遊戯王の世界に転生したが、原作イベントを踏み外すと世界滅亡なんて冗談じゃない 作:鏡路の一般兵
やべー。マジで髪型ヒトデじゃん……。
豪華客船の中で俺―― 倉瀬カインはタコ部屋に文句を言う青年「城之内克也」と原作主人公「武藤遊戯」を見ながら心の中で呟いた。
実は少し不安だったのだ、アニメキャラが実際に存在するこの世界において、見た目で原作の登場キャラを俺は正しく認識できるのか。
そういった意味で、遊戯の髪型がヒトデだったのは本当に幸いだった。
あれが武藤遊戯であり、その隣に立つ男が城之内克也であると確信できるのだから。
遊戯王デュエルモンスターズ。
それは日本どころか世界に名を轟かせるカードゲーム。
詳しい説明はこれを見ている諸君らには不要であろうから省かせてもらうが、俺はその世界に転生した。
もっとも我々の知る遊戯王世界とは異なり、城之内がタコ部屋に文句を言うシーン……。
即ち、王国編の時点で現在のマスタールールっぽい何かが施行されている。
実際にあったらこんなの禁止確定だろうがという未OCGカードや原作効果の壊れカードも存在しているが、回避率35%に代表される俺ルールがまかり通ったりはしていないし、先行ドローもない。
さらに言えばカードのプールも広く、原作時点どころか現在OCGに存在する全てのカードより、シンクロ以降の召喚法に関わるカードが存在していないにも関わらず多い。
そのためこの世界では狙ったデッキを組むと言うことは、カードに選ばれてでもいない限り極めて難しい。
レベルの低いモンスターは弱い、レベルとステータスの高いモンスターこそが正義という価値観が浸透しているのはそのためである。
まあ、シンクロ召喚以後に見られる特殊召喚を連打するようなカードが少なく、特定のデッキを組めないような状態で、シャドール・ヘッジホッグ(☆3 攻撃力800 守備力200)を1枚渡されて使うかというのがイメージしやすいだろう。
シャドール・ヘッジホッグを1枚だけ持っていたとしても、「シャドール」魔法・罠が無ければリバース効果が意味を成さず、墓地に送られた時の効果を使うにしても他のシャドールモンスターが必要になる。
しかもこれはあくまで前提条件で、実際に実戦に投入するにはシャドールの融合体まで持っている必要まであり、持っている融合体が有能かどうかまで、全てが運否天賦なのだ。
また仮にこの条件をすべて満たしてエルシャドール・ミドラーシュのような超強力カードを入手できたとしても、遊戯王ワールドでの棒立ち2200などあっさりと戦闘破壊される上、王国編の使用カードレベルでは特殊召喚を制限しても正直頼りにならない。
マスターデュエルで例えると、屑カードが大量に追加投入されて平均の質がレガシーパックから5段階ぐらい弱体化したマスターパックの内、素引きだけで必要カードを揃えると言う苦行を越えた先にあるのがコレである。
しかもシャドールのような将来性のあるテーマならまだ希望もあるが、A・O・Jもびっくりな、OCGに存在していなくてよかったと言いたくなる、遊星ですら匙を投げるようなテーマのカードが集まってしまうなら自死も考慮に入るレベルである。
―― なお、自死というのは比喩表現やギャグでは無い。
将来的に戸籍にデッキ登録が必要になり、就職から何から何までデュエルが介入する遊戯王ワールドにおいて、OCG環境を知る転生者がそんな環境になって耐えられるわけがない。
人間誰しも、転生したら環境デッキで無双を夢見る……というのは言い過ぎにしても、低レベルカードを舐めている環境でならそこそこ以上にやれると思うだろう。
そこに渡されるのが屑やゴミや産廃を越えたカードの水増しにしか見えないものだとどうなるのか……。
精霊や神の存在する世界で安易にカードをゴミだのクズだの言うのは憚られるが、二頭を持つキングレックスが恐竜族最強カードになってしまうレベルのカードのような何かが跋扈する環境では割とマジで苦痛しか存在しない。
忘れがちだが遊戯王というアニメで映っている連中は基本的に上澄みで、羽蛾や竜崎ですら全国大会の決勝進出者。
画面の外は酷いことになっている。
きっと遊星の時代にもなると、転生者視点では絶対に水増しが目的だろとしか思えないカードにも、何らかの使い道が生まれていたのだとは思うが、このあたりは遊戯王ワールドの闇の部分と言えるのだろう。
