混血のカレコレ【Over the EVOLution】   作:鬱エンドフラグ【旧名:無名永久空間】

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皆様に謝罪します。

久しぶりの投稿となるのです…が!!

今回の話は前回の「懸念」の続きではありません。前回からの続きを書くのに行き詰まった結果、エボル編は未完成のまま締めて、そのまま次に行くことにしました。

無計画に初めた結果がこれだよ。

今回の話はエボル編の最後の話として投稿する予定でした。

シディとヒサメの過去編を合わせた話なので少し長くなりました。

エボル編は追々、話の投稿、ストーリーや設定の修正、変更などを行なっていく予定です。

何卒ご了承ください。



ベストマッチなカレラ

鬱蒼と生い茂る木々の隙間から見える空は曇天。

 

雨が降り注ぎ、冷たい湿気を帯びた森の中に響く無数の足音と声。

 

「足跡があったぞ!!こっちだ!!」

 

「急げ!!」

 

 

 

「…」

 

男達が叫ぶ声を聞きながら、木に背中を預け身を隠し、一人の男の子を抱き抱える白髪の女性がいた。

 

「母さん…?」

 

「シッ!」

 

「…?どうかした?」

 

キョトンとした表情で尋ねる男の子の容姿は女性と同じ白髪で褐色肌の整った顔立ちをしているが、頭と臀部に狼のような耳と尻尾が生えている。

 

女性は抱えた男の子をゆっくりと地面に下ろし立たせる。

 

「…“シディ”」

 

女性は男の子…シディの肩に手を乗せ目線を合わせながら優しい顔で告げる。

 

「今日から、君は自由だよ」

 

「…じゆう?」

 

「これから沢山の人と出会えるし、沢山のモノを学べるし、沢山の感情を知れる」

 

「母さんも一緒…?」

 

シディがそう問うと女性は

 

「大丈夫」

 

 

 

「シディにはこれから家族みたいな大切な仲間が沢山出来るから」

 

 

優しく微笑み、そう答えた。

 

すると女性は立ち上がりシディから離れる。

 

「ま、待って!!どこ行くの!?」

 

「ちょっとそこまで見に行くだけ」

 

女性は振り返らず優しい声で答えるが、まだ幼いシディでも察することができた。それは別れを意味していると。

 

「嫌だ…!!俺も行く…!!」

 

シディは涙を流し女性に手を伸ばす。

 

その瞬間、雷が一筋の光と共に鳴り響き、それに思わずシディは目を瞑る。

 

そして再び目を開けた時には

 

「かあ…さん…?」

 

女性の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 

「脱走者です!!脱走者を捕えました!!」

 

女性は複数の武装した男達に取り押さえられていた。

 

「太陽神の個体は!?」

 

「いません!!」

 

「デュアルコアプラン唯一の太陽神DNAと適合した個体だ!!なんとしても探し出せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供の足だ!!そう遠くには行けない!!」

 

シディは木に身を隠し座り込んでいた。男たちの声と足音が響くたびに、ビクビクと身を震わせる。

 

「…母さん」

 

シディはポツリと呟く。その時だった。

 

ガサガサと草むらが揺れる音を聞いたシディは反射的にそちらを見る。

 

 

「フゴッ!フゴッ!!」

 

 

それは草木に紛れるほど緑色の肌。とんがった耳と口から覗かせる鋭い牙。それはゴブリンという種族。しかし世間一般が想像するような小柄な体躯のRPGなどで馴染み深い姿ではなく、そこらのボディビルダーよりもガタイの良い大柄な身体をしていた。

 

「…だ、だれ?」

 

シディは恐る恐る尋ねる。

 

「フゴ…」

 

ゴブリンはクイッとシディの腕よりも太い指を曲げて動かす。ついてこい、ということだろうか。

 

シディは立ち上がり、ゴブリン…『武者小路ゴブアツ』について行った。

 

 

 

 

 

…それから10年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、山の中を、一人の青年が元気よく駆けていた。

 

白髪褐色肌の美丈夫で端正な顔立ちをしており、身長は頭の上の狼耳を入れずに測っても180cm以上ある。

 

その体格は服の上からでも良く解るほど鍛え抜かれた肉体美をさらけ出している。

 

その青年の名は、『シディ』。歳はちょうど20才。

 

彼には愛すべき家族がいる。

 

一人目は『ゴブイチ』。種族はゴブリン。

 

建築が得意であり真面目な性格でシディ達をまとめ上げてくれる。

 

「フゴフゴフゴゴ!!(俺に建てられねぇ小屋はねぇ!!)」

 

二人目は『ゴブフタ』。彼もまた種族はゴブリン。

 

ふくよかな体で食べるのが大好きで、少しばかりドジなところがあるが、すごく優しい兄である。

 

「フゴーフガフゴゴ〜(いつか満腹というモノを知りたいよ〜)」

 

三人目は『ゴブミツ』。彼も当然種族はゴブリン。

 

女の子に大人気(ゴブリン限定)で光るものが大好きで金色のアクセサリーを身につけ髪も整えており家族の中では一番お洒落。

 

「フゴフゴフゴガァ(シディは女ゴブにモテねぇからなぁ)」

 

 

そして…

 

10年前、山で捨てられていたシディを拾ってくれたゴブリン。シディにとっても兄達にとっても強くて尊敬できる父親。

 

武者小路ゴブアツ

 

 

 

3年前まではゴブリンの母親がいたが、人間の使う『車』という乗り物に轢かれてしまい亡くなってしまった。

 

 

 

 

「フギャ!!フギャ!!(急げ!!急げ!!)」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

3人の兄達は背後から迫ってくる単眼の巨人、『サイクロプス』から逃げていた。

 

シディとその家族であるゴブリン達が住む山は、自然に溢れた場所だが、その分危険な野生生物も多く生息しているためこのように常日頃から命の危険に晒されている。

 

