遊戯王の世界に転生したが、原作イベントを踏み外すと世界滅亡なんて冗談じゃない   作:鏡路の一般兵

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・アニメ/原作的時系列
遊戯&海馬 VS ダーツ


※注意
ダーツの使用カードは詳細な効果が判明していないものが多く、解釈も分かれるので、効果が判明していない部分は完全にオリジナル設定です。掲示板世界線ではそうだったということで許してください。


ドーマ編 ~ダーツ VS 倉瀬②~

 

「お前のクエリティスは守備表示。スプリンドの攻撃が終わった以上、これ以上のバトルはできん。何も伏せるカードが無いのなら、速やかにターンを終了したまえ」

「……ターンを終了する」

 

 そう言った倉瀬の姿を見て自らのターンを宣言し、カードを引こうとしたダーツの動きが止まった。

 ターン終了を宣言したはずの倉瀬が笑いをこらえながら、身振り手振りで自分のターンがまだ終わっていないことを表している。

 

「ククッ……ターンを終了する。そんな訳がないだろう? たかがモンスターが3体出てきた。その程度で諦め、ターンを終了するようでは、私はマスターに憑いた精霊とは言えないのだよ」

 

 倉瀬の中にいる精霊は、自らの主が戦っていた姿を思い出す。

 ボロボロの精神状態の中、今にも倒れそうになりながら、闇のゲームという最悪の舞台に立ってなお二つの足で踏み止まり、神を撃ち落とす寸前まで至った時のこと。

 そしてドーマとの戦いが始まったあのビルで、意識を失うまで自らのデッキと勝ちを信じ続けた時のこと。

 

 それらの時と比べ、今の自分はどれほど余裕があることか。ライフポイントがだとか、盤面だとかではない。まず、普通に立っていられる。

 それだけで戦う理由になると言うのに、もはや抵抗は無駄だからターンを終了しろとばかりに言葉を発するダーツの姿は、彼にとって滑稽にしか見えなかった。デュエルとはライフポイントを0にするまで、最後の1枚を引くまで勝負の行方は分からないのだから。

 

「メインフェイズ2、貴様がモンスターを新たに展開したことで、今まで使えなかったスプリンドの効果を発動!

 鉄駆竜スプリンドは1ターンに1度、このカードの位置を自分フィールドの別の位置へと移動させ、同じ縦列に存在する表側表示のカードをすべて破壊する!」

「モンスターが存在する位置に依存する効果だと?」

「本当なら中央に座するシュノロスを破壊したいところだが……私のフィールドの中央にはクエリティスがいるのでな、スプリンドはクエリティスの左側から右側へ移動し、オレイカルコス・アリステロスを破壊する!鉄獣の砲撃(トライブリゲード・カノン)!!」

 

 スプリンドを操る白髪の少年はその指示に従って空を舞うと、デクシアの対面からアリステロスの対面へと移動し、その機体に搭載された砲から弾を放つ。

 

「無駄だ!私のフィールドにオレイカルコス・シュノロスが存在する限り、オレイカルコス・デクシアとオレイカルコス・アリステロスは破壊されない。 ……だから言ったのだ、速やかにターンを終了しろと」

「ターンを終了しなかったおかげで私はそのデカブツが持つ耐性を知ることが出来た。何も無駄なことなどありませんとも。では、私はカードを1枚セットして今度こそターンを終了します」

「悪あがきをしなければ絶望せずに楽になれると言うものを。では、私のターン。……おや?」

 

 しかしスプリンドの砲撃は届かない。だが得たものはある。

 恐るべきオレイカルコスの力を確認し、倉瀬の中にいる精霊が今度こそターンを終了する中。ダーツはこのドーマの本拠地に現れた新たなる来訪者に気が付いた。

 倉瀬もその様子を見て振り返ると、そこにはヒトデ頭の少年を先頭に現れる大所帯。遊戯、海馬、城之内、ペガサスという主要メンバーに加え御伽、本田、杏子、レベッカと言った面々。更にはドーマの三銃士の一人であるはずのラフェールの姿までもがそこに存在する。

 

「倉瀬!」

「大神祇官さん!」

「ダーツ様!」

 

