【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#68 キル・ゼム・オール part7

どうすりゃいい?

 

どうすりゃいい、どうすりゃいいんだよ。

 

誰か、オレに教えてくれ。

 

 

シンビオートと結合していたクレタス・キャサディをしばいて……カーネイジを焼き殺した所までは良い。

 

だけど、レッドキャップとヴェノムが……キャサディを殺そうとすっから揉めちまった。

 

シンビオートと結合してた女はガキだったし……ハリー・オズボーンはそのガキを守ろうとしてる。

 

 

それで、それで……。

 

 

ブラックウィドウ?

ウィンター・ソルジャー?

 

 

アイツら、『アベンジャーズ』だ。

 

最近よく会うな!つって笑う事も出来ねぇ。

そんな場合じゃねぇ。

 

以前、ウィドウに勝てたのはレッドキャップがダメージを与えてたからだ。

無傷のアイツにはオレが勝てる訳ねぇ。

 

だってオレは……ただの銀行強盗だ。

 

弱っちい、ただの銀行強盗。

小悪党だ。

 

宇宙を救う英雄様(ヒーロー)なんかに敵う訳がない。

 

分かっている。

 

オレに出来る事は何もない。

 

 

目の前でナイフがぶつかり合って……火花が散る。

 

オレじゃ全く見えねぇ速度で、ただ音と光だけが正しく認識できる。

ウィンター・ソルジャーと、レッドキャップが戦っている。

 

だが……レッドキャップが押されている。

本調子じゃねぇんだ。

 

腕が……切れちまってるからだ。

 

ごろり、と壁際に切られた腕が落ちている。

血が流れて、真っ赤な水溜まりを作っていた。

思わず目を逸らしたくなるような光景だ。

 

だから、もしかすると……レッドキャップが負けるかも知れねぇ。

 

だが、あの銀色の腕が生えてる奴も、スパイ映画に出てくるような女も……レッドキャップを拘束するって言ってた。

アイツらはヒーローだ。

そんな悪い待遇になるとは思えねぇ。

 

だから、オレは逃げるべきなんだ。

 

あぁやって戦ってる間に、バレねぇように、コッソリと。

今までそうやって生きてきた。

 

 

……オレは既に一度、フィスクに刑務所から出して貰った事がある。

だが二度目は、どうだ?

どうなる?

 

フィスクは役立たずには厳しい。

アイツに処分された奴を何人も見てきた。

 

オレも……殺される、のか?

 

分からねぇ。

だが、危ない橋を自分から渡る意味はねぇ。

 

 

そもそも、アイツらが勝手に「キャサディを殺す」って揉めたのが悪いんだ。

 

態々、無抵抗の奴を、自分の感情で殺すのは……仕事じゃねぇ。

それは、一線を越えてる。

 

オレ達は外法に生きる屑だからこそ、越えちゃならねぇラインがある。

 

だから、感情に身を任せて、誰かを殺そうとするのは……ただの人殺しだ。

屑以下だ。

キャサディと変わらねぇ。

 

 

もう、レッドキャップを助ける意味はねぇ。

 

 

 

……助ける意味なんて。

 

 

理由が。

 

 

理由を探している。

 

 

頭の冷たい部分では……アイツを助けたいって思うのは、おかしい事だって分かってる。

バカな事だってのも。

 

アイツはオレよりも強い。

だけど、アイツは未成年の女で……子供だ。

 

アイツはオレの許せねぇラインを越えた。

だけど、アイツは悪意があってやってる訳じゃない。

そうせざるを得ない場所に居すぎて……おかしくなっちまってる。

 

アイツを助けても何の得にもならねぇ。

だけど。

 

 

だけど……。

 

 

アイツは、オレを……必要としてくれた。

 

明らかに自分より弱いオレを、情けねぇビビってたオレを。

 

初めて会った時から、そうだ。

 

あの時から。

 

キャプテンアメリカと戦った時も。

クレタス・キャサディと戦った時も。

 

 

オレを必要としてくれた。

 

 

オレより遥かに強ぇのに。

 

 

オレよりずっと若いのに。

 

 

……時間が経って枯れちまった一輪の花が。

 

退院した時に花瓶から持って帰った花を。

 

ゴミ箱に捨てられず、柄にもなく押し花のやり方を調べて。

 

気泡が入りまくったラベルで密閉された、花の栞が。

 

本も読まねぇのに……。

 

そんな、不恰好な栞が……オレの心に挟まり込んで来たんだ。

 

 

「は、はは……」

 

 

思わず笑っちまった。

 

オレは自分が一番大切だった。

 

だって、一番大切だった物はもう、無くなっちまったからだ。

 

信じられるのはオレ自身と、金だけだ。

 

その筈だった、のに。

 

 

「これじゃあ……オレ、バカみたいじゃねぇか」

 

 

手甲(ガントレット)のグリップを握って、立ち上がる。

 

