遊戯王の世界に転生したが、原作イベントを踏み外すと世界滅亡なんて冗談じゃない   作:鏡路の一般兵

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・アニメ/原作的時系列
城之内 VS キース戦 ~ 王国編終了まで


王国編 ~ ペガサス・J・クロフォード ~

 

 あれから――。

 無事、全力でぶつかっても遊戯に勝てないことが確認できた俺は、完全に決闘者の王国を楽しんでいた。

 

 連続魔法のコストで墓地に落ちたカードを見て「何あれ!何あの残り方!あんなのもう絶対勝てないじゃん!これが決闘王!!」と内心のワクワクを全力で隠蔽。

 絶対に失礼、無礼を起こさないように表情筋を維持しつつ、今のデュエルを検討するという名目で遊戯と感想戦を行うと言う、原作では恐らく城之内やレベッカぐらいにしか許されていないであろう至福のひと時を堪能。

 

 その後も城之内とキースのデュエルでは遊戯の解説を求めたり、遊戯とペガサスの戦いでは「遊戯なら既に攻略法に気が付いている」という後方理解者面で応援するなど、最高に楽しい時間を過ごした。

 学校も何もかも違うので主人公チームに加わることはできないが――。

 短い時間でそれなりに良好な関係を築けたと言うだけでも偉業に当たるのではないだろうか。

 

 ただまぁ、やはりというべきか――。

 ペガサス戦後、ペガサスと遊戯一行の話からは追い出された。

 俺は千年アイテムとかと、KC絡みの因縁にはまったく関係ないので当然だろう。

 

 この手の話を聞ければ原作から逸れてしまっても自然に修正できるかも知れないのにな――。

 などと考えながら帰宅の準備を整えていると、Mr.クロケッツから「ペガサス様は倉瀬くんにも特別に話したいことがあるようなので来てほしい」と言われたのだが……。

 やっぱりドラグマのことだろうか。どう考えてもペガサスが作ったカードじゃないしな……。

 

 それともマインドスキャンの影響で、原作知識が流出した……?

 でも遊戯とペガサスのデュエルだとマインドシャッフルに普通に驚愕してる様子があったり、精霊にお祈り作戦は上手くいったと思っていたのだが……。

 決闘者の王国関連だけは守れたが、他の知識は別だったという可能性も捨てきれない。

 

「だ、大丈夫だよな……?」

 

 教導の大神祇官には既に一通りの感謝を伝えてあるが、よく考えるとどうやって防いだかは不明なんだよな……。

 マインドスキャンを妨害できたとして、その過程で何かやらかしていたりすると俺が物凄く困る。

 

キラリ キラキラ キラキラキラキラキラキラキラ

 

 何か物凄い勢いでキラキラ光っているが、何を伝えたいのかまったく分からない。

 なんだろう、言い訳をまくしたてたりしているのかなコレ。

 とりあえずこの戦いでペガサスは闇から解き放たれたわけだし、事情を素直に話した方が良かったりするのかな……。

 これから起こる一連の話、素直に話せばペガサスは千年アイテムのお陰でオカルト分野への理解があるし、マインドスキャンで俺が嘘を言っていないことも分かるだろう。

 

 ワンミスで世界が滅亡する可能性を知っている以上は出来る限りのことはするつもりだが、俺はあくまで未成年の一般人。

 

 何かをするにしてもできることには限界がある。

 

 バトルシティ編までならなんとか参戦できるだろうが、それ以降がどうにもならない。

 漫画時空なのか、アニメ時空なのかでもルートが分岐するが、アニメ時空ならドーマ編があるからね……。

 ドーマ編はワンミスで世界が滅亡する状況なのに、神のカードは初手で強奪された上に勝っても返して貰えず、話が進むと闇遊戯が負けて表遊戯が囚われ、社長も勝ち切れずに引き分け、城之内も舞に負けるとかいう苦戦具合である。

 しかもこれが全て前座の三銃士戦でしかなく、大ボスのダーツ戦まであるのだから、ここにノータッチは遊戯の強さを理解した上でも不安であるとしか言いようがない。

 

