【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
青い空!
照り付ける太陽!
白い砂浜!
そして思ったよりも多い人ごみ。
……僕は折りたたみのパラソルとクーラーボックスを持って、砂浜に突っ立っていた。
ネッドも同じく。
細やかな白い砂は足触りが良いけど……光を反射して、上の太陽と合わせて上下から僕の体を照り付ける。
……日焼け止めを塗って来たけど正直心配だ。
帰る頃には肌が真っ赤になってるかも知れない。
僕達は今、マイアミビーチに来ている。
夏期旅行二日目……ほぼ丸一日自由時間だから、今日はクラスのみんなも遠出したり遊びに出掛けている。
トランクス型の海パン一丁である僕らは、そこでグウェンとミシェルを待っていた。
……ネッドが口を開いた。
「な、なぁ、ピーター?」
「……何?」
暑過ぎて気怠くなっている僕は、雑に返事をする。
「もう先にパラソル立てねぇか?暑過ぎだし、直射日光キツいし……女子組おせーし」
「あ……うん、得策かも」
僕達は更衣室の前で待ってるんだけど……思った以上に二人の用意が遅い。
……女子の着替えは時間がかかるって聞いてたけど、この直射日光の下では耐えられそうにない。
ネッドに更衣室の前で待って貰いつつ、僕は良い感じの場所を探す。
……あんまり人が多くなくて、遠過ぎない場所。
更衣室から少し歩いて、妥協できる位置に来た僕はパラソルを立てた。
地面にもシートを敷いて、プラスチック製の杭を立てる。
クーラーボックスを置けば……風にも負けない、拠点の出来上がりだ。
……ちょっとクーラーボックスをズラす。
杭を強めに押し込む。
パラソルを傾ける。
凝り性を誰に見せる訳でもなく発揮していると──
「お、もう組み終わってるじゃん。ありがと〜」
と言うグウェンの声が背後から聞こえた。
振り返ると。
水着を着たグウェンの姿があった。
黒い、臍の上から首の上まで覆う、露出度の低い水着。
と思えば、下はビキニみたいなタイプ。
少し珍しいタイプだけど……まぁ、似合ってた。
自信満々に着こなす彼女に、僕は一瞬目を奪われた。
「む?私のセクシーさに悩殺された?……まぁ、ナードはお断りだけど」
「はは……」
でも、何というか……こう、派手なのを好む彼女からしたら控え目な感じがするけど。
ネッドが後ろからため息を吐いて、荷物をシートの上に置いた。
僕らや彼女達の着替えは更衣室のロッカーにある。
ここに持ってきてるのは飲み物とか、軽食、あとビーチボールぐらいだ。
……あれ?
ミシェルは……?
と思って見渡すと……グウェンの後ろに隠れるようにして居た。
グウェンは身長が高くて、ミシェルは小さいから、隠れやすいのかも知れない。
「ほら、ミシェル」
グウェンが振り返ってミシェルの背中を押す。
あぁ、そう言えば。
水着が恥ずかしいとか……図書館で言っていたな。
ミシェルが押されて僕の前に出てくる。
……グウェンが露出度の低い水着を着ていると思ったけど、ミシェルはそれ以上だった。
上は半袖の、ファスナーが前面についた白いラッシュガード。
下はスカートのようなフリルのついた薄い水色の水着だ。
…………よし、耐えた。
大丈夫。
取り乱してはいない。
思ってたより露出が低くて、何とか、本当に何とか耐えた。
……スカート状の水着から伸びる素足に視線が向かないよう、全力で逸らしつつ、僕は口を開いた。
「ミ、ミシェルも水着似合ってるね」
……若干上擦った声で、僕は言う。
全然耐えられてない。
グウェンが半笑いで僕を見ている。
スタークさんが言っていた。
「女性が普段と違う格好をしていたら絶対に褒めろ」と。
そう……高さ100メートルを越すビルから飛び降りるよりも勇気を持って、僕は言葉を口にしたのに。
一瞬の、緊張。
その後、ミシェルが少し笑って、頷いた。
「ありがとう、これグウェンに選んでもらった」
グウェンが鼻を高そうにして、自慢げに腕を組んでいた。
◇◆◇
ネッドが必死にビーチボールを膨らませている。
空気入れが古いのか若干壊れていて、手応えもなくシュコシュコと音を立てている。
グウェンがそれを見て爆笑しつつ、クーラボックスに入ってる飲み物を飲んでいる。
……酷い光景だ。
搾取する人間と、搾取される労働者の姿だ。
現代の縮図だ。
誰かが荷物番をしなければならないという話になって、最初はネッドが一人で立候補していた。
だけど、一人は可愛そうだとか言ってグウェンもネッドの横に居座った。
結局、二人組で交互に遊ぶ事となり、僕とミシェルは水辺まで来ていた。
「……ぬるい」
