【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#41 シニスター・シックス part9

僕は首を押さえた。

……先程、レッドキャップに掴まれていた部分に少し違和感がある。

恐らく、痕が付いているかも知れない。

 

目の前で、そのレッドキャップを囲むように、スパイダーマン……ピーターと、赤い鬼のようなマスクを被った男……デアデビルと呼ばれた男が立っている。

 

僕も加勢しようと、震える足で立とうとして…………ピーターが口を開いた。

 

 

「……ハリーはそこで待ってて」

 

「それは僕が……信用できないからか……?」

 

 

枯れた声で、僕は訊く。

……先程、我を忘れて相手を殺そうとしてしまった。

正直、今の僕は信用できないに違いない。

 

すると、ピーターは首を振った。

 

 

「そうじゃなくて……その、守りながら戦える自信がないから、かな」

 

 

そう言われて……僕が足手纏いである事に気付いた。

……昔から、スポーツも勉強も出来た。

強化薬を吸い込んでからは、尚更……誰かの足手纏いになるなんて思っても見なかった。

 

冷静に分析してみると、僕は身体にダメージがあって……息も乱れている。

思考も曖昧だし、目の前の……赤いマスクの男に怯えている。

 

……ピーターは、怖くないのだろうか。

 

僕は目を上げる。

 

……違う。

きっと、彼にだって恐怖心はある。

だけど彼はそれ以上の……力ある者(ヒーロー)としての責任だけで、立ち向かっているんだ。

 

……少し、羨ましく思えて。

そうなれたら良いな、なんて思ってしまった。

 

気付けば僕は……彼に憧れを感じていた。

 

 

 

レッドキャップが足を一歩下げる。

コンクリートの床に、靴が擦れる音がした。

 

その瞬間、ピーターが右腕から(ウェブ)を放った。

半身を逸らして、レッドキャップが回避する。

 

……僕には見えなかった。

あまりにも早い攻防。

終わった後にようやく理解できた程のやり取りに、僕は驚嘆した。

 

そして、レッドキャップの背後からデアデビルが金属の棒で攻撃した。

 

それを左手で受け止めて、そのまま肘で頭部を殴る。

 

 

「ぐっ」

 

 

思わず怯んだデアデビルをカバーするように、ピーターが前に飛び出す。

 

レッドキャップの足元に(ウェブ)を放ち、左足を固定し……回避を封じた。

ピーターが腕を振るい、勢いのまま右側から殴りかかる。

 

……レッドキャップは右腕を負傷している。

防御は出来ない。

 

だが、糸で固定されていない右足を突き上げ、膝で拳を防いだ。

 

 

「痛っ!?」

 

 

ガツン!と鈍い音がして、ピーターが思わず仰け反った。

……あれは防御ではなかった。

ピーターの拳と、アーマーで保護された膝が衝突した結果、ダメージを受けたのはピーターの拳だ。

 

 

……何処となく、ピーターは本調子ではないように思える。

デイリービューグル、オズコープのビルで戦った時に比べて動きが鈍い。

 

そうか。

僕が……彼を殴って蹴って痛めつけたからか。

 

今、こうやって危機的状況に陥っているのは僕のせいだ。

思わず唇を噛んだ。

 

 

『人体で最も強力な武器は何処だと思う?答えは肘と膝だ。その硬さは拳以上の凶器となる……それは、このアーマースーツでも違いはない』

 

 

ノイズの入った機械音声で、レッドキャップが語る。

それに対して、デアデビルがゆっくり立ち上がり、口を開いた。

 

 

「やはり今日は……酷く饒舌だな。時間をかけたい理由でもあるのか?」

 

『いいや、寧ろ早く立ち去りたいぐらいだ。このまま見逃してくれれば……攻撃もしない。どうだ?』

 

 

レッドキャップが自身の右腕を一瞥した。

……アーマーがひしゃげて、所々血が見える。

傷口に砕けた装甲が刺さっているに違いない。

 

 

デアデビルが口を開いた。

 

 

「どうかな……僕が犯罪者とやり取りをするのは──

 

 

足元にある金属の棒を拾い上げる。

 

 

「留置所でだけだって、決めてるんだ」

 

