上から目線の変な奴等に「お前帰れねェから」と言われた少女の叫び。
色々、彼女が此処にやってきたかの設定はあるんだが説明が出来てない。
のんびりと更新していきます。
SIDE:アレクセイ・ディノイア
書類の上に記された名前は
この二つの名前は兄妹だと思う人間の方が多いかもしれない。
確かに、戸籍からして二つなのだから兄妹扱いするのが普通だろう。
しかし、これはまぎれもなく同一人物の名前だ。
そうするように貴族から通達があった。
面倒なことにクロイツウェーグの家からの要請だからかむげに断れず。
何時の間にかこの人物は別人として受理されてしまった。
……恐らく、今の若当主ではなく先代当主の意向だろう。クロイツウェーグの末席に位置する程度の権力があり、先代当主の双子の弟であるギぺルの言うことが通ったのだ。
ギぺル・クロイツウェーグ。我が帝国の誇る尽忠報国の騎士と生涯をかけてのライバルであり、ギルドの設立にも協力した貴族の変わり種。
ギルドと騎士団、どちらにもそこそこの発言力を持つ男が、このギルべルティーナという名の女性が孫であると認識したのだ。その血筋が嘘か本当かは別として、そうであると認識したのなら、嘘だとしても押し通す事くらいする気なのだろう。
クロイツウェーグの直系の子供は病弱な人間が多いのでいざという時の備えだとは思うのだが……真偽のほどは分からないが、そこまでクロイツウェーグの家がしたのだ。
――――この女性は血が入って居なくとも一族として認められていると云う事である。
至極扱いが面倒臭い。
この女性は6年前の戦争の時、たまたまポートフォリカにいたから難を逃れていることになっているが、母親はファリドハイドで死んでいる。
ギペル・クロイツウェーグが見つけ出すまでずっと、一人だったようだ。
所謂、戦争孤児の一人。
ようやく一族の人間であると認められ、後見人として祖父であるギぺル・クロイツウェーグと、クロイツウェーグの家が付いたのだ。
私にはやぶをつついて蛇を出す趣味はない。
そもそも相手にするには面倒すぎる。
ギルベルティーナ・M・ベルンシュタイン。僧衣の騎士。銀髪の傭兵との異名を取る腕前の存在。尽忠報国の騎士ドレイク・ドロップワートの
そして、瞬英だが同時にどこまでも扱いにくい“アスピオの天才魔導師”の家族。
後ろ盾にはクロイツウェーグ家のアルベルト・ウルリッヒ・クロイツウェーグと、メイベリー家の三姉妹も加わるという、なんとも手の出しがたい、傭兵だ。
そもそも個人でも貴族の名家の人間や
政治的にも、経済的にも、駆け引き相手としても厄介な立ち位置に居て面倒すぎる相手。
むしろ、彼女にちょっかいをかけたとして、廻って来る面倒の方が面倒になると想像がつき、ため息をつきそうになった。
なんという面倒な事をしてくれたのだろうか。
そして何故気付かない…あの人物の顔がクロイツウェーグの当主にそっくりだろうに。
彼女を牢屋に放りこんですぐに全力で皮肉に満ちた苦情の書状が届いた。
私も若当主のアルベルト卿に偶然会う機会があったが、笑顔のまま毒を吐かれた。
あの家は有能であり王族への忠誠が高いが、笑顔で毒を吐く人間が多い。
どこまでも人間に対して辛辣な癖に。
この上なく有能で私心がなく、政治的排除がしにくい家系である。
まぁ、それはさておき。
彼女は女性だが一人旅の上に身よりも少ないので男性としての身分がある。
書類には、そう記されている。
権力というか、影響力でごり押しされた形のものだ。
彼女が望んだことではないだろうとは思う。
僧衣の騎士という異名と姿は広がっても名前があまり広がっていない辺り、この人は面倒なこと基、目立つことが苦手なタイプであると思われる。
貴族に向いていない性格だ。