海水を足で突いて感触を確かめるミシェルに、僕は微笑ましくて笑ってしまった。
太陽光に当たって、海水の温度が上がって温くなっているんだ。
「ミシェルは海、初めて?」
因みに僕は初めてではない。
……いや、凄く嫌〜な理由なんだけど、海外へ人身売買を狙うチャイナタウンのマフィア達と、スパイダーマンとして定期的に戦っているからだ。
何度か海に落っことされて、海水を飲んだ経験がある。
スーツに海水が染み込むと、洗濯しても磯臭さが抜けなくて……結局新調しなくちゃならなくなるから海では戦いたくない。
それに、海と言ってもマイアミビーチみたいな綺麗な海じゃない。
工業廃水も流れ出てる汚くて濁った海だ。
僕が臭いを思い出しかけて必死に忘れようとしている中、ミシェルが口を開いた。
「私……海に入るの、初めてじゃないけど。ここでは初めてかな」
……少し、分かり辛い不思議な表現をするミシェルに内心、首を傾げつつも頷いた。
多分、ここ……この国ではって事かな。
ミシェルは元々、別の国の人だったらしいし。
何でも、ラトベリアって言うヨーロッパの方で生まれたとか言っていた。
「何度も見た事はあるんだけど……あんまり、ね」
そう言ったミシェルの顔には、海にあまり良い思い出がないような顔だった。
だから。
「じゃあ、いっぱい楽しまないとね」
その良くない思い出を、良い思い出で上書きできたら良いなぁ……って漠然と思った。
僕の言葉に少し、ミシェルは驚いたような顔をした。
僕がここまで踏み込んだ話をするなんて、思わなかったのだろう。
そして、嬉しそうに笑った。
「うん、ピーターとなら楽しい思い出も作れそう」
……だからと言って、僕の心を掻き乱そうとするのは辞めて欲しいけど。
一々、発言が男心をくすぐる様な……本当に心臓に悪い。
ミシェルが海に足を踏み入れて、手で海水を撫でた。
一々、所作が綺麗だ。
無駄がないと言うか……遊びがないと言うのか。
まるで全ての動作が、洗練されたテーブルマナーのようだ。
何かバレエとか新体操のような、身体を動かすスポーツをしていたのだろうか?
分からない。
……僕はまだ、ミシェルの事を全然知らないのかも知れない。
表面上の彼女だけを見て惚れているのだから、僕は浅はかな人間だ。
だけど、彼女が見せてくれる内面は優しくて、思いやりに溢れた一面だけだから。
きっと、どこまでも。
彼女の瞳のように、透き通ったコバルトブルーの海のように。
綺麗な存在なんだって、僕は思っていた。
いつか、彼女が僕に自分の事を詳しく話してくれるように……立派な人間になりたいと思った。
強いだけじゃなくて、賢いだけじゃなくて、優しくて、誰からも尊敬されるような、そんなピーター・パーカーに。
「……ピーター?」
「あ、え?何?」
遠い目をしていた僕は、慌てて近くに目を向けた。
ミシェルが僕の顔を見てる。
「ぼーっとしてた」
「う、ごめん」
「ううん、咎めてる訳じゃなくて……何を考えてたのかなって」
……言える訳がないけど。
「綺麗だなって」
君が──
「うん。海、凄く透き通ってて、綺麗」
あ、うん。
察する筈もなく。
「ところで、ピーター。その腕につけてるの、いつもの時計?」
ミシェルが訊いてくる。
「あ、うん。これ防水だから」
指差されたのはスタークさんから貰った腕時計……そして、ナノテクスーツだ。
この旅行中にスーツを着るつもりはないけどね。
備えあれば憂いなしって言うし。
まぁだけど、今日は休暇だ。
少なくとも、夏期旅行中は絶対に着たくない。
一人の学生として、夏を楽しみたいんだ。
少し、砂浜から離れて腰まで海に浸かる深さに来た。
これ以上は深い場所に行くつもりはないけど。
でも、この辺りになると人も少なくなってきて、僕とミシェルの二人、遠く離れた場所に来たような錯覚を覚えた。
砂浜の方を見ると……遠くで、ネッドとグウェンが協力して浮き輪を膨らませていた。
あ、ネッドが余所見してる。
視線の先には……綺麗な女性だ。
それに気付いたグウェンがネッドを蹴り飛ばして……ネッドは砂浜に転がった。
僕はそれを若干呆れて見ていた。
グウェン、一ヶ月も入院してたとは思えないほど元気だ。
すると、ミシェルの声が背後から聞こえた。
「……そう言えば、ピーター。見て欲しいものがある、けど」
そう、言われて僕は振り返りつつ、口を開いた。
「へぇ、何かな?」
僕が振り返ると……ミシェルが自分の着ているラッシュガードのファスナー、そのスライダーに手を掛けていた。
そして──
ジジ、ジ、ジジジ──
と。
「え?」
ファスナーを下げ始めた。
一瞬、息が止まった。
思考も、止まった。
な、なにをやってるんだ?
