遊戯王の世界に転生したが、原作イベントを踏み外すと世界滅亡なんて冗談じゃない   作:鏡路の一般兵

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・アニメ/原作的時系列
たぶんパンドラ戦の前後ぐらい

「……」ばかりだと読みにくいので終盤以外は普通に書いてますが、ここからの倉瀬のセリフは全部一言目みたいな感じでしゃべってます。



バトルシティ編 ~ マリク VS 倉瀬② ~

 

視点:マリク・イシュタール

 

「さ…ァ……、キミの……ターン……だ……。」

 

 ライフポイントを一切失うことなく神を倒すと言う偉業を成し遂げておきながら、闇のゲームという空間にいるだけで息も絶え絶えになる男。

 ソイツはマリクの理外の存在だった。倉瀬……ハードラックの二つ名を持つデュエリスト。

 

 デュエリストならば誰もが憎むであろうグールズの首領。

 それが自分の前にいると言うのに、彼には焦るどころか己に興味を持とうとする様子すらも存在していなかった。

 言うなれば前座、俺はもっと恐ろしい相手を知っているから、お前なんて怖くないと言うように。

 

 いや、実際に怖くなかったのだろう。コイツはレアハンターを介して遊戯の前に現れた時。

 ファラオの魂とその友人、ゲームの創造主であるペガサスがマリクに敵意を向ける中、1人だけそんなことに興味が無いとでもいうように黙々とカレーを食べていた。

 話を聞いていなかったわけではない。話を聞いた上で「それより優先するべきことがある」とばかりに無視されていて、その彼にとって優先するべき用件が単なる食事だったのだ。

 

 屋台のカレー程度に一族に負わされた役目、マリクの苦しみや宿命の優先度が負けているという事実。

 それはマリクにとって自分が取るに足らない存在だと、倉瀬が決闘者の王国で競り合った遊戯以下の存在であると言われているようで我慢ならず、断罪するべく彼の元へマリクは急行し、初手から神を呼び出した。

 神のカードの強みとは大多数の魔法・罠・モンスター効果を受けないその圧倒的な耐性。

 それに3体の生贄の能力を合計する圧倒的なステータスが加われば、それは何者をも滅ぼす怒りの炎となる……はずだった。

 

 しかし神は至極あっさりと、神の力すらも上回る理。デュエルモンスターズのルールによって排除されてしまう。

 その後の展開はと言えば「場に出されていたのが神でなくともこうしていた」とでも言わんばかりの鮮やかな融合コンボであり、罠カードを発動させてダイレクトアタックを防ごうとするも倉瀬はそれすらも起点に更にモンスターを展開。

 結果的にダイレクトアタックを防ぐことすらできず、ブルーアイズの攻撃すら受け止める守備力3000を誇る超大型の壁モンスターを場に出すことまで許す有様となった。

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

 この屈辱的かつ一方的に不利な状況を打開しようにも、マリクの手札は現在のドローを含めて2枚でフィールドのカードは無し。

 倉瀬は手札こそ0枚ではあるが、場には守備力3000の教導の大神祇官と、攻撃力2000の教導の神徒に加えセットカードが2枚。

 決闘者の王国の準決勝で遊戯がされていたように。否、それ以上のアドバンテージの差をマリクは付けられてしまっていた。

 彼にとって幸いなのは、闇のゲームの影響を大きく受けているのか、神の威光の前に消耗したのか、倉瀬がライフポイントを削られる前から息も絶え絶えであることだろう。

 

(チッ…… 墓地からセットされたのはただの魔法カード。一度ターンを回してしまえば手を付けられなくなる可能性があるが、ボクのターンに発動することはできない。

 しかしそれと同時に今の手札では逆転の手も望めない……)

 

 マリクのエースであるラーの翼神竜は、生贄にした3体のモンスターの攻撃力と守備力を合計した数値を得るという最強の効果を持っている。

 雑魚モンスターを大量に展開して神の生贄を準備するデッキ……、人形に持たせたオシリスの天空竜のようなタイプを除くと、基本的に最上級以上のモンスターは召喚した時の攻撃力の上昇幅が落ちるものなのだ。

 例えば生贄無しで召喚できる中で攻撃力が高いモンスターの代表、ブラッドヴォルスの攻撃力は1900。

 これを生贄にしてデーモンの召喚を出すと攻撃力2500、1900のモンスター1体で2500のモンスターを呼び出したことになる。

 

