ティア・マルフォイは過去の人   作:祕(himeru)

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ティア・マルフォイは無関係。

 

ホグワーツをトップクラスの成績で卒業した年、私はそのまま魔法省に入省した。魔法法執行部の魔法薬不正使用取締局だ。2回目ともなれば、簡単なことで。しかも時代遅れの教科書達は私の知る知識で補強させれば、追加でポイントを稼ぐなど無言呪文よりずっと容易い。

 

マグル間で始まった愚かな戦争は、私たち魔法使いをも巻き込んだ。否、一部のバカどもが自ら巻き込まれに喜び勇んで飛び込んで行った。

それに便乗した私も人のことは言えないが。

 

「マルフォイ家の一員として、この名を誇りたい。あなたに頂いたこの血で、この身でマルフォイ家を知らしめたい。我が家紋に素晴らしき功績を捧げたいのです。」

 

そう恭しく頭を垂れれば、満足げに許可した男。単純なヤツめ。ガチガチに固まった頭は言葉通りにしか受け取らなかったらしい。お気楽なことだ。

 

そして得た自由で私は世界を飛び回った。“前”を含めて初めての体験だ。戦時中だったこと、優秀な魔法使いであったこともあり、様々な場面で駆り出された。マグルに気付かれることのないよう、魔法使い並びに魔法生物について隠蔽し。時には闇の魔法使いと呼ばれる犯罪者を秘密裏に捕まえた。

尋問は特に得意な分野だ。“前”は当たり前だった進歩した真実薬をちょっと飲ませるだけでいい。この時代の真実薬への耐性など、容易に越えられるのだから時の流れは偉大だ。

人々は私を“至高の魔法薬使い”と言った。魔法薬学を50年は進めたと。それをせせら笑う。当たり前だ。私の作り方は80年先のそれなのだから。何も知らない愚か者達のお陰で、魔法省は私を手放し難くなった。そう、それは例え、マルフォイ家が帰還を命じたとしてもだ。

これでいい。これが、狙いだった。あれらに大人しく使われてやる義理などないのだ。私はただマルフォイの血と家が残っていれば、それでいい。これ以上、力を持たせる必要は無い。だって、元々“ティア・マルフォイ”はこの時代にいなかったのだから。

 

この先80年、魔法薬学者の功績を根こそぎ奪い取った。いずれは本にでも纏めて、更にこの立場を固めるために使い潰す。早い者勝ちなのだから、仕方ない。1つの発明で人生を変えた誰かなど知るものか。私は、私が良ければ、それでいい。だから、少しくらいネクタイを緩めようか。

 

「ミス・マルフォイ。君はもっと上に行きたいと思わないのかね。」

 

腰を撫でるその手を杖先で払って鼻で嗤う。

 

「ミスター、私は自分の力で上に上がります。誰かの補助がなければ逆上がりが出来ないマグルの幼子とは違いますから。」

「…本当に良いのか?」

 

不快げに歪めたそいつに笑顔で杖を振った。ハゲ頭の上に現れた薬瓶が逆さにひっくり返る。

 

「っ、この!、ヒック!」

「こんなのも避けられない愚図が私に何か与えようとするんじゃない。わらってしまうだろ?」

「お、ヒッ、まえ、ヒック!…!」

「ああ、そうだ。」

 

しゃっくり咳薬のお味はいかが?

 

 

 

 

 

 

英国魔法省は馬鹿げたプログラムを決行したらしい。ドラゴンを手懐け、利用しようというのだ。

別に魔法省自体が魔法生物を認めた訳では無い。ただ使えるものは使おうと道具のように使用を決めただけ。そして、魔法省魔法生物規制管理部には都合よく、使えそうな、使いやすそうな人物がいた、それだけの理由で始まったそれ。

愚の骨頂だ。誰が自分達を認めない存在に付き従うものか。敵意を持って睨みつけてくる奴らを心から慕えるか?無理に決まってるだろ。出来るやつがいるなら見てみたい!ナイフを突きつけてくる相手を笑顔で抱き締めに行くような狂気だ。私なら死んでも嫌だ。否、死にに行ってるようなその行為にこの言葉は適切ではないな。そんな死に方は嫌だ、が正しい。とても間抜けな死に方だ。

 

しかし、それは“少し”上手くいってしまった。例の、使いやすそうな変人がドラゴンを手懐けてしまったのだ。そして、それはそれは友人のように戯れる彼に、その他大勢は錯覚した。ドラゴンとは簡単に手綱を握れる存在なのだと。これだから、バカの考えることは嫌いだ。誰も彼もを好きになるような生き物など人間を含めて居ないというのに!