 その場に現れた乱入者の姿に2人のデュエルは一時中断される。勿論、そこで結果がうやむやになったりはしない。攻撃力5000を誇るシュノロスの姿に城之内と本田がビビったり、御伽が鉄駆竜スプリンドが持つ機体の魅力に目を輝かせたり、白髪の少年がちょっと自慢気な顔をしたり。

 ダーツを説得しようというラフェールの姿をペガサスが沈痛な面持ちで見つめ、その様子に気が付いた遊戯がドーマの三銃士に関わる真実をダーツが明かす前に看破して、ラフェールの心の闇を抑えたり。僅か10分程度の間に多くの事柄が起こった。

 そして、その全てを見届けた倉瀬の中にいる精霊は言葉を発する。

 

「心の闇、か」

「そうとも、如何なる聖人や賢者であっても心の闇に打ち勝つことはできない。そこのラフェールとてそうだ。今は古のファラオの説得により再び心の闇を抑えることに成功した。しかし、ふとした時に思い出すだろう」

 

 その言葉をどう受け取ったのか、人間ではない、デュエルモンスターズの精霊である彼ならば納得すると思ったのか。それともこの場にいる人間が納得すると思ったのか。

 

「自らの家族を奪ったのが誰だったのか、その時にまた古のファラオが隣にいてくれるのか? そして三度目の奇跡は存在するのか?

 いくら心の闇を乗り越えようとしても、人の心とは弱く、あまりにも儚い。故に私は作り変えるのだ!心の闇を乗り越えることが出来る完璧な人間、そして真に繁栄する世界を創るために!」

 

 ダーツは自らの目的をこの場にいるすべての人間に語りかけるかのように堂々たる演説を行った。それは自身の正しさを疑わない絶対者の振る舞い。

 その様子を見た人間たちは、ラフェールに理不尽を与えたダーツへの怒りを覚えると同時に、世界が生まれながらにして不平等であり、現在の社会が欲望に負け易い構造であることには納得したような、複雑な感情を滲ませた表情を見せる。

 それは事実上彼らがダーツの正しさを認めたようなものであり、それにダーツは満足気な表情を浮かべるが……。

 

「王よ。悪いがそれは無理だ。心の闇を乗り越えられる完璧な人間など、作れるわけがない」

「なんだと?」

 

 唯一、倉瀬の中にいる精霊……いや、道化は心底呆れたように声を発した

 仮面の下から覗く口元は呆れの感情に歪んでいて、ダーツの演説のすべてを否定する。

 

「王がやっていることは、作られた石橋が安全か分からないからと、何度も何度も叩いて叩き割ろうとするかの如き行い。それで完璧に安全な橋が出来るとでも?

 如何に安全な橋が出来ようとも、不安だからと叩き続ければそれはいつかは落ちるだろう。そのようなことは赤子にでも分かることだ」

 

 端的に、伝説の竜を従えられるほどのデュエリストと戦うことができ、ダーツに人生を歪まされ、心の闇を植え付けられてなおそれから解放されたラフェールという傑出した存在。

 それを意図的に闇に落とそうとして、人間は心の闇に勝てないと結論付けた愚を道化は説く。

 

「私が思うに……。 王の言う通り最初からラフェールの家族の運命が決まっていたとして、それを失って心の闇に落ちたとしても、彼ならば自力で乗り越えていたのではないか?

 そして、彼のように乗り越えられる人間が世界に増えるのなら、心の闇を乗り越えられる人間の数は次第に増えて行ったのではないか?」

 

 ピクリと、ダーツの眉が動いた。

 

「王は現在が安易に欲望を満たせる環境になったからこそ、そこに心の闇の温床があるというが、欲望を容易に満たすことが出来ない、精霊と共に生きたような古の環境ならばその温床は消えるのか?

