・・・主人公は現代人で高校生だったので、引きずってることも色々あるんですよ。
むしろ、引きずらなきゃやっていけない。
騎士って公務員なのに人の話聞かないのな。
それが、頭に浮かんだ言葉だった。
泣きそうになる。
現代社会でも公務員の汚職や組織の歪みが指摘されていたが、RPGの様なファンタジーな世界でもそこのところは変わらないのだと知ってしまった。少しくらいは夢を見せてくれてもいいと思うのだが、そうも上手くはいかないらしい。
殴り合いの乱闘騒ぎ(しかし、あちらから剣を抜いて来た)の後、宿屋で逮捕状の様なものを出されて……まあ、これはいいのだけど。
裁判も調書も盗らずに牢屋にぶち込まれた事だけには納得いかない。
階級社会という事は分かるのだけど、平等を謳うのならそこらへんは建前でもいいからしろよ。失望ではないが、騎士と云う存在にあった幻想と云うものが粉みじんに粉砕された気持ちだ。
せめて、仕事はしろよ。いい分くらい聞いてくれ。
公務員を兼ねてるのにあれでいいのか。文官が来い状態だ。
人間色々とありえないことありすぎると乾いた声しか出てこないって改めて知った。
異世界ダイブで、あり得ない事を体験しても、今まであった人達が何だかんだと意見を聞いてくれる環境にあったから、唖然として眼を見開いたまま、牢屋に入れられてしまった。
しかも後ろ手に縛られて、騎士に囲まれて連行である。
……連行中の私の顔を見ても、騎士の連中が何も言わなかった所を見ると、私の後見人(ギぺル師匠とその実家。リタは研究者としては一人前だが未成年なので身元保証人にはなれても後見人には成れない)の顔を知らないらしい。
一応言うが、ギぺル師匠は若い頃出奔してた時期はあるが、列記とした帝国貴族の一員である。
そして、その実家は議会にも顔を出す、名門という奴らしい。
私は、当主にあいさつを師匠に連れられて一回しかしたことがないから詳しくは知らないけど、……これの顛末を考えると顔に苦いものが混じっていくのが分かる。
だって私は、議会でもなかなかの影響力とやらを誇っているらしい今のクロイツウェーグ家の当主のアルベルト・ウルリッヒ・クロイツウェーグ(戸籍上は恐ろしい事に従弟だ)と、髪や目、そして性別が違うからかの些細な差異であるとかの違い以外瓜二つの顔をしている。私も初対面の時に大層驚いたが、顔がとてつもなく似ているのだ。
彼はこの世界の人間だから、私と血は血は一切つながっていないし、繋がりもない。だが、髪色や目の色の違いはあれど、双子の様にそっくりな目鼻立ち。…双子なんだとか、実はギル(私)は前の当主が愛人に産ませた子供だと言っても通用してしまうほど。
しかも正直言って、あの家は伏魔殿としか思えない。愛憎劇とか綺麗に取り繕った会話とか背筋が冷える。師匠が私をそこに連れて行ったのだって、師匠の娘の義娘という扱いになるから、家の権利を放棄する代わりに保証人というか後見人になってもらう為だった。断じて、貴方の家の敵にはなりませんし、何も求めないから、保障だけください、と。まあ、そんな話。
そういったことをよく知らない私が行っても、そんな事を感じ取れる家だったのだ(人の言葉の裏とか笑顔の下の感情とか読み取るのは得意だけど、お家騒動なんてものには関わった事がない。だが、それでも伝わってくるほどの居心地の悪さ)。
そこにのこのことやってきた、何の役にも立たない代わりに敵にもならない私が、色々と神経をすり減らしている同じような顔をした、同い年の青年とあったらどうなるだろう。
答えは簡単。
無駄に仲良くなった。
何故に?と簡単符を私が死んだ目で飛ばす位には仲良くなった。
……遺産目当てとかじゃないんでお茶に何か盛るのは止めてください。
と、無駄に助長してしまったが、私の顔は本当に貴族でも有力な家の当主と酷似しているとだけ、覚えておいてくれればいい。騎士の連中はともかくも連行中に垣間見ることのできた文官やら貴族の方が青くなってたから、もうこの情報は私の後見をしてくれている家や人、後、つい先日、とある騒動から関係を持つことになったメイベリーの家の方にも情報が行っているんだろう。
もしくは、もう行ったかのどちらかだ。
其れで無くとも、貴族と同じ顔である。
これはきっと、大きな噂の種をばらまいた様なものだ。
私もだが、私よりも面倒な事が騎士の諸君には降りかかることになるだろう。正直、ざまあみろ。君達が調書すら取らずに罪を定めたのも司法的な立場から見たらまずいから、自業自得だよねとは思っているのだけど、後に降りかかってくる事と今の状況も面倒なものである。
目立つ所は一発しか流石に殴られはしなかったが、手をくくられたまま牢屋にぶち込まれた。
流石にもう、後ろ手ではないけれど、手はくくられたままであり、強かに床に打ちつけた背中が地味に痛い。
じわりと打ちつけた個所から伝わる冷気と痛みが上がってくるのは正直、嫌だった。
はぁとため息をついて私個人の思いと記憶から言えば、不衛生で汚らしいといえるシーツの掛った寝台に転がった。
することがないのなら、目を瞑っているほうが楽だ。
というより、する事もない。
ついでに荷物もないので、買った本で読書も出来やしない。