 ではこれが生贄を2体要求する中で最強のモンスター、攻撃力3000のブルーアイズホワイトドラゴンならばどうなるだろうか。

 攻撃力1900のブラッドヴォルスが2体で3800。即ち攻撃力3800を生贄に3000を出しているわけで、総合攻撃力という観点から見ると天下のブルーアイズをもってしても800ポイントの損をしている。

 勿論、これは総合攻撃力という観点から見た場合の話であり、戦闘破壊のされにくさを考えると生贄召喚を行ったモンスターが弱いという訳ではなく、上級モンスターになればなるほど、攻撃力上昇の効率が落ちると言うだけの話である。

 

 しかしこれがラーの翼神竜ならばどうだろうか。

 3体の生贄を合計したステータスを得ることが出来ると言うのは、この攻撃力上昇の効率という観点から見て極めて魅力的である。

 仮にフィールドのブルーアイズ3体を融合して究極竜を召喚しても攻撃力4500にしかならないのに、ラーの翼神竜ならば攻撃力9000となって攻撃力10000の大台すら見えてくる。

 手札の枚数で攻撃力が変わるオシリスならこの攻撃力上昇の効率は別の話となるが、現実的に3体の生贄を用意した時点で期待できる攻撃力は2000から3000程度。

 生贄召喚に成功した時に期待できる攻撃力と言う点ではラーに遠く及ばない。

 

 勿論、先攻で召喚する場合はラーの使徒に代表される、高速で神を呼べるが素の数値には難があるモンスターに頼ることになるため、そう極端に高い攻撃力を得ることはできない。

 しかし、大多数の魔法・罠・モンスター効果を受けない神の耐性なら、相手が召喚してくるモンスターを倒し続け、上級モンスターを召喚される隙を作らなければよいだけの話。

 仮に死者蘇生などで上級モンスターの召喚を許してもラーの使徒の攻撃力は1100。これを3体生贄にすれば3300となり、ブルーアイズが相手でも問題無く凌駕することができるのだから。

 

 マリクがラーの翼神竜を最強の神だと疑わず、ラーを高速で生贄召喚するためのデッキを組んでいるのは、この事実があるためである。

 

「マジックカード、悪夢の鉄檻を発動。このカードはお前のターンで数えて2ターン後のエンドフェイズまで場に残り続け、お互いにモンスターは攻撃できなくなる!

 これでボクはターンエンド」

「戦局を立て直す時間を稼ぐための遅延カードね。ドロー。

 ……手札も少なくて攻撃も出来ないんじゃ出来ることもないし、とりあえず教導の神徒は守備表示にしておいて俺はターンエンド」

「ボクのターン、ドロー!」

 

 倉瀬の周囲を包むのは重厚なる鉄の檻。

 あのカードは本来このような時間稼ぎに使うようなカードではない。神を呼ぶための生贄を揃え、対峙している相手を逃がさぬための物。

 それが神をも畏れぬ獣を抑え、自分を守ることに使われている事実に歯噛みしつつ、マリクはカードを引く。その瞬間。マリクは自分のデッキが、ラーが如何に最強であるかを再確認してニヤりと笑った。

 

「いいカードだ!手札のカードを全て墓地に送ってマジックカード 左腕の代償を発動!デッキから好きな魔法カード1枚を手札に加える!僕が手札に加えるのは貪欲な壺だ!」

 

 引いたカードはこの場において最も理想的とも言えるカード。

 地に堕ちた神を呼び戻すためのキーカードだ。

 

「貪欲な壺は墓地に存在するモンスター5体を対象とし、それら全てをデッキに加えてシャッフル。新たに2枚のドローを行う、デッキリソースの回復と手札の増強を同時に行える魔法カード。つまり……。」

「左腕の代償の効果で墓地に送ったヒューマイノド・スライムと生贄として墓地に送られたラーの使徒3体。そしてラーの翼神竜!現在墓地に存在するこの5体のモンスターをデッキに戻し、カードを2枚ドロー!

