ポケットモンスター 拳 〜超強い俺の嫁とめちゃくちゃに弱い俺の話〜   作:おしゃべりデブ

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序章 発火
島国のクソガキと鉄仮面女


_________________ここはジョウト地方の離れ小島。

荒波に囲まれた海の町『タンバシティ』。

 

その孤島に佇むシジマ流格闘道場兼タンバジムからは今日も怒号が響き渡る。

 

 

 

「コラァァァ!!サボォォォオ!!またイタズラしよってこんのバカモンがァァァァァ!!」

 

「うっさいわクソジジイ!毎日毎日滝行ばっかしてっから、そのでっかい頭氷でキンキンに冷やしたったんやろがこのバァカ!!悔しかったら捕まえてみろやデブ親父!!」

 

「なっ!?貴様ァァァ!!わしはまだ太っとらん!!!待たんかこの悪ガキがぁぁあ!!」

 

「待つかぁボケェ!!無理あるぞジジイ!!来い!バディ!!!」

 

「わん!」

 

「あ、ケベリさんうーす!ちょっと横通るなー!」

 

「お、サボくんおはよう!またイタズラかい?どうぞー!」

 

「コラァァァ!ケベリ貴様ァァァ!そいつを捕まえんか!!」

 

「あ、すいません父さん。今、朝の清掃中なので。」

 

 

腹デカ親父の突進を軽やかに避けて道場を飛び出し、相棒と一緒に目の前にいる箒がけをしているケベリさんの後ろを通り抜けた。

 

そして、そのまま手馴れた動きで石垣を伝い歩き、道場の屋根の上に登って、石垣の上で精一杯ジャンプしている相棒を抱き上げる。

 

 

「ふんっぐっぬぬぬぬ!!ば、バディ!お前ちょっと重なったぞ!飯食い過ぎや!!」

 

「くぬん...」

 

 

顔を真っ赤にしながら全身の力を振り絞り、やっとの思いで屋根の上までバディを連れていく。

 

屋根の上でバディと息を潜めて居ると、しばらくしてドタドタと慌ただしく道場から飛び出してくるのは醜い肉ダルマ。

 

ほんま最近みるみるでかくなってくなあのおっさん。歳か?

 

ぜぇはぁぜぇはぁと息を切らすおっさんに、ケベリさんは道場前を箒で掃きながら声を掛ける。

 

 

「今度は何をされたんですか?父さん。」

 

「ふー!ふー!くそぉ!サボの奴!わしの滝行用の貯水タンクの中に大量の氷を入れよった!!朝から心臓止まるかと思ったわい!!」

 

「えぇ!?そんな事を!?...あ!そういえば今朝、漁に出ようとした船の中の氷が全部無くなっていたって話があって、少し騒ぎになっていたんですよ。その氷かー!サボくんやるなー!!」

 

「感心しとる場合かァァァ!!くそぉ!!待てぇぇえ!!どこ行ったあの悪坊主!くっ、相変わらず逃げ足の早いヤツめ!なぜその力をまともに使おうとせんのだ..今度こそ見つけ出してケツをぶっ叩いてやる...どこだァァ!サボォォォオ!!!」

 

 

ドスンドスンと重そうな身体を揺らしておれ達の足元を素通りしていく髭オヤジ。

 

飛び出た腹で足元も見えてへんのに見つけられるわけあらへんってわからんのかあのおっさん。

 

シジマのおっさんが走り去ったの確認し、バディを抱いて屋根から飛び降りる。

 

 

「ふぅー。よぉし!逃走成功!」

 

「わん!」

 

「おおー!おみごとー!」

 

「どもどもー!」

 

 

パチパチと拍手をしながらニコニコ笑っているケベリさん。

 

バディは腕から飛び降りて、しっぽを振りながら足元を駆け回る。

 

そんなバディと一緒におれはおだてに乗りペコペコと礼をする。

 

 

「ところで、今日はどこに行くんだい?」

 

 

いつも通りの一悶着が終わったあと、ケベリさんが掃き掃除を再開しながら笑顔で行き先を尋ねてきた。

 

 

「んー、今日は西の裏山の探検してくるわ!ほな行ってくる!」

 

「はーい、あそこはそろそろ工事が始まるみたいだから気をつけてね!それと、今日は用事があるみたいだから早めに帰ってくるんだよー!」

 

「わかった!ほな行ってくるわ!行くぞバディ!いつもの洞窟まで競走や!!」

 

「わん!!」

 

 

ケベリさんに手を振り、おれ達はいつも通りの足取りで町の北西側まで駆け抜ける。

 

 

______________________________________________

 

町の北西側には山の一部に開けられた大きな洞穴があり、その先を抜けると滝のよく見える山に繋がってる。

 

ひんやりと冷たい空気が流れ出る洞窟の前に息を切らした1人と1匹が仰向けに寝転がる。

 

 

「はぁはぁはぁ...今日はおれの勝ちやなバディ!やっぱお前、最近飯食い過ぎやって!あのおっさんみたいに自分の足も見えんくなってまうぞ?」

 

「くぅん...。」

 

 

すっかりふわふわに育った首元の白い毛を揺らしながら、バディが悲しげに鳴き声をあげる。

 

黒と橙の縞模様の体毛の上からでも分かるほどぷにっと膨らんだお腹が敗因を分かりやすく物語っていた。

 

息が整ったところで、上半身を起こして未だに隣で横たわる相棒のガーディの背中を撫でる。

 

 

「...まぁ、おれもお前も今までが痩せすぎやったからな!多少食い過ぎたところでなんともないやろ!せっかくこの洞窟まで来たんやし、一緒に運動してちょっとでも痩せるぞバディ!!」

