ポケットモンスター 拳 〜超強い俺の嫁とめちゃくちゃに弱い俺の話〜   作:おしゃべりデブ

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圧倒的

 

「ぬぅ......。その、お嬢。やっぱり、やめておいた方がいいと思うぞ。」

 

「そ、そうだよ〜!みんな仲良くしよ?ね?サイトウちゃんもサボくんも!」

 

何とかサイトウとおれをなだめようと躍起になる大人二人組のその言葉も虚しく、おれ達に灯った炎は消えない。

 

「あぁ?喧嘩売ってきたんはそいつや。売られた喧嘩買って何が悪いねん。」

 

「私は、彼に耐え難い屈辱を受けました。それに、師であるシジマにもあの狼藉...見過ごせません。...私が、彼を矯正します。」

 

睨み合うおれとサイトウ。

 

今朝の騒ぎから約30分。

 

おれ達は決闘をするために、道場の庭先に出て準備を進めていた。

 

サイトウは道着をしっかりと着用し、押忍っと気合いを入れ準備を整える。

 

おれはというとギチギチと着づらくてめんどくさいこの道着とかいう服に悪戦苦闘していた。

 

「おいジジイ!道着の着方ってこれであっとんのか!」

 

「逆だ逆!このバカもんが、それでは死装束になるだろうが!」

 

「う、うっさいわハゲジジイ!こんなもん着た事無いからしゃーないやろがこんボケ!!」

 

「それがおかしいと言っておるのだ!毎日毎日、鍛錬もせずダラダラと遊び呆けて...なんのために貴様を連れ帰ってきたと思っておる!」

 

「頼んでへんわそんなん!!だァーっ!クソっ!めんどくさいなこの服!!なんでこんなもん着なあかんねん!!」

 

モタモタモタモタと慣れない手つきで、ああでもないこうでもないとイライラしながらやっとのこと道着に腕を通す。

 

誰やねんこんなめんどくさいの考えたやつっ!重いわ暑いわ固いしめんどくさい!なんやねん帯て、そんなもん腹に巻かせんな!てか、夏にこんなもん着せんなアホタレッ!!

 

悪戦苦闘しているおれを見たサイトウはいつもの無表情を少しだけ緩めてはぁっと深いため息をついた。

 

あんの野郎...っ!完全に舐めてんなおれのこと。もう泣かす!ぜってぇー泣かす!

 

「ぐっ!...こうかっ!よしっ!出来た!」

 

帯を締めて何とか準備を整えたおれは慣れない道着にイライラしながらも定位置についた。

 

「......はぁ。本当に...やるんだな?」

 

最後の確認のようにジジイがゆっくりと口を開く。

 

「あんな舐めたことされて黙ってられっか!泣いて謝るまでボコボコにしたる!」

 

「私は彼を矯正します。昨日今日と見ていましたが彼の態度は目に余るものでした。なので、彼には礼儀と武道の心を学んでいただきます。」

 

「喧嘩なんかせず、仲良くすればいいのにね?バディくん。」

 

「わふぅ......。」

 

ケベリさんの言葉にバディが悲しそうな鳴き声をあげる。

 

未だに熱が冷めない二人を見て、クソジジイが大きくため息をついた。

 

「サボッ!!」

 

ジジイは苦い表情を浮かべながら大声でおれのことを呼び止める。

 

「なんやジジイ!聴こえとるわそんなデカい声出さんでも!」

 

しばらくの間、渋るように考えながらも言葉を続けた。

 

「......怪我だけはさせないようにな。」

 

「......ちっ!へーいへい。」

 

釘を刺されながらもぴょんぴょんと軽くジャンプしてから屈伸と伸びをして決闘に備える。

 

一連の準備運動を終えて、互いに向かい合い、拳を構える。

 

そんなおれ達を見てジジイは大きくため息をついた。

 

「はぁぁぁあ。......ルールは無し、尻又は膝を着いた方が負け。.....よぉい......始めッ!!」

 

_____________________________________________________________________

 

_________その決着は一瞬だった。

 

互いに同時に動き出す。

 

サイトウは拳を構え、最速最短の突きを繰り出そうと足を踏み込んだその刹那。

 

「おまえ、わっかりやすいなぁ!ひひっ!」

 

パァンッ!!

