レイヴンに若干似てる。
自分に非は無いのにいきなり全部奪われて、放り出された辺りぐれてもいい。
しかし、思いきり罵声を浴びせれる存在が存在する(ここがレイヴンと違う所)。
SIDE:ギぺル・クロイツウェーグ(師匠)
子供が死んだような眼を晒している。
其れに思わず顔をしかめると、子供が引き攣った様に笑う。
冬の蒼穹の様な双眸は曇りきった空の色を宿し。瞳そのものは、ただ目の前の事を映し出し、感情を隠す、鏡の様な有様だ。
少なくとも、お前の歳の様な人間が晒す様なものではない。
この子供の性質が悪いのは――何も知らなければ、もしくは鋭い観察眼でも持っていなければ、普通に見えてしまうこの子供のあり方だろう。殆どの人間が素通りしてしまうほど見事なまでの隠しっぷりだったのだから、定期的に精神的な自傷行為にこの子供が浸ることを知っている人間は少ない。
ひっそりと蹲り、じっと朽ち果てる時を待っている。
子供の心の隠蔽の上手さに戦けばいいのか。
それとも自分では気付いていない、内に秘める体質に慄けばいいのだろうか。
自覚してない事を止めることなんてできないのだから、最悪だ。
傷ついている事には気づいているのに根本の原因を見て見ぬふりをしている駄目っぷりだ。
いっそ、見捨てられたら楽なのだろうが、一応、拾ったのは俺なのだ。月日を数えるごとに目が死んでいくのを見ていれば見捨てることが出来ない。
分かりにくい癖に、気付いてしまえば見捨てられなくなる傷ついた目。
人よりも聡いが故に傷を作る子供のそれだ。
この子供は何時も気付かないでもいいことに気付いてしまって、理解してしまって傷を作る。いっそ、目隠しをして生きることが出来たなら、この子供にとってそれはどれだけいいことなのだろうか。見え過ぎる目も聞こえすぎる耳も聡すぎる頭も全部塞いで、子供の様に生きられたらそれは、どれほどこの子供にとって幸いであろうか。
擦り切れてへこんでそれでも、前を見据えた子供。
諦められずに、希望を投げ捨てることの出来ない子供。
叶わないとどこかで悟りながらも、手放せずに歩み続ける子供。
その子供が距離を、取ろうとしてる。
それぐらいはすぐに察せた。
帝都から帰って来て、何かが崩れたらしい。
どこか調子が可笑しかった。
手を伸ばされる事も、手を伸ばす事も駄目な子供。
手を振り払われることに怯えながら、手を望んでいることにも気付かず、自分が怯えているのに気付かない可哀想な子供。
どう成長したらこの様に育つのだろう。心底、不思議に思う。
そして、この子供の親が何もしてやらなかったことが、理解ができない。
少し傍に置いて弟子として遇すれば、歪な精神構造をしていると見てとれたのだから、普通の親なら気づいて何らかの処置を打っていただろうに。そんな痕跡すらない。怯えて、おびえて、恐怖して、縮こまって、それでも倒れることが出来ない子供。
異なる世界からやってきた子供は、一見、傲岸不遜―――実力を持った天才の様に見える。だが、それは違う。違うのだ。ギペルが弟子にした、異世界の子供は、気性穏やかで虚勢を張ることだけが上手い、臆病で繊細な気質の、ただの我慢強い子供だった。
我慢し続けるうちに助けて欲しいと助けを求めることすら忘れた俺の弟子。
器用なくせに不器用で、自分に対して上手く妥協点を見つけることが出来ない。諦めることが嫌いで、人を誤魔化すことは上手いのにどこか致命的な所が口下手なガキ。
其れに加えていびつで幼い精神の持ち主だという事が分かる。下手に我慢強かったせいで我慢することに慣れ過ぎて助けを求る事も、手を伸ばすことも、わからなくなった馬鹿。
大丈夫だと、一人でも平気だと虚勢を張って生きている。
本当は影に怯えて助けを求めることすら出来ない癖に、肩をそびやかして、胸を張って、震えを律して一人で立って。じっと、世の中を見つめている。
本当はあきれるくらい臆病で、脆弱で、そんな存在なのに耐えることだけは異常に上手い。
だからこそ、この理不尽な処遇にただ耐えて、寒さに耐える様に震えている。
いっそ、泣けばいい。
目が溶けてしまうほど泣いて叫べばきっと、楽だ。
楽になれるのに。その方法を知らない子供。
「愚か者」
そう吐き捨てれば、引き攣った様な笑顔を見せた子供は何かに耐える様に眉を寄せた。
だから、その黙りこくって貯め込む姿が馬鹿なのだ。
SIDE:ギル
「あんた、冷静に見えて実はバカなタイプでしょう」
帝都からアスピオに帰ってくるのが予定よりも遅れた理由を聞かれたので、アルベルトの事や騎士団隊長主席にあった事を適当にぼかしつつ答えたら、心底あきれた顔でそう言われた。
年下の女の子にこんな顔をさせるとか情けなくて死ねる。
―――冷静な声を頭に過らせながら、出かけた言葉を喉の奥に押し込めて、苦笑する。