そういった意味で、俺の元に集まったカードが「ドラグマ」や「烙印」に関連するものだったのは幸運にもほどがあった。
シンクロ以降の召喚法が存在しておらず、相手の場にエクストラデッキから召喚されたモンスターが存在していることは少ないという、かなり致命的とも言える問題点こそあれど、このテーマはOCG基準でも、遊戯王ワールド基準でも極めて強力且つ将来性がある。
俺は転生者特有の傲慢さというか、カードの精霊に嫌われてもおかしくない認識を持っているだけに、これは本当にありがたい。
もっとも、教導の大神祇官を始めとする「お前ら絶対闇のカードだな?」という危険なカードも集まってきているのだが、コイツらはデッキに入れさえしなければ何も問題はない。
……まあ、恐らく精霊が憑いているのだろうが、頻繁に入れた覚えが無いのに勝手にデッキに入ってきやがるので、デュエルの前に必ず確認。
デッキから抜くと言うステップが必要になるのだが、カードに恵まれると言うのは遊戯王ワールドでは大きなアドバンテージといえる。
遊戯王ワールドの一般家庭に生まれた俺が決闘者の王国と言う、ペガサス主催の大規模大会に招待される程度には、である。
まあ、個人的に参加したいかと言えば正直参加したくないと言うか、下手に原作を改変して世界が滅亡しては困るので、
こういう大会には呼ばれたくなかったのだが……。
そこは流石に遊戯王ワールド、家族や友人からの応援。
カードパワーの暴力もあって今年の全国大会にすら出場した俺に断ると言う選択肢はなかった。
故に、可能なら原作とは関わらず、なんかほどほどにスターチップを集めて惜しくも予選敗退!ぐらいにするしかないだろう。
そうすれば周囲の応援に応えつつ、将来の就職にも有利な箔が――
「なあ、そこのお前!俺とカードをトレードしないか!」
「じょ、ジョーノウチクン!?」
付くとか考えてる時にピンポイントで俺に話しかけて来たのは原作主人公組の一角、城之内克也。
この決闘者の王国で全国大会二位の竜崎を倒してレッドアイズを手に入れ、元全米チャンピオンであるバンデット・キースすら撃破する成長株。
下手に関わって彼が本戦に出場できなかったり、成長イベントが潰れたりするとなにが起こるか分からない重要人物である。
故に、とにかく今は小手先でごまかすしかない。
トレードしていたのは原作イベントだったはずなので、城之内が使う予定のあるカードを貰ったりしなければ大丈夫だろうから、ここはとにかく俺の挙動不審な行動を誤魔化す。
「え、何で俺の名前を知ってるんだ?」
「ほ、ほら、さっき入口で何か騒いでたからさ。聞こえてたんだよ」
「あー、そういうことか!初対面のはずなのに名前を呼ばれたもんだから焦ったぜ!」
セーフ。
いや、本当に城之内相手で良かった。
遊戯相手なら絶対不審がられてたぞ……。
でも遊戯なら最初から話しかけてない気もするので、良かった悪かった的にはどうなんだこれ。
というかこのシーンで名前呼ばれてたっけ? まったく覚えてないんだが……。
とりあえずこうなってしまったものは仕方ないので、無難にトレードをするしかないわけだが……。
「で、 トレードだっけ? 別に俺は構わないけど……」
「お、中々いいノリじゃねーか!強いカードで頼むぜ!」
あ、お前実際にしゃべると饒舌に語ってる心の声のノリと違うなとか思ったかもしれないけど、俺はコミュ力が高いわけでは無いのだ。
率直に言って人がいると上手く話せなくなるし、相手からだと生意気に聞こえてしまうらしいが放っておいて欲しい。
などと誰に向けたのか分からない言い訳を思う程度には動揺しつつ、表面的には平常心を装って手持ちのカードファイルを漁る。
この時点での城之内デッキは戦士・獣戦士族中心のビートダウンデッキ。
原作改変を避けるなら相性は良くないが程ほどにレアでデッキに入らないカードを渡したいが、ぶっちゃけそもそも守るべき原作とは何なのかが俺には分からない。
それは王国編の時点で生贄ルールが存在しているというか、LP4000のマスターデュエルっぽい何かだからというのもあるし、テレビで放映された羽蛾 VS 竜崎が普通にハイレベルだったと言う事でもある。
二頭を持つキングレックスが恐竜族最強のレアカードと広まるような、あまりにも酷いカードプールの中、「ダイナソー」の名を示すかの如く華麗に立ち回った竜崎の姿に、俺は涙しか出なかったほどである。