 しかも舞台はアメリカである。

 羽蛾や竜崎はレアカード欲しさに死にかけながらも密航していたが、未成年の財力で介入するのは無理がある。

 気が付いたら原作主人公が負けて滅亡ENDなんて冗談じゃない。

 

 事前に遊戯一行を始めとする面々に相談しても「未来知識は必要ないぜ!俺たちは自分の手で未来を切り開く!」って言ってくれそうだし、実際本当に切り開いてる。俺も普通に「分かりました!」ってなって多分そこで話が終わってしまう。

 海馬社長にはそもそもコネが無く、仮に話せても「俺のロードは俺の手で切り開く!オカルトなぞには頼らん!」ってなるのが分かってるし、実際イシズ戦で未来変えてるからなこの人。

 そのイシズに関しては千年タウクの存在から現時点では危機を共有できる。

 だが「未来を変えられない」ことを前提に予知を活かして海馬社長を利用していた点から、「未来は変えられる」という未来知識を知ってる俺的にはもっとも原作知識を相談しにくい相手であるとも言える。

 

 なお、イシズを相談相手として選ぶのは前述の問題を抜きにしても論外である。

 彼女の目的はマリクを止めることで、敵対している訳ではないという潜在的な敵陣営。

 原作では良い感じに流されていたが、グールズ関連のガチ犯罪は闇に飲まれていたとはいえ表マリクが自分の意志で行っている。

 その責任全てを闇マリクに押し付けて逃げたとも言える結果なのだから、バトルシティで接触のチャンスがあるといえど、そこに相談を持ち込むのは流石にない。

 

 その点、誰かと協力関係を結ぶと言う意味でペガサスの存在は非常にありがたい。

 必須と思われる原作イベントは既に越え、相談するにはコネが無い問題も今この瞬間なら問題無し。

 遊戯戦を越えて改心したペガサスは、元々のオカルト知識とマインドスキャンの合わせ技により、俺にとって唯一世界滅亡の危機を共有できる相手になりうるのだ。

 特にドーマ編では問題発生前から敵を確認することができるため、KC買収に対しての対策も行うことが出来るだろう。

 

 可能な限り原作通りに進めることと、有利な状況でドーマ編を始められること。

 どちらのほうがよりダーツへの勝率を高められるかは疑問であるのだが、イベントが潰れかけた時に軌道修正を図れるのは非常にありがたい。

 

 なお、GX以降はとりあえず考えないものとする。

 ドーマ編と記憶編を越えなければ取らぬ狸のなんとやらであるし、原作に干渉するつもりが無くても俺がいる時点で干渉してしまう可能性があるので保留にしておく。

 アニメ世界線に繋がると思って色々やっていたら、漫画世界線でトラゴエディア関連が問題になる可能性もあるので、DM編すら越えていない現状で考えてもどうにもならない。

 

 まずはDM編の必須フラグを回収することが最優先。

 ペガサスと話をして、ちゃんと闇から解き放たれているようなら、これからのことを相談しようと思って俺はペガサスの元へと向かっていたのだが――。

 

 

 そ こ に 待 っ て い た の は 目 か ら ビ ー ム で あ る 。

 

 

「チッ!邪魔が入ったか……!」

「Oh!倉瀬ボーイ…… これは助かりまーした!」

 

 そう、必須フラグを回収なんていうことは、俺がペガサスの元へ向かった時点で不可能になっていたのだろう。

 俺が扉を開けると闇のゲームか何かの最中なのか、周囲を包む闇の瘴気とその中で対峙して謎のビームを撃ち合っている―― いや、撃ち合いを中断した二人の男たち。

 

 そう、ペガサスとバクラ(闇)である。

 そうだった。そうだったね。

 アニメ版でこういう光景有ったよね。

 

 ここでペガサスのミレニアムアイがバクラに奪われるのは必須イベントだったね。

 バクラは遊戯たちが島から出る時に合流してるんだから、ここで呼び出されたら絶対に遭遇しちゃうよね。

 というか獏良の様子ってDM全編を通してほぼバクラの演技だったよね。

 正直仲良く観戦をしていたあたりでこのイベントは起こらないんじゃないかと思ってたんだけど、起こらないわけないよね。

 

