銀の剣士は旅に出る   作:リード@

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更新遅くなりました。
待っている方がいらっしゃったら嬉しいです。







15話 実はこんなことがあったという話

SIDE:ザギ

 

 

「「あ」」

 

 

声が被った。

それに目の前の女 ―― 男装しているから、男と言った方がいいのだろうが俺の知った事ではない ―― が頬を引き攣らせた。

そしてそのまま、何も塗られていない薄い唇が噛み締められる。そんな風に思いっきり、嫌そうな顔を俺の前で曝していた。

 

その女の上から下まで無遠慮に見下せば、女の顔が更に強張っていくのがわかる。

だが、それでも頑なに視線を逸らさないのには ―― 表情は思いっきり嫌そうな表情しているが ―― 地味に根性のあると感心した。

にやりと笑って、俺から目線を外さない青い目と視線を合わせる。………目を奪われた。冬の空を映したように美しい色の瞳は、俺に悪い感情を抱いているのを隠そうともせずに無造作に俺を睨みつけている。

 

俺への警戒を込めて、その蒼が俺だけを映しこんでいる。

何故だろうか。俺はそんな目を向けられていることに何だか満足したのである。

 

「………コンニチワ」

 

硬い口調のあいさつで、軽く会釈される。

その拍子にさらりと銀色の髪が滑り落ちて、それを耳にかけなおす女の耳元で繊細な銀細工の十字架が煌めいた。

 

 

「(…えらく、頬が引き攣ってるな。初対面があれで色々あったなら仕方ないが、それでも目をそらさない所を評価すべきなのか……)」

 

ふむと、一つ頷いた。

 

いくら剣を持ち、衣装を男のものにしていたとしても、こいつは女だ。

肩までの長さにばっさりと切られた銀色の髪は艶めいてきらきらと光っているし、肌は陶器のように白い。

白い頬に長い影を落とす睫毛は、ばさばさと音を立てるんじゃねぇかと思うほどだ。

それ以外にも薄いが形がすこぶるいい唇であるとか、凛と通った鼻梁であるとか、それらが収まった小さく綺麗な顔であるとか―――どうして、周りの奴は気付かないのか分からない。

服に包まれていても分かる程に薄く、狭い肩。薄っぺらい腹と腰。適度に筋肉のついた長い脚……服がだぶついているせいでわかりにくいが人よりも腰の位置が高い。高めの背丈のせいか最高のバランスだった。

そういったものが、この傭兵が女であることを俺に知らせてくる。

 

女の全身を見回し、ほお、と溜息をつく。

多分、髪を長く伸ばして女の装いをしたら、この女に勝てる様な女はなかなかいないのだろう。

素質はいい。仕草なんかも分かりにくいが丁寧だし、乱雑なところはない。

何で男の格好なんてしてるんだか、呆れたように笑えば途端に射抜くような眼光を抱いた目が俺を睨んでくる。

 

「……こんな所で長話もあれだし、奢ってやるからちょっと顔かせよ」

「……私に話すことはないから、遠慮します」

 

あ、ビビってるわけじゃねぇけど、俺の事、本気で苦手なんだなこいつ。

物凄く嫌そうな表情 ―― 子供みたいにあからさま過ぎる程に分かり易く ―― を浮かべている女を見てザギは噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんてことがあったのになぁ」

「あれは、君が悪いだろ」

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、今はこんな関係なのだけど。

 

 

 

SIDE:ギル

 

 

わたし、こいつのこときらいだ。

 

 

殴られた頬、止まらない出血。

目の前がちかちかと点滅する。

鼻にも一撃喰らったせいでだらだらとこぼれ落ちていく鼻血を乱暴に拭いながら、思わず舌を打つ。家族が居れば、窘められたであろう行儀の悪さだ。そんなもの知るもんか。

 