 私は……デュエルを遊びでは無く、決闘として、殺し合いとして扱っているような時代の方が心の闇に溢れていると思うがね」

 

 それは、道化の主のスタンス。デュエルが古来より魂をかけた儀式だったと言うのなら、それは命のやり取りを行う殺し合いと同じ。

 殺し合いは心の闇を生まないのか。欲望を安易に満たせないからこそ、罪人が、咎人の処刑が娯楽だった時代もある。そういった時代と比較して本当に現代の心の闇は深刻なのか。欲望が簡単に満たせる環境になったからこそ、生まれなくなった闇とは確かに存在するのだ。

 そんな文明の発展と共に生まれなくなった闇を掘り起こし、それをもって人間の心の闇を語るのは正しいのか。そう、デュエルモンスターズの精霊は問いかける。

 

「デュエルが命を懸けた決闘だった時代から、傲りを忘れずに石橋を叩き割り続けている王には分からないかもしれないが、今の時代。石橋を使っているような所は極一部だぞ?」

「言うではないか、道化。ならばこのシュノロスのことはどう心得る。このシュノロスはキュトラーが吸収したダメージによって攻撃力が決定する。攻撃力5000という、神すらも上回る値にまで私に敵意を持ち、オレイカルコス・シュノロスを育てたのはお前だ!」

 

 道化の諫言に対し、王は自らの操る対戦相手の心の闇の象徴。オレイカルコス・シュノロスでもって反論する。しかし、道化は口元の呆れた様子を隠さない。

 

「確かに王に対する敵意を抱き。その闇を育てたことを認めましょう。しかし、そのすべてを私のせいにされても困りますな。

 王自ら攻撃して無効にされた2500ポイント分は私の責任ではありませぬ。この分まで私の責任にするようでは器が知れますぞ。

 なにより、それが私の心の闇だというのなら、私はその責任を取りましょう。心の闇を吸収しなさい!デスピアン・クエリティス!!」

 

 クエリティスの効果。

 闇を吸収して呪いへと変える力により、レベル8以上の融合モンスター以外……即ち、シュノロスの攻撃力が落ちていく。5000から4000、3000となりやがては0へ。

 王自ら『道化が持つ心の闇』と称した膨大な攻撃力は僅か数十秒の間に消え去り、主を守護し、敵対者を戒める楔へと姿を変えた。

 

「王の思想は正しいことは間違いないでしょう。人は生まれる場所や時を選べない。才能や容姿、運命は不平等に出来ている。ええそれはまさしく世界の真理!」

 

 何故道化は心の闇を打ち消したのか。

 何故ここまで王に向け、自身の領分を超え、その感情を現しているのか。そんなもの、答えは決まっている。

 彼のマスターは、その不条理に晒され続け、自分が存在する意義を問い続けていたのだから。

 

「だからって、世界を滅ぼしちゃいけないんですよ」

 

 道化は世界を滅ぼさない。

 運命が不平等なら、主がその運命に壊されてしまわぬよう、その運命に抗い完膚なきまでに破壊する。それが彼の出した結論なのだから。

 

「貴様、後悔するぞ」

「しませんよ」

「ならばデュエルを再開する!私は手札より天使の施しを発動し、デッキからカードを3枚引き、2枚を墓地へ送る!」

 

 ダーツは最強の手札交換カードを使いデッキから3枚のカードを引くと、1枚のカードを道化に見せる。

 

「どうやらオレイカルコスの神は貴様の処刑を御所望のようだ。私は天使の施しの効果で処刑人 マキュラを墓地に送る」

「あれは墓地に送られると手札から罠カードを使えるようになる、マリクも使っていたカード!」

「さらに私はオレイカルコス・デウテロスの効果を発動、フィールドに3体のモンスターがいるためライフを1500ポイント回復し、ライフは9000ポイントとなる」

「なっ……アイツのライフ、そんなに増えてやがるのか!?」

 

 王に無礼を働いた人間への戒めとしてこれ以上ないカードが墓地へ送られ、遊戯は驚愕の声を上げ、今までのデュエルの経過を知らない城之内は、現在のダーツのライフポイントに焦りの声を上げる。

 

「まずはその心の闇を消し去れるというモンスターから破壊してくれよう。オレイカルコス・デクシアでデスピアン・クエリティスを攻撃!デクシアはシュノロスが持つ究極の剣! 攻撃を行う時、常に相手のモンスターの攻撃力・守備力を300ポイント上回る攻撃力を得る!」

「クエリティス……、ここまでありがとうございました」

 

