混血のカレコレ【Over the EVOLution】 作:鬱エンドフラグ
鬱エンドのフラグを回収する者です。
今回から『カレコレ編』突入です。
ようやくカレコレ屋の三人を本格的に活躍させていけますよ。
今回の話は『913人一斉自〇…ジョーンズタウンで起きた狂信者たちの異常行動…』を元にしています。
少し長くなりました。
カレコレ屋へようこそ
西暦2000年。
突如として地球は丸ごと────────────…異世界に転生してしまいました。
地球の外は宇宙から“異宙”へ変容し、異宙の生物、異宙の住人達の文化の流入により、地球は…混沌を極めていた!!
そして、異宙転生の惨劇から27年…
西暦2027年の現在では、なんやかんや人類はこの世界に適応していた。
空を見上げれば飛行機と一緒にドラゴンが飛行するのが見え、街を歩けば人間の他に、獣人、エルフ、妖精、リザードマン…2000年以前では空想上の存在でしかなかった種族が闊歩している。
ファミレスのメニュー表を開けば、オークのソテー、スライムのスムージーなんてメニューがあり、コンビニの雑誌コーナーで『大物司会者Sのサキュバス狂いの夜』と言うタイトルのエロ本が並んでいる。
そんな光景はもはや日常となっていた。
そんな中、街の路地裏の壁に貼られた1枚のチラシがヒラッと揺れながら落ちる。
そこには、こんな内容が書かれていた。
—困りごとはこちらへ!!カレコレ屋—
とある町角の寂れたビル。
その建物はマンションで、そばには『SALE』、『50%オフ』と書かれた紙が貼られた巨大なスライム、建物ほどの刀身の大剣などといった怪しげな品々ばかりが売られている異様な雰囲気の店。どうやらリサイクルショップのようだ。
そのリサイクルショップの横に地下へと続く階段。
階段の入口には『カレコレ屋』と書かれた看板。
その店を訪れるのは、事情を抱えた依頼人…。
階段を下ると、また扉がある。
依頼人はその扉のドアのぶに手を掛け、ゆっくりと開ける。
「あのー…」
バンッ
(!?)
依頼人の目に飛び込んできたのは一人の男が壁に叩きつけられる光景。
依頼人の頬にピピッと赤い点々が付く。それは叩きつけられた男の血。
男が吹っ飛んできた方向に目をやると、そこいたのはエリンギ。
正確に言えばその輪郭はエリンギのようなもの。手足が生えており、スカーフや帽子を身につけている。
『ゴゴゴゴ』と効果音が付きそうなメラメラと燃えたぎるようなオーラを放つそれは勢いよく振り返る。
「死ねぇええ!!」
(えぇ!?)
手に包丁を持ち単眼と大きな唇が特徴的なエリンギのような生物の凄まじい剣幕に依頼人はギョッとする。一体なんだと言うんだ。事件か?
「っー…」
すると、先ほど壁に打ち付けられた男がボタボタと出血する頭を押さえながら立ち上がる。
「いってえなコラ!!」
男は怒りの形相を浮かべながらエリンギのような生物に掴み掛かる。
「コロス!!コロシテやるわあぁ!!」
「うるせぇあばれんな菌類が!!」
男とエリンギのような生物は取っ組み合う。
「死なば諸共!!」
「い゛でででででで!!」
エリンギのような生物が男の頭に噛み付く。
「はなせてめぇ〜!!」
「うぼおおおおオオオオオ!!」
「…」
依頼人は思う。もしかしたら自分はヤベーイところに来てしまったのではないかと。
「ハァッ…ハァッ…」
噛みつき攻撃からなんとか逃れた男は息を切らす。一方エリンギのような生物の方はまだ興奮冷めきらない様子で「滅!死!」と喚いている。
「締めて食ってやる…」
男がそう呟き立ち上がった時
「ハイハイストーップ」
突如として掛けられた静止の声。
「カゲもキノコ婦人も落ち着いて」
水色の髪、こめかみから生える小さな角が印象的な 白い衣装を着た少女…『ヒサメ』が、男…『カゲチヨ』とキノコ婦人と呼ばれたエリンギのような生物の間に割って入り宥めるように話しかける。
「ジャマすんなヒサ!俺はこいつをキノコ鍋にする!」
「小娘はひっこんでな!!」
