銀の剣士は旅に出る   作:リード@

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または、主人公の一番長い日


ゲーム本編で主人公のユーリ相手にあれだけのことをしてくれたザギさんなら、これくらい簡単にやってくれる……!!



11話 人間が一番怖い

SIDE:メアリー・カフスマン

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

港町(カプワ・トリム)の執務室で人払いを済ませた途端に、硬質に整った顔を情けなくくしゃりと歪め、ぷるぷる震えながら、がっくりと頭を下げた若い男装の少女の姿に幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の首領であるメアリー・カフスマンはため息をついた。目の前の銀色の髪も心なしか艶がなく見えるのだから、相当自分で自分を追い詰めているようだ。

そんな風にびくついて、死んだ魚の目で蒼褪めて見えるほど顔色が悪い子供を責める程、メアリーは暇ではないし悪趣味ではない。

それにメンバーから話を聞いたところ、あの男の武装解除が上手くできていなかったらしいのだから、此方にも非があるということだろう。

 

「謝らなくていいわ」

 

さらりと投げ捨てれば、びくりとあがる肩。

八の字になる眉毛。困惑したような、おびえているような色を宿す瞳が、潤みを増す。

さぁぁぁと音を立ててでもいるかのように、青を通り越して土気色になっていく子供の顔色にメアリーは言葉選びを失敗したことを悟った。

……この子供はなんでもできる器用さを持つくせに、自分に関することは不器用きわまりなく、人よりも打たれ弱いのだ。そして、見捨てられることを病的に恐れている。

この子は本来、実力はあるのに委縮しがちで、どこか鬱屈としていて、悲嘆主義だ。それなのに我慢強く、耐え切れてしまうのと、怖がりのくせに高い矜持がそんな様子を他者に知らせるのを許さない。

 

震える肩を隠して、演技で胸を張って、一人で立つ。その実力と能力があるからこそ、それが本当に彼女のモノなのだとまかり通ってしまう。

我慢強い、とかそういうレベルではないのだろう。ただ、失望されることが怖いのだ。

熱を出して倒れていた子供を助けた時、両親に謝るような譫言を呟いていたから、メアリーは知っている。

だからこそ、目が離せないのだ。

クロイツウェーグの若君(アルベルト・クロイツウェーグ)と、あの老人(ギペル老)は何をやっているのかと苛立って唇をかむ。

 

「で、でも、私があいつの挑発に乗ったから……」

「本当にいいのよ、あの男相手なら仕方ないわ……元々、あの船は処分する予定だったしね。多少、予定が早まった位だから、気にしないでいいわ。ギル」

 

何度も言うがメアリーには、おどおどと幼い子供のようにぎゅうと眉を八の字にして、泣きそうなほど目を潤ませている子供に怒りをぶつける趣味はない。

尚且つ、自分の事を母に似ていると心を許してくる年下相手ならなおの事だ。

そして、この子供の証言と部下たちの証言を照らし合わせれば、この一連の流れを引き起こした男が、ギルドの中で腕があるくせに性格に問題があり煙たがれている男だということもわかってきた。

流石に、あんな噂をされるような男と対峙してこれだけの被害で済んだのだから、まだまし、といった所だろう。

しかし、それはいいとして、

 

「そもそも、なんであんたがコントロールを失敗したのよ」

 

この子供が魔力のコントロールのミスするなんてことは考えられない。なにせ、空中に風で足場を作って、空を駆け、その風で足を傷つけずに崖の上に着地するような絶妙なコントロールをこなす子供だ。ありえないほどの精密なコントロール。絶妙な力のバランス。それを呼吸するかのように簡単にこなす。

初めて見た時は何てこと…と思ったけれど、何度も見せられれば、それが子供にとっては普通なのだと気付くし、納得する。

だからこそ、この惨状が信じられない。

黒く煤けた船を眺めながら、そんなことを思っていると子供の、押し殺したような声が耳朶に響いた。

 

「――――――――って」

「ごめん、聞こえないわ」

「………だから、“萎える”、“お前には起たん”って……女とわかってる人間に言っていい台詞じゃない。というか、ナチュラルにそういうこと言えるって事自体が恐い」

 

――――――ワオ。凄いわね、最近の若者って。

そんな考えても居なかった言葉に思わず、真顔になる私をしり目に、目の前の少女は今までとは違う意味でがたがたと震え始めている。

……我が身に置き換えて考えてみるとなんとも怖い。普通に怖い。

少なくとも16歳の少女が体験しないでもいいであろう体験だった。

 

「なんなのあいつ、マジでなんなの……男装してるのを見抜かれるのは分かるけどセクハラかましてくるとかまじ想定外なんだけど………怖い怖い怖い怖い」

 

口調が乱れ捲っている。

それほど、追い詰められていたらしい。

 

「………あなた、本当に大丈夫なの?」

 

 

大丈夫です!! 

帰ってきた言葉はやせ我慢の塊だということはすぐにわかったけれど、商談があるから傍に付っきりというわけにもいかないのだ。

メアリーは今度こそ、飲み込み切れなかったため息を零した。

 

 

 

SIDE:ハリー

 

 

 

俺が深夜、家に帰って来てシャワーを浴びて寝ようと、着替える為に寝室へのドアを開けたら、男がそこに立っていました。

 

俺は、あまりにもあり得ない状況に自分が陥っていることに動揺したんだろうか、それとも疲れすぎてて幻覚を見たのだと思い、思わず開いた扉を閉めてしまいました。

幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の船を故意ではなく――メアリーは気にするなと言ってくれたのですが――まぁ、それでも積荷以外の居住区を炎上させてしまったのもあって、ギルドの本拠地である此処で慣れない調書と報告をしなくてはなりませんでした。そんな慣れていないことを行っていたせいでしょうか。

