【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#58 バースデイ・ソング part5

そして、誕生日会当日。

 

僕は眠気目を擦りながら、ポストを開ける。

 

……あれ?

何か大きな荷物がある。

 

僕はそれを手に取り、自室に戻った。

白い箱には送り主の名前が書いてない。

 

横を見ると……『スターク・インダストリー』のロゴだ。

 

……スタークさん?

 

僕は箱を開けると……中にはプレゼント用に梱包された箱と、手紙があった。

 

折り畳まれた手紙を開くと……それはスタークさんの直筆だった。

 

 

『誕生日おめでとう!ピーター・パーカー』

 

 

その言葉が端的に書かれていて……あぁ、これはスタークさんからの誕生日プレゼントなのだと僕は感動した。

 

ラッピングを剥くと……スターク社が提供している最新のスマホが描かれた箱が入っていた。

 

 

「わぁ……流石スタークさん!」

 

 

僕の今欲しいものをピンポイントで贈ってくるスタークさんに驚きつつも、感謝しつつ、箱を開ける。

 

 

……中に入ってたのはスマホじゃなかった。

沢山の電子部品……つまり。

部品の刺さってない電子基盤や、袋詰めされた部品。

 

 

つまり、組み立てられていないスマホだ。

 

 

「……は?え……?」

 

 

僕が困惑しつつ……箱の中に手紙がある事に気付いた。

 

慌てて手に取り、開く。

 

 

『これは僕からの宿題。楽しんで。byスターク』

 

 

そして、組み立てのマニュアル。

電子工作キット。

 

……いや、いやいや。

どこにスマホを自作する学生がいるんだ。

 

僕はスタークさんに呆れながら……机の上に並べた。

 

まだ、朝は早い。

 

誕生日パーティには時間の余裕もある。

 

僕は指をポキポキと鳴らして、椅子に座った。

 

 

……はぁ、将来は携帯会社でも起業しようかな。

『パーカー・インダストリー』……みたいな。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

俺、エディ・ブロックは自宅の郵便ポストを開けた。

 

……今時、郵便物なんて使うのは物好きか、テクノロジーに弱い情弱ぐらいだ。

 

いつもは何も入っていないが、今日は例外だ。

一枚だけ入っていた封筒を取り出し、ペーパーナイフで開ける。

 

中に入っていたのは……ライカーズ刑務所からの便りだ。

 

内容は……小難しい言葉で書かれているが、要約すると『クレタス・キャサディへの死刑執行を、本日8月10日に行う』と言う話だ。

 

 

「こんなの送ってきやがって、俺が殺したとでも言いたいのか?」

 

 

クレタス・キャサディへの質問の結果、得られた情報は全て警察に回した。

勿論、独占取材と称して新聞社にも売った。

それはもう、大きな金になった。

 

結果的に、語られた内容は正しく、幾つもの未解決事件が解決した。

クレタス・キャサディと司法取引をする必要もなくなったため、そのまま死刑と言う話になった。

 

国としてはもっと早くから死刑にしたかったんだろうな。

用済みとなってからは迅速に予定が進んだようだ。

 

だが、まぁ。

奴の死刑が執行されるのは、俺が情報を警察に売ったからという事になる。

 

つまり、奴を殺したのは──

 

 

『オイ、エディ!卵が焦げるぞ』

 

「お、おっと」

 

 

俺はフライパンの上のスクランブルエッグを混ぜる。

肩から黒いタール状の物体が流れて、顔を作り出す。

その顔は、俺の前に向き直った。

 

 

『エディ!気にするな!』

 

「え?卵が焦げたこと?」

 

『そうじゃない!バカが!』

 

 

ヴェノムの顔面に頭突きをされる。

 

 

「オイ、火を使ってる時は止めろ!」

 

『エディ、奴が死ぬのは自己責任だ!オレ達の所為じゃない!』

 

「あ、あぁ……何だ?励ましてくれてるのか?」

 

『違う!』

 

 

再度、頭突きを食らってよろける。

フライパンを落としそうになるが、必死に耐えた。

 

 

「危ないって言ってるだろ!」

 

『お前がふざけた事を言うからだ!』

 

「何もふざけてない!おかしいのはお前だろ!変な事言いやがって!」

 

 

ギャーギャーと騒ぎながら、朝食の準備をする。

ヴェノムは……まぁ、騒がしい奴ではあるが、悪い奴じゃない。

 

その騒がしさが、今は心地良かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私は隣室のドア……その横にあるブザーを押した。