しかし二人の怒りは収まらず、ヒサメを押し退け再び喧嘩を始めようとする。
「キノコ婦人」
そこに一人の青年が現れ、キノコ婦人に声をかける。
「依頼されたご主人の浮気調査の結果が出たぞ」
「シディさん♡」
誰が見てもわかるイケメンなビジュアルと狼耳が特徴の白髪褐色肌の青年…『シディ』を前に、キノコ婦人はさっきまでの怒りはどこへやら、頬を赤らめキュルンとした表情となる。
「婦人の言うとおりご主人はこの日、エリンギではなくしめじを食べていたぞ」
「やっぱりしめじ食べてんじゃねーか!!」
シディの報告にキノコ婦人は再び怒りの形相で目を血走らせる。
「あの野郎!!」
キノコ婦人はダッと勢いよく飛び出して行った。
「ふざけんなあの暴走キノコ!!」
ドドドと走り去る音が聞こえなくなったと同時にカゲチヨは怒声をあげる。
「シディにだけ態度ちげーし!やっぱ顔か!?イケメンだからか!?」
「カゲがいけないんでしょ」
悪態をつくカゲチヨにヒサメが呆れたように言う。
「依頼人に──────」
『キノコが浮気?www、冗談は顔だけにしろよ!(笑)』
「──────なんて言うから」
「だって…おかしいじゃん。しめじがダメってなんだよ…」
「カゲチヨ、“口は技ありのもと”だぞ」
「それを言うなら“災い”な!」
ドヤ顔で言うシディにツッコむカゲチヨ。
「シディはイケメンだけどバカだよな〜…って、ん?」
そこでカゲチヨたちはようやく呆然棒立ちの依頼人の存在に気がつく。
「あ、え、あ、えっと、か、カレコレ屋と間違えました!!」
我に帰った依頼人はきっと場所を間違えたのだろうと、その場から慌てて離れようと踵を返す。
「わーっ!!ちょっと待ってください!!ここがカレコレ屋で合ってます!!」
そんな依頼人の様子を見たヒサメは慌てて引き止めた。
「ごめんなさい!手伝ってもらって…」
「い、いえ…」
キノコ婦人の暴走によって荒れた部屋を片付けながらヒサメが申し訳なさそうに謝り、依頼人は苦笑いを浮かべながら丸椅子を運ぶ。
「それでは改めて自己紹介しますね」
部屋の整理が一通り終わり、依頼人がソファに座ったところでヒサメがコホンと咳払いして話し始める。
「俺はシディ」
「私はヒサメっていいます」
「俺はカゲチヨです」
シディ、ヒサメ、カゲチヨの順で自己紹介する。
彼らはこの異世界で悩める人たちの依頼を解決するカレコレ屋、所謂何でも屋を運営している。
三人は目の前の依頼人の話を聞いた。
依頼人も気を取り直して話し始める。
「ジョーンズタウンってご存知ですか?…900人以上が一斉に自害した街です」
「900人以上が一斉に自害…!?」
「一体どうしてそんな事が起こったんだ?」
「ほ、本当にあった事なんですか…?」
依頼人の話にカゲチヨ、シディ、ヒサメがそれぞれ 驚きを露わにする。
「本当にあった事です。事が起きたのは1978年11月18日─────」
米国の宗教団体『Peoples Temple』の信者たちが教祖の指示に従いジョーンズタウンと呼ばれる街で集団自殺を遂げた。
自害方法は主にシアン化合物入りの飲料水を使い行われた。
自害した913名の内、276名は子供だったという。
「酷すぎる…」
「宗教か…信仰に傾いた人間はそこまでするのか…」
ヒサメとシディがそう口にする。
「でもそれって40年以上前の出来事ですよね?なんでその話を?」
カゲチヨは依頼人に疑問を投げかける。依頼人はそれに答える。
「はい、それは今、似たような事が起きようとしているからです」
「え!?」
「なに?」
ヒサメとシディが驚きの声を上げる。
「私は同じ事が起きないようになんでも依頼を遂行してくれるというカレコレ屋に来たんです」
どうやらここからが本題のようだ。
「…詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい」
依頼人が話したのは『ジャム』という教祖のこと。
ジャムの父親は異宙人への強い偏見を持っており、異宙人排除運動に参加していた。そしてジャムが幼い頃に家庭を捨てた。
