【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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今回含め、残り3話です


未だ、夜は明けず

「それでは一同、出陣してまいります」

 

 声を掛け、指揮官たる男は街から去っていく。

 近く行われる大きな戦。傭兵としてかつてない規模の兵士たちが出陣していく。

 日が沈んでからという、移動に不向きな時間に出発するのは、神子たちの激励を拝聴するためであり、無惨()の姿を拝見するためなのだから、この街の者たちの大多数はやはり()()()()と言うべきか。

 

 鬼を含まない人間だけの武装集団が、火薬の臭いを(くゆ)らせて、足早に山間に消えていく。

 日頃の訓練の賜物だろう。暗い道であっても、彼らは列を乱さず、歩調を合わせて進軍する。

 

 後に戦国最強と呼ばれる傭兵集団が今、出征する。

 

 その動きを、暗闇の中、じっと見つめる集団が、夜の闇に潜んでいた。

 

 

******

 

 

「大量の兵が出陣し、敵地は手薄となった。この絶好の好機、決して逃すな」

 数日経った未明の頃。

 深い闇に身を潜めた私設武装集団――鬼殺隊が、ひっそりと刃を研いでいた。

 

「……班長。本当に、こんなことをして良いのでしょうか?」

「こんなこととは、何だ?」

「……彼らは、鬼ではありません。ただの人間です。そんな人たちを」

「これは柱の方々、先生、なにより御館様がお決めになったことだ。異論を挟むなど烏滸がましいぞ」

「されどっ!」

 

 未だ言い募ろうとする部下の言葉を遮り、班長と呼ばれた鬼殺隊士は咎めるように、諭すように言葉を重ねる。

 

「良いか。奴らは永きに渡り鬼どもの庇護下にあり、甘い汁を吸い続けてきた人非人どもだ。脅されたわけでも操られたわけでもなく、自らの意思で鬼の走狗に成り下がった畜生どもだ。そんな相手に情けなど無用。郎党皆殺しにするのが世の為というものよ」

「しかし……」

「認めがたいことなのは分かる。罪の意識が生じるのもな。だが今は全て飲み込み死力を尽くせ――鬼舞辻無惨を討ち取るために」

 

 鬼舞辻無惨を討つ。

 そのためだけに生きてきた部下の女は、謝罪の言葉や後悔の念をそのままに、ただ迷いだけを払う。

 

「はっ! 全ては無惨が討ち取られた後に、考えます!」

 

 その決意の瞳を見て、部隊を預かる長は、一つ笑みを零す。

 

「良しっ! では頃合いだ。行くぞっ!」

 

 人非ざる者たちだけが動く時間。

 ついに鬼殺隊が動き出した。

 無惨の首、ただそれだけを求めて。

 

 

******

 

 

 小さな村から始まり、今となってはその面影すら残さないほど大きくなった境内都市。

 その一角に、轟轟と火の手が上がる。

 櫓からは鐘が鳴り、未だ眠りに就く人々を叩き起こし、混乱の渦へと叩き込んでいく。

 

「皆落ち着いて! 女子供たちは川べりの渡し場にまで逃げて! 男衆は一、二、三の組は周囲家屋の打ちこわし、それ以外は逃げ遅れの救助に!」

 

 狂瀾する民衆。されど彼らの耳朶に滑り込む麗しき天女の声が、信者(彼ら)の心にすっと染み渡る。

 

 神子が冷静かつ的確に指示を飛ばし、強靭な肉体を用いて、延焼防止や人命救助を行っている。

 未だ日の昇らぬ時間ということもあって、陣頭指揮に立っていたのだ。

 

 神子ほどに長く生きれば、火災など片手の指では足りないほどに経験している。非日常であれど未体験にあらず。突発的な災害ではあるが神子たちからすれば、よくあることとも言えた。

 

 違う点があるとすれば、かつてないほど大きな規模であること。

 そしてこれが、人為的に起こされていること。

 

「死ねっ!」

「っ!」

 

 突如として物陰から振るわれる凶刃。

 間一髪で避けることが出来たが、突然のことで彼女の体勢は大きく崩れていた。

 

 狙い通りの展開に、すぐさま四方から新手が刀――日輪刀を抜き放つ。

 幾人もの鬼を仕留めてきた二段構えの攻撃。

 