 フフ…… フハハハハ!!! 完璧だ!ボクは手札に戻ってきたラーの使徒を通常召喚!!」

「む……」

 

 太陽は落ちても何れまた昇る。

 それを示すかの如く、太陽神の眷属たる従者は再び盤面に舞い戻った。

 ここで起こるのは当然、1ターン目で3体の生贄を準備した盤面の再現。

 

「通常召喚したラーの使徒の効果を発動!手札・デッキからラーの使徒を2体まで特殊召喚!!」

「膨れたデッキを一瞬で圧縮……」

「さらに強欲な壺を発動!デッキからカードを2枚引いて!ターンエンド!!」

 

 一瞬で神を除去される。

 それはマリクにとって完全に予想から外れた展開ではあったが、左腕の代償を引けたことで、神と神を呼ぶための従者をデッキに戻し、初手で減った手札を補充できる貪欲な壺へのアクセスに成功。

 教導の神徒のダイレクトアタックで2000のライフを失ってしまったとはいえ、改めて神に捧げるための生贄を揃え、悪夢の鉄檻で1ターンの猶予を残している点を考えると、これで盤面を事実上互角にまで戻したと言えるだろう。

 

 倉瀬のセットカードは2枚。

 その内1枚はコストとして墓地に送られた後に再セットされた通常魔法であるため、先のターンで発動していない以上、発動条件を満たしていない、または発動しても有効に働く効果を持っていない可能性が高い。

 つまり警戒するべきはもう1枚のカードのみであり、マリクはそこに怯える必要はないと考えていた。1枚のセットカードに怯え、攻撃を躊躇するというのは、臆病なデュエリストだけが行う軟弱な行為なのだから。

 

「神をデッキに戻し、3体の生贄を準備……ね。

 悪夢の鉄檻の効果はこのターンまで、これは備えておかないと不味そうかな」

「分かってるみたいじゃないか、倉瀬! さっきは驚かされたが二度目は無い!貴様に勝つチャンスがあったのは最初のターンだけさ」

 

 神の耐性を無視し、ルール効果によって生贄とする戦術。確かに初見時は面食らったが、現在の盤面はマリクの視点からすると悪くない。

 倉瀬の場には最上級の壁モンスターがいるとはいえ、守備力3000程度では神の前に無力。

 相手に最上級モンスターを送り付けると言う都合、神すらも突破できる必殺コンボはそう何度も使えるものではない。

 1度限りの必殺コンボを受けてライフを2000消耗する程度で凌ぎつつ、神をデッキに戻しながら生贄を準備できたのなら安い買い物だったとマリクは思い直し、薄い笑みを浮かべる。

 

 しかし当然のことであるが、神を所有するマリクのライフが残っている危険性は倉瀬も分かっている。神の所持者が次のターンに神を引き直せないわけがない。ある種の確信めいた感情を抱きつつ、彼の持つメインデッキ最強のモンスターを呼ぶ。

 

「俺は自分の墓地のコアラッコアラ、聖女ジャンヌに加え、キミの墓地のヒューマノイド・ドレイクの2体、合計4体のエクストラデッキに存在したモンスターを除外」

「なんだ……その効果は!?」

「このカードは通常召喚出来ず、このカードの効果のみで特殊召喚できる。

 これが教導が誇る神像、レベル11モンスター、教導枢機テトラドラグマ!守備表示!」

 

 倉瀬の背後に雷鳴とともに現れるのは2体の竜の間に立つ聖者の像。

 神ほどの威圧感ではない。しかしブルーアイズならば上回るほどの力を持った、超大型のモンスターである。

 しかし、そんな切り札級のカードを前にしてもマリクの薄笑いは消えない。

 

「攻撃力と守備力が3200でレベル11。神をも上回るレベルを持つモンスターではある。だが、惜しかったな、このターンにお前は攻撃できない。

 如何にレベルやステータスが高くとも、モンスターの範疇であれば神には及ばないよ」

「分かってる。だから守備表示で出したのさ。次のターン、キミが神のカードを引き直せればコイツを倒せる。でも、神のカードを引き直せなければ総攻撃で終わり。分かりやすいでしょ?」

「フッ……フフフ、余裕な所悪いが、既に神を引き込む準備は整っているんでね。ドロー!!」

 

 人を捕らえ、獣を抑える鉄檻が砕け散る。

 マリクには神を引き込むための道筋は見えている。故に、如何に聖者の像が強力であったとしても、神に届かないのならばそれは敵ではない。神の威光に平伏す虫にすら劣る。

 

「ボクは埋葬呪文の宝札を発動!このカードは自分の墓地に存在する魔法カードを3枚取り除いて発動、カードを2枚ドローする!」

「キミの墓地に存在する魔法カードは二重召喚・貪欲な壺・左腕の代償・強欲な壺・悪夢の鉄檻の5枚……、当然発動条件を満たしていると」

「その通りだ!さらに天使の施しを発動し、カードを3枚引いて2枚捨てる。捨てたカードのうちの1枚は暗黒界の狩人 ブラウ!