 とりあえず俺の乱入によってビームの打ち合いは止まったけどどうすればいいんだよオイ。

 闇のゲームの圧迫感の影響か、体全体が気怠くなりみるみるうちに体力が失われていく中――。

 

 この場面で取れる選択肢は2つと単純。

 取れる選択肢はほぼ決まっているようなものだが、改めて考えてみよう。

 

 1.バクラに味方して原作イベントを消化する

 

 論外。

 

 バクラは邪神の魂の一部であり、それに味方すると何が起こるか分からない。

 というかパラサイトマインドを受けると心の中を覗かれる都合上、協力関係の証とか言って断れない何かを渡されたら詰みで、実は遭遇している現状ですら危険という説がある。

 あの技は千年パズルのピースという媒体あって出来たものだと思いたいが、千年アイテム以外の媒体が無ければできないという確証はどこにもない。

 というか人の魂を駒に封じ込めるシーンがあるので絶対できるはずだ。

 TRPG編の村人Dで見たので間違いない。

 

 ―― ここでバクラにデュエルを挑んで勝てば邪神復活は阻止できるのではないか?

 そんな気もするが、DDM編でバクラの支援が無くなるのはどう考えても不味いし、バクラは何度か王様に負けているが、その上で復活してきている。

 バクラに味方をするのが論外であるのと同時に、ここで倒すのが無意味である点は押さえておきたい。

 

 2.ペガサスに味方してバクラを追い払う

 

 本命。

 ペガサスのミレニアムアイがバクラに奪われるのは重要イベント―― だが、これは恐らく本当の意味での必須イベントではない。

 千年アイテムが揃っている必要があるのは記憶編突入時と闘いの儀の時なのだから、ペガサスがこの瞬間にミレニアムアイを奪われる必要は……多分無い。

 

 ここで助けても世界の破滅を防いだり、王の記憶を蘇らせるためには絶対に必要なアイテムなので、世界のために貴方の眼をください!

 こういう傲慢にも程がある言い分を将来的に通す必要が出てくるのだが、ペガサスにマインドスキャンをして貰えればその必要性は理解してくれるはず。

 それに最悪でも王様がミレニアムアイを賭けてもう1回デュエルしてくれれば多分なんとかなるんじゃないかな……。

 

 というか―― 自分を納得させるため、そう思わなければやっていられない。

 こんな闇の瘴気溢れる所で千年アイテムを奪われる―― 最悪死が待っているというか、漫画版では実際死んでいるわけで――。

 それを見過ごすという事は俺にはできない。

 

 そう考えると先程教導の大神祇官が光っていたのは、この場面に立ち会ってしまった時。

 お前はどうするんだと言う意味だったのかもしれない。

 千年アイテム同士の戦い、アイツなら感知できないわけないだろうし……。

 

 原作イベントに俺が乱入してしまった影響は未知数だが、この状況は上手く収める必要がある。

 上手く収拾を付けないとこの時点で遊戯とバクラが決裂したりもありえてかなりヤバい。

 

 というかこの状況になった以上、頑張って説得して場を収めるしかないので、とりあえずはバクラをなんとか追い払おう。

 頑張れ俺。

 

 コミュ苦手勢特有の、内心は賑やかだけど外に見える表情だけは静かというギャップを生かせ。

 俺は『決闘者の王国で闇遊戯と競り合ったデュエリスト』だ。

 名もなき王と関わりがある人間なら、誰もが一目を置くだけの実績を持っている。

 

 精霊の存在は知っていてもコンタクトは取れない。

 原作に介入する転生者という存在にあるまじきクソザコで頼りない現状を悟られるな。

 さも、何かを知っています。今ここでやりあうとタダじゃすまないぞ感を出していけ――。

 

