混血のカレコレ【Over the EVOLution】   作:鬱エンドフラグ

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西暦201X年

???「キシャシャシャー、キシャキシャー…(ワシはどこに行っても、迫害されるんじゃ…)」

エボル「なるほどな…それで癇癪を起こしてあの村を滅ぼそうとしたのか」

???「キシャーキシャシャシャ、キシャシャーキシャーキシャシャーキシャー…キシャシャーキシャー(ワシに近づいてきたヤツらもいたが、他者との交流の仕方がわからなかったワシはそのたびに誤って殺してしまったのじゃ…ひどい時は星一つ破壊したこともあった)」

エボル「そうか…」(まぁ、いくつも星ぶっ壊してるブラッド族よりはマシだな)

???「キシャーキシャシャ、キシャシャキシャー…(ワシはこの先ずっと、独りなのだろうか…)」

エボル「お前さんはどうしたいんだ?」

???「……キシャキシャシャシャー…、キシャシャーキシャーキシャシャ。キシャーキシャシャシャ(……ワシも他の者たちのように友が欲しい…、じゃがまた迫害されて怒りで殺してしまうかもしれん。ワシはもうどうすればいいかわからない)」

エボル「…俺もこういったことに関しては不得意でな。あんま良いアドバイスはできねぇが、俺から言えるのは…とことん悩め。お前さんは今何かに縛られてるわけじゃない、たくさん悩む時間があるんだ。とことん悩んで、それで納得のいく答えが出たら、居場所も見つけられるんじゃないか?」

???「……キシャシャシャシャ、キシャシャキシャー…(……ずっとここで悩んでいれば、答えが出るかな…)」

エボル「出ないだろうな。だってそんな簡単に答えが出たら悩むことないだろう?何年かかったって良いんだよ。誰だって悩んで成長するんだから。お前さんの場所はなくならないんだし。お前さんが生きている限りずっと、その時いるそこが、お前さんの場所だよ。そしてその場所で自分が本当に好きだと思える自分を目指せば良いんじゃないか?」


氷電のメランコリア【後編】

夜来る。

 

山奥に佇む廃工場からは、外は厚い雲に覆われ暗く深い夜に包まれている。

 

街灯はおろか、月明かりさえも届かない。

 

このような場所にわざわざ訪れる者は誰もいないだろう。

 

 

故に。

 

 

「んーー!!んーー!!」

 

 

口を塞がれ、辛うじて出るくぐもったヒサメの声は誰にも届かない。

 

この廃工場で何が起ころうとしているのか、誰も知る者はいない。

 

「そもそもアレにはここに辿り着く事すら無理でしょう」

 

「ふー!!ふー!!」

 

涙を浮かべるヒサメに対して闇の中で爛々と目を輝かせるエイファは液体、そしてその液体に浸かるダイオウグソクムシのような生物が入ったビーカーを見せつけるように揺らす。

 

「“掣肘グソクムシ”。生物から自意識を奪う寄生虫です」

 

『掣肘』が付くその名の通り、寄生した生物の自由を奪う。

 

「実験体の寿命が短くなるので、使いたがらない研究員もいますがね…」

 

エイファがヒサメの服の裾を掴み、ガバッと捲り上げるとヒサメの腹が露わになる。

 

「…僕は使う派です」

 

エイファはビーカーから掣肘グソクムシを掴み取り出す。液体から解放された途端キシキシと音を立てながら身動きするソレにヒサメは生理的恐怖と嫌悪感を隠せない。

 

「んーー!!んーーっ!!」

 

「この虫が肌を食い破って脳まで体内を進んでいく…。どんな感じか、是非感想を聞きたいですねぇ♪」

 

エイファは掣肘グソクムシをヒサメの腹に近づけていく。キチキチという不快な音が耳元まで近づき、ヒサメは全身の毛穴が逆立つような感覚を覚える。

 

「っん〜〜〜〜〜っ、んーーーーーーっ!!」

 

「やめろおおおお!!」

 

ヒサメは必死に抵抗するが、拘束された状態では何もできない。掣肘グソクムシとヒサメの腹の肌の距離が、徐々に近づいていく。その様子をバリアの中でなす術もないシディはただ見ていることしか出来ない。

 

迫る恐怖にヒサメはガタガタと体を震わせながら涙を流す。恐怖に負け目を瞑れば走馬灯のように一人の男が浮かぶ。

 

 

(カゲ……!)