 シュノロスの左腕から放たれた光線により、まずは道化の場を守護してきた呪いの鎧が消える。これが効果によるものならデッキからデスピアモンスターをサーチできたが、戦闘破壊ではそれも望めない。

 だがここまでは予定調和。道化は処刑人が墓地に落ちたことで手札から使えるようになったトラップ。その効果をここから凌ぎ切れるかが重要だと判断するが……。

 

「そして続けてオレイカルコス・シュノロスで鉄駆竜スプリンドを攻撃」

「!?」

 

 オレイカルコス・シュノロスによる自爆特攻を選択した王の判断に耳を疑った。

 フィールドに存在するオレイカルコス・デクシアとオレイカルコス・アリステロスの耐性はシュノロスあってのもの。

 あくまでも破壊されない効果であり、妖精伝姫 カグヤのバウンス効果は通るといえ、デッキに2枚目、3枚目があればその効果が通るとは限らない。

 故に、攻撃力が0になってもこのターンは盤面を維持し、クエリティスの効果が解除されるまで待つと判断していたのだが……。

 

「攻撃力が0になったモンスターで攻撃だと!」

「クエリティスの効果はターン終了時に解除されるんだぞ!?」

 

 周囲を巻き込んでの驚愕。この展開に何かが起きないわけがない。

 無意味に攻撃力が0になったモンスターで突っ込むわけがない。この場にいる誰もがそう確信する中……、ダーツが持つ真の切り札が現れようとしていた。

 

「オレイカルコス・シュノロスの効果。攻撃力0のこのモンスターが戦闘及び効果で破壊される時、10000以上のライフポイントを全て支払い、全ての手札を捧げることで、デッキから蛇神ゲーを特殊召喚する!」

「なっ……だが貴様のライフは9000、10000には届いていないはず……」

「残念だったな、道化。お前の心の闇を打ち消したという言葉。心底楽しませてもらった。処刑人 マキュラの効果で手札より罠カード、体力増強剤スーパーZ発動。

 このカードは自分が2000ポイント以上のダメージを受けるダメージ計算時に発動し、ライフポイントを4000回復する。これで私のライフは13000」

 

 クエリティスから一時的に闇を取り払われ、力なくのろのろと歩みを進めるシュノロス。

 その体がスプリンドの砲撃を待つまでもなく罅割れ始めると、その背後から黒き暗雲が、闇が吹き上がる。

 

「この戦闘でスプリンドとシュノロスの攻撃力の差分。2500ポイントのダメージを受けるが、私の残存ライフは10500となり、ライフポイントは10000を超えた」

 

 闇の中から現れたのは巨大な蛇。

 一見するとまったく強そうに思えないモンスターだが、道化はこのモンスターの強さを知っている。

 彼のマスターである倉瀬が脅威として認めていた、遊戯王ワールド最強の一角たるモンスター。

 

「これぞ蛇神ゲー。このモンスターの特殊召喚に成功した時、私のライフポイントは消滅し、デュエルの敗北条件をゲーの破壊へと書き換える。 その攻撃力と守備力は……無限だ。」

 

 世界各地で再生の象徴として、数多の神話で語られてきた神性を現すものとして、これ以上は無い無限という表現。

 その見た目も含め、極めて簡略化された蛇神の原典。それこそが蛇神ゲー。

 

「バトルフェイズを続行!特殊召喚された蛇神ゲーは攻撃のため、デッキの上から10枚のカードを供物として除外しなければらない!私は10枚のカードを除外し、鉄駆竜スプリンドを攻撃! 」

「貴様の攻撃宣言時、私は墓地からモンスター効果を発動!」

「全ては神の前には無力! ゲーは如何なる効果もルールも受け付けない! たとえバトルフェイズを強制的に終了しようともだ! 喰らえ、インフィニティ・エンド!!」

 

 ゲーから放たれた光線は白髪の少年が駆る鉄駆竜を消し飛ばす。

 この戦いで道化のライフポイントは一切削られていないが、そんなものは関係が無い。無限から何を引いても無限なのだから、攻撃表示のスプリンドに攻撃が通った時点で道化の魂は闇に消える。

 