「バクラくん……君は……遊戯くんの友達だと思っていたんだけど、ペガサス会長の前でいったい何をしている?」

「さーて、一体何をしているんだろうねえ。

 まァ……あいつらがお優しいにもほどがあるもんだから、罰を与える役を代行してるって所かな?」

「本人たちがそれで納得しているなら、それ以外の個人が罰を与える権利はありませんよ。

 法律に基づいて司法が裁くのなら別ですが……」

 

 コツコツとわざとらしく足音を立てながら、自然体で動く。

 バクラの横を通り過ぎ、自然な流れでペガサスの前へ。

 

「あなたが何をやる気なのか、何をしているのかは分かりませんが……。

 ペガサス会長は遊戯くんとのデュエルの後でお疲れの様子。やるというなら、俺が相手になりますよ。」

 

 そう言ってデッキを構えると、バクラとペガサスが息を飲んだ。

 この状況でデッキを――!?ということではない、こういう行動は遊戯王ワールドでは特段珍しい事ではない。

 狙いはデュエルではない、まったく別のものだ。

 

 俺の視点では精霊なんてものは見えないが、俺のデッキにはほぼ間違いなく多数の精霊が憑いている。

 それは立体幻像の動き、不自然なカードの光り方からして確信がある。

 ならばこの状況で構えればどうなるか―― 王様や海馬の後ろに見えるブラックマジシャンやブルーアイズのような状態になってくれているのではないか。

 そうなっていたとして、それがバクラに取ってどれほどの脅威なのかは分からないが、ペガサスと同時に相手をするのは厳しいと思わせるだけの何かはあるはずだ。

 

 だってよ……俺のデッキはドラグマなんだぜ?

 

 烙印世界を代表する強者たち。

 何かがあればデュエル中に光り輝いて、デッキごと書き換わりかねない精霊たち。

 そんな相手がペガサスの側について相手が引かないなら、どうしようもない。

 そうなったなら、諦める。最悪でもデュエルに持ち込んで何とかする。

 

「―― なんて精霊(カー)だ」

「カー……? ……まあ、いいです」

 

 何も知らない様に振る舞え、ブラフを張れ。

 デッキには既に事情は説明してあるから分かってくれている。

 

 きっと、たぶん、おそらく。

 

 俺にはまったく見えないが、バクラの視点では何かしらの精霊が俺とペガサスを守るよう構えている姿が見えているはず。

 それを信じろ――! というかバクラが普通に警戒してるんだけどこれ今どうなってるの!

 ドラグマじゃなくてデスピアが出て来てたりするの!?

 って言うかそもそも二人には本当に精霊見えてるの!?なんも分からん!!

 何も分かんねえけど、上手くいきそうな雰囲気はあるのでゴリ押すしかねえ!

 

「やるのか、やらないのか。お答えください」

「怖い顔しちゃってまぁ、……しかし、やらねえよ。流石にこの状況じゃ分が悪いんでな」

「!? 待ちなサーイ!」

 

 そういうとバクラは駆け出す。

 そう、俺が入ってきたまま開けっ放しにした扉目掛けてだ。

 

 俺はペガサスを守るために動いているのだから、当然そこに至るまでの空間には誰もいない。

 数秒の後、この部屋に残るのは――。

 

「……ミッション、コンプリート!!!」

「一体何がコンプリートなんデスか……」

 

 参加していたわけでもないのに、闇のゲームの余波を受けたと言うだけで疲れ切りながらも小さくガッツポーズを決める俺と、困惑した様子のペガサスだけだった。

 

 下手にデュエルになっても困るんだよ。

 ペガサス側にわざとらしく足音を立てながら動いたのはバクラの退路を塞がないため。

 撤退を選ばせるための理由作りである。

 

―――

 

視点:ペガサス

 

「限定的なんですが、実は俺って未来の知識があるんですよ」

 

 千年アイテムの所有権を賭けた闇のゲーム。

 それに敗北しかけていたペガサスを助けに入った少年はこともなげにそういった。

 