俺はその時、ひどく疲れていたのです。

普段は使わない頭をよく使って仕事を果たし、ぼんやりとかすみがかってふわふわと平衡感覚を失っていた体は、きっと今のは何かの見間違いであろうと思ってしまっていたのです。それでよし、と一息入れてから再びドアを開けると、なんとそこには幻覚でも夢でも幻でも、お化けでも何でもない、赤毛の男がいたのです。

 

俺は間髪入れずにそのドアを閉めました。

言い方があれかもしれないけど……そりゃあ、そうでしょう。

深夜、ようやく家に帰って来てくたくたの所に、自分の寝室に名前すら知らない男が立ってれば、誰だってそうする。俺だってそーする。………失礼。それに、今もそうですが、その時はきっとなれない行為をして、疲れていて見えもしないものを見てしまったのだ、とそう思いたかったのです。

ずきずきと痛みを訴える頭を意図的に無視し、覚悟を決めて、改めてドアを開けました。

 

するとそこには、やはり赤毛の名前も知らない何者かがこちらを向いて、ほのかにほくそ笑んでいるのです。

この時点で俺は現実逃避を始めていました。だって、そうでしょう? あいつのせいで船を燃やす羽目になったのに自分だけ逃げやがった諸悪の根源が目の前にいたのですから。疲れてまともに頭が働いていなかった俺はただただ驚いて、反射的にドアを閉めました。

 

少しの間、ぼんやりと立ち竦んでいましたが、このままでは埒が明かない。

それに、見えもしないものが見えてしまったのだと思い直し、

 

寝室のドアを開けました。やはり、そこには男がいます。

 

今まで違って、微妙に正気にかえりかけていた俺は思い切り音を立てて扉を閉めていました。

ですが、笑い声が扉の奥から聞こえてくるのです。港町からこちらにわざわざ出向いて、報告書やらなんやらを書いているのは誰のせいだ、と。鈍い痛みを訴え続ける頭はそんなことを主張しています。ですが、本気で眠かったし、疲れていた俺は気のせいだと思い直し、ドアを開けました。

男が笑っていました。

 

思わず扉を閉めてしまいましたが、きっと幻覚に違いありません。

 

強行軍を行って、寝てなかったからと、思い直しドアを開けると、やっぱり誰かがいるのです。

名前も知らないけど、自分に苦痛と屈辱を味あわせ、正直、恐怖を感じているような”誰か”が。

 

さすがに、まともに働いていない頭でもその異常性はわかりましたから。真顔で、うわっと思いながらもドアをたたいている音を無視して、がちがちに魔術を使ってドアを閉鎖しましたが、きっと疲れのせいで幻覚を見たに違いないと自分に言い聞かせ、水でも飲もうと台所に踵を返した、その瞬間――――――背後のドアが消し飛びました。

ドアの残骸と何らかの術式を使った残滓の光を宿した赤毛の男が怪しく笑っていたのです。

 

………俺は、思わず、傍にあった――――――

 

 

 

「なにそれ、ホラー!?」

 

透き通るように白い肌をした少年傭兵が語る、あんまりにもあんまりな事実にハリーは絶叫した。

 

同じ室内で、本日二度目(ただし、12時の針はとっくに跨いでいる為に実質、翌日)の調書を取っているレイヴンたちまで苦い顔どころかドンびいた顔をしている。ゆらりと揺れる蝋燭の火。轟く雷鳴と、雨樋を叩き割る様に流れる水の音が狭い部屋の中に響く。現在、人が大量にいる状況でもぞっとするような状況なのだから、彼の対応と状態については同情しかできなかった。……それ、なんてホラー?

 

今回の件はそんな、あんまりにも恐怖を煽ってくるような出だしだ。

だが、同情だけをするわけにもいかない。この話の後、この目の前で死んだ魚のような眼をしている少年傭兵(ベルンシュタイン)は自分の借家から、間髪入れずに(ノーモーション)で魔術を行使し、叩き出した男とそばにあった空き家を数件炎上させるような死闘を繰り広げているのだから、何とも言えない。

 

 

「ホラーじゃないです、さっきまでの俺の現実です」

 

 

――――確かに俺も悪いでしょう。

目の前で居心地が悪そうに椅子に腰かけている少年は、白い頬をゆがめながら、青い目を曇らせて。それでも、ぎゅっと拳を握りしめ――――

 

「………でも、一言だけ言わせてください。俺は悪くねぇ!!!」

 

―――――ああ、うん。

 

その魂の籠った雄叫びに俺たちは遠い目をするしかなかった。

俺らだって嫌だよ。疲れ切って帰った先に、その疲れの原因が居たら。

尚且つ、家に侵入されてドアまで吹っ飛ばされたら、キレるよな………そもそも16、17の少年(みせいねん)の一人住まいに年上の男がいたって時点で事案もんだよな………普通に考えてアウトだ。身の危険を感じたら、衝動的に魔術でもなんでも使うよなぁ……

 

 

「悪くないけどねぇ」

 

レイヴンが、叫んだ後にがっくりと頭を抱えている少年に向かって気の毒そうに口を開く。事実を知れば、誰だって軽く同情するような有様なのだ。だが、この街(ダングレスト)の治安を守るギルドである俺ら(アルトスク)が手心を加えるわけにはいかない。

 

「………あー、うん。金利はゼロでいいから、頑張れ」

 

思わず、目をそらしながら零が多く書かれた書類を渡して言えば、

 

「了解しました………あの男まじで殺す」

 

 

銀色の髪の少年は、青い目を爛々と輝かせながら、地を這うような声でそんな恐ろしいことを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギルは称号《僧衣の騎士》《緻密操作》《魔術銃士(マジックガンナー)》《不憫な傭兵》を手に入れた!!


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