混血のカレコレ【Over the EVOLution】 作:鬱エンドフラグ
この混沌とした世界で悩める人達の依頼を解決するカレコレ屋。今日も彼らの元に、重大な案件を抱えた依頼者が訪れていた。ソファに座り、依頼人にコーヒーをお出しして、話を聞くとする。
「私、イーラと申します」
目の前の『イーラ』と名乗った女性。褐色の肌、白髪と青い目、金色の髪飾りとアイボリーカラーのベールを身につけており、アラビア風な服装が特徴的だ。彼女が今回の依頼人である。
「今回はどんな御用で?」
「この度はカレコレ屋の皆さまに、こちらの壺を守っていただきたく参りました」
そう言って彼女はテーブルの上に八寸ほどの黒い壺を置いた。見れば蓋の部分には幾何学的模様が刻まれている。
「壺…、ですか?」
「この壺はなんだ…?禍々しい感じがするが…」
野性の勘だろうか。目の前の壺からなんとなく感じる異様さからシディが発した疑問にイーラが答える。
「この壺には…、悪魔が封印されていて、封印を解いた者は悪魔と契約ができます」
「悪魔!?」
ヒサメが驚きの声をあげる。
「そこいらの悪魔とはわけが違います。ソロモン72柱が1柱に数えられる時間を司る悪魔、イスカンダル双角王『ボティス』が封印されています」
「イスカンダル双角王、ボティス…」
「な、なんか凄そう…」
イーラの説明にシディとヒサメは顔を見合わせごくりと唾を飲む。ヒサメに至っては小並感あふれる感想を述べている。
「ええ、最大限に悪用すれば地球を終わらせることも不可能では無い程度の能力を持っています」
「ええぇぇ!?嘘でしょ!?」
「そこまでの…」
さらっと告げられたその壮大さにヒサメとシディは驚愕する。そんな代物が今、自分たちの目の前にあるのだから。
そんな二人とは対照的にカゲチヨは物静かだった。そもそもここまでの話にカゲチヨは興味なさげな様子で、上の空。イーラの話を聞いてるのかさえわからない。
そんな彼を気にせず、イーラは「とはいえ」と左手で髪をかきあげながら続ける。
「悪魔の力を借りる為には条件には条件があります」
「条件?」
「まず、力を借りられるのは一度きり、更にその力の行使後に契約者は己の心臓を悪魔に捧げなくてはなりません」
「し、心臓を…」
「契約を終えた悪魔はどうなる?」
「心臓を得た悪魔は一定期間姿を消します。高等な悪魔程長い期間姿を消します。どこへ行っているかは謎です」
青ざめるヒサメの隣で冷静な表情でシディが投げた質問にイーラはそう答えた。
「ええっと、依頼はそちらの壺を守って欲しいという事ですか?」
「はい」
「誰かに狙われてるのか?」
「…はい。ボティスの力を悪用しようとする輩に狙われているんです。連中は…────────────
「「「!?」」」
トッププレデター。その名が彼女の口から出てきたことによりヒサメとシディ、そして今までなんの関心も示さなかったカゲチヨまでもがその表情を驚愕に染め、目を見開く。
カゲチヨはガタッと勢いよく立ち上がる。そのためかコーヒーカップが傾きガチャンと音を立てて中身を溢しながら床に落ちた。
「トッププレデター、だと…?」
カゲチヨのその表情は驚きというより、鬼気迫るものを感じさせた。
「は、はい」
イーラはそれにたじろぎながらも、カゲチヨが反復した言葉を肯定した。
(なんで…!?)