 

そわそわとしながらも、いつ、その部屋の主が現れても良いように服を整える。

 

途端に、ドタバタという音が聞こえて、私は少し笑った。

 

少しして、ドアが開き……いつも通りの服装のピーターが出てきた。

 

 

「あ、ミシェル……?」

 

「ピーター、時間」

 

 

私は自身のスマホを取り出し、時間を見せた。

デジタル時計は14時33分を指し示していた。

 

……今日は私とピーターの誕生日会がある。

グウェンの家が会場だが、待ち合わせ時間は15時。

そして、私とピーターは隣部屋なのもあって「一緒に行く」と予定していた。

 

その時間は……14時と30分。

今は?

33分……いや、34分だ。

 

つまり。

 

 

「遅刻」

 

「わ、え!?あ……ご、ごめん!すぐ用意するから!」

 

「ん……」

 

 

頷きつつ、私はドアの前で待つ。

……ごそごそと布が擦れる音がする。

 

急いで着替えてるのだろう。

 

私は肩にかけている鞄にスマホを戻し、コンパクトミラーを取り出し髪を整える。

 

少しして、ドアが開きピーターが現れた。

 

……いつものチェック柄の服じゃなくて、ちょっとお洒落をした服装みたいだ。

 

 

「ご、ごめん、ミシェル……」

 

「行こ」

 

 

私はピーターと一緒にアパートから出て、歩き出す。

グウェンの家までは徒歩20分ぐらいだ。

 

足を動かしながら、私はピーターに訊く。

 

 

「どうして遅れたの?」

 

「あ、うん……それは、その」

 

 

言いづらそうに吃るピーターに、私は笑った。

 

 

「別に怒ってないから……慌てなくても良い」

 

「あ……ありがとう、ミシェル」

 

 

感謝の言葉に頷きながら、足は止めない。

 

 

「それで?理由は?」

 

「えっと……これ、なんだけど」

 

 

ピーターが胸ポケットからスマホを取り出した。

しかし……あれ?壊れていたのでは無かったのだろうか?

壊れていると思ったから、わざわざノックで呼び出したぐらいだ。

 

 

「買ったの?」

 

「いや、貰ったんだけど……プレゼントで」

 

 

誕生日だからか……しかし、新品のスマホを誕生日に送ってくれるなんて、結構金持ちだと思う。

……それとも保護者……メイおばさんからか?

 

気になって、私はピーターに訊く。

 

 

「誰から?」

 

「えっと、スタークさ……じゃなくて、『スターク・インダストリー』に勤めてる親戚から。ほら、スターク社製」

 

 

覗き込んでみると、確かに。

スマホの液晶下部に、『スターク・インダストリー』のロゴがあった。

 

しかし、親戚?

スターク・インダストリーに勤める?

……いや、恐らく、トニー・スタークだ。

 

 

「良かったね、ピーター」

 

「うん、ありがとう……これの設定をするのに手こずっちゃって……」

 

 

……ん?

ピーターは携帯電話の設定に手こずるような、機械音痴だっただろうか?

寧ろ、機械に強いイメージがあったが……。

 

まぁ、良いか。

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

 

 

グウェンの家に着いた。

 

そこそこ広い庭に、木造の一軒家。

公園には使われてなそうなブランコ。

 

父のジョージさんが作ったのだろうか?

……きっと、グウェンは凄く愛されているのだろう。

 

私はドアのチャイムを鳴らして、ピーターと待つ。

 

 

「ミシェル……何だか、楽しそうだね」

 

 

と、ピーターに言われた。

私は頷いた。

 

 

「誕生日を祝われるのは初めてだから」

 

「……へぇ」

 

 

ピーターがナイーブな声を出したのを聞いて、気になって振り返ろうとして──

 

ドアが開いた。

 

 

「お、二人とも、遅かったな。もう準備は出来てるぜ」

 

 

ネッドだ。

先に来ていたのだろう。

 

でも、遅い……?