そのままファスナーを下げ切って、ラッシュガードの面を開いて──
「わ、ちょっと!ミシェル、そんな!」
僕は慌てて視線を全力で逸らした。
「……どうしたの?ピーター」
不思議そうな声に視線を戻すと……そこには、ラッシュガードの隙間から、ビキニのトップスが見えた。
……そ、りゃそうだ。
水着に決まってるじゃないか、全く!
白い肌に、下のスカート上の水着と同じ色をしたトップスだ。
分かってる。
分かってるんだ、それが水着だって事は。
だけど、シャツの様なラッシュガードの下から見えるって言うのが、凄く背徳感を煽っていて。
バシャリ。
僕は海水を両手ですくって、自分の顔にぶつけた。
「ほ、本当にどうしたの、ピーター?」
うぅ、海水が髪の毛に張り付いてベタつく。
口元が若干しょっぱい。
それでも、少しは冷静になれてミシェルを直視する事が出来た。
「いや、ちょっと目に砂が入ってね」
「す、すな?」
困惑するミシェルをよそに、逆に質問をする。
「水着、凄く似合ってるけど……どうして見せてくれたの?」
だって、凄く恥ずかしいって言ってたじゃないか。
人に見せたくないから上にもう一枚着ていたんだって、安易に想像できる。
「だって、ピーターに見せたかったから」
うぐっ。
手で太腿を抓る。
よし、まだ僕は正気だ。
しかし、今の発言もそうだけど……その、聞いた人に勘違いされてしまうと思う。
僕はミシェルがどんな人か分かってるから、勘違いせずに済むけどね。
グウェンじゃないけど、僕もミシェルにお小言を言いたくなってしまう。
いつか、誰かに傷付けられないように。
「そっか、嬉しいよ。でも、あんまりそう言う事を色んな人に言うと──
「言わない」
ミシェルに遮られる。
「私が言うのは、ピーターだけ」
その瞬間、時が止まったような気がした。
「え?」
「だって──
次の言葉を一つも聞き逃さないよう、意識を集中する。
「ピーター、紳士だから。何があっても私に、手を出さないと思うし」
……今、この気持ちを表すとしたら。
年末、宝くじを買って一等を見ている時に。
途中まで番号が合ってて、それこそ億万長者!?ってなってる時に。
最後に確認して見たら、実は全然違くて惜しかった、みたいな。
そんな。
「ははは」
最悪な気分だ。
勝手に盛り上がって、勝手に盛り下がってるんだから、誰が悪いって僕が悪いんだけどさ。
ミシェルは多分、僕の心臓をドキドキさせて破壊しようとしてる暗殺者だ。
間違いなく。
急転直下でテンションが下がった僕は、それでも彼女に悟られないよう楽しそうに笑う。
その瞬間。
遠くで、悲鳴が聞こえた。
聞こえた方を見ると……。
……巨大な水の怪物だ。
「……うげ」
水がまるで人型になったような姿で、数メートルの大きさになっている。
陸地の近くで巨大化して、人を一人、掴んでいる。
見覚えがある。
名前は……『ハイドロマン』。
液体になったり、液体を取り込んで巨大化したり。
そんなスーパー能力を持った悪い奴だ。
出会った時は女性を誘拐しようとしてた。
一回だけ、戦った事がある。
その時よりも遥かに大きいサイズに、僕は彼が海水を取り込んだんだって瞬時に分かった。
「……ピーター、あれ」
「ミシェル、避難しよう」
僕はミシェルの手を引いて、グウェンやネッドの方へ向かう。
「あ、おい、ピーター!」
「ごめん!離れてた!逃げないと!」
グウェンや、ネッドと一緒に避難する。
……そうだ。
僕は今日、休暇なんだから。
スパイダーマンも休暇だ。
そんな、人助けなんて……あぁ、もう!