それにまぁ、彼女の後見にクロイツウェーグの家がついているのも、彼等には直系筋の子供が少ない。故に傍系筋の子どもでも最大限の身の安全を図られているのだろう。
まぁ、そこらへんのことは別段困ることではないし、それ以外は正しいものだから何もこちらからは言うことはない。しいて言うのなら議会をどう黙らせたのかが気にかかるだけだ。
だが、まぁあの家の人間からして言えば、性別がいつの日かばれても特に困ることはないから、反対もなくすんなりと通ったのだろうと思う。
それに、クロイツウェーグの家名が上手く働いたのも事実だ。
クロイツウェーグは、帝都でも有数の名家で武門の名門。
当代の当主のアルベルト・クロイツウェーグは若すぎるとはいえど、政治手腕が敏腕であり、貴族の当主有能な人である。そもそも彼は頭脳を駆使して先代当主を実力で蹴り落としたような侮り難い若者でもあるのだ。
強かで常ににこやかな笑顔の若者が、評議会よりも騎士団に力を貸してくれているのもまた事実。
本当に…今回のことは不手際とは言えどなんとも言えない気持ちになる。
……何ということだ。
部下達は気づいているのだろうか。気づいていて、政治的に扱いが面倒な存在が気にかけている親戚をこんな目にあわせたのだろうか。
住人の話を聞けば、悪者は我ら騎士団の人間である。
確かに、税をおさめきれてない老人も悪かったとは思う。
思うのだが、下町の住人のほとんどは遅れがちだがきちんと提出はしているのだ。
それに子供を切ろうとしたのが不味かった。
一夜明けて、今日の夕方にはすでに噂が広がっていた。
曰く、荒くれ者である傭兵が、騎士よりも騎士らしく弱気を守ったのだ、と。
一気に広がった噂話では、完璧に騎士が悪になっている。
クロイツウェーグやメイベリーが囁いて広げたとしか思えない。
だが、この出来事が脚色されている個所もあるとは言えど本当に事実なのが、救えない。
“僧衣の騎士”ベルンシュタインと呼ばれる傭兵。
私はそこまで詳しくは知らないのだが、巷では騎士よりも騎士らしいと最近評判の傭兵なのだそうで羊皮紙に書かれた経歴は隙もなく、一般にありふれたものに見える。少なくとも、矛盾や記述の間違えはない。
その子供が、幼いということを除けば、だが。
年齢の欄には16と半年という記録が記されていて、書面が間違いではないことを伝えてくる。いや、自分の立場から考えれば16は幼くない。
そうであるけれど、騎士として、男としての16ならともかくも、彼女は女性なのだ。
16の娘。普通の一般家庭の女性なら今が一番華やいでいる時期である。
それを捨ててまで、傭兵として背筋を伸ばして、生きているこの女性に何を言えるかといわれても何も言えない。
彼女なりの信念があって、こう生きているのだから自分が口をつっこむわけにはいかない。
牢に入った密かに重要人物(彼女本人で無くて過保護な周りなのだけど)の、ちらりと見た幼さが残る顔。
それを思い出すと堪らなく、痛ましく感じてしまうのかもしれない。
……騎士団の中でも名の知れていた女騎士の、キャナリ。
私の部下の、その死に方を思い出してしまうからだろうか。
傷ついた姿を思い出してしまうからだろうか。
騎士団長らしくない。
騎士らしくあれ、それが自らに課せた誓いだというのに。
いや、女性に優しくするのも騎士道にあるから間違ってはいないのかもしれないが。
彼女は今のところ重要参考人なのだ。
彼女も凄まじいレベルの後ろ盾が付いているのだから、察しているに違いない。
しかも傭兵の彼女はおそらく貴族の騎士にはめられたのだと思うのが予測できる。
面倒なことになりそうだ、ため息をついた。
SIDE:ギルべルティーナ
夢の中で夢を見た。
水面の月、胡蝶の夢、空の星。