 

だから、こうなる。

 

「あ、ああ!」

「治療、治療を早く!」

「魔法薬はまだか!?」

「腕が、腕がぁ!!!」

 

赴いた東部戦線は阿鼻叫喚だった。これの滑稽なところは敵方からの攻撃ではなく、自業自得でこうなってるところだ。自身の魔力を使う気にもなれず、適当に魔法薬を投げる。さあ、好きなものをどうぞ。今話題の魔法薬学者のお手製薬だ。召しやがれ。

翻したローブで、外に向かった。木の奥に炎がチラつく。どうやらまだドラゴン達は興奮してるらしい。そりゃあ餌が足元をじゃれついてるんだ。猫だって捕まえて食べるだろう。

 

「やめて!止まって!お願いだから!」

 

両手を広げて、ドラゴンに叫ぶ人影は一つだけ。他の奴らはラジコンのように逃げ惑ってるか、猫じゃらしのように杖を振ってるか、懐中電灯のように攻撃魔法を放つ烏合の衆だ。これでは奴が守ってるのは人かドラゴンか分かったもんじゃない。

 

「落ち着いて!落ち着いてくれ!頼むよ!止まってよ!」

 

誰も奴の訴えなんて聞いちゃいない。それが現実だ。1人の言葉なんてたかが知れてる。だから、人は力でしか従えられない。

 

「メテオロジンクス。」

 

ふわり、季節外れの雪が振った。自然では有り得ないほど、小規模な雪雲だ。これが、今の私に出来る最大規模。

 

「レヴィオーサ。」

 

びゅーんひょい、だったか、この呪文は。懐かしくて何だか笑えた。ふわり見送った小瓶は雲上で中身を振り撒いているだろう。杖先で遊ぶように雲で見えないそれを動かす。中身は簡単、安らぎの水薬だ。小さな白をその身で受けたバカ達は次々と眠りについた。そっと杖先を傘に作り替える。変身術の応用だ。自身の魔法で眠るなど間抜けな姿は晒さない。

 

雪が、止む。

 

ドラゴンは暴れてはいなかった。安らぎの水薬は鎮静の効果がある。その巨体には眠るほどの効果は出なくとも心を落ち着かせる程度の力は発揮したのだろう。静かな目でこちらを見ていた。

立っているのは私と、もう1人。堅牢なドラゴンの翼の奥で守られた人。唯一、ドラゴンが気を許した存在。その目が持つ碧を認めて。

 

「待って、違う!彼らから危害を加えたわけじゃ…!」

 

訴えかけるような叫びは静かな森の中でよく響いた。立ち塞がったコイツにとって、私は何か。きっと、味方では、ない。

思わず喉を震わせた。失笑だった。なんて、見当違いな行動だ。

 

「帰れ。」

 

森の奥へ、促した。杖は逆さに腕に添うように握りしめて。

 

「これは人間の問題だ。お前らは、関係ない。」

 

驚いたように、苦しそうに、目を見開くそいつには目を向けない。名も無きドラゴン達の人間の数倍の大きさを持つ目を見つめた。

敵意はない。あるのは同情だ。こんな、戦争に参加するなんて馬鹿馬鹿しいだろう。勝手に始めたくせに巻き込むなと怒りたいだろう。私も、そう思う。マグル達は力など元よりないくせに、自分達の方が上だと存在しないものを主張したがる。呆れるよな。面白くないよな。不服だよな。わかるよ。お前らは姿も違うのだから、尚のこと、そう思うだろうに。

だからこそ、もう一度腕で指し示す。

 

「帰りたまえ。ここは、お前らのいるべき場所じゃあない。」

 

特に大きなドラゴンの理性あるそれと見つめ合った。静かな瞳だった。それが伏せられる。ゆっくりとした動作だった。まるで礼を述べるような。

のしり、その翼が広げられる。それに続くように次々とドラゴン達はその堅固な両翼を開いた。そして、立派な顎を垂らした先には赤茶色の髪の彼。

一緒に行くか、と問うような動きだった。その顔を懐かせて、おいで、共に行こう、と迎える。けれど、その硬質な肌に手を伸ばした男は首を横に振った。寂しそうに、けれど安堵したように、ゆっくりと。

 

「これで、いいんだ。やっぱり、君たちは自由な方がもっと、ずっと、素敵だから。」

 

次の瞬間、力強いはばたきだった。髪がぶわりと舞う。それをローブごと押さえつけて、1歩、後ずさった。

袖口から顔を出したヴァシーを押し戻して。やめろ、見えないくせに好奇心で這い出てくるな。好奇心は猫も殺すらしいぞ。偶に猫に狙われてるお前なんて瞬殺だろ!

