大会に至るまでにいろいろあったらしい。
なんで、こうなったのか未だに分からない。
―――キッチン付きの宿屋で料理を作りながら、ため息をつく。
打ち上げと称した飲み会を行っている自分たちは何やってるんだろうか……そんなことを考えつつ、手元の鍋の火加減を見つつ、スープをかき混ぜた。
ふわりと空気に乗って鍋の中身からいい匂いがする。あー、いい香り。
ブイヨンで味付けし、ジャガイモを薄くスライスしたものと玉ねぎのスライスしたものにとき卵を混ぜたスープ。私が作るなら私が好きなものを作るとばかりに味付けをして作っている。かきまぜる手を止めて確認をして、頷く。スープは保温できる程度に火を落とした。
フライパンに乗せた鶏肉はいい具合に焼けている。それをさっと皿に乗せた。付け合わせに先ほど冷ましておいたマッシュポテトとプチトマトを添える。―――上出来である。飲み会の席で出すにはもったいない位の出来だと自画自賛出来る。
適当に作ったチーズのつまみを酒の肴に、どんちゃん騒ぎをしている男共の声を聞きながら、サラダ用の野菜をちぎっていく。彩りにトマトを切り、レタスの青々としたサラダに乗せて、ドレッシングを適当にかける。
後は、私が料理のメインを作っている間に男共に買いに行かせたパンがあればいい。今回、用意したパンはドイツでは
大体この世界にそんな地名は無い(それなのに、名前は変わらないんだから可笑しい話だ)。勿論、挟めるようにザワークラフト(キャベツの千切りをいろんな香辛料と調味料で煮込んだもの)を付け合わせにフランクフルター・ヴルスト もある。
あいつらに水代わり提供した飲み物は白ワイン――――母国ドイツで言うミュラー・トゥルガウに似た味のワインも用意した(度数の低いものだからこの世界では問題ない。ドイツでも度数が低いモノは子供でも飲んで良かったから問題は無い)。……もったいない。いや、打ち上げは財布を気にせずに飲み食いすべきだけど、ああもパカパカと空けられるとな……微妙な気分になりつつも手は動くのだから、慣れって酷いな……大会に出ると決めてからの打ち合わせとスリーマンセルの連携の練習(殺し合い一歩手前、バトルロワイヤル)を思い出して、ギルは首を力なく振った。これは思い出さないでいいやつだぜ。
……酔っ払い共にはもったいないが、デザートには、今さっきオーブンにぶち込んだ、バターケーキ生地の
素朴な問題だがドイツではケーキのことを
また、これは切り方による区別はしていないという分け方をする。
まぁ、お国柄の違いと言う奴なのだ。
我ながら手早い料理の支度とケーキの出来に思わず、口元がゆるむ――――――完璧だ。
誰もいなかったら、完璧に顔を緩めていただろう。自画自賛する位には上手く出来た。
「できたのかあぁ?」
それなのに、なぜこの男が居るのだろう。
威張るようにそう言う男の顔面にスープでもぶっかけてやりたい気分になった。
「ザギ……」
紅い目がきらりと光る。
整った顔は野性味に溢れているせいか、美形と取るよりも鋭い眼を持つ猛禽を思わせた。とりあえず、顔が整っている割にイケメンという言葉が似合わない野郎だ。
一発は誤差だよ誤差。だから、殴らせてくれと思わせる男である。それなのに、殴り合いの死闘を繰り返したせいか、何でか変な絆っぽいものが生まれてしまった。
その結果がこれだよ!!と誰かに向かって言いたくなった。いや、べつに最初に比べたら断然ましなんだけどね。何だろうな、こいつ。たまに思い切り、引っ叩いてやりたくなる。
「すまん、ギル……」
顔を真っ赤にしてグロッキーになったハリーを見て溜息をつきそうになった。まぁ、これなら仕方ないよ。だけどさぁ、もっとなんか出来ただろう。
「水を持ってくから、座っててくれ」
流石に酔い潰される一歩手前の人間にこれ以上の無理を言うのは趣味じゃないし、私だって鬼じゃない。
というか、半死半生の姿には今まで抑えといてくれてありがとうと言いたくなるような力がある。
「美味そうだぁ」
不意に肩に顎が乗った。男の愉快そうな声に皺を寄せながら、無言で肩をかち上げた。鈍い音と同時に髪が首筋に当たる。くすぐったい。
ハリーが何とも言えない目で私を見てくるのをスルーしながら、顎にクリーンヒットした痛みに呻く赤毛の男を引きずってソファーの上に放り投げた。悪(仕事の邪魔をする男)は去ったのだ。
そして、溜息をつく。
口を閉じていれば、呻いてはいても顔立ちが整っていることが露わになる男なのだ。無駄に損してるように見えなくもない。声が悪いのかもしれない。後、悪役っぽい雰囲気。
細い男物のカチューシャであげられた髪は、金がかったピンク色のような色をしている。物珍しいそれは、目に美しいものがあった。光に照らされてキラキラと輝く様など、実によい目の保養になる。
そして、白皙と言ってもあながち間違いではない顔立ち。その中でひときわ眼を引く、切れ長の瞳は、宝石をはめ込んだように赤い。兎みたいと言うべきか、いや、それよりも赤黒いから柘榴色と言うべきか。純粋な赤とはまた違う、角度や光の加減で色が変わったように見える瞳。いくつかの宝石の名前が頭に浮かんだけど、そんな形容は無用で不要だ。純粋に綺麗だと思う。私の青の瞳よりも綺麗だと思った。
「運ぶからテーブルのうえ、退けろよ」
何を世迷いごとを考えている。
何故か、そんなことを考えてしまった自分のことが可笑く感じて、口の端をあげて笑い、誤魔化すように皿を置いた。