混血のカレコレ【Over the EVOLution】 作:鬱エンドフラグ
「なぁ、フィーア。コーヒーを淹れたんだよな?」
「はい!今回はうまくできたと思います!」
俺の問いに対してフィーアは満面の笑顔を浮かべながら自信ありげに答える。
俺はその笑顔を見て苦笑いしながら再びカップに目を向ける。
カップの中には…黒い球体が生物のように蠢いていた。
「フィーア、もう一度聞くぞ?コーヒーを淹れたんだよな?」
俺は再度確認を取るように尋ねる。
フィーアは首を傾げる。俺の質問の意図を理解していないようだ。
俺はフィーアが作った謎の物体Xを見つめる。
うん、どう見てもこれは飲み物ではないよな?
それに何だか禍々しいオーラを感じるんだが……。
「これって飲んで大丈夫なのか?」
「今回は大丈夫です!飲めます!十中八九!多分!きっと!おそらく!ひょっとしたら!」
喋るたびに可能性下がってない?
…あーもう考えたって仕方ない!! どちらにしろ俺が毒味しないといけない。
俺は意を決してカップを手に取り黒い球体に口をつける。
黒い球体のプルンッとした感触。その感触に、え?ゼリー?と思った次の瞬間、気持ち悪い舌触りが口に広がった。
味は全くしない。ただただ得体の知れない感覚が襲ってくるだけだ。
俺はなんとか口の中のものを吐き出さないよう堪えて飲み込んだ。
そして…
「…ぐふっ」バタリ
「お、お父さーん!?」
「大丈夫ですか?お父さん?」
「ハァーッ…ハァーッ…ああ、問題ない。それよりお前にコーヒーを作らせてはいけないことが改めて理解した…」
「そ、そんなことありません!私だって少しは上達してるんです!!」
「ほう、さっき飲んだあの物体、ヒ素や青酸カリより遥かに毒性が高かったんですが?」
俺が人間だったら即死だぞ?
俺の言葉を聞いてフィーアが「ええ!?」と言って驚く。
フィーアの作るコーヒーは下手すると命に関わる。
料理は美味いんだけどなぁ、どうしてコーヒーだけ…。
やはりフィーアにコーヒーは絶対に作らせないようにしよう。
俺はそう心に誓った。
「ビーフキノコ買えてよかった〜。これシチューに合うんですよね〜」
あ、どうも皆さん。フィーアです。
私は今、お父さんからおつかいを頼まれて、近所の商店街に買い出しに行って、その帰りです。
「…今日もコーヒー失敗したなぁ」
どうしていつもうまくいかないんでしょう…。
はぁ…とため息をつきながら電化製品店の前を通り過ぎようとした時、店頭に並ぶテレビに流れるニュースが私の耳に入ってきた。
『——殺害された男たちは府露斗会という暴力団組織で、現場の状況から2日前に起きた振り込め詐欺グループ襲撃事件と同一犯だと思われ…』
…なんだか最近こんな事件が多いですね。
この前は詐欺グループ、その前は不良や半グレ集団、そして今度はヤクザですか…。
悪人、犯罪者ばかりが狙われてますよね。
まさか…拷問ソムリエが!?
私は最近youtubeで観た動画を思い出しながらnascitaへ帰ろうとした。
「おいっ!!テメェ!!今ぶつかっただろ!!」
「な、なんだよお前!!」
すると猫耳の女の子が柄の悪い男に絡まれているのを目にした。
「おいっ!!テメェ!!今ぶつかっただろ!!」
「な、なんだよお前!!」
街中で少女と男が揉めていた。
少女は頭に猫のような獣耳が生えていて、尻尾もついている。男の方は大柄で肌は緑色、額から2本のツノを生やしている。
誰が見ても少女と男は異宙人だということがわかる。
「だからぶつかってないって言ってるだろ!」
少女は反論するが、男は興奮しており聞く耳を持たない。
それどころか逆上し、さらに詰め寄っていく。
「い、言いがかりだっ…アガッ!?」
「ガアアアアアアアア!!」
男は少女の首に腕をかけ、持ち上げるとそのまま締め上げ始める。
「オイオイ…あれヤバくね?」
「誰か止めろよ…」
「異宙人同士の喧嘩なんてほっとけよ」
「ははっすげ、これ絶対バズるわ」
周りの人達は誰も助けようとせず遠目で眺めていた。
それどころかこの状況を撮影し、SNSに投稿する者までいた。
しかしこれは仕方がないことだろう。
周囲にいるのは全員人間。
人間と異宙人とでは力に差がありすぎる。
関わり合いたくないのが普通だ。
(…ちくしょう)
少女は男に締められてる間、首の圧迫感に苦しみながら思う。
(私が一体何をしたっていうんだよ…。なんで私がこんな目に遭わないといけないんだよ!)