私はピーターの右手にある腕時計を盗み見る。

……いや、時間は集合時間より10分早い筈だけど。

 

 

グウェンの家なのにネッドに招き入れられて……私は机にケーキを置いてるグウェンを見つけた。

 

 

「あ、グウェン」

 

 

声を掛けると振り返って、満面の笑みで撫でられた。

 

 

「誕生日おめでとう、ミシェル!……と言っても、まだ一日前だけどね」

 

「ん、ありがとう。嬉しい」

 

 

何だか小動物みたいな扱いを受けてるみたいで、居心地が悪い。

グウェンの手から離れて、机の上のケーキを見る。

 

ホールのショートケーキだ。

 

しかし、私、ピーター、グウェン、ネッド……この四人で食べるには少し大きい気がするけど。

 

私はグウェンに振り返って、質問を投げる。

 

 

「さっきネッドに、遅かった……って言われた……もしかして、集合時間、間違えた?」

 

「ふふふ、いやいや。ミシェル、耳貸して」

 

 

グウェンの側によると、耳打ちされた。

 

 

「ネッドだけ30分前に時間を教えたの。準備の手伝いをさせるために」

 

「あ、あぁ……そう、なんだ……」

 

 

素直に「手伝って」と言えば、ネッドも手伝ってくれそうだけど……何というか、グウェンらしいと言うか。

でも、二人に対する扱いが酷い気がする。

それだけ気心が知れている、のだろうか。

 

ふと、そちらの方を見る。

ネッドとピーターは談笑している。

ピーターがネッドの肩を叩いて、笑ってる。

 

……私といる時に比べて、何も緊張せず、凄く自然体だ。

一緒に居た時間の差か、それとも……私が異性だからか。

少し、羨ましく感じた。

 

……もし、私がこの世界でも男なら。

ピーターとあんな関係が築けたのだろうか?

それとも……そもそも、ピーターは私に興味を持ってくれなかったのだろうか?

 

考えても仕方のない。

無意味な事を考えていると、グウェンに肩を叩かれた。

 

 

「よし、じゃあ早速ケーキにローソク立てよっか」

 

「分かった」

 

 

私は空想を振り払い、現実に戻る。

 

ローソクは17本。

私とピーターの年齢分。

 

グウェンが蝋燭を出したのに気付いて、ピーターとネッドが戻ってきた。

 

私とピーターが見てる前で、グウェンが蝋燭を立てた。

そして、ネッドが火を付ける。

 

ゆらゆらと、赤い炎が私の目に映る。

 

グウェンが電気を消して……薄暗い中で、蝋燭に灯した火だけが私達を照らしている。

 

 

グウェンが口を開いた。

 

 

「歌でも歌う?」

 

「いや、そんな歳でもないだろ……」

 

 

ネッドは否定的だ。

 

ピーターの方を見ると……どっちでも良さそうな顔をしてる。

 

私は正直歌いたくない。

だって……その、下手だし。

 

前世ならまだしも、この世界に生まれてから歌なんて歌った事がないし。

 

 

「まぁ良いか。じゃあ、ミシェルとピーター、火を消して」

 

 

……え?

二人で?

 

私とピーターは目を交わして……少し左右にずれて、蝋燭の火を消した。

……ピーターの吐息が少し頬にかかって恥ずかしかった。

 

それはピーターも同じようで、複雑そうな顔でケーキから離れた。

 

グウェンとネッドが、それを見て笑ってる。

何が面白いのか、凄く気まずいのに。

 

 

「うん、二人とも誕生日おめでとう」

 

「おめでとう」

 

 

グウェンとネッドが祝福して、私達も礼を言う。

……こうやって祝ってもらうのは、凄く、凄く久し振りだ。

 

あれ?

久し振り?

組織に引き取られてから、誕生日なんて祝って貰った事もな──

 

 

電気が点いた。

 

熱で少し溶けている蝋燭を、ネッドが片付けた。

 

 

「よし、じゃあケーキを切ろう」

 

「俺がやるよ」

 

 

ネッドがグウェンから包丁を受け取り、ケーキを五等分にした。

 

……私達は四人なのに?

 

あぁ、そうだ。

ジョージさんのか。

 

そう言えば……。

 

 

「グウェン?ジョージさんは……?」

 

「え?パ……お父さん?今日は仕事だって……遅くなるって言ってたけど」

 

「そっか、残念」

 

 

お礼を言おうと思ったのに。

この誕生ケーキを用意してくれたのもジョージさんらしいし。

 

娘の友人の誕生日にお金を出してくれるなんて……。

 

 

「まぁ、娘の友達の誕生日会だから、居ない方が良いかもって気を遣ってるんじゃないかな?だから気にしなくて良いよ」

 

 

グウェンにまた、撫でられた。

……セ、セットしてる髪の毛がぐしゃぐしゃにならないよう、気を付けて優しく撫でてくれているけど……それはそれとして、凄く恥ずかしいから辞めて欲しいんだけど。

 

それでも、幸せそうに笑うグウェンを見ると文句は言えない。

 