 このカードは他のカードの効果で捨てられた時、カードを1枚ドローする効果を持つ!……よし!」

 

 数多のドローカードを使って一気に神を引き込みに行くマリクはその顔を喜色に染まったものへと変えた。

 神カードの所有者である彼は、数多のドローの末。当然のように神を引き直す。

 

「……引き当てちゃうか」

「当然だ! ボクは3体のラーの使徒を生贄に捧げ、再び現れろ!ラーの翼神竜!!」

 

 地に堕ちた太陽が再び登る。

 異世界の宗教に対し、己こそが神であると威光を示す。

 

「バトルフェイズ! お前の場でもっとも大型のモンスターはテトラドラグマだが、その召喚条件から再び召喚されることもあり得る。

 時間稼ぎから逆転の手を引かれても厄介だから、まずは再召喚の条件を潰すため教導の大神祇官を攻撃!!」

 

 神が敵と定めるのは聖者の像ではなく、その像から力を受け取る神官。

 しかし、その神官は神を見ていない。畏れ、目を逸らしているのではない。仮面で隠されたその顔の先には神の操り手、マリクの姿だけがある。

 

「ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 

 

―――

 

 

視点:海馬瀬人

 

 

 海馬は急いでいた。

 運営本部から「神と思われる召喚エネルギーの反応」があったとの連絡があったためだ。

 もっとも、そのエネルギーはほんの一瞬で消失したため、機械の誤作動だと判断されようとしていたのだが……。

 

 運営本部に居座っているペガサスから神ほどの召喚エネルギーを誤作動で感知するのはありえない。

 該当の場所では未だデュエルが行われているのだから、誰かが神の召喚に成功したが、一瞬で除去されたに違いないという意見が出され、誤作動だと思われるが一応報告は行うという形でほぼ最速で海馬にもその情報が伝わることになった。

 それを聞いた海馬は即座に誰がデュエルを行っているかの照会を行うように指示を飛ばし、答えを待つことなくモクバと共に駆け出す。

 KCの社員と同様にモクバも機械の誤作動を疑ったが、これは彼らがKCが誇る力の象徴、青眼の究極竜すらも鎧袖一触で蹴散らす神の姿をその目で見ているためであり、その神が一瞬で倒されるわけがないという思い込みがあったからである。

 

 しかし、実際に神のカードを操る海馬だけは神のカードが一瞬で除去されたという推測にも驚かない。

 神の耐性すらも上回り、一撃で除去できる「壊獣」の存在を認知していたからである。

 如何に強力な効果であっても、それを上回るルール効果で除去できるモンスター群。

 彼らは相手に最上級モンスターを与えてしまうという事もあり、その扱いにくさから世間的には弱いカードとして扱われている。

 相手フィールドに特殊召喚する効果を使わず、ただの最上級モンスターとして扱うと言う方法もある。

 

 しかし、単なる最上級モンスターとして採用するならばデッキにあった種族や属性のモンスターを選ぶべきだし、何より下手に効果を持っていることが足を引っ張る。

 想い出のブランコなど、通常モンスターをサポートするカードの恩恵を得られないのだ。

 神の対策という一点を考えるなら最高峰の性能を持つが、このカードを採用するということはデッキのバランスを崩し、同時に相手の場に出した最上級モンスターの処理手段も用意しなければならなくなるということでもある。

 それも手札の減った状態からだ。神と対峙することのない大多数のデュエリストであれば扱いにくいカードという評価になってしまうのも止むを得ないだろう。

 

 海馬は普段、結束や絆の力を見下しているが、それは単体で扱いにくいとされるカード、弱いとされるカードをデッキに入れないと言う意味ではない。

 サギーやペーテンのような攻撃力の低い闇道化師モンスターはその最たるものであり、ウイルスカードの媒介として便利に使っているわけで、世間的な評価は低くとも神のカード対策として壊獣の存在そのものは考慮済み。

 その上で最上級モンスターを相手に与えると言うデメリットは極めて重く、海馬の誇るパワーデッキですら送り付けた後の壊獣の処理は現実的ではないと結論付けていただけである。

 相手に最上級モンスターを与えた上、そのカードを減ってしまった手札で処理出来るようにするぐらいなら、最初から神には神で対抗するか、ブルーアイズを魔法と罠で支援して神相手でも殴り勝てるようにした方が手っ取り早いのだ。