「とりあえず、マインドスキャンをして貰えれば、本当のことを言っているかは分かると思いますよ。

 知識として千年アイテムの存在やミレニアムアイの力は知ってますが、実際どういうものなのかは分からないので、何とも言えない所もありますが」

 

 知識の出所までスキャン出来ないと、未来知識があるだけの精神異常者だと思われるかもしれませんが……、俺の知識をペガサス会長には伝えておきたいんです。

 そう付け加えられたが、ペガサスに取ってみればそのような言い方をされた時点で、彼が嘘を言っているわけでは無い事は分かっていた。

 

 なにより、夕食会でマインドスキャンを行った時。

 倉瀬の心の中で教導の大神祇官と出会っているのだから、彼が普通では無い事だけは最初から明らかで、全てが終わってから彼を呼び出したのも、その異常事態について話すためだった。

 精霊の実在と言うのは―― ペガサスにとって福音にもなりえるのだから。

 

(しかし、未来知識ですか)

 

 ペガサスが最初に思うのは安堵である。

 マインドスキャンをされて敵対する意思が無かったのは当然。

 元よりペガサスの人となりや、ペガサスが遊戯に敗れることを知っていたからだろう。

 

 自分の未来を他人に握られていたというのは良い気はしないが、

 倉瀬自身が遊戯に負けていることを考えると、彼にその知識を悪用するつもりはない。

 先のミッションコンプリートという発言と言い、近いうちに発生する何か―― ペガサスを必要とする何かに備えようとしているのは明白である。

 

 ……とはいっても、普段から行っているような人の心に土足で踏み込む行為は出来ない。

 彼は命の恩人でもあるし、下手なことをすれば教導の大神祇官は黙っていないだろうということで、ペガサスはマインドスキャンの応用で、心の中での対話を用いることにした。

 

 ―― マインドスキャン。

 この技は意外と応用の幅が広く、融通が利きすぎる技だ。

 

 今日は表の遊戯と裏の遊戯のマインドシャッフル。

 そして遊戯を守るために他人の心へと入った友人たちに後れを取ったが、これはミレニアムアイと言う道具の能力が、一方通行的に相手の心を読み取る物ではないことを示している。

 

 そもそもミレニアムアイの能力とは、人の心に巣食うモンスターの正体を見極めるモノなのだ。

 心を読むと言う技は使い手であるペガサスが見せる使い方の一つであり、その正当な持ち主である彼に掛かれば――。

 

「うん?あれ?」

「倉瀬ボーイ、ここはユーの心の中。そう驚く必要はありまセーン」

 

 人のマインドの中で対話を行う事すら可能とする。

 無論、本来は上手くいくわけがない。

 

 普通の人間は「心を読まれている」ことを理解できないし、ペガサスだってわざわざ対話を行おうとは思わない。

 これは双方がマインドスキャンという能力が存在していることと、その性質を理解しているが故の奇跡的な事例である。

 

「え……マジか。あーでも、そうなのかな? 実際原作でもマインドスキャン中に会話してたし、やろうと思えば任意で出来たのか……。」

「普通は相手のマインドの中で会話なんて行いまセーン、これは私からの誠意デース」

 

 なお、その奇跡を引き起こした本人は絶賛大困惑中である。

 オカルトパワーの存在は知っていても、それを体験するのは初めてだからだ。

 

 この手の事象を分かっていても混乱するのは至極当然の話。

 故に――。

 

「え、ちょっと説明するのが面倒というか何から話せばいいか分からないから、俺が考えてること全部読み取って貰おうと思ってたのに……」

「そういうことなら構いませんが……先に教えてください。いったい何を貴方は伝えたいのですか?」

「世界崩壊の危機です」

 

 倉瀬は彼の知る情報の全てを、ペガサスに丸投げした。

 

「Oh……まい……がっ……!」

 

 なお、それを丸投げされたペガサスの心労は推して知るべしである。

 

 

―――

 

一人称:倉瀬カイン

 

 

「Oh……まい……がっ……!」

 

 やっぱまずかったかな――。

 

 その能力や立場の関係上、ペガサスに対して事情を完璧に隠匿することは難しい。

 何よりミレニアムアイの所有権がバクラに移ると言う原作イベントを潰してしまったが故、こうなったらペガサスには全部開示した方が良いんじゃね?