 

「わん!わん!!」

 

「まずは...洞窟の中で坂道ダッシュや!行くぞバディ!」

 

「わん!」

 

______________________________________________

 

 

一日中、山の中を駆け回り遊び疲れたおれたちは空も暗くなってきたので帰ることにした。

 

そういや、ケベリさんがなんか言ってたな。なんやったっけ?まぁええか。

 

コガネシティから、ここに連れてこられたんやけど、正直ここでの生活はめちゃくちゃ楽しい。...ジジイは小煩いけどな。

 

バディも一緒やし、島中全部遊び道具みたいで不満はひとつも無い。

 

無いんやけどな...やっぱり二人だけじゃ物足りんよなぁ。

 

すっかりバテバテのバディを抱き上げながら、山道を下ると、港に見慣れない船が泊まっているのが見えた。

 

あんな船あったっけ?見たことないな。

 

そういえば、ケベリさんなんか用事あるとか言ってたな。

 

...あり?もしかしてこれ遅くなったら怒られるやつ?

 

抱えてたバディを地面に下ろす。

 

「ちょっと急ぐか、ほらバディ。タラタラしてんちゃうぞ!ほれ、こっからは走れ走れ!」

 

「くぬ!?...くぅん」

 

「甘ったれた事言ってんちゃうぞ!それいけ!」

 

嫌々ながら走り出すバディと一緒に駆け足で道場前まで帰ると、そこには見慣れない麦わら帽子を被って白いワンピースを着た女の子と腹デカジジイが話しているのが見えた。

 

この島にはおれ以外ガキはおらんはずやったよな?

 

「おいジジイ!そいつ誰や。」

 

とりあえず、なんか喋っとるし事情知ってそうなジジイに聞いてみようと思った。

 

「サボッ!貴様!今の今までどこほっつき歩いてたこのバカモンが!!それになんだその言い方は!礼儀のれの字もない!すまんな、お嬢。この悪ガキが。」

 

「やかましいな!なんでもええやろがボケ!で、そいつ誰や?」

 

「だから、それをやめんか!!バカタレが!!」

 

「いだっ!なにすんねん!」

 

見慣れない女の子に指さしながら聞くとゲンコツを食らった。

 

ずっと黙り続けていた女の子が口を開く。

 

「......こんにちは。私の名前はサイトウです。しばらくの間、この道場にお世話になります。これからよろしくお願いします。」

 

予め用意された文章を読むように淡々と話し、規則正しく頭を下げる女の子。

 

麦わら帽子から覗く綺麗な青色の瞳と玉のように艶やかな褐色の肌、短く切りそろえられた灰色の髪が風に靡く。

 

そんな女の子に対しておれは、顔は可愛いのになんかずっと無表情やし、ロボットみてぇな女やな。おもんなさそう。などと考えていた。

 

「これ!サボッ!お前も挨拶せんか!」

 

「いだっ!だからいちいち殴んなや!ゲンコツジジイ!!」

 

少し考え事をしていただけですぐに殴ってくるこのクソジジイいつか絶対痛い目見せたる。

 

おれが理不尽な暴力に襲われていても、表情一つ変えずに真顔で見据えるサイトウとかいう女の子。

 

......こいつ表情一種類しか無いんか?

 

「......おれ、サボ。......よろしく。こっちはバディ。」

 

「わん!」

 

「よろしくお願いします。」

 

挨拶をしてもまたもや表情一つ変えない。

バディを気に入ったようで、サイトウの周りをぐるぐると回っているが、顔に鉄仮面でも貼り付けているかのようにニコリともせずに、ロボットのように淡々と言葉を返すサイトウに、おれはなんだかつまらなさを感じていた。

 

 

せや、いいこと考えた!

 

 

「バディ!ちょっと離れとけ!」

 

「?わん!」

 

おれはおもむろに靡くワンピースの裾を掴み、そして

 

 

「せいっ!!!」

 

「はぁッ!?」

 

「わふッ!?」

 

 

 

「...........へっ?」

 

 

 

思いっきり上に捲りあげた。

 

白いワンピースの裾がヒラヒラと宙を泳ぐ。

視界には三角の白い布が写り、真ん中のワンリキーの似顔絵の刺繍までもがはっきりと見えた。

 

サイトウの顔を見るとさっきまでの無表情が嘘のようで、顔は耳まで染まるほど真っ赤になり、うっすらと涙まで浮かべ、唇を噛み締めていた。

 

さっきの鉄仮面より絶対こっちの方がおもろいやん!

 

「サァァァァアボォォォォオ!!!!!!」

 

おっと、危ない気配がする!

 

ひょいと身を翻しジジイのゲンコツを回避する。

 

「何しとんじゃこんのクソガキがァァァァァァ!!!!」

 

「ほい、ほい、ほい、ほい。当たらんわノロマ!」

 

間一髪のところで拳を避けて、隙を見てジジイの後ろに周りこんで手馴れた動きで屋根の上に登る。

 

「降りてこいサボ!」

 

「降りるかボケェ!お前、顔に似合わず可愛いパンツ履いてんだな!」

 

「っ!?なっ!」

 

サイトウが真っ赤になった顔のまま、顔を塞ぎ座り込んだのを確認して、おれはカンカンに怒るジジイの追っ手から逃れるべく屋根の上を駆け出したのだった。

 

 

 

これが、俺とサイトウの初対面の出来事。

 

うん、今にして思うけど、当時の俺。マジでどうしようもないクソガキだな。

 

その後、シジマに捕まり、数時間にも及ぶ説教と修行という名の地獄を味わったことは言うまでもない。

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