【完結】無惨様の、強くて(?)ニューゲーム!   作:和尚我津

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遅くなりました。


お召し上がりください

 無惨の怒りが爆発した文字通りの厄日から、街の者たちは総出で境内の復旧に勤しんでいる。

 男たちは瓦礫の撤去や資材の運搬といった力仕事に精を出し、女たちは調理場で彼らの(まかない)を作り続け、武士たちは金を吐き出し、知恵者は図面と無駄のない計画を作成し、それを元に職人たちが新たな社を建築していった。

 

 人間でありながら、彼らは昼夜問わず精力的に、そして効率的に働いていく。

 その甲斐あって、着工から僅かな間で社は建て直され、かつ絢爛豪華に変貌を遂げた。

 

 驚くべきが、街一つを巻き込んだ大規模な行事でありながら、極めて静閑に作業が行われた点であろう。

 作業の計画打合せや段取りは全て別の所で行われ、現場では無駄な言葉は発さず、物音を立てず、いっそ不気味なほど粛々と工事は進行。

 施工現場はまさに、恐れ多くも神の頭上。神の怒りを目の当たりしたばかりの彼らは、誰が言うこともなく、その怒りを買わないように細心の注意を払っていた。

 

 神の機嫌を取るための奉公なのだ。神の機嫌を損ねるなど、本末転倒甚だしい。

 

 悲惨であったのは地上部だけではない。無惨の居室たる地下の石室も惨憺たる有様であった。

 無機質な部屋であるが、形だけの神社とは異なり、真に神が住まう神殿である。優先度で言えばこちらが断然上であったが、半壊していても現在進行形で神が住まう場。手直しをするので退出してくださいなどとは、口が裂けても言えはしない。

 部屋の主を叩き出す訳には行かないため、修繕は無惨が散策に出た時を見計らって行われた。

 作業時間は僅かゆえ突貫でありながら、無惨の美意識に叶うように仕上げなければならないという、繊細さも求められる非常に難易度の高い任務であったが、無惨をよく知る職人たちは見事その仕事をやり遂げる。

 

 なお瓦礫撤去の最中、鬼殺隊員の遺体も見つかっていたが、さもありなん、無惨()に触り祟りを呼んだ者たちとして、その亡骸の扱いは極めて雑に処理された。

 

 

 住人たちが無惨の機嫌を取るために行った奉公の数々。無惨がその報告を聞き入れた際の返答は『そうか』の素っ気ない一言で終わったが、ある意味それこそが彼らの求めていた言葉であった。

 

 街の人間たちが精力的に働いていた(媚びを売っていた)間、無惨もただ遊んでいたわけではない。

 日光克服に対して発生した、重大な障害について、考えを巡らしていた。

 人間だけではなく、他の鬼を取り込むことすら困難であることが判明したのだ。計画が頓挫した。

 だがそれ以外に良策が思い浮かんだかというと、そうではない。

 

 もう一つの希望であった青い彼岸花が期待外れだった以上他に方法はなく、仮にこの世のどこかにあったとしても都合よく現れるとは考えにくい。

 なにせ、千年掛けて解決に尽力してきた課題だ。ここにきてそんなものが見つかると考えるほど、無惨は能天気ではなかった。

 

 ではどうするか。

 無惨は考えて考えて考えて――ある一つの決断を下した。

 苦虫を万匹まとめて嚙み潰したような表情と、諦観を含んだ深い溜息と共に。

 

 

 崩壊した神域が復活して、一年。

 無惨の傍には数人の()が侍っていた。

 無惨を信奉する住人たち。その中から無惨が直々に厳選し、作り上げた鬼たちである。

 

「神様のお食事をお持ちいたしました。また、先日亡くなられた街の者たちでございます。神子様方には、どうか彼らに健やかな旅立ちをお願いいたします。」

「謹んで頂戴いたします。下がりなさい」

 