 

席に座り、切り分けたケーキを皿に乗せる。

 

甘くて、美味しい。

こんなに幸せなのに……美味しいものも食べて。

幸せ過ぎて、胃がもたれてしまわないか心配だ。

 

ケーキが食べ終わり、グウェンが空の皿を持って台所へ向かった。

……皿に生クリームが沢山付いていた。

何だか少し、勿体ない気がするけど……流石に舐めるなんて事はしない。

 

ふと、ネッドが気付いたような顔をして──

 

 

「あ、そうだ。これ、誕生日プレゼント」

 

 

白い袋を私に渡した。

口に赤いリボンが付いている。

プレゼント用に梱包された袋だ。

 

 

「ありがとう、ネッド。開けても良い?」

 

「勿論」

 

 

私が袋を開けて、隣に居たピーターが興味深そうに覗き込んでくる。

 

中に入っていたのは……。

 

 

「DVD?」

 

 

ヒーロー映画のイラストが描かれたパッケージだった。

私も見た事のある……だけど、以前の部屋と一緒に燃えてしまった作品の。

 

 

「いや、Blu-ray」

 

「……ありがとう」

 

 

嬉しくなって私は微笑んだ。

やはり、ネッドは趣味が良い。

 

そして、私の事をよく見ている。

プレゼントが嬉しいのは物欲が満たされるから……よりも、人に想って貰えて、心を込めて贈り物を用意してくれたから、だと思う。

 

 

「で、ピーターにはコレな」

 

「あ、うん、ありがとう……」

 

 

ネッドがピーターにプレゼントを渡す。

でも、私に渡したプレゼントと違って梱包されていない、そのままのプレゼントだ。

 

だから、私にも見えた。

あれは……何?

カード、のように見える。

 

 

「ネッド、何これ」

 

「何って……ギフトカード。5ドル分」

 

 

……あまりにもの落差に私は一瞬、息を呑んだ。

そもそもプレゼントを選ばないなんて選択肢があるとは思わなかった。

しかも……5ドルって。

 

 

「何?もうプレゼント贈っちゃってるの?」

 

「あ、グウェン」

 

 

食器を洗面台に置いてきたグウェンが戻って来た。

 

グウェンが机の下を漁り、そこから小さな箱を取り出した。

 

 

「はい、ミシェルにはこれ」

 

「ありがとう」

 

 

受け取ってみると、手のひら程の大きさの箱で……軽かった。

 

 

「ほら、開けて開けて」

 

「ん……」

 

 

急かすグウェンに頷きながら、箱を開けると……中には口紅が入ってた。

 

 

「あの、グウェン、これ」

 

「ミシェルは化粧っ気がないからね……別に化粧しなくても可愛いからってのはあると思うけど……ほら、意中の男性を射止めたかったら必要になるでしょ」

 

「う、うん……」

 

 

勢いの強いグウェンに押されて、私は口紅を手に持った。

……普段、化粧なんて本当に軽くしかしていない。

 

こんな……色の濃い口紅なんて、使った事すらない。

少し、不安になる。

 

 

「に、似合うかな」

 

「ふふ、私が選んだのだから。当然」

 

 

肩を掴んで抱き寄せられる。

……まぁ、でも、確かに。

 

グウェンは私のお洒落師匠だ。

流行どころか、女物の服すら分からない私にレクチャーしてくれる。

 

だから、彼女の薦めてくる口紅も、きっと似合う……のだろう。

 

 

「で、ピーターにはこれ」

 

「……えっと」

 

 

小さな箱だ。

 

 

「ヘアワックス。もっとお洒落して、と言うメッセージ」

 

「あ、うん、はい……ありがとう」

 

 

ピーターが頷きながら手に取った。

 

……ピーター、少しウェーブがかった癖毛だもんね。

 

 

グウェンネッドのプレゼントが渡し終わって、ピーターが箱を取り出した。

 

 

「えっと、ミシェルには僕からコレを」

 

「何これ?」

 

「えっと……」

 

 

言い淀むピーターを前に、私は箱を開けた。

 

中には何枚かの写真が入っている。

 

……ニューヨークの綺麗な景色の写真。

 

 

「ピーター……これって」

 

「僕が撮った写真なんだ」

 

 

私は頬が緩んだ。

写真が好きなピーターらしい、綺麗な……。

 

高いビルからの眺め。

街の夜景。

海。

ネオンの光。

 

私は一枚ずつ捲っていく、そして。

 

 

「……あれ?」

 

 

最後の一枚に気付いた。

……赤いマスク姿の男。

 

 

「スパイダーマン……?」

 

 

私が言うと、ネッドとグウェンが覗き込んで来た。

 

それは街をウェブスイングするスパイダーマンの写真だ。

 

 

「えっと、ミシェルってスパイダーマンのファンだって言ってたから……その、以前、綺麗に撮れた写真を持ってきたんだ」

 

 

……以前?

