【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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当てつけか貴様

 無惨の前に現れた鬼殺隊。

 抜かれずに済んだ刀が発するのは、不倶戴天たる太陽の気配。鬼を殺すための武器――日輪刀で間違いない。

 ほんの僅かに存在していた、ただの同名組織という可能性は、この時点で潰えた。

 

 不可解なのは、無惨の名と顔を知っていたこと。

 名は知る機会があっても、写真など概念すら存在していない時代に、彼の顔を正確に把握しているのは、些か以上におかしかった。

 

 その疑念を解消し、詳細な情報を得るため、残した一人を鬼に変え、喰らおうと肉を咀嚼し――その不味さに吐き出した。

 

「ぐっ!クソっ!なんだこの味は!?」

 

 そう。何と無惨は人だけでなく、鬼すら碌に食べることが出来なくなっていた。

 人の肉に比べれば、噛める分だけいくらかマシと言ったところか。

 

「まさか人だけではなく鬼すら喰えなくなっていたとは……待てよ、待て待て待て!」

 

 嘔吐(えづ)きながらも、無惨ははたと気づく。

 彼の計画は、千年後に現れる太陽に打ち克つ少女を鬼に変え、それを喰らって太陽を克服するというもの。

 

 そう、鬼の少女を喰うのだ。

 

 目の前の鬼を見る。

 再度肉を千切る。

 口に入れる。

 咀嚼する。

 吐く。

 

 では口以外の場所から取り込んではどうか。鬼の肉体は可変にして万能。体のどこからでも摂取することが可能なのである。

 期待を込めた(こころ)みも、あえなく失敗。

 むしろ、こちらの方が酷かった。

 男の細胞を内部に入れた瞬間、激しい頭痛や眩暈、悪寒といった、感冒の如き症状に襲われたのだ。その苦しみは、病にすら打ち克てぬ脆弱な人間であったころを思い出させた。

 

 肉の一片でこの有様。では少女一人の肉体を喰らうことが、出来るだろうか。

 考えるまでもなく、不可能だ。

 

「――あのっ!藪医者がぁぁああぁぁっ!!なにが人喰いの克服だ!?むしろ弱体化しているではないか?!」

 

 狂える鬼の咆哮が、神住まう社の中で轟いた。

 ことここに至り、医者への恨みは骨髄に徹する。

 

 その怒りの矛先が、目の前に居ない医者ではなく、目前の鬼に映るのは、ある意味自然な事であった。

 

「当てつけか貴様ぁぁ!!」

 

 無惨の呪いによる拘束が解けたのを幸いに、仲間(人間)の肉を喰らう目の前の鬼を、感情のまま叩き潰した。

 無論、鬼に無惨を煽るような意図は全くない。そのことは鬼の思考を読み取れる本人が一番わかっている。無惨の瞳にはそう映った。ただそれだけの理由で殺されたのだ。

 鬼殺隊の人間としては、人を殺す前に死ねたのは、むしろ幸運だったのかもしれないが。

 

 わざわざ作った鬼を床の染みに変えたが、その程度では彼の怒りは収まらなかった。

 

 今宵、幾度も彼の怒髪は天を衝いたが、今回のそれは中でも最大。彼の逆鱗を触るどころか抉り出す代物であった。

 それほどまでに鬼が喰えなくなったこと、ひいては陽光克服の目途が途絶えたことは無惨にとって堪えがたい。

 

 ちなみに、無惨が鬼になった医者を喰らうことなく逃げ去ったのは、鬼が喰えなくなったのを本能的に察知したというのも一因にある。

 最大の要因は、大正時代に喰らった一人の女医のせいだが。

 

「クソっ!私以外の鬼のことも、鬼殺隊のことも知れぬ!何より鬼すら喰えぬだと!!厄日とはこのことか!?」

 

 何一つ上手くいかない状況に、無惨は怒りは更に募る。

 なお、取り込まずとも聞き出したり書き出すといった形で情報を得ることは可能であり、自らの食性について検証する時間は十分以上に(優に百年は)あった。

 だが無惨は己を絶対かつ正しいと自認している。そんなことを斟酌するような男では、決してない。

 

「ふぅーっ。……いや、他の鬼や鬼殺隊のことなど、最早どうでもいい。私は永遠を手に入れる。そのための最優先事項は太陽の克服。それには鬼を喰うことが不可欠。大事なのはこれ。これだけだ」

 

 落ち着きを取り戻した無惨は、ぶれかけた目的を見つめ直した。

 

 千年経とうと変わることのない、この無惨の思想・性質こそが、彼の血気術の根源だ。

 そこに至るまでの過程で、社は木っ端と成り果て、元の姿は微塵も残っていない。まさしく神の怒りを受けたかのような悲惨な有様であったが、その程度の些事は気にも留めていない。

 

「それに鬼や鬼殺隊(奴ら)を調べる当てがないわけではない」

 

 無惨が語る当てとは、彼が以前から企んでいたある計画のこと。それが実現すれば彼が求める情報も集めることが出来るだろう。

 

 己が考えを更に纏めるため、無惨は己が根城たる地下室へと帰っていく。

 

 台風一過。怫然とした荒魂の業が刻まれた境内に、しばらくすると人の影が現れる。それも、一つや二つでは利かない数が。

 吹き荒んだ()の怒りは、神域を超え街の隅々まで響いていた。当然、住人の耳朶も打たれ、彼らの安眠も破られている。

 されど彼らは不平を零すことなく、極自然と無惨の元へと集まり、石階(いしばし)の下で平伏していた。

 鬼の怒りが収まったと見るや否や、彼らは破壊された鳥居を乗り越え、黙々と瓦礫を片付けていく。

 

 無惨が何を言うまでもなく、機嫌を損ねないように、先んじてやるべきことをやる。

 これがこの街で生きるための処世術であり、無惨が密かに気に入っている所であり、長い間彼と共に生きるための秘訣の一つでもあった。

 

 




次話は来週の予定です
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