ジャムの母親は信仰の強い宗教家で父親とは逆に異宙人も人間も関係なく貧しい人を支援していた。
ジャムが生まれた町はいわゆる聖書地帯だった。それゆえ不遇だった彼は信心にのめり込み、常に聖書を持ち歩くようになった。
そして宣教師の娘との結婚を機に聖職者の道を歩み始めた。
情報商材での大成功により資金を作ったジャムは自らを教祖とする宗教を掲げた。
その宗教の名は『地球人民幸』。
地球が異宙に転移し異宙人がやってきたことで地球は不安定になり、職を追われる者も増えてきました。
そこでジャムは貧しい人間たちに住居や食事、仕事を与え、身寄りのない高齢者のために福祉施設を建設した。
これらの活動によりジャムはメディアに取り上げられ、ヒーローとなった。
更にジャムは信者拡大のために心霊療法も行った。
献金は多い時には1回で800万円ほど集まったという。
しかし、そのあまりに派手な資金集めはSNSなどで話題になりジャムに対し「詐欺師」などと批判の声が多く集まり始めた。
そんな中、ある日ジャムは異宙の生物に襲われる。
幸い無事に済んだものの、ジャムは命の危険にさらされたことにより、考え方を大きく変える。
その思想はどんどん歪んだ方向へと進んでいった。
ある日、ジャムたちは信者たちを集めてこう告げた。
『女神様のお告げが訪れた!』
『世界のほぼすべてを焼き尽くす悪魔の異宙人がやってこようとしている!!』
『ただし、我々のような正しき魂をもつ者たちのために、世界に1箇所だけ安全な避難所が残されている!!』
『その場所でだけは女神様が我々を守ってくださる!!』
そうしてジャムは『ミューズビレッジ』という村を作った。
その実態はジャムと少数の側近が支配する植民地であり、信者たちは灼熱の熱帯で奴隷のように農業に従事させられていた。
更にルールは憶え切れないほど定められており、少しでも違反した者は容赦なく殴られる。
罰は日ごとにエスカレートしていき、拷問と呼べるものへとなっていった。
そして遂に事件が起きた。
ミューズビレッジがある地区の議員であり依頼人の上司に当たる『レオナルド』という男が政府に介入を要請し、ジャーナリスト一行を連れてミューズビレッジへと出向いた。
レオナルドは正義感が強く自分の地区を票田 として見るのではなく、一人一人の市民と対話を図る立派な政治家だった。
村を訪れた初日、ジャムと笑顔で歓迎する信者たちに案内されレオナルドが最初にミューズビレッジに抱いたのは『平和』で『牧歌的』といった印象だった。
レオナルドらは地球人民幸の評判はもしかすると誤りだったのではないかと思い始めた。
しかしすぐにその認識は覆ることとなる。
翌朝、あたりを散歩していたレオナルドは厳重に施錠された小屋を見つけた。
小屋の中には病気の老人がぎちぎちに詰め込まれていた。
病気の老人の内の数人はレオナルドに気がつくやいなや「どうか助けてください」と彼に縋ってきた。
翌日にレオナルドはそのことをジャムに詰め寄った。
するとジャムは酷く傷ついた様子を見せた。
そしてジャムは狂った様子で恐ろしい計画をレオナルドに話し始めた。
どうやらジャムは現在自分が不遇な扱いを受けるのは異宙人の悪魔のせいだと考えており、女神を呼び寄せることにより人々の魂は救われる…そう本気で信じていた。
女神を呼び出す為には大勢の命が必要で、一斉に自害にする必要があるとのこと。
その日の事をジャムは『最後の夜』と呼んでいた。
『最後の夜』には収容所で信者たちを一列に並ばせ、バリウムで割って飲みやすくしたシアン化合物を飲ませる計画だとジャムは話した。
また、逃げようとする者は銃殺する、と付け足して。
レオナルドはミューズビレッジを危険だと察知して、即座に救出用のセスナへ乗り込もうとした。
しかし、その時。
ジャムの側近たちが乗ったトレーラーが現れ、彼らの持つ自動小銃によりレオナルド達は蜂の巣となった。
「─────…以上のことをレオナルドが…命を落とす直前に私に伝えてくれました…」