ヒサメは腿のところで手をギュッとさせる。五日前に知ったばかりのその名に、どうしてこんなにも早く関わることになるのか。
「…壺を狙う奴を返り討ちにすりゃいいんすか?」
「はい、明日の朝まで壺を守ってください」
「なぜ、明日の朝なんだ?」
カゲチヨがイーラからの依頼内容を確認し、シディが問う。
「明日の朝、この壺を異宙の遥か彼方に飛ばす予定です。しかしこの情報は連中にも流れている可能性があります。もしそうなら連中は明日の朝までにこの壺を狙ってくるでしょう」
「で、でもそんな大事な壺なら、私達じゃなくて警察とかの方が…」
「やります。是非、やらせてください」
「えっ…」
ヒサメの言葉に被せるように、力強く宣言したカゲチヨにヒサメは戸惑う。
「おい、カゲチヨ」
ガシッとカゲチヨの肩をシディが掴む。
「なんだよ?」
カゲチヨはやや顔を顰めてシディを見る。
「まさか、引き受けるつもりじゃないよな?」
「は?断る理由あるかよ」
シディの言葉にカゲチヨは目を細め、淡々とした口調で返す。
「私からもお願いします!!」
「イ、イーラさん…?」
イーラが頭を下げて頼み込む。その様子にヒサメは困惑する。
「…なぜそこまで俺達に?」
その必死とも取れる様子に、なぜ自分達カレコレ屋に拘るのか疑問を覚えたシディがイーラに尋ねる。
「理由はシディさんです」
「俺?」
「失礼ながらシディさんについて調べさせていただきました。私が調べた限り生物的に一番強度がある」
「ほら!俺達をご所望だ。この依頼引き受けます」
「ありがとうございます。では、私は明日の準備に取り掛かりますので」
そう言ってイーラはカレコレ屋から去っていった。
「…」
カレコレ屋を後にしたイーラは足早に、どこかへと向かっていた。
(…なんとかカレコレ屋に壺を預けさせることができたわ)
イーラは
(最初は消極的な様子だったけれど、組織の名前を出した途端予想通り“腐血”が食いついた。これで“冥府の守護神”の矛先がカレコレ屋に向いてくれればあの壺を、ボティスの力を安全に入手できる)
そしてあわよくば、氷電と陽狼を捕獲できれば──────
「よぉ、計画は順調そうかい、イーラ様ァ?」
その悍ましく、そして明らかに敬う気がない『様』付けの声色にイーラはピタリと足を止め、不機嫌な表情で振り返る。
「………何故お前がここにいるのかしら?◼️◼️◼️」
「おおっと!今はスタークと呼んでくれ。俺の正体はまだ『観客』には秘密にしておきたいんだ」
「はぁ?観客?意味がわからないわ。声や口調まで変えて、一体何がしたいのかしら」
「だーかーらー、ネタバレはまだ早ぇんだよ!観客達が混乱するだろ!」
「…ハァ、もういいわ。で?何故ここにいるのかしら?スターク」
イーラは不愉快さを隠そうともせず、コブラの意匠を持つワインレッドの特殊スーツの怪人、『ブラッドスターク』を睨みつける。
「なぁに、イーラ様にちょいと提案があってきたのさ」
「提案?」
スタークの『提案』という言葉にイーラは眉を潜める。
「ああ、今回の計画、俺にも是非手伝わせて欲しいと思ってねェ」
「……どういう風の吹き回しかしら?普段碌に命令も聞かず勝手な行動ばかりするお前が」
「いやいや、俺だって組織の一員として、人類の未来を想って行動してるんですよォ?」
イーラが疑いの目を向けると、スタークはおどけたような態度で返す。
「俺が協力すればあのヘンテコな壺の中の悪魔の力を手に入いるだけじゃない。氷電と陽狼、そして、 戦麒の捕獲もなァ?」
「!戦麒…『星狩り』が連れ去った正規品…」
「なぁ?悪い話じゃないだろォ?」
「…星狩りの元から戦麒をどうやって捕獲するつもりかしら?」
「そこは任せとけよ。プランは考えてある」