縁があって一緒に戦ったが本当になんなんだ、こいつ。

無言で眉間にしわを寄せたまま。男を睨めば、鼻先で笑われて、カチンとする。

無言で血塗れになった手袋 ―― 血を吸って黒ずんでいる ―― を外して、男の顔面にブチ当てた。さっきのお返しのように鼻で笑う。

顔に当たったそれに僅かに慌てている姿を見て…少しは気がはれた心地になった。

 

でも、それでも静かに腹の底に溜まっていく激情を感じながら血の混じった唾を吐き捨てて、ようやく息を吐いた。

そして、そのまま割れた爪のついた指で乱雑に襟元のボタンを開ける。呼吸が少しは楽になった気がした。

だが、少しは楽になったとはいえ、呼吸をする度に針を飲み込むような痛みがする。

 

浅く吐く息。

……呼吸が、辛い。

いっそ、痛みを訴える患部を切り裂いてしまいたい――――――けど、目の前の男はそんな細やかな逃避すら許してくれるつもりはないらしい。

 

「お前、頭おかしいくらい我慢強いよな」

「人の事、どさくさ紛れにボコッておいてそういう事言うお前の方が可笑しい」

 

赤毛 ―― 元々の頭髪自体が赤いが、今は血塗れで赤い ―― のあんまりな言い草に間髪入れずに言葉を打ち返した。拳を痛めてなかったら、この場所が炎だらけでなかったら、殴りかかっていたレベルの発言だ。

 

こいつのせいで三つ巴の戦いになったのだ。

というか、夜盗退治が三つどもえ戦 ―― (内臓)ぽろりもあるよ ―― になったのはこいつの横合いから突っ込んできたせいだ。

 

改めて思う―――なんだ、こいつ。

そもそも、私の目の前にのほほんとして緊張を解いている赤毛のせいで三つ巴の戦いになったのだ。横合いから第三者に殴られる依頼ほど、面倒なことはないし、やってられない気持ちになるのも無理はない。ただの夜盗退治が三つどもえの地獄絵図に化すとはお天道様だって、理解不能だっただろうに。

体験して戦った私から見て控えめに言って阿鼻叫喚の地獄絵図である。炎出すわ、氷出すわ、雷は落ちてくるわ。血は飛ぶわ、手首はポロリするわ。

さほどの怪我をしなかった私でも、それなのだから……夜盗たちから見れば、控えめに言っても地獄絵図だっただろう。

 

今思い返しても、控えめに言って阿鼻叫喚の地獄絵図………魔術と剣が使えてよかったと私がひっそり胸をなでおろすくらいには酷かった。私もひどいことをしたけど、こいつもひどいことしたよな………

瞼をつぶれば、鮮明に思い出すことが出来る光景は、控えめに言っても阿鼻叫喚である。

 

炎出すわ、氷出すわ、雷は落ちてくるわ。血は飛ぶわ、手首はポロリするわ。なお、流血は当たり前のことで――――――――お前が居なければ、もう少しましだったんだよ。

 

男の言葉に反論しようと口を開きかけ……響く喉の痛みに顔を顰める。

こんな些細な事にも痛みが走るが目の前で戯言を言う男に対して無言で答えるというのも腹立たしいし、なぐられた頬が痛い。………刃の峰での攻撃が直撃した喉が一番痛いが、全体的に顔が痛い。口にしたって喉にしたって、舌を噛まなかったことだけが幸いにしても奥にまで血が溢れかえっている。

 

こいつ、容赦ないと改めて確認した。

そして、割と最低だよなとも改めて認識し直す。

女だと知っている癖に容赦なくぶん殴りにきやがったぞ、こいつ。

いや、手加減されてもそれはそれでキモいし、腹立つけど。なんなんだこいつ。

 

そんなことを考えながらべっ、と音を立てて口の中の血を地面に吐き出す。

………我乍ら、今までだったら考えられない行儀の悪さだ。

くそ、みっともない。

 

そして、派手にぱっくりと切れたせいか血のカーテンがかかって見通しの悪い目を緩めて、殺し合いにも似た戦闘の発端になった目の前の男を胡乱気に眺めた。

何で私は一回は共闘した時ある男と、殺し合い一歩手前の事を会うたびにやらかしているんだろうか。

 