『……そうか。それは非常に面倒だな』

 

 

ピーターも痛みから復帰して、ゆっくりと立ち上がった。

……拳からは血が出ていた。

 

 

そして、三人がまた、ぶつかるかと思った瞬間。

 

 

 

地面に大きな揺れが走った。

 

 

 

地面が傾き、砕けたコンクリートの破片が滑り落ちる。

 

そして、僕の足に大きな破片がぶつかった。

 

 

「うぐっ!?」

 

「ハリー!?」

 

 

廃ビルの下層が崩れたようで、傾く。

 

ジェイムソンが椅子ごと、ゆっくりと滑っていく。

 

その先に、壁はない。

このビルは目算でも10メートル以上あった。

そこから落ちれば……死は免れないだろう。

 

僕も慌てて踏ん張ろうとして、足を滑らせる。

先程の負傷で足に力が入らない。

 

僕も傾斜に流されて、ゆっくりと落下していく。

 

 

まずい。

死の恐怖が頭に過ぎる。

 

 

デアデビルが壁に掴まり、何とか耐えている。

レッドキャップも左手を床に突き刺して固定している。

 

唯一動けるのは、ピーターだけだった。

ピーター、スパイダーマンは壁を登れる程の特殊能力を持っている。

垂直のビルを登れるんだ。

これぐらいの傾斜は問題ない。

 

 

僕と、気絶したジェイムソンが傾斜を滑る。

 

互いに離れた位置で滑り始めて……助けるのは、僕か、ジェイムソンか。

どちらか、だ。

 

ピーターが僕とジェイムソンを交互に、一度ずつ見た。

迷いがあるように見えた。

 

 

「たっ──

 

 

僕は「助けてくれ」と言いそうになって……留まった。

 

この状況は誰が作った?

誰のせいだ?

 

ミステリオか……?

違う、ミステリオだけじゃない。

騙されたとは言え、僕も加担していた。

 

ジェイムソンを巻き込んだのは僕だ。

だから……。

 

 

「僕のことは良いから、ジェイムソンを……!」

 

 

これが……僕が出来る唯一の償いだ。

言葉を聞いたピーターが背後のコンクリートの柱に(ウェブ)を放って、バンジーのように飛び出した。

ジェイムソンを掴んで──

 

 

「ハリー!」

 

 

僕を助けようと、(ウェブ)を放つ。

だけど、それは僕の頭上を通り過ぎて……僕は転がり落ちていく。

 

数度、頭をぶつけて意識を失いそうになる。

それでも何とか気を強く保っていた。

 

 

『……チッ!』

 

 

直後、舌打ちが聞こえた。

 

僕は宙に飛び出して……そのまま首裏を誰かに掴まれた。

 

その誰かは……レッドキャップだった。

 

 

「な……」

 

『喋るな、舌を噛む』

 

 

短くそう言って、右腕からワイヤーを射出した。

ワイヤーの先端は三つ爪のクローになっていて、コンクリートの壁に突き刺さる。

 

キリキリとワイヤーが伸びる音が聞こえて、落下速度を緩和していく。

 

 

『ぐっ……つぅ……!』

 

 

痛みに悶える声に気づいて、その右腕を見れば。

ワイヤーが、負傷している右腕を絡め取っている。

 

左手で僕を掴み。

右手は落下を抑える為に……。

 

負傷して割れたアーマーでズタズタになっているのに。

それを更に傷付けてまで。

 

……どうして、そこまでして僕を助けるのか、分からなかった。

 

 

落下速度が収まった頃、ワイヤーがブツリと切れた。

 

 

僕とレッドキャップが地面に転がり落ちる。

落下速度は抑えられたとは言え、高さ数メートルからの落下だ。

落下の衝撃から、堪らず僕は肺から空気を全て吐き出した。

 

 

「はっ……はぁっ……!」

 

 

でも、死んではいない。

全身が痛くても、息が苦しくても。

僕は死んでない。

 

痛みと恐怖と……安堵。

涙で、視界が滲んだ。

 

 

滲んだ視界の中で、レッドキャップがゆっくりと立ち上がった。

……そのまま、立ち去ろうとしている。

 

思わず僕は、声をかけた。

 

 

「……待、て」

 

『……助けてやっただろう?今はもう黙って寝ていろ』

 

「なん、で……?」

 

 

息も言葉も途切れながら、必死に言葉を繋ぐ。

 

……それは疑問だ。

どうして、僕を助けたのか?