「ごめん、ちょっと忘れ物したから!ネッドとグウェンはミシェルをよろしく!」
「ちょっと、ピーター!?」
グウェンの声が聞こえる。
ネッドの声もだ。
僕は振り返らず、逃げる人混みに逆らって、走る。
ヒーローに休暇なんて無い。
泣きそうになりながらも、それでも助けを呼ぶ声があれば。
僕は──
水着のズボンに隠しておいた小型化されたウェブシューターを腕につける。
木でできた建造物の後ろに隠れて……右手の時計を開いた。
そのままナノマシンを起動して、スーツを装着する。
僕は、スパイダーマンだ。
僕はウェブシューターから
海水で出来た巨人、ハイドロマンの直ぐ側に着地する。
……粒の細かい砂浜のせいで足元が滑る。
その辺、考慮して戦わないと攻撃を食らうかもしれない。
『オ、オ、オオ!』
唸る様な大きな声を出して、ハイドロマンが僕を威嚇する。
「そんなに海水を取り込んで……君、塩で高血圧になっちゃうよ!」
僕は新型ウェブシューターの機能を切り替える。
1番の
そして、中指でスイッチを押して起動する。
……まぁ、『ショッカー』のパクリ……じゃなくて参考にした武器だ。
原理は細かく言うと全然違うけど、数ギガヘルツの振動を発射する。
電力は腕時計、スタークさんのナノマシンスーツから流用している。
不可視の
ハイドロマンは身体の一部を削がれた訳で、バランスが崩れる。
『グ、オ、オ!』
僕はウェブシューターを1番の
両手で抱えて、そのままキャッチだ。
「あ、ありがとう、スパイダーマン」
「どういたしまして!でも、お礼より先に逃げて欲しいかも」
その人を地面に下ろすと、こちらを振り返りつつ逃げ出した。
これで人質の心配もない。
『オオ、オ!俺の邪魔ォするな!』
取り込んでいた海水が減って、ハイドロマンのサイズが少し小さくなった。
だからと言って、全く安心は出来ない。
何故なら、ここは海の上。
水だけなら幾らでも回収できて、復活できるからだ。
即座に、ハイドロマンを中心に海面が渦巻いて元の大きさに戻る。
「さぁて、どうしようかな……」
ナノマシンのスーツの電力を大量に食うからだ。
スーツ自体の蓄電量は結構あるけど……そう、無駄打ちになるなら撃ってられない。
あれ?
もしかして、結構ピンチ?
そう思っていると──
「よぉ、スパイディ!お困りかい?」
後ろから陽気な声が聞こえた。
振り返ると──
「え、うわぁ……」
「『うわ』って何?『うわ』?って。え?何?なんで?それ親愛なる俺ちゃんに対しての態度?酷くない?ハラスメント?」
それは血よりも赤い……下品なほど赤い服を着たタイツ男だ。
赤と黒のコスチュームに、真っ黒なパンダみたいな顔。
腰や太腿には茶色い革製のポーチ。
背中には二本の刀。
脇には二つのハンドガン。
僕の最も会いたくない奴、ナンバーワン。
「スパイディのために、俺ちゃんが助けに来てやったのに!……まぁ、別件だったけど。もっと感謝してくれて良いんじゃない?いっそ、感謝の証としてファンサも求めちゃう!」
「絶対、絶対、嫌だ……」
そいつの名前は『デッドプール』。
頭のおかしい、下品で、失礼で、暴力的で、信用できない、若干悪人に足を踏み込んでいる、屑。
自称スパイダーマンの友人。
そして、金で動く傭兵だ。
『オ、オ、オ!』
「なぁ、スパイディ。アイツ、「オ」しか言わないけど何で?「あ」から「え」の母音に親を殺されたか?それとも、馬鹿なの?」
「ば、馬鹿なのは否定しないけど……水を取り込み過ぎると自我が弱くなって知能も下がるんだよ」
「へぇ……それって、エンサイクロペディアにも書いてある?」
『ウォオオオオオ!!』
怒声と共に海水で巨大化した腕が僕とデッドプールの間に落ちてきた。
砂が吹っ飛んで、拳の先にはクレーターが出来ていた。
「うわっ!世間話をしてる暇なんてないよ!」
「まぁ、そう言うなよ。スパイディ。これ結構重要な事なんだけど」
「何が!?」
僕はハイドロマンの攻撃を避ける。
デッドプールも避けてる。
よくこんな状況で無駄口が減らないもんだと、僕は逆に感心した。
「そのスーツってイメチェン?前のと違くない?」
「それ、今話す事じゃないよ!」
僕はウェブシューターから衝撃波を放ち、ハイドロマンの腕を吹き飛ばした。
「すっげー!よし。衝撃波に弱いなら、俺ちゃんに良い案があるけど」
「じゃあそれ、すぐやってくれないかな!」
「OK!親愛なる隣人に、愛と火薬を込めて」
デッドプールが、ポーチから丸い、緑色の何かを取り出した。
そして、そのピンに指を掛けて──
「ちょっ、お前!何してるんだ!?」
普段は絶対、『お前』なんて言わないけど、コイツだけは別だ。
デッドプールがピンの抜けた緑色のボールを、幾つか投げた。
あれは──
「爆発オチは映画の基本」
手榴弾だ。
僕も含めて、その場にいた全員が吹き飛ばされた。
海藻が僕の頭に張り付いた。
……やっぱり、僕はコイツの事が嫌いだ。