「フ……。道化に付き合ってやるのも王の度量という訳だ。古のファラオと瀬人、そしてその仲間たちよ。お前たちが戦っている相手の強さも分かったことだろう。

 今すぐに降伏するのなら、安らかな眠りを約束しよう。全て終わらせ、新たなる歴史を始めるため。我が神の前に跪くが良い!」

 

 爆炎の中、世界が凍る。

 攻撃力無限という通常のスケールを逸脱した……オベリスクですら2体の生贄を要求した数値を常時発揮する蛇神。

 その威容に戦えぬものは震え、戦えるものですら膝を屈さんとしたが……。

 

「ふぅん。貴様がどんな寝言を言っているのかは知らんが……、この俺という史上最強のデュエリストを相手にしたいのなら、まずは目の前の敵を倒してからにするべきだな」

「そうだぜダーツ。今、お前が相手しているのは、俺たちじゃない。油断するのは良くないぜ」

 

 遊戯と海馬は自然体のまま。

 まるで決着がついていないことを確信しているかのように、その様子を見たダーツは煙の中に慌てて視線を向け、目を見開く。

 これはこのデュエル中、初めて真の意味でダーツが動揺した瞬間である。

 

「……効果の発動宣言ぐらいはよく聞くべきですよ」

 

 そういう道化の前……いや、少し離れた位置に移動しているのは無傷の鉄駆竜スプリンド。

 その姿は蛇神の攻撃を受ける前とまったく変わりがない。

 

「馬鹿な!無傷だと!!」

「私は最初の貴様のターン、アルバスの落胤のコストとして墓地に送った、喜劇のデスピアンの効果を発動していました。

 このカードは墓地に存在する時、自分フィールドの融合モンスター1体をリリースして相手ターンでも特殊召喚できる。私はスプリンドをリリースし、このカードを守備表示で特殊召喚して耐えたという訳です」

「っ……! サクリファイスエスケープッ! だが、ならば何故スプリンドが場に残っているのだ!」

 

 サクリファイスエスケープ。

 それは攻撃や効果で破壊されるモンスターをリリースすることで逃がすテクニック。道化……大導劇神は倉瀬が持つ原作知識の全てを網羅しているわけではない。

 しかし、同時に何も知らないわけではない。彼がダーツと戦う上でもっとも警戒していたのは蛇神ゲーを召喚されてしまうこと。

 ゲーの詳しい召喚条件は分かっていなかったが、下手に攻撃表示のモンスターを残して盤面を返してしまえば、返しにゲーを呼び出された時にやられてしまうことは最初から分かっていた。

 

 故に、彼は最初にデスピアン・クエリティスを融合召喚してからデクシアに破壊されるまで、1度も攻撃表示のモンスターを2匹以上同時に並べてターンを返していない。

 唯一例外になる可能性があったのは妖精伝姫 カグヤだが、そのカグヤにしても自己バウンスによって手札に戻しているし、仮にフィールドに残ってしまうことがあっても、烙印劇城の効果で融合素材にすることで墓地に落とせるようになっている。

 スプリンド以外のモンスターを攻撃表示で出そうとしなかったのは、全てが蛇神ゲーを対策するためのもの。攻撃表示モンスターが1体なら、喜劇のデスピアンを使ったサクリファイスエスケープで逃げた後、烙印劇城の効果で戦線を維持できるというわけだ。

 

「私が発動しているフィールド魔法、烙印劇城デスピアには融合召喚を行う以外に第二の効果が存在するのですよ。

 自分フィールド上に存在する融合モンスター以外の天使族……即ち、喜劇のデスピアンが相手の効果でフィールドから離れるか戦闘破壊された時。墓地のレベル8以上の融合モンスターを特殊召喚するという効果がね」

「スプリンドのレベルは8、ゲーの攻撃を躱しながら盤面にモンスターを残したと言うのか!」

「その通り、貴様のモンスターで残っているオレイカルコス・アリステロスは守備表示。蛇神ゲーの攻撃が終わった以上、これ以上のバトルは出来ません。何も伏せるカードがないなら速やかに……いや、失礼。伏せるカードは無いのでしたね。ククッ」

 

 手札を全て捨ててしまったので、と付け加えて道化は先のターンの意趣返しを行う。

 先程までの余裕を失ったダーツは一瞬苦虫を噛み潰したような表情を見せるが……。

 