コイツはただの道具だった。

銀行の金庫に穴を開ける為の、発明品。

 

だが、今は……オレの武器(ちから)だ。

 

 

「あぁ、マジで……いつから、こんなにバカになっちまったんだ」

 

 

……どうすりゃいい。

 

オレじゃあウィンター・ソルジャーには勝てねぇ。

 

……どうにかして、気を逸らす……何かしらの、手段が。

 

クソッ、考えろ。

考えろ、考えろ、考えろ。

 

オレは天才、ハーマン・シュルツだ。

いつだってオレは切り抜けて来た。

すげぇ発明だってした。

誰にでも出来ねぇ事をやってのけた。

オレは強くて、賢い。

 

だから何か……妙案を思い付け。

頼む、オレ。

 

 

……目を横にずらす。

 

 

呼吸を荒くしながら、倒れてるティーンエイジャーの女。

それと、ハリー・オズボーン。

 

 

……レッドキャップも、あのガキのこと気に掛けていたよな。

 

だから、この『案』は絶対に嫌われる。

幻滅される。

 

だけどもう、それ以外に何も思いつかなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ナイフが再度、交差する。

 

 

『チッ!』

 

 

火花に紛れて、ウィンター・ソルジャー……バッキー・バーンズのサイバネティック・アームが迫る。

 

膝のプロテクターで、その拳を防ぎ──

 

 

『うぐっ!?』

 

 

防げない。

 

脚部のプロテクターが破壊されて、私は地面に転がった。

……プロテクターの下のインナーが露出する。

黒い、防刃防弾繊維のタイツのようなインナーが、血で滲む。

 

 

『ハァ……ハァ……!』

 

 

呼吸が荒くなる。

治癒因子(ヒーリングファクター)の酷使、肉体の損傷、失血。

 

様々なダメージが蓄積し、今、身体が悲鳴をあげている。

 

 

「終わりだ」

 

 

耳にバッキーの声が聞こえる。

 

淡々と、自分の勝ちを誇る訳でもなく……ただ、事実を述べた。

 

この戦いは、私の負けだ。

 

 

何故、こうなった?

 

原因は何だ?

 

ヴィブラニウムのスーツが無い事か?

そもそも、腕を失っている所為か?

 

違う。

 

きっと、欲張ったからだ。

 

今、ここでクレタス・キャサディを殺そうとしたからだ。

 

奴は今後も……刑務所を脱獄して、誰かを殺す。

カーネイジは死んでいない。

奴の身体の血と深く結合していて……また、蘇る。

私はそれを知っている。

 

……だが、それはスパイダーマンに許されなかった。

 

知っている。

 

彼は命の尊さを知っている。

人が命を奪う罪の重さを、知っている。

 

誰にも死んで欲しくない。

殺して欲しくない。

 

大切な人を失って、取り返しのつかないミスを犯し……誰にも不幸になって欲しくないから、戦っている。

ずっと、戦ってる。

 

知っている。

よく、知っている。

 

だから、私は……好きなんだ。

 

 

……こうして、戦う事になるのも分かって選択した。

 

 

その結果がこれだ。

 

血反吐を吐いて、地面に手をついている。

 

 

「安心しろ、『S.H.I.E.L.D.』は悪い場所じゃない。君の罪も──

 

『無理だ』

 

 

私は顔を上げて、バッキーの顔を見る。

 

彼は何も分かっていない。

……意識もなく洗脳されて人殺しをしていた彼と。

生きる為に他人を犠牲にしてきた私とでは。

 

全然、違う。

 

 

『私は、そちら側に、は、いけない……』

 

 

他人を救えるのが英雄(ヒーロー)だ。

他人を犠牲にするのが悪人(ヴィラン)だ。

 

だから、私は悪人(ヴィラン)だ。

今更、どの面を下げてヒーローになるんだ?

ヒーローになど、なれない。

 

 

「……いつか、気が変わる。拘束させてもら──

 

 

……微睡む、視界の隅で。

 

グウェンの顔が見えた。

 

そして、ハリーの……。

 

 

大きな音がして、ハリーが吹っ飛ばされた。

 

 

何だ?

何が……衝撃波(ショックウェーブ)か?

 

ハーマン?

 

 

バッキーの視線が、ハーマンの方へ向いた。

 

スパイダーマンとブラックウィドウも……戦闘をやめた。

ヴェノムですら、何事かと様子見をしている。

 

ハーマンが、グウェンの肩を掴んで……手甲(ガントレット)を頭に押し付けている。

 

 

……何をしているんだ?

 

何を、やってるんだ?