サイクロプスはドスンドスンと巨体に見合ったパワーで木々を薙ぎ倒しながら獲物である三匹のゴブリンを追いかける。

 

 

「フゴ!!(伏せろ!!)」

 

そこで、シディの出番である。

 

シディはサイクロプスを見捉えながら、自身の右手からゴォオオオと燃え盛る火球を生み出す。その大きさは、シディの頭ほどの大きさはある。

 

それをシディはサイクロプスに向けて放つ。

 

真っ直ぐ飛んでいく火球は見事にサイクロプスの背中に命中する。

 

するとその炎はボッ!!と音を立ててあっという間にサイクロプスの全身を覆い尽くした。

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

サイクロプスの咆哮のような断末魔が山に響いた。

 

 

その後仕留めたサイクロプスの肉を兄弟仲良く召し上がっていた。

 

「フゥギャフギャフギャア!(相変わらず不味そうな食い方してんだなぁ!)」

 

「フギャフギャフゴゴ!(シディは味音痴だからな!)」

 

「フガフガフゴンガ(俺はこっちの方が好きなんだ)」

 

3人の兄たちが肉に紫色の木の実などを乗せて食してるのに対し、シディは塩胡椒をふりかけ食していた。

 

「フガフガフゴンゴー(絶対俺らの食い方の方が美味いよー)」

 

「フゴンゴッ!(間違いないっ!)」

 

「フンゴフゴゴー(シディは本当変わってるよなー)」

 

 

 

 

 

 

シディと3人の兄たちは頭を悩ませていた。注目すべきはゴブフタの手の中にある8つの青い木の実。

 

「フギフゴギ…(ここに8つの木の実がある…)」

 

「フギャフギャウゴ(兄弟4匹で平等に分けたいな)」

 

「フギギィ(どうすれば分けられるんだ)」

 

「「「フゴォ…(うーん…)」」」

 

その超難問に、ゴブイチ、ゴブフタ、ゴブミツの3匹が唸っていると、ある者が解を導きだした。

 

「フギャフギ…(もしかして…)フゴフギゴガフゴギフゴガフゴ?(1人2つずつにすれば皆同じ数食べられるんじゃないか?)」

 

シディである。

 

「フギィ!!フギギィ!!(確かに!!流石シディだ!!)」

 

「フギャフゴフゴオ!!(シディは本当に頭がいいな!!)」

 

「フギャフギィ!!(ゴブリン界の神童だよ!!)」

 

「フギャゴフギンゴフゴギンゴッ!(俺は4兄弟の頭脳担当だからなっ!)」

 

 

シディは家族達と、毎日楽しい日々を送っていた…

 

 

あの夜

 

 

“彼”と出会うまでは

 

 

 

 

 

 

ある日の晩のこと、暗い森の中をゴブフタが鼻歌交じりで歩いていた

 

「フガフゴフガァ♪(なにやらこっちからおいしそうな匂いが♪)」

 

どうやら食べ物の匂いを嗅ぎつけてきたようだ。

 

彼は気づかなかった。

 

真横から、山道を走る白いトラックが迫ってきていることに。

 

「んっ、ゴブリンだ」

 

運転手はゴブフタに気づくものの

 

「轢き殺せ、俺たちは急いでんだ」

 

悲しいかな。運転手と助手席に座る男にとって、ゴブリンという生き物は、動物どころか踏みつけられる蟻に等しい。

 

そんな彼らにとっては、山道を歩くゴブリンなどただの障害物。わざわざ停車して通り過ぎるのを待つ道理はない。

 

トラックはどんどんゴブフタに近づいていく。

 

「っ!ゴブフタ兄さん!!」

 

それにシディがいち早く気づく。彼の狼耳の鋭い聴覚が迫り来る轟音を捉えたのだ。

 

シディの脳裏にフラッシュバックする光景。

 

10年前、自身を置いて去っていく母親の後ろ姿。

 

3年前、人間の車に轢かれ死んだゴブリンの母親。

 

 

(────俺が家族を守らなきゃ!!)

 

 

もう失いたくない。その想いに突き動かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゴフガフゴ?(ゴブフタ兄さん大丈夫?)」

 

「フ、フギィー…(た、助かったー…)フゴフゴフゴ(もう食べられなくなると思ったよ)」

 

「フガフゴフガ?(こんな時まで食べ物のことかい?)」

 

シディたちの近くには先ほどのトラックが横転している。シディが兄を助けるために自身の力を使った結果である。

 

この後に及んで食べ物のことばかりの兄に苦笑しつつも助けられたことに安堵する。

 

その時、シディの聴覚が微かにだが物音が聞こえた。

 

「何かいる…!?」

 

発生源はたった今シディが横転させたトラックからだった。

 

「誰だ?」

 

トラックの中で蠢く影。何かを啜るような音が聞こえてくる。

 

シディは警戒しながらトラックに近づく。

 

徐々に、その全体像が明らかになっていった。

 

 

 

 

「ヂュル…ヂュルル……」

 

 

そこにいたのは、少年…の姿をした化け物だった。

 

前頂部は黒髪なのに対し、前髪などの髪先は赤い。目は充血してるというにはあまりにも赤い。

 

「な、なんだアレは…!?人間なのか…?それとも別の…」

 

その化け物は怪我をした男の首筋に牙を突き立て血を啜っていた。血を吸われてるのはトラックの運転手だろう。

 

「フギャギャ…(ち、血を吸ってる…)」

 

ゴブフタは恐怖していた。

 

「このままではまずいな…」

 

しかしシディは違った。

 

「!?」

 

シディは素早い身のこなしで化け物から男を引き剥がした。

 

「それ以上血を吸えば、この人間は死ぬぞ?」

 

「グァ、グゥア、ガァアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

化け物は邪魔するなと言わんばかりに雄叫びを上げる。

 

「!?、戦う気か?」

 

化け物は髪を逆立たせ、手から糸状の赤いオーラのようなもの出し戦闘体制に入っていた。

 

兄を庇うようにシディは一歩前に歩み出る。

 

「フゴフゴガ(ゴブフタ兄さんは下がってて)」

 

「フゴフゴ、フギイ(気をつけなよ、シディ)フガゴガ…(なんかあいつ変だ…)」

 

「フガ(あぁ)」

 

兄を下がらせシディは構えをとる。

 

「ぐ、ぐぅうううううう…」

 

化け物が唸る。その様子にシディはあることに気づいた。

 

「!?、泣いてるのか…?」

 

化け物は赤い眼から涙を流していた。

 

(なにか哀しいことがあったのか…?)