 

サイトウの目の前で破裂音が響く。

 

おれはサイトウが踏み込んだ瞬間を狙って、腰を落とし低い体勢で懐に潜り込み、ねこだましを仕掛けたのだ。

 

「っ!?んなっ!?」

 

思わず怯み、目を閉じて体を硬直させるサイトウ。

 

不意の一撃にサイトウは思わず思考が滞る。

 

思考が滞りサイトウが動きを止めたその隙に、おれは硬直してガチガチになったサイトウの左膝裏に右手を掛けて、思いっきり払いあげた。

 

「そい!」

 

「っ!?ひぃあっ!?」

 

片足を持ち上げられて体勢を保てなくなったサイトウは、そのまま背中から転がり倒れる。

 

「勝負あり!サボの勝ち!」

 

「はぁ?よっわおまえ。」

 

いっやいや、わかりやす過ぎるなぁこいつ。

 

おれのこと舐め腐とるから一撃で終わらせようとしとったみたいやけども、魂胆見え見えやねん。

 

重心も傾いとるし、目線もわかりやすい、次にどう動くんか予測しやす過ぎる。駆け引きとか考える頭無いんかマジで。

 

こんなんでよくもまあおれに決闘挑めたもんやな。

 

いつもの無表情を崩し、呆気にとられていたサイトウはハッとして立ち上がり、身体に付いた砂埃を叩き落とす。

 

「ま、まだですっ!あんな卑怯な手...こんなの無効試合です!!今度は正々堂々と戦いなさい!」

 

自分が負けたことが信じられないようで、前までの無表情が嘘のように顔を真っ赤にしながら帯を締め直して、構えを取るサイトウ。

 

「卑怯な手って、ジジイが『ルールは無し』って言よったやんけ聞いてなかったんか?弱いだけや無くて耳まで悪いみたいやな。」

 

「んなっ!?くっ......。」

 

呆れた風にやれやれと首を振るとサイトウは悔しさを噛み締めるように、言葉を詰まらせる。

 

顔を真っ赤にしてプルプルと震えるサイトウを背に大きなため息をついた。

 

「はぁぁあ...喧嘩売ってくるんやからどんなもんやと思っとったけど、こんなもんか、拍子抜けや。」

 

さて、呆気なく決闘も終わったことやし今日は何して遊ぼかな。昨日は山行ったし今日は海で釣りでもしてみるのもありやな。

 

おれが踵を返して遊びに出かけようとしている時、背後でサイトウが顔をペちペちと叩き落ち着きを取り戻すようにふぅっと息を着いた。

 

 

「......逃げるんですか?たった一度勝っただけで?」

 

 

サイトウの放ったその言葉に思わずピクリと動きを止める。

 

それは挑発とも言えないような程度の低い煽り、そんなものに乗るやつは居ない。

 

 

「......ぁ?なんやお前」

 

 

否、血の気の多いオコリザルよりも気の短い男がここに居た。

 

ここまで呆気なくやられた上に、まだ喧嘩売ってくるとか。

 

こいつ...相当ボコボコにされたいらしいな。

 

すっかり冷静を取り戻していつもの無表情になったサイトウは言葉を続ける。

 

「いえ、ただ不意打ちのまぐれで勝っただけで勝ち誇っているのは、あまりにも滑稽だな。と思っただけです。」

 

サイトウは、無表情を少しだけ緩めてにやっと笑いながらそう言う。

 

ほーん?人の事舐め腐るのもたいがいにせぇよマジで。

 

「けっ、流石やなあ!ただのねこだましで腰抜かして転けてたやつは言うことがちゃいますわ!いやー、勉強になりますせんせっ!」

 

おれは唾を吐いたあと皮肉を交えて手を擦りながらそう言ってやった。

 

その言葉を聞いて、眉をピクリと動かしてギロリとおれを睨むサイトウ。

 

「...なんですって?」

 

「...なんや文句あんのかボケェ。」

 

ギリギリと互いに睨み合う二人。

 

バチバチと激しい火花を飛ばした二人は背を向ける。

 

「...泣きひしるまでボコボコにしたるさかい覚悟せぇよ。ジジイッ!もう一戦や!」

 

「...望むところです。あなたの方こそ、ハンカチの準備をしておいた方がいいのでは?シジマさん。もう一戦よろしくお願いします。」

 

「そんなに急かされんでも分かっておるわ。...はぁぁぁ。もうちっと仲良くすればいいものを...。」

 

おれたち二人に急かされ、クソジジイが毛の少なくなった頭に手を当てながら大きなため息を着いた。

 