騎士を観察しようかとも思ったが、こんな地下牢にいる騎士は大した地位に居ない下っ端だ。
突っ立てるだけで、特別面白い事が見えるわけでもない。
せめて、武術やら騎士団式の戦闘陣型とかが見えたらよかったのだが、この状態で見えるわけもない。
したことと言えば、下町で普通の一般人相手に切れていた騎士に地下牢に放りこまれた際、我ながら凄い馬鹿にする(しかし、殆ど事実)様に嘲笑ってぶん殴られたぐらいである。あれしか言ってないのに、あそこまで顔を歪めるとは煽り耐性がなさ過ぎて愉快になるくらいで、バレタラ面倒なことになるのに目立つ個所は殴れない筈なのに、頬を殴るとは、馬鹿な男どもだ。
そう、普通にせせら笑ってしまった。
友人曰く、お前の人を馬鹿にする様な笑みは本気でサドっぽくていらっとするのだそうだ。
思い出して、乾いた笑いを懸命に押し殺していた私にこっそりと氷嚢を差し出してくれたのが若い少年だった。多分、同い年くらいの年齢であると思うし、上司との会話を盗み聞くに、多分身分が低い、平民の騎士であると思う。
すくなくとも、私が聞き取れる程度には言葉になまりがあるから、別段高い階級の人間ではないだろう。商人特有の嫌に聞き取りやすい発音とも違っていたからそのような階級の人間ではない。
だが、なまりの酷さや語尾や語調の高低差は殆ど無かった為、おそらく帝都とあまり離れていない村か町の平民階級の騎士の少年である……いや、それにしてはまだ随分と年若いから騎士候補生か従騎士かもしれないと判断した。
それ故に、彼は私の事を気遣ってくれたのだと、判断したのだ。
会話をするなと厳命されているのか、無言。
でも、何か思う所があったのかこっそりと言葉少なに何かとこちらを気遣ってくれる色素の淡い髪に、青い瞳をした騎士をしり目に目を瞑った。
何人かで判断するのも悪いとは思うが、ああいった騎士たちのせいで騎士に対する心境は悪い。元騎士のギぺル師匠にも悪いが、騎士にさしたる興味もない。ほんのりと抱いていた、綺麗な幻想も打ち砕かれたし。
そもそも騎士というものは元の世界で言う軍人と公務員をかけ持っている様な職業だ。
その筈である。なのに、治安維持の名目で子供と老人を叩き斬ろうとする姿を見た時点で、色々と大暴落だ。
そんな先入観があるので、騎士には悪い感情しか抱けなかった。
うつらうつらとし始めた頭でそんなことを考えていたら、私は板の上にシーツを被せた寝台の上で、氷嚢を乗せたままいつの間にか眠ってしまったらしい。
気がつけば、いつの間にか黒い空間に立っていた。
その時点で違和感なく、「ああ、これは夢だ……」と理解する。
自身がこれに気付いた時点でくるくると姿かたちの変わる空間。
そこの眼前に過去の記憶のかけらのようなものが浮かんでは消え、浮かんでは消える。
まるで、あれだ。
――――走馬灯、というのだったか。
思わず脳内(夢の中で脳内もあったものじゃないとは思うけど)で突っ込んだ。
そんな精神状態の中でも祖父や、他の家族や、仲の良かったと思う友達や、学校の先生やクラスメートの顔がふよりと消えては現れる。
少し前なら、当たり前だった光景。
当たり前のように享受できていた日常。
もう帰れないのだと薄々察している日常。
それが瞼の裏に鮮明に駆け巡る。
もう、諦めていた。
――――諦めるしかなかった。
とうの昔に、投げ捨てた。
そのはずなのに、ぽたぽたと頬に涙が落ちてきた。
だって、本当に大切だった。
けど、どうしても――――――帰れない、大切な所。
帰れる方法もあるはずだと考えていた考えは来てすぐに打ち砕かれた。
この世界には、魔法がある。
しかし、物質移動系の魔法は太源からして、そもそも存在しない。
理論の欠片すらもない。
魔法という学問としての根っこの部分が存在しない。
だから、植物で言う葉っぱや花、実の部分である理論や理屈や設計図、魔導書のようなものはない。そもそも、自分がこの分野において研究をし、理論や定理を発見したとしてもおそらくその理論は物質移動についてだ。
物体と肉体は違う。
生きているのと生きていないのでは色々違う。
負荷のかかりぐあいだとか破損した時の対処だとか、つーか肉体なんて下手に移動させたならひき肉だ。
それを頭の中で理解した瞬間、帰るのは不可能だと理解した。
というよりも、
あちらには、魔法なんてファンタジーなもの存在しなかった。
呪文を唱えて火の玉発射とか歩く人間型火炎放射機じゃねぇか。
ねーよ。マジでねーよ。
理論と理屈と定理を説明しろ。
そうしたら、まだ納得できるからさ。
「……帰りたい」
ついにとうとう、本音が。
押し込めて、気にしない様に、思わないようにした、言葉が漏れた。
「
瞼を乱暴に拭う。
はらはらと、雫が落ちて逝く。
夢の中で、暗い闇の中なのに雫が零れていくのはよく見えて、思わず笑ってしまった。
「
「落人」
「
声のする方向を見た。
そこには狐の様な尾を持った、ナニカがいた。
次回は閑話と説明として、どうして主人公がギルベルトの人格を被って、ギルベルトになりきっているのかについて説明したいと思います。理由も含めて描きたいと思ってるので、つたないとは思いますが、説明します。(2月26日追記)