 

血が、急激に頭に上っていく。

 

 

「ウィンター・ソルジャー……それ以上、動くんじゃねぇ。動いたら、この女の頭を吹っ飛ばす……ハリー・オズボーン!お前もだ!動くな!」

 

 

ハリーが立ちあがろうとして……止まった。

バッキーがハーマンを睨んでいる。

 

……グウェンが、ぐったりとしていて……。

 

 

『……ハーマン、何を……して、いるんだ』

 

 

私も……ハーマンを睨み付ける。

視線で人が殺せるなら……私は、ハーマンを殺しているかも知れない。

そう思えるほど、強く睨んでいた。

 

 

「……良いから、こっちに来い。レッドキャップ」

 

『私は……助けてくれと、頼んだつもりは……』

 

「んな事どうだって良いんだよ!良いから、今すぐ来い!」

 

 

……私はバッキーを一瞥する。

油断のない顔で、どうすれば彼女を助けられるか考えているのだろう。

 

軋む身体に鞭を打って、グウェンとハーマンへ近付く。

 

 

『今すぐ、その娘を離せ……』

 

「……オレだって、こんな事やりたくねぇよ。だが逃げるのに必要だ」

 

『…………』

 

 

コイツ……。

 

いや、違う。

ハーマンが悪い訳じゃない。

 

そうだ、ハーマンは人質なんて取りたがるような性格じゃない。

 

一人でなら、私を見捨てれば、逃れた筈だ。

 

……だから、この状況は私が招いた状況だ。

 

私のミスだ。

ハーマンの所為にしては……ならない。

 

 

「引くぞ」

 

『……分かった』

 

 

ハーマンが手甲(ガントレット)を、バッキーへ向けた。

 

想定外だったのか避け遅れたバッキーに衝撃波(ショックウェーブ)が命中した。

 

 

「バッキー!?」

 

 

ブラックウィドウの視線が、吹っ飛ばされたバッキーに移る。

 

 

「もう一発だ」

 

 

再び、ハーマンがブラックウィドウの頭上に衝撃波(ショックウェーブ)を放った。

 

屋根が崩れて、石が頭上へと降り注ぐ。

 

 

「危ない!」

 

 

咄嗟にスパイダーマンが飛び出して、ブラックウィドウを抱きしめて転がる。

ガラガラと崩れる屋根に下敷きになる。

 

……まぁ、彼等なら大丈夫だろう。

瓦礫程度で死ぬような、柔な人間ではない。

 

 

ヴェノムが一瞬、私達を見て……心底、軽蔑した目で走り去った。

恐らく、他人の手でスパイダーマンに勝っても嬉しくないから、か。

そして……人質なんて言う卑怯な真似は好きじゃないのだろう。

 

 

キャサディは……頭に石がぶつかったのか、血を流して気絶している。

だが、あの様子なら死んでいる訳ではないだろう。

……今なら、殺せる。

邪魔する奴は居ない。

 

 

「アイツは諦めろ」

 

 

キャサディを見ていると、ハーマンが横から口を出した。

……私は今、助けて貰っている立場の人間だ。

 

彼の言う事は、大人しく聞こう。

 

ハーマンがグウェンを抱えたまま、踵を返し、教会の出口へと向かう。

私もそれに倣って、歩く。

 

……道端に落ちている、切断された自分の腕を拾う。

治癒因子(ヒーリングファクター)で切断された腕を生やすのは、時間がかかり過ぎる。

 

日中、ピーターや、グウェン、ネッドにバレてしまう恐れがある。

そうしたら……もう彼等と一緒には居られないだろう。

 

だが、切断された腕を繋ぐだけならば……半日もあれば繋がるだろう。

だからこの、切られた腕は必要だ。

 

私が、ミシェル・ジェーンで居る為に……必ず、必要だ。

 

幸いにもカーネイジの爪が鋭かったお陰で、傷口の断面図も綺麗だ。

直ぐに繋がる。

 

……そうだ、ティンカラーの所ならば、治療器具もあるかも知れない。

少なくとも、裁縫したり、固定したりする為の道具はある。

 

 

「……良い逃げ場所とか分かるか?」

 

『あぁ、それなら──

 

 

私の言葉を遮って……。

 

グサリ、と肉が切れる音がした。

 

 

「あ……?」

 

 

ハーマンの口に血が、滲む。

何が起きたのか分からない、と言った顔をしている。

 

 

『……ハーマン?』

 

 

ハーマンが膝をついて、グウェンを手放した。

地面に転がる。

 

 

『お、おい……ハーマン』

 

「え、ぐっ、ふ」

 

 

口から、血を吐いた。

息も出来ないような、血の量だ。

 

 

私は背後を振り返った。

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

 

息を荒げて……ハリーが立っている。

呆然とした顔で、私達を見ている。

 

その手には何も握っていない。

 

私は……ハーマンの背中を見た。

 

 

黒い、コウモリのような刃物が……背中に刺さっていた。

 

……深く、スーツを貫通して。

 

血が、流れている。

 

 

『ハーマン……?』

 

 

どさり、と音がして……ハーマンが倒れた。

 


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