 

「がぁあああああああああああ!!」

 

「くっ!!」

 

しかし考えている暇は与えてくれない。化け物の赤いオーラを纏った爪がシディを襲う。それをシディは跳躍し紙一重で避ける。

 

(これは…強力だなっ…)

 

跳躍の勢いで木の枝の上に乗り距離を取る。

 

(なにやらわからぬが…相手は正気ではない。だが俺が逃げれば兄さんたちに狙いを定められるかもしれん)

 

────()()()()()()()()()()()…?

 

()()()()()()だからなぁ…)

 

 

「…やむを得ない」

 

シディは覚悟を決める。

 

「殺す気で行くか」

 

────でなきゃ、こちらがやられる。

 

シディは木から化け物へ飛び掛かる。

 

それは一瞬だった。シディが風の如く化け物の横を駆け抜けたかと思えば

 

「ガッ!?」

 

化け物の首元から鮮血が舞う。

 

「ペッ」

 

シディは血の混じった唾を吐いた。しかしその血はシディのものではなく…

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

化け物の首からブシャアアアアアアという音を立てながら血が吹き出す。

 

「首元を噛みちぎった。これでどんな動物でも…!?」

 

シディは目を疑った。なぜならそこには傷口が塞がっていく化け物の姿があったからだ。

 

(傷が治っている…?傷を再生させる能力があるのか…?まさか…)

 

不死身…?

 

(いや!!それはない筈だ…。それにしても…なんなんだ…!?)

 

この自然界の理に反するような生物は…

 

(とにかく陽が出てさえいれば…俺の力も元に戻る…コレはなんとか陽が出るまで粘るしかないか…)

 

 

 

 

 

 

「ガハッ!!」

 

シディは化け物の攻撃を喰らい飛ばされる。シディはハァッ、ハァッ、と息を荒げる。身体は傷だらけで結んでいた髪は戦闘途中で紐が切れた為、今は腰辺りまである長い髪は乱れている。

 

(マズいな…身体が動かない…かれこれ数時間闘い続けてる…)

 

あの後、シディと化け物の闘争は続いた。しかし、シディの力は夜にのみ発揮されるものであり、長期戦により徐々にシディは劣勢に立たされていった。

 

そして今に至る。

 

(もう限界か…)

 

「ぐうううぁあっ…!!」

 

そうこうしてるうちに化け物の赤いオーラを纏った拳がトドメと言わんばかりに振り下ろされようとしていた。

 

(ここまでか…)

 

シディは自身の死を悟り、目を閉じる。

 

(兄さんたちからはずいぶん離れた…あとは父さんが守ってくれるはずだ。俺がここで死んでも問題は…)

 

その時だった。

 

(…?)

 

ふと、頬に液体がつたるような感触にゆっくりと瞳を開く。

 

雨かと思った。しかしすぐに自身の頬を濡らすものは水ではないと知る。

 

「ガッ…!!ウウッ…!!」

 

ピタっと腕を振り上げたまま動きを止める化け物。

 

「ヤ、ヤ…だ…!!お、おれ…!!ガァッ…!!」

 

シディの頬を濡らしていた水の正体…

 

それは化け物の…少年の涙であった。

 

少年の赤い眼からは大粒の涙が流れ落ちていた。その顔には悲痛に歪め、今まで焦点の合ってなかった赤い目は理性を取り戻したかのようにしっかりとシディを捉え、堪えるように身体を震わしている。

 

(…戦っている…のか…?自分の中で…暴走する自分を抑え込もうと…俺を傷つけまいと…?)

 

自分は今すべてを諦めて、死を受け入れようとした。

 

(俺はこれでいいのか?コイツは必死に俺を傷つけないように戦ってるとのに!!)

 

無理やり体を動かしシディは立ち上がる。

 

(諦めるな!!諦めても死ぬときは死ぬ!!)

 

 

だが!!

 

 

(俺は俺が諦める事を許さん!!)

 

「おい、そこのお前」

 

シディは目の前の少年に語りかける。

 

「安心しろ。俺はお前に殺されない」

 

戦意を取り戻したシディと暴走した少年の戦闘が再開する。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…────────朝だ」

 

シディは膝をつきながらも勝機が見えた。

 

あれからさらに数時間、ようやく夜は明け日が昇り、シディの本領が発揮される。

 

シディの背中の、双翼のような痣が光を放ち始める。その輝きは太陽のように眩く神々しい。

 

シディは手から巨大な火球を生み出す。

 

「今は──────」

 

燃え盛る火球は、少年の眼前に迫る。

 

「ア…」

 

 

「──────眠れ」

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…どこだここ…?」

 

少年は洞窟のような場所の入り口近くで目を覚ました。少年はなんとか頭を働かせ、自身の記憶を辿る。

 

「…!、そうだ!皆がゾンビにされて…」

 

 

 

『じゃ、ヒビキを頼むぜ』

 

 

『生きてね、カゲ』

 

 

 

 

 

「“シロウ”…“ヒビキ”…」

 

少年は最後に見た二人の親友の変わり果てた姿を思い出し、悲しさと悔しさで涙を浮かべ顔を伏せる。

 

(“ヤツ”に噛まれてから意識を失って…)

 

でも僅かに覚えてる。

 

悲しくて悲しくて、それを誰かにブツけてた。

 

(アイツはずっと受け止めてくれてて…)

 