 

 しかし同時に相手のフィールドに出した壊獣を処理する保障のあるデッキならこの上ない対策になることを理解していた彼は、一瞬で神の反応が消えたと言う報告を聞き、先日デュエルを行った相手、倉瀬カインのことを思い出したのだ。

 奴のデッキならば相手のフィールドに壊獣を出しても、アルバスの落胤の効果を使うことで即座に処理できる。神最大の弱点は究極竜のような即出しが出来ず、3体の生贄を要求されること。

 生贄を揃えている間にパニッシュメントでアルバス融合モンスターを落とし、アルバスの落胤をサーチすれば、アルバスの落胤による融合効果そのものは神に届かずとも、壊獣にしてしまえば届くのだから、奴ならばあるいはと思ったのだ。

 

 その後の続報は海馬の予想の通り、神の召喚反応があった場にいるデュエリストとは倉瀬カインのことであり、倉瀬の側も神には及ばないまでも強大なエネルギーを持つモンスターを召喚したと言う。

 一体何が起こっているのか、情報が足りないまま現場に急行する海馬の目に飛び込んできたのは、全てが終わろうとしている光景だった。

 

「ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 

 オベリスクに匹敵……いや、それを上回るかもしれない神の威容と、それに対峙するデュエリストの姿。

 またその場の異常な空気に海馬は一瞬怯んだが、即座に自分を取り戻すと動揺を隠せないモクバに医療班を手配するように伝えると神を見据える。

 それは神の弱点を探ろうとするデュエリストの本能であり、同時に神がたとえ立体幻像であっても、その攻撃を受ければ何かが起こることを直感的に理解したからだ。

 

「罠……カー……ド……発動……!」

「無駄だ!神にトラップは通用しない!!」

 

 そして海馬の目に映るのは最後の攻防。

 神の輝きと炎の存在によって神を操る敵の存在が確認できないが、倉瀬は外傷がないのにも関わらず疲労困憊。息も絶え絶えの状態で最後の足掻きを見せていた。

 文字通りそれは最後の足掻きであり、今この場に来たばかりの海馬では、神の力を知らないが故の無駄な抵抗にしか見えなかったが……。

 

「神にトラップを使うのでは……ない!トラップの対象は…… 教導の大神祇官だ!

 俺が発動したカードは……仁王立ち!仁王立ちの効果はフィールドの上の……表側表示モンスター1体の守備力を……倍に……する!これで教導の大神祇官の守備力は3000から倍の6000となり……」

「しまっ……!?」

 

 赤きオーラが教導の大神祇官を包む。

 神を撃ち落とすという殺意が込められているとしか思えないそのオーラは、教導の大神祇官の杖から光となって放たれ、神の放った炎を押し返す。

 そしてその光が神に届こうとした時、鈍い音がして、その数秒後に神の炎と赤い光は突如として力を失った。

 

 ドサリと、誰かが倒れたのだ。

 それと同時に攻撃を中断する神と、殺意を霧散させて倒れた誰か……倉瀬に視線を向ける教導の大神祇官。唐突な幕切れにこの場にいる誰もの思考が停止する中、最初に自分を取り戻したのは意外にもモクバだった。

 デュエリストではないが故、医療班を手配するために意識を回していたが故、誰かが倒れたという事実に意識を回すのが速かったのである。

 

「こ、このデュエルはバトルシティ運営委員長である俺サマが預からせてもらうぜ!」

 

 ピピー!と笛を吹くと、倉瀬の元に駆け寄って揺すり起こそうとする。

 年の差もあって中々難しいようだが、それを見たマリクと海馬が同時に動き出し、マリクはそのままバイクに乗って逃亡。海馬は一瞬逡巡した後、モクバと倉瀬の元にかけよった。

 

「お、おい!大丈夫か!? 今医療班を呼んでる!だから気をしっかり持つんだぜ!」

「……っ! あ……えーっと……海馬社長に……モクバ運営委員長?」

「ああ、良かった。デュエル中にいきなり倒れるから焦ったんだ……。大丈夫か?」

「え、ええ。まぁ。」

 

 そういって起き上がろうとする倉瀬だがどうにも起き上がれない。

 意識ははっきりとしているようだが体力の消耗が激しいようで、モクバはもう大丈夫だからと寝かせつつ、彼がもっとも信頼する存在である兄に声をかける。

 神の使い手、マリクはこの場から逃亡し、神の威容は光の粒子となって消えつつあるが、それがその場の異様な雰囲気を際立たせていた。

 