 不死の肉体であるが、日輪刀の気配を察して、女は己が死を覚悟した。

 過ごした年月に相応しき身体能力を備えた神子()であるが、それを運用する能力が絶望的にまで欠けていた。

 生を諦め、無惨のために死ねないことを悔いるも、せめて全員道連れにしようと手足に力を籠める。

 

 反撃を覚悟して刃を振るう暗殺者――鬼殺隊士たちの目の前で、神子の上半身が爆散した。

 

「なっ!?」

 

 飛び散る肉片が隊士の眼を汚し、的を失った必殺の刃が虚しく空を切り裂いた。

 残った下半身は囲いの隙間からささっと抜け出し、ぽんっと高く舞いあがった鬼の頭を追いかける。

 

 素早く視界を取り戻した隊士たちが見たのは、別の()に頭を抱えられる()の姿。

 

「ごめ~ん! 助かったよぉ!」

「はいはい、分かったからさっさと治しなさんな」

「うんっ!」

 

 言うが早いか、残った下半身から瞬く間に吹き飛んだ部分が生えていき、己が手で首を元に位置に戻す。回復力も当然、年月相応であった。

 

「気を付けろ! あの鬼は爆発する血鬼術を使うぞ!」

 

 好機を逸した鬼殺隊は、すぐさま意識と情報の共有を図る。

 そこに仕留め損なった落胆はない。そんな余分を持ちこめる戦場など、有りはしない。

 歴戦の勇士たる鬼殺隊士は事実をありのまま受け止め、次に繋げるのみ。

 

「神子様方っ! ご無事でっ!?」

 

 騒ぎを聞きつけ駆けつけるは、百にも及ぶ街の兵士たち。救助に勤しむ者たちとは異なり、その姿は完全に武装されていた。

 

「この火の中です! 火薬の使用は控えて、弓矢で応戦するように! 接近戦は敵に一日の長あり。決して近づかないでください! 不覚にも接敵した場合は必ず複数で当たるように!」

「承知っ!」

「ちなみに貴女も近づかないようにしてね。また体吹き飛ばすわよ」

「うっ! わ、分かりました~」

 

 神子から飛んだ鋭い指示に、兵士たちは迅速に対応する。十人単位の部隊に分かれ、神子たちを中心にして敵を囲むように分散。

 距離を取り、密集し、矢を番えて、引き絞る。

 

 直後、鬼殺隊士たちに飛来する矢の雨。

 持ち前の技量で捌いていくも、すり抜けた幾本もの矢が彼らの体に当たっていく。

 されど彼らが纏う隊服は、鬼の剛力であっても裂けぬ代物。人間が引ける弓如きで、射抜ける道理はなかった。

 途切れることなく矢は放たれるが、急所だけは確実に守る鬼殺隊士を仕留めるには至らない。

 

「よい、っしょぉっ!」

 

 兵士たちの攻撃は効果が薄いが、足止めにはなっている。そう見て取った神子()が血鬼術で攻めようとしたその直前に、背後から声が上がった。振り向いた先にあったのは、打ち壊された大黒柱を持ち上げる、もう一人の神子()

 

 持ちやすいように変形させた腕を振りかぶり、投げ付ける。

 鬼の膂力によって放たれる、単純明快なる質量攻撃だ。

 

 矢による足止めと、頭上に迫る大木の槌。こうなればもはや、只の人間には躱すことができない。

 故に()()()()を預かる班長は決断を下す。

「飲めっ!」

 その一言で、口に含んでいた丸薬――鬼成丸を一斉に嚥下した。

 

 空を舞った木材が着弾し、土煙を立てる。

「もうっ! この手のことは本当に雑なんだから」

 同僚の呆れるほど単純な攻撃に嘆息しつつ、血鬼術で煙幕を払う。

 

 柱は罅が入っていたのか、自重の衝撃で文字通りの木端微塵となっている。

 木片の海。その下にあるべき隊士の死体。それがどこにも見つからない。

 奴らは一体どこに行ったのか? 神子()の疑問にはすぐに解明された。

 

「ぎゃあっ!」

 突如として上がる悲鳴。

 その声は無惨に仕える兵士たちのものであり、包囲網の端に当たる部隊からのものであった。

 

 斬り捨てられ、命を散らす兵ども。

 返り血に染まる隊士たちの顔は、文字通り鬼の形相であった。

 

 鬼モドキ。無惨()が仰っていた不遜なる者どもだと、神子たちはすぐに悟る。

 