「目が覚めたか」

 

「!!」

 

突然の声に驚き声の方に振り返る。そこにいたのは先程まで自身と死闘を繰り広げていた青年、シディだった。彼の身体は傷だらけで、さらに左腕は添え木と布で固定されており、骨折の応急手当だと思われる。

 

「お、お前その身体…俺が…?」

 

「ただのジャレ合いだ。山ではよくある事さ」

 

そんな状態にも関わらず彼は優しく微笑んだ。

 

それに対し少年は呆然とし、思わず涙が滲んだ。

 

「…んだテメー、いけすかねー奴かな…」

 

泣いた顔を見られたくなのか少年はくるっとシディに背を向け、袖でゴシゴシと目を拭う。

 

「ウム?生け簀?捕まえた魚を入れておく場所の事か?」

 

シディが返した天然な返答に少年は思わずガクッと項垂れる。

「それより良かった。お前の涙が止まって」

 

「ア゛?」

 

「ずっと泣いてたから」

 

「…おかげさまでな…──────────────────泣いてちゃ復讐は出来ねーからな」

 

 

シディは少年それぞれ何があったのかを話した。

 

少年の話を聞くに彼は自分の村を襲われ、2年間も眠り続けていたらしい。そして起きた時には身体が作り替えられていたのだと…。

 

「なるほど…それでトラックの中から俺が出てきて、お前らを襲い出したわけか。…悪かったな」

 

「ウム」

 

「!、そうだ、トラックに俺を運んでた奴らの痕跡が残ってるかもしれねぇ」

 

「確かあのトラック運転手…」

 

「どうした?」

 

「ウム、あのトラック運転手の服のマークと、俺が幼い頃実験室で着せられていた服のマークが同じなのだ」

 

「実験室…?そもそもお前普通の人間じゃないよな?」

 

「ウム、そこらへんがよくわからんのだが、俺は幼い頃は白い壁の実験室で育ったんだ。そこから母さんが俺を逃がしてくれて今に至る」

 

「そっか…実験室…とにかくトラックの場所に案内してくれ」

 

「ウム」

 

 

二人はトラックのところまで向かった。だが…

 

 

「くそっ!!やられたっ!!」

 

少年は轟々と燃えるトラックを前に悪態をつく。

 

「どういう事だ?俺がいた時には燃えていなかったが…」

 

「奴ら、証拠隠滅の為に燃やしやがった…!運転手もどっか消えてる…」

 

怒りが湧き絶望感に襲われ少年は膝を落とし地面に手をつき悔やむ。

 

「ちくしょう…!!せっかく奴らの手がかりが得られると思ったのに…!!」

 

そんな彼にシディはかける言葉が見つからない。

 

「ゴギャゴギャイ!?(シディ無事か!?)」

 

「ゴガゴガンゴ!?(お前怪我してるじゃないか!?)」

 

「フガフギャ?(というかソイツは誰だ?)」

 

その時、二人の元にゴブイチ、ゴブフタ、ゴブミツの3匹が駆け寄ってきた。

 

「フガ!!フギャフゴフガ(皆!!彼とはさっき知り合った)」

 

シディは兄たちに少年のことを説明する。

 

「フギャギャ…?(人間か…?)」

 

「フギャウフギャ…?(少し違うような…?)」

 

「なんだ…?コイツら…?」

 

少年は突然現れた三匹のゴブリンに動揺していた。

 

「俺の家族だ」

 

「はぁ?」

 

「俺は母さんに逃がされてからゴブリンに育てられたんだ」

「ゴブリンに…?信じらんねぇ…ん?それは…?」

 

すると少年はゴブリンの内の一匹、ゴブミツの手にあるものに気づく。

 

「フギ、フギャゴガ?(ゴブミツ兄さん、それは?)」

 

「フゴ!!フゴフゴフゴ!!(あぁ!!これ光っててかっこいいだろ!!)フゴフゴンゴンゴ!!(さっきのトラックから拾ったんだ!!)」

 

「さっきのトラックから拾ったらしいぞ」

 

「!?」

 

シディらはゴブミツが持っているソレが光る板ぐらいにしか思っていなかったが、ソレがスマホだと知っていた少年はトラックから拾ったという話を聞きもしかしたらと思い、ゴブミツからスマホを受け取った。

 

調べてみるとそのスマホには『カーナビ』が設定されており、少年をトラックで運んでいた運転手たちの行き先を知ることができた。

 

 

「助かったって伝えといてくれ。奴らの行き先がわかった」

 

「ウム、お前はそこへ向かうのか?」

 

「当然だ」

 

「そうか…気をつけてな」

 

「おう、じゃあ…」

 

少年はカーナビを頼りに連中の行き先に向かうためシディと別れようとしたが「待てよ?」と踏みとどまる。

 

(さっきの話だと、コイツは人間以上の能力を持ってるんだよな…。だったら利用できるかもしれねぇ)

 

「なに言ってんだよ」

 

「ム?」

 

「お前も行くんだろ?」

 

「どうしてだ?」

 

「さっき言ってろ?このトラックの運転手が身に付けてたマーク、お前のいた実験室のマークと同じだって」

 

「あぁ」

 

「つまりよ、このトラックの行先に行けば、お前が何者かわかんじゃねぇのか?」

 

「!!」

 

「その上、もしかしたら母親とも会えるかもしんねぇ」

 

「た、確かに…」

 

少年の言う通り、一緒に行けばその場所で自分が何者なのか知れ、母に再会できる可能性はある。しかし自分には此処での生活がある。そう簡単に決められない。

 

「…少し考えさせてくれないか?」

 

「傷が治るまでだ」

 

「む?」

 

「その怪我、俺のせいだろ」

 

少年はシディの応急手当てされた左腕を見て言う。

 

「だから元の生活に戻るまでは此処で力を貸す」

 

「…ウム、わかった」

 

 

 

 

 

それから数日後

 

 

「…」

 

 