 

 

掣肘グソクムシがヒサメの肌に触れる距離がわずか数センチにまで縮まった時…。

 

 

 

 

 

 

「ギッ」

 

「!!」

 

掣肘グソクムシが『ザクッ』という音を響かせ赤い針のようなナニかに貫かれた。

 

エイファの手から絶命した掣肘グソクムシが崩れ落ちる。

 

エイファは赤い針が飛んできた方向へ視線を向ける。ヒサメとシディもその方向を見る。

 

 

 

 

 

「────えーーーっと、全っっっ然状況わかんねーんだけど……その虫、潰しちゃってよかった?」

 

入り口に立っているその人物はカレコレ屋のリーダー、カゲチヨ。

 

 

「カゲチヨ…!」

 

まさに深き夜に差し込んだ光明。カゲチヨの登場にシディは声を上げる。

 

(…カゲ………)

 

カゲチヨを捉えたヒサメの目からはさっきまでとは違う感情から来る涙が浮かんでいた。

 

「……よくここが分かりましたね」

 

「ア゛ーー、これで位置わかるようにしてっから」

 

表情を崩さずに問うエイファにカゲチヨは自身の左胸のバッチを指差す。

 

「シディが位置を知らせてくれたんだよ」

 

「…なるほど」

 

「──で、お前、ヒサメに何してんだ」

 

カゲチヨはエイファを鋭く睨みつける。

 

「残念ですが…」

 

対してエイファはそんな彼に怯む様子もない。

 

「あなたに用はないんですよ」

 

エイファがそう言い放ったのを合図に。カゲチヨの左横。工場内の暗闇に潜んでいたソレの目が光った。

 

「っ!」

 

獰猛な爪が空を切り裂く。

 

ドオッ

 

「うおっ!!」

 

ソレの爪が振り下ろされる刹那、本能的に危機を感じたカゲチヨは咄嗟に後方へ飛び退

いて回避する。ソレの爪がカゲチヨが立っていたコンクリートの床に深々と刺さり大きな亀裂が入る。

 

「な、なんだよコイツ!?」

 

「グルル…」

 

全長三メートルほどの巨躯。その体を包む体毛は黄褐色で、獅子を彷彿させる頭部から生えている赤いツノ。背から生える鷲のような翼を大きく広げ圧倒的な存在感を放ち、猪のソレを思わせる鋭い牙が突き出た口元から獣の息を吐きながら獰猛な金色の瞳でカゲチヨを睨みつけている。

 

「僕が作ったキメラです♡ 君の相手はこの子にしてもらいます」

 

「コエー…、話す気ないってことね」

 

「フフフ……やれ」

 

スッと笑みを消し冷徹な表情でエイファが指示を出すとキメラは勢いよくその鋭い爪を振るう。

 

(!!はやっ──)

 

咄嗟の事で対応が遅れたカゲチヨは凄まじい速度で薙ぎ払うように振るわれた爪を真正面から受けてしまい、ドガァァンとドラム缶と倒れ伏していたゲイザー達を弾き飛ばしながら吹っ飛び壁際まで転がる。

 

「くっ…」

 

「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

すぐさま立ち上がり体勢を立て直すカゲチヨにキメラは雄叫びを上げ襲い掛かる。カゲチヨは即座に右手をかざし血液の針を飛ばす。しかしそれはキメラの顔をピシピシと掠る程度で物ともしない。

 