「命令変更! 火薬の使用を許可! とにかく徹底して近づかせないように!」

「神子様っ!」

「何か、っ!?」

 

 鬼モドキと成り果てた隊士たちは、背負っていた荷物から掌大の球を次々と放り投げる。

 狙うは神子()ではなく、周囲を囲む兵士(人間)たち。

 

「うわぁぁっ!」

 その形状、使い方は、兵士たちにある兵器を想起させ、(たが)えることなく()()()()

 

 鬼殺隊手製の爆弾。火器兵器の生産をしている神子や兵士たちにも馴染み深い武器である。

 

 ただ、より悪辣なる点が一つ。

「ひゅっ、ひゅっ」

「ごほっ、こっほっ」

 

 火薬を覆う鉄片に烏頭(トリカブト)を塗る、内部には漆の樹皮を埋め込むなど、毒を含ませている点だ。

 鬼と戦う際には全く意味のないこの工夫は、ただ人間を殺すためだけに発揮されている。

 

「がぼっ!」

「っ! 逆側からも来たよ(がく)ちゃんっ!」

 

 神子たちには都合が悪いことに、反対方向から現れた鬼殺隊の新手が、近くに居た兵士たちに襲い掛かった。

 既に鬼モドキへと変貌している隊士たちは、次々と敵を血祭りにあげている。

 

 包囲していたはずが、いつの間にやら挟み撃ちにあっていた現状に、戦場の指揮を執っていた神子は歯噛みする。

 

 予期していた襲撃だというのに、対処が遅れている状況に苛立ちつつも、冷静に場を見極めていた。

 苦肉ではあるが兵士たちを捨て駒にし、後方の残存部隊と合流。装備を整え改めて対決する。

 

 そう決意し動き出そうとしたところ、唐突に、一つの民家が吹き飛んだ。

 余りの事態に、勢い込んで攻め入っていた鬼殺隊士も距離を取る。

 舞い上がる粉塵。それを切り裂くように、吹き飛ばされた鬼殺隊士が地面を跳ねていく。

 

 それを追いかけるように、民家跡地から弾丸のように一つの影が飛び出す。

 五、六十貫*1はありそうな甲冑を隙間なく着込んだ、七尺*2に迫る大男。

 

「剣ちゃん!」

 

 無惨が生み出した三人の神子()。その最後の一人が、今ここに現れた。

 

 異様な姿に鬼殺隊士は悟る。無惨の配下で最強の鬼が、此奴であると。

 その危険性を悟った者たちが、真っ先に仕留めんと刃を向ける。

 神子が手に持つは頑丈で重いだけの金棒。それを縦横に振り回し迫る鬼殺隊士を跳ねのけ、立ち上がりかけた隊士の頭を粉砕した。

 

 頼りになる援軍の到着に、女の神子()は撤退を中断。

 注意が逸れた隙に兵士たちを纏め、改めて指示を出す。

 

「貴方たちは散会して遠距離から攻撃を続けて、僅かでも敵の動きを阻害して! 矢が尽きても石でも鍋でも何でもいいから投げ付けて注意を引きなさい! 剣君()の援護に徹するのよ!」

 

 言うや否や、矢が降り注ぎ、家の端材が地を叩き、血鬼術が肉を吹き飛ばす。

 

 その中心で、人の軛を外した者どもが火花を散らし、喰らいあう。

 

 

 鬼殺隊(鬼モドキ)神子()兵士(人間)が入り乱れる様は、さながら地獄。

 戦場は火炎に彩られ、刻一刻と様相を変えていくのであった。

 

 

******

 

 

 数百年前の再建以来、格別に広くなった神社の本殿。その内陣。

 

「そういえば、この世の鬼殺隊と初めて相まみえたのも、確かこの場であったな。内装はまるで違うが」

 

 一人座る無惨は、小豆を使った菓子を喰いながら、思い出したように呟く。

 人払いを済ませた境内。返事など返ってくるはずもない。

 

「そうか。かつて貴様と戦った隊士たちが居たのか。無念であったろうな」

 

 しかし、その言葉を耳聡く拾う者たちが居た。

 

 内陣を囲う全ての襖が、一斉に開け放たれる。

 十や二十では利かぬ数の人間たちが、誰一人として足音を鳴らすことなく、無惨を包囲していた。

 

 否。最早この場には誰一人として、()()()()()()

 

「問おう。鬼舞辻無惨だな」

「分かり切ったことを聞くな。恥知らずの道化どもめが」

 