シディの腕はほとんど治り、もう少しで完治する。少年はもうすぐ此処を離れる。決断の日は迫っていた。だが、心はまだ迷っていた。すると一人日を眺め黄昏るシディのもとに武者小路ゴブアツがやって来る。

 

「ウガァ(迷っておるのか?)」

 

「ウガァウゴゴウゴウガガウゴ(俺は自分が何者なのか知りたい)ウゴガウゴ(そして母さんとも…)ウガ(けど…)」

 

自分のことを知りたい。母に会いたい気持ちはある。しかし…

 

「ウガガウガンゴ(ここには俺の家族がある)」

 

母と別れてから自身を育て共に生活してきた家族を置いて離れたくなかった。するとゴブアツが言う。

 

「フガフガフゴフゴフガ(ならば残る理由など一つもないな)」

 

「えっ?」

 

その言葉に思わずゴブリン語ではなく人語で聞き返してしまうほど呆気にとられる。

 

ゴブアツはシディの胸を指さす。

 

「フガフゴンフガ(家族ならば此処にいる)」

 

さらに続けて言う。

 

「フゴギ、フガンガ(どんな時も、たとえ離れていてもな)フガンゴギャフゴンガ(勿論お前の二人の母さんもな)」

 

「あ…」

 

父のその言葉にシディは感銘を受け目を開く。

 

(そうか…どんなに離れていても…)

 

シディは思う。自分は家族のことが大好きなのだと。だからこそ心配をかけさせたくない。迷惑かけたくない。そんな想いがあった。

 

しかしゴブアツの助言を聞いてようやく決心がついた。シディはゴブアツに頭を下げる。

 

「フガガ!!(父さん!!)ウガガウゴガ(今まで育ててくれてありがとう)フガゴガフガフガ(ゴブリンの家族は俺の誇りだ)」

 

その様子にゴブアツは優しい笑みを浮かべる。

 

「ウゴオ、ウゴガウガ(息子よ、世界を知れ)ウガウガウゴウガウガ!!(そして生きることをただ楽しめ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゴー!!(気をつけてなー!!)フゴフゴフゴンゴー!!(夜はちゃんと暖かくして寝るんだぞー!!)」

 

「フギャフゴフゴゴー!!(お腹が空いたら帰ってくるんだぞー!!)フゴフゴゴフゴー!!(兄ちゃんの芋虫サンド食わしてやるからなー!!)」

 

「フギャギャフギャー!!(人間からモテなくても落ち込むなよー!!)フギャフゴー!!(女の事なら兄さんに相談しろよー!!)」

 

 

「フギャーフガンガー!!(兄さんたちもお元気で)ンガガー!!(じゃあなー!!)」

 

3人の兄に見送られながら、シディは少年と共にゴブリンの里を後にした。

 

 

 

「言葉はわかんねーけど、良い家族そうだな」

 

「ウム、家族は俺の誇りだ」

 

少年の言葉にシディは笑顔で言う。

 

「そっか…」

 

少年の顔に哀愁が漂う。

 

「俺の家族はもういなくなっちまった…。家族だけじゃねぇ…友達も…全部…」

 

「…」

 

悲しげに語る彼の話を聞き、今度はシディが言う。

 

「そうだ、名前を聞いてもいいか?」

 

「ア゛?そういえばまだだったな」

 

「お前はほとんど喋りたがらなかったからな」

 

「ゴブリンの会話はわかんねーし、俺が会話に入るとややこしいだろ」

 

「変なやつだな」

 

「気ぃつかってんだよ」

 

「そうか、お前はいい奴だな」

 

「自分のこと殺しかけた奴によくそんなこと言えんな」

 

少年は呆れながらも答えた。

 

「俺は“カゲチヨ”だ」

 

「カゲチヨか」

 

「お前は?」

 

 

「ウム、俺の名は────────────シディだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

カゲチヨとシディがカーナビを頼りに向かった先には大きな施設…おそらく研究所と思われる建物があった。

 

「入り口を探すのもメンドクセェ。シディ、頼む」

 

「ウム」

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァン!!!

 

破砕音が響く。

 

壁は割れ、瓦礫は散乱し、土埃が舞う。

 

 

「な…!?」

 

突然の出来事に中にいた白衣を着た研究員らしき男たちは唖然とする。

 

「やっと見つけたぜ…、クソ共がっ…」

 

「こんなところに隠れて何してた?」

 

カゲチヨとシディはその者たちに向かって言う。それに対し研究員たちはパニックになる。

 

「は、はぁ!?」

 

「おいおいおいおいおい!?おかしいよっ!!おかしいだろ!!な、なんで強化防壁で出来てる屋根が吹き飛んでんのぉ!?」

 

そんな研究員の喚きと舞う土埃を無視し、カゲチヨは研究員たちを睨みつけ言う。

 

「鈴をつけた吸血鬼を出せ」

 

「侵入者!!侵入者だあああああ!!」

 

研究員の一人がカゲチヨにショットガンを向ける。が…

 

「ぐあっ!!」

 

「…勝手に動くな」

 

赤い…血液の斬撃によって薙ぎ払われる。

 

「あまり抵抗しない方がいい」

 

シディが忠告するように言う。

 

「アイツが怒ってる」

 

 

「くっ…おいお前!!来いっ!!」

 

「キャッ!!」

 

研究員は苦虫を噛み潰したような顔をし、白い服を着た水色髪の少女を抱え連れ去る。

 

「ア゛…?なんだアレ…?」

 

その様子にカゲチヨは疑問に思い、後を追おうとするが…。

 

〈侵入者ヲ確認、侵入者ヲ確認〉

 

複数のアンドロイド、『ガーディアン』がカゲチヨとシディを囲むように現れる。白い隊服を着ており、その隊服にはトラック運転手の服にあったものと同じマークがあしらわれていた。

 

「ウヌ?なんだコイツらは…」

 

「コイツら…ガーディアンじゃねーか!!」

 