「っ……。フフフ、ハハハハ。確かに一杯食わされたことは事実だ。それは認めざるを得ない。だが道化よ、ここから先、お前は一体ゲーをどう倒すのだ? ゲーの攻撃力は無限!無限を越えるものなどありはしない!」

「そうだった!アイツは神のカードを奪ってる!三幻神や伝説の竜のカード無しであんなのを倒せるわけがねえ!」

 

 ダーツのフィールドには如何なる効果も受けず、無限の力を誇るゲーが鎮座している。

 城之内が言うように、三幻神や伝説の竜の力無しで突破することは不可能に近い。

 

「私はデッキを信じてカードを引くだけですよ。幸い、蛇神ゲーだけならサクリファイスエスケープの連打で突破されることがありませんので」

「フッ……蛇神ゲーをデッキ切れで倒すつもりか? 残念だったな、私の敗北条件は既にゲーの破壊に書き換わっている。たとえデッキが0枚になったとしても私の敗北にはならない。

 確かにデッキが無くなることでゲーの攻撃は封じられるが、お前はゲーを倒すことができないまま、やがてデッキが無くなり敗北となる。オレイカルコスの結界に魂を奪われるだけだ」

「き、きたねえ……」

 

 それは最低の理不尽。

 自身の敗北条件を蛇神ゲーの破壊に書き換えた彼は、かつて遊戯がオシリスを破ったようなデッキ切れでの敗北すら存在しない。

 

「破壊が条件……ですか、となるとルール上墓地に送ることになる壊獣で処理すると、その敗北条件すら消えてしまうのでしょうか?」

「さてな、壊獣のルールによるリリース程度、ゲーにはそもそも通用しないのだから無意味な仮定だ。ゲーは自身の破壊をもって敗北と成す、ルールよりも上の存在なのだからな」

 

 ダーツに戻った余裕は消えない。確かにゲーの攻撃を凌がれた事実はある。

 デッキが枯渇するまでに、喜劇のデスピアンと烙印劇城デスピアのコンボを突破できなければダーツは攻撃できなくなる。しかしゲーが召喚された以上、もはやそんなものは些事にすらならない。

 

 何せ、万が一中の万が一があったとしても、ダーツのフィールドにはシュノロスが残した最強の剣と盾がある。相手モンスターの攻撃力や守備力を300ポイント上回るように攻撃力を上げるデクシアと、相手モンスターの攻撃宣言時に盾となり、相手モンスターの攻撃力を300ポイントを上回る守備力となるアリステロス。

 この2体を前列に蛇神ゲーは後列に鎮座し、オレイカルコスの三重結界に守られたダーツ。これを突破するのはどのようなデュエリストでも不可能だと断言できる程、絶対の布陣。

 

「では、私は何もせずにターンを終了する」

「…… ……」

 

 そしてターンを返したダーツに対し、道化は無言でドローの構えを取る。

 周囲にあふれ出る異様な空気、烙印劇城の光に照らされて踊り狂う影。

 

 影が独りでに踊り狂う様子を見てもなお余裕を崩さないダーツと、明らかにありえない動きを取る影に不信感を覚える遊戯一行。

 そんな異様な雰囲気が支配する空気の中、道化が引き当てようとしているカードに気が付いたのは……ペガサスだった。

 

「これは……まさか……?」

「ペガサス殿。劇の途中はお静かにどうぞ。拍手はあとで受け付けますので」

 

 何かを口走ろうとしたペガサスに道化は釘を刺すと、その異様な雰囲気の中。デッキから全力でカードを引く。

 

「私のターン!ドロォーッ!!」

 

 一見すると何かの覚醒にも思える叫び声だが、実際の光景は道化の引き当てたカードから闇と煙が吹き出す、余りにも恐ろしい光景。

 お静かにどうぞと言われるまでもなく、遊戯一行は絶句した。

 

「私は前のターンに伏せていた魔法カード、烙印開幕を発動!このカードは自分の手札を1枚捨て、デッキからデスピアモンスター1体を手札に加えるか特殊召喚できる!私はカグヤの効果で手札に呼び込んだ妖精伝姫 シラユキを墓地に送り、デスピアの大導劇神を手札に加える!