それがサッパリ分からなかったからだ。

 

僕みたいな人間を……助ける理由なんてないはずだ。

 

 

そう考えていると、レッドキャップが口を開いた。

 

 

『何も……死ぬ事はないと、思っただけだ』

 

 

そう言ってレッドキャップは振り返り……頭上を見上げた。

 

 

『……ジェシカ・ジョーンズか』

 

 

釣られて僕も視線を上げると……誰かが空を飛んで、廃ビルの中にいる人間を救出している姿があった。

 

視線を戻して、彼は僕から離れていく。

そして、何かを探すそぶりで辺りを見渡している。

 

何を考えているのかも分からない。

だけど……彼は……それほど悪い人間ではないのかも知れないと、僕は思った。

 

レッドキャップが瓦礫を押し退けて、誰かを担いだ。

……あぁ、あれは『ショッカー』だ。

彼はレッドキャップと……少し親しそうにしていた。

 

 

『……この、馬鹿が』

 

 

レッドキャップは呆れたように呟いていた。

 

視界が……薄暗くなっていく。

瞼が重い。

 

 

「あり……がとう……」

 

 

薄れる意識の中で、感謝の言葉を投げかける。

 

 

……それに対して、レッドキャップは呆れたような声を出した。

 

 

『……はぁ。やはりお前は──

 

「悪人にはなれないな、ハリー・オズボーン」

 

 

……それは、此処では絶対に聞こえる筈のない……想い人の声だったけれど。

僕はきっと幻聴だと思って。

 

そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「ハリー!?ハリー!」

 

 

僕は地面に倒れているハリーに近付いて、心音を確かめる。

 

……大丈夫だ、息はある。

 

 

そうしていると、背後に誰かが着地した音が聞こえた。

振り返ると……ジェシカが居た。

 

 

「あ、ジェシカ……無事だったんだ」

 

「ん?うん……まぁね。ちょっと、足腰痛むけど……まぁ、無事よ。無事」

 

 

ボロボロに破れたジャケットを投げ捨てて、シャツの姿になっていた。

 

 

「さーっきまで、他のメンツの救出に忙しかったから……もう、気失ってた重傷人を働かせ過ぎ。ビルぶっ壊した犯人が分かったら半殺しにしてやる」

 

 

そう言ってポキポキと拳を鳴らすジェシカに、僕は一歩引いた。

 

 

「それで?そいつがニューゴブリンでしょ?どうすんの?」

 

「ハリーは……もう、ゴブリンにはならないと思います」

 

「……どういうこと?」

 

 

僕はジェシカに……彼がどうしてこうなったのか、今はどうなのか……話をした。

 

 

「あぁ、薬でキレやすくなるヤツね。よくある話だわ」

 

「え、よくあるんですか?」

 

「よくある」

 

 

そう言ってジェシカが頷いた。

 

 

「この後……多分、『S.H.I.E.L.D.』が来るけど、それ経由でアベンジャーズに頼んでおくよ。彼の処遇は」

 

「アベンジャーズに?」

 

 

僕がそう聞くと、ジェシカが頷いた。

 

 

「そ。アベンジャーズに居るんだよ。彼と同じ、キレやすくて……緑色の奴がね」

 

 

へっ、と笑ったような声を出すジェシカに、僕は安堵した。

ハリーは……きっと、もう悪人にはならないだろう。

そして、それを助けてくれる人もいる。

 

なら、大丈夫だ。

 

 

そう思っていると、風を切るような音がして、ヘリが近づいて来る事に気づいた。

側面には猛禽類のマーク。

 

あれは……『S.H.I.E.L.D.』だ。

 

 

「……おっと。噂をしたら、もう来たね。……君はもう帰って良いけど。その若さで夜出歩いてたら補導されちゃうからね」

 

「あ、そう……ですね」

 

 