 遊戯戦を越えた後だし、今ならまだ遊戯がいるし。

 

 命を救ったばかりだしなんとかなるだろう―― 率直に言ってその程度のノリでペガサスに自分をマインドスキャンさせると言う爆弾行為を行った俺は少し後悔していた。

 

 俺は精霊と意思の疎通を行うことが出来ない。

 しかし目的や意図を伝えることだけはできて、精霊たちも可能ならば俺を支援してくれている。

 だからこそ先程はバクラが引いたのだろうし、俺に憑いている精霊にはバクラが引くほどの何かがあると確定した以上、ここで俺が何をやっても最悪の事態にはならないという目算はあった。

 

 

 精霊の視点からしてこの行動に問題があるなら、俺が良いと言ってもペガサスのマインドスキャンを妨害してくれる――。

 妄想に予想を重ねた希望的観測この上ない推論だが、『ゾークを倒す』という一点ではほぼ確実に合意ができている以上、多分なんとかなるだろうという期待はある。

 

 むしろこれに合意して貰えていないならどうしようもないので、諦めるしかない。

 こういうのって精霊関連と信頼関係があったり、闇のアイテムを持ってる奴がやるべきことだろ。

 なんで俺だけ何も無い状況で、絶対にいるという確信はあっても「妄想9割のカードパワー」だけを頼りにライアーゲームやってるんだよ。泣くぞ。

 

 しかもペガサスがまだミレニアムアイの闇の力に飲まれてて、「死んでくだサーイ」とか言って襲い掛かってきたら、なし崩し的に俺がバクラの代役をしないといけなかったりする?

 ヤダよ、ミレニアムアイを舌ペロするなんて……。せっかく遊戯たちと仲良くなれたのに絶対敵対関係になるじゃん……。

 

「あなたのマインド―― 原作知識とやらには欠落も多かったですが、あらかたの事情は分かりました。

 あなたの知る原作をなぞらなかった場合のリスク。世界崩壊の理由と言うのもわかりマース。

 未来はかならず守らなくてはなりまセーン」

 

 なんて思ってたけど、……あれ?なんか滅茶苦茶前向き?

 ゲームクリエイター的に新しいカードを作るのが楽しみとかそういう奴?

 本当にペガサスが協力してくれるなら百人力どころじゃないけど、これ本当に信用していい奴???

 

「つまりは―― 裏の遊戯ボーイの記憶を取り戻しつつ、王の器である表の遊戯ボーイ、彼らの成長を促すために過度な干渉は避ける。

 それでいて必須だと思われる要素は踏んでいく。そのため過程で助けを求められる相手が必要だったということですね?」

「ペガサス会長のご理解が早くて安心しました。

 これからのイベントは話が大きくなるんで、バトルシティ―― 三幻神を巡る戦いはともかく、ドーマを相手に個人で挑むのは無理が過ぎるので」

「ドーマが絡むとなれば私がどれだけ力になれるかは分かりませんが……。

 可能な限り手を尽くすことは約束しましょう。そうなると―― カードの方も急がなくてはならないようデース」

 

 そして……と、己の左目を隠す髪をかき上げる。

 

「時が来たなら、このミレニアムアイを遊戯ボーイへ」

「そうなりますね。正直、凄く申し訳ないのですが……」

「まあ、問題ありまセーン。それが世界を救うためと言うのなら、快く譲りましょう」

 

 そういうペガサスは非常に穏やかな表情だった。

 え、まって前向き過ぎるでしょ。なんでそんな前向きなのだ。

 普通もうちょっと困惑したり嫌がったりするでしょ。

 

 だって―― だってペガサスは――。

 

「……シンディアさんのことはいいんですか?」

 

 思わず、聞かなくても良いことを、聞いてしまった。

 シンディアとは既にこの世にはいないペガサスの恋人。

 王国編に於ける彼の行動は全て彼女のためであり、いわばアンタッチャブル。

 人には誰しも触れられたくないところがあり、ペガサスにとってのシンディアがソレであることは間違いない。

 