「がーでぃあん?知ってるのか?」

 

「主に都市部の警備、犯罪者や異宙人対策を目的として作られたアンドロイドだ。俺の村は田舎だったから実際に見んのは初めてだが…」

 

〈排除シマス。排除シマス〉

 

ガーディアンたちは銃剣型の武器、『セーフガードライフル』を構え、侵入者を排除すべく襲い掛かる。

 

「うおっと、オラッ!!」

 

「フンッ!!」

 

しかしカゲチヨは攻撃をかわしつつガーディアンから武器を奪い取りそれで攻撃し、シディは腕を振るいガーディアンを殴り飛ばす。

 

シディに殴り飛ばされたガーディアンは後ろにいた他のガーディアンたちを巻き込みながら壁に激突し火花を散らしながら機能停止する。

 

カゲチヨに攻撃されたガーディアンは起き上がり、再び攻撃を仕掛けようとするが、ガシャン!! とシディに頭を掴まれそのまま地面に叩きつけられ粉砕される。

 

「ウム…そこまで頑丈ではないようだな。これなら数は多くともなんとかなりそうだ」

 

「シディ!!悪いけど此処任せてもいいか!!」

 

「ウム!!」

 

この場はシディに任せ、カゲチヨは先程の研究員、そして水色髪の少女の後を追った。

 

 

 

 

一方その頃、焦った研究員の男は水色髪の少女に迫っていた。

 

「いいですか!?あれは人類の敵です!!そして我々は人類の味方!!つまり君の仕事は奴らを殺し私たちを守る事!!」

 

どうやら少女を囮にしようとしているようだ。 しかし少女は首を振る。

 

「わ、私…戦うのは…無理…」

 

「大丈夫です!!これは実験のための戦いじゃない!!コレは私と言う人類の財産を守る為の戦い!!守る為なら戦えるでしょ?」

 

「嫌ぁ…」

 

「ッチィ!!」

 

怯えた表情を浮かべ拒否する少女に対し、男は苛立ちを募らせていく。

 

「おいっ!!コイツに痛みを与えてください!!最大で!!今すぐ!!」

 

すると男はもう一人の肥満体型の研究員の男に指示を出す。

 

「えっ?」

 

「首輪の毒ですよ!!死にたいんですかぁ!!」

 

「あっ、お、おう」

 

肥満体型の男は困惑しながらも男の剣幕に気圧され鼻息混じりに承諾し、取り出したタブレットを操作する。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

少女は悲鳴を上げ苦しむ。

 

「う、うぅ!!い、痛…ひ…イタいぃいいいいいい!!あぅう…ゆ、ゆる…して…た、たたかいます…戦いますから…」

 

少女は許しを乞うように泣き叫ぶ。

 

そうしている間に、カゲチヨが現れる。

 

 

「ウッ…ウゥ…」

 

「行きなさい。人類の為に戦うのです」

 

「…はい」

 

「んだ?お前…?やる気か?」

 

少女は涙を流しながらも男の命令に従い、カゲチヨの前に立ち塞がる。腕に冷気を纏いながら。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「っ!?」

 

少女は槍のように細長い氷塊を生成し、カゲチヨに向かう。

 

(もういいよ…名前も知らないアナタ…私を殺して)

 

しかしその行動は、目の前の相手、カゲチヨを殺すためではなく、寧ろ殺されるようとしたものだった。

 

(私がこれ以上…誰かを傷つける前に…どうか…────────────────私を終わらせて…)

 

そんな思いで、彼女は突撃した。だが…

 

 

 

「えっ…」

 

少女は唖然とした。

 

自身の持つ氷の槍が、目の前の男、カゲチヨの胸を貫いていた。

 

彼は、少女に攻撃をするでも、少女の攻撃を避けるわけでもなく、ただ何もせず彼女の攻撃を喰らったのだ。

 

「なんで…?」

 

少女の問う。それに対してカゲチヨは口から血を流しながら言う。

 

「だってお前…泣いてんじゃん」

 

するとカゲチヨは自分の胸に氷が刺さっていることも気にせずに少女を抱き止める。

 

「泣くほど戦うのが嫌だって言う事は…無理矢理戦わせているクズがいるって事だよなぁ!?」

 

カゲチヨは研究員の男たちを睨みつける。貫かれた胸は再生してる。その光景に研究員たちは戦慄する。

 

「き、傷が治ってる!?」

 

「化け物め…!!そうやって暴力に訴えて自分の意見を通そうと、人類は決して異宙人には屈しない!!例え今は負けても将来絶対にっ…!!」

 

研究員の男がそこまで言うと。

 

「人類はぁっ…!?」

 

「ガハッ…!!」

 

カゲチヨは研究員たちを攻撃した。

 

「…知るかよ、女子泣かせてまで果たすべき大義なんて」

 

カゲチヨはそう吐き捨てた。

 

するとちょうどそこへ、ガーディアンたちと抗争を繰り広げていたシディがやって来る。

 

「カゲチヨ!こっちは終わったぞ」

 

「任せた俺が言うのもアレだが、あんだけの数を一人で倒したのか?」

 

「ウム!念の為、全部破壊しておいた」

 

(やっぱコイツ強いな…)

 

カゲチヨは改めてシディの強さを再認識していた。するとシディはカゲチヨの近くにいる少女に気が付く。

 

「この子は?」

 

「おう、奴らに捕まってたっぽい」

 

「ウム…俺と同じような感じなのか?」

 

カゲチヨがシディに水色髪の少女について説明していたその時だった。

 

「ヒッ…ヒヒッ!!どうせ人類の敵になるくらいなら…!!」

 

カゲチヨに攻撃された研究員の男はまだ僅かに息が続いていており不気味に笑っていた。男は倒れ伏した状態でタブレットを操作する。

 

「アッ…ガッ…ガハッ!!アアッ!!」

 

少女が突然倒れ苦しみ出す。何事かと思いシディは駆け寄る。

 

「苦しんでるぞ!ど、どうなっているんだ?」

 

「わかんねぇ!?けど…」

 

カゲチヨは男が操作していたタブレットを拾い上げ、調べる。

 

「この画面…首輪から毒が流れてるみてーだ!!」

 

それを聞いたシディはすぐに少女から首輪を外す。

 

「ガハッ…!!ガハッ!!」

 

「駄目だ!!首輪を外しても回復しない!!」

 

「クソがっ!!毒が既に身体にまわってやがんだ!!」

 

しかし少女の容態はよくならず悪化していく一方である。カゲチヨは焦燥を帯びながらもなんとか彼女を助けられないか思考を巡らせる。

 

(どうする…?どうすればこいつを助けられる…?血液操作の能力でウイルスの抗体を…いや!!無理だ!!んなことできるわけがねぇ!!)