 住人たちが持ってきた食事(・・)を、神子と呼ばれる鬼たちが受け取る。

 よほど幼くない限り、死体は老若男女問わず押しなべて重い。運搬には複数人必要なほどに。

 そんな重量物を鬼たちは一人で軽々と担ぐ。

 見た目は人間であった時と殆ど変わらず、されどその腕力は人知を超える。万人にとって極めて分かりやすい特別(・・)であった。人であった彼らを知る者たちは、その変貌に驚きの念を隠せない。

 人を超越した彼ら鬼たちは自然と『神子』と呼ばれるようになり、そんな彼らを作り上げた無惨は更に人々からの信奉を集めることとなった。

 

 神子たちの発言力は自ずと高まり、あっという間に無惨に次ぐ地位を得ていた。

 そんな神子たちであったが、真なる役目はただ一つ。

 

「我らが神よ。御食事の前に、どうか私をお召し上がりください(・・・・・・・・・)

 

 その使命を果たすため、ある鬼は己が腕を引きちぎり(・・・・・・・・・)、差し出した。

 

「……っち!」

 

 無惨はそれを生ごみを見るような目で見つめ一瞬躊躇うが、舌打ちを一つ打つと、思い切って喰いついた。

 

「うっ!」

 

 一噛み。たったそれだけで空っぽの胃ごと吐き出さんばかりに吐き気を催すが、それを耐えて咀嚼を続ける。

 

「っぶはぁっ!!げほっ!おぇっ!」

 

 結局三回も噛めぬうちに吐き出して終わるが、それでも無惨はこれを繰り返す。毎日、毎食、腹に食べ物を入れるその前に。

 

 

 

 無惨が日光克服の手段についてどれだけ考えても、鬼の少女を喰らうこと以外の方法が思いつかなかった。

 であるならば、喰えなくとも喰わねばならない。

 喰えないのならば、喰えるようになればいい。

 

 これこそが無惨が下した決断。

 何のことはない。喰えないものを喰えるように、鬼の肉を喰えるようにするため、ひたすら鬼の肉を喰うことにしたのだ。

 さながら、食わず嫌いを直す子供のように。

 

 神子たちの役割は、無惨に鬼の肉を提供すること。

 ただそれだけだ。

 

「大丈夫ですか?!神よ!?」

「これが息災に見えるかぁ!?」

 

 無惨の余りの有様に、心配して発した部下の言葉は、無惨の神経を逆撫でするだけであった。

 胴体に大きな風穴が空き、壁に叩きつけられて血を巻き散らす。

 生命力の強い鬼でありながら、死の一歩手前に立たされる。ただの八つ当たりで死に瀕した部下の鬼は苦悶――ではなく恍惚とした表情を浮かべる。

 

 かつてと同じく、新たに鬼となった者たちは読心の呪いをかけられていた。この縛りにより、鬼は無惨の前で隠し事が出来ない。嘘偽りのない、文字通りの本心が無惨の前で晒される。

 当然、目の前で死にかけている鬼の心も無残には読める。結果として、無惨の怒りが思いもかけず鎮まった。神子たちが浮かべる嘘偽りのない本心――喜悦の感情を知ってしまって。

 

 喰われることも、殺されることも、無惨から齎されるのなら、それは祝福に他ならない。

 この個体がそうなのではない。神子と呼ばれる者たちは揃いも揃って同じ感情を抱く。

 彼らは間違いなく、狂信者と呼ばれるものたちであった。

 

 無惨手ずからであれば死すら喜ぶ、到底理解出来ない思考回路に、かつて上弦に名を連ねていた異形の鬼が脳裏を過ぎる。

 

 死にかけているというのに喜ぶ異常者を見て、自らが厳選した結果とはいえ、喜色悪いものを見たかのような表情になるのを抑えきれない無惨であった。

 

 

 




次話は明日6/13(月)、18時ごろを予定しています。
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