頬を膨らませて怒るリタに自分でもそう思うと、同意すると、ため息をつかれた。
なら、直しなさいよ、と。呆れた様につっけんどんに言われながら呟く。
治そうとして治せなかったからこうなんだよ。
それに本気であきれた顔になってリタはどこかに行ってしまった。
きっと、資料館かどこかだと思う。リタには友達が少ないから、そう言う所ではない。
それが分かっていても追いかけれなかった。
追いかけてもどうにもならないし、なら料理でも作って待っていた方がよっぽど建設的だ。
「きっと、私には追いかけられたくないだろうしなぁ」
―――異世界に落ちてきて分かった事だって、ある。
例えば、人との距離のとり方だ。
昔ならば、嫌われても距離を詰められただろう。
手を伸ばして、自分の思うように言葉を叫べただろう。
今の自分に、それは絶対に出来ない
だって、今の私には半年と少し分の基盤しかない。
あそこには16年分の基盤と、それを認めてくれる人たちが一握りながらも存在た。
自分の性格的な問題で、心から打ち解けている人は少なかった。
だが、気軽に会話を楽しんで、時には一緒に遊ぶくらいに打ち解けている人はいたのだ。
その中には、少なからず己の性格を分かっている人もいた。
ああ、そういう性格なのねと納得してくれるだけの空気の様なものがあったのだ。
しかし、今の私には片手の指にも満たない基盤しかない。
リタの事は感謝してるし、大切に思ってる。
アルベルトも年齢が変わらないのに、当主として凄い働いているのを知っている。
同じようにギぺル師匠の事も尊敬している。
だが、それだけだ。
本物の姉妹のように長い時を一緒に過ごしたわけではないし、本物の師弟のように苦楽を共に過ごしたわけでもない。
片割れだと戯れの様に読んでくる似た顔の男にも期待はしない様にしている。
だから、自分の思うことを投げかけて全てなくしてしまうのが怖かった。
手を振りほどかれるのがなによりもなにをされることよりも恐ろしい。
だから、踏み込まない。
(踏み込めない)。
つかず、離れず、間合いを取る。
相手が不快に思わないぐらいに、距離をとる。
相手に嫌われない位置に。
相手に好かれすぎない様に―――相手に、距離をとっていると悟られない距離に。
反吐が出るくらい、最悪な手段で、何と醜悪な人間なのだろうか。
相手に真心を差し出せない様に、深く踏み入れさせないようにする人間。
それが、相手を傷つけることさえあるというのに。
その存在するルールを無視して、気付かないふりして生きている。
呼吸をするように嘘をつき、笑うように遠ざける。
手を伸ばされても、気付かぬふり。
声を掛けられても、聞こえないふり。
愛したがりの怖がりで。
のばされた手ですら満足に握り返せない。
道化よりも性質が悪い。
何たる、人間か。
今の私は過去の自分が一番唾棄する類の人間だろう。
「(リタは気付いてない)」
笑顔を顔に張り付けた。
それだけは、しっかりと理解している。
気付かせないぐらいの演技力はある。
気付かれたら、全力で離れるしかない。
歪み過ぎている、と自己で理解できるぐらいだ。
あの子の成長にヤバイだろうこれは。
あの真っ直ぐな子に私は似合わないし、時々怖くなる時がある。
むしろ、まっすぐすぎて怖い事もあるくらいなのに。
真っ直ぐでひたむきできらきらと光る宝石の様な、そんな輝きの女の子。
きっと、私がいなくても平気だ。
それに、あの子は自分の手を取ってくれる家族の様な人間が欲しかっただけで、私が欲しかったわけじゃない。
だから、私はあの子がそんな存在に会えるまでの代替品だと思っている。
依存しない様にしないと。
あの子がかりそめのものより大切なものに出会った時の為に。
それを己が邪魔をしない様に。
距離を測らねば。
依存しない。依存されない。
家族の様でそうでない。
私はそんな立場の人間でいい。
「(きっと、アルと師匠は気付いてる)」
自分でもあきれるぐらいの歪みっぷりなのだ。私との関係を利用しているアルと人生経験豊富そうなあの人が気付いていないわけもない。
さっき挨拶に行った時、いつもとはいっても、そんなに長い付き合いじゃないけど動かさない表面筋が不愉快そうな色に彩られた。
牢でみた夢のせいで、きっといつもよりも心が死んでるんだ。
そうに違いない。そうでなきゃ、己が哀れすぎる。
「(怨む事の出来る対象が存在するから、私はまだ死なずにすんでいる)」
死人や道化と私の差などそれぐらいでしかない。
主人公も結構精神的に崖っぷち。
死んでいないけど病みかけ。
それも、どうなんだろう。
後、主人公は打算のある優しさのほうが理解できるので怖くないらしい。
次回も頑張ります。