絶対に掴めないモノ。
幻の存在。
不可能なものの例え。
そんなのみたいな、不確かなもの。
訳が分からない。
そもそも“心”の精霊ってなんだよ。
精霊自体が信じられない。
開口一番、罵られたんだが。
不可抗力の原因不明の事故だったんだけど。
相手側でも不手際があるらしい。
次元が違うから、すっごい責任問題になってるらしいけど。
当事者が蚊帳の外だ。
なんか、ローレライやらとかの固有名詞が聞こえた。ローレライって言われたら私が思い浮かべるのは祖国ドイツのライン川のローレライ伝説の人魚だけだ。
正直、理解できたかもわからない。疑問符しか頭の中には浮かばなかった。
精霊=ローレライという公式は私の頭の中には存在しない。
そんなこんなでどうしてそうなるんだと思い、ぼけっとしてたら、声をかけられた。
美しい形をした生き物に、そうして衝撃的な事を軽く投げかけられたのがいらっとした。
上から目線の言葉って腹が立つ。
だったら、巻き込むなよ。クソが。
人の夢の中にまで出て云う事が、それかよ。
だったら、黙っていてくれた方が百倍ましだった。
何故、事実に気付かずに、帰れると信じられたまま、世界に対して盲目のままでいさせてくれない。理不尽すぎる。
魂がこの世界に馴染んで定着して帰れない(意訳)って、直球で言われた。
しかも、弾かれない様にローレライ(精霊)が人の眼球をいじくり回したらしい。
もう本気でいっぺん、地獄に堕ちろ。
怒り狂いそうになったが説明の途中なので我慢した。
そして、聞いたところを意訳しつつ簡略化すると、異邦人である私に分かりやすく言うのなら、これは一種の
これにメジャー且つ類似している話に、ギリシャ神話のぺルセポネとハデスの話がある。
柘榴を四粒食べただけで冬の間、大地の女神の娘であったコレ―がハデスの妻として冥界に閉じ込められるという話を知っている。…なのに、それと無自覚に似た様な事をした私。
頭痛が痛いとかこういう時に使うんだろうな……意味が重複しているとかそういうのじゃなくて、何と言うんだろうなこのやるせなさとか半端なく溢れ出てくる現象って思わず罵った。
情けないくらいだが、泣き叫びたくなった。
普段なら、こんなの嘘だろと笑い飛ばせるような話でも目が覚めたら、いつの間にか掌の中にあの朱色の精霊に渡された翡翠の様な塊があったのだから……現実逃避さえ奪われた。
(とりあえず、翡翠の様なものはポケットの中に回収した。したのだが、なんぞこれ)。
「死ねばいいのに、ローレライ」と思った私は間違ってはいない筈だ。
だって2000年も閉じ込められてたら、性格歪むだろうけど他人を巻き込んでいい理由にはならない。自分と同じというか、魂の双子というか同一人物の素養のある存在に当たる、私を有無を言わさずに異世界にドボンとか苛めじゃないか。
しかも私のその事故、お前が復活させるために起こった貰い事故みたいなので、別の世界とかなんなの、おまえ。それに加えて、私と同じような存在である赤毛の子の記憶を残したまま、過去にループとか酷くないか。思わず、ループさせたくなるほど可哀想な子だったけど記憶があってループしてる自覚がある方が辛いんじゃないだろうか。
そんな事を考えながら、身体を起こす。
泣いた後を隠す様に乱暴に目尻を擦った。
そして、何故か首が痛い。凝り固まった関節を動かし、ほぐしていると遠くに反響して聞き取り難いが人の声が聞こえた。
こちらへと向かってくる、軍靴の音。
…何故かその音にぞわりと、鳥肌がたった。
やばいものがくる。
そうとしか思えなかった。
SIDE:シュヴァーン
「出ろ」
言葉少なに、指示を出した。
目を奪われるほど艶のある白銀の髪に、色の淡い、透き通る様なアイスブルーの双眸。