依頼人は顔を伏せながら話し終えた。
「んな事が…」
「レオナルドさん…」
話を聞き終えたカゲチヨ達の間に重い空気が流れる。そこでシディがある疑問を投げかける。
「だが、そう簡単に自害するのか?いきなり死ねと言われたら暴動が起きそうな者だが。数は支配者より多いのだろ?」
「そこが宗教の怖いトコだと思うぜ」
「えっ?」
カゲチヨは言う。
「支配されてる側は日々ジャムの言葉に従っている。そう言う日常が続くとジャムの言うことは正しいっつー事になっちまうんじゃねーか?」
「じゃあ、信者達は本当に幸せになれると思い死んでいくのか…?」
「あぁ。現に、昔ジョーンズタウンで似たようなことが起こってるわけだしな」
カゲチヨがシディにそう話していると依頼人が頭を下げる。
「どうか皆さんの力をお借りしたい!!ジョーンズタウンのように大量の命が意味なく奪われる前に…!!レオナルドの無念を晴らすためにも…!!」
依頼人は涙を流しながらカゲチヨ達に懇願する。
「でもそんな大事な事、なんで俺らみたいな胡散臭いガキに?」
「皆様は異宙人のDNAを持ち、非常に強力だと伺いました。普通の人間が行っても返り討ちになるだけですから」
「でも武装してるって言ってもそんなに数は多くないでしょ?警察とか軍とかに任せた方がいいんじゃ…」
ヒサメがそう言うとカゲチヨは察したように口を開く。
「正規の手続きを踏むほど余裕がねぇってことか」
「はい…ジャムの言う『最後の夜』は近づいています」
「それなら早く行かなきゃ!!」
「これはそんな簡単な話じゃねーぞ」
「武装した人間が何人いようと陽が出ている間の俺なら無力化できるぞ?」
「そう言うことじゃねーよ。奴ら自分で死を選ぶほどジャムとやらを信仰してんだぜ?」
「どういうことだ?」
「つまり、ジャムがシディに命懸けで特攻しろっつったら、奴ら死ぬまで戦う。そしたら結局、大勢死んじまう」
「じゃあ、どうすれば…」
「大事なのは、
「えっ?」
「奴は確かに信者から以上なほど信仰されている…が、それは何も奴だけの力じゃねぇ。そのあたりから崩していければ、被害をゼロに抑えることも可能だと思うんだけど…」
「何か考えがあるんだな」
「あぁ」
カゲチヨは依頼人に聞く。
「『最後の夜』まであとどれくらいの猶予が?」
「ジャムの話が本当ならギリギリまで粘ってもあと10時間後にはここを出ないと…」
「わかりました。『地球人民幸』の資料を集めてもらえますか?」
「え、えぇ勿論!!」
「よしっ…これならなんとかなりそうだ…」
カゲチヨはデスクの前で依頼人に集めてもらった地球人民幸の資料に目を落としながら数時間後に行われる『最後の夜』に向けて作戦を練っていた。その後ろではソファで眠るヒサメとシディ。
「あとは必要な物を集めてもらえば…上手く行けば、被害が出ないで済む」
カゲチヨはソファで眠る二人の方を向く。
「シディ、ヒサ起きろ。仕事だ」
依頼人の車に乗りカゲチヨたちはミューズビレッジへ向かっていた。
「2人とも大丈夫か?」
助手席でスマホの画面と夜のビル街を眺めながらカゲチヨは後部座席のシディとヒサメに声を掛ける。
「作戦はわかったけどさ、それじゃあカゲが…」
ヒサメは心配そうにカゲチヨの方を見る。
「んな事言ってる場合じゃねぇだろ、大勢の人の命がかかってんだ」
「でも…」
「本当にお前は大丈夫なのか?カゲチヨ。最後の工程は試した事はあるのか?」
「ア゛ー、ある、大丈夫だったぜ。吸血鬼の弱点は心臓だからさ、心臓が無事なら大丈夫なんだよ」
(試した事があるというのは嘘か…)
シディはカゲチヨの答えをすぐに嘘と見抜いた。だが…
「…わかった、カゲチヨの言う通りで行こう」
「おう。頼むぜ、3人の連携がキモだ」
ミューズビレッジ、収容所にて『最後の夜』が行われようとしていた。
「いよいよ我々は『最後の夜』を迎えた!!」
地球人民幸の教祖ジャムの高らかな声と共に信者達の歓声が上がる。