キメラの突進の勢いを乗せた爪撃がカゲチヨを襲う。

 

カゲチヨは咄嗟に避け、キメラの爪は波型スレートの壁を貫き破壊した。

 

しかし完全には避けきれず左腕に傷を負い、さらに避けた勢いでバランスを崩し転倒してしまう。

 

「ぐっ…!」

 

「カゲチヨ!!」

 

バリア越しにシディが叫ぶ。

 

転がるカゲチヨを鼻で笑いながらエイファは言う。

 

「ゾンビと吸血鬼のハーフ、能力は『血液操作』と『超再生』。下の上、良くても中の下クラスの強さ。対して僕のキメラは中の上と言った所」

 

わかりやすく言えばカゲチヨの戦闘能力は一般人よりは上のレベルでしかない。

 

今この場で戦闘能力が最も高い者はシディ、その次にヒサメ。

 

そしてキメラはヒサメとカゲチヨの中間に位置する。

 

「僕らの敵ではありません」

 

エイファが淡々と語る一方で、カゲチヨの表情は険しかった。

 

(傷が…()()()()()…!?)

 

カゲチヨは瞬時に自身の傷を回復させる超再生能力を持っている。にも関わらず先程受けたばかりの裂傷。それが未だに塞がらず、血が滴り落ちている。

 

「気がつきましたか?」

 

エイファがにやりと笑いかける。

 

「キメラの爪には再生を遅らせる能力を持たせています。君の超再生は対策済みです。…それに」

 

エイファは告げる。

 

「君は不死身じゃない。ある条件を満たせば普通に死ぬ」

 

エイファの声音が重々しく響いた。

 

「…なんで…、そんなに…俺に詳しい…?」

 

カゲチヨは理解が追いつかない中、絞り出すようにエイファに問う。

 

「当然でしょ」

 

エイファは一笑に付すように言う。

 

「僕は君を作った組織の一人だったんですから」

 

「!!」

 

カゲチヨは目を見開く。

 

「アイツらの…!!」

 

カゲチヨは己の両手を広げガタガタと震わせ見つめる。その様子にエイファはニィ…と口角を上げる。

 

「どうしましたぁ?そんなに震えて。今更怖くなりました?」

 

エイファは嘲笑のまなざしを向けながら煽るように言った。

 

すると…

 

「……………………ヒッ」

 

「…?」

 

「ヒヒッ…ヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

カゲチヨは小刻みに肩を震わせる。

 

そして、傾かせていた顔を、上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やっっと会えたなぁ…!!

 

「!!」

 

エイファは息を呑んだ。

 

その顔は、笑っていた。

 

それは嬉々としたものではない。いや、嬉しいという感情も確かにあった。しかしそれに混じる憎悪、憤怒、殺意といった負の感情。鋭い目付きで口角だけをつり上げた、危うい笑みだった。

 

(お、落ち着け…!!)

 

思わず怯んでいたエイファだが、すぐに気を取り直す。

 

何を恐れる必要がある。有利なのは自分だ。

 

相手は碌な戦闘能力もなく、自慢の再生能力も機能せずボロボロ、すでに虫の息。

 

ここから自身の勝利が揺らぐことなど──────

 

 

 

グラァ…

 

視界が揺れた。

 

ドサッ

 

(…………………………………………………………は?)

 

エイファは後ろから倒れた。

 

(アレ?僕が地面に…?)

 

理解が追いつかないでいるとドサ…と何かが倒れる音がした。

 

視線を向けるとキメラも倒れ伏していた。

 

「…!!……っ」

 

膝をついていたカゲチヨが立ち上がる。

 

(何で…、)

 

エイファは混乱した。何だこの状況は。

 

(何でこいつが僕を見下ろしている…!?)

