【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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どこまで付き纏えば気が済むのだ

 轟音が石室を揺らし、その勢いで蝋燭は灯りを落とす。

 もうもうと粉塵が立ち込める中、無惨はゆらりと立ち上がった。

 

「もう一度聞こう。そやつらは何と名乗っていたと?」

「は、ははっ! き、き、鬼殺隊と、そのように名を、の、名乗ってっ!」

 

 突如として烈火の如き怒りを放つ無惨に、この日の世話係の人間はなすすべなく恐怖に飲まれた。

 一体全体何が癇に障ったのか分からぬまま、ただ聞かれたことを答えていく。

 

 そして悲しいことに、答えを聞いても無惨の怒りは収まることはない。

 

「鬼殺隊だと?!何故奴らがこの世に居るのだ!?」

 

 今世において、無惨は鬼を作っておらず、医者の治療が終わってからは、そもそも人食いすら行ってない。鬼殺隊が作られる理由など何処にもないのだ。

 

「どこまで付き纏えば気が済むのだ?!あの異常者どもは!?」

 二度と聞くことがないと考えていた名前。それが突如として目の前に現れた衝撃は筆舌に尽くし難い。

 

 かつての無惨にとって、鬼殺隊は太陽を除いた最大の障害でありながら、されど積極的な排除には動かなかった存在であった。

 上弦を含んだ部下たちで容易に潰せる程度の組織だと考えていたためである。

 率直に言って、邪魔ではあっても脅威だと認識していなかった。目の前を飛び回る羽虫の如く、いくら潰してもどこからともなく湧いて出てくるから放置していたにすぎない。

 

 今は違う。生き延びたといえど、奴らの刃は間違いなく、無惨の首に掛かっていた。彼が感じた死の恐怖は紛うことなき本物。異常者の執念は無惨の想像を遥かに超えていたのだから。

 

 とはいえ、無惨としてはその脅威は既にないものと考えていた。

 無惨からすれば鬼殺隊の者たちは、死した者をいついつまでも引き摺る異常者たちであったが、それはつまり彼が人を殺しさえしなければ問題ないということに等しい。

 そして二週目に入ってからの無惨は――一週目と比べれば――全くと言っていいほど人を殺していなかった。

 であれば鬼殺隊が組織されることなど有り得ない。

 

 人を殺す鬼が居ない以上、鬼殺隊は存在しない。

 合理的なその計算は、しかして脆くも崩れ去った。

 

「貴様らを襲う鬼など何処にいるというのだ!……いや待てよ。鬼ならもう一人。そうか、あやつが居る!」

 

 ここで無惨ははたと気づく。鬼殺隊が掲げる鬼が、自分ではない可能性について。

 無惨が都から離れるあの時、あの場には間違いなくもう一人、鬼が居たのだ。

 無惨を鬼に変えた医者。その人が。

 

「あの藪医者が生き延びて、かつての私のように動いているとしたら、なるほど辻褄があう」

 

 納得がいく理由が見つかり無惨は冷静さを取り戻す。

 

 なおここまで落ち着くのに、無惨の部屋の模様は、すっかり様変わりしていた。

 世話役の人間が生きていたのは、ただ運が良かっただけだ。怒り心頭の無惨に、そこまでの冷静さはない。

 

 冷静になり、事態を推測し、そしてまた怒りを覚える。

 己が期待をこれ以上ないほど裏切った者が、またぞろ面倒事を引っ提げてきたのだとすると、ただでさえ短い堪忍袋の緒が切れるのも、むべなるかな。

 

「おい!奴らは一体何をしにここまで来たのだ!?」

「はっ、はい、いや、いいえ!も、目的については、はけ、見当もついて――」

「何故その程度のことすら把握していないのだ貴様は!」

 

 男の最期の幸運は、痛みを感じる暇すらなく死ねたことであろう。 

 

 頭を失くした人形のような物体に対して、無惨は怒りを込めて吐き捨てる。

 

「土地神様!一体何事がありまし――っ!!」

 

 地下から響いた轟音に、地上部の神社に住まう神主一族――最も無惨の面倒を見ている者たち――は、尻に火が付いたように無惨の元へと駆け込み、絶句した。

 彼らの言葉を失わせたのは、壊れた石室でも、首のない遺体でもない。無惨の怒りによって爛々と輝く、紅き瞳であった。

 

「申し訳ありません!そこな者が、無礼を働いたようで!」

 

 地下に降りた一同はすぐに平伏した。

 触らぬ神に祟りなし。いわんや、赫怒の只中であるならば。

 

 それに彼らの言葉も間違ってはいない。

 無惨の世話役である以上、知りたいことを答えるのは当然のこと。

 神ならぬ身で知りようがないことならともかく、余所者たちの動向を把握することは決して難しいことではないのだから、それは男の落ち度足り得る。

 果たして死に値する罪かどうかは不明だが、この土地の神として奉られる存在が下した沙汰なら、それが正なのだ。

 それほどまでに信奉され、また畏怖されていた。

 

 

「今この街に鬼殺隊を名乗る者たちがいると聞いた。奴らが何をしに来たか知っているか?」

 人間たちの恐怖など露知らず、無惨は先の質問を繰り返す。

 もしこれに答えるものが居なければ先と同じ悲劇が人数分繰り返すことになったが、耳敏い少女のおかげで、辛くもその未来は回避された

 

 鬼殺隊曰く。

 ここより遠方の村々に彼らが言うところの『鬼』が現れた。

 鬼殺隊の者たちはその鬼を討伐するため、たまたまこの街に立ち寄っただけ。

 とのこと。

 

 また、この騒ぎは隊員たちの鋭気を満たすため開かれた宴によるもの。

 

 少女は怯えを抑えながら、これらを滔々と語った。

 

「なるほどな。奴らの狙いは私ではない、か」

 

 あくまで道すがらであるらしいが、それを心から信じることなど無惨にはできなかった。

 

「やはり、確認せねばならんな」

 

 そういうと、無惨は人間たちに鬼殺隊を名乗る者たちを呼び立てるように命じる。

 命を受けた彼らはこれ幸いにと、恐怖から逃れるように一目散で飛び出していった。

 

 兎にも角にも情報である。

 無惨は面倒事の気配をひしひしと感じ、一人苛立ちを募らせていく。

 




次話は5/24(火)18時ごろを予定しています。
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