「我々は今日!!異宙の悪魔から真の正義と博愛の心を守る為命を捧げるのだ!!」
彼の前には一列に並べられた信者たちの姿。中には感極まって涙を流す者も。そして、彼らの手にはシアン化合物入りのバリウムの入ったコップが。
「だが恐れる事はない!!これは所詮肉体の死である!!真に恐れるべきは魂の死!!悪魔に魂を売る事こそ我々が憎むべきことなのだ!!」
ジャムが狂言めいたことを語れば、信者達はそれに呼応するように熱気を上げていく。
「女神に捧げた魂は必ずしやユートピアへと導かれるだろう!!これは別れではない!!始まりだ!!地球人民幸よ!!永遠に!!」
『おぉー!!』』
ジャムの仰々しい宣言に、信者達はより大きな歓声を上げた。
その時だった。
「カッカカカカカカカカカッ!!」
突如、収容所内に笑い声が響いた。
信者たちはもちろん、ジャムも困惑を露わにする。
「だ、誰だ?笑っているのは!?」
「俺様だよ」
声が聞こえた方にジャムも含め誰もが視線を向ける。
そこにいたのは赤い異形の存在。
「お前は…?」
「よーく知ってんだろ?」
戸惑い気味に問うジャムに対して全身ほぼ赤一色の身体に深紅の翼を生やすその男は口角を上げて答えた。
「俺様はお前らの言うトコの悪魔だよ」
「なっ!?」
赤い眼光を輝かせて不敵に笑う男に、ジャムは驚きの声を上げる。
「女神の奴が来る前に、厄介な地球人民幸の奴らを皆殺しにしてやろうとおもってなぁア゛!!」
男は赤く鋭い爪を光らせる。
「カッカカカカ!!人間程度が悪魔である俺様にたてつこうとするからこうなんだよ!!さぁ!!魂をいただくぜぇ!!」
収容所内は騒然とする。
「あ、悪魔だ!!」
「あ、悪魔…」
「本当なのか…?そ、そうだ、ジャム様ならわかるはず…」
「ジャム様…」
信者達はジャムの言葉を待つ。
ジャムは狼狽えながらも男を指差す。
「や、奴は悪魔で間違いない!!奴の姿を見ろ!!聖典に載ってる姿にそっくりであろう!!」
目の前にいるのは悪魔。地球人民幸に仇なす、人の肉と魂を喰らう異形の怪物。
「殺せ!!奴を撃ち殺せぇーーー!!」
ジャムの叫びに、側近の信者達は自動小銃を構える。
「うおおおおおおおおおお!!」
「この悪魔めえええええええ!!」
「人類は我々が守るんだぁあああああああ!!」
目の前の悪魔に向けて信者達が次々と発砲する。
「ガハッ!!ア゛ッ…ア゛ァ…!!ア゛ァ!!」
放たれた弾丸に体を貫かれ後ろのめりになり倒れる悪魔。
(や、やべぇ!!一瞬トんでた!!いてぇ!!死ぬほど痛ってぇ!!)
悪魔…と偽るカゲチヨは失いそうな意識を必死で保ちながら、撃たれるたびに激痛が走る自分の体に耐えていた。
(脳は痛みから逃げる為に気絶させようと信号を送ってきてる…けど!!立ち上がらないと!!また撃たれるとしても…!!)
自分は悪魔を演じなければいけない。
「や、やったか…?」
一方ジャムは額から汗を流しつつ倒れた悪魔(を演じるカゲチヨ)を見て勝ち誇ったような表情を浮かべている。
「カッ…カカッ…人間ごときの鉛玉なんぞ…」
カゲチヨは痛みに耐え嘲笑うように立ち上がる。
「効かねぇんだよ…へへへ」
その姿にジャムは恐怖する。
「ば、化物め…お前ら!!更に撃ち込め!!我々地球人民幸は最後の一人になるまで悪魔と戦うぞ!!」
ジャムの号令に、再び銃弾の雨がカゲチヨに降り注ぐ。
「ギャアアアアアアアアアアア‼︎!」
無数の弾丸を浴び悲鳴を上げるカゲチヨ。
(もう少し…もう少し耐えれば…)
カゲチヨは歯を食いしばり、朦朧とする意識を繋ぎ止める。
「なにボーッと見ているんだ!?お前ら!!爆弾を持ってあの悪魔に抱きつけ!!それが地球人民幸であるお前らの役目だろ!!」
「は、はい!!女神さまにこの命捧げます!!」
ジャムが棒立ちで見ていた女、子供、老人の信者達に指示し、信者達もそれに従おうとしたその時だった。
「そこまでです」
「あ?」
突如聞こえてきた凛とした声にジャムは振り返る。
「な、なんだ?」
そこには宙に浮かぶ純白のドレスを纏った美しい女性の姿。
