【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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すみません、遅くなりました。


互いに手探り

 何をする必要もなく、ただ機が熟すのを待つ。そんな無惨の平穏な日常は、鬼殺隊の登場により一変した。

 

 無惨の身に覚えのない鬼の存在。何故か無惨の姿を知っている鬼殺隊。さらには食性の変化により、人間だけではなく鬼の肉すら喰えないという、鬼の拒食化とでもいえる特性。

 

 今まで影も形もなかった――もしくは気づけなかった問題が、多数噴出したのだ。

 

 それにより、無惨は行動を余儀なくされる。

 特に問題視していたのが鬼殺隊の存在――ではなく、鬼の拒食化であった。

 無惨からすれば鬼殺隊は、遠方で(たか)って巣くっている鬱陶しい羽虫の集団。

 いずれは巣ごと排除するのは確定しているが、優先事項としては二の次である。

 

 鬼の拒食化は、無惨の目的を阻む目下最大の壁である。

 

 他の鬼を取り込めない、延いては日光に打ち克てないという事実に比べれば、月とスッポンほどの違いがあるのだ。

 

 故に無惨は、太陽を克服した少女を喰らうための練習台として、早急に鬼を作り上げた。

 

 

 

 太陽を克服した後、いざ始末するとき面倒がないという基準で選んだ人間たちを鬼――街の人間は『神子』と呼んでいるが――に変えて、早や百年。

 

 死を厭わぬどころか、むしろ望んでいる節のある神子(狂人)の肉を、無惨はひたすら食っては吐き出していた。

 来る日も来る日も、鬼の肉を食っては吐くを繰り返すという、極めて地道な努力で改善に励んでいく。

 目的のためならば無惨は苦労を厭いはしないし、諦めることもなかった。そんな性分でないのなら千年間も鬼を作ったり青い彼岸花を探したりはしていない。大正時代に鬼殺隊に追い詰められることもなく、日の当たらぬ所で平穏に暮らしていただろう。

 

 そんな苦労の甲斐もあって、どうにか鬼の肉を食すことが出来るようになっていた――指で摘まめる程度の肉を。

 

 たったそれだけ。たったそれだけではあったが、これは無惨にとっては極めて大きな一歩。

 吐き出すだけだった鬼の肉を飲み込めた時の達成感は、それはもう凄まじかった。

「ああ、神が……我が肉を召し上がっておられる……!」

 神子から読み取ってしまった膨大な恍惚の奔流に、すぐさま上書きされ頬を引き攣らせたが。

 

 弛まぬ努力が結実し進歩した。それは間違いないが、無惨は同時に焦りも抱いていた。

 僅かな肉片を取り込むのに、百年近くの時を要したのだ。彼の少女が生まれるまで八百年程度の猶予はある見込みだが、その成長度合いから言って余裕があるとは言えない。他の些事に気を取られる暇はなかった。

 

 とはいえ流石の無惨も、鬼殺隊について完璧な無視を決め込んでもいなかった。

 懸念として思い出されるのは、大正時代の大決戦。少女を鬼に変える前に、機を見て滅ぼす必要もあるかもしれない。以前のような鬼殺隊にはならぬと(・・・・・・・・・・・・・・・)見ているが、狂人や異常者の行動は常に己が予想の斜め上を行くと無惨は考えていた。

 

 そのため、無惨は信者の中から選りすぐった者――選んだのは神子たちだが――を素波(すっぱ)乱派(らっぱ)、いわゆる忍びとして使役し、街の外の情報を集めさせていた。

 

 無惨が流れ着いてから二百年ほどの月日が流れているが、街の発展は留まることを知らず。

 要因は様々に上げられるが、大きく分けて二つ。

 

 一つは高い食料生産能力。

 土壌や農法、果ては品種まで。無惨が齎した知識を基に、それらは長い年月を掛けて改良されてきた。

 結果として、住人全てを喰わせて有り余る量の食料を生み出すことに成功し、大量の余剰食糧は備蓄に回された。

 日照りや寒冷などによる凶作不作に陥った際、ソバ、ヒエ、アワなどの救荒作物も作っていたが、住人たちが飢え死にすることなく冬を越せた一番の要因はやはり、備蓄米に依るところが大きい。

 生産余力の一部をアブラナ*1に回しても問題ないほど、食料が溢れていたのだ。

 