「ねぇ〜バディくん。あの二人もっと仲良くできると思うのにね〜。」

 

「くぬぅん......。」

 

再び、双方が位置につき拳を構える。

 

「では良いな?」

 

「はい。いつでも大丈夫です。」

 

「なんでもええからさっさと始めろやジジイ!」

 

「はぁぁぁぁ...お前は全く...まぁいい。......用意、始めっ!」

 

ジジイの合図を皮切りに、2度目の決闘が始まる。

 

サイトウは先程と違いむやみに踏み出しては来ない。

 

そりゃそうやろなあ。さっきあんだけぼろ負けしたんやし、よっぽど頭悪なかったら同じミスはせんわな。おれのねこだましを警戒するし、足腰も払われんように腰を落として構えてる。

 

......やから余計に読みやすいわ。

 

今度はおれの方から動き始める。

 

先程の決闘と全く同じ動きで、全く同じ腰を落とした低い体勢から懐に飛び込んだ。

 

そのままの動きで先程と全く同じように手を突き出してねこだましの準備をする。

 

ちょうど拳を打ち抜きやすい位置に、あえて隙を見せながら。

 

「っ!2度も同じ手にはかかりませんっ!隙ありっ!」

 

サイトウは、あえて見せていた隙に迷いなく右の拳を振り抜く。

 

想像通りというか予想通りというか。

 

「ほんま、アホみたいに引っかかるなあ。」

 

迷いなく振り抜かれた右の拳を片膝を曲げて余裕で交わす。

 

拳は耳の横を通り、ビュンッ!という音ともに空を切った。

 

うぉ、なんちゅーキレしとんねん。一発当たってバカにしたろかとか思ってたけど、これ当たったらシャレにならんかったな。

 

でも、当たらん拳に価値は無い。

 

ねこだましをするかのように見せかけた左手をそのまま伸ばして、交わしたサイトウの腕を掴んで、手元に引きつける。

 

「っ!?」

 

「おりゃっ!」

 

振り抜いた拳を引っ張られて、思わず体勢を崩したサイトウをそのままの勢いで背負い投げた。

 

「っかはっ!?うぐっ...。」

 

サイトウは背中から地面に叩きつけられて、受け身に失敗し苦しそうなくぐもった息を漏らす。

 

「お、お嬢っ!大丈夫か!?コラ!サボッ!お前は怪我はさせんようにと言ったろう!!」

 

「あーあ、すんませーん。またまぐれの不意打ちで勝っててしまいましたわ!いやーほんま、マジで、勝ってしまって申し訳ないです!」

 

おれは、さっきのサイトウの言い訳を借りて精一杯の誠意で謝罪した。別に、腹がたったとかバカにしたかったとかそんな気持ちは全体の100%しかない。ざまあみろバーカ!

 

サイトウは蹲りながらもゲホゲホと咳き込み、一通り落ち着くとフラフラと立ち上がった。

 

「ま、まだっ!っゲホゴホッ!まだ、やれます!かかってきなさいっ!!」

 

未だに収まらない咳を我慢しながら、涙を浮かべた目でこちらを睨むサイトウ。

 

ほーーーーん。

 

「おうおうおう、威勢がええなぁ!...なんぼでもボコボコにしたるわ。」

 

 

______________その後、18回に渡っておれとサイトウの決闘が行われた。

 

 

合計20回の決闘の勝敗は、おれの20勝無敗。

 

最後は、おれに背後から足払いを受けて仰向けに倒れたサイトウが顔を隠して号泣しだしたことにより決闘を終えることとなった。

 

 

 

「うっ...うっ...ふぐっ。うっ......うぅっ......うわぁぁぁぁぁあんっ!」

 

「コォォラァァアッッ!!サボッ!!貴様という奴はッ!!」

 

「あ〜あ〜もう...サボくん...女の子泣かしちゃダメだよ〜。ごめんなさいしよ?ね?」

 

「喧嘩売ってきたんはそっちや!!やられる覚悟もあらへんのに喧嘩売ってくんな!!行くぞバディ!」

 

「くぬぅん...わふ。」

 

バディが心配そうにサイトウを見つめて、悲しそうに鳴き声をあげた。

 

だァクソ!おれが悪モンみたいやんけ!!