 そして烙印劇城デスピアの効果により、手札に加えたデスピアの大導劇神と光属性モンスター、妖精伝姫 カグヤを素材に融合召喚!来たれ!赫灼竜 マスカレイド!」

 

 叩きつけるように胸の前に手を合わせる道化の前に現れるのは赤と黒の竜。その羽は劇場のカーテンを模した意匠であり、この戦いの終わりが近いことを示す。

 

「そして、融合素材として墓地に行ったデスピアの大導劇神の効果発動! このカードをフィールド上に特殊召喚する!!」

「モンスターをいくら並べても同じこと。一体何をすると言うのかね?」

「おや?王は演劇はお好きでは無かったのですかな? ならばもう少しの間おつきあいくださいませ。」

 

 悠然と佇む王と、それに抗する道化。

 道化が掴むべき勝利への道筋は、既に整っている。

 

「私は鉄駆竜スプリンドの効果を発動! 自分メインフェイズに1度、空いているモンスターゾーンに移動し、その列に存在する表側表示のカードを全て破壊できる!」

 

 そうして白髪の少年が駆る鉄駆竜が向かうのは究極の盾の眼前。

 サクリファイスエスケープにより一度フィールドから離れたからこそ可能になった、2ターン連続で同じ列に対して行われる効果破壊。

 

「オレイカルコス・アリステロスと同じ列へ移動し、破壊する!! シュノロスがゲーの供物となった以上、先程の様な耐性は存在しない!鉄獣の砲撃(トライブリゲード・カノン)!!」

 

 先程は耐えられ、蛇神の攻撃に晒された怒りを込めて放たれる砲撃は、本体が供物となったことで耐性を失ったアリステロスを一撃で粉砕し、その破片が光の粒子となって消えてゆく。

 その様子をダーツは余裕の表情で眺め……。

 

「アリステロスを破壊するか……しかし一体それに何の意味が……」

「そして私は、フィールドに存在する3体のモンスター、鉄駆竜スプリンド、デスピアの大導劇神、赫灼竜 マスカレイドを……リリース!」

「3体のモンスターを生贄に捧げるだと!?」

 

 道化の宣言した言葉により、その余裕の表情を失った。

 

「我が主の影より来たれ! 邪神アバター!!!!」

 

 道化の宣言とともに、倉瀬の影より闇が出でる。

 誰もがその光景に驚愕の表情を示す中、ペガサスだけは己の行った行動が無駄では無かったと涙を流す。

 邪神アバター、それはペガサスが倉瀬に渡したデュエルディスクに隠し、託した三幻神と対になる存在、三邪神の中でも最高位の神。

 

 倉瀬が再びラーの翼神竜のような神と戦うことになった時、それに対抗できるように精霊にだけ隠した場所を伝え、準備をしておいた究極の切り札。

 三邪神は呪われている。それはこの異様な空気と溢れ出る闇からも明らかだ。しかしそれは、呪われし神を人が扱えないと言う理由にはならない。

 

 何せ倉瀬は事実上神を破っているのだ。神のカードの所有者にはなれなかったが、所有する資格はある状態。しかもアバターの対となるラーの翼神竜を打ち倒す寸前にまで至っている。

 そしてその資格を持つのは倉瀬だけではない。何故ならば今、倉瀬の体を操っている道化、デスピアの大導劇神/教導の大神祇官もまた倉瀬と共に神を破る寸前までいった存在であり、神と共に戦う資格を持っている。

 そんな存在が自分の依り代(カード)を生贄に神を召喚したのだから、如何に邪神といえど、それに応えてやる程度の慈悲は持ち合わせている。

 

「邪神……だと!?」

「アバターの効果! アバターの攻撃力と守備力は、フィールド上に存在するモンスターの中でもっとも攻撃力の高いモンスターの数値に1を加えたものとなる!」

「馬鹿な!我が神の力を写しとれるはずが!」

「アバターは三邪神の中でも最高位、ラーの翼神竜と同格の最高神!最高神が蛇神程度の力を写しとれないわけがない!」

 

 その宣言と共にアバターはゲーの力を写しとり、攻撃力と守備力は無限をほんの僅かに越える値へと届く。

 

