【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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お待たせしました。
最終回まで完成したので、毎日投稿します。
本日は2話更新予定です

今回更新分を含めて残り6話となります。お付き合いいただければ幸いです。

なお今回が一番アンチ・ヘイト要素強いと思われます。
ご容赦ください。


ある医者の願い

 太陽が顔を覗かせたばかりの早い時間。廊下を軋ませる音がどんどんと近づいてきている。

 書き物をしている手を止めるのと、襖を開け放たれたのは、ほとんど同時であった。

 

 そこに居たのは想像通りの顔ぶれ。三日前に超越者――彼らが言うところの鬼、その討滅を果たした鬼殺隊士たちでした。

 

「おはようございます。先生」

「よくぞお戻りになられました皆様方。討滅ご苦労様です。どこか負傷などはしておりませんか?」

 

 我が事ながら分かりきったことをよくぞ抜け抜けと聞くものだと、思わず自嘲してしまう。

 もし怪我人が出ていれば帰るや否やすぐに呼ばれたことだろうし、そもそも討たれた超越者の視界越しに現場を見ていたのだから、重傷者(・・・)は居ないことは端から知っています。

 彼らが薬を使ったことも。

 そして、誰が亡くなったかということも。

 

「我らはカスリ傷程度なのでおかまいなく。ですが、此度の討滅にて四画様、いや先代四柱(よんばしら)が亡くなられました」

「なんと……四画様が」

 

 さも今知った風な演技は、長年の生活によって染みつき、驚くほど自然と出るようになった。

 人が持つ適応力については承知していたつもりであるが、所詮は神仏ならぬ私如きの認識程度。長い時を経ても、まだまだ学ぶことの方が多い。

 

「さぞ難敵だったのでしょうね」

「左様……我ら全員、あの薬を飲まねばならぬほどでした」

 

 飲みたくなかったと苦々しい口振りで言われると、製作者としては僅かに苛立ちの念を覚えてしまうが、彼らからすれば禁忌に値する力なのだから、深くは問うまい。

 そしてここまで言われれば、どんな愚鈍な人物であろうと彼らの要件も見えてくるというもの。

 

「そう、ですか。では皆さまの要件というのは……」

「ご察しの通り。あの魔の薬――鬼成丸の補充に参りました」

 

 魔の薬とまで言われ、つい己が眉が釣りあがってしまう。これは人類全てを救う力を秘めた奇跡の薬。知らぬのだから仕方ないとはいえ、私の研究成果をそう悪し様に言われては心中穏やかとは行かない。

 

「先生がその薬を忌避しているのは知っています。それは我々も同様。しかし、悪鬼たちと戦うためにはどうしてもそれが必要なのです」

 

 そんな私の態度をどう受け取ったのかは知らぬが、奴らは悲愴な覚悟を瞳に宿し私に詰め寄る。その態度を見て、私も鬼殺隊に協力する悲劇の医者としての仮面を被り直す。

 

「しかし、この薬は……」

「承知しております。使えば使うほど、鬼の力に呑まれていく。しかし我らは既に服用した身。鬼へと堕ちることは決まり、あとはそれが早いか遅いか。それだけの違いにございます」

 

 その決意に負けた、かのように振舞いながら、鍵の掛かった棚から薬を取り出す。

 未だ理想に至らぬ我が秘薬。その劣化品を。

 

「了承しました。しかし……くれぐれもご無理はなさらないように」

「有難く頂戴いたします。我らはこれにて……先代様の遺体はいつもの所に安置しております」

「……左様ですか。畏まりました」

 

 彼らが出て行ってくず、私も廊下に出た。

 行き先はいつもの場所――人によって呼び方はまちまちだが、私はこう呼んでいる。霊安室と。

 そこに辿り着くと、顔を覆われた遺体が一つ。薄布の下には、超越者には似つかわしくない、異形の貌があった。

 

「先生。四画様のことを、よろしくお願いします」

「はい。お任せください」

 