 

カゲチヨは色々考えるが、すぐに無理だと結論づける。

 

(また…奴らに奪われるのか…!?)

 

今でも脳裏に残っている。親友二人の最期。変わり果てた姿。

 

目の前で一人の少女の命が消えようとしているというのに、自分は何も出来ないのか。

 

カゲチヨが自身の無力さに打ちひしがれていた、まさにその時だった。

 

 

 

 

 

「解毒剤は東の倉庫、D-28」

 

 

 

 

「なんだって!?」

 

シディの耳が確かに捉えた、突如として聞こえてきた声に反応する。

 

「東の倉庫D-28!?どう言うことだ!?」

 

「はぁ!?何言ってんだシディ?」

 

いきなり謎の情報を叫んだシディに対してカゲチヨは困惑するが、一番驚いていたのは研究員の男だった。

 

「なんで…どうしてそれをお前が知ってんだ…!?」

 

男はワナワナと声を震わせて言う。

 

「シディ!!」

 

「わからん!!だが、聞こえてきたんだ。女性の声が」

 

カゲチヨは考える。そこに本当に解毒剤がある保証があるのか?だがどちらにしろ時間がない。

 

「…ァア゛ーッ!!くそっ!!行くぞっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…」

 

壁に背をもたれ状態で少女は目を覚ました。

 

「おお!!目を覚ましたぞ!!」

 

「はぁ…良かった…」

 

あの後、少女に解毒剤を打ち、無事に目を覚ましたことにシディとカゲチヨは安堵の息を吐く。

 

「ア、アナタたちが…?ありがと…」

 

少女は二人に感謝の言葉を告げる。

 

「起きがけ悪いが、此処に捕まってるのはお前だけなのか?」

 

シディが少女に尋ねる。

 

「…うん、そう聞かされてる」

 

「じゃあ、中に残ってる奴らは全員敵ってわけだな」

 

「話を聞きに行くとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!!なんで私が他所のプロジェクトの尻拭いしなくちゃいけないのよっ!!」

 

苛ついた様子の女性。その女性は褐色肌で長い白髪と青い目でアラビア風の衣装を着た特徴的な容姿をしていた。

 

「“フウ”、“ライ”、回収終わった?」

 

「はい」

 

「ん…」

 

女性は()()()()()に問いかけると、一人は青緑色の髪の少女、もう一人は白髪の少女がそれぞれ返事をする。

 

「重要データの回収は完了しました」

 

「ん、あの3人は殺さなくても?」

 

「アレはまだ利用価値がある。じゃ、さっさと燃やして、“ズィーベン”」

 

「…はい」

 

女性に指示されズィーベンと呼ばれた()()()()()()()()()()は地面に手をつくとそこからボッ!と炎が広がる。

 

炎はどんどん燃え広がっていき、あっという間に研究所を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る研究所を見て、少女、シディ、カゲチヨの3人は言葉を失っていた。

 

「っ…」

 

「まだ中に仲間がいるのに…」

 

「っち、手がはえぇな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も見つからなかったな」

 

「あぁ…」

 

炎が収まった後、カゲチヨとシディは瓦礫と炭だけが残った研究所跡を見つめながら呟く。

 

カゲチヨは少女の方に向き合う。

 

「お前、なんか知ってることはないのか?」

 

「えっ…い、いや…」

 

少女は突然の質問に戸惑っていつつ首を振る。

 

「私たちは人類のために作られた実験動物…それ以外は何も…」

 

「ケッ!何が人類の為だよ…」

 

それを聞いたカゲチヨは腹立たしげな顔でそう吐き捨てた。

 

「どうする?彼女は何処かに保護してもらうべきだと思うが…」

 

「ア゛ー、そうだなー」

 

一旦、少女の処遇について決めることにした。

 

「俺たちは奴らを追わなきゃいけねーしな。街まで行って保護してもらえるとこ調べてみっか」

 

「ウム、それがいいな」

 

「え、あ、わっ、私も…」

 

「ア゛?」

 

「わ、私も…い、一緒に行きたい…私…この身体を…元に戻したい」

 

「…おう、俺たちが身体の戻し方を聞き出してやる」

 

「ウム、任せてくれ」

 

「い、いやっ、そうじゃ………はい」

 

少女は何かを言いたげな顔をするが、すぐに諦めたように目を伏せ二人に賛同する。

 

「でも、安全なトコってどこなんだ?」

 

「とりあえず保健所とかに…」

 

 

「…」

 

少女としては彼らについて行きたかった。しかし生まれた時から研究所で実験動物として教育を受けてきた彼女は「相手に逆らわない」という習慣が染み付いており、二人の提案にも反論できずただ頷くしかなかった。

 

(私がついて行っても、迷惑なだけだよね…────────────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────『私達人間は、やりたいことをやる為生まれてきたんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

昔、ある少女から言われた言葉を思い出し、ハッとする。

 

 

「なめないで!!」

 

突然声を張り上げる少女。

 

「なんだ急に?」というカゲチヨとシディの思考が一致する中、少女は続ける。

 

「さっきから私のこと足手まといみたいに言ってんじゃん!!私はあんた達なんかより100倍強いんだから!!だから私の事連れて行け!!」

 