「ぐっ…… 私のフィールドには未だオレイカルコス・デクシアがいる。デクシアは戦闘を行う時、その攻撃力は攻撃表示モンスターと同じプラス300ポイントになる究極の剣。この剣を倒さなければ後列にいるゲーに攻撃は届かぬ!」

 

 そう、ダーツの場には未だにデクシアがいる。アバターが如何に最高神と同格の力を持っていようと、デクシアを倒さなければゲーに攻撃は届かない。

 しかし、道化が勝つために必要なパーツは既に揃っている。

 

「いいや、問題無い!私は烙印開幕で墓地に落とした、妖精伝姫 シラユキの効果を発動! このカードは墓地に存在する時、墓地のカードを7枚除外することで特殊召喚できる!」

「無駄だ! この無限同士が争う次元の戦いに於いて、雑魚モンスター如きを特殊召喚したところで何になる!」

「妖精伝姫 シラユキは特殊召喚に成功した時、フィールド上のモンスター1体を裏守備表示にする!対象は当然、オレイカルコス・デクシア! 貴様のオレイカルコスの三重結界で防げるのは、魔法・罠の効果のみ!」

 

 これまでの戦いで肥えた数多のカードを除外し、墓地から現れた白き獣人はデクシアをひっくり返してカードの姿に戻す。

 それに何の意味があるのか、それに気が付いたダーツは顔色を変える。

 

「ばっ、バカなっ!!」

「オレイカルコス・デクシアが写し取るのはあくまでも攻撃力だけ、守備表示にしてしまえば問題無い! 妖精伝姫 シラユキでセットモンスターとなったデクシアに攻撃!」

 

 ダーツは咄嗟にオレイカルコス第二の結界、オレイカルコス・デウテロスの持つ効果。相手の攻撃宣言時、自分フィールドに存在するモンスター1体をリリースすることでその攻撃を無効にしようとする。

 しかし、蛇神ゲーはルールすら越えた神の力を持っているがため当然リリースできず、デクシアをリリースしてシラユキを破壊しても、ゲーを守る壁が消えることには変わりない。

 ゲー召喚の供物として手札を失った彼に可能性は残っていない。

 

 シラユキの攻撃を受け、リバースしたシュノロスの腕、デクシアが光の粒子となって消えゆくなか、ダーツが目にした光景は自分に向かって迫ってくる闇の姿。

 

「そんな……このっ……私がっ!!」

「バトルだ! 無限を越える力を得たアバターで蛇神ゲーを攻撃! ダークネス・インフィニティ・エンド!!」

 

 無限の力を誇ったはずの蛇神は戦闘破壊され、邪神が持つ真なる闇の中へと消えてゆく。

 その姿を見て、ダーツは力なく、膝を突いた。 ゲーの破壊こそが彼の敗北条件なのだから。




道化 VS 王 決着!!
なんと後編はここまで往復1ターン。次回は短縮デュエルで遊戯戦です。
次回からは倉瀬が復活する予定です(描写必須のイベントを拾い忘れてたら次々回になるかも)

☆掲示板回でやるか分からないこの世界線におけるアニメやカード環境に関する設定

・掲示板世界線の民
初見時はどっちが大ボスを担当するのか分からないレベルで連発される壊れカードの連打に、これ残った方に遊戯たちは勝てるの……?ってなってる。
多分、本作に登場した中で一番不憫な扱いを受けている。かわいそう。

・遊戯&海馬
ペガサスの語りのお陰で倉瀬と精霊の苦悩が分かってるので好感度↑
ついでに実際にデュエル経験があり、倉瀬なら最後まで諦めないのを知っているので信頼も重たい。

・ダーツ
オリ主や実質オリキャラに倒させるには格の高すぎる上に俺ルールでやりたい放題しているボスキャラ。

・デスピアの大導劇神/教導の大神祇官
倉瀬に対する感情が重すぎる系大ボス枠強奪精霊

・妖精伝姫 シラユキ
「教導の大神祇官/デスピアの大導劇神」にとって、魂のカード。

・邪神 アバター
ペガサスは間違ったかもしれないが、失敗はしなかった。
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