 部屋当番の隊士が十分に去ったのを見計らって、柱にまで至った超越者擬きという極上の肉(尊厳ある遺体)に牙を突き立てた。

 

 超越者の本能か。忌避すべき人の肉に、細胞が喜んでいるのが分かる。

 今の私は、どれだけ醜い表情を浮かべているのだろう。ああ、なんて不味い(美味い)

 表面的な不快感や後悔は歓喜の波に攫われていき、心の奥底に深く根付いた只人としての理性が、飽きることなく悲鳴を上げる。

 相反する感情が心を埋め、噴き出しそうになった何かを、別の思考で埋め尽くし蓋をする。いつものように。

 今回思い浮かべたのは、昔日から今までの記憶であった。

 

 

 私が鬼殺隊の存在を知ったのは、超越者になって五十年ほど経過した頃。

 鬼舞辻無惨を探すために増やした超越者たち。その彼らが僅かながら殺されていることを知ったからだ。

 警戒し、調査し、その結果判断した。この組織は利用できると。無惨捜索の手駒に出来ると。

 

 

 下地作りとして、私を除く超越者たちの顔を全て無惨に変えた。

 鬼殺隊に鬼舞辻無惨の人相を教えるため、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。

 この作業に五十年近い時間を費やした。

 

 十分に刷り込んだ後、私は超越者と戦い窮地にあった隊士を救った。

 狙い通り、私の顔が無惨のそれとは違うことで、無惨の下から離反した存在であると思わせることに成功した。

 無論彼らが言う鬼であったため、大なり小なり忌避感を抱かれはしたが、当時の当主の鶴の一声、なにより超越者と戦うための(手段)を齎したことで、風向きは変わった。変えたというのが正確だろうが。

 

 個人的に言えば、産屋敷と私の目的が、相反するものではない点が一番大きかった。

 

 以降、私は彼らの言う鬼でありながら、協力者として鬼殺隊に深く喰い込んだ。

 薬の製造だけではなく、超越者の肉体の理不尽さを教え込むための訓練相手として重宝され、強力な敵と闘う際への戦力へと変わり、今となっては対無惨戦における最終兵器として扱われている。

 結果として、私という最大戦力の力を増すために、柱を初めとした選りすぐりの強者の身を喰らうことが出来るようになった。

 私の狙い通りに。

 

 薬に対する認識など細々とした不満はあれど、容易く良質な肉を喰える鬼殺隊に潜り込んだのは、英断だと常々思う。

 

 敵対組織の中枢に入り込み、日中の情報収集を可能とし、質のよい食事によって順調に力を付けていく。

 当初の想像を超えて上手く行っていた。

 これ以上はないという最良の結果を得ていたと自負している。

 

 だがあの男、鬼舞辻無惨には、まるで太刀打ちできなかった。

 

 まさか、あそこまで力の差があるとは思いもしなかった。

 戦って分かったが、超越者や鬼殺隊といった私が動かせる全ての戦力を投入しても、奴には到底敵わないだろう。

 断言できる。正面から戦えば、私に勝ち目はないと。

 

 まあ、奴の戦闘方法やトドメの刺し方から見て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも分かるがね。

 

 であれば、時間は私の味方だ。

 我が力を高めつつ、奴の力を削ぐ方法を模索する。

 そのために研究を重ね、そして最早大詰めの段階だ。

 

 もうすぐだ。

 もうすぐ、奴を斃すために必要な要素が揃う。

 

 鬼舞辻無惨を喰らい、完璧に至る。

 その決意を固め、最後の欠片を、飲み込んだ。

 

 

 

「呼び出して悪かったね、先生」

「何を仰りますか、御館様」

 

 食事を終え部屋に戻る最中、隊士から御館様の下へ行くよう告げられる。

 すわ急変かと思い急いだが、そこには常と変わらぬ微笑みを浮かべる、産屋敷現当主の姿があった。

 謎の病――超越者たる私が肉を()んでも分からない原因不明の病に、全身が侵され爛れているというのにだ。

 どの時代の当主であっても、死の淵にあっても、皆同じような笑みを浮かべていて、正直言って気味が悪い。

 