 

遠くに影が遠ざかっていく。大きなその群れは風を作り出して。

後に残ったのはそれをただ、見つめる赤茶色の後ろ姿だけ。群れから置いていかれたように佇む姿は、少し寂しそうに見えた。気のせいだ。

 

「エピスキー。レパロ。」

 

そのボロボロの体が見苦しくて、杖を振った。簡単な治療とみすぼらしいコートは、まあ、見れる程度にはなったはず。

 

「…とう。」

 

ゆっくりと、その碧が振り返る。

 

「ありがとう。…えと。その、ひ、久しぶり。」

 

そろり、ぎこちなく上げられた片腕。コイツはブリキのおもちゃなのか?マグルのおもちゃでももう少し自然に動くぞ。もう一度吸い寄せられるように光源もないのに輝く目を見た。視線は逸らされ、手はなかったかのように気まずそうに下げられた。

 

コイツ、何も変わらないな。私と関わらなくなってから、何も。…忌々しい。

 

背を向けた。適当に魔法薬を放って帰ろう。私は治癒士として呼ばれたわけじゃないんだ。もういいだろ。ヒールのない重いブーツで地を踏みしめる。デザイン性など皆無な足先を守るだけのものだ。別に切り落としても生やしてやるのに。

 

「アイアンベリーを、ドラゴンを見逃してくれて、ありがとう。彼らは何も悪くないんだ。」

 

ああ、早く帰りたい。ポートキーでも使って戻ろうか。姿表しはこの距離ではバラける可能性が高い。頭がバラけなければ、どうとでも出来るが、そこまでしたい訳じゃない。痛いのは嫌いなんだ。

 

「魔法薬も!偶に基地に届くよ。さすが、君のやつはよく効くね。」

 

家に帰ったら魔法薬の補充をしよう。材料はあるから、ひと月ほど篭って。何、貢献してやってるんだ。休むわけでもなし、文句は言われないだろう。言われたらその口にフルーパウダーを突っ込んでやる。きっといい場所に行けるさ。

 

「君はすごいね。最近、名前を聞くよ。同僚にも君のこと訊ねられて、さ。」

 

今日のディナーは気に入りのバーにしよう。酒も美味しいらしいが、それよりもジェラートが素晴らしい。言えばオムレツも出してくれるのだから、最高だ。ヴァシーもあそこのオムレツのふかふか具合に夢中だろ?

 

「ね、ねえ、ティア、」

「お前が呼ぶな!汚らわしい!」

 

触れようとした手を杖先で叩く。掠ったそこは鋭く赤が滲んでいた。睨みつけた目は色の通り深い悲しみを浮かべていて。なんでお前がそんな顔をするんだ、裏切り者、と口汚く罵ってしまいたい。しかし今はそれよりもこんな辛気臭い顔を見たくもなかった。コイツの存在を感じない場所に行きたかった。

 

「……。っ。」

 

さっさと、帰ろう。後ろに踵を返す。もう用はない。

 

「わっかんないよ!!」

 

がちり、体が固まった。魔法をかけられたような、そんな感覚だった。杖なんて向けられてないのに。

 

「ああそうだよ!僕は君が言う通り愚図だしノロマだし馬鹿だし阿呆だし最悪さ!人を苛立たせないことなんてない!!でもさ、でもさ!」

 

しゅるり、襟首から顔を出したヴァシーがアイツを舌を鳴らして威嚇する。それを私は黙って宥めた。怒るな。お前が怒るとローブ下で巻き付かれた尾が絞まる。私を窒息させる気か。

 

「君は違うだろ!君は僕を放っておいてくれた!そういうやつだって認めてくれた!なのに!急に、急にだ!突然!訳わかんないよ!!!君はなんで僕と話してくれないの、僕の話を聞いてくれないの、目を合わせてくれないの!君は、君は!!……僕を…嫌いになったの…。」

 

風が吹く。背中から私を押すような強い風に身を任せて、爪先を動かした。ここはお前の居ていい場所じゃないと告げるように。

 

「何か、したかな。何が悪かった?教えて、僕、わかんないんだよ。できるだけ直すよ。頑張る。だから、ねえ、」

 

ひとりぼっちの男を置いて、ひとりきり歩く。眩しさに逸らした目は夜に慣れきって、私の進む道がよく見えていた。

 

「ティア、君を教えてよ。」

 

私だって知らないよ。

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