 

「あーもう!好きにせぇ!!今日はもう寝る!!」

 

「わふぅ......。」

 

おれのその言葉を聞いて落ち込んだように鳴き声をあげたバディは、とぼとぼとして寂しそうな足取りで、仰向けのまま号泣するサイトウの元へと向かった。

 

........ちょっと、やり過ぎたか。

 

いいや!おれは間違ってない!喧嘩売ってきたあいつが悪いんや!!

 

......はぁ、遊ぶ気も失せたな。今日はもう休も。

 

おれはモヤモヤとした気持ちを抱えながら、道場を後にしたのだった。

 

 

_____________________________________________________________________

 

 

その日の夜。

 

朝の決闘騒ぎも落ち着き、虫ポケモンの鳴き声が響き月が顔を出す頃。

 

道場主、シジマの自室には珍しいお客が訪れていた。

 

「夜分遅くに失礼します。シジマさん。」

 

「いや、気にせんでいい!...それにしても......こんな時間に珍しいな、お嬢。」

 

サイトウはいつもの無表情のまま、泣き腫らして真っ赤になった目を少し擦りながら、正座でシジマに話を続ける。

 

「はい。...どうしても...どうしても。シジマさんに聞きたいことがあって。」

 

サイトウのその言葉を聞いてシジマは分かっていたようにうんうんと頷く。

 

「ぬう。だいたい分かっておる。......サボのことよな?お嬢。」

 

「......はい。...単刀直入に聞きます。彼は......何者なんですか?」

 

「何者......と、言うと?」

 

シジマのその答えに、サイトウはパジャマの裾をクシュっと握り、無表情の顔を悔しそうに歪めながら、言葉を続ける。

 

「私は......今日、彼に負けました。

 

...それも、圧倒的な実力差を見せつけられて......。

 

私は、去年の格闘大会で優勝しましたが、サボなんて名前は聞いたこともありません。

 

......あれほどの実力があるのなら、大会には当然参加しているはずですし、彼が出場していたのならば、私が優勝しているはずもありません。

 

......それに、聞いた事のない、言葉の訛り。彼の戦い方は今まで戦ったどの流派でもない動きでした。......シジマさん。彼は何者なんですか?」

 

サイトウの質問にシジマは髭をさわさわといじりながら少し考え込み、うんうんと唸った後、答えを出した。

 

「うーむ......。わしから言えることは、あやつは天賦の才を持っておる。ということだけじゃな。

それも類稀なるモノ、磨きあげれば天をも羨む程の輝きを放つ才能の原石。ただ......奴はそれに甘えているのだ。遺憾な事にな!!

 

大会に参加していないのは、今朝の準備の遅さを見ればわかるだろう。奴は、厳密にはうちの門下生じゃない。修行もろくにしなけりゃ、道場に所属もしていないからな!大会に参加することは出来なかったのだ。

うちの門下生じゃないからわしの武術を学んではおらん。言うなれば、あれは才能任せの独自の戦い方。良い言い方をすれば亜流、悪い言い方をすれば邪道だな!」

 

シジマのその返答にサイトウはうんうんと頷きながら、話を聞いていた。

 

「彼が、大会に参加できないことは理解しました。では、何故、彼は今この家にお世話になっているのですか?門下生でも無ければ、シジマさんの血縁関係でもない。...彼はなぜこの家に?」

 

シジマはまたもや、うーむと首を傾げながら考え込んだ。

 

「それは........わしから言うことでは無いな。気になるのであれば本人に直接聞いた方が早いと思うぞ。わしとしても、あいつとお嬢が仲良くなることは望ましい。うーむ......簡単に言えば、拾った?とでも言った方がいいものか。」

 

「拾った?」

 

「うーむ、すまんなお嬢。わしの方から詳しいことは言えん。それに、そろそろいい時間になる、明日に備えてゆっくり休め。」

 

「......はい。分かりました。それでは明日もよろしくお願いします。おやすみなさい。」

 

「うむ。おやすみなさいお嬢。」

 

サイトウはひとつの疑問を残したまま、もやもやとした気持ちを抱えてすすっと扉を閉めた。

 

「....詳しいことは本人に直接...ですか。.....真の強さを求めるには、邪を知ることも大切.....。」

 

ぶつぶつと顎に手を当てて、考えながら月明かりの差し込む縁側を歩くサイトウ。

 

「....邪道のサボ。.......ですか。不本意ですが、彼を知ることも最強への道なのかもしれません。」

 

用意された自室に向かいながら、月明かりの中サイトウは呟いた。

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