「御館様。何度も申し上げておりますが、かの鬼成丸を服用なされては如何ですか? 確かに鬼に近付き、いずれは成り果てますが、貴方様の寿命を延ばす効果は間違いなくございます」

「いつも気遣いありがとう、先生。しかし誰あろう私が鬼の力を受け入れることだけはいけない。一族から鬼の始祖、鬼舞辻無惨を産み落としてしまった産屋敷が、今一度鬼に成り果てるなど、決してあってはならない」

 

 己が感情を伏せたまま定型句となった意見を具申しても、彼から返ってくる答えはいつも同じ。

 代々短命たる産屋敷の一族。それを無惨という鬼を輩出してしまった産屋敷に対して、神仏が与えた呪いによるものだと考える彼らは、我が薬に絶対に手を延ばさない。

 

 呆れた話である。鬼舞辻無惨は我が研究唯一の、完全なる成功例。まさに人々を救う希望の星なのだ。祝福されることはあれど呪うことなど、ありえないというのに。

 

 その不合理で狂気的な意志が、私には理解できない。鬼殺隊が私を受け入れた要因の一つになっていたとしてもだ。

 

「本題を言おう。鬼舞辻無惨の所在を掴んだ」

 

 ……なるほど。急に呼び出したわけだ。

 

「それは、確定情報でしょうか?」

「いや違う。裏は取れていない。だが私の勘が告げている。無惨はそこに居るとね」

「なるほど、勘ですか」

 

 であれば、殆ど確定といって差し支えないでしょうね。

 私ほど長きに渡って、産屋敷一族を見続けてきた者は居ない。彼らの理不尽と言うべき勘の鋭さは身に染みて分かっている。私が加入する以前から、超越者を殺せる日輪刀(武器)を、ただの勘で見つけ出し量産されていたと知った時は、性質の悪い冗談だと思ったものだ。

 彼の勘が告げるのならまず間違いない。確証はないが確信はある……なんて、極めて非論理的な考えなんだろうがね

 

「近日中に我々鬼殺隊は総力を挙げて、奴の(ねぐら)に強襲を仕掛ける。これは今までにない、まさに決戦と呼ぶに相応しい戦いになるだろう。隊士(子ども)たちにも、充分な用意をさせておく。当然、先生にも出てもらおう。万全の準備を整えておいてくれ」

「はっ! 畏まりました」

 

 私の返事を聞き、当主は笑みを張り付けたまま僅かに、長く産屋敷に接してきた私でしか気づけない程微かに目を細める。

 

「君は無惨に勝てるのかな?」

 

 隊士たちには決して出さないだろう、どこか咎めるような険を含んだ物言い。

 それを聞いて思うのは、やはりという納得。

 私が無惨と接触して、おめおめと敗北したことは誰にも言っていない。しかし産屋敷はそのことを知っていたのだ。前の当主から口伝されたのか、はたまた持ち前の勘で気付いたのかは不明だがね。 

 

 彼からすれば確認しておかなければならない事項だ。

 私が彼に勝つ手段がなければ――即ち、鬼殺隊が無惨を殺す方法が、太陽で焼き殺すしかない場合、()()()()()()()()()()のだから。

 

 やはり産屋敷の人間は良く分かっている。私が彼の言う鬼殺に生きる異常者(子どもたち)ではないことに。

 そして安心するがいい。鬼舞辻無惨を喰らう算段は、既についている

 

「今より十日の内、我が研究は完成を迎えます。隊士の方々の協力は必要ですが、その成果を用いれば、無惨を斃すことは可能。約束いたしましょう。私が彼の者を斃すと」

「……そうか。鬼舞辻無惨との戦いは、間違いなく君の()()が必要となる。()()の戦いは期待しているよ」

「ええ。()()は勝利いたしますとも。それでは、()()()()()()()()()()、これにて」

 