どこまでも白い印象を人に与える男装の少女は、黙したまま頷き。手袋を嵌めていないせいで、はっとする程白い色が隠せていない手でそろそろと鉄格子を掴んだ。
真っ白すぎる肌をした腕に鉄格子の黒のコントラストが美しい。
僅かにうつむいて牢から出てきた。
整った顔は、少しだけしか色を変えていないだろうに。
元々の色が白いからか、地下の冷気で冷えたからか青ざめた顔をしている。
目元が紅いのが気にはなったがそこには触れて欲しくないだろうと判断し、何も言わずに黙った。
なるほど。
確かに、初見では男に見えるが少女だと知っていると少女にしか見えない姿だ。
整い過ぎて中性的に見える上に色があり得ないほど白い。
色合いが神秘的であり、顔のつくりが彫刻じみた様に硬質なのも影響しているのだろう。
人目を引く顔立ちをしている。人に紛れ込むには苦労する顔だ。
線の細いくせに手足の長い、高い背丈に理知的で硬質な美貌の容姿。
目の色はともかくも…淡い色合いの髪をしていたあの人の面影が確かにあるかもしれない。
そこまで、思い出した所で首を振った。
……思い出すな。
これは、ファリドハイドの貴族であるダミュロン・アトマイスの記憶だ。
騎士団隊長主席、シュヴァーン・オルトレインの記憶ではない。
色の淡い髪に、紅玉の目をした年若い、女性になどあったことはない。
この自分に故郷などなく。
それ故にこの少女に似た人物になど、幼い時分にあったことは、ない。
……ないのだ。
「どうして夜明けすら来ていないのに解放されるんですか?
まだ、切り替えに慣れていないうえにそれに難儀しているらしい。
動揺している様子が手に取るように分かった。
アイスブルーの瞳が動揺に揺れている。
そのうえに光の光量のせいか、先ほどよりも瞳の色が濃くなっているように見える。
不可思議な目だ。
不思議と視線が集まる目だ。
しかし、貴族の様に端正に整った顔立ちとは違い見かけ通りの大人しい性格ではないのだろう。淡々とした響きの詰る様な言葉と斬り込む様な言葉。
その詰問にも似た、問いただし方は無意識のうちに行っている事なのだろうか。
「騎士団の事情で君を早く解放しなければいけなくなった。……それと、君の事情はこちらで理解している。クロイツウェーグ家の人間の言った通りの、本来の話し方で構わない」
そう言うと、こちらの話をすぐに理解したのか引き攣った顔に一瞬でなった。
そして即座に目を伏せ、ただ黙って頭を下げた。
顔を俯かせたので、顔は見えない。
それでも、蒼白な顔色をしているのだろうなと想像がつく。
其れほどに、先ほど眺めた顔は青白かった。
「わかりました。えっと、騎士殿」
その言葉に、俺が目を丸くする番だった。
丁寧な口調から察するに、本来の気象は傭兵らしからぬ性格なのだろう。
苛烈さもあるだろうが、年齢にはそぐわないほど落ち着いている。
ニ重人格の様に二人の人格をころころと変えている弊害、というものもあるだろう。
二重の性格は、本人が気付かないうちにじわじわと領域を狭めてくる。
だが、死人の俺が心配することではない。
正直、どうでもいいのだ。
この少女が壊れようがどこで死のうが俺の知ったことではない。
「シュヴァーンだ。シュヴァーン・オルトレイン。………騎士団隊長主席を務めている」
自分でも名乗ったのが不思議だった。
今後、この女性はギルドに所属する可能性が高い。
この差異について深く知られれば、いつかギルドか何かに入る可能性の高い彼女に“
それなのに―――――自ら名乗りをあげるとは。
「(……今回はレイヴンとして、すごし過ぎたのかもしれん)」
自分に舌打ちを加えてやりたくなった。
初歩の切り替えさえ上手く出来んとは、情けない。
よく理解のできない感情が胸に湧いた。