 

 

「……」

 

混乱するエイファを他所に、カゲチヨは台の上に拘束されたヒサメの方へと駆け寄る。

 

カゲチヨは血液の刃を形成しヒサメを拘束していたベルトを切断し、彼女を解放した。

 

「大丈夫か、ヒサ」

 

「カゲ…」

 

「…ア゛ー、とりあえずさ、ほら、貸すからコレ着とけ」

 

「あ…うん…」

 

そう言いカゲチヨはパーカーを脱ぎ、ヒサメに羽織らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒサメ!大丈夫か!?」

 

カゲチヨが腕の装置を壊し、バリアから解放されたシディがヒサメに駆け寄る。

 

「う、うん…………………二人共ごめん…」

 

ヒサメは弱々しい声で答え、顔を俯かせる。

 

「シディ、ヒサを頼む」

 

「あ、ああ」

 

カゲチヨはシディにヒサメを任せ、地に伏しているエイファに向き直り、歩み寄る。

 

ヒサメはその背を、ただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ、ハァッ…!!ハァ…!!ハッ…」

 

エイファは床に伏した状態で蹲り、胸を押さえ苦しげな呼吸を繰り返す。

 

身体の内側からくる熱と倦怠感に冷や汗と脂汗が吹き出す。

 

(身体が熱い…!!身動きが取れないっ…!!僕の体は一体どうしてしまったんだ…!?)

 

「気分はどうだ?」

 

「!!」

 

そんなエイファを冷めた表情で見下ろすカゲチヨ。エイファは息を切らせながらカゲチヨを睨む。

 

「ぼ…、僕に…、一体何をした…っっ!」

 

「……」

 

それに対してカゲチヨは、冷めた目はそのままに、ゆっくりと口角を上げて答えた。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「…!!ウイルス…!?」

 

エイファが驚くと、カゲチヨは手をグッと力を込めるように動かす。すると…

 

「あぐっっ…ぐぅぇ…!!」(い、息がっ…!?)

 

「症状を止めるのも進めるのも、オレ次第だ」

 

「〜〜っっ!!」

 

呼吸が困難になり、エイファは悶える。

 

(しっ死ぬっ…!!)

 

カゲチヨがパッと力を抜くように手を広げる。するとエイファの呼吸は正常に戻る。

 

「ぶはぁっ…!!ハッ…ハッ…」

 

肺に停滞していた二酸化炭素が吐き出し、酸素を求めて喘ぎつつ、エイファは思考を巡らせる。

 

(ま、まさか…、ウィルスを操作してるのか!?)

 

カゲチヨはゾンビと吸血鬼のDNAを持つ。

 

ゾンビは噛み付き、仲間を増やす。

 

吸血鬼も噛み付き、眷属を増やす。

 

双方の共通点。それは、()()()()()()()()()()()

 

狂犬病に感染した動物に咬まれると感染するように。

 

マラリアやデング熱などの病原体を持った蚊の媒介によって感染するように。

 

ゾンビと吸血鬼も、噛み付く、吸血というプロセスを介することで、自らのウイルスを他者に感染させ同族を増やす。

 

(仮にコイツが血液操作を使い、体内でゾンビと吸血鬼のウィルスを混ぜ、オリジナルのウイルスを作って操作してるとしたら…!?)

 

そんなことがあり得るのだとすれば。

 

(あのとき…、僕が勝利を確信し口を走らせていたときにはすでに…)

 

──────僕にウイルスを感染させていた!?

 

ホルスの個体などに比べれば取るに足りない雑魚だと踏んでいた。故にエイファはカゲチヨを『失敗作』と評価していた。

 

自身が敗北するなど、露ほどにも思っていなかった。しかし今、エイファは地に伏している。こんなはずじゃなかった。

 

(まさか血液操作にっ…、こんな能力があったなんて…!!)

