【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
ピーターの手当てを直した後、私達は2限目の授業から受けた。
フラッシュは……私の方をチラチラと見て話しかけたそうにしていた。
だが、まるで猛犬のように威嚇するグウェンに阻まれ、結局話す事はなかった。
授業が終わって放課後。
ピーターがネッドと合流して、ネッドがピーターの傷に驚いて、グウェンが先に帰って。
「じゃあさ、今日の映画は中止する?」
そう、ネッドが言った。
「いや?別に傷があるだけで、映画を見るのに支障はないと思うけど」
ピーターが言った。
そんな二人を私は側で見ていた。
「……あの、ミシェル?」
「なに?」
「何で僕の後を追いかけてるの?グウェンに付いて行かなくて良かったの?」
ピーターがそう言うのも無理はない。
今日一日、ピーターの側にべっとりくっ付いてるからだ。
「……ダメだった?」
「いや、ダメじゃないけど……何か用事でもあるの?」
「ないけど」
昨日、ピーターをボロボロにしてしまった罪悪感から、私はピーターの助けになりたい……という、欲求に駆られているのだ。
だが、困った事にピーターは傷塗れのボロボロでも、何でもかんでも一人でやってしまうし……。
そうして、気付いたら放課後になっていたのだ。
「ネッド」
「ん?何?」
「私も、映画見たい」
このままピーターのストーカーとして生きていく……。
あまりにも緩い決意と共に、私は彼らの遊びに同行の意思を示した。
「え?でも、見る映画ってヒーロー映画だよ?」
「大丈夫、私もヒーロー映画、好きだから」
と言うか、ヒーロー自体が好きなんだけど。
スパイダーマンとか、アイアンマンとか、スパイダーマンとか、キャプテンアメリカとか、スパイダーマンとか、スパイダーマンとか、スパイダーマンとか。
……あぁ、いや、彼等はこの世界で実在するから創作のヒーロー映画が好きってよりも、有名人のおっかけみたいな扱いになるのか?私は。
私のヒーロー好き発言を聞いたネッドは大袈裟に驚いた。
「そうなの!?」
「そうだけど……何で驚いてるの?」
「いや、てっきり……何というか……こう、読書が趣味っぽいと言うか……ピーターもそう思うよな?」
「ネッド、それはミシェルに対する偏見……でも、実際に読書は好きなんだよね?ミシェル」
「好き。歴史書も、文学も、コミックも」
「「コミックとか読むの?」」
む。
何故か二人とも驚いている。
「じゃあ……スーパーマンとか?」
「バットマンが好き。お気に入りの作品はウォッチメン」
「えぇ……?」
あぁ、この世界にMARVELのコミックはないが、DCコミックは存在している。
私はMARVELが好きだけど……DCも好きだ。
一番好きなヒーローはスパイダーマンだけど。
「なら……問題ないんじゃね?」
「うん、付いていく」
無理矢理、予定を歪めている事に罪悪感を持ちながらも私は付いていく事にした。
ネッドは嬉しそうな顔をしていたし。
分かる。
オタクとして同じ趣味の人間を見つけると嬉しくなるよね。
ピーターは……何だか、不思議な表情をしていた。
嬉しそうな……恥ずかしそうな……なに?
「ピーター、どうかした?付いて行かない方がいい?」
「いや、全然そんな事ないよ。僕もミシェルが一緒に来るのは賛成かな」
じゃあ何で、そんな顔をするんだ?