あれから戦力強化に数十万を掛けレッドアイズを入手した先、城之内にアンティを仕掛けて奪われるかと思うと余計にだ。
「とりあえず俺から出せるカードはこれかな」
「どれどれ……」
ともかく、俺は何枚かのカードを城之内に提示する。
城之内の主力である戦士族モンスターを強化できる「最強の盾」
ドラグマとの相性が良く、普通に余っている「ワンダーワンド」
そして現在の城之内デッキとの相性は良くないが、将来的にレッドアイズが加入するとなるとドラゴン族サポートが共有でき、さらに単純に強い「暗黒竜コラプサーペント」&「輝白竜ワイバースター」のセット。
「ほうほう……」
興味深そうにこの4枚のカードを見る城之内は果たしてどれを選ぶのか……。
……いや最後の2枚セットで確定して欲しいんだが。
城之内のデッキを少しでも強化しておきたいんだが。
と、言うとそもそもこの世界で強いカードは希少なんじゃなかったのか、原作崩壊はどうした、トレードに出してよいのかという話もあるだろう。
これに関しては正直普通に俺も渡したくない、特に下の2枚は通常トレードに出せるカードでは無い。
通常召喚できないという一文のせいで遊戯王ワールドでの評価は低く、使いこなすだけで褒めてもらえるため渡すのは惜しいが、一番怖いのはここで出し惜しみすることである。
そう、主人公チームがどこかで事故って世界が崩壊する可能性を考えると、渡せる範囲で強力なカードを渡すにこしたことは無いのだ。
だが、問題なのはこの遊戯王ワールドの価値観。
「よし、じゃあ俺はこの最強の盾が欲しいぜ! 俺の出せるカードは……」
「~~~~!!!」
思わず苦悶の声を上げる。
そんな俺の様子に城之内が最強の盾をレアカードだと思ったのか、「……釣り合うカード出せるかな」なんて焦っているが、なんて言う事もない。
この時点の城之内があまりにも城之内だったからである。
いや、そんな気はしたのだ。
確かに最強の盾は強い、この時点だと滅茶苦茶強い。
城之内の主力でアックス・レイダーに装備すると星4で攻撃力2850でブラックマジシャンを越え、バーバリアン1号2号のような上級モンスターに付ければレッドアイズどころかブルーアイズすら上回る破格の上昇幅を誇る。
当然守備表示のモンスターに付けて壁にしても戦える。
原作よりインフレが進んでいるとはいえ、この時点の城之内デッキとしては破格の強さを持ったカードだというのも推測できる。
だが「コラプサーペント」&「ワイバースター」を上回るかと言えば絶対にNOである。
召喚法が限られている以上、素材としての活躍は勿論限られているが、この二匹の強力な点は召喚権を使わずにモンスターを場に出せる上、そこから生贄やコストに使う事も出来れば、壁モンスターとして使い倒すこともできると言う点だ。
なんならコラプサーペントの方は黙って攻撃力が1800あるので、この時点における星5級のステータスがある。
そのため主人公チームの強化のためにも、ここはノータイムで選んでほしかった。
少なくとも、この船に乗っているレベルの面々なら、多少迷うことはあれどこの2枚は確実にトレードしたいカードとして選んだだろう。
だが残念かな、この時点の城之内は爺ちゃんからの教えを受けているとはいえ、町内大会ベスト8という急成長前。
遊戯の善意で参加しているだけの素人に毛が生えた程度の新人なのである。
「じゃあ、俺はこのカードを貰おうかな」
「え、それでいいのか?ありがとな!!」
俺は城之内が悩みながら提示したカード――。
これから原作で大活躍することになる墓荒らしから目を背けつつ、救魔の標―― 墓地の魔法使い族を手札に戻す魔法カードを貰った。
いや普通に強いだろコレ。
戦士族主体の城之内デッキ、蘇生手段豊富なブラマジを使う遊戯デッキ。
原作チームのデッキに入らないだろうが、俺のドラグマデッキとの相性は中々に良好だ。
墓地に行ったエクレシアを手札に戻してサーチが出来るのは普通に偉い。
勿論、もっと優れたカードがあると言えばそうなのだが、この世界では必須カードや汎用カードを集めるハードルがやたらと高いという問題がある。
マジで良いもん貰ったわ。
「城之内くん!」
「遊戯! いまちょうど最初のトレードが終わった所だ!」
なんて思ってたら、俺の元にやってくるヒトデ頭の主人公。
あれ? 羽蛾イベントっていつだっけ? これから? もしかしてフラグ潰れた?