「女神を信仰する気高き者たちよ、悪魔から離れなさい」
長い金髪を靡かせ、背からは氷のような翼を生やしている。その神々しい姿にジャムを含め誰もが目を奪われる。
「お母さん…アレって女神様だよね…?」
信者の内、一人の子供が指差し母親にそう尋ねる。
「ま、まさか…そんな…」
ジャムはありえないと呟く一方、女神(?)と悪魔(を演じるカゲチヨ)は対峙していた。
「ア゛ーくそがっ!!女神の登場かよ!!」
「悪魔よ、そこまでです。信者たちは誰一人として傷付けさせない」
「カッカカカカ!!ちょうどいいぜ!!信者と女神!!ここで地球人民幸を根絶やしにしてやる!!」
「させません」
女神が手を掲げると眩い光が辺りを包み込む。
「ウッ…!!」
そのあまりの光量にジャムや信者たちは思わず目を閉じてしまう。
「死ぬなよっ!カゲチヨ!!」
そこに何者かが駆け込んだ。
周囲が白く染まる。
「ハァアアアアアアアアアアアア‼」
女神の手からバチバチと音を立てながら放たれる雷撃。
「悪魔よ、消え去りなさい!!」
それはカゲチヨがいた場所に轟音を響かせ降り注いだ。
光は収まり、信者達は瞼を開く。
「あ、悪魔は…?」
「ど、どうなったんだ…?」
信者達が困惑しながら見つめる先にあったのは…。
「カッ…カカッ…」
ボロボロで体がほぼ消えかかってる悪魔の姿。
「流石だな…地球人民幸…」
そう言い残し、悪魔は消滅した。
悪魔が消滅すると、信者達は歓声を上げた。
「やったー!!悪魔を倒したぞ!!」
「女神さまが倒してくれた!!我々の祈りが届いたんだ!!」
「女神様!!万歳!!」
歓喜の声に包まれる中、ジャムは女神の元まで行き跪く。
「女神様…私はジャムと申します。私の事は存じていますよね?貴方様が私に地球人民幸の教えを伝えてくださっていたのですから。そう!!私がここまで地球人民幸を大きくしたのです!!」
「…」
女神はジャムに対して何も答えず、代わりに信者たちに向けて告げる。
「地球人民幸の者たち!!よく聞きなさい!!この男は偽物の教祖です!!」
「なっ!?」
女神の言葉にジャムは驚愕する。それを余所に女神は続ける。
「この男の言う事を聞く必要はありません!!心霊療法を行ったり信者を労働力として使うこの男は悪魔にとり憑かれた偽物です!!」
「な、何を言ってるんですか…?女神様…?」
「もうこの男を信じてはいけません!!」
女神の言葉に信者たちは困惑する。
「そ、そう言ってるけど…」
「今までジャム様の教えに従ってきたわけだし…」
「でも確かにおかしいトコは沢山あったよな…」
信者たちの様子にジャムは焦り始める。
「違う!!私は本物だ!!そうだ!!この女神の方が偽物だ!!コイツは女神のフリした悪魔なんだ!!」
「いやでも女神様は悪魔から私たちを助けてくれたし…」
「ジャム様はあの時俺達を守ってくれたか…?」
「安全な場所から観てるだけだったよな?」
ジャムの反論も虚しく信者達は不信感を露わにしていく。マインドコントロールが解けていく。
「グッ…!!ぐぐっ…!!信者の分際で…教祖に…グ、グエッ!?」
ジャムは自身に従わなくなった信者達に対し焦りと怒りに震えていると女神に首根っこを掴まれる。
「や、やめろ…!!俺は教祖だぞ!!」
「この男は私が裁きます。あとは任せてください。…それから地球人民幸の皆さん」
女神は信者達に振り向く。
「これからは自分の命を大切に、ご自身の幸せを第一に考えて生活してください。それが女神への、私への信仰となります」
慈愛に満ちた笑顔で信者達に告げ、女神はジャムを連れてその場から消えた。
「───よかった…上手くいって…」
ミューズビレッジから離れた森。そこで女神…を演じていたヒサメは金髪のウィッグを外して一息つく。
「なっ!?カツラ…!?」
それを見てジャムは驚く。ジャムは縄で縛られて転がされていた。
「やはり偽物だったか!!女神様が私を裏切る訳がないんだ!!こうしてはいられん!!信者達に伝えねば!!信者共を騙すなど許されんぞ!!」