 

「おい」

 

「…!!」

 

「質問に答えろ」

 

エイファを見下ろすカゲチヨは、冷たい視線のままに問い掛ける。

 

「答えられなくなった時点で死ぬ。嘘をついても死ぬ。わかったか?」

 

それが脅しではないことは、瞳に宿る狂気が物語っていた。

 

「…ハ、ハイィ…わかりましたぁっ…!!」

 

「俺達を作った組織について、知っている事すべて話せ」

 

「そ…、組織の名前は────────────『トッププレデター』という組織です」

 

 

 

そこからエイファに明かされた、『トッププレデター』という組織について。それはカゲチヨ達にとって目を見開く内容だった。

 

地球が異宙に転移し、人類は生態系の頂点ではなくなった。それを良しとしない一部の人間が、再び人類の手に地球の覇権を取り返すことを目的として作られた組織。

 

その目的の為の彼らが実験の一つとして実行したこと。

 

それは、異宙の住人達よりも強い生物を造り出すこと。

 

それが────────────

 

「…」

 

「それが…俺達…?」

 

「なのに…っ、あいつだ……あいつに実験を奪われた…!!」

 

「ア゛…?奪われた?お前がシディやヒサを作ったんじゃないのか?」

 

「ち、ちがいますっっ!!」

 

憎々しげに言ったエイファの言葉に疑問を抱いたカゲチヨの問いに彼は即座に否定した。

 

「僕は生物合成研究の第一人者だったんだ…、うん…!!」

 

「なのに…」とエイファは表情を歪ませて、ギリっと歯ぎしりする。

 

「その後に入ってきた奴が僕の実験を乗っ取って、うん…!!ソイツが…、ソイツが実験体のあなた達を作ったんです!!僕は組織を追い出されて、それ以上は何にも知らないんです!」

 

「じゃあなぜ俺たちの能力を知っていた?」

 

「うぐ、そ、それは、雪女の…、い、いや、ヒサメさんの過去を覗いてデータを収拾しました…!!」

 

「…!!」

 

エイファの言葉にヒサメはハッと目を見開く。自身がカレコレ屋で目を覚ました時、頭に『カコジェクター』を取り付けられていたことを思い出す。エイファがシディ達への対策が取れたのはヒサメさんの過去を覗き、能力を把握していたからだ。無論、カゲチヨのウイルス操作能力までは把握していなかったため結果はこのザマだが。

 

「組織に返り咲くために…、あなた達実験体をさらに進化させようと思ったんです…」

 

エイファは苦しげな表情で言葉を絞り出す。トッププレデターから追放されたことで、彼は大きな屈辱を受けた。組織に認めてもらうために、今回の凶行に及んだ。

 

「…他に知ってることは?」

 

「えっ…と…最近風の噂で小耳に挟んだ程度で、詳しくは知りませんが…、『ライダーシステム』という新たな兵器開発のプロジェクトが進められてるらしくて…」

 

「ライダー、システム…?」

 

確か『ライダー』は『乗り手』や『騎手』を意味するはず。『ライダーシステム』と言うのが何なのか気になるが詳細はエイファも知らないようなので一旦保留。

 

「知ってることはそれだけです…!僕はすぐに組織を追い出されたから後任の名前さえ知らない…!…そうだ…、僕は悪くない…」

 

エイファは震える声でそう言うと自分の首をガリガリと掻きむしり始めた。

 

「僕を責めるのはお門違いだ!僕は可哀想な被害者だっ!うんっ…!!優秀なのに追い出されてっ…!!うんっ…!!全部周りが悪いんだよおおおおおおっ!!」

 

堰を切ったように被害妄想が混じった叫び声をあげるエイファ。ひとしきり叫び、ハァハァと息切れする彼を見るカゲチヨの目は冷たかった。

 

「…お前、自分しか好きじゃないんだな」

 

「うぐっっ…、あがっ…!」

 

カゲチヨはウイルスを操作し、エイファの症状を悪化させる。

 

「な…んでぇっ…ぜん…ぶっ…ちゃんとっ…はなし…たのにぃ…!!」

 

「…」

 

「あがっっばっばばっばっ…!!」

 