 代表としてか、唯一口を開いていた鬼殺隊士の眉が歪む。

 

 それに目敏く気づいた無惨は溜息を吐き、物覚えの悪い幼子に教えるように、滔々と語る。

 

「かつての鬼殺隊もそうであったが、貴様らは鬼を殺すための組織であるというのに、その殺すべき鬼の力を借りている。此度に限っては、貴様らが振るうのは鬼モドキと呼ぶべき力。己が力を高める努力もせずに、忌むべき鬼の力で妥協している。これを恥知らずと言わず何と言う? 死んでいった者たちに申し訳がないとは思わんのか?」

 

 茶を啜って甘味を流し、無惨は舌を回し続ける。

 

「そして何より、私は貴様らの仇などではない。()()()()()()()()を殺して回るほど、私は暇ではないのだ。貴様らと違ってな。死した者のことをいつまでも引き摺った挙句、仇の走狗に成り下がり、全く見当違いの者に怨讐の念をぶつけようとしている貴様らはこう呼ぶほかあるまい」

 

 ――道化と。

 最後の言葉は、振り降ろされた刃によって遮られた。

 

「もういい。鬼の戯言にはうんざりだ。鬼舞辻無惨。お前の言う通り鬼に堕ちても、鬼の手を借りてでもお前を殺し、鬼殺隊の全てに決着をつけてやる」

 

 

 悠々と躱した無惨は辟易とした様子を隠そうとしない。未来の大正(遠い昔)に、聞いたことのあるような台詞ばかりだったからだ。

 

「随分と余裕があるな。私を罠に嵌めることが出来て、そんなに嬉しかったのか?」

「ふっ。流石に気付かれていたか。だがもうどうすることも出来まいよ」

 

 鬼殺隊は、護衛を引き離すため街で騒ぎを起こす陽動と、本命たる無惨の討伐の二つに部隊を分けて攻め込んでいた。

 どちらも死地に赴く決死隊であるが、鬼殺隊戦力の実に九割をこの討伐部隊につぎ込んだのだ。

 

 結果として、ほぼ万全の状態で無惨一人と戦える状況を作り上げていた。

 

 単純な作戦ながら、ここまで上手く行けばバレた所で問題にならないと、隊士は自ずと笑みを浮かべる。

 

「笑わせるな。罠に嵌ったのは鬼殺隊、お前たちの方だ」

 だが、策が上手くいったのは無惨も同様。

 日の呼吸を継いだ少年ほど常軌を逸してはいないが、鬼たる無惨の嗅覚は、人の枠には収まらない。

 その鼻が教えている。求めてやまない()の存在。

 

「近くにいるのだろう?藪医者めが」

 

 総力戦となれば現れぬはずがない。その狙い通り、かの鬼は無惨の傍まで来ていた。

 

 おびき寄せるために、わざと本拠地の情報を流したのだ。

 攻め込ませやすくするために、必要もないのに大軍を出陣させ、無防備にも見せかけもした。

 

 全てはあの医者の鬼を喰らい、太陽を克服せんとするために。

 

 あの鬼と対峙する。己を包囲する隊士たちなど、そこに至るまでの障害物でしかない。

 無惨が求めるは、変わらずに医者の鬼のみであった。

 

「最後に慈悲をやろう。今すぐ尻尾を巻いて逃げるというのなら命だけは見逃してやろう」

 

 無惨が隊士たちと言葉を交わしていたのは、ただ機嫌が良かったため。

 望んだ()が、逃げることなく近くに来ている。その事実に喜んでいたためだ。

 

 故に、彼は最後に助命の機会を与えた。

 

 返事は怒号。そして、鞘を走る刃の音。

 

 蹴られた提案に気を落とすことなく、彼は一言告げる。

 

「そうか、ならば死ね」

 

 戦闘、いや蹂躙の合図を。

 

 

 五百の年を重ねた神社が、再び倒壊した。

 

 

 未だ、夜は明けず。

 

 

 

 

*1
一貫3.75㎏、ざっくり200㎏程度

*2
一尺30cm、ざっくり2m越え




序盤の方でモブキャラたちが集まって大乱闘スマッシ〇ブラザーズしてますが、原作の柱(痣、赫刀、透き通る世界、全てなしの状態)を誰か一人でも放り込めば無双される程度の力しかないので悪しからず。

次話は翌日10/26の18時5分、投稿予定です。
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