「頭痛い……」

「顔は殴ったが頭はボコッてねーだろうが」

「そういう意味じゃねーよ、バーカ。くたばれ」

 

喋るのもつらい。

だが、言い返さないのもきまりが悪い。

というより、腹がたつ。この男と沈黙の中に居たくない。

どうして私だけが苦労をせねばならんのだ。居心地が悪すぎる。

じわりと血が滲んでくる脇腹を抑えて、小さく呻く。痛い。

 

「というか、辻斬りか貴様。横合いから突撃してくるんじゃない、くたばれ(死ね)

「俺に言わせれば、毎回、ぶっ殺す気でやってるのに死なないお前は何なんだよって話になるんだが……それよりだな」

 

あまりの凄惨な有様と横やりにぶちぎれた私が放った ―― こればかりは、私も悪かった。認める ―― 魔術の火から逃れるように川辺に突っ伏している形になっている私たちは否が応でも互いの肩が触れる様な距離に居た。

 

ダブルノックアウト寸前の有様で、それでも寄りかからないのはお互いにこいつには頼らないと思っているからなのだろう。

 

呆れた様にため息をつく男に苛立ちが増す。

こいつ……人を煽ることに関しては抜きんでてやがる。

頬が引き攣る感覚がした。

 

「お前っていくらボコッても悲鳴一つ上げないんだろ、ドンだけ我慢強いんだよ」

 

――――つまんねぇし、可笑しいだろ。

 

さり気なく、悪意に満ちた言葉を吐き捨ててくれる男の事はさておきだ。

………それって、そんなにおかしな(・・・・)ことなのか?

それよりも―――――

 

「お前、人の悲鳴聞きたいの? うわぁ……悪趣味ぃ……」

 

言われたことの不穏さに引いた。

毎度、こいつと鉢合わせれば、血みどろの喧嘩をする私も変人だがこいつも対外、感性がイカレてる。

 

「………絶対に悲鳴が聞きたいってわけでもないが、そこまで頑なに鳴かないとなれば、話はべつだ」

 

紅い目が猫のように細まり、私を見ている。

舐める様な、じっとりとした重みのある不愉快な目だ。

 

「お前が普通に泣いて、悲鳴を上げて、助けを求めて縋る姿を見てみたい」

 

清々しい笑顔だが―――――――――言ってることが最低だった。

 

どうしてくれようこの男。

言ってる事もやらかした事も最悪だ。

男を眺めたまま思わず、絶句して目を見開く。

それに驚いたように小首を傾げる男に対して、頭痛がした。

 

「うっわ…………ないわ。戦狂いの挙句にサディスティックな性癖持ちとか、ないわぁ……」

 

そして、普通に引いた。

引きまくったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———慣れって怖いよな」

「いきなりどうした」

 

目の前でのんびりと珈琲を飲んでいる男が呆れたように言う。

全体的にだらんと力は抜いている姿に慣れてしまったのが怖いということだと言ってしまいたくなるが、その言葉を飲み込んだ。世の中、別に言わないでいいことだってあるに違いない。

たとえば、今の状況とかだ。

 

 

「お前と私がペアを組んでるパートナーになったこととかまじあり得ないと思ってた頃の話」

「ん?………あぁ、そうだな……あのぐらいの時ならマジでないわな」

「割と今が奇跡」

「せやな」

 

ぽんぽんと言葉のキャッチボールを交わしながら、男の手から珈琲を受け取る。

物凄く、不本意ながら……この男の珈琲は絶品だ。

 

「―――――――というか、私とお前が組んでギルドやってるってのが一番、わけのわからない展開だよな……」

 

 

マジでそれな。

真顔で相槌を打つ男の声を聞きながら、手元の珈琲に口をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公とザギと、こいつらも大概、相性が良くない(その割に一緒に居る)。


ここから、原作軸の話を掻くんだ
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