カゲチヨはさらにウイルスの強度を上げる。エイファはもがき苦しみ死の淵へと立たされる。

 

「やめろカゲチヨ」

 

シディがカゲチヨに手を掴み制止する。

 

「…いいだろ。俺達には…、その権利がある…!!」

 

「「…」」

 

臓腑の底から湧き上がる深く暗い憎悪を込めて、カゲチヨは言った。ヒサメとシディの表情も曇る。

 

カゲチヨ、ヒサメ、シディ、それぞれの脳裏によぎる、屈辱、苦痛、悔恨の記憶。ソレをするのに正当な理由は確かにあるかもしれない。

 

しかし…

 

「───そんな権利はない。コイツは俺達の実験に無関係だ」

 

「…」

 

シディの言葉にカゲチヨは一度湧き上がった憎悪に蓋をし、ウイルスの操作を止め手を下ろした。

 

「ゼー…、ゼー…ハァ…ハァ…」

 

「…最後に」

 

「!」

 

呼吸が戻り荒い呼吸をするエイファにカゲチヨは最後の質問を投げかける。

 

「鈴の…鈴の耳飾りをした吸血鬼を知ってるか?」

 

「鈴の耳飾り…?き、吸血鬼…?し、知らないです…!!」

 

「…そうか」

 

これ以上情報は得られないと判断し、背を向けて歩き出す。

 

(……。助かった…、のか…?)

 

ウイルスによる気だるさと全身の痛みにまともに体を起こせないエイファは、安堵する。

 

「…安心してるみたいだが、ウイルスはお前の体内に永遠に残る」

 

「!?」

 

「何かしてるとわかったらウイルスを活性化させる、いいな?」

 

「は、はひぃぃ…」

 

最後にエイファに釘を刺し、カゲチヨはヒサメとシディと共に廃工場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

帰り道、3人に会話は無い。

 

山道を下る一同の表情は暗く、その中でも特にヒサメの表情は重いものだった。

 

(何もできなかった…!!私が足を引っ張った…!!)

 

ヒサメは今回のことに深く責任を感じていた。

 

カレコレ屋結成時、覚悟は出来ていたはずだった。…覚悟していたつもりになってた。

 

しかしいざとなると恐怖から身体がすくんで動かなかった。自分が情けなくて仕方がない。

 

(きっと私は…、二人と一緒にいない方がいいんだ…────────────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが4日前の出来事。

 

あれから、カゲチヨはずっと上の空。今もボーッとしたまま、心ここにあらずといった様子。

 

(やっぱり、組織のこと考えているのかな……)

 

ヒサメがそう思っていると、教室の外、廊下からバタバタと複数の足音。

 

「カゲチヨーッ!!」

 

ガラッと教室の扉が開かれる。入ってきたのは4人の人物。

 

彼らはカゲチヨの席までズンズンと歩いていく。

 

窓の外をぼんやり眺めていたカゲチヨは名前を呼ばれて振り返ると、4人の人物。そのうち一人は赤ん坊ほどのサイズで宙を浮遊していた。

 

「──────聞いたかカゲチヨ!!エリコちゃんが…、グループ卒業って!!」

 

ダバーッと滝のような涙を流す、そばかすと尖った耳が特徴の茶髪の男子。彼の名は“アサオ”。種族はエルフ。美男美女が多いことで定評のエルフにしてはブs…ゲフンゲフン、やや劣った容姿だがエルフの第3王子である。

 

「我はもう生きてはいけぬ!!」

 

坊主頭に黒マスクと金色のイヤリングが特徴の大柄な男子の名は“チダイ”。種族はわからないが実家が殺し屋を営んでいるらしい。そんな彼もグッと拳を握り締め滂沱の涙を流している。

 

「あぁ…こんな現実受け入れられないよ…」

 