少女は先程とは打って変わって強気な態度をとる。

 

「…本気でついてこようとしてんのか?」

 

「そうだよ!!」

 

強い意志の籠った一言だった。彼女の眼には決意が宿っている。

 

「…はぁ」

 

「カゲチヨ?」

 

「ガキがっ…」

 

「待てっ、何をする気だ?」

 

しかしカゲチヨは、少女がついてくることを良しとしない。呆れたようにため息を吐き、少女に迫る。ただならない様子にシディは呼び止める。

 

「現実を教えてやる。なんも知らずに首を突っ込むのは危険だ」

 

「…」

 

カゲチヨの言葉にシディは一理あると思い押し黙るが。

 

「な、なんにも知らないのはアンタたちじゃん!!」

 

再び少女が声を上げる。

 

「こっちは生まれてからずっとアイツらに身体いじられてんだから!」

 

「諦めてもらう」

 

「っ!、あっそう…なら」

 

突如、少女の全身から途轍もない電流が発生しバチバチと音が鳴る。

 

「!?」

 

「ちょっと痛くするから!!」

 

「チィッ!!」

 

カゲチヨは身構える。

 

「後悔してもおそっ…」

 

 

 

 

ぐぅう〜

 

 

 

 

少女がカゲチヨに攻撃しようとしたその時、間抜けな音が鳴り響いた。発生源は少女の腹辺り。

 

「…」

 

「…」

 

カゲチヨと少女の間に静寂な空気に包まれる。

 

「…ちょっと痛くするから!!後悔しても遅いよ!!」

 

「…プッ」

 

少女は誤魔化すように再び同じセリフを吐くが、カゲチヨはその様子に耐えきれず吹き出してしまった。

 

「ハハハハッ!!いや!!お前それは無理だろ!!そっからシリアスには戻れねーって!!」

 

大笑いするカゲチヨに少女は顔を赤くし涙目でプルプル震える。

 

「…うぅぅ〜!!しょうがないじゃん!!お腹空いたんだから!!」

 

「タイミングっつーもんがあるだろ!!」

 

カゲチヨはさらに笑う。「こんなはずじゃなかったのに…」と空腹に腹を押さえながら呟く少女。

 

そんな二人を見て、シディは微笑ましく思いながら、カゲチヨに言う。

 

「この勝負、彼女の勝ちのようだな」

 

「ア゛?なんで?」

 

「俺と会ってから一度も笑わなかったお前が笑わされてしまっているからな」

 

「あっ…」

 

シディがそう話すとなんだかカゲチヨは気恥ずかしなり、くるっと踵を返す。

 

「ア゛ー!!もうそう言う空気じゃなくなっちまった!!とりあえず飯行こうぜ!!飯!!話はそれからだ!!」

 

カゲチヨはひとまず少女の同行を許可する。

 

 

「俺はシディだ。よろしく」

 

「…カゲチヨな。いちおー」

 

「…」

 

「…んだよ。名前無いのか?」

 

「…あるよ」

 

彼女は笑顔で答えた。

 

「私“ヒサメ”って言うんだ!!」

 

 

 

 

 

シディ

 

カゲチヨ

 

ヒサメ

 

 

こうして彼らの物語は始まった。

 

 

彼此のコレカラはまだ分からない。しかしこの三人ならきっと大丈夫だろう。何故だかそう思える。

 

後に彼らは各々の目的を果たすために組織を追うべく、情報収集も兼ねて何でも屋を開業することとなる。

 

その何でも屋の名は───────────『カレコレ屋』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし…何かお忘れじゃないだろうか?

 

この物語は【KAREKORE OF MIXED BLOOD】ではなく【Over the EVOLution】だと言うことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

 

某国某所、そこでは異宙人による奴隷市場が行われている。しかし今日は何やら様子がおかしい。市場は大混乱に陥っていた。

 

 

「市場荒らしだ!!殺せ!!」

 

「襲撃者はたった二人!!それもガキだ!!」

 

「おっ、よく見ればどちらも結構イイ女じゃねぇか!おい、こいつらも市場で売るだすぞ!!」

 

「抵抗できないようにダルマにするか!」

 

「まずは俺らで味見しようぜー!!ヒャハハハハハ!!」

 

この市場の警備兵、用心棒である屈強な異宙人たちの下衆な声に対し

 

「「…」」

 

市場を打撃した張本人である二人の少女は余裕そうな表情をしていた。

 

「…行くよ、ライ」

 

「ん、殲滅開始」

 

二人の少女はそれぞれ左腕、右腕の二の腕に装備してある『青緑色の歯車のついたアイテム』と『白い歯車のついたアイテム』を取り出す。

 

青緑色の髪の少女、『フウ』の手には()()()()が握られている。その銃を右隣の白髪の少女、『ライ』に手渡す。

 

ライは銃を受け取ると、『白い歯車のついたアイテム』を銃のグリップ前に突き出ているスロットに装填し引き金を引く。

 

ギアエンジン!ファンキー!】

 

ライは銃をフウに手渡す。

 

フウは『青緑色の歯車のついたアイテム』をスロットに装填し引き金を引く。

 

ギアリモコン!ファンキー!】

 

 

「「潤動!!」」

 

その言葉と共に、少女たちは黒煙に身を包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

物語はすでに修正が不可能なほど正史から逸脱していた。

 

 

 

 

 

 

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

 

赤い蛇、ブラッドスタークは愉快に嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

狂い出した歯車は、もう止まらない。

 

 

 

 

世界は混沌を極めていた。

 

 

 

 

 

【エボル編】完

 

to be continued…




2023/03/29時点

最近の三つの出来事

一つ、ブラックチャンネルでモモ先生が推しになる。

二つ、予約していたDXキルバスパイダーが届く。

三つ、シン・仮面ライダーを観に行った。



と言うわけで次回から『カレコレ編』スタート

お楽しみに!!

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