「兄サマ、これは一体……」

「分からん……。倉瀬が神のカードを持つデュエリストと交戦したことは間違いなさそうだが……」

 

 視線を決闘盤に向ける。

 神とそれに対抗するエネルギーで回路が焼け焦げたのか、デュエルは中断された扱いになって固まってしまっているが、ライフポイントの表示は彼が神の攻撃を受けようとした時のまま、4000と表示されている。

 ライフポイントが完全な状態で残っての決着。それは奇しくも先日海馬と行ったデュエルと同じ結果だったが、だからこそこの戦いが見た目通りの圧勝ではないことを海馬は理解していた。

 

「今のデュエルが、コイツの勝ちだったことは間違いないだろう」

 

 海馬が見たのは最後の攻防だけである。

 ラーの翼神竜の攻撃力がいくつだったのか、神のカード所持者のライフがどれだけ残っていたのかは分からない。

 決闘盤の回路が焼け焦げているなら、デュエルのログを見ることも、そこから神のカードの持ち主を探る事も不可能で、その姿ですら確認できたのは去り行く後ろ姿だけで、体格すらまともに確認できていない。

 

 しかし、ほんのわずかにでも、あと僅かな時間でも決闘盤が、倉瀬の意識が持っていれば……。仁王立ちの効果で守備力が倍になった教導の大神祇官、6000の壁に神の攻撃は跳ね返され、神の所有権は倉瀬へと移っていた。

 青眼の究極竜を打ち倒し、召喚エネルギーの反応から見て一度は迅速に処理している男が、その反射ダメージで勝負を決められないと思う程。

 海馬はデュエルがなんたるかを知らないわけでは無い。

 

 そして、神が、聖人の像が光の粒子となって消える中。

 フードの男の背を睨み続けていた教導の大神祇官は……、倉瀬の元へKCの医療班がやってきたのを確認した後、赤い霧となって消えた。

 

 




※誤解を招く内容になっていたので追記
マリクは別に闇のゲームの蓄積ダメージで勝とうとはしてないです。
ライフポイントが減ると精神力が削られる普通の闇のゲームを仕掛けたら、相手のオカルト耐性が低すぎて勝手に毎ターン特大のスリップダメージを受けてるだけです。


Q.前話の最後だと余裕ありそうじゃなかった?
A.倉瀬の一人称視点では「精神力削られてないから最善を尽くせる!ヨシ! 」って自己認識ですが、実際にはこうなってます。この時の精霊たちは何を言っているのかを答えよ(配点:デスピアポイント)みたいな状態です。

神徒さんの効果は文章のテンポが悪くなるのでカットされました。
勿論倉瀬は知ってますが、本作の掲示板世界線だとOCG化される時に追加か、後のデュエルで生える効果になります。不甲斐ない文章力の私を許してくれ……。

次からは「掲示板回」→「負傷退場した倉瀬のその後」→「ドーマ編開始」の予定です。

表マリクのデッキは100%妄想です。
3体の生贄を合計するステータスになるから最強だぜ!って思考なので、豊富なドローソースで高速召喚。倒されても貪欲な壺でデッキ戻して悪夢の鉄檻やらスライムで時間を稼ぎ、ドローで引き直してラーの生贄召喚ビートかなって感じ。
ラー本体と使徒3体で墓地モンスター4枚なので、左腕の代償で不要なカードを落として貪壺とか埋葬呪文の宝札(5D'sの未OCGカード)とかがそれっぽいんじゃないかと思った。


☆掲示板回でやるか分からないこの世界線におけるアニメやカード環境に関する設定

・掲示板世界線のアニメ
倉瀬の背景にいた怪しすぎる白仮面がデュエルで初登場。
王国編で使った教導勢が一切登場せず、新たなる教導勢(全員怪しい)が現れる形。
神の効果が完全不明(生贄の合計効果も非公開)のままデュエルが進行する中、闇のゲームで辛そうな倉瀬とそれを見る教導の大神祇官の意味深カットが多数。

アニメではさも効果不明だろうと、究極竜越えの攻撃力は相手は無理だろって感じでで、海馬戦の教訓を生かして採用した高攻撃力モンスター対策の仁王立ちで守備力6000の反射ダメージを狙ったように語られるが、実際には効果を知っていただけである。

・教導の大神祇官
初めての出番が闇のゲームで台無し デスピアポイント+1
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