やたら爽やかで気取った仕草や口調の糸目が特徴の長髪の男子の名は“ルイ”。種族はインキュバス。インキュバスとは女性を魅了し精を搾り取る異宙の住民だが、彼は他のインキュバスのように女性を魅了することが不得意らしい。そして一番重要なのが、目は閉じてるように見えるが開いている。彼もまた閉じてるのか開いてるのかわからない目から涙を流している。

 

「キシャシャシャシャーーー!!(エリコーーーーーー!!)」

 

赤ん坊サイズでトサカのようなモヒカン頭の男子の名は“マチャソ”。種族は妖精。常に背から生やした蝶のような羽で浮遊している。この世の終わりだと言わんばかりの悲鳴…もとい鳴き声をあげる。

 

(………エリコ?)

 

ヒサメが疑問符を浮かべていると、突如カゲチヨがバンッと机を叩きユラァっと立ち上がる。

 

「てめぇら……────────────考えないようにしてたのに…、思い出させんなよおおお!!エリコオオオオオオ〜〜!!」

 

(は?)

 

ヒサメの顔から表情が消える。

 

「すまんカゲチヨ〜!!」

 

「今日はカゲチヨ殿の家でライブ上映会だ!!」

 

「キシャシャシャ〜〜〜〜!!(最後までエリコちゃんを応援するのじゃ!!)」

 

 

「エリコって誰…?」

 

「ホイ」

 

盛り上がってるカゲチヨたちを死んだ目で眺め呟いたヒサメに、ノリコがスマホを差し出す。

 

(アイドル!!)

 

スマホの画面には、キラキラとした衣装を着た女の子が笑顔を振りまいていた。

 

(組織の事じゃなくアイドルの事考えてたんかい!!)

 

ヒサメは心の中でツッコんだ。

 

 

 

「なんか“キモ(ファイブ)”が騒いでんだけどキモッ」

 

「なんかー、アイドルの引退にマジ泣きしてるみたいよキモッ」

 

「うわっドルオタの傷の舐め合いとかキモッ」

 

カゲチヨ達を遠巻きに見てた女子達が嫌悪感を表しながらヒソヒソと囁き合う。『キモ5』というのは、カゲチヨ、アサオ、チダイ、ルイ、マチャソの5人組に対する蔑称。カゲチヨ達は一部の女子から気持ち悪がられていた。

 

 

 

「なになに〜?カゲチヨ君()行くの〜?僕も行くー」

 

「ゲッ、“マカミ”」

 

中性的で整った顔立ちの黒髪の男子『日津賀 マカミ』に、にこやかな顔で声を掛けられたキモ5一同はあからさまに顔を顰めた。

 

「なんだマカミ。俺達は今お前のような陽キャに構ってられるほど寛容ではないぞ」

 

「毎回絡んできやがって。女子にモテるお前は俺たちと住む世界が違うんだよ!」

 

「キシャーキシャシャシャ!!(陽キャオーラが眩しいんじゃ!!)」

 

「ひっどいなー、僕はただ君たちと仲良くしたいだけなのに、すっごく悲しいよ……僕、そういう顔してるでしょ?」

 

「どこがだ!!100万ドルの陽キャイケメンスマイルじゃねーか!!」

 

「そもそもお前エリコちゃんのファンでもないだろ!」

 

「うん。全然知らない。アイドルに興味ないし、僕音楽はクラシックの方が好きだからねー」

 

「コイツ…!さらっと自分は音楽の趣味がいいですアピールしてきやがった…!!」

 

「恐ろしいね…実は人間じゃなくてインキュバスなんじゃないかい?」

 

「やはり貴様とは価値観が合わん!」

 

「ひどい言われようだなー」

 

 

 

「あの6人は相変わらず仲良いですねー」

 

「えぇ…そうかなぁ…?」

 

キモ5とマカミのやり取りを微笑ましげに言うフィーアにヒサメは苦笑する。

 

「マカミ君たまに空気読めないとこあるけど気さくで話しやすいし、一部の女子に人気があるからねー」

 

「5人とは真逆の部類だし、カゲチヨ達にとっては苦手なタイプだろうな」

 