「それはテメーもだろ?」
ジャムの前に上半身裸の男が現れる。
「なっ!?」
ジャムはその男の顔を見て驚く。無理もない。その男は地球人民幸を襲撃し女神(を演じていたヒサメ)に倒されたはずの悪魔(を演じていたカゲチヨ)だったのだから。その後ろにはシディと依頼人の姿も。
「悪魔の…?」
「悪魔役な。中々演技上手かっただろ?」
「な、なぜ生きている!?たしかにこの女の攻撃でお前は消えたはずだ!!だから私の信者達もこの女を信じた!!」
「ア゛ー、俺はゾンビと吸血鬼のハーフでさ、知っての通り再生力がスゲーんだよ。だから、心臓さえ無事なら再生できるかなーと思って」
カゲチヨはとある事情により吸血鬼とゾンビのDNAを持つ。そしてその両方の再生能力を持つ。
それゆえほぼ不死身。
だからこそ今回の作戦を思いついた。
ヒサメが光でジャムと信者達の視界を潰す。
その隙にシディがカゲチヨの心臓を奪い、別の場所で再生する。
「───これで劇団カレコレの茶番劇がカンセーってワケだ」
カゲチヨの説明にジャムは怒りに震える。
「こ、この化物どもがぁっ!!」
「それは貴方でしょう」
「なに?」
ジャムの前に依頼人が立つ。
「レオナルドさん達を殺した罪…償ってもらいますよ。この国のルールの下で」
「ふざけるなっ!!俺には地球人民幸のルールがある!!司法なんぞで裁かれるか!!俺は教祖なんだ!!」
子供の我儘のように喚くジャムにカゲチヨは顔を近づける。
「お前はただの人間だよ。身勝手で、妄想の激しい、ただの人間だ」
「ぐっ…ぐぅ…!」
ジャムは悔しそうに歯軋りする。
「カレコレ屋の皆さん、ありがとうございました。これでレオナルドさんたちも浮かばれる」
依頼人は深々と頭を下げる。
「ア゛ーいいんすよ。依頼料さえ払ってくれれば困ってる人達の頼み事を解決する。それが俺たちカレコレ屋の仕事ですから」
「それでは、ジャムは私が連れて行きます。あとのことは私に任せてください」
依頼人がそう言いジャムを連行しようとした。
その時だった。
「う゛っ!?」
ナニカが依頼人の首に突き刺さった。それはチューブのようなものだった。
チューブはすぐに抜かれると依頼人はそのまま倒れた。
突然の出来事にカゲチヨ達は驚愕した。
「どっどうなってんだ!?」
カゲチヨはジャムに目を向けるが彼が何かしたわけではないようだ。
「おい!!大丈夫か!!」
「大丈夫ですか!?」
シディとヒサメが依頼人の元に駆け寄る。
しかし
「グッ!?」
「アッ…!?」
シディ、ヒサメの背にチューブが突き刺さり、依頼人同様二人は倒れ伏す。
「シディ!?ヒサ!?」
カゲチヨは二人のもとに駆けつけようとする。が…
「ガッ…!?」
突如腹部に鋭い痛みと異物感を覚える。
カゲチヨは下を見る。
自身の腹にチューブが生えるように突き刺さっていた。
何かが流し込まれる感覚と共に目眩に近い感覚が襲い体に力が入らなくなりカゲチヨは膝をつく。
「なっなんだ…!?ヒッ、ヒィイイ!!」
ジャムの情けない悲鳴が聞こえ目を向けると、巨大な蛇のようなものがジャムに迫っていた。
「た、助けっひぃやあああ…」
蛇はあっという間にジャムを飲み込むとどこかへと消えてしまった。
「ぐ…」
麻痺していく平衡感覚に耐えかねたカゲチヨはついに倒れ伏す。
コツ…コツ…コツ…
朦朧とする意識の中、やけに大きく聞こえる足音が耳に届いた。
カゲチヨは顔を上げた。
そこにいたのは、赤い人型のような存在。
カゲチヨはボヤける視界をなんとか凝らす。
その存在の顔は確認できない。だが胸部の緑色の装甲のようなものを捉えることができた。
その装甲の形状は特徴的で、まるで…
「コ、コブラ…?」
そう呟いたところでカゲチヨの意識は途切れた。
翌朝、カゲチヨ達は病院で目を覚ました。
あの後依頼人の仲間の人たちが倒れてるカゲチヨ達を発見し、病院まで運んでくれたらしい。
医者の話によれば麻痺毒を打ち込まれたらしいが毒の種類はわからなかったとのこと。