でも、後始末を全部任せて良いのかと、僕は悩んだ。

 

 

「捕縛したライノは逮捕で良いけど……後は死んでるミステリオと……残りは逃げちゃったしね。まぁ、何とか言い訳はするから、帰りな」

 

「で、でも」

 

「貸し一つ。今度、何かあったらアンタ呼ぶから……それで良いよ」

 

 

ジェシカが笑った。

 

 

「……ほら、早く帰らないと見つかるから」

 

「あ、ありがとうございました!他の人達にも言っといて下さい!」

 

 

そう言って、僕は彼女と別れて帰路に就いた。

 

長い、長い戦いだった。

……僕一人では解決できなかっただろう。

 

僕はみんなに感謝した。

 

 

……あ、でもやっぱりパニッシャーには感謝したくないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

パジャマを脱いで、シャワーを浴びて。

外出用の服に着替えて、髪をセットして。

 

欠伸をしながら、自分の部屋を出た。

 

朝の登校時間だから起きたけど。

昨日は夜遅くまで戦っていたから、少ししか眠れなかった。

今日ぐらいは学校を休んでも良いかな、なんて思ったけど。

あまり休みすぎると進級できなくなるからね。

 

 

少しして、隣室のドアが開く。

 

 

……いつも以上に眠そうな、ミシェルの姿があった。

 

 

「おはよう、ミシェル」

 

 

そう言うと……彼女はいつものように右腕を上げようとして……左手をあげた。

 

 

「ん……おはよ、ピーター」

 

 

欠伸をする。

 

……右腕の様子をチラと見るけど、怪我はないように見える。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

そう不思議がるミシェルに、何でもないと言いつつ二人でアパートを出た。

 

空は明るい。

 

いつも通りの平和な朝だ。

 

……ミシェルは忌々しげに太陽を睨んでいたけど。

 

だから僕はミシェルに声を掛けた。

 

 

「……何だか、今日も眠そうだね?」

 

「ん……ゴミの……掃除……してた」

 

「ミシェルって掃除好きなの?」

 

 

いつもいつも、掃除をしてるって言っている気がする。

それに、そんなに遅くまで掃除しなくても良いのに。

 

 

「昨日はデッカい蜘蛛まで出てきて大変だった……」

 

「……あぁ、あのアパートボロいからね」

 

 

僕は苦笑いした。

確かにあのアパートは汚い。

蜘蛛とか虫も結構出てくる。

 

……そんな所に女の子が住んでいるなんて……そりゃあ、掃除もしたくなるか。

そう納得した。

 

 

「腕も捻っちゃって大変だった」

 

「……え?それって大丈夫なの?」

 

 

心配して聞くと、ミシェルが右手を震わせながら開いて、閉じた。

 

 

「大丈夫」

 

「なら、良いけど……」

 

 

今日も二人でサンドイッチを買って、学校へ向かう。

 

……デイリービューグルの前を通る。

ビルはまだ工事中だ。

青いブルーシートみたいな布でビル全体が巻かれている。

 

朝からジェイムソンの怒鳴り声が聞こえなくて……それはそれで張り合いがない気もする。

 

ジェイムソンはちゃんと病院に搬送されたらしいけど。

 

……彼を心配するなんて、ちょっとやっぱ眠くて頭が回ってないみたいだ。

 

 

「……ピーター、ちょっと寄っても良い?」

 

 

ミシェルが指差した先は小さな売店だった。

 

 

「うん、良いよ」

 

 

二人で売店に寄って……新聞が立て掛けられているのを見た。

 

……デイリービューグルの新聞だ。

表にデカく僕の……というかスパイダーマンの写真が貼ってある。

 

 

『訂正記事:前日報道した内容について』

 

 

そう大きく見出しに書いてあって……僕がノーマン・オズボーンを殺したと報道したのは過ちだった、と書いてある。

 

……はは、ジェイムソンめ。

あんな事があった翌日に新聞を書くなんて……本当に呆れたジャーナリストだ。

 

 

そう思っていると、ミシェルがその新聞を一部、手に取った。

 

そうして、そのままレジへ向かおうとする。

 

 

「……ミシェルって、デイリービューグルを購読してるの?」

 