ミキとノリコがキモ5とマカミの関係をそう評する。

 

「でもなんだかんだ仲良さそうじゃないですか?」

 

「お前らー、席つけー」

 

フィーアがそう言ったところで、ヒサメ達のクラスの担任“神谷丹次(かみやたんじ)”が教室に入ってくると各々は席についた。

 

 

 

 

 

授業中、板書の内容をノートにまとめながら、ヒサメは考えていた。

 

カレコレ屋は、もともと、あの組織を追うために3人で結成した。3人でこの街に住みながら、こうして学校にも通い、組織の情報が集まってくるような仕事として、なんでも屋のカレコレ屋を始めたのだ。

 

なのにあの日。組織の人間を前に自分は何もできなかった。

 

これからどうなるんだろうと、ヒサメは思う。カゲチヨはきっと、組織を追うことをやめないだろう。

 

(私は………)

 

ヒサメはチラッと少し離れた席のフィーアを見る。

 

(フィーアちゃん…心配してくれてありがとう。でも、ごめん。私達の事情に巻き込めないよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーン…カーンコーン…

 

学校は放課後を迎え、部活動に向かう者や帰宅する者で賑わっていた。

 

「さぁスイーツ食べ行こぉ」

 

「ダイエットは?」

 

「明日」

 

「うーむ、ミキらしいですね」

 

帰りの支度を済ませたヒサメ達はnascitaに向かおうとしていた。

 

「あ」

 

すると教室の入り口のところでヒサメはバッタリとカゲチヨに出くわした。

 

ヒサメは何を言えばいいのか頭が真っ白になり、カゲチヨとの間に一瞬の間が生まれる。

 

「…、あ、明日…!!カレコレ屋で!」

 

「あぁ」

 

ヒサメがなんとかそう声を絞り出すと、カゲチヨは抑揚のない声で返した。

 

「カゲチヨ行くぞー」

 

「おう…って、結局マカミも来んのかよ!」

 

「あはー☆」

 

 

カゲチヨ達の背を見送るヒサメの表情は曇っていた。

 

(私は…、今のままみんなと普通に、過ごしたい)

 

「ヒーちゃーん?行こー?」

 

「あ、まってー」

 

 

 

そんなヒサメの切実な思いとは裏腹に。

 

これから舞い込む依頼が、自分達を戦いの渦へと巻き込むことになるとは、知る由もなかった。

 

当然、カレコレ屋が全滅することも…。

 

 

 

 

 

 

 

『私、結婚します!』

 

「ゴッハァッッッッ!!」

 

「ゔわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

「オ゛ロロロロロロロ」

 

「…そこまでショックー?」

 

カゲチヨの家にてエリコ卒業ライブを視聴していたキモ5一同だったがエリコの爆弾発言により精神的ダメージを喰らい、その阿鼻叫喚の中、マカミは若干引きながら呟いたのだった。

 




アサオ「フィーアちゃんの家が喫茶店なのは聞いてたが実際に行ったことはなかったな」

チダイ「エリコ殿を失った悲しみをコーヒーとケーキで埋めるとしよう…」

カゲチヨ「にしてもマカミのやつはマジ何しに来たんだマジで!鑑賞会の後『僕この後デートの約束あるから〜』って言って帰りやがったぞ」

ルイ「エリコちゃんロスに苦しむ僕たちにさらに追い討ちをかけるなんて、恐ろしい男だ」

マチャソ「キシャーキシャシャー(やっぱり奴はいけ好かないのじゃ!!)」

惣真「あ、いらっしゃー…お?」

マチャソ「シャ…(あ…)」

カゲチヨ「マチャソ?」

マチャソ「…キシャ(…うっす)」ぺこり

惣真「おう、久しぶりだな」

カゲチヨ、アサオ、チダイ、ルイ((((知り合い?)))

惣真(自分の居場所、見つけたんだな)
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