【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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貴様は実に運が良い

 日が落ちて久しく。半分に割れた月の光が、大地を遍く照らすのみ。

 整備された神社までの道を、十人もの屈強な男たちが進んでいく。

 揃いの隊服を着用している彼らは、鬼殺隊の面々であった。

 全員酒精を帯びているのか、赤ら顔で(かまびす)しいが、歩みに乱れは見られない。

 

「全く、貴様らは騒ぎ過ぎなのだ。節度を知れ、節度を」

「へへ、すいやせん兄貴」

「はぁ~。何度も言っているが、班長と呼べっ。班長と!次言ったら殴るぞ!」

 

 改めぬことが分かるような気の抜けた返事が返ってくるが、兄貴と呼ばれた男の反応からして、言い聞かせたことは一度や二度ではないのだろう。

 諦めたように一つ溜息を吐いて、先頭の男は視線を前へと戻す。

 物珍しい灯りを孕んだ紙の包み――提灯*1が先行く道を照らしている。

 それを持つ、彼らを呼び出した人物――見た目からして巫女か――に声を掛ける。

 

「いやにしても、面倒をかけてしまいまして、申し訳ない」

 

 謝罪の言葉を掛けるのもむべなるかな。彼らの職業(・・)ゆえ仕方がないが、夜も遅くに騒ぎ過ぎていた。

 勤めの前の決起集会であったとはいえ、そんなものは街の者には何の言い訳にもならない。

 流血沙汰が起こる――鬼殺隊に突っかかった町人が斬られる恐れもあるからということで、そのようなことが発生する前に、神社の方が場所を提供してくれる運びとなったのだ。

 

「い、いえ。これも我々の務めであるので、お構いなく」

 

 非は我らの方にあり。

 そんな思いを込めた発言はすげなく流され、続く言葉も歯切れも悪く返され、怯えたようにそそくさと離れていく。

 ちらりと腰に提げた得物を見て、仕方がないかと息を吐く。

 

 時代が時代。賊となんら変わらぬ粗野な者(武士)たちが、乱暴狼藉を働くことなど、日常茶飯事である。

 そのことを知っている男は、納得はしつつも気落ちした。

 

「あ~あ、兄貴振られてやんの」

 

 距離を取った少女の姿を見て、周囲の男たちは囃し立て始める。

 揶揄われた男は、一瞬だけ立ち止まると素早く拳を振り下ろした。

 

「い、いってぇ~!!」

「次は殴ると言ったはずだ。それに、あれは我々のような男所帯に恐れただけだ……決して振られたわけではない」

 

 零れた言葉に笑いが起こる。

 その声を聴いた男はなんともバツが悪く感じ、思わず少女の方に目線を向けると、彼女の方も男の方を見ていた。

 とはいえ目線があったのは一瞬のことで、すぐさま逸らされてしまう。

 彼女の視線に含まれていたのが、なんというか、憐れみのような感情だったので、男はなおさらヘコんだ。

 

 

 そんなことをしているうちに、導かれるまま男たちは神社の境内へと入っていく。

「そ、そちらの本殿が外陣の方にて、か、か、神主様がお待ちになっておりますので、ど、どうぞごゆるりと」

 

 言うが否や、少女は足早に男たちから距離を取る。

 

「あいや!待たれよ!」

 大きな声で呼び止められ、少女の体が僅かに跳ねる。

「な、何か……?」

 

 一刻もこの場を離れたい。少女のその気持ちを察した男は、手短に伝えた。

 

「そなたを出歩かせてしまった我らが言うのはなんだが、夜は極力家に居なさい――人を喰う悪鬼どもと出会ってしまう前に」

 

 男の言葉と共に、鬼殺隊の雰囲気は大きく変わった。

 先までの態度は鳴りを潜め、十対の瞳は、真剣な眼差しで少女を見つめる。

 

「は、はあ。分かりました」

 その言葉を残すと、今度こそ少女は男たちから離れていった。

 まるで何かから逃げるようなそぶりであったが、男集団からは極力離れたいものだろうと彼らは気にも留めず。

 

 男たちは一応参拝してから、社の襖を開ける。

 

「ご一同。夜分、お勤めご苦労様です」

 

 室内には少女の言う通り、神主の恰好をした人物が一人、待ち受けていた。

 言葉と共に伏せた頭を上げると、蝋燭と月明りが、その男の整った(かんばせ)を照らしていく。

 

 その顔を見た男たちは――鬼殺隊の者たちは、息を飲んだ。

 

「申し遅れました。私はここの神社の神主をやっておりま――」

 

「――貴様は鬼舞辻無惨!?何故ここに?!」

 

 彼らが知る、鬼の首魁の顔が、そこにあったのだから。

 

 

 兄貴と呼ばれた男が、弾かれるように刀に手をかけ、鯉口を切る。

 同時に、他九人の鬼殺隊員の頭部が、ザクロのように弾け飛んだ。

 

「……は?」

 

 先ほどまで酒を交わし、同じ釜の飯を喰らった仲間たちが、一瞬で散っていった現実に、思考が追いついてない。

 

「何故貴様らが私の顔と名前を知っているのか、一層興味が湧いたぞ鬼狩り共よっ!」

 

 目の前には文字通り、鬼の形相を浮かべる男が一人。

 

「貴様は実に運が良い。二つの幸運を掴んだのだから。一つは貴様ら鬼殺隊が探し求めていた者が、今こうして現れてやったこと。そしてもう一つは、周りの異常者どものように、すぐに殺されなかったことだ」

 

 敵が一歩近づいても、男は微塵も動くことが出来なかった。

 

 現在の鬼殺隊の基本戦術は、槍や弓、罠や毒で動きを封じ、陽光で鬼を焼き殺すというもの。

 呼吸も使えない人間が鬼を倒す最も確実な手段がそれである。

 個の力が劣る以上、数と知恵を駆使し、多対一で鬼へ相対するというのは当然の成り行きであった。

 

 その中で、男は鬼殺隊士の中でも上位に位置する者であった。

 卓越した指揮能力も然ることながら、人にしては恵まれた体躯と培われた剣術により、己が手で鬼を討伐した経験を有する数少ない強者。

 そう遠くない未来には、鬼殺隊最高幹部――柱にすら名を連ねるだろうと期待され、また本人も自負していた。

 人間が力を合わせれば、討ち取れぬ鬼などいないと、男は常々そう豪語する。

 

 だがしかし。

 今際の際、男は己が間違いを悟った。自分の発言は、何の根拠もない薄っぺらなもの妄言なのだと思い知った。

 

 何故なら、彼が討ってきたのは鬼であって、鬼でなかったから。

 何故なら、彼はこの時初めて、本物の鬼(・・・・)と遭遇したのだから。

 

「知りたいことを数多あるが答える必要はない。元より異常者からまともな答えが返ってくるなど期待しておらぬ。貴様の肉体から、直接聞き出させてもらおう」

 

 首を掴まれ、鬼の爪が血の管に喰い込もうと、男は微動だにせず。

 初めて(まみ)えた真なる鬼。その恐怖に、飲み込まれていた。

 

「さあ。私の役に立つが良い」

 

 どくりどくりと。

 無惨の血が、流し込まれて。

 男の意識は、浚われた。

 

*1
日本での登場は11世紀末ごろ。無惨が作らせた




次話はもし書ければ5/25(水)18時ごろを予定。
ダメなら来週を予定。
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