いや違う、嘘だ。

 

ビルの窓に反射した景色から……デイリー・ビューグルが建て直された後の写真だと分かる。

つまり、撮られたのは最近。

 

……わざわざ私にプレゼントする為に撮ってきた「自撮り」だ。

 

 

ネッドが「お前、マジか?」みたいな顔でピーターを見ている。

 

……あれ?

やっぱり、ネッド……スパイダーマンの正体を知っているのだろうか?

 

そんな疑惑を他所に、ピーターが……流石に恥ずかしい事をしている自覚があるのか下手くそな笑みを浮かべた。

 

 

グウェンがピーターの肩を殴った。

肩パンだ。

 

 

「ピーター、途中までは結構良かったのに……」

 

「え?え?ダメだった?」

 

「それが分からないから、アンタは童……いや、何でもない」

 

 

理由は分からないが責められている。

グウェンが呆れてため息を吐いている。

 

私はピーターを擁護しようと口を開いた。

 

 

「だ、大丈夫。私は嬉しいから」

 

「ほら、グウェン。嬉しいって言ってるから」

 

「……バカ」

 

 

グウェンが小声でピーターを貶している。

 

実際。

この写真……スパイダーマンの自撮り写真は、正直嬉しい。

 

家に帰ったら、スクラップブックにラッピングして挟もうと思うぐらい。

 

 

そして。

 

 

グウェンが私の方を見た。

 

 

「ミシェルからピーターへのプレゼントは?……そもそも、ある?」

 

 

辛辣だ。

勿論、買って来てるに決まってるだろう。

 

 

「えっと……これ」

 

 

鞄の中から木箱を取り出した。

 

 

「開けても良いかい?」

 

「うん」

 

 

ピーターが木箱を開ける。

ミシェルとネッドが覗き込む。

 

……何だか少し恥ずかしい。

 

中に入っているのは、写真立て……フォトフレームだ。

 

 

「ピーター、写真撮るの好き……だよね?」

 

「うん……うん、すごく嬉しい。ありがとう」

 

 

ピーターが嬉しそうに微笑んだ。

どうやら喜んでくれたようで、私は安心して頷いた。

 

それを見てグウェンが口を開いた。

 

 

「ピーターさぁ。今、カメラ持ってる?」

 

「あ、うん……勿論。持ってるよ。誕生日会だから」

 

「じゃあさ……このフレームに入れる用の写真、今撮っちゃおうよ」

 

 

グウェンがピーターの肩に肘を乗せた。

ピーターが私とネッドを見る。

 

 

「いいね、分かったよ。じゃあ、ソファーの前に集まって」

 

 

ピーターが鞄からカメラを取り出して、タイマーを弄っている。

そうして、机の上に置いて……四人でソファーの前に並んだ。

 

フラッシュが焚かれて……シャッター音がした。

 

ピーターがカメラで写真を確認する。

私は後ろから声を掛けた。

 

 

「ピーター、どう?」

 

「えーっと、ほら。こんな感じ」

 

 

覗き込むと、私とピーター、グウェンとネッドが笑顔で写っていた。

 

思わず、頬が緩んだ。

 

その表情を見たピーターが、私に声を掛けた。

 

 

「……ミシェル?」

 

「ん、何?」

 

「いや、すごく嬉しそうだから」

 

 

……だって。

 

写真なら、ずっとこの景色が残るから。

 

私が居なくなって……いつか、みんなに忘れられたとしても、ずっと残る。

 

形として私が……『ミシェル・ジェーン』が居たと言う記録が残る。

それが凄く、堪らなく嬉しい。

 

だけど、こんな話はピーターには出来ない。

 

 

「写真写りが良かったから、かな」

 

「へぇ……写真で良かったら、何枚でも撮るよ?」

 

「……ありがとう、ピーター」

 

 

私は感謝の言葉を述べて、また写真を見る。

 

……客観的に見る事はなかったけど、私はみんなといる時……こんな風に笑っていたのか。

 

 

「本当にありがとう、ピーター」

 

 

……私は幸せを噛み締めるように、言葉を重ねた。


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