フラグ潰れたら戦いの神モードの王様が初手エクゾディアで帰らなくなったりする?
それともアニメや漫画ではカットされただけで、遊戯にもトレードタイムがあった???
「へぇ、トレードを……。あ、良かったら僕ともトレードしてくれませんか?」
「あ、あの武藤遊戯!? 僕は別に構いませんが……。」
「そんな堅くならなくていいよ、気軽に遊戯って呼んでくれれば」
そんな風に困惑している間に向けられた人懐っこい笑みに思わず承諾しつつ、
城之内とトレードをしなかった3枚を見せると―― 表情が変わった。
雰囲気は変わっていない、表情が変わったのだ。
「この3枚、全部トレードできませんか? ええと……」
「やっべ名前聞いてなかった……」
「城之内くん……」
真剣な表情でトレードを持ちかけようとして、俺の名前を知らないことに気が付き、城之内に視線を向ける遊戯。
そしてその小声で呟きながら思わずその視線から目を逸らす城之内。
「倉瀬カインです。倉瀬と呼んでください。
トレードは……カード次第ですね」
「うん!倉瀬くん……って……あ、全国大会に出てた……?」
「はい、二回戦で負けちゃいましたけど……遊戯くんも知ってたんですね」
「えーっと……大会で一番不幸だった人って新聞に乗ってたからね」
「あははは……」
ぐさり。
思わず心がえぐられた。
そうなのだ、俺は全国大会出場者であり、だからこそ王国に招待されている。
竜崎、羽蛾、梶木のようなベスト4クラスではないが、そこそこに活躍していて、ちょっと知名度があったりするのだ。
諸事情あって壮絶な手札事故を起こし、カードをセットすら出来ないまま敗退したとはいえ全国大会出場者なのだ。
「こっちから出せるカードは……」
などと俺がダメージを受けている間に遊戯はカードをいくつかの種類に分けてカードを並べる。
属性や種族に分けつつ、汎用のカードもいくつか。
その中には暗黒の竜王など、原作で使ったカードの姿もある。
「なあ、どうしてそんなに並べてるんだ?」
「倉瀬くんが持ってるカードがどうしても欲しいんだけど、どんなデッキを使ってるか分からないからね。
これから大会がある以上使ってるデッキは聞けないから、必要なカードを出せるようにしようと思って」
「な、なるほど…… トレードってそういう風にするのか、勉強になったぜ……。
そうすれば釣り合わなくて困る心配が無くなるんだな……。」
ガチである。
いやまぁ現在の遊戯はペガサスに爺ちゃんの魂を奪われているわけで、
ガチにならない理由は存在しない。
俺としても遊戯の勝利は絶対条件なのだが、ここで釣り合わないカードの交換は難しい。
だが、だからと言って原作で活躍した経験があり、この世界でも使われるかもしれないカード……。
例えば一角獣のホーンなんかは貰うわけには行かない。
下級なら良いだろうと思って、マンモスの墓場を貰えば大変なことになりかねない……が……。
『ヴァイオレット ヘカテー』
いや絶対欲しいのあったわ、東映版で杏子から譲り受けたレアカード。
こうしてトレードの弾となっているあたり、この世界では遊戯が自力で当てたのはよいが、上級魔術師としてはブラックマジシャンがいるから使わないと言う感じなのだろうか?
これは普通にコレクションアイテムとして欲しい。
「これ、1枚と3枚でどうですか?」
「1枚でいいの? 他のヘカテーカードが無いと機能しないけど……」
「ええ、コレクションアイテムとして欲しかったので」
迫真の表情。
遊戯としてはヴァイオレットヘカテー1枚では機能せず、大会前ということを考えると、自分有利なトレードになってしまうことを危惧したのだろうが、転生者としてはヴァイオレットヘカテーの方が希少価値が高い。
何せどう足掻いても元世界では使えなかった上に、実用性が無くもないカードだ。
欲しくないはずが無い。 ―― バンダイ版はあったが。
「よし!トレード成立だね!倉瀬くん、ありがとう!」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
そうして無事にというかなんというか、俺と主人公チームの初邂逅は平和に終わったのだった。
初投稿です。
よろしくお願いします。