 世界を救う。

 思った以上にペガサスがそれに前向きで、協力関係を結ぶことが出来そうな状況になってはいる。

 

 そこでシンディアという心の傷に触れるのは、それを覆して全てが破談に終わる可能性もある。

 しかし、俺はそれが分かっていても、これだけはどうしても聞かずにはいられなかった。

 

 俺の緊張が伝わったのだろうか。

 ペガサスは穏やかな表情を崩さないまま、俺の頭をなでた。

 

「勿論。よくありません。

 しかし―― 貴方の記憶を見る限り、ソリッドビジョンというのはこれからどんどん発展していきマース。

 

 シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンク。

 倉瀬ボーイが知る原作とやらは作品を超え、年月を超え、世界を超え。

 あくまでも幻だったそれはやがて質量を得る。

 それは私がKCでやろうとしていた、それ以上の結果。

 

 質量を得るに至る未来がいったいいつになるのか、そもそも同じ世界線での出来事なのか、未来は不確定な出来事ばかりデース。

 それでも、デュエルモンスターズの発展が続くのなら――」

 

 彼はそこまで一息にその思いを吐き出した。

 

「私がシンディアともう一度出会うために何かが出来るとするなら、それはデュエルモンスターズの発展のため、世界を守ること以外にありまセーン。

 倉瀬ボーイにはカードに宿る精霊なんていう存在も見せて貰えましたからね。

 発展の先にシンディアに会えるかは分かりませんが、シンディアが精霊としてこのカードに宿ってくれることを私は信じマース」

 

 シンディアと再び出会うために世界を守る。

 俺としては間違いなく最良な答えを得て――。

 

「あ、やっぱり俺のカードに精霊が宿ってるんです?」

「ワッツ!?」

 

 立体幻像が動いているから、デッキの引きが著しく変動するといった状況証拠では無く。

 本来、人の心に住むモンスターを見通す能力が本質である千年アイテム「ミレニアムアイ」の持ち主。

 

 ペガサスから確実な形で俺のデッキには精霊が憑いていると言う確証を得たのだった。

 

 




今回の話で放送されたのは「ミッションコンプリート」発言以前、バクラを撤退させた所までなので、ペガサスとなんやかんやしてるところは当然ながら映ってません。

次、「倉瀬 VS 海馬」のデュエル回です(本作が)
時系列的にはDDM編の後、バトルシティの前になります
※分かりにくい表記だったので文章修正


☆掲示板回でやるか分からないこの世界線におけるアニメやカード環境に関する設定

・アニメでの映像
デッキを構えた倉瀬の後ろに遊戯を苦しめたエクレシア・フルルドリス・テオ・アディン・アルバスと「あからさまに怪しい謎の仮面を付けて巨大な杖を持った白法衣」がずらりと並ぶ構図。
ソリッドビジョンなのになんでそんなに好き勝手動いてるの? → 精霊が憑いてるからだよが明かされる瞬間。

倉瀬は誰か一人でも来てくれれば……!と思っているが、実は背景で主力組が勢揃いしていた。

・ドラグマ勢
オカルトパワークソ雑魚の倉瀬を闇のゲーム(余波)に巻き込んだことにご立腹。
光り方ぐらいでしか存在をアピールできないのに、精霊の存在を確信して事あるごとに話しかけてくれるし、無条件で自分たちの力を信じてくれる倉瀬は良い持ち主です。

・ペガサス
実は心の中で対話すると言う形を取りつつマインドスキャンそのものは継続中なので、倉瀬が「これ聞いて破談になったらどうしよう。でもシンディアに出会うっていうペガサスの願いを潰したらどうしよう」
と、迷いながら堪え切れずに質問したのも、内面と外面でキャラが全然違うのも全部スキャンしている。

・倉瀬
原作の必須イベントは踏まないといけない、でも自分の好きな遊戯王ワールドで不幸はあまり起きて欲しくない。
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