 二つ目は無惨が齎した、医学薬学の知識。

 青い彼岸花および日光克服の手段を探すため、蘭学や蛮学などと呼ばれていた時代から、彼は海の向こうからきた知識を学んでいた。

 それは大正時代になっても変わらず。子供の姿に身を(やつ)してまで手に入れた最新医療の知識が、ここにきて多数の人を救うことになった。

 彼も助けるつもりがあって助けたわけではない。気分的には学んだ知識や技術を使ってみたいという、一種の動物(人体)実験のつもりであった。

 蛇毒の血清等についても教えたが、彼の最大の功績は天然痘の予防接種、つまりは種痘の作成であろう。

 動物――罹った牛が居なかったので代用として馬の痘瘡(もがさ)から取り出した膿を人々に摂取させた。平安の世において拒否されて然るべき医療処置であったが、他ならぬ無惨()からの命令。内心どう思っていても、人々に否は言えなかった。

 見る目が変わったのは効果が実証されてから。即ち、天然痘が流行し外の人間が次々と倒れる最中にあっても、彼らが疱瘡に罹ることがないと証明されたため。

 無惨も実験が上手く行きご満悦であり、住民はより無惨を仰ぎ見る結果に繋がった。

 以降は無惨が指示するまでもなく、予防接種が行われることとなった。

 

 

 餓死。病死。

 当時において死因の大半を占めるであろうこの二つを取り除いたことにより、人は常に増え続け無惨が住む街は大きく発展した。

 

 当然、そのような豊かな土地になれば色々な所から目を付けられ、奪い取ろうとするものが現れる。

 ある日、近隣の土豪が攻め入ってきて戦となったこともあるが、神子が鍛え、率いた軍によってあっさりと返り討ちにし、勢いそのまま相手の領地を奪い取った。

 それ以降、無惨が住む街――いや領地に攻め入ろうとするものは、表立っては居なくなった。

 

 新たに支配下に置かれた地が海沿いであり、塩を自力で確保できるようになったこと、また特異な島の住人たちとの交渉によって茶屋(・・)が充実したことは、無惨の領地に住む者たちにとって幸運であったことだろう。

 

 以上の他、鍛冶や建築などといった他分野においても、神子や知恵者たちの働きにより進歩を見せている。

 

 もはや街の発展から無惨の手から離れつつあるが、神子という事実上の統治者が無惨を信奉している以上、彼の絶対性が崩れることはないだろう。

 

 その神子が選んだ忍びたちは当然ながら優秀な人間である。優れた能力を持ち、神子たちと同程度の信仰心を抱く者たち。無惨の命を果たすために全力で取り組む者たちである。

 

 神子たちの信仰心(異常さ)を嫌というほど知っている無惨であるが、彼らの言をそのまま信じてはいない。

 言うまでもないことだが、情報収集には鬼より人の方が向いている。

 そのため彼らは人のままであるが、それはつまりは心が読めないということであり、内心で謀反を考えていても分からないということ。

 そのような者たちを信用する無惨ではない。

 よって、新たな首輪を付けることは、当然のことであった。

 

「貴様らに枷を付ける。飲み込むがいい」

 

 無惨の指先で小さく盛り上がった肉片が切り離され、選ばれた忍びたちの口に入りこむ。

 命令の通り、彼らは戸惑うことなく――というより、やはり嬉しそうに――嚥下した。

 

「我が名を不用意に口走る、下手を打って捕えられる、怪しい動きを見せる。そのどれかを満たした瞬間、先の肉胞は内部から貴様を切り刻む。死にたくなければ努々(ゆめゆめ)忘れるな。では行け」

 

 無惨からの言葉と『枷』――彼らは『天恵』などと呼んでいるが――を受け取って、意気揚々と出発した。

 『枷』は彼らの胃の腑に根を張る、小型の心臓のようなものである。

 平時は胃に贈られた食事の一部を喰らいながら沈黙しているが、無惨が定めた禁止事項に触れた瞬間、脳と心臓が破壊される。

 呪いを掛けれぬ人間のために作り出した、物理的な縛りである。

 

 このように、忍びたちは(祝福)を腹に収め、行脚僧として油売りとして遊女として、各地に散らばり情報を集めていった。

 

 無惨は目的のため動き始め、かくして状況は、一回目の時と似て非なるものと相成った。

 

 人を喰わぬ無惨。

 その無惨の首を狙う鬼殺隊。

 そして、未だ詳細分からぬ鬼。

 

 今はまだ互いに、手探りの状態。

 

 無惨と、鬼殺隊と、鬼。

 各勢力が本格的にぶつかりあうのは、もう少し先の話。

 

 ある一人の男の登場を、待つ必要があった。

 

 

*1
無惨の入れ知恵で菜種油が作られているが、登場するのは本来江戸時代から




次話は今週中投稿予定です
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