しかし毒は自然と体内から消え、病院の適切な処置もあって命に別状はないと言われた。
しかしカゲチヨ達の表情は暗い。
その理由はジャムが何者かに連れ去られたことだ。
カゲチヨが意識を失う直前に見たコブラのエンブレムの存在。ソレがジャムを連れ去った理由は不明だが、結果的にジャムを取り逃したことになる。
その事実にカレコレ屋の三人は責任を感じていた。
しかし、それでも尚、依頼人はカゲチヨ達に礼を言った。
「たしかにジャムを捕まえられなかったことは残念です。ですが貴方達のおかげで大勢の命が無意味に失われずに済みました。地球人民幸もジャムがいなくなったことでいい方向に変わっていくでしょう。本当にありがとうございました」
そう言い依頼人は頭を下げた。
ジャムの行方は依頼人の方で捜査するらしい。
「カゲチヨが見たというコブラ?は、なんだったんだろうな」
帰り道、シディはふと疑問を口にする。
「…さーな。顔は見れなかったけどジャムの仲間って感じじゃなかったぜ」
前を歩くカゲチヨの顔は後ろを歩くシディとヒサメからは見えない。
「…」
ヒサメはカゲチヨの背中を眺めながら悲痛そうな顔をしていた。
(…今回、カゲはすっごく痛い想いをして、しかも心臓から再生できる確実な保証もないのにあんな危険な賭けをした…)
本当は今回の作戦に反対してた。
しかし一刻を争う状況で、他の作戦を考える時間もなかったため仕方なくカゲチヨの案に乗ったのだ。
結果的に良い方になった。だが…
(こんなことを続けてたらいつかカゲは…)
そんなヒサメの心情を悟ってか隣で歩くシディは声をかける。
「ヒサメ、気持ちはわかる。アイツは自分をぞんざいに扱いすぎてる」
「…うん」
「けど、今日はそんな顔をしてやるな。せっかく頑張ったカゲチヨが報われん」
「…!!」
シディの言葉にヒサメはハッとした。
「…うん、そうだね」
ジャムを捕まえられなかったとはいえ信者の人たちを救うことができた。
もちろんカゲチヨの自己犠牲なやり方には腹が立つし心配にもなる。
だがカゲチヨがやったことは決して無駄ではない。
今はそれで良しとしよう。
「…」
一方、前を歩くカゲチヨは昨晩の光景を思い出しながら考えていた。
ジャムを連れ去った赤いシルエットのコブラの意匠の存在。
(アイツ、一体何者なんだ…)
カゲチヨはあのコブラマークを思い出すとどうも嫌な予感がぬぐいきれなかった。
そんなことを考えていると後ろからヒサメが駆け寄ってきた。
「カゲ、今度焼肉奢ってあげるよー」
「ア゛?なんだよ、いきなり。なんか裏があんじゃねーだろうな!?」
「ないよ!!」
ヒサメは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ただ今日はそんな気分なだけ!!」
「な、なんなんだお前は…!?俺をどうするつもりだ…!?」
とある場所、ジャムは目の前にいるコブラの意匠を持つ存在に怯えていた。
「まぁまぁ落ち着けってェ。別に取って食ったりなんてしねェよ」
その存在────────…ブラッドスタークはジャムを落ち着かせるように声をかける。しかしその声は不気味でどこか狂気じみたものがあった。
「なぁ、お前…」
ブラッドスタークはジャムに近づき、肩に手を置く。
「ヒッ…」
その瞬間ジャムの背筋に悪寒のような感覚が走った。
そして耳元で囁くように言う。悪魔のささやきを。
「アイツらに…カレコレ屋に、復讐したくねぇか?」
フィーア「ついにカレコレ編に突入しましたね!」
惣真「え?あー、うん、そうね(エボル編未完成だけど…)」
フィーア「最終回はどうしましょうか」
惣真「新章に入ったばっかでもうそれ考えるのかよ!?気が早すぎるだろ!!最終回はまだまだ先だよ!!」
フィーア「私としては豆腐を買いにパリまで行く、ってのがやりたいです!」
惣真「それが許されるのはカブトだけだ!!」
フィーア「じゃあ…続きは劇場版で」
惣真「それはディケイドでも許されなかったからダメ!!」
フィーア「それでは次回もお楽しみに♪」