少女は悔しさから涙を流した。
男の首を絞める力が強くなり、少女の意識が遠退き始める。
(…みんな嫌いだ)
そんなことを考えながら、少女の意識が闇に落ちようとしていくその時だった。
「とうっ!」
「があっっ!!?」
突如何者かが男の頭部に蹴りを入れる。男は頭に衝撃が走り、少女を締め上げてた腕の力が緩む。
そして少女はそのまま地面に落ちた。
「ゲホッ…ゴホッ…い、一体、何が…」
少女は突然の出来事に困惑する。
「大丈夫ですか?」
すると少女を助けたであろう人物の声が聞こえてきた。
少女は声の主の方を見ると、そこには金髪のポニーテール、額から緑色の角が生えた、自身よりも年上の少女が立っていた。
「ッガアアアアアアアアア!!ナメんじゃねえええええ!!」
すると男は激昂し、金髪の少女に向かって殴りかかろうとする。
しかし金髪の少女…フィーアはそれを難なくかわす。男は拳を振り回すが、その攻撃は全て空を切る。
フィーアは男の攻撃を全て見切っているようだ。
そしてフィーアは隙をついてカウンターで男のみぞおちに蹴りを入れた。
「ゴッハァ……!?」
男は蹴られたみぞおちを押さえ、喉にこみあげる不快感を抑えつつ膝をつく。
一方フィーアは、先程までの戦闘が嘘のように落ち着いた様子で男を見下ろしている。
「まだやりますか?」
「っ…………クソがっっっ!!!覚えてろよっっ!!!」
フィーアが問いかけると、男は捨て台詞を残してその場を去った。
「…」
フィーアは周囲の人間に視線を向ける。その目はとても冷たいものだった。
視線を向けられた人々は目を逸らし、ばつが悪い表情でそそくさに立ち去っていく。
周りに人がいなくなると、フィーアは少女に近づき手を差し伸べた。
「立てますか?お怪我はありませんか?」
「っ……」
少女は差し伸べられた手をパシンッと弾いた。
「なんで…なんで助けたんだよ!!」
少女は苛立ちを募らせながら叫ぶ。フィーアはその様子に戸惑う。
「どうせ…どうせ生きてたって……う」
ドサッ
すると少女はその場に倒れ伏してしまった。
「え!?ちょっ大丈夫ですか!?」
フィーアは慌てて倒れた少女に駆け寄る。
(あーもう…本当にちくしょうだ…)
少女は心の中で呟くと意識を失った。
とある廃工場
「頼む!!新しい『ボトル』をくれ!!あれがないとゴミどもを掃除できない!!」
一人の男が必死の形相で懇願していた。しかし、男の目の前にいる人物は冷淡な声で言い放つ。
「新しいボトル…ね。随分と勝手なことを言ってくれる。あれはシャーペンや消しゴムみたいな消耗品じゃねえんだ。むしろこちらとしてはボトルを紛失したお前さんに責任を取ってもらいたいくらいなんだぜ?」
「っ…そ、それは…」
男の言葉に反論できず、口籠る。その様子に目の前の人物はため息をつく。
「どこで無くしたか、心当たりはないのか?」
男は自身の記憶を辿る。
男は昨晩、『ボトル』で『ジャッジ』となり、府露斗会のオフィスに突撃し
そこで男はハッと気づく。
帰りの道中、誰かとぶつかったことを思い出した。
あの時はなるべく顔を合わせないようすぐにその場を離れたが、もしかすると…あの時か?
男は目の前の人物にそのことを話す。
すると目の前の人物はどこからかタブレットを取り出すと何かの操作を始める。さらに男から具体的な場所や時間帯
を聞きながらタブレットを操作する。
そして僅か数秒後、作業が終わると、男にタブレット画面を見せる。
「ハッキングであの地区の監視カメラの映像を入手した」
その映像には街灯が僅かにあるだけの暗い夜道で自身と猫耳の少女がぶつかる場面。
映像の自分は少女を気にもせず走り去る。喚く少女を無視して。
すると映像の少女は道に落ちるナニカに気づき、それを拾い上げる。
そこで目の前の人物は映像を止め、映像の少女を拡大する。少女が手に持つものの形がハッキリと映る。
それは今となっては見慣れた筒状の小さな容器…
紫色のクリア素材…茶色いキャップ部…
そして———————刻印された『山羊』マーク。
「どうやら『ロストボトル』はこのガキが拾ったようだな」
それは紛れもなく自身の落としたボトルだった。