「ん?そう言う訳じゃないけど」

 

 

寝惚けている店員さんにお金を渡して、新聞を持って外に出る。

 

……他に買った物は無いみたいだし、本当に新聞を買いにきただけみたいだ。

 

 

「じゃあ、何で今回はデイリービューグルを買ったの?」

 

「だって、私──

 

 

ミシェルが微笑んで……口元を新聞で隠した。

 

 

「スパイダーマンのファン、だから」

 

 

僕はその仕草にドキドキして……赤くなった顔がバレないよう、顔を逸らした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「う、うぉっ!?」

 

 

目が覚めると、俺は知らない天井の下に居た。

 

待て。

待て待て待て?

 

何があった?

……思い返す。

 

俺は……?

ハーマンだ。

ハーマン・シュルツ、24歳。

イケメン、天才、ちょい悪のナイスガイだ。

いや、ちょっとじゃねぇか。

 

まぁ、よし。

覚えてる。

 

じゃあ、何があったか。

 

シニスター・シックスとかいうアホコスプレ集団と一緒にスパイダーマンを襲って……変なマスクの奴にボコられて……銃で撃たれて……ビルをぶっ壊した。

 

よーし、よし。

覚えてるぞ。

 

頭に異常はねぇな、間違いない。

 

 

……じゃあ、ここは?

 

 

天井も壁も薄いグリーン。

俺はベッドの上。

目の前には鏡。

 

……包帯でぐるぐる巻きになってる俺が映っている。

 

 

病院か?

 

誰が運んだんだ?

 

 

……取り敢えず、ナースコール押すか。

 

 

 

 

 

 

 

呼び出した看護師に聞けば、ここはマンハッタン内にある病院のようで。

病院前に置き去りにされていたのを緊急搬送されたそうだ。

 

……ちなみにそん時、俺のプロテクターや手甲(ガントレット)は外されていて、下着姿だったらしい。

 

……間違いなく、レッドキャップの仕業だ。

わざわざ、ショッカーだとバレないように脱がせたのだろう。

 

だが、なんつーか、一回りも年下の女に脱がせられたって考えると……クソ恥ずかしい。

 

……つか、ちゃんと手甲(ガントレット)とスーツは返してくれるんだろうか?

 

 

一抹の不安を抱きながらも、俺は辺りを見渡した。

 

ふと、ベッドの横に名義が書いてある。

が、それは俺の名前じゃなかった。

 

 

『ジャクソン・ブライス』……?

誰だ、これ?

 

 

「なぁ……これって、何だ?」

 

 

そう聞いてみると……どうやら俺が身元不明で助けられた後、俺の親戚を名乗る奴が出てきて……身分を証明して行ったらしい。

 

……机の上に、確かに身分証がある。

 

俺の顔で、『ジャクソン・ブライス』って書かれてるな。

気色わりー。

 

組織の奴か?

……いや、つっても俺はフィスクの組織に正式に所属してる訳じゃねぇし……貢献もあんまり出来てねぇし。

 

ここまでしてくれる奴なんて……。

 

 

「……看護師の姉ちゃん、俺の親戚ってどんな奴だった?」

 

 

 

……目が冴える程の綺麗な金髪で。

青い目をしていて。

俺より10歳ぐらい歳下の、姪を名乗る女の子。

 

 

「へっ」

 

 

思わず笑っちまうような話で、俺は失笑してしまった。

 

誰が叔父だよ、誰が。

そんな物騒な女の叔父なんてよ。

 

……まぁ、別に嫌って訳じゃないが。

 

 

ふと、花瓶が目に入った。

そこには一本の花が刺さってる。

 

綺麗なオレンジ色の花だ。

花の名前なんて知らないが、綺麗に咲いていた。

 

聞けば、その姪っ子が挿してったらしい。

一本だけ持って、この病院を訪ねに来たらしい。

 

 

「……はぁ、見舞いするぐらいだったら、フルーツぐらい置いてきゃ良いのによ」

 

 

花より美味い果物だろ。

 

なんて、俺は悪態を吐きながらも……その花を枯らさないように……毎日水を換えてくれって、看護師に頼んだ。

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