを別の世界に連れて行くべきだと思うんだけど。」
少年は居心地悪そうに聞く。
「それもまた運命じゃ。儂が選んでおるのではなく、運命がお主を選んだのじゃ。」
「ふーん、そういうものなのか。」
「それで俺はどうすればいいの?なんか不思議な力とかもらえる?
それともこのまま行くだけ?」
少年が質問する。
「そうじゃのう…とりあえずは向こうの世界の言葉を喋ったり読み書きできるようにしてやろう。日本語が使えなくなるが、それは構わないじゃろう?」
「え!?いや、待ってくれよ!かまうよ!」
少年が驚愕する。
「ふむ?今までの人間はそれで構わないようじゃったが…」
「俺、日本語好きだしさ、向こうの言葉は自力で覚えるよ。
それ以外は特に無いの?」
「特別な力と言っても何を与えれば良いやら…」
「そりゃあ日本語が使えなくなるとか無しで言葉が使えるとか、いつも健康体とかそう言うのだよ」
「言葉は無理じゃが、健康体、というか免疫力をとても上げることはできるぞ。病気に罹りづらく、毒に耐性もできる。強い毒は弱めることしか出来ないが…」
「別にそんな感じでいいって!じゃあこれでやる事はおしまいか?この場所白すぎて目が痛くて。」
少年が目頭を揉む。
「おお、それはすまんかった。これで終わりじゃしそこに作った黒い穴に入れば別世界に行けるぞ。」
「サンキュー!ありがとな神様!」
少年はそう言いながら走り、言い切ると同時に穴へ飛び込んでいった。
「全く、俺は神なんかじゃ無いのにな。」
独り言が空間に響く。
しかし、とても勢いのある少年だった。
最初にここへたどり着いた少女の記憶を読み、その中から俺は俺を神様転生の神様であると位置付けた。
ここは特殊な空間であり、そこには死んだか死に瀕した人間が稀に迷い込む。
俺はその外を知らないし外へ干渉もできないが、ここの中では大抵のことができるし、一切感知はできないがどこへでも繋げられる。
俺に実像はなく空間そのものというわけでもない。
何者であるかはわからないが、ここへ迷い込む人間よりは高次元な存在なのだろう。
もっと強い?素晴らしい?力を与えることもできるが、それは"オレツエー"とやらを引き起こすらしいのでやめた。
俺が何者かはわからないが、ただ存在し続ける。
俺が消えるか、ここが消えるか、何も起きなくなるか。
どれが一番最初になるだろうか?