「……いいわ、好きにしなさい」
「へっ、感謝するぜ。イーラ様ァ」
赤い蛇がバイザーの奥でニヤリと口角を上げた。
「よしっじゃあお前ら…」
「待て、カゲチヨ!この依頼は危険だ」
イーラが去った後、早速準備に取り掛かろうと二人に指示を出そうとするカゲチヨにシディが待ったをかける。
「それにヒサメは前襲われた時の事を引きずっている」
「じゃあ、ヒサメは今回参加しなければいい」
「……ぇ?」
カゲチヨの突き放すような言葉にヒサメは呆然と声を漏らす。
「そういう事じゃないだろ!!」
ヒサメを蔑ろにするかのような態度にシディは激昂し、ガッとカゲチヨの胸ぐらを掴む。それに対してカゲチヨは動じず、それどころか ギロリと睨み返す。
「…綺麗事抜かすなよ。お前だって同じ意見だろ」
「何がだ!」
「依頼主のお目当てはシディだ。つまりお前はあの場で依頼を断ることも出来た…。けどそれをしなかったのは、お前もトッププレデターに迫るチャンスだと思ったんだろ」
「っ…、それは…」
「ごめんっ!!」
シディが言葉を詰まらせていると、ヒサメが謝罪の声を上げる。
「私、今回は抜けるよ!やっぱ怖くてさー、ハハハ…駄目だねーヘタレでさ…」
「ヒサメ…」
無理に明るく振る舞うヒサメにシディは複雑な表情を浮かべる。
「って事でごめん。二人ともあとは任せるわ」
「ヒサメ!!」
そう言い残してヒサメは部屋を飛び出し、シディの引き留める声を無視してカレコレ屋から走り去って行った。
「…」
町を歩きながら、ヒサメは自分の情けなさに苛立っていた。
(そうだよ、元々カレコレ屋は、あの組織を追う為にやってただけ…)
自分はあの組織の人間には逆らえない。そういう風に作られている。
あの施設で生まれた時から実験を受け続けたヒサメは組織の人間には絶対逆らえないよう身体に刻みつけられている。
(トッププレデター相手に動けなくなる私は足手まとい…。だから、カゲが言っていることが正しいんだ)
俯くヒサメの視界が濁る。雫がポタポタと地面に落ちては消えてゆく。
(悪いのは、弱い私だ…!!)
ヒサメは自分の不甲斐なさに涙を溢しながらあてもなく歩いた。
「あれが氷電の女、今回のターゲットか」
ヒサメをビルの屋上から見下ろす人物がいた。
「本当に凄い異宙人のDNAを持ってんのか?」
「キキッ」
その人物は、右目の額の上から頬にかけて刀傷があり、左腕には肩や胸板まで付いたアーマー、そして鋭利な爪が特徴的な義手を付けていた。彼の傍らには異宙の生物、ゲイザーが一匹ふわふわと浮いていた。
〈侵入者ヲ確認〉
そこにビルの警備として配備されていた一体のガーディアンが現れる。ガーディアンは立ち入り禁止のビルの屋上に不法侵入した不審者の男を捉え、対処すべく警告を発しながら近づく。
〈警告。ココハ立チ入リ禁止デス。タダチニ退去シテクダサイ。従ワナイ場合ハ実力行使ヲ─────〉
ドッ!!
男が振り返らずに義手の方の腕をガーディアンに向けて伸ばすと、5本の指全ての爪先部分がパカっと開き、そこから鏃の付いたワイヤーのようなものが高速で射出され、一瞬にしてガーディアンの頭部と胴体を貫いた。男が義手の爪を戻すと、風穴が開いたガーディアンは火花を散らし、そのままガシャリと倒れ伏す。
〈外的攻撃確認。エラー発生。緊急停止。自己修復不可能。機能完全…喪…失…〉
ガーディアンは男の背後で完全に沈黙する。
「ヒヒッ、この腕でたぁっぷり遊んでやるぜぇ……氷電ちゃん」
男は自身の義手の爪とヒサメを交互に見ながら舌なめずりをした。
―何も傷つけず自分の手も穢さない。優しい生き方だけどなぁ…なーんの役にも立たないんだなぁ…―
アマゾンズより 『鷹山仁』
次回も読んでいただけると幸いです。