私は首を傾げた。
◇◆◇
僕の前には、ミシェルとネッドがいた。
映画が見終わった後、僕と彼らは現在、映画館前の喫茶店に来ていた。
僕はコーヒーを。
ネッドはアイスティーを。
ミシェルは……パフェを目の前に置いて。
プリンとメロンとクリームを、もりもりと頬張っていた。
……まるでリスみたいだ。
そういえばリスのスーパーパワーを持った女の子がいるって、スタークさんが言っていた気がする。
すっごい出っ歯で訛った言葉を話す凶暴な女の子らしい。
スタークさんのスーツも噛まれてお釈迦になったとか……。
いや、絶対ミシェルではないな。
「凄く面白かった」
「それは良かった……ネッドは?」
「俺も面白かったよ。特に主人公の病的な悪への怒りと、暗闇の描写。影と恐怖を象徴する黒いスーツの……」
ネッドが語り、それをミシェルはうんうんと頷く。
何だかんだ、僕ら三人……あと、この場にいないグウェンも含めて仲が良いらしい。
……でも。
『私が、悪い人間だから』
『ピーター達と仲良くする資格なんてない』
今朝のことを思い出す。
ミシェル・ジェーン。
彼女は一ヶ月前にクイーンズに引っ越してきた僕と同い年の女の子だ。
表情を作るのが少し下手で、突拍子もない事をする女の子だけど。
頭が良くて、気配りができて、優しくて。
困ってる人がいたら、さりげなく助けに行こうとする。
完璧じゃないけど、それがより可愛いような。
……優しくて可愛い、善い女の子だ。
だからこそ、彼女の言う『悪い人間』と言うのが分からない。
あの時、ミシェルは。
……悲しげで、とても辛そうな表情をしていた。
何かが彼女を苦しめていて、何かが彼女を『悪い人間』だと思わせている。
それを分からない歯痒さと、話してくれない悔しさ、それ以上に彼女を救えない僕の無力さへの怒りが僕の胸を満たした。
僕は……昨日、謎の悪党……黒いスーツに赤いマスクの男に負けてしまった。
スパイダーマンとして、助けられる筈だった人間を助けられなかった。
……僕の目の前で死んでしまった叔父さん、ベン叔父さんの言葉を思い出す。
『大いなる力には大いなる責任が伴う』
これは僕に対しての戒めであり、ヒーローとして活動するための決意でもある。
どんな大きな困難にぶつかっても逃げない。
戦って、戦って。
助けられる人を絶対に見捨てない。
だから。
僕は強くならなきゃ、ならない。
目の前で殺されてしまった人の為にも、そして……僕に話す事も出来ず悩んでいる友人を助けるためにも。
「ピーター?」
ふと、ミシェルが僕を見つめていた。
コバルトブルーの綺麗な瞳だ。
まるで、深い、海のような。
「ネッド、ピーターの様子が変」
「ミシェル、こいつはいつも変だよ」
「そうなの?」
「そうなの」
と、失礼な会話をしている。
「失礼だな、ちょっと考え事をしていただけだよ」
「悩み事?」
ミシェルが不思議そうな顔で聞いてくる。
……君の、事なんだけど。
「悩み事には甘いものが良いよ。食べる?」
そう言って自身が頼んだパフェにスプーンを入れて、生クリームを僕の前に。
「ミ、ミシェル?」
「なに?食べない?甘いの嫌い?」
「いや、甘いのは嫌いじゃないけどさ」
ミシェルは僕の前に……先程まで、自分が使っていたスプーンで僕にクリームを食べさせようとしている。
分かっているのだろうか?
間接キスに……それに女の子から男に対して、食べさせてあげる、なんて。
それをジトッとした目でネッドが見ていた。
そして。
「ミシェルとピーターって付き合ってんの?」
と、爆弾発言をしてきた。
「ちょっ、ネッド!?」
「む?別に私とピーターは付き合ってない」
慌てているのは僕だけで、ミシェルは平常心で答えていた。
……いや、あぁ、そうだ。
グウェンも今朝言っていたじゃないか。
『ピーターさぁ、ミシェルから男として見られてないんだよ?情けなくないの?』
そりゃあ、情けなく感じているに決まっているじゃないか。
だってミシェル……すごく、可愛いし。
好き……かどうかは分からないけど、そりゃあ僕だって男の子だし。
いや、今はそれどころじゃなくて。
「……付き合ってないのに間接キッスみたいな事するの?」
そう、ネッドが言って。
「あ」
ミシェルが僕の目の前でフラフラしていたスプーンを手元に戻した。
「ピーター、ごめん」
そして、申し訳なさそうにミシェルが謝った。
「ちょっ、何で謝るのさ?」
「だって……嫌、じゃない?」
その聞き方は卑怯だ。
さては、揶揄っているのか。
そう邪推してみるが、どうやらミシェルは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
グウェンも言っていたが……彼女は本当に自己評価が低い。
低すぎる。
「そ、そんな事ないけど」
「そう……?」
「ごほん」
ネッドの咳払いが聞こえた。
「「あ、ネッド」」
「何で俺、お前らがイチャついてる所見なきゃならないんだ?」
「ちょっ、イチャついてなんかないよ!」
「イチャついてるだろ!なんだよ、当てつけか!?」
「ネッドもパフェ、食べたいの?」
「あ、いや、そうじゃないけど……え?」
「はい、口を開けて」
そう言ってミシェルがスプーンをネッドに近付けて……。
「いや、ネッド、それはダメだろ!」
「は!?邪魔するなよ、ピーター!この意気地無し!俺は美少女に『あ〜ん❤︎』して貰うのが夢だったんだよ、どけ!」
僕達が喧嘩している様を見て、ミシェルは……笑っていた。
『悪い人間だから』
……絶対、そんな事ないよ。
ミシェル。
だって、そんなに穏やかで……幸せそうに笑っているじゃないか。
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