 別れの言葉を告げ、その場を後にする。

 完全に見えなくなるまで、背中には産屋敷の視線が刺さり続けていた。

 

 

 

 

 それからというもの、私の周囲は慌ただしくなった。鬼殺隊が関わる場所は、鬼舞辻無惨と戦うための準備、どこも例外なく騒がしいんだが。鬼の気配がぴたりとなくなったせいで、鬼殺隊士が全員集まっているのもその一因だろう。

 それでもやはり、一番人が集まったのは我が研究室であろう。産屋敷経由で対無惨戦において切り札となりうる存在を教えられ、大勢の隊士がここに押し寄せてきたからだ。

 その対処のせいで研究に少し遅れが出たが、秘策たる薬は完成を迎え、今は広間に集まりその効能、何より使()()()について、柱を初めとした隊士たちに説明していた。

 

 話を聞いた平の隊士たちから僅かに動揺が広がったが、柱が即座に諫めたことで、即座に平静を取り戻す。

 一同に集まった彼らの眼は等しく、雄弁に己が覚悟を語っている。

 鬼舞辻無惨を討つ。己が命を擲つことになろうと、一向に構わない、と。 

 

 

 紛うことなき異常者の瞳。

 それを見て私は、同情の念を抱かずに居られなかった。

 

 

 彼らは誰も知らない。

 私が超越者を、鬼を作っていることを。

 彼らに降り注いだ悲劇。そのほぼ全ては、私が生み出した超越者によって引き起こされたことを。

 彼らが真に復讐を果たすべき相手は、君たちの目の前にいることを。

 

 

 鬼殺隊に属する者は誰も知らない――産屋敷の一族を除いて。

 

 

 話したことはない。ひっくり返しても記録なんて出てこない。

 だが、()()産屋敷の一族が、気付いていないわけがない。確証はない。だが確信はある。

 気づいていながら、あの一族は目を瞑っているのだ。

 

 産屋敷の目的が、私ではなく鬼舞辻無惨の討滅だから。

 

 私が居るからこそ、鬼憎しで鬼殺隊に人が集まってくる。

 私が居るからこそ、鬼殺の経験と知識が蓄積できる。

 私が居るからこそ、有用な(手札)が手に入る。

 

 つまり私が居るからこそ、鬼殺隊はこれほどまで巨大で強力な組織になったのだ

 

 私の正体が何であれ鬼殺隊にとって有益であり、ひいては鬼舞辻無惨を殺すために有益な存在であれば、文句はないのだろう。

 

 

 産屋敷にとっては、私が(超越者)だろうが、彼らの仇を生み出していようが、どうでもいいのだろう。

 鬼舞辻無惨を殺せれば、それで。

 

 復讐したい。人を救いたい。悲劇を未然に防ぎたい。だから鬼を殺す。

 大半の隊士たちの望みはこれに帰結する。

 一方の産屋敷の望みは、もっと限定的だ。殺したいのは、たった一人。

 

 鬼殺隊は同じ方を向いているようで、悲しいほどに異なっていた。

 

 産屋敷はそれを理解しながら、彼らを利用する。無惨を殺すにはそれしか方法がないから。

 

 

 利用されるだけの彼らに同情して、そんな資格はないと自嘲する。

 彼らの大事な人たちを殺め、産屋敷と同じように利用して、そして今度はその命すら使おうとしているのだから。

 

 彼らの命も救いたかった。その狭い見識を広げ、もっと広い視点を与えたかった。

 そんな些細な願いも、最早叶うまい。

 

 だから願おう。この戦いの死者が、人類最後の死者にならんことを。

 

 




鬼殺隊「鬼殺ファーストです」
産屋敷「無惨ファースト(殺)です」
藪医者「無惨ファースト(食)です」

次話は本日の18時5分、投稿予定です。
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