【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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当たり前のことすら出来ぬ無能たち

「おお、ご機嫌麗しゅうございます。神よ」

「うむ。貴様は老けたな。実に醜い」

「ははは、貴方様は、まるでお変わりありませんなぁ」

 

 無惨が村に立ち寄ってから経過すること五十年。

 彼の者の神格化は留まることを知らず、むしろ加速していった。

 

 子供が大人を経て老人に変わっても、無惨の端麗なる容姿は僅かたりとも衰えることはない。

 鬼が持つ不老の肉体は、神秘性としてとても分かりやすい。

 

「今年も収穫物は豊作にて。これも全て神様のおかげでございます」

「そうか」

 

 更なる神格化の一助としてあったのが、無惨の暇潰しである。

 

 太陽克服の目処が立ち、動く必要がなくなった彼は、ありていに言えば時間を持て余していた。

 よく言えば、ゆとりである。

 

 無惨は千年間太陽克服という目的のため、精力的に動いていたと考えている。あくまで彼の基準ではあるが。

 彼は目的に必要であるならば、面倒事であっても手を抜いたりしない。

 でなければ千年に渡り鬼を生み出したり、人間社会に忍び込んだり、日の呼吸の使い手を根絶やしに動くことはなかっただろう。

 

 そういう意味では、鬼殺隊を滅ぼすことは彼にとっては些事に等しかったのかもしれない。

 鬼殺隊抹殺に本腰を入れたのも、太陽を克服した鬼の少女を確保するためであり、鬼殺隊そのものに対しては目障り程度の認識で留まっていた可能性がある。

 

 閑話休題。

  

 太陽克服の目処が立ち、目障りな鬼殺隊は存在せず、無能な鬼たちも居らず、体を焼き続ける刀傷すらありはしない。

 事ここに至り、無惨は生まれて初めて人心地付いていた。

 真に自由な時間を満喫していたのだ。

 野望である『不滅・永遠』はまだ手に入っていないが、『全ての時間を己のために使う』という状況が、図らずしも転がり込んできていた。

 その時間を使って、無惨は気まぐれによく動いていた。

 

 

 その気紛れは多岐に渡る。

 あるとき行ったのが、農耕の指導。

 亀の甲より年の劫とはよく言ったもので、千年の間培ってきた無惨の見識は、そこらの知恵者よりずっと深いものであった。

 しかも中身は今より千年を先取りした知識であるのだから、その効果は絶大である。

 特に作物や薬草といった植物についての知識は群を抜いていた。

 元は青い彼岸花を探すため蓄えられた知識であったが、現在は全く違う方向で活躍していた。

 村人たちもおっかなびっくりであったが、他ならぬ無惨(神様)からの命。唯々諾々と指示に従い田畑を弄っていく。

 無惨の知識を落とし込む村人たちの現場努力もあったが、結果として収穫量は増大の一途を辿ることとなった。

 

 あるときは野山を駆ける害獣退治。

 人智を超越した肉体性能は、ともすれば不老以上に特異性を知らしめる。

 人間では歩くことすらままならぬ夜闇の中、一人ぶらりと出歩いたかと思えば、猪や熊、鹿などの獣を間引いていたのだ。

 散歩ついでの運動がてら殺しているだけなのだが、ある日それに気付いた村の一人がこっそりと肉を回収した。

 無惨(神様)が狩った獣である以上、所有権は無惨(神様)にある。それに手を付けることは極めて罰当たりなことである。それこそ死罪に当たるほどに。

 無惨の勘気を被ることを村の者は特に恐れていた。

 しかして村の重役が死を以って謝罪に来たのを、無惨は鷹揚に――または興味なさげに許したのもあってから以降、無惨が殺した獣の肉は、神の恵みということで重宝されることと相成った。

 

 

 時には文字算術を教えるということも。

 これに関しては無惨自身に狙いがあり、見込みのある者たちに積極的に指導する場面が見られた。

 神直々の教えを受けた者は知識層として強い発言力を持ち、また期待に応えるため自発的に研鑽を積む。

 

 これら全ては無惨自身のための行動であり、誰かのために動くことなど天地がひっくり返ってもあり得ないが、結果として村に数多の利益を齎している。

 

 

 性質の悪い冗談のようだが、村人たちからは豊穣の神や知恵の神だとさえ思われている。

 

 かつて無惨の部下だった者たちが聞けば耳を疑うような話だが、無惨は村の者たちを相手にあまり怒りを露わにしなかった――あくまで比較的に、だが。

 しかしこれは、無惨に言わせれば当然のこと。彼に聞けば『家畜が人の言葉を話さないといって怒るものが居たならば、それは異常者に他ならない。そして私は異常者ではない』と答えが返ってくることだろう。

 

 そもそも無惨の認識では人間とは、彼らから見た時の牛や鶏といった動物、即ち家畜に等しい。もっと直接的な言い方をすればただの食料(えさ)だ。

 己と対等な存在であるなどと、まるで考えていなかった。鬼の性能やかつての食性から、無惨の思考は自然とそのようなものへと形作られていった。

 人間を明確に下に見ている。下等生物と見下しているのだ。

 だからこそ、人間に対しては多少は心が広くなり、少々の無礼――例えば、肩がぶつかった程度のことは見逃してやろうと思うことすらあったのだ。

 獣が道の端で粗相をしているからといって、怒ることなどないように。

 

 逆に言えば、無惨はかつての部下()たちを、同胞と認めていたのだ。曲がりなりにも同格だと。自分の命を脅かす力を秘めた存在であると。でなければ種々様々な呪いで縛ったりなどはしない。

 そう。認めていたからこそ、その不甲斐なさに対して常々怒りを露わにしていた。

 上弦の鬼が作ること(僅かな例外)はあれど、ほぼ全ての鬼は無惨が手ずから血を分け与えていた。

 鬼は人間より優れた生物であり、人間より強いのは当たり前。その優れた肉体を手間暇かけて与えてやったというのに、彼らはたかだか鬼殺隊(人間たち)に殺される。

 目に掛けてやったというのに、その期待に応えるどころか、当たり前のことすら出来ぬ無能たち。これが最終的に無惨が行き着いた鬼たちの評価だ。

 

 その所為もあってか、無惨は平安の世に降り立ってから、鬼を一人たりとも作っていない。

 どんな者を鬼に変えようが高が知れているのだから。

 

 なお無惨はこうして生き残っている以上、自分が鬼殺隊(人間たち)に負けたとは露ほども思っていない。

 

 

 

 さらに五十年が経つ頃には、村は街と言えるほどに発展を遂げていた。

 豊かになれば子供の数が増え、分母が大きくなれば、それだけ優秀なものが多く生まれる。

 力溢るる者たちは名目上の地主――豪族となり、やがては土着の武士となり。

 賢しき者たちは無惨の教えを理解し、実行し、研鑽し、更なる街の発展を促していた。

 小さな諍い程度はあれど、人々も無惨を頂点にして自ずから団結している。

 当の無惨は気まぐれで動いたりするが、支配者として何することもない。君臨すれども統治せずを自然と行っていた。

 

 何くれとなく過ごし、己が居城の石室で平穏を満喫している無惨。

 ふと耳を澄ませば、何やら外が騒がしいことに気付いた。

「騒々しいが、一体何事だ?」

「は。何やら街の外の者たちが騒ぎを起こしている様子で。今すぐ止めてまいります」

「ふん、礼儀を知らぬ連中だ。一体何者だ?」

「は、確か――鬼殺隊だと名乗っておりましたが」

 

 その日、無惨の